ミッション破壊作戦～サルベージを食い止めろ！

■リプレイ

●破壊の為、復讐の為
　ヘリオンは、山口県下関市に差し掛かる。
「厄介なところに居座られたもんだ」
　一見すると小柄な少女にも見える、簡易騎士服を纏う蒼天翼・真琴（秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526）。彼は窓の下に広がる街を眺めて呟く。
「み、みなさん、無事でしょうか……？」
　シルフィディア・サザンクロス（ピースフルキーパー・e01257）はおどおどした様子で下関の人々の安否を気遣う。
「んー、前回来た時は壊し損ねたデスからね！　今度は絶対ロックにカチ割ってやるのデス！」
　ノリよく叫ぶシィカ・セィカ（デッドオアライブ・e00612）。自称ロックなミュージシャンの彼女は明るく仲間達へと呼びかけるが……。
「…………」
　右目を地獄の炎によって燃え上がらせる三和・悠仁（憎悪の種・e00349）は強く拳を握り締め、脳裏に過去を去来させる。
　所属していた傭兵団をデウスエクスによって壊滅させられた彼は、全てを失った。
　無力な自身に、そして、デウスエクスに対して激しい憎悪を抱く悠仁はその復讐を生きる原動力としている。
「――再び、か。今度こそ終わらせてみせる」
　この地を巣食っているのは、ワイルドな印象も抱かせるソル・ログナー（鋼の執行者・e14612）がかつて交戦した相手。そして、ミッション破壊作戦で合間見えるのは２度目だ。
　ソルは再度の邂逅を前に、グラディウスへと決意を込める。
（「復讐か……、これで決着がついてくれりゃあいいんだが」）
　チームで最も背が小さく、最年長のステイン・カツオ（剛拳・e04948）は暗い炎を燃やす年下の仲間達を、やや達観した様子で見ていた。
「今回でご退場願おうか」
　ステインに負けぬほどに小さい真琴も、魔空回廊の破壊に意欲を見せる。
　ヘリオン内に響く現地到着のアナウンス。メンバー達の作戦が始まった。

●想いをグラディウスに込めて……
　ヘリオンから降下するケルベロス達の手には、光るグラディウスが握られていて。
　先んじて、飛び降りたヴィットリオ・ファルコニエーリ（残り火の戦場進行・e02033）が金髪を揺らし、この地に現れた強襲型魔空回廊へと飛び込む。
「世界初の海底道路トンネル……」
　この依頼に当たって、彼はこの地から九州を繋ぐ関門トンネルについて調べていた。
　２０年もの月日をかけて作られたこのトンネル。どれだけの努力があって作られたのか、計り知れない。
「それを、死者の魂を弄ぶ死神なんかの手に渡せるわけないだろ！」
　ヴィットリオは、グラディウスを強く握りしめる。
「このトンネルは、人間が作った、人間のための道なんだ！！！」
　振り下ろした刃はこの場を覆うバリアを易々と打ち砕き、魔空回廊へと突き刺さる。眩い閃光がデウスエクス達の目を灼く。
「このトンネルは色んな人たちが、戦争にも負けずに頑張って作り上げたものなのデス！」
　間髪入れず、シィカもポニーテールを揺らしながら落下してくる。
「たくさんの想いが詰まったこの場所をキミ達みたいな！　人の命と想いを踏みにじる死神達なんかの自由には、絶対にさせないデス！」
　ケルベロスとして、この任務に誇りと使命感を持つシィカはグラディウスを振り上げた。
「ロックな勝利ソングを歌ってやるデース！！」
　魔空回廊の破壊を成し遂げ、自身のオンステージを。そんな想いを込めた一振りを魔空回廊に見舞う。
　さらに眩い光が発され、周囲に爆炎が上がり始める。この場のデウスエクス達は戸惑い、右往左往し始めていた。
　ケルベロス達の襲撃は続く。
　２本の巻角を頭に生やした羊のウェアライダー、折平・茜（モノクロームと葡萄の境界・e25654）はこの地の人々が犠牲になることを厭う想いを、強い力に変えて。
「ここはわたし達のものだ、わたしたちの世界から、消えろ……！」
　人々を守る為にと茜が振るうグラディウスの一撃で、さらなる爆炎が魔空回廊より噴き出す。
「テメェに、この地は渡さない。これ以上好きにさせてたまるか」
　先ほど、護符がないと小声で呟いていたオラトリオの真琴は今回は飛行せず、仲間に合わせて飛び込むことにする。
「さらなる死？　笑わせてくれる。そんなものは、俺たちケルベロスがいる限りさせない」
　鼻で笑う真琴は、強い想いをグラディウスへと込める。
　――死者の眠りを妨げる死神なら尚更だ。
　――死と安らぎを愚弄する者には天罰を。
「黄道十二騎士団・巨蟹宮の騎士、真琴。いざ参る！」
　魔空回廊にまたも、グラディウスが突き入れられる。続くケルベロス達の攻撃で、魔空回廊の周囲には濃いスモークも噴出し始めていた。
　襲撃は止まらない。シルフィディア、ステイン、悠仁が一度に仕掛ける。
「死神め、うじゃうじゃと鬱陶しいんですよ！」
　全身をフルフェイスとフィルムスーツに包むシルフィディアは、この地の人々を想う。
　２０万人あまりの人々の平穏な暮らし、さらにそれ以上の沢山の人が行き交い、繋ぐ、大切な場所のはずだ。
「それを貴様らのような気色悪い奴らが踏ん反り返って、好きにしていいわけが無い！」
　怒りを燃やして、死神へと告げるように叫びかけるシルフィディアは徐々に声を荒げる。
「人を殺し、サルベージしてその魂を弄び手駒にするクズ共め……。貴様に死んだ人々の苦しみを味わせてやる」
　彼女は全身の地獄をも燃え上がらせ、グラディウスを構えた。
「アンタら死神が一番不気味だ」
　隣のステインも降下しながら、この真下にいるはずの死神へと心情を吐露する。
　――仲間のため、故郷のためっていう風には見えねえ。いつだって裏方で何を狙ってんのかはっきり見えねえ。そもそも故郷がピンチなのかも怪しいもんだ。
「てめぇのお人形さんになる為に、生きて戦ってきたんじゃねえんだよ……」
　そんな連中に魂を利用されていると思うと。ステインは腹立たしさに怒りを漲らせる。
「魂の裁定者、良い自称だ」
　向かい側の悠仁は、この地を支配する死神が自称した言葉を呟く。
　――死者を弄ぶ以外に能の無い。井の中の蛙に相応しい。
「そのまま、井に引き籠っていればいいものを」
　悠仁は眉を顰め、魔空回廊を、下関の街にいるはずの死神を睨みつける。
　この下関市は、本州にとって玄関とも言える場所。多数の命が行き交い、栄え、歴史を作り出した地だ。
「それを……悪趣味な人形遊びの如き行軍で穢す、など……。……見逃す事も、許す事も、出来ようものか……！！」
　デウスエクスに対する憎悪を力に変え、悠仁は辛辣な言葉を吐きながら、仲間と同時にグラディウスに想いの力を込める。
「ゲートごと、纏めて消え失せろ……！」
「魂の裁定者だぁ？　てめぇなんぞに魂の価値を決めつけられてたまるかっての！！」
「水辺を去った蛙ならば……、早々に干乾びて、死ね」
　３本のグラディウスが深々と魔空回廊に突き刺さる。濃いスモークが一層噴き出し、当たりを包み込んだ。
「あァ、再び俺は来たぞ。遠き怨讐の彼方より、貴様だけを殺しに舞い戻った」
　最後に、ソルがこの場へ降り立ってくる。
「我が復讐、そして第二の俺を生み出さぬ為、何よりこの地域の人々の為！」
　自らの復讐、誓い、そして、守りたい人々への想いをグラディウスに注入して。
「貴様を、貴様らを叩き潰してやらァァァ！！！」
　ありったけの力でソルは魔空回廊に斬りかかると、強烈な光がこの場の全てを包み込む。
　…………。
　…………。
　地面に降り立ったメンバー達。
　魂の力が足りなかったのか。ソルは今回こそ潰せると考えていた。心のどこかに慢心はあったのだろうか。彼は悔しそうに歯噛みする。
　魔空回廊は何事もなく、稼動し続けている。今回は破壊できなかった。それが現実。
　そして、デウスエクスが近づいてくる前に、この場から離脱せねばならない。
「気を抜くな、ヤツが来るぞ……！」
　ソルは考えを切り替え、仲間に呼びかける。
　ヴィットリオは自身のグラディウスを確認し、ステイン、悠仁、シルフィディアが真琴にグラディウスを手渡し、彼はアイテムポケットへと仕舞っていた。
　茜もまた真琴にグラディウスを預け、敵に対応できるよう周囲を警戒する。
　すると、スモークの中から、露出高めの黒衣の衣装を纏う女性がゆっくりと現れる。
「魂の裁定者たる我から、逃げられると思ってか……」
　死神、ソウル・ディカスティスの姿に、シルフィディアがフルフェイスの下から怒りと憎しみを露わにする。
「この、デウスエクスめ……。どいつもこいつもムカつくんですよ……今すぐぶっ殺してやります……！」
「まったくもって、ロックじゃないデース！　ボクが本当のロックってのを教えてあげますデス！」
　取り出したギターをシィカはかき鳴らし、自身を鼓舞する。
「懲りずに現れたか。何度でもブッ殺してやるさ……！」
　宿敵を目にしたソルは、八卦紋棍を手にして飛び込んでいくのだった。

●魂の裁定者
　メンバー達が戦闘態勢を整える中、真琴は鎖を操って蟹座の紋章を描く。
　淡い光が包み込む前衛陣目掛け、余裕の笑いを浮かべるソウル・ディカスティスが三日月の如き刃を煌かせてケルベロスを襲う。
　しかし、全力疾走してきたライドキャリバー、ディートが一気に駆けつけ、その刃を受け止めた。
　その横から飛びこむソルは八卦紋棍で敵の刃を抑えつつ、奇襲の一撃を与える。
「全てを焼き付くせ、燃え盛る炎の不死鳥よ！」
　仲間が敵を抑える間に、ヴィットリオは敵対する者の加護を打ち破る炎を具現化し、仲間達へと分け与えていく。
「無茶はなさらぬようご注意くださいませ。こちらの仕事が増えますので」
　攻め入る仲間へステインは呼びかけながらも、鎧に変形させた御業で包み込むことで回復支援に当たっていく。
　その間、シルフィディアが高く跳び上がり、流星の蹴りを敵に見舞えば、シィカが敵の回復阻害の為にウイルスカプセルを投げ飛ばす。
　注意を払うソウルだが、そればかりに気を取られてばかりもいられない。憎悪に満ち溢れる悠仁が重力を宿す一蹴で、動きを止めようとしてきたからだ。
　されど、多少の攻撃では、ソウル・ディカスティスの余裕が崩る素振りを見せない。
「さあ、我が傀儡と成り果てるがいい」
　相手の魂を食らいつくしてしまう衝撃。茜はそれに供えながらもチェーンソー剣を手にする。
（「わたし一人じゃどうにもならないけど、この任務にかける皆を信じてますから」）
　だからこそ、いくらでも盾になれる。茜が意識が飛びそうになるほどの衝撃を受けながらも、仲間がつけた傷を斬り広げていく。
　その余裕を潰す為に、真琴は葵色の刃を持つ薙刀「烈槍葵牙」に稲妻を帯びさせ、鮮烈なる突きを繰り出して痺れを与えようとする。
　ディートを駆って戦場を駆け巡るヴィットリオもまた、如意棒を叩き込んで相手の攻撃を食い止めようとし、シィカはオウガメタルを纏って敵の守りを打ち砕かんと拳を叩きこむ。
　それでも、死神の笑いは消えない。不敵に微笑み、そいつは怪しく光る刃でケルベロスを切り裂いてくる――。

　死神ソウル・ディカスティスが涼しい顔で繰り出す猛攻に、ケルベロス達は一時抑えることとなってしまう。
　ディートを駆っていたヴィットリオ。敵の飛ばす暴食の衝撃に耐えられず、ディートが耐えられずに姿を消してしまった。
　同時に衝撃を受けたヴィットリオはやむを得ず、地獄の炎弾で応戦し、体力を回復させながら立ち回る。
　魂を奪いつくす程の猛攻。九尾扇を手にしたステインは仲間を支えようと、陣形を象って仲間と共にソウルを攻め入るのだが……。
　次の瞬間、ケルベロスの盾となり、仲間の道を切り開こうとする茜の体へと三日月の刃が深々と突き刺さる。
「ソルさん、どうか、死神を……」
　意識を失ってうな垂れる茜の体を、ソウルは大鎌から振り払う。
「いい魂だ。お前達も喰らってやろう」
　どうやら、死神は茜にトドメを刺すよりも先に、ケルベロス全員の魂を喰らうつもりらしい。
　悠然とした構えの相手に、シルフィディアの憎しみが募る。
「人の皮を被った魚の骨ごときが偉そうに……、地獄に堕ちろ……！」
　仲間と合わせ、敵の衣服はかなり破いて守りが脆くなっている。シルフィディアはそこを目掛け、地獄と化した右腕をドリルのように変形し、高速で回転させながら敵の体を破壊しようとした。
　敵の振る舞いは間違いなく、自らの信じるロックではないと考えるシィカも、竜と化した腕で殴りかかっていく。
　シィカの爪で身体を抉られ、わずかに怯むソウル。その隙を悠仁が見過ごさない。
「祓われ流れた不浄の掃き溜め。打ち捨てられた罪に穢れ。怨み憎んだ悪念の果てよ。嗤え。遂に今、求められたのだと。【八針爾取辟久】！！」
　彼は自ら仕立てた呪法を、詠唱によって組み上げていく。
　周囲に充満した呪いが草木となり、ソウルの体を鋭い枝や蔓が一挙に襲い掛かる。
　小さく呻いたソウルはなおも三日月の刃で、前衛メンバーの首を狙う。涼しい顔はしていても、息は徐々に荒くなっている様子だ。
　真琴は傷つくソルを御業の鎧で包み込みつつ、呼びかける。
「お前の中にある因縁を、断ち切ってこい」
　この場で終わらないと分かっていても、そう声をかけずにはいられない。
「狂い啼け、死神。貴様に相応しい末路は、決まった」
　それを受け、ソルは自身の内にある魂の数々を黒い槍とし、それを両手に持って突貫していく。
「貴様が殺し損ね、生かしたタダのガキに殺され、果てるが良い！　抉り、穿て！　我が怨讐の槍よ！」
　勢いよく投げつける槍は宙で分裂し、雨あられのようにソウル・ディカスティスに降り注いだ。
　全身が傷つき、血を流してなお、死神は余裕の笑みをたたえたまま。
「これしきで勝ったとは思わぬことだ……」
　死神の体は槍に貫かれ、霧散していく。
「くっ……」
　手応えのなさを感じたソルは一層、復讐の念を募らせるのである。

●悔恨の念にかられて……
　ソウル・ディカスティスは姿を消したが、彼女の従える軍勢はこの場へと迫ってきている。
　この地の状況、戦場跡の状況は気になるものの。シルフィディア、ヴィットリオとこの場から速やかに離脱していく。
　悠仁は倒れる茜を背負う。彼女のグラディウスを真琴が所持していることを確認しつつ、スモークに紛れてこの場を離れる。
　シィカもミッション攻略中のケルベロスを探し、彼らとの合流をはかっていたようだ。
「…………」
　今回も、ソウル・ディカスティスにトドメを刺す事ができなかった。殿を請け負うソルはそれに悔しさを滲ませながら、魔空回廊から遠ざかっていくのだった。

作者：なちゅい	重傷：折平・茜（モノクロームを通って・e25654）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年9月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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