ミッション破壊作戦~光輝の剣よ、悪夢を祓え!

作者:天枷由良

●ヘリポートにて
「使えるグラディウスがあるから、皆にミッション破壊作戦をお願いしようと思うの」
 ケルベロスたちを前にして、ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は語り始めた。
 グラディウスは長さ70cmほどの光る小剣型兵器。通常の武器として扱えない代わりに、デウスエクスたちが各地に開いている『強襲型魔空回廊』を破壊することができる。
「グラビティ・チェインを吸収させておかないと使えないから、一度使うと暫く置いておかなきゃならないのが難点だけれどね。これで強襲型魔空回廊を破壊して、デウスエクスたちの地上侵攻拠点――いわゆる『ミッション』とされている地域を奪還しようというのが、作戦の目的よ」
 対象となるミッションは未だ多く存在しており、作戦にあたっては特定種族のミッションから、ケルベロスたちが相談して攻撃目標を決めることになっている。
「今回は、暫く作戦対象になっていなかったドリームイーターのミッションから選んでもらおうと思うわ。これから話す作戦の詳細と現在の状況を踏まえて、皆でよく話し合ってちょうだいね」

●作戦詳細
 強襲型魔空回廊は各ミッション地域の中枢にあるため、通常の方法で辿り着くことは極めて難しい。闇雲に突撃したところで、貴重なグラディウスを奪われるだけだろう。
「だから、作戦には『ヘリオンを利用した高空からの降下』で挑むことになっているわ」
 強襲型魔空回廊を破壊するためには、その周囲を覆う半径30mほどのドーム型バリアにグラディウスを接触させればよい。高空からの攻撃でも狙うのは簡単だ。
「ミッション地域には強力な護衛部隊が存在するけれど、降下攻撃なら彼らも阻めない。皆が限界一杯まで引き出した『魂の叫び』を――妥協打算からでない、目標とするミッション地域を絶対に自分たちが解放するのだという心意気を、グラディウスに注ぎ込んで放てば、これまでに攻撃したことのない地域だって一撃で粉砕できる可能性があるわ」
 とはいえ現実として、一撃必殺はなかなか難しい。グラディウスで与えたダメージは積み重なっていくので、一度で駄目なら二度、二度で駄目なら三度と継続した作戦を必要とすることもままある。それでも、多くて十回も挑めば確実に破壊できるはずだが。
「降下攻撃時、グラディウスは雷光と爆炎を発生させるわ。これはグラディウスを所持する者以外に無差別で襲いかかるから、護衛部隊たちに防ぐ手段はない。そして皆は、この雷光と爆炎から生じるスモークに紛れて撤退するのよ。もちろん、数に限りがある貴重なグラディウスは置いてきたりしないで、必ず持ち帰ってね?」
 生命に関わるような危機が生じればこの限りではないけれど。そう言葉を継ぎつつ、ミィルの説明は続く。
「撤退するのよ、と簡単に言ったけれど、やっぱり敵陣だもの。強力な敵と一戦交える事態になるのはやむなしでしょう。どのミッションで、どのような敵が、どういうグラビティを使うかは既に判明しているはずだから、チェックして作戦立案の役に立ててね」
 もしも行く手を阻む強敵に手こずった場合は、降伏するか、或いは暴走して活路を開くかという選択になってしまうだろう。そのような事態を避けるため、ケルベロスたちにはできる限り短時間での強敵撃破が求められる。
「でも、皆なら大丈夫でしょう? 一戦抜けてしまえば、強襲で混乱する敵地からの脱出は難しくないはずだから。必ず全員で揃って帰還できるように、頑張りましょうね」


参加者
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
罪咎・憂女(憂う者・e03355)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)
ヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)

■リプレイ

●兵庫県神戸市、北野坂上空
 作戦開始直前。イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)は思う。
(「比較的、難度の低い場所ですが……油断は禁物ですね」)
 降下攻撃の後、ケルベロスたちの前には必ず退路を阻む強敵が現れる。この北野坂では住宅街を荒らし回る『盗掘者ヴィゴラス』が立ちはだかるはずで、彼女を倒さなければ完璧な脱出は不可能だ。
「絶対に、全員揃って生還しましょう!」
「ええ。そして必ず、この地を取り戻しましょう」
 イピナの言に、罪咎・憂女(憂う者・e03355)が答える。
 それをきっかけとして、作戦に挑む八人は降下準備を整えた。
 用意すべきはグラディウス。その刃に込める魂の叫び。
 静かな光を湛える剣を握れば、グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)の肩には自然と力が入った。眼下に広がる景色の変わらなさは、宿敵から何一つ取り返せていない現実を突きつけてくるようだ。
(「……これで三度目。あっしは……あっしは……っ!」)
「――グーウィさん」
 険しい表情から察するものがあったか、声を掛けたのは弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)。
「三度目の正直にするため、私も気合を入れていきますからね」
「この機会が得られたことに感謝しつつ、頑張りましょう」
 憂女も穏やかに一言添えれば、グーウィは小さく頷いた。
 回廊は今日、必ず破壊する。
 確固たる決意を胸に、ケルベロスたちは宙へと躍り出る。

●降下
 みるみるうちに空は遠ざかり、変わって数多の人家が迫り来る。
 その中に強襲型魔空回廊を守るドーム状のバリアを見て、帯の如く連なりながら落ちていたケルベロスたちはグラディウスを構えた。
「まずは私が!」
 翼を広げ、一行の中から憂女が抜け出す。
「禍根を断ちささやかな安寧を! 奪われるという不安のない夜を! 奪われたものが戻るかはわからないが、これ以上渡すものは一つたりともない!」
 にわかに纏う雰囲気を変えた言葉は、爆炎と雷光を成して巨大な障壁へと襲いかかった。
 大気が揺れ、鳴動し、立ち上る煙が街並みを隠していく。それを見やって、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)は不敵に笑う。
「HAHAHA! 宝、宝と人様のモノを狙う盗っ人め! 宝を望む癖に、目の前に一番の宝があることに気付かぬようなお主には……くれてやる宝などない!」
 ヴィゴラスが聞けば、堪らず何かしら言い返しそうな台詞が示す、一番の宝とは。
「六甲山より見下ろす百万ドルの夜景! これこそが、神戸が誇りし宝なり! さすがのお主でも、このお宝は盗めまい? この宝に気付かぬようなうつけ者には……お引き取り願おうか!」
 確かにそればかりは、ドリームイーターといえど。
 カテリーナの叫びに感心を示す仲間たち。そこに、仁王が続く。
「何であれ、人々の大切な宝物を奪うなど到底許せるものではありません」
 さらには一際大きな声を上げ、イピナが逆手に持った刃を突き立てる。
「宝物に託された想いを盗む……コソ泥らしくありませんが、だからこそ見逃すわけにはいきません!」
「想いの篭った宝物。それを奪う行為は命を奪われるのに匹敵する、侵略です」
「人の心に入り込むなんて、いかにも盗っ人らしい下種な行為ね。大体、デウスエクス如きが私達から何を奪うというの? 調子に乗るのも大概になさい!」
 柔らかくも冷ややかな、けれど無に等しい笑みを湛える霧島・絶奈(暗き獣・e04612)と、ドレスを翻す優雅さの中に勝気な性質を滲ませるイリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)。二人も言葉を重ねながらグラディウスを叩きつければ、刃から迸る想いは一層激しさを増し、焔と雷で障壁を脅かす。
 それでもまだ、砕ける気配はない。ならばと仁王は、イリスは、絶奈は、そしてイピナは、何処かにいるはずのヴィゴラスへと向けるように、なお叫ぶ。
「これ以上あなたに奪わせないよう、安心して人々が過ごせるようにするために! 今日! この時で! 終わりにさせます!」
「そのふざけた思い上がり、今日で最後にしてあげるわ!」
「人々の心を折られる訳にはいきません。故に私は、侵略者より此の地を奪還する刃となりましょう」
「でぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 一言発するごとに、荒れ狂う剣先から伸びる光は撚り合って鋭く、炎は溶け合い巨大な腕となって何度も打ち掛かる。
 グラディウスの力は十分に引き出せているはずだ。四人は手応えを感じながらも、魂からの叫びを強く注ぎ続けた。
 それを横目に、ヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)も小剣を握りしめる。
(「正直私には人の感情や夢、というものがよく理解できません。ですが」)
 深く解せなくとも。それらが人にとって大切なものだと、ヴィキは知っている。
(「人をひとたらしめる所以、と言い換えてもいいでしょう。それは誰にも奪えるものではないのです。たとえ、品物であったとしても。……特に大切な思い入れある品物ならばなおさら、です」)
 ゆっくりと内から湧き出る想いを示すように、刃からは光が溢れて障壁を斬りつける。ヴィキは手に返る感触を受け止めつつ、最後には己の意志を、より明確にしてみせた。
「……破壊させていただきますよ、強襲型魔空回廊を」
 途端、光は赤熱して膨れ上がる。そして持ち手の宣言を現実のものとすべく、障壁の一端を破壊せんと覆い尽くす。
(「……ありがてぇことです」)
 仲間たちの小剣から次々と溢れ出る力を眺めて、グーウィは今一度感謝の念を抱いた。
(「だが、分かってんですよ、これに甘えちゃいけないって」)
 宿敵の座す北野坂に三度も挑めているのは、偏に仲間たちの協力あってこそ。
 彼らに報いるため、回廊の破壊は是が非でも成し遂げなければならない。
「それが出来なきゃ恩の持ち逃げ、気持ちの踏みにじり。奪って踏みにじって平気なツラする……まるでどこかのクソアマだ、なぁ?」
 ヴィゴラス。音にしようとしまいと、憎き名はグーウィの心を滾らせた。
「お前が! お前が死ななきゃ、あっしはまたお前に奪われるんだよ! 仲間にかけてもらった大事な恩義をな!」
 ひとたび噴き出してしまえば、想いは地の底から湧く溶岩のように止め処なく。
「これ以上奪わせるか! ――ここで、くたばれ!」
 全てを集約したと言うべき台詞が発せられた、その瞬間。
 炎と光は一つに束ねられて、最後の一撃を見舞った。

●叫び尽くして、地に降り立ち
「皆、揃ってるわね?」
「ええ。そのようです」
「散り散りになってはと思いましたが……杞憂でしたね」
 イリスが裾に跳ねた砂礫を払いながら問えば、憂女とイピナが即座に言葉を返した。
 ケルベロスにとってヘリオンからの降下は日常茶飯事。だいぶ視界が悪くなっているとはいえ、着地から集合までには苦労することもない。
 八人は僅かに安堵を覚え、そして――。
 靄の向こうで健在のドーム型バリアを見つけて、暫し立ち尽くす。
「……そん、な」
 誰とはなしに呟いてしまう。グラディウスは、どれも遜色ない働きをしてみせた。
 天運を恨むべきだろうか。それとも、もう一段引き出せるものがあったと考えるべきか。
 行き場を失った想いに悶えるグーウィを、さらに仇敵の声が煽り立てる。
「懲りないねぇ」
「ヴィゴラスっ!」
 叫び、両眼に憤怒を灯すグーウィ。
 対して、ドワーフを思わせる姿のドリームイーターはツルハシ状の鍵を担いだまま、うんざりしたような顔で侵入者たちを値踏みする。
(「あれが盗掘者、ですか」)
 どのような戦い方をしてくるのか。初めて見る敵を警戒するイピナ。
「皆さん、グラディウスを」
 陣形を組み直しつつ、呼びかける絶奈のアイテムポケットに全ての小剣を集め、ケルベロスたちはそれぞれの武器を手にした。
 回廊の破壊に至れなかったことを嘆いている暇はない。
「さて、お手並み拝見と行きましょうか」
 あくまで強気なイリスに、盗掘者ヴィゴラスはニタリと笑う。
 その佇まいに余裕が滲む理由は明白。耐え凌いでいれば、いずれ混乱を脱した配下たちが押し寄せると分かっているから。
「それまでじっくり、お宝拝見といこうかな?」
「っ……言っておくけれど、簡単に『宝』を渡すほど甘くはないわよ!」
 売り言葉に買い言葉で火がついて、イリスのバスターライフルが唸りを上げた。
 撃ち出されるのはグラビティを中和するエネルギー光弾。盾役ゆえ狙い澄ました一射とはいかないが、それでも無事に敵へと辿り着いた光弾は、褐色の身体に染みて力を削ぐ。
「痛いなぁ。こんなのじゃなくて、あなたの宝をちょうだいよ!」
「つくづく性根の腐った奴でござるな。人様が大事にしているお宝の横取りを狙うとは!」
 向かってくる敵に言い放ち、大地を蹴ったのはカテリーナ。
「バカ正直に正面から!」
「いくわけがないでござるよ! やはりうつけ者、その目は節穴でござるな!」
 波打つブロンド。忍べてなくとも動きは忍び。一息で背後に回り込んだカテリーナは、どこからともなく何やら取り出して頷く。
「おおっと! これは奪ったお宝の目録でござるか? 世界的に価値がありそうなものから……小学生男子が好きそうなものまで玉石混交でござる」
「あ! あたしの大事な――って、そんなもの持ってないよ!」
「む、うつけのくせに気づくの早いでござるな」
 HAHAHA! と笑う忍者はあまりに快活すぎたが、それこそが『忍法虚仮威しの術』による足止め。
 嵌められたと悟った頃には、仇敵を叩き潰さんとグーウィが迫る。
「お前だけはっ!!」
「ウッザいなぁ。盗られるマヌケが悪いんでしょう、がっ!」
 突き出された鍵に縛霊手がぶつかって、甲高い音が響いた。
 そのまま、なおも猛攻をかける巨大な腕型祭壇。いなすツルハシ状の鍵。
 幾度かの応酬。それは不意に終わりを告げる。
「っ!? なに、この!」
 縛霊手から放射された網状の霊力に捕らわれ、もがくヴィゴラス。
 ここぞとばかりに殴りつけて、グーウィは息を整えるために引き下がる。
「あたしから一瞬でも自由を盗むだなんて――」
 高くつくよ。敵の台詞は、半端なところで消え失せた。
「その言い草は勝手が過ぎる」
 凄然な声に少し遅れて微風が吹き、ヴィゴラスの頬を撫でる。
 何かが駆け抜け、ともすればモザイクごと消し飛ばさんほどの勢いで身体を斬りつけていったのだ。
 しかし、一体何に?
 どうにか網から逃れ、答えを探すヴィゴラスの前には、赤い刀剣士。
「盗むと言えば少し聞こえはいいが。それは所詮、ただの略奪に過ぎない」
 刀を鞘に収めながら、憂女は射るような眼差しで言葉を継ぐ。
「意趣返しというわけではないが……取りこぼすということも実感していただこう。なに、盗られる間抜けが悪いのだろう?」
「冗談じゃないよ! 宝は全部、あたしのもの!」
「なるほど。そこまで言うのであれば」
 憂女を庇える位置に立って、今度は仁王が語る。
「黄鉄鉱で出来た、このマモンの金貨。あなたにとっては宝に見える? それともガラクタに見える?」
「はぁ?」
 理解に苦しみ小首傾げて、ヴィゴラスは吐き捨てた。
「どっちでもいいよ! それが『あんたにとっての宝』なら奪い取るだけ! そうして集めた宝が、いつかモザイクを晴らしてくれるんだから!」
(「……あぁ、そういうことですか」)
 鍵を突き刺してドリームエナジーを奪うデウスエクスが、何故盗みを働くのか。自身に修復用ナノマシンを巡らせていたヴィキの些細な疑問は、独りでに解決した。
 一方で期待はずれの答えを返された仁王は、両表の偽金貨をしまい込み、挑発を重ねた。
「まぁ、たとえ欲しがったとしてもあなたが手に取る事はありえませんがね」
「あたしの前でよくもぬけぬけと!」
 問答が打ち切られ、ツルハシが襲い来る。その猛撃を黒盾で凌ぎ、仁王は降魔の力で反撃を試みる。
 しかし武器を巧みに操るヴィゴラスは僅かな隙を突いてみせた。岩を打ち砕かんばかりの破壊的な一撃を受ければ、さすがの仁王も膝を折る。
 このまま金貨を分捕ってしまえ。ほくそ笑む敵は鍵を振りかざし――。
 叩き下ろす寸前、仁王の相棒・ボクスドラゴンのブレスに煽られ、紙兵を撒く絶奈の傍らから飛び出したテレビウムに、凶器で殴られ。
 さらにはイピナの手元から一直線に伸びた如意棒で鳩尾を深く突かれて、一気に彼方へと追いやられた。
「例えば紙切れにしか見えないものでも、誰かにとっては大切なお守りかもしれません」
 吹き飛ばされたところから態勢を立て直すヴィゴラスを睨めつけ、絶奈が囁く。
「宝物の定義は人其々。そこに込められた想いも分からないまま、人が宝物と呼ぶから奪っていく。心を侵していく。流石はドリームイーターというべきでしょうか?」
 合間にカテリーナが「想いの価値も分からず横取りなど、キャットに小判でござるよ」と茶々を入れてみるが、絶奈は此処に至るまで貼り付けた微笑みを変えず。
 そしてはっきりと短く、敵の存在を断じた。
「実に不愉快です」

●撤退
 その後。
 盾役を分担して務める仁王とイリスに、二人を補助するテレビウムと、回復を一手に担う絶奈。
 そして小型治療無人機の散布から固有の抜刀術による攻撃まで、状況に応じて不足を埋める憂女などで形成されたケルベロスの守備は、大きく掘り崩されることもなく。
 一方でヴィゴラスは、螺旋力を帯びたカテリーナの手裏剣に翻弄され、グーウィからは凝った装飾の鎌で激しく斬りつけられ。
 傷を癒そうにもヴィキの散らすウイルスに阻まれて、攻守両面にままならない状態で、イピナが繰り出す雨のような刺突を受ける。
「これだけ突いても、まだ倒れませんか……!」
 追撃の一手まで打ち終えて、イピナは少しばかり焦りを見せるが。
 その目前で、対照的に冷静なヴィキが黒いパイルバンカーで突撃をかけ、雷霆の如く凄まじい速さで敵をぶち抜いた。
 ヴィゴラスはもんどり打って転がり、しかし力を振り絞って立ち上がると、鍵を突き出す。
 だが、劣勢は覆し難い。最後の一撃も狙いには届かず。
「残念だけど、私の心は誰にも渡さないわ!」
 余裕の笑みを浮かべながら攻撃を阻んだイリスは、グーウィに視線を送る。
 それが意味するところを理解して、心中で礼を述べながら水晶玉を突き出すグーウィ。敵が幻視しているはずの終焉を現実とするため、魔力の塊を叩きつければ宿敵はうわ言を呟いて倒れ、靄の中へ溶けるように消えていく。
「もう次はない……必ず殺してやる……!」
「さぁ、長居は無用です」
「帰るでござるよ!」
 歯噛みするグーウィに声をかけながら、退路を先導する仁王とカテリーナ。
「確実な一歩として次につながっていけばいいのですけど……」
 去り際にそびえ立つ障壁を見て、憂女は言った。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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