ミッション破壊作戦～輝ける刃

■リプレイ

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　京都府、舞鶴市の上空へと到達したヘリオンの中から、八名のケルベロスたちが降下する。
　ふわり、ミスル・トゥ（本体は攻性植物・e34587）の髪は風を受けて大きく広がる――他のケルベロスたちも、髪や服を風になびかせていたが、その心地よさを堪能する暇はなかった。
「ここはこの国の守りの要の一つなんだよ」
　海を守る基地を思いながら、草薙・ひかり（闇を切り裂く伝説の光・e34295）はグラディウスを手にする。
「この土地で騒ぎを起こそうなんて、良い所に目を付けた……と言ってあげるね」
　事実、この土地の人々は奴らによって苦しめられ続けている――その怒りを込めて、八崎・伶（放浪酒人・e06365）は告げる。
「ンな酷い現状を見逃してやるほどお人よしじゃねえんだよ、コッチは」
　隣にはボクスドラゴンの焔。翼を伏せ、主の伶と共にドーム状のバリアを見つめている。
　十六夜・うつほ（囁く様に唱を紡ぐ・e22151）も伶と同じ気持ち。
「やられっぱなしは気に喰わぬ故、護れる手段があるのならば全力を尽くそう」
　故郷を奪われ、心を空ろにした過去――今でこそ共に過ごす仲間がいて、彼らとの時間を心地良く感じてはいるが。
（「失いたくないのじゃ、もう……二度と」）
「これが妾達からの反撃の狼煙となる様に……」
「独り善がりのテロで恐怖を撒き散らして色々な人を悲しませるなんて酷いよ！」
　怒りを叫ぶのは喜屋武・波琉那（蜂淫魔の歌姫・e00313）も同じ。
「自分が正義だと思わないけど、弱い人達を糧にして大きな顔をしているあなた達がゆるせないんだよね……！」
「主張もない『テロ』の為に日常を、歴史のある街を、ここにあったものを奪い続けるだけの奴らを許せるわけあるかよ！！」
　日影野・燦（這い寄るコールタール・e32883）がこの地を訪れるのは二度目――だからこそ、込められた感情は強く激しい。
「取り戻すため、広げないため、お前らは今日ここで討つ！！」
　手元で輝くのはグラディウス。
　降下によって、ドーム状のバリアはみるみる近付いている。
「人々の祈りは、あの人の願いは！！　アイツの怒りは！！　ここに残っているケルベロス達の……友達の魂の残光を繋ぐならこんなもんじゃない！！」
　かつて、この地を解放しようと戦った仲間への想いを胸に――彼らがダメージを与えてくれたのだという信頼を胸に。
「今も罪無き人々に手を掛けて、恐怖をばら撒き続ける。絶対に許さないわ、掃除大隊」
　リリー・リーゼンフェルト（耀星爛舞・e11348）がこの地での戦いを望んだのは、彼女の持つ恩讐のためでもある。
「例え使いの兵隊だとしても、アンタ達のやった事の罪に変わりはない！」
　だからこそ叫びは力強く、止まることを知らない。
「これまでこの地を攻め続けた皆の思いと、抗う事すら叶わなかった幾人もの嘆きと、全てを奪われ、何もかも失って、滅び去った我等の怒りを！　思い知りなさい！」
　――素敵な港町を奪われたこと、取り返せなかったことへの悔恨を胸に抱くのはシルディ・ガード（平和への祈り・e05020）。
（「待たせて、ごめんね」）
　この地が見付かってから、もう一年になった……瞑目の後に目を開き、シルディは叫びを上げる。
「沢山の漁師さんや船乗りや旅人達を送り出し、暖かく迎えていた。そんな日常を、ボクたちが――！」
「私たちが、いや、『この私』草薙ひかりが来たからには！」
「今度こそ、アンタ達を名前の通り『掃除』してやるわッ！」
　本作戦もこれで六度目。
　積み重なったダメージのことを考えれば、成功は間近のはず。
「スパイラルネメシス最大展張！　グラディウスインサート、チェンジ！　スパイラルジェネシス、アウェイキング！」
　両手が白くなるほどに、リリーはグラディウスを握り締める。
「我等に慈悲を！　彼等に罰を！」
「君たちが一方的に喧嘩売ったんだから、ここを取り戻すために叩き潰して滅ぼされても絶対に文句は言わせないんだからね！」
　ドームは目前。
　波琉那は声と共に、グラディウスへと力を込め。
「今度こそ取り戻してみせるよ！」
　シルディの瞳は、逸らされることない。
「てめェら、さっさとこの歴史ある都から立ち去りやがれッ！！」
　伶は感情に満ちた声で、
「いつまでも、蹂躙され続けると思わぬが良いぞ？　戦いを仕掛けた事を後悔するが良い……」
　うつほは静かに決意を秘めた声で。
「ここに残っているケルベロス達の……友達の魂の残光を繋ぐならこんなもんじゃない！！　限界なんか見せるなよグラディウス！！　こんなんじゃ足りない！」
　燦の叫びはグラディウスへ向けたものであり、己へ向けたものでもある。
「もっとだ、もっと……輝けぇぇぇ！！」
　感情の高まりを受けてか、燦の持つグラディウスの輝きは強くなり。
「この私の『光』が、アンタ達の暗躍を暴き倒しちゃうからね！！」
　ひかりは声を上げると、グラディウスを高々を掲げる。
「古と螺旋、妖精と耀星の契りに従い……応じ来られよ！　外なる螺旋と内なる神歌に導かれ、宇宙と虚空の狭間を分かつ、激しく赫き審判の獄炎よッ！」
　リリーの声が響き渡る。
「耀星伝承・異節『審宇』ッ！」
　そして、
「ここからッ！　いなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！！」
　魂を賭けた叫びと共に、グラディウスはバリアへと触れた。
　――極光が視界を埋め尽くし、それでもケルベロスたちは目を閉じることはしない。
　光の膜を張るドームの存在。それは今――、
　目の前から、失われていた。

●
「作戦は成功じゃ……グラディウスを」
　うつほの声に従って、一同はグラディウスを後衛へと送る。
　光と炎の中であっても、事前に用意していた地図があるから撤退にそう時間はかからないだろう。
　――もっとも、この地を去るのは敵を倒した後だ。
　飛んできた手裏剣を受け止めたひかりは、その軌道を追ってスパイラルコマンドーと相対する。
「さすが忍者、ズルい卑怯な戦い方はお手の物だね！」
　向こうが姑息な手を使うなら、こちらは正面からぶつかるのみ。
　ひかりは金色の右手でスパイラルコマンドーの後頭部を掴んで地面に引き倒し、黒き左手で殴りつける。
「キッチリ落とし前付けさせて貰うぜ」
　伶はドローンを飛ばし、焔は紋様の浮かぶ翼を打ってブレスを生み出す。
　ミスルの攻性植物『ミスルトゥ』はスパイラルコマンドーの脚に絡み付いて離れようとせず、動きが鈍った瞬間を狙ってリリーは肉薄した。
　向けるは螺旋の力。スパイラルコマンドーの心臓の辺りへと手を押し当てるリリーの眼差しは、倒すべき眼前の敵のみで埋め尽くされていた。
　シルディは小さな身体には不釣り合いな大きさのドラゴニックハンマーからの砲撃で、スパイラルコマンドーへと立ち向かう。
　轟音と共に噴出する煙。気を抜いていれば身体を持って行かれそうなほどの衝撃だったがシルディは持ちこたえ、代わりに足元の地面が幾ばくか削られた。
　重なる攻撃にスパイラルコマンドーはよろめきながらも姿勢を整えようとするが、燦がそれを許さない。
「土下座してよ」
　言葉と共に襲い来る重力は頭部にだけ。頭を上げて睨みつけることすら叶わずに、スパイラルコマンドーは地に這いつくばった。
　波琉那はケルベロスチェインの片方を手にして振ることで戦場に護りを広げ、うつほは爆破スイッチを押して色彩を広げることで破壊を備える。
　――強襲型魔空回廊の破壊は済んでいる。
　ケルベロスたちが今すべきことは、スパイラルコマンドーを撃破し、速やかに撤退すること――。
　それだけだ。

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　風を切る手裏剣によって幾重にも傷を刻まれ、こぼれた血が地面を黒く湿らせる。
「灯れ、夏宵」
　攻撃を庇い続けたディフェンダーの消耗を見て取った伶はあえかな光を灯し、焔も属性を注いで支援に回る。
「すまぬな、妾のみでは手が回っておらぬ様だ」
　唯一の癒し手であるうつほはサキュバスの力を広げることに専心している。
　余裕があれば壊しの力を届けたり、同胞怨嗟による攻撃にも回りたかった……しかし、スパイラルコマンドーの一撃は重く、余裕を見出すことが出来ずにいた。
「気にしないで、私も手伝うわ！」
　波琉那は言って、上に向けた掌を柔らかく曲げ。
「輝ける甘露にて彼の者に力の一片を分け与えたまえ……」
　掌に満ちる液体は黄金の蜂蜜酒。前衛をすり抜けた攻撃に傷付いた身体へと、その香りは広がっていく。
　攻撃を引き受けるディフェンダーと癒すメディック。ジャマーに立つ波琉那は敵の攻撃精度を落とし、ヒール不足を感じれば癒しにも回る。
　役割の分担には問題はなかった。
「当たりなさいっ！」
　時に流星の煌めきを、時に螺旋の舞いと共に放たれるリリーの攻撃は確実に命中していたが、威力は思うようには出ていない。
　避けられることがないよう、使用するグラビティは交互に分けていたが、条件や状況――敵の弱点を突くような計画はなかった。
『魂の叫び』への想いが強すぎるからこそ、戦いの内容が浅いものになってしまっていたのだ。
　思うような成果を上げられずにいるのは、ミスルも同じ。
「じゃあ奥の手でもいってみますか」
　言いつつ放つ種は着弾と共に爆発するが、その様子はどこか精彩を欠いていた。
　初手こそ決めていたが、その後の行動は『状況を見て』と思っていたミスル。
　しかし、どのような状況でどのような行動に出るのかを決めていなかったため、攻撃と回復のタイミングがうまく合わず、攻撃の際もダメージを与えにくくなっていた。
　弱点の共有や敵の位置などを確かめ、それを共有することで戦いを続けている者もいる。しかしそれが全員ではなかったことが、彼らを窮地へと追い込んでいた。
　もちろん、スパイラルコマンドーを追い込んでいるという実感はある。
　だが、それは奴自身も感じていることなのだろう。猛然と手裏剣を投げる様は鬼気迫り、今まで以上に力強い攻撃を伶は受け止め、
「――っ！」
　――肉に刃が喰い込む感触が、致命的な打撃だということを感じさせた。
「伶さん！」
　シルディは声を上げるが、倒れた伶は荒い息を吐くばかりで、立ち上がることは難しいようだ。
　広がる血の量を見ても、シルディが火トカゲを喚んで盾にしてどうにかなる状態ではないだろう。
　唇を噛み、スパイラルコマンドーへと向き直るシルディ。
（「戦わなくていい道があれば、こんなことには……」）
　今は敵同士であっても、いずれ存分に語り合える時が来たら――そんな気持ちをオーラに閉じ込め、シルディはスパイラルコマンドーめがけて撃ち出す。
　燦は金槌にグラビティ・チェインを込め、重い風切り音と共に振り下ろす。
　手ごたえは確かで、スパイラルコマンドーは一度は倒れても、またよろよろと立ち上がる。
　満身創痍なのはひかりも同じ――ほとんど気合だけで立っているような状況で、ひかりはもう一度スパイラルコマンドーに肉薄し。
「私が架ける七色の虹の橋、あなたは最後まで渡り切れるかな！」
　七度に渡るスープレックスで次々に責め立て、額が切れたせいで血に濡れた顔で笑みを作る。
「終わりだよ！」
　全身に込める力が強くなる――力が頂点にまで達した時、スパイラルコマンドーの全身は力なく揺れた。

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「急ごう！」
　スパイラルコマンドーの亡骸は消え去り、シルディは声を上げる。
「色々と調べたかったけど……」
　敵の骸も遺留物もなく、ケルベロスたちの負った怪我を考えても、これ以上長居は出来ない。
　怪我をした者同士で支え合い、ケルベロスたちは帰りを急ぐ。
　グラディウスが全員分あることはうつほが確認済み。ひかりもそれを聞いて安心しながら、早足で進む。
　ミスルも後に続き、波琉那のスーパーGPSによる誘導もあって、撤退は問題なく進む。
「このまま進んで大丈夫そうだね」
　周囲を警戒する燦は言い、果たして大きな問題が起こることもなく脱出は完了。
「……帰る、ぞ」
　荒い呼吸ながらも意識を取り戻した伶が言えば、焔は纏う炎をちらつかせ。
「終わったんだ……やっと」
　リリーは呟いてから、迎えのヘリオンへと赴くのだった。

作者：遠藤にんし	重傷：八崎・伶（放浪酒人・e06365）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年9月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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