鎌倉ハロウィンパーティー~苦い思いと甘い罠

作者:鹿崎シーカー

 幻灯ともるジャック・オ・ランタン。店に並ぶはカボチャのケーキ。道を歩けばお化けの仮装……。
 にぎやかな都会は、いつにも増して浮かれている。それもそのはず。数ある年一度の特別な日、ハロウィンが近いのだから。
 気の早い子供たちが、様々な衣装を着てトリック・オア・トリートと口ずさむ。少年は、その姿がうらやましくて仕方がなかった。
 できるなら、一緒に遊びたい。でも……。
 少年が肩を落とした、その瞬間。
「その夢、叶えてあげましょう」
 え、と思うのもつかの間。少年の胸に鍵が突き刺さった。
 意識を失い倒れる少年に、赤い頭巾を被った少女は小さくささやいた。
「世界一のパーティに、行ってらっしゃい」
「お菓子はいいからイタズラさせろって感じっすかね?」
 黒瀬・ダンテは、うーんとうなりつつ頭をかいた。
 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査によると、日本各地でドリームイーターが活動しているようだ。
 ドリームイーターはハロウィンのお祭りに劣等感を持っている人々の夢を使って作られており、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場、つまり、鎌倉のハロウィンパーティーの会場に現れるようだ。
「皆さんには、パーティーが始まるまでに、ドリームイーターを倒していただきたいっす」
 今回のドリームイーターは、パーティー開始と同時に現れる。そのため、開始時間よりも早くパーティーが始まったようにふるまえば、ドリームイーターをおびき寄せることができるだろう。
「姿形についてっすが、デュラハンってわかるっすか? 要は首なし騎士のコスプレをしてるっす」
 鎧を着こみ、頭にあたる部分がモザイクになっているため、見分け自体はすぐにつくという。戦闘においては心を抉る鍵を使った斬撃や、悪夢でこちらを侵食してくるモザイクを飛ばすという。ピンチになると傷をモザイクで修復することもあるため、注意が必要だ。
「せっかくのハロウィンパーティーっすから、早く倒して楽しむっすよ! いってらっしゃいっす!」


参加者
天城・恭一(イレブンナイン・e00296)
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)
百花・白雪(真白の竜騎を継ぎしもの・e01319)
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)
武器・商人(闇之雲・e04806)
アルタ・リバース(穏心の放浪者・e05478)
オルガ・ファロン(ハニーポット・e07533)
セット・サンダークラップ(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e14228)

■リプレイ

●Trick and Treat
「これで、よし……っと」
 持参したカボチャからパーツをくりぬくと、アルタ・リバース(穏心の放浪者・e05478)は一息ついた。
 黒いとんがり帽子に黒のローブを着た、いわゆる魔法使いのコスプレをした彼は、ろうそくに火を灯し、カボチャの中にそっと置く。出来上がった装飾に、同じく魔法使いスタイルの朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)は目を輝かせた。
「完成、ですか?」
「ええ。あとは、これをうまく飾ってあげるだけです」
 中のろうそくを倒さないように、慎重に位置を整える。その様子を、こちらはドラキュラの仮装をした天城・恭一(イレブンナイン・e00296)が、不思議な色のドリンク片手にのぞき込む。
「おー、結構いい出来じゃねーか。ハロウィンっぽい」
「きれいな光ですね。あたたかいです」
 ジャック・オ・ランタンに頬をゆるめるのは、ボクスドラゴンの吹雪とおそろいの、新選組の羽織を着た百花・白雪(真白の竜騎を継ぎしもの・e01319)。
 楽しみつつも、警戒はおこたらず。それでもやはり楽しそうなのは、今日がパーティ当日だからだろうか。そんな彼らに、ややうつむき気味になった人影が近づいていく。
 二足歩行する鳥のような姿。ご存知デウスエクスのビルシャナ……ではなく、そのコスプレをした武器・商人(闇之雲・e04806)である。
「一般人の、みなさんに……ヒヒッ。避難勧告してきた……クッ、ヒヒヒヒヒ……」
「お疲れ様です。……それで、どうかしました?」
 体をくの字に折り、ヒッヒと笑う商人に、若干不安そうに白雪が問う。商人は答える代わりに、ある一点を指さした。
 そこにいたのは、気合いを入れておめかしをしたアニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)とサキュバスの仮装をしたオルガ・ファロン(ハニーポット・e07533)。そして、ダンゴムシのような体から頭を出したセット・サンダークラップ(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e14228)だった。
「お菓子をくれる子はいねがーとか言ってみたけどさ……なーにこれぇー……」
「ダイオウグソクムシグミっす。商人さんからたくさん仕入れてきたんすよー」
「た、たくさん……ダンゴムシが、たくさん……」
 衝撃的な仮装とお菓子に、そろって絶句する二人の前で、セットは平然とグミを口にする。かなりシュールな光景に、五人がそろって吹きだした、そのときだった。
 がしゃり、と金属がこすれ合う音がどこからともなく聞こえてきた。
「どうやら、おいでなすったみてーだな」
「続きは後で、ですね」
 恭一がグラスを置き、ほのかが瞳を光らせる。
 それまでの笑顔をぬぐい、武器を取る。十六の視線の先には、モザイクで顔を隠したひとりの騎士がたたずんでいた。
「さて、ハロウィンショーの始まりです。皆さん全力で行きましょう!」
 鎌倉ハロウィンパーティー。その前座の舞台の幕は、静かに切って落とされた。

●Trick yet Treat
「私、アニエスは護り手として、貴方と戦わせて頂きます。いざ、勝負なのです!」
「あー、抜け駆けはずるいぞー」
 こぶしを握り、アニエスとオルガが走り出す。巨大な鍵を剣のように構える騎士。しかし、鍵の先端は、銃撃によってはじかれる。空いた胴体に向かって、網状の霊力と高速回転する剛腕が叩き込まれ、騎士はたまらず吹き飛んだ。中空に至る体を、商人の『御業』ががっちりと捕えた。
「ヒヒヒ……捕まえたよ」
「お見事です」
 賛辞もほどほどに、白雪とほのかも地を蹴りつける。
 セットが展開したドローンを足場に上り、剣を手にして空を行く。
 動きを止められた騎士の顔が風船のように膨らんだ。頭部を覆うモザイクが生き物のようにうごめき、破裂しようとした瞬間。人であれば眉間にあたるであろう場所を、銃弾が突き抜ける。
 ぶしゅっ、と吹きだすモザイクに向けて、ふたりは剣を振り下ろした。
「我が守護星たるアクエリアスよ、剣に宿りて敵を討つ力を!」
「舞い踊れ、百花白雪」
 流星のごとき斬撃とともに、冷たい花風が首なし騎士を『御業』ごと斬り捨てる。凍りつきながら落下する騎士を待っていたのは、降魔の光をまとったアルタ。
「最近の魔法使いは殴り合いも出来るのですよ」
 こぶしを引き、目の前まで落ちてきた騎士を狙って一気に解放。盾にした鍵ごと、騎士を遠くへ突き飛ばす。飲食物が所せましと並ぶテーブルを巻きこんで、騎士は思い切り倒れこんだ。
「お、チャーンス」
 滑るように加速するオルガ、ほのかとともに、アニエスと白雪が自身のサーヴァントを連れて距離を詰めていく。
 背後では商人が護符を広げ、セットはさらなるドローンを展開。さらには恭一の銃口と石を拾ったアルタもあお向けになった騎士に狙いをつける。
 一方で、首なし騎士は地に落ちた布を握りしめていた。

●Trick but Treat
 横たわる騎士が、ばね仕掛けのように跳ね起きた。
 アニエスは、突然の復活にわずかながらぎょっとするが、テレビウムのポチに命じて突撃させる。しかし、総攻撃の構えを見せるケルベロスたちの前に、大きな布が広がった。
「わぷっ!」
「きゃっ……」
 ばさりとはためく白い布。あちこち汚れたテーブルクロスに包まれ、アニエスとほのかが転倒。白雪は布を切り裂くと、ボクスドラゴンの吹雪のブレスでそれを吹き飛ばす。
 続けてオルガが炎をまとった蹴りを放つも、聞こえてくるのはがちゃんという破砕音。皿や料理が熱に焼かれて灰へと変わる。
「まさか、それで目つぶしをするっすか!?」
「食い物を粗末にするなよ……」
 驚きつつもセットはドローンを回し、薬液の雨を注ぐ。ビデオの巻き戻しのように修復されていく装飾や食器の合間をぬって、恭一が発砲し、アルタは石ころをはじく。高速で飛び交う銃弾と石ころを切り払い、騎士はジュースのビンを投げつける。辛うじて駆け付けた氷の槍兵の突きをさけ、続く聖なる光はテーブルに隠れてやり過ごした。
「あーもー、隠れてないで出てこーい!」
「卑怯ですよ」
 粉砕したテーブルから飛び出した騎士に、斬撃を味方につけた吹雪がブレスを連打する。そのことごとくをかわし、身代わりを使いながら騎士は鍵を突きだしていく。
 そうして、騎士が何度目かのちゃぶ台返しをくり出したとき、ようやくテーブルクロスから脱出したほのかが両手をかかげた。その手のひらから立ち上る、赤い陽炎。
「みなさん、伏せていてください! 行きます!」
 ぼんやりとした陽炎が形を持ち、竜へと姿を変えていく。あぎとに炎をたたえた幻の竜が鎌首をもたげる。騎士が足に力を込めた、その瞬間、周囲でいくつもの金属音が響き渡った。
 ナイフ、フォーク、食器に燭台、セットのヒールドローン。全方位にある金属すべてから、連続して音が響く。
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。というとイメージが悪いが……詰みまで続けさせてもらおうか」
 使いこまれたリボルバーの引き金を引く恭一。火を噴いて放たれた銃弾は、騎士の周りに渦巻くようにして飛び回る。
「所謂これが『王手』と言うやつだ。此処から……詰ませてやろう」
 もう一度、引き金を引く。最後の弾丸は幻の竜をすり抜け、まっすぐ首なし騎士へと迫る。全方位から、無数の跳弾を引き連れて。
 逃げ場を失った騎士は、ぐっと屈む。
 目指すは上方。凶弾とブレスを避けられるかもしれない、唯一の場所に跳ぼうとして……不格好に、固まった。
「腕を止め、足を止め、鼓動を止め……ほら、死すべき運命と踊ってごらん? ヒヒヒヒヒ……!」
 弾丸の合間をぬって、商人は鎧のスキマに針を突きさす。動きを止められた騎士の体を銃弾がうがち、竜は炎のブレスを吐いた。
「顕現せよ、古の竜。我が敵を焼き払え!」
 装飾も料理も巻きこんで、炎はごうごうと荒れ狂う。赤に染まった世界の中で、火の粉に混じって舞い上がる季節外れの桜の花びら。
「吹雪、行きますよ」
「ポチ! お願い、します!」
 小さなブレスが火の海を裂き、白雪は刀を振り切る。半ばから断ち切られた鍵を、ポチの凶器がはね飛ばす。武器を失った騎士の鎧に、アニエスは鋭い爪を突き立て、投げた。
「えいっ……!」
 夜空に放り出された騎士の体から、ぱらぱらと破片が落ちる。崩壊しかけた体を直そうとモザイクを生み出すが、それらはドローンから伸びたワイヤーに貫かれるなり霧散する。あふれた水のようにモザイクを流す首に、カボチャの頭部がはめこまれた。
「お前は今日からパンプキンナイトだー!」
 まともに動かない騎士の体を、鎖がカボチャ頭ごとがんじがらめに固定する。鎖に引っ張られるまま落下する騎士の真下で、オルガとアルタは、ぐっとこぶしを握りしめた。
「さあ、幕引きにしましょう。……当てて行きます」
「みなぎってきーーたーーーー!」
 再び、空から落ちる首なしの騎士。鎧の破片とモザイクを、星くずのように散らしながらやってくるそれに、オルガはラッシュをたたきこんだ。
 あぶられ、穴だらけにされた甲冑が、一撃食らうたびに砕けていく。限界を超えた連打を食らい終えた騎士の胸に、アルタのこぶしがあてがわれた。
「夢から醒める時間です」
 ごしゅっ! と音を立て、殴打が加速する。ガラスのようなはかない音色とともに、騎士は跡形もなく消し飛んだ。
「目が覚めたら遊びにおいでーっ。待ってるよーう」
 かぶせられていたカボチャが地に落ち、ころころ転がる。
 その瞳に灯る光は、暖かく、優しかった。

●Trick or Treat!!
「服が、しわくちゃです……」
「うぅ……せっかく、めいっぱいおめかし、してきたのに……」
 服についたシミをとりつつ、ほのかとアニエスは目をうるませた。
 即興で行われた目つぶしのせいで、みんなの服は大なり小なり汚れてしまっていた。多少やぶけた程度ならヒールすればいいのだが、汚れとなるとそうも行かない。
 周囲のヒールに努めていたセットがくるりと振り向く。
「あ、じゃあコレとか着てみるっすか? 商人さんに聞けば、まだ残ってるかもしれないっすよ」
「セットさん、それは……やめたほうがいいのでは……」
「そのコスはセットが着てていいよー。すっごい似合ってるよーそれー」
 服装を整えながら、アルタとオルガがそろって苦笑する。
 ちなみに、くだんの商人は商談の真っ最中。どうやら追加の料理の手配をしてくれているようだが、ときおり宣伝文句らしい言葉も聞こえてくる。まさしく、商売人の鏡と言ったところだろうか。
 服や周辺がある程度修復されたところで、恭一は幸運にも無事だったグラスに飲み物を注ぐ。
「ま、無事に終わったことだし、ハロウィンパーティーに混ざるもいいかもな。ケルベロスも……ハロウィンを楽しむ権利ぐらいはあるだろう?」
 そう言って、飲み物を全員に配っていく。少し気の早い人々がちらほら見え始める中で、白雪はせきをひとつして、グラスをかかげた。
「それでは皆さん……乾杯」
『乾杯!』
 一夜限りのパーティが、始まろうとしていた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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