プールサイドの選定者

作者:澤見夜行

●射抜かれた悪意
 晩夏から初秋に入ったというのに、その大型プール施設は盛況と言って良かった。
 流れるプールに、波のでるプール。ウォータスライダーにも列ができ終わらない夏を楽しむ者ばかりだ。
 しかし、そんな平和な一時は突然終わりを告げる。
 突然上がる水飛沫。それは天井から落下してきた、建物を支える支柱によるものだ。
「う、うわああぁぁ――!」
「キャァァァ!!」
 次々と落ちてくる建物の破片。悲鳴があがり、そのプール施設は混乱の一途を辿る。
「くそ! 早くでろよ! 邪魔だぁ!!」
 プールから上がろうとする者の足を掴み、プールへと引き摺り戻す男。空いたスペースによじ登り一目散に逃げようとする。
 しかしその行為は男に取っては最悪手と言えた。不幸なことだが、男を狙い澄ましたかのように、天井から一際大きい破片が降ってくるのだった。
「ぐあァッ!!」
 因果応報。破片の直撃をうけ、左半身から血を滴らせる男。だが、それでも逃げようとあがき続けるのは生への執着からか。
 その男の姿を追い続ける視線がある。
 プールサイドの出店の屋上から男を見続けていたのは悪意の選定者――シャイターン。
 自己中心的な考えを持つ者はシャイターンにとっては格好の獲物だ。口角を上げ目を細めると手にした弓を構える。
 ペロリと舌なめずりし、矢を放つ。見事、矢は男の左胸へと吸い込まれるように刺さるのだった。
 倒れる男は、幾許か痙攣を続けたのち、その動きを止めた。
「……チッ、はずれかよ。んじゃ次いくか」
 ぶつぶつと呟くように言うと、タールの翼を広げ、シャイターンは飛び立つ。
 その濁った目は次なる獲物を探していた。


「た、大変だよ! ヴィルフレッドさんが危惧していた事件が予知されたよ!」
 クーリャ・リリルノア(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0262)がその長い銀髪を乱しながら慌てた様子でミッションルームに入ってくると、開口一番声をあげた。
「やっぱり人の集まる大型プール施設を狙ってきたんだね」
 ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)がクーリャに確認すると、クーリャはコクコクと頷き、事件資料を読み上げる。
「はいです。死の導き手たるシャイターンが、エインヘリアルを生み出すために、大型プール施設を襲撃するようなのですっ」
 シャイターンは、多くの一般人が中にいる建物を狙って崩壊させ、その事故で死にかけた人間を殺すことでエインヘリアルに導こうとする。
 今回も、人の多い大型プール施設を狙い襲撃してくるようだ。
「シャイターンが襲撃する建物は予知できているのですが、事前に中にいる人々を避難させちゃうと、別の建物が襲撃されちゃうので、被害を止められなくなっちゃうから注意してくださいです」
「いつものように、事前に施設内に潜伏しておいて、襲撃が発生した後にシャイターンが選定しようとする被害者以外の避難誘導を行ったり、崩壊しそうな建物をヒールすればいいんだね?」
 ヴィルフレッドの問いにクーリャは「はいです」と頷くと続ける。
「避難誘導や建物の崩壊を止めた後、シャイターンが選定対象を襲撃する場所に向かってシャイターンを撃破してくださいです」
 クーリャは事件資料をめくると、シャイターンと周辺状況の説明を始める。
「敵であるシャイターンは一体のみです。皆さんが使う『妖精弓』に似た武器を持っているみたいです」
 対象を自動追尾する攻撃や、祝福の矢を放つ回復手段。また炎の塊を打ち出す攻撃を使ってくる。素早い攻撃への対策は必要だろう。
「予知された大型プール施設は、大きく分けて三ブロックの構造になりますです。流れるプールエリア、波のでるプールエリア、ウォータースライダーエリアの三つです。各エリアに一つずつ非常口があるので、避難誘導に使えると思いますです」
 モニターに映し出された案内図を見ると、北西に流れるプール、南に波のでるプール、北東にウォータースライダーが設置されている。
 非常口は各エリアの外周に沿って存在しており、中央に出店の建物があるようだ。
「シャイターンは中央の出店の建物の上から、選定対象が近づくのを待っているようなのです。選定対象は……流れるプールから中央を通って南に向かうみたいですね」
 モニターに選定対象の大柄な男性の姿が映し出された。
 南には非常口とともに更衣室への入り口があるのがわかる。おそらくそこへ向かうつもりなのだろう。
 避難誘導に建物のヒール、シャイターンの足止めに選定対象者のフォローとやることは多いが、手分けして対応するしかなさそうだ。
「シャイターンが選定しようとする一般人は、避難時に問題行動を起こしてるみたいですね。そして一人で逃げ出した所を襲撃されるようなのです」
 この一般人が一人で逃げ出した後ならば、他の一般人を救出したり建物をヒールしても、シャイターンの襲撃は予知通り行われるだろう。
「可能でしたら、誰も大怪我をしたり死んじゃわないように事件を解決してください。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ペコリとその長い銀髪を揺らし、クーリャはケルベロス達を送り出すのだった。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)
唯織・雅(告死天使・e25132)
クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)
如月・環(プライドバウト・e29408)
榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)

■リプレイ

●賑やかな潜入者
 予知された屋内プール施設は、気温の下がる晩夏であるにも関わらず盛況だ。
(「シャイターン関連の依頼は久しぶりだけど、選定がまだ続いていたとはね。なにかしらの進展が欲しいものだけど……、今は目の前の依頼完遂が先だね」)
 シャイターンの思惑を一考しながら、榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607)は施設職員に接触することに成功した。
 同行したヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)と共に襲撃があることを伝えると、職員達は協力を快諾した。
「さてと、これであとは襲撃を待つだけかな?」
 仲間達に職員への協力の旨を伝えたヴィルフレッドが確認する。
「避難誘導班は各エリアにて待機、だね」
「足止め班は中央で選定対象を監視ッスね」
 各自が役割を確認し、その時を待つことになった。
 しばしの後。
「おー、小さな個体が沢山いるなあ」
 純粋に子供が好きな尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は、この小さな個体達をなんとしても守らなくてはならないと意気込む。
「ん~! 美味しい!」
 そんな広喜の横で、ヴィルフレッドはクリームたっぷりのクレープを頬張りながら辺りに視線を這わせていた。
 気を引き締めてはいるのだが、襲撃が始まるまではこれといってやることがない以上、状況を楽しむことにしていた。
「それ……美味しそうだね」
 ヴィルフレッドの持つクレープを差しながら唯織・雅(告死天使・e25132)が訊ねた。
「とっても美味しいよ! 雅さんもぜひ」
「ん……あとで、行ってみます」
「あ~いいなぁ。待機する前に何か買えばよかったなぁ」
 インカムからシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)の羨ましがる声が聞こえる。
「目標が来た見たいッスよ」
 如月・環(プライドバウト・e29408)が選定対象の男を見つけ報告をする。
 ヴィルフレッドと雅は選定対象となった男の追跡を開始した。
「しかしまたシャイターンかい、彼らも懲りないね」
 ヴィルフレッドは客に紛れながらそうインカムに話しかける。
「選定、か。シャイターン、まだこんなこと続けてるんだね……」
 パレオをそよがせながら、シルはプールサイドで一人呟く。
 ヴァルキュリアを意のままに操っていたシャイターンに、シルは強い嫌悪感を感じていた。
「まったく。毎回手ひどくやられてるっていうのに諦めの悪い」
 笑みを含みながらシャイターンのしつこさに呆れるのは広喜だ。
「今回も僕らで、無駄だってこと教えてあげなきゃね」
 ヴィルフレッドはパーカーの袖をまくりながらそう言って、決意を仲間達と確かめ合った。
 襲撃の時間は近い――。

●誘導
 突然、天井から一本の鉄棒が落下し、プールサイドに突き刺さる。
 短い悲鳴。呆然とする一般人の上から、パラパラと破片が降ってくる。
 危険と判断した一般人達が続々と施設外へと駆けだしていった。
 まだ大きな騒動にはなっていないようだった。
「選定対象者、女性を撥ねのけて移動を開始しました」
 黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)の声に、避難誘導班の三人が「了解」と答える。
 男が一人で逃げ出した後ならば、襲撃は予知通り続行される。
 避難誘導を行うならこのタイミングだろう。
 一騎は施設職員に合図する。避難誘導の開始を知らせる合図だ。
 すぐさま施設内に放送がかかり、迅速な避難誘導が開始された。
「さあ、落ち着いて。北側の非常口に向かってください!」
 北東エリアでは、ウォータースライダーを注視しながら一騎が逃げ遅れている人達を誘導する。
「大丈夫。僕らはケルベロスだ。安心してください!」
 誘導をしながらも崩壊が始まりそうな場所を修復し、建物の崩落をしっかりと防いでいた。
 対する北西エリアは広い。クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)が光の翼を展開し、水上を駆け巡る。
「皆、安心して。自分たちはケルベロスだ。誘導に従って欲しい」
 クロエの声に、北西エリアの一般人達も平静を徐々に取り戻していった。
「さあ、捕まって」
 慌てて避難しようとして、プールの中で足を痙った女性をクロエが助ける。
 空を駆け、女性を非常口まで誘導する姿に、人々は静かな喝采を向けていた。
 南エリアでは、シルが慌てること無く持ち込んだ拡声器を通し声を上げる。
「皆さん、ケルベロスですっ! 慌てないで、わたし達ケルベロスの指示に従ってくださいっ!」
 愛らしくも力強い声が、周囲の人々の注意を引く。
 身分を明かすことで、慌てふためいていた人達に落ち着きが取り戻されていく。
「あそこは危なそうだね」
 シルは周囲を警戒しながら、崩落の危険がありそうな場所へ魔法の木の葉を纏わせ修復する。
 遅れている人々へ声をかけ、非常口までの誘導を行うと、再度担当エリアを確認しに向かう。
 そんなシルの目に慌てて走る子供が映る。濡れたまま走る姿は危なげだ。
「慌てないでも大丈夫だからね」
 一声かけ落ち着かせる。コクリと頷く子供は安心したように非常口へ向かった。
 三者三様。
 その方法は様々だったが、迅速に避難誘導を行ったことで、死傷者をだすことなく無事に避難を終えることができた。
「こちら榊原。避難完了したよ」
「南、シルだよ。こっちも無事に終了!」
「相変わらず、余計な事ばかりしてくれるね……デウスエクスは。その無駄な勤労意欲は、尊敬するよ……。クロエだよ。こちらも終了。中央に向かうよ」
 山羊の頭蓋を被り戦闘態勢を整えたクロエは、光の翼で水上を突っ切り中央へと急ぐ。
 三方のエリアでの避難誘導は完了した。
 残すは中央のみ――。

●悪党成敗
 避難誘導が開始された直後。
 中央で選定対象者を監視する足止め班は、シャイターンの出現を待っていた。
 そのとき男の悲鳴が聞こえた。
 天井から落下してきた破片が男の左半身に直撃する。
「シャイターンは!?」
 男の治療をしたいが、肝心のシャイターンが姿を現していない。
 焦燥と緊張に苛まれながら、周囲を索敵する。
「――いた、あそこだ」
 南側に建てられている出店の屋根の上に、弓矢を構える姿を見つける。
 刹那の間で放たれる矢。倒れた男の心臓目がけて一直線に飛ぶ。
「やらせないッスよ!」
 咄嗟に動いたのは環だ。その身を盾にし男を守る。
 瞬間、番犬達が一斉に動き出す。
「全員……避難を」
 周囲に残る人達に向け、雅が割り込みヴォイスで避難を指示する。そのままシャイターンの射線を塞ぐように武器を構え立つ。
 同時にヴィルフレッドが殺界形成を放ち、一般人を遠ざけた。
「……」
 カルナは無言で選定対象の男を治療する。
 非常時に際して、この男の行動は決して褒められたものではない。
 この傷も因果応報と言うべきものだろう。
 しかし、真に忌むべき元凶は――シャイターンの悪行にある。
「さあ、もう大丈夫ですよ」
 カルナは治療を終えた男を立たせると、慌てて逃げ出す男の背を守るように追従した。
「お、オレが狙われてるのか!? なんで!?」
 悲鳴染みた声があがる。男と、周囲の逃げる人々を鼓舞するように、カルナはスタイリッシュな装いの武器を構え強い意思を宣言する。
「ご安心を――必ず護ると、約束致します」
 此処には血も悲鳴も無用だ。
 人の命を軽んじ、心を利用する悪しき者には、退場して頂く。
 非常口まで男を送り届けたカルナは、強い思いを胸に、仲間達の元へ駆け出した――。
 ――選定対象を逃がされたシャイターンは、濁った目を釣り上げ、番犬達を威嚇する。
「……邪魔しやがってよぉ」
 恫喝しながらジリジリと近寄ってくる。にじみ出す殺気が肌をヒリつかせる。
「全員、あの世に送ってやるよぉ!」
「はっ、やれるもんならやってみろ! 当ててみやがれ、ノーコン野郎!」
 環の挑発に、強く舌打ちしたシャイターンが弓を鳴らす。魔力篭もる矢が環を高速追尾する。
「頼むぜシハンッ!」
 サーヴァントと共に耐える環。矢がその肌を斬り裂いていく。痛みに歯を食いしばる。
「安心しな、誰も壊させねえ」
 その顔に笑みを湛えたまま環を癒やす広喜。
 壊すしか能の無いダモクレスだった自分が、守る側に立てる。そのことが不思議で、しかし嬉しいのだ。
「いくよ、みんな!」
 ヴィルフレッドの号令の元、シャイターンへ攻撃を開始する。
 ヴァルキュリアである雅はシャイターンに対して悪感情を持ち合わせていた。
「告死天使は……選定には、関わりませんでしたが。
 その眼から見ても……貴方達の、選定は。粗雑に……過ぎます」
 ライフルを放ちながらシャイターンへの感情を漏らす。
「運命を悪戯に変えて……自らの手で、選定対象を作りだすなど。
 認めるわけには……いきません」
 高速演算された弱点を狙う的確な射撃と、見えない爆弾がシャイターンを襲う。
 傷ついた場所に祝福された矢を突き刺し、回復しながら側面へと回り込むシャイターン。
 矢継ぎ早に追尾する矢が放たれ、その手数に動きを抑えられる番犬達。
 環と雅が仲間達を庇うように立ち回り、最小限の被害にする。
 即座に広喜がその笑みを振りまきながら癒やしていった。
 矢の猛襲からヴィルフレッドが飛び出し、果敢にシャイターンへと飛びかかる。
 流星を纏う蹴撃が重力の楔を打ち込むと、『drago gula』を解き放ち捕食させた。
 飛び上がるようにシャイターンが捕食から脱出するが、そこを狙って雅がグラビティの光線を発射する。
「邪魔くせぇんだよ!」
 憤怒を浮かべ、灼熱の炎塊を放つシャイターン。
 雅と環が仲間を庇うように炎塊を受け止める。
「そう、簡単に……私の背後に。攻撃は……通しません」
 両腕の間から覗く、雅の力強い瞳がシャイターンを見据えていた。
「……さっさとやられちまうのもカッコ悪いッスからね」
 口元を拭いながら立ち上がる環。
 挑発を重ね、注意を引いた結果であるが、その身体は傷だらけだ。
 しかし、そんな雅と環の献身のおかげか、仲間達への被害は少ない。
「上等だぁ、殺す!」
 そのときシャイターンを襲う影が現れる。
「悪だくみもそこまでだよっ!」
 油断していたシャイターンに、シルの勢いをつけた蹴りが突き刺さる。
 床に叩きつけられることになったシャイターンが苛立たしげにシルを睨み付けた。
「ヴァルキュリア達にした仕打ち……あんた達は絶対に許さないっ!」
「痛ェなぁ……そんな昔のことは忘れたよぉ!」
 油断できないその形貌に、シルは気を引き締め武具を構え直した。
「お待たせしました」
「ごめん、待たせたね」
 シルに続くようにカルナと一騎が合流し、最後に一番広い面積を担当したクロエがざらざらとした床に着地する。
 クロエの気の弱さを隠すように被った山羊の頭蓋がシャイターンを睨み付ける。
 禍々しさを感じさせるその風貌にシャイターンの額から汗が滴る。
 圧倒的形勢不利に、シャイターンは一変して逃走することを考え始めていた。
 しかし、その弱気な気配は番犬達に見抜かれる。
「奴は逃げ腰だ。一気にたたみ掛けるぜ」
 逃亡の気配を感じた広喜が仲間に声をかける。
 ――そして番犬達が一斉に襲いかかる。
「セクメト……お願い」
 雅の声にサーヴァントが清浄の翼を広げる。
 その隙に翼を広げ逃げようとするシャイターンだが、飛行対策をしていた番犬達には意味が無い。
「この魔弾から逃れられるかなっ!」
 一騎の放つ気弾がシャイターンの腕を咬み砕く。続けて轟竜砲を構え狙いをつける。
「こいつで、撃ち落とす!」
 散弾型竜砲弾がシャイターンの翼を傷つけていく。
 翼力を失ったシャイターンが地上に落ちると、クロエとカルナが飛びかかった。
 クロエが無言のままに、身体ごと大鎌を回転させ投げつける。
「援護します」
 クロエの動きに合わせ、遠距離主体のグラビティでシャイターンの動きを牽制していくカルナ。
 常に声を掛け合い連携していく。それは確実な妨害となり、シャイターンの動きを抑制していた。
「どうした、俺一人壊せねえのか?」
 変わらぬ笑みを不敵に浮かべ紙兵を散布する広喜に、シャイターンは情けないほど歪んだ顔を見せた。
 先ほどまでの威勢はどこへいったのか。顔をねじ曲げながら死にものぐるいで矢を、炎塊を放つ。
 だが、それらは悉く雅と環に防がれていく。
「凍らせて――そして砕くっ!」
「さあ、今日の餌だよ……存分に、食い散らかすといい」
 攻防の隙をつき、一騎とカルナ、ヴィルフレッドとクロエが一気に接近すると猛追の一撃を叩き込んでいく。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……」
 詠唱しながらシャイターンへと迫り重剣を振り、蹴りを見舞うシル。
 その鋭利俊敏な猛攻に、思わず翼を広げ再度上空へと逃げようとする、だが遅い。
「六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
 シルの眼前に描かれる輝く六芒星に魔力が収束、放たれる。
 巨大な魔力の奔流にシャイターンは慌てて回避行動をとるが、躱しきることができない。
「あなた達のやり方は絶対に許せない! ……塵も残らず消えちゃえーっ!!」
 背に魔力の羽を広げたシルが、駄目押しの追撃を放った。
「――!!」
 断末魔の声を上げることもできず、シャイターンは言葉通り消滅するのだった。
 こうして、大型プール施設に平穏が戻った。

●晩夏のプールサイド
「またここで小さな個体が遊べるように、ちゃんと直さねえとな」
 戦い終わって、番犬達は施設の修復を行う。率先して行う広喜はどこか楽しげに、そしてやはり笑顔を浮かべている。
 修復を終えると皆、一息つく。
 武器一式をクーラーボックスにしまうと、ヴィルフレッドは仲間達に向き直った。
「後片付けも終わったし……少しばかし楽しんで行っても罰は当たらないと思うんだけど、皆はどう思う?」
「いいッスね! せっかく水着持ってきたわけだし泳がないわけにはいかないッスよ!」
「賛成~!」
 仲間達の答えに満面の笑みで頷くヴィルフレッド。
 駆け出す番犬達。
 同い年の環と一騎が遊ぶ姿に、道行く女性が吐息を漏らす。
 その視線はとても熱烈だ。
「ん……おいしい」
「おいしぃ~!」
 クレープを口にする雅とシルは満足げだ。
 クレープを頬張るビキニの少女二人に、通りがかる男性諸君の目が誘い込まれていた。
 ある意味注目を浴びたのはクロエだろうか。山羊の頭蓋を被りパラソルの下で身体を休めていると、子供達が集まり騒ぎ出す。
 スタイリッシュな武器を構えながら、子供達にお菓子をくばるのはカルナだ。
「よく頑張ったね」
 人々に戻る笑顔。戻りつつある平和な光景に、自然と笑顔が浮かぶ。
 一番の報酬を得て、その心は満たされていた。
 番犬達は、戦いの疲れを癒やすように、修復されいくらかファンタジックな装いとなったプールで一時の休息を得るのだった。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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