俺のオーラを全開に!

作者:霧柄頼道

 うっそうとした木立の並ぶ山中。ここは少年の通う中学校の裏手にある裏山。彼はいつも放課後になると、一人この秘密の広場で鍛錬を行っていた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 するとそこに、いずこからか気配もなく一人の少女が現れた。ドリームイーター、幻武極である。
 その姿を見るや否や、少年は肩を怒らせ目を血走らせ、全身で気勢を張り上げる。絶叫にも等しい咆哮は空気を震わせ、夕暮れの空にカラス達を羽ばたかせた。
「にゅおおおおおおおおお! 食らえ俺の気パンチィィ!」
 少年は振りかぶった右手に裂帛の勢いをつけて極を穿つ。何度も連打を浴びせ、蹴り、どつき回すも、相手は特に痛手を被った様子はない。
「くっ……なぜだ、なぜ俺の気が効かないッ!」
 いまだ気を扱えぬ事に怒濤の悔しがりを見せる少年だが、別に身体から謎のオーラが出ているわけでもなく、攻撃もただ力を込めた打撃だけである。
「だったらこれを受けろ、ひぃっっっさつ! 気ィィ! 弾ッ! 丸ンンン!」
 と、少年はやぶれかぶれで気弾に見立てた手頃な石ころを投げつけるも、それで少年の技は出尽くしたと思ったのだろう、極は飛んできた石をでこぴん一発で軽く弾くと。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 手に持っていた鍵で少年を刺し貫く。傷こそないがそれで少年は昏倒し、ばったりと倒れた隣の空間から、何やら奇怪な存在が姿を現す。
 そいつは全身が山吹色のオーラそのものでできた、気人間と表現して差し支えない一体のドリームイーター。
 気人間は纏うオーラを火炎の如く立ち上らせ、振り下ろした拳の先から巨大な気の弾を放出し、目の前にあった木々を薙ぎ払ってみせたのである。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 極に送り出され、気人間は歩み始めた。少年が目指していた、最強の気の力を存分に披露するために。

「昔に武術道場を開いていた親父さんの背を追いかけ、気を会得しようと独特な修行を重ねていた少年が、ドリームイーターに襲われる事件が起きてしまうっす」
 集まったケルベロス達へ、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が告げる。
「ドリームイーターの名前は幻武極。自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているっす。今回襲撃した少年の武術ではモザイクは晴れないようっすが、代わりに武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするっす」
 出現するドリームイーターは、襲われた少年が目指す究極の武術家のような技を使いこなすようで、なかなかの強敵となるだろう。
 幸い、このドリームイーターが人里に到着する前に迎撃する事が可能なので、周囲の被害を気にせずに戦う事が出来る。
「敵はドリームイーター一体のみ。撤退はせず、敵の援軍もないっす。見た目は燃えるようなオーラを纏っているので、遠目からでもすぐ分かるっすよ」
 気人間はいわば少年の理想。バトルアニメの窮地で覚醒した直後みたいな、ふわっとしたイメージがそのまま飛び出して来た姿である。なんかシューシューシューシュー、と効果音も出しているため、まず見落としたり聞き逃す事はないだろう。
「気人間のポジションはクラッシャー。攻撃能力を持った気を技として駆使するっす。練り上げた気を拳状に変化させ、標的へ叩き込む気パンチ。そして多数の敵に包囲された場合に気を細かく放射状に撃ち出す気散弾。さらには身体に負った傷を気をめっちゃ活性化させる事で癒す、気オーラチャージ……意味が連続しているっすが、少年が脳内で名付けてたものと同じなので仕方ないっすね」
 どれも特殊な効果は持たないが、それだけに威力は高めである。
「気人間は山を下り、まっすぐ町を目指しますが、途中に河原を通るのでそこで待ち構えているのがいいっすね。ひと気もないし、誰かが通りかかる事もないっす。後はみんなで気合いを溜めていれば、探さずとも向こうから接触してくるっすよ」
 のみならず、戦闘になればより気合いの溜まった相手を優先的に狙う傾向があるようだ。恥ずかしがらず、己の思うパフォーマンスで気合いを溜めまくれば士気も上がって一石二鳥かもっすね、とダンテはノリノリで勧めている。
「少年は広場で倒れたままっすが、ドリームイーターさえ倒せば無事目を覚ますっす。気を操れるというのは実は親父さんの冗談なんすけど、少年にとっては大まじめで俺も立派な修行だと思うっす。どうか、彼のひたむきな夢を取り戻してあげて下さいっす!」


参加者
北十字・銀河(オリオンと正義を貫く星と共に・e04702)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
イーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)

■リプレイ


 空が夕焼けに染まり、徐々に夜が迫りつつある、そんな逢魔が時。
「『気』を習得したいか……なかなか修行熱心な少年だ。夢は大きな方がいい。そうするといつか現実になる事もあるからな」
 中学校の裏手、獣道を分け入って進んだ山中にある河原に、北十字・銀河(オリオンと正義を貫く星と共に・e04702)達ケルベロスが足を踏み入れる。
「“気”を武器、な……ケルベロスならできなくもないが、派手さが良い意味で少年心をくすぐっているのかな」
 ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)が思索にふけっていると、フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)も頷いて。
「勇者の中には気功ってのを使うお方も居た気がするわ。此方でもバトルオーラってのもあるしね……見た目だけじゃなく、技術って面でもこれらを体系化するのは面白いかもしれないわ」
 しかし少年の武術自体は父親に師事しているわけでなく、我流とも呼べない稚拙な部類であるのは近所でも周知であるようだ。つまり気合全振りである。
「修行すれば確かに扱えるものであるが……まともな師範に修行を付けてもらわずに身につくものでもあるまい」
 情報を聞きながら櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)は手近な河原の岩の上へ立ち、周辺を見渡しながら呟く。
「しかし、子供一人がこのような場所に来るのは感心せず……何かあれば一大事。すでに事は起きた後だったか」
「ふっふっふ~♪ やっぱり、武術といえば、気合よね~♪ ココは、アタシも卑猥……じゃなかった、気合を入れて挑もうかしら……?」
 イーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412)は殺界形成で人払いをしつつもいたずらっぽく笑う。
「さぁ、気合を溜めるわよ~♪ 友情、努力、勝利! そして、あざとく! いやらしく!!」
 準備が整うや否や正面へ進み出て、快活な声を上げながら身体の曲線を見せつけるような悩ましげなポーズを取る。たちどころに蠱惑的な空間が作り出され、ピンクなハートマークが舞い踊って見えるようだ。
 さっそく不穏な感じがしてきたところに、赤ペンぐるみに身を包んだヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)がぱたぱたとやって来て、大口を開けて天を仰ぎ。
「くぁ~~~」
 寝ぼけた鶏のような奇声を思い切り発する。空を飛ぶカラス達までへろへろに落っこちそうな声音と仕草だが、これでも立派に気合を溜め溜めしているのだ。
「オーラとは少年マンガの王道! 男の子じゃなくても憧れる夢の力ですぞ!」
 すでに混沌とした様相を呈しつつあるが、元気に飛び入り登場したのはマーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)。
「拙者も【幕末オーラ】で対抗にござる!!」
 これまた負けじと腹の底から気勢を込め、全身から幕末武家を想起させるオーラを発し、侍魂いまだここにありと示してみせる。でもなんか甘い。
「……来たか」
 その気配。あるいは気。察知したように河原の奥へ向き直ったのはヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)だ。
 視線の先。川岸から金色のオーラが流星のような軌跡を残し、飛来する様はさながら火の玉のようである。
「あのビジュアルは……いや、少年ならまず読まないわけがないだろうな……うん」
 ある有名な少年漫画に出てくるキャラクターと似通った姿に、思わず苦笑するライ。
 とはいえケルベロス達も充分に気合が充填され、臨戦態勢の構え。気人間はそんな彼らを見据え。
「――ンショオオォォォォアアアアァァッ!」
 対抗するかのように、激しくオーラを燃え上がらせ咆哮を放ったのだった。


「さて、お前の技はどの程度なのか俺達が見極めてやろう」
 闘気を解放する気人間へ余裕の微笑みを向け、身構えた銀河が意識を集中する。
 気人間は素早く回避しようとするが、一寸早く銀河のサイコフォースが鼻先で爆発を引き起こし、ダメージを与えるとともに機先を制する。
「お前の『気』は一見派手だが錬度が足りていない」
 ヒエルは落ち着いて呼気を整え、四肢をリラックスさせる。ゆっくりと体内をエネルギーが巡り、やがて全身を滞留させるように静かな闘気を纏わせていく。
「……地味に見えるか? この静かな『氣』の中にどれだけの力が凝縮されているのか分からない様だな。――ならば、お前にも分かるように見せてやろう!」
 気迫を込めた声を張り上げた瞬間、火種から爆発するかのように青銀色に燃える巨大なオーラが立ち上り、対峙する気人間のオーラと衝突した。
 己の気をぶつける事で敵の注意を引く、双方気向。氣は掴み処の無さが強みの一つだが、今回は相手の趣向に合わせて、分かり易く派手に。
 その工夫が効いたのか、気人間はヒエルを標的に見定め、ドヒュアーと猛スピードで急接近していく。
 ガード姿勢を取るも間に合わないか、と思われたその時、ライドキャリバーの魂現拳が飛び込み、気人間の猛進を代わりに受けて吹き飛ばされた。
「くぁ、イカンのオチ、気合だけじゃ~イカンのオチよ。ココは1つ、クールの化身たるヒナタさんが戦い方と言うのを教授してやるのオチね~♪」
 追撃を狙う気人間だが、その眼前に前触れなくヒナタが現れる。
「くぁ~~♪」
 気の抜ける声を上げて、ぴょこぴょことした動きで翻弄する。ぎょっとしたように敵が急停止した刹那、ペンぐるみから飛び出したドリルの一突きを食らわせ、お返しとばかりに吹っ飛ばす。
「さあ、行きましょうか!」
 中空で体勢を立て直す気人間を、魔剣へ雷の霊力を帯びさせたフレックが追いすがる。
 岩を足場に互いに高速で跳ね回りながら打ち合い、再び飛び上がった空中でフレックの刃がついに気人間の横腹を貫き。
「見えたでござる!」
 動作を中断させられた気人間めがけ、同じようにジャンプしていたマーシャが一回転しながら星形のオーラを発射。
 一息に敵を地上へ叩き落とし、のみならずライドキャリバーのまちゅかぜも決死の体当たりで押し潰してのけ、相手の反撃を許さない。
 ドシューッ、と後退する気人間だが、イーリスが構わずその懐へ突っ込む。
「そーれっ♪ オーラよりもアツアツの、アタシのソフトタッチ!」
 勢いよく突き出された掌底が気人間の胴体へ撃ち込まれると、内部へ侵入した螺旋が規則正しく巡っていたオーラをぐっちゃぐっちゅとかき回して悶絶させた。
「与えるは守護の力」
 悠雅が着物の袖からケルベロスチェインを抜き出し、前衛を囲むように防護の魔法陣を展開。
 まっすぐ突っ込んでくる気人間は魔法陣を突破できず、怒り狂って拳を叩きつけるばかり。
「これで時間が稼げるか……消耗戦になる前に、状況を盤石にしておきたいが」
 その隙を突いて、ライが自分を含む中衛へオウガ粒子を放出し、超感覚を覚醒させる。「ブショオォォアアッ!」
 途端、両手をかざす気人間からババパバパバと無数の気弾が発射され、ケルベロス前衛へとまんべんなく降り注ぎ打ち据えていった。
 気人間の一撃の重さは充分に脅威ではあるが、ケルベロス側も連携を重視、耐え凌ぐ事によって戦況に均衡を作り上げていくのだった。


「フオォォォ……ルァアアアッッ!」
 拮抗を破るべく、気人間が力を集中させていく。すると全身が天を突く火柱の如く燃えさかり、オーラの中にはピシュシュッ、ピシュシュッ、と少量の電流のようなものまでが発生している。
「はったりではないな……来い!」
 チャージされたオーラの量にヒエルもまた手足に気を伝達させ、突撃してくる気人間を迎え撃つ。
 浴びせられる乱打を受け流し、いなし、弾き。速く重い攻撃を技の巧みさで的確にさばいているものの、パワーで勝る気人間が守りを砕き、振り抜かれた拳がヒエルを打ち抜く。
 受け身も取ってダメージを最小限に抑えるヒエルと交代するように、追いついて来たフレックが敵を相手取る。
 気人間は強い。その大本が少年の出せると信じた思いであり、こうして超常となるのだから、武術というものには畏敬の念を覚えざるを得ない。
 だが、捉えられる。襲い来る攻撃は魂現拳が肩代わりしてくれたから、フレックはその一撃に専念できる。
「ソラナキ……唯一あたしを認めあたしが認めた魔剣よ……今こそその力を解放し……我が敵に示せ……時さえ刻むその刃を……!」
 魔剣「空亡」がうなりを上げ、相手のオーラにも負けぬ激烈なる共鳴をかき鳴らしながら、大上段に時空間ごと断ち割ってのけた。
「眼には見えまい。気で探ってみるといい……できるならな」
 敵の気を引くように前へ出たライが、縮地・鼠影の術を行使する。
 気人間を惑わすように岩陰から岩陰へ飛び移り、徐々に速度を上げつつもつかず離れず目測を定めさせない。
「与えるは破邪の力」
 その間に悠雅の右手に携えられたルーンアックスが光り、マーシャへ破壊の力を付与させる。同時に気人間もライを引き離し、悠雅にありったけの殺意を突き刺した直後。
「ばーくー……まーつー……!」
 高々と跳躍したマーシャがどこか居合いを思わせる構えで両腕を腰溜めにし、眼下の気人間を見下ろす。敵は迎撃姿勢を取るも、まちゅかぜが四方八方から突進を繰り返すので、思うように身動きが取れない。
「――波ぁぁあ!!」
 マーシャの双眸が夕陽を照り返して煌めき、十全に高められた幕末オーラから特大の気咬弾がぶちかまされる。気人間もとっさに拳をドッバァアーと打ち出して受け止め、押し合い、せめぎ合い――打ち勝ったのはばくまつ波。
 気人間は凄まじい損傷を受けた上で薙ぎ払われる。その目前へ立つのはとんでも気合の二人組。
「さぁさぁ、轟け! アタシの気合とちょーぜつ快楽の力!!」
 抜き打ちで叩き込まれるイーリスのパンチに気人間は対応できず、右に左と揺さぶられる。だが敵もさるもの、すぐさまバランスを戻して反攻に出ようとするも。
「くぁ、ここは冷静沈着に妨害させてもらうのオチね~」
 ダンスめいた不可思議な体裁きでヒナタがぬるっと肉薄し、至近距離からマジックミサイルを射出。二人の自由すぎる連携に気人間は後退する他ない。
 息をもつかせず気人間へと接近する銀河。グラビティ・チェインを右腕へ溜め、大きく引き絞り敵めがけて振り下ろす。
「うおおおおぉっ!」
 攻撃が繰り出されたのは双方同時。皮一枚、紙一重の差で敵の一撃は銀河の頬をかすめるにとどめ――逆に、銀河の拳打はカウンターの形で気人間の顔面を殴り飛ばす。
 猛々しかった気人間のオーラは今や弱まり、ケルベロス達の憔悴度合いも限界へ到達しつつある。でも気合なら決して負けていない。闘争は佳境へ入ろうとしていた。


「この気力尽きるまで、いざ!」
「ここまで来たら、最後まで付き合おうじゃない」
 マーシャとフレックの両名が、気人間を挟み撃ちにするように左右から刺突を打ちまくり、その場へ釘付けにする。
「痛いのと気持ちいいのとどっちがいいかな?」
 乱射される気散弾を軽やかにかいくぐり、敵の背後を取るイーリス。
 危険を悟った気人間が宙へ飛んで逃げようとするも、間髪入れず放たれた螺旋ノ旋風渦が背後から食らいつき、螺旋を流し込んで離さない。
「煉獄の鎖、かの者たちより、活力を奪え」
 悠雅の左手より地獄の力そのものとなった鎖が這い出て、敵へ殺到し縛り上げる。山吹色のオーラを黒く染め上げ、奈落へ引きずり込むかのように。
「……ヒャッハ~~! もう我慢出来ねぇ~~」
 と、突如として今までのクール? っぷりを投げ捨てて目を剥いたのはヒナタである。「さあ~燃え上がれ! ヒナタさんの小宇宙! 今こそ見せよう、赤ペンさんの神髄を!!」
 今までのクール? っぷりはこの勝負所、気合の入れどころのための温存にして布石。ヒナタはユラユラと揺らめく不死鳥のオーラを背負いドバーッと飛び立つと、全てを無に帰す必殺の一撃を気人間のど真ん中に叩き込む。
 弱々しく明滅する気人間。だが肩で息をするライを仕留めるべく腕を振りかぶる。
 まさに寸時、シャウトで体力を振り絞ったヒエルが庇い――叫ぶ。
「今だ!」
「応……!」
 脇からライが突っ込み、全力の獣撃拳をぶち込んで大きく下がらせ、残るは後一手。
「さぁ、今度は俺の最強の技を披露しよう……」
 銀河の握りしめた拳にまばゆい輝きが集束し、正しき力を生み出す。これが光。原初の光。
「原初の星、原初の力、正しき光となりて我が拳に宿り……弾けよ!!」
 正面から撃ち込まれた拳撃は気人間のオーラを突き破り、炸裂する。爆裂する。何もかも吹き飛ばす――!
 爆風が晴れた後には微かなオーラの残滓が空へと溶けて、それがケルベロス達の勝利の証となった。

 荒れた河原を修繕、掃除を終えた後、ケルベロス達は少年の様子を見に行った。
 事情を説明すると、彼も屈託なく礼を言う。
「何かを達成するには修業は大切だ。諦めないで頑張れ」
 銀河も剣技を磨くのに多くの時間を費やした。この少年も修行をしたという事が、後の夢や何らかの経験になったら、という思いを込めてのエールだ。
「ここに“気”が使える先生達がいるから見せてもらえ、少年」
 な、とライが目配せをすると、真っ先に歩み出たのはマーシャである。
「時代劇を見て、幕末を知る事こそ覚醒への近道! がんばれ! がんばれ!!」
 と、少年にあふれんばかりの凄い幕末オーラを触れさせる。なんか甘い。
「オーラを使う技は何人もいたわね。そういうタイプは体そのものを名刀や神器に匹敵する武器として扱っていた。武器を操るあたしにはとても眩しく映ったわね」
 フレックはこれまで出会った達人達との思い出を語り、少年は目を輝かせて耳を傾ける。
「やっぱり、気合にはエロスが重要だと思うわ! 修行回は、無駄に脱ぐものだもの!! そう、露出成分が足りないのよ!!!」
「脱ぐ……ありのままの姿……そうか、俺に足りないもの……そういう事だったのか!」
 イーリスの明らかに偏った意見ではあるが、少年は何かを掴んでしまったようだ……!「学校の裏山とて、一人で山を登るのはよろしくない。次に何か起きた時、一人では対処しきれないだろう。気をつけてくれ」
「これからは河原の近くでやるし学校の同志も連れていくぜ!」
 悠雅の忠告は通じるも、恐らく後日には河原で半裸の少年達がひたすら気合を溜める光景が。しかもかけ声がくぁ~とかだったりした日には。
「語るのは不得手だ……ゆえに、修練した技を見せるとしよう」
 未来のケルベロスかもしれない少年。その夢のために、ヒエルは改めて気を纏う。穏やかさと力強さを合わせ持つ洗練された本物の気に、少年もいつかその背へ追いつきたいと打ち震えている。
 格好いい奥義名を考えたり気合を溜めたり。少年は彼らと共に、これまでにない充実した修行をこなす事ができたのだった。

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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