とある少女の絶対理論

作者:七凪臣

●抜け駆けは絶対悪
 今は使われていない旧講堂。裏にある通用口の扉の鍵が壊れ、自由に出入りが出来る事を少女たちは知っていた。
 木と黴の匂いが満ちた空間に、カーテンの取り払われた窓から月の光が差し込む。
 そんな中。
「茜、これは酷い裏切りなのよ!」
 呆然と立ち尽くす少女を、壇上から少女であったものが糾弾する。
「おかしいとは薄々思っていたの。浴衣の袖から覗く腕とか、着圧ソックスのおかげだよとか言ってた足とか!」
「ちがうの、聞いて! 琳っ」
「いいえ、違わない! 違わないのよ、茜っ」
 基本は白。でも首周りのもふっとした部分は濃紺で、ついでに背中にちょっぴり赤い部分がある――とどのつまりがセーラー服っぽい柄になった羽毛をばっさばっささせ、『琳』は『茜』の懇願を一刀両断に処す。
「私、見ちゃったのよ。あなたがこの間、保健室の体重計に乗ってこっそり喜んでたの! あなた、夏休みにダイエットしたでしょう!? 痩せたでしょう!? ずっと一緒にぽっちゃりでいようって約束してたのに!!」
「そんなに痩せてないよ! そもそも、元々ぽっちゃりじゃない――」
「いいえ、いいえ! 私もあなたもぽっちゃり仲間だったのよ! だったのに、あなたは抜け駆けしたの! 痩せたの! それは、女の友情を裏切ったのよ、それは絶対に許されない事なのよ!!」
 だぁんと舞台を蹴り、茜の眼前にふわっと着地した琳は、梟のように鋭い爪で、憎らしいほどすっきりしている二の腕の肉を削ぐ。
「えぇ、えぇ。すぐには殺さないわ。お望み通り、もっともっとダイエットさせてあげるから」

●乙女心と秋の空?
 体重とは、女性にとって永遠に胸煩わせるものの一つである。
 些細な変動で一喜一憂し、時には多少無理なダイエットに挑戦したりもする。
 それが思春期の少女であればなおの事。実際にはぽっちゃりさんではないのに、人よりちょっと重いだけで悩んだり、羨んだり、悔んだりあれこれ忙しい。
「少しぽっちゃりしてるくらいが、健康的で良い気がするんですけどね」
 ――いや、それ。気にしてる女子にとっては禁句みたいなものだから。
 そんな内なる声のツッコミに気付いた風は一切なく、こちらも思春期真っ盛りなリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は一つの悲劇について語り出す。
 事が起きるのは、とある高校の旧講堂。
 夏休みの間に痩せた友人に嫉妬した琳という少女が、ビルシャナを召喚して復讐を願い。それが果たされればビルシャナのいうことを聞くという契約を結んでしまったのだ。
 復讐の対象は、中学生の頃に出逢って意気投合した茜という少女。
 このまま茜を殺めてしまえば、琳は身も心もビルシャナになってしまう。
「皆さんにはこの悲劇を止めて欲しいのです。茜さんの為にも、琳さんの為にも」
 幸い、現場となる旧講堂へは問題なく到着できる。使わなくなって久しいので、警備員も近付かないし、夜という時間帯なおかげで他の生徒や教師たちの姿もない。
「皆さんの到着に気付いた琳さんは、まずは皆さんを排除しようとします。復讐はゆっくりじっくり果たしたいようなので。けれど自身の敗北が濃厚になった場合は、茜さんを道連れにしようとするかもしれませんから注意が必要です」
 一番安全なのは、茜を旧講堂の外に出すこと。
 けれど使用できる通用口は一つ。さすがにそこを琳が易々と明け渡す可能性は低い。思い切り気を引けば、可能性も出て来ないでもないだろうが。
 そして。
「通常、ビルシャナと融合してしまった人物は、基本的にビルシャナと共に死んでしまいます。ですが、もしも琳さんが心の底から『復讐を諦め契約を解除する』と宣言したら。ビルシャナを撃破した後に、彼女は彼女として生き残ることも不可能ではありません」
 思春期の少女の夢見度とか、思い込み度はとっても激しい。
 故に、説得は決して簡単にはいかないだろう。だが、可能性はゼロではないのだ。
 乙女ならではの理論、自分の経験談、もしくは乙女心に即した訴えが琳の心に響けば――。
「まだまだ彼女たちの人生はこれからなんです。大人になれば、今回の件だって青春時代の黒歴史とか笑い飛ばせるようになると思うんです。ですので、皆さん」
 宜しくお願いします!
 自分ではいまいちわからない乙女心をすっかり棚上げし、リザベッタは琳と茜の運命をケルベロス達へ丸っと託した。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
月織・宿利(ツクヨミ・e01366)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
クラレット・エミュー(君の世は冬・e27106)

■リプレイ

●チャンスは一瞬!
 その登場は、完全に琳の意表をついた。
 たん、たん、たんっ。
「……え?」
 華麗なバク転で旧講堂を舞ったセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)に、琳はきょとーん。
 その心の空隙に、繰空・千歳(すずあめ・e00639)は先制パンチを叩き込む!
「ねぇ、もち麦ダイエットって知ってる? お米をもち麦に変えるだけ。食事制限も運動ノルマもなし。知りたくない?」
 食感も楽しいもち麦ダイエット。度肝を抜かれた所からの気になる話題に琳の心は釘付け。
 これこそ茜を逃がす絶好のチャンス!
 そう判断した霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)は琳を刺激しないよう、そっと茜に近付き、そーっと逃がそうとして――。
「今です! 一瞬が勝負です!」
 横から茜の体を疾風怒濤な速さで月織・宿利(ツクヨミ・e01366)に搔っ攫われた。いや、どっちかが救出に成功すればいいから、結果オーライ☆
 ともあれ通用口へ消えた茜を見送り、奏多はガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)と哀愁混じりの視線を交わす。
 三十路と五十路のおじさん同盟にとって、乙女心は謎だらけ。
(「雲を掴むに等しいな」)
 そんなわけでガイスト、乙女心を解する為に直前まで読んでいたダイエット本を、被る陣笠の中にそっとないない。

●響け、乙女心!
 事態を飲み込めてない茜を外へ放り出した宿利は、取って返して旧講堂内を降る星となる。
「茜ちゃんを手にかけてしまったら……きっと貴女は後悔するんじゃないかしら?」
 私、琳ちゃんもとても素敵な子なんじゃないかなって思うの。
 それにまだ私たちは背も伸びるし、心も身体も成長する時だと思うから。
「ダイエットや自分の見た目に、どうか囚われ過ぎないで?」
 跳躍から着弾までの間に、宿利せつせつ。そして追ってキラキラ綺羅星と化したハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)も説く。
「彼女は……裏切ったわけじゃないと……思うの。あなたといっしょに、もっとお洒落や女子活……してみたかったんじゃないの、かな」
 白と蒼の装飾が目も綾な聖職者服を靡かせ、白翼で空を切った白薔薇の少女は、言葉と蹴撃でもふもふセーラーカラー貫く。
 大事なのは、今の琳の体形を否定しないこと。実際がどの程度なのかは、外見ほぼビルシャナなせいでわかんないけど。そしてなんやかんやの間に、アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)も、戦闘序盤の大定番をもう一発ダメ押しどかん。
 派手に決まった先手の様子を見守り、バク転モードから体勢を整えたセレナは乙女座の(乙女座!)星辰を宿した白銀の騎士剣を足元へ滑らせる。
「例えば頑張って勉強をして良い成績になって。あまり勉強をしなかった友人に、それは裏切りだと責められたら、どんな気持ちになりますか」
 ふわり、ケルベロス達の前衛を守護星座が発する光が包む。
「先程のバク転だってそうです。鍛錬しなければ出来ない事ですが、努力すれば出来るようになる可能性はあるのです」
「むぐぅっ」
 畳み掛けられた正論に、琳の唇っていうか嘴がムゥと尖った。そのタイミングで、構築した雷の壁を何処に展開するか迷っていた奏多は、セレナと効果被りを避けて自分達最後列へその加護を宿す。
 直後。
「時に乙女心は正論を凌駕するのよー!」
 自棄を起こした琳は翼っぽい両手をばたつかせ、生んだ火炎を適当に投じた。期せずして向かった先はアリシスフェイル。まだ、何も言ってないアリシスフェイル――けれど。
「可愛い友人を傷付けさせはしないのよ」
 ガトリングガン型の左腕を即座に盾へと変じさせた繰空・千歳(すずあめ・e00639)が割って入り、紅蓮の炎を我が身で受け止める。そして千歳、削れた体力を気力で補いつつ、傍らからルルン♪ と走ったミミックの鈴(ぱっと見、鏡開きの酒樽)の攻撃がびしぃっと琳を穿ったのを見て、気付いた。
「少々前のめり気味ではあるまいか」
 千歳が思い至ったのと同じセリフを、どちらかといえば前のめりが専売特許なガイストが呟く。このままだと説得が終わる前に琳を倒してしまいかねない。ならば少し勢いを落とそうと――ただし琳にそうと悟られぬよう――ガイストは敢えて命中精度の低い技を放ち、今は敵対する少女の足元を穿った。
「まぁまぁ、頭ごなしはいかん。頭ごなしは」
 別に仲間を諫める意味ではなく、ゆったりマイペースでクラレット・エミュー(君の世は冬・e27106)がビハインドのノールマンを伴い半歩出る。
「まずは琳の話を聞こうではないか」
 なぁ、ノーレ。
 ゆるり構える女に、クラシカルな看護師姿の少女もこくり頷く。

 はぁ、と女たちが顔を見合わせ頷き合う。
 女の子に生まれたからには、から始まった琳の訴えは、どれもこれも一般的な乙女の悩みばかり。結果、ケルベロスだって女性なのには変わりない面々は、同意しまくったり、身につまされたり。
 しかーし。
(「そう……乙女にプロポーション維持……必須だもの、ね。わたし……いっぱい食べるけど。太らないから……忘れて、た」)
 !?
(「毎日鍛錬をしているとお腹が空くので、私は食事は沢山摂る方なのですが。別にダイエットを考えた事は無いんですよね」)
 ……。
 前半、ハンナ。後半、セレナ。賢明な彼女たちは、心の声は心に留めた。だって音にして外に発したら、琳だけでなく色んな人に怒られそうな予感がしたんだもの。OK、正しい判断だ。
 序に声に出したらヤバいと言えば武骨おじさん――もとい、ガイスト。
(「何故、『ぽっちゃり』では駄目なのだ?」)
 人にはそれぞれ見合った体形がある。ならば第一なのは健康。好きなだけ肉を食べて楽しい筋トレ生活をお薦めしたいと思いはするが、乙女心は解さずとも女性陣の気迫は察する漢は只管無言を貫く。怖いし。
 けれど。
(「鍛錬を積めば自ずと身体は引き締まるが、ついた筋肉で重くなる。だいえっとと鍛錬は違うのか……女人は心が美しくあれば良いと思うのだがな……難しいものだ」)
 なんてガイストの思考を読んだように、アリシスフェイルが口火を切った。
「あのね、茜を削いだところで自分が痩せるわけじゃなし。自分がより美しくなって見返してあげた方が、美しい自分も手に入るのだし楽しいんじゃないかしら?」
 殺める以外の復讐方法を挙げた女は、尚も続ける。主にガイストが回避した方面のネタを。
「茜と一緒が嫌だというのなら、私と一緒に体を動かして……というのはどうかしら。私の体型が結果よ、自信があるわ」
 ――アリシスフェイル、細身の体躯をずずい。確かに妖精族な彼女のスタイルは、琳にとって憧れそのもの。
 しかもアリシスフェイルは言った。暴飲暴食はいけないけど、食事制限だけで痩せるような無茶なダイエットはお肌にも良くないからさせないと。但し、
(「私は運動というより、戦う為の基礎鍛錬だけど。一般女子にはキツイかもしれないけど……」)
 詳細はさらっと濁して。
(「まぁ、健康的に痩せるし……手加減するし……」)
 手加減。この言葉を琳が聞いたら、即効反目したに違いない。されど狡猾な罠にかかった乙女は、美味しい誘いにちょっと乗り気。
「え、え……そこまで言うなら」
「もし琳ちゃんが興味あるなら、私のお稽古のトレーニングも伝授しますよ。その方法はね――剣で斬って斬って斬りまくるのよ、こんな感じに!」
 鍛錬の流れに合わせ、宿利も早速実演。ざくざく琳に斬り掛かる!
「ほら、体幹も鍛えられて、ストレス発散にもなるのよ」
 一緒にわふわふしたオルトロスの成親と、宿利がいい笑顔をみせれば、痛みに襲われた筈の琳も妙に納得顔。だってこの説得、ちょこちょこ戦い乍らの合間だし。ご都合主義でも気にしない。
「わたしね……家庭用ゲーム機の、フィットネス運動ソフト……やってるよ。とっても効果ある、よ」
 淡々ハンナもさり気なくおススメ。琳、どれを択んだものかと小首を傾げた。
 その瞬間だった。クラレットが突然、琳のお腹をぷにっとしたのは!
「ひゃっ!?」
「いや……うん、まあ、大丈夫だ」
 何事か!? と目を剥く琳を、クラレットは「まぁまぁ」と宥める。
「抜け駆けは確かに宜しくないが。私は夏にダイエットは得策ではないと思う。私の経験談だが、食欲の秋を前にしてそのままでいられると思うかね? プラス2キロは確実だ」
「それと私のお腹と何の関係がっ」
「私は医者だ、お嬢さん」
「!」
 お医者様。その一言は絶大な威力となって琳に響いた。
「友人と食事などへ行けば、季節限定の美味しいものを食べてしまうだろう。ならば楽しい秋を過ごしてから本気を出してよいと思う」
 医者になってからは乙女心はとんとご無沙汰なクラレットだが、語りには重みがある。例えば、友と美味しいものを食べる以上の楽しいことなど少ないとか、夜更かししてポップコーン食べつつ映画を見ちゃって寝坊した翌日の朝ごはんも良い思い出だとか。
「美味しいものを愉しく食べる。分かち合える友がいないと逆に太るそうだ。これは医者の肩書に誓って本当だ」
 クラレットの宣誓に、琳の喉がごきゅと鳴った。タイミングを見逃さず、千歳も乙女心を煽りにかかる。
「私も最近ダメで。秋ってなんで美味しいのかしら」
 隣にいる友人が痩せてたら焦るのも道理。努力に限るのは分かっていても進まぬものは進まぬ。
 同意を示し、琳の倍近く生きている女は言い含める。
「どうせ仕返しするなら、お互い得する方法にしてみない? 茜の痩せた秘密を教えて貰って、二人一緒に励んで。それで茜よりも痩せて綺麗になって見返しましょうよ」
 ずっきゅん。琳のハートに運命の矢が刺さる。
「そうよ! 食欲の秋だもの。美味しいものを食べたいじゃない! 我慢したくないわ!」
 身を乗り出し言うアリシスフェイルのスタイルをもう一度見た琳の目が輝いた。
 ここぞまさに契約解除を促す時! 確信し、女性陣に成り行きを託していた奏多が口を開く。
「今の毛並も良いかもしれんが、人間の男としちゃ。元の嬢ちゃんの方に興味があるんだがなぁ」
 お洒落に興味があって、可愛くいたくて、そこに努力が加われば、将来は期待大。
「俺はそんな女の子を――そんなお前さんを、見てみたいがね」
 この時、奏多の背中にはアリシスフェイルの視線がずばずば刺さっていた。かなくん、浮気? いやこれは契約解除の誘いであって断じてナンパでは無いし、浮気でも無い。断じて無いぞ。
 醸し出されるリア充空気。ともすれば琳を刺激しかねない危険な気配。けれど、運命は予想外の方向へ転がった。
「えー……お誘いは悪い気しないけど。私、おじさんには興味ないし」
 ――沈黙。
 というか沈痛。ガイスト、心で合掌。
 そーなのだ。どんなにぴちぴち二十歳の可愛い恋人がいても、奏多は三十路。じょしこーせーからすれば立派なおじさん。おじさんから粉かけられたら、どん引きして激情諸々忘れて冷静になるってもんだ!
 思わぬ展開だが、琳が完全に理性を取り戻したと超的確に判断し、ハンナが運命の糸口を掴む。
「一緒に痩せたいって、思ったら……努力は実るって、彼女は、あなたを勇気づけたかったんじゃないかしら。だいじょうぶ。いまならまだ、間に合うから……」
 今なら正論も通じる。信じたハンナの優しい言葉に、琳の口元がもにょと緩む。
「ダイエットに成功した友人を羨む気持ちもあるのでしょうが。本当は約束を破られた事よりも、黙って隠されていた方が悲しかったのでは?」
 セレナも琳と茜の友情を取り戻そうと、言い連ねた。
 結果。
「うーん。なんか考えるの面倒になってきたし。見返しもしたいし、けど美味しいものは一緒に食べたいし! 私、契約解除します!!」
 じょしこーせーなノリだけど、気持ちは本物な誓いをケルベロス達は引き出すに至り。
(「乙女心はわからぬな。秋の風に喩えられるのも、さもありなん」)
 よーやく我慢から解放されたガイストは得物を構える。
「――推して参る」
 冴えた剣閃。劈く太刀風より生まれた翔龍は、ガイストのもやもやごとビルシャナの喉首に牙を立てた。

●明日から本気出す
 友達に裏切られた気持ちになるのは、悔しいし、きっと悲しい。
 痩せたい気持ちも、ずっと一緒という気持ちも。誰にだってあるもの。
(「琳ちゃんの気持ち、解る気がするの」)
「華よ、散るらん」
 琳が普通の少女に過ぎない事を実感しつつ、宿利は慈愛の心でもってビルシャナの心臓を突く。溢れた血が、末期の花のように散る。
 駆けた成親が、刃で羽毛を裂く。白い背中を追ってハンナも百合の聖杖を構えた。
「雪白の羽根が誘うは――」
 歌うが如き詠唱に、杖に込められた魔力と白翼に宿るグラビティ・チェインが呼応し、白百合と紅月の世界へ敵を囚え、毒に浸して永久の眠りを誘い。主に従う翼猫のインヴィディアも鋭い爪でデウスエクスの命を削る。
 元より戦力は十分。憂いが晴れれば、局面は急展開。それだけの布石も万全だった。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士として、あなたを救ってみせます!」
 ――あなたに鳥の姿は似合いませんよ。元の姿の方がきっと素敵です。
 溌剌と笑い、セレナは一族に伝わる剣技の奥義を琳へ見舞う。夜空に浮かぶ月を思わせる軌跡に、無数の羽が舞い散った。
「ここまでちゃんと耐えて来たものね」
 説得中も絶えず配慮し、セレナや成親と共に盾役を果たした(果たしてたのです!)千歳も心置きなく走り、空絶つ斬撃を足技として放ち。転がるように走る鈴も具現化した酒瓶をぽぽいとデウスエクスへ放る。
 幾つも受けた痛み。心騒がすものもあった。
「でも、トラウマなんて見てたまるものですか。振り切って自分の足で立ってこそ、いい女っていうものでしょう?」
「っ」
 余談。鳴り響く鐘の音をものともしない千歳の凛然とした姿に、宿利が肩を震わせたのは何をか見っちゃったせい。美味しいお夜食とか、幼馴染が誘ってくるせいっ。お稽古した後だし、きっとお肉にはならな――。
 最後まで乙女は葛藤。それに気付けぬ男性こと奏多は仲間を支援した(してたのです!)銀を媒介とした魔術で此度は敵を貫き、
「――柩の青痕」
 浮気してない恋人の余韻を継ぎ、アリシスフェイルは朗々と紡いだ殲滅の魔女の物語の一節より編んだ棘の槍で、琳の憑き物を穿ち。元祖乙女心謎人ことガイストはふらつく敵を聖なる左手で掴み、闇の右手で命の大半を粉砕せしめ。
「これで大団円だ。なぁ、ノーレ」
 変わらずビハインドに甘く微笑むクラレットの雷にて、滅ぶべきものは滅び去ったのだった。
 かくてケルベロス達は帰路につく。
「私、明日からダイエット頑張りますね」
 そんな大定番の琳のお約束をお土産に☆

「矢張り、乙女心は解らん」
 byガイスト。奏多、無言でこくこく。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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