●お祭りムードの隅っこで
可愛いオバケや南瓜の飾りつけ、お菓子や贈り物のパッケージまでハロウィン仕様。
家族や恋人、友人達と楽しく過ごす者も少なくない。子供も大人も様々な仮装に身を包み、パーティーを開いて盛り上がるのだ。イベントの、浮わつく空気に包まれた街の中。
――その片隅で。
(「いいなぁ……私も行きたいなぁ。でも――」)
厳格な家庭環境。一人っ子。真面目な彼女をパーティーに誘ってくれる友人もいない。
(「賑やかなのは好き。だけど、飛び込む勇気がない……」)
(「仮装行列に参加して、『トリック・オア・トリート』って言ってみたいなぁ……」)
子供の頃からのささやかな夢は、叶う事無く、今は気恥ずかしさの方が先に立つ。
思わず溜息を吐いた少女の歩みの先に、赤い頭巾の少女の姿が在った。
――二人、すれ違う。その瞬間。
とん、と赤い頭巾の少女の持つ鍵が、対面の少女の胸を突いていた。
心臓を穿たれた少女は何が起きたか解らぬままに、意識を失い、その場に崩れ落ちた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか」
赤い頭巾の少女が呟く。
「その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
倒れた少女の傍らに、いつの間にか白いシーツが佇んでいた。
明滅するカラフルな電飾を身体に巻きつけたオバケシーツの仮装姿で、ひらりと裾からモザイクの足を覗かせる――少女の夢から生まれたドリームイーターは、程なく、ふわりとその場から姿を消したのだった。
●ヘリポートにて
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんの調査により、日本各地でドリームイーターが暗躍しているらしい事が判りました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)曰く。
出現しているドリームイーターは、ハロウィンのお祭りに対して劣等感を持っていた人の夢から生まれ、ハロウィンパーティーの当日に、一斉に動き出す様だ。
「ハロウィンドリームイーターが現れるのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場――つまり、鎌倉のハロウィンパーティーの会場です。どうしても後一歩を踏み出せない少女の夢が形を纏った様な姿で『夢』だけがパーティーへ……なんて、皮肉が過ぎます」
先に述べた予知の内容に触れ、ふと眉を寄せたセリカだったがすぐに本題を口にした。
「皆さんには、実際のパーティーが始まる前にハロウィンドリームイーターの撃破を、お願いしたいのです」
ハロウィンドリームイーターは、パーティーが始まると同時に現れる。
「ですので、パーティーが始まる時間より早く、あたかもパーティーが始まったかの様に楽しそうに振る舞えば、誘き出す事が出来る筈です」
会場は既にパーティー準備が整っている。その舞台を巧く活用しつつ、自分達でも何か用意をして行くのが良さそうだ。ハロウィンらしいコスチュームや、料理など、楽しく盛り上がる為のあれやこれやを。
そんな説明に次いで、セリカは対象の外見特徴に関する補足を添える。
「敵はオバケシーツの仮装姿をしています。身体に巻きつけた電飾の中にはジャック・オ・ランタンの形をした物もある様ですよ。見た目にも賑やかにあちこち明滅していますが、その辺り、気を付けて観ていると相手の出方も見えて来るかもしれません」
冷静に処すれば何も恐れる事はありません、と一瞬表情を和らげ、彼女は続けた。
「油断は禁物。ですが――無事にハロウィンパーティーを楽しめる様、招かれざるドリームイーターは撃破してしまいましょう。皆さんの手で」
きっと沢山の人が楽しみにしている日だから。
お祭りの日を恙無く、笑顔で迎えられます様に。
参加者 | |
---|---|
アルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148) |
シグナル・ランフォード(赤ノ斬リ姫・e02535) |
ニケ・セン(六花ノ空・e02547) |
レダ・クラシス(名門淫魔清純派・e05828) |
アルストロメリア・オウレン(金ぴか鎧装騎兵・e08102) |
深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454) |
旋堂・竜華(純粋なる真黒の狂戦士・e12108) |
ラギア・ファルクス(白亜の翼・e12691) |
●今日はハロウィン!
パーティ会場に、ハロウィンの仮装をしたケルベロス達が集う。
マントを揺らし、或いはドレスを翻し、はたまた大きな被り物をした頭部を揺らしながら、持ち寄ったお菓子で作るハロウィンタワー。
雪ダルマ頭で霜の精に扮したラギア・ファルクス(白亜の翼・e12691)は2メートル近い上背を活かし、コウモリ、カボチャ、骨の形のクッキーをせっせとタワーに飾り付けている。その下に蠢くパンプキンヘッドは、レダ・クラシス(名門淫魔清純派・e05828)。
誰もが手を伸ばし易い所に吊るした南瓜の籠には、彼女が用意したキャンディとチョコレートが沢山。中には妖しげな味のものも混ざっている様だが、レダ曰く、
「『アタリ』が入っているのだ」
パーティ料理をテーブルに置き、色とりどりのシュークリームを携えてタワー作りに加わるドレス姿の女吸血鬼、旋堂・竜華(純粋なる真黒の狂戦士・e12108)は、くすと艶やかに微笑を零して言葉を連ねた。
「こちらは『ハズレ』入りです♪」
甘いか、辛いか。苦いか酸っぱいか。
並べられて行くシュークリームはカボチャやフルーツクリームの甘い香りを放っているが、悪戯な眼差しには、ラギアも思わず「うむう」と唸る。それは、何だか楽しそうだ。
一層パーティーっぽくなってきた。
「そろそろ始めましょうか」
と竜華が言い、CDプレイヤーの再生ボタンを押せば、ランダムで流れ出すハロウィン用の楽しいBGM。
燕尾服にシルクハットで決めた深鷹・夜七(新米ケルベロス・e08454)が、揃いの帽子を被せたオルトロスの『彼方』を抱き上げ、輝く瞳でお定まりのフレーズを口にした。
「ハッピー・ハロウィン!」
同時に、吸血鬼姿のアルストロメリア・オウレン(金ぴか鎧装騎兵・e08102)が景気良くクラッカーを鳴らして盛り上げる。
(「今日はお菓子を渡すだけの予定が、こんな形で……世の中分からないものです」)
シグナル・ランフォード(赤ノ斬リ姫・e02535)は奇妙な縁に不思議な感慨を抱いていた。電飾で飾りつけた箒とウィッチハット、黒と橙でハロウィンカラーの魔女を装う彼女に、歩み寄るアルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148)は黒ずくめ。
羽織り物こそお馴染みのケルベロスコートだが、肩にこぼれる金髪を隠す帽子も猫付け耳も黒。黒猫は、魔女の使い魔だ。
「お互い、思わぬ形でケルベロスハロウィンに参加する事になりましたね、シグナルさん」
少年は恭しく手を差し伸べ、魔女は微笑んでその手を預ける。
「折角ですから、楽しんで待ちましょう、アルフ君」
頑張りましょうね、との思いを込めて。
そう、これはあくまでも敵を誘き出す為の作戦なのである。
曲に合わせて踊り始める二人。夜七もちゃっかり、オルトロスと一緒に踊る。
仲間達のダンスを微笑ましく見守りながらラギアはタワーの飾り付けを続け、賑わいを増すタワーごと視界に収めたウサミミパーカーのニケ・セン(六花ノ空・e02547)はお茶会の住人と化して、ティーポットと椅子を温めていた。傍らで大人しくじっとしている和柄のミミックに、ネズミの仮装を被せ直し、ふと思い立ち念押す様に覗き込む。
「本当に寝ちゃダメだからね?」
そこへ、帽子の中のお菓子を配り歩きつ踊る様に夜七がやって来た。
「兎さん、お菓子をどうぞ」
「それじゃお返しに、お茶でも如何かな?」
「よろこんで!」
相席するちょうどのタイミングで聴こえて来たのは、夜七が持ち込んだ童謡だ。色んな人が知ってる曲って良いよねと、ニケも笑顔を見せた。
「そこなオバケさんも、ようこそハロウィンパーティーへ」
――ん?
カップケーキには目玉模様をチョコで描き、ドクロに見立てたシュークリームを二人のサキュバスが仕掛けた『ハロウィンの悪戯心』の傍に並べて置く。後は、電飾を飾って完成という所で、不意にラギアは視界で揺れる何かを感じ取った。
「もう一曲踊ったら、お茶を淹れ直しましょう。アッサムのミルクティーを」
アルフレッドが並べて口にする、南瓜のパウンドケーキもお楽しみの一つである。が、
「良いですね。でも、それはもう少し後になりそうですよ」
楽しそうな仲間の笑顔に釣られる笑顔もそのままに、応えるシグナル。はっとした様に、アルフレッドが視線を走らせ、そして、彼らもまたその姿を視認する。
●見間違え様もない
会場の装飾とも、自分達が用意したものとも違う、ぴかぴか賑やかに光るもの。
一人分、増えた頭数。
「あら」
飾りつけた傍からシュークリームをつまみつつ、楽しんでいた竜華が微笑みかける。
「お菓子は沢山用意しましたので、楽しんでくださいね♪」
「一緒にハロウィンタワーを作らないか?」
タワーの影からひょっこりパンプキンヘッド――レダも客人を誘う。さらっと歓迎モードの若干名。しかし、招かれざる客人に対するアルフレッドの視線は厳しい。
「残念ですが、あなたに招待状は出していないないんです」
決して声を荒げる事なく、礼儀正しくも冷淡な響き。いつしか会場に流れ始めた北欧メタルが、彼の気持ちを運ぶ。現れたドリームイーターをもてなすのはお菓子ではなく――、
「『舞え、『Device-3395x』!』」
攻撃用に改修したドローンが、メロディアスかつ激しいリズムに合わせて飛び出した。青く透き通る正八面体が曲に合わせて舞う様にオバケシーツを強襲する。電飾は一瞬、驚いた様にぱっと光を放ち、翻る白。そこからモザイクの欠片がアルフレッド目がけて飛び出すのを見て床を蹴ったラギアは、前身に構えた刃に雷を宿し、間に割って入る勢いのまま空を裂いてオバケシーツへと肉薄して行く。
「きらきらふわふわと、素敵な衣装だ。――だが!」
その姿を褒めた次の瞬間には、ふわふわとしたそ身体に刃が届いている。シーツを裂く手応えなど有って無きが如し、憤りは弥増すばかり。手応えの無さにではない。いたいけな少女の夢が、利用された事に対する怒りだ。
「この場所に、おまえの様な本物のモンスターの居場所など無いっ!」
猛る感情を隠しもせずに、目の前のデウスエクスに躊躇無くぶつけるラギア。次いで閃く白刃が、続け様にオバケシーツを切り裂いた。
「グラビティ・二刀斬霊波!」
機動殻『赤斬姫』を纏ったシグナルが、左、右と追撃を重ねて行く。
前に出て戦う仲間達の支援の為に、ヒールドローンを飛ばしたアルストロメリアは戸惑う様にぴかぴかしている電飾を瞳に映して目を細めた。シックに抑えていた仮装の下には、金ぴかの武装が息を潜めていたが、今やその全てを曝け出している。いわば彼女の趣味全開。
「キラキラぴかぴか、いいよね♪ 折角趣味が合いそうなのに……残念だよねぇ」
如何にも残念そうに口にする。
しかし、倒す。
致し方なし。
容赦もしない。
皆が楽しみにしているハロウィンを護る為。それは、シグナルの願いでもあった。
「ちゃんと本体さんと一緒に来れるよう――」
――此処で殲滅する。
「おや、始まっちゃったみたいだね」
「! むぐ……!」
思ったより早かったなと落ち着き払っているニケとは対照的に、焦ってお菓子を胸に詰まらせながらも夜七は席を立った。ネズミの衣装(かわ)をすぽんと脱ぎ捨て、先んじてニケのミミックが茶会を飛び出し仲間の元へと走る。その間に、お茶でお菓子を流し込む夜七。
「――さぁ、お相手願おうかな!」
気を取り直して刀に手をかけ、鯉口を切る音を響かせるや、彼女のサーヴァント、彼方が神器の瞳で敵を睨めつけた。ほぼ同時に、ニケが掌から放つ竜語魔法――ドラゴンの幻影と共に走る炎は夜七の剣閃が生み出す風の軌跡。次の瞬間、炎に包まれるオバケシーツ。
その炎上は、雷の如き速さで疾る彼女の一撃が置き去った炎を、彼方とニケが敵許に届けた様にも見えた。
炎の中で、オバケシーツは裾をばたばた揺らしながら電飾を激しく点滅させる。
――前兆か? それともただ慌てているだけか?
注意深く観察しながらニケは、反撃に備えた。
●ひらひら、ちかちか
大きく裾を翻して迫り来るモザイクの口に、ラギアは迷わず向かって行く。
仲間を護る為、背後に在るすべてのものを護る為。そんな彼の目の前で、負けじと大きく口を開いて武器を具現化しようとしていたミミックが、シーツの裾に飲まれた。
「ああ……!」
相棒をもぐもぐされるニケの悲鳴を背中で聞きながら、ラギアはすかさず転進。刃を振り抜き、斬り返す。次いでやや離れた場所から聞こえて来るアルフレッドの古代語詠唱、間を置かず光のラインがオバケシーツ目がけて宙を奔った。再び明滅する電飾。タイミングから見て、これは意味のない物だとシグナルは断じて刃を振り下ろす。
彼女が攻撃する度に口にするグラビティ名に続く、竜華の声。
「私の鎖からは逃げられません!」
ひらひらボディを締め上げる猟犬縛鎖の鎖の端を抱き締める様にして、恍惚の表情を浮かべている彼女。
(「どうやら、巧く、往なしているらしい」)
レダが見る限り深刻な状況には程遠い。ならば、と彼女も攻性植物を援護に差し向けた。捕食形態――ハエトリグサが、オバケシーツに喰らいつく。敵は1体、早くケリが着くならそれに越した事はない。
夜七の唇から歌が零れ出るのは、余裕の表れか。それとも――。
幾らパーティーのお客さんでもデウスエクスはお断りだと、彼女は走りながら再び鞘に収めていた刀を、踏み込みと同時に抜刀、鋭い呼気と共に吐き出す想いと刃を叩き込む。
(「ここに来るのはやっぱり、一歩踏み出した『彼女』じゃなきゃ!」)
『夢』を吐き出した少女の事を想えばこそ、それを台無しにする様なやり方を夜七も許せない。
「畳み掛けましょう」
シグナルが言う。
刹那、オバケシーツの電飾が再び不穏な挙動を見せた。
「これは、――先程とは違います。皆さん、気を付けて!」
「シグナルさん、そちらも気をつけて!」
飛び交う喚起の声。
射出されるモザイク。ラギアが即座に対応できない方向、その射線にアルフレッドがかち合った。腕に絡めたケルベロスチェインを自在に操りモザイクを弾こうとした彼だったが、運悪く逸らし切れずに肩口に衝撃を受けて半身を反らす。眩暈。
気遣わしげな仲間の声に、打たれた方の手を挙げて応える。
「た、大した事はありません。ただ――」
うっかり手が滑りかねない。
「大丈夫、すぐに元通りだ。それより、奴を見ろ」
レダに促され、一同の意識はドリームイーターへと再び集中した。
ひらりひらりと揺れるシーツの足元に、ちらりちらりと覗くモザイク。あからさまに勢いがなくなりつつある。確実に、弱っているのだ。
「と、いう事は♪」
実に愉しげな竜華の声に、何人かが続いた。
「次で」
「トドメ、ですね!」
声に出すまでも無かった。が、彼らはその瞬間、確かに一体となっていた。
早く、終わりにしよう。
「あなたの魂……私が喰らい尽くしてあげる♪ ――『全て燃えて砕け!』」
艶然と微笑む竜華の言葉と共に、真紅の炎を纏った鎖が現れ出で、八方からシーツを串刺した。トドメとばかりオーラを纏う剣で切り裂く彼女に、仲間達も一撃、また一撃と加えて行く。明滅する電飾が、その度に一つずつ砕け散る。
レダが放出する桃色の霧に包まれたアルフレッドは弾かれた鎖を根限りオバケシーツに絡めて、吊り上げた。締まって行くのは首の辺りか。電飾がちぎれるのも構わず、床に叩き付ける。何度も、何度も。
最後に残ったのはぼろぼろの、布くずだけ。
そんな憐れな姿にも彼らは一片の情けもかけなかった。
●さいごのさいごに
「本当のキミを待ってるから、勇気を出してここにおいで」
消え往く者に掛けるラギアの声と表情は何よりもやさしい。
突き立てられた刃の下でオバケシーツが消えて行く。……否、ハロウィンの飾り付けへと変化するのを、夜七は見つめていた。カボチャ型の電飾に指を伸ばして、彼女は呟く。
「……この想いの向こうにいる、君は誰なんだろうね」
「我慢せず、ちゃんと、自分の意志で、愉しめばよいものを」
まだ若いのに、と零して残念そうな顔をするレダ。ニケも被害者を思う。
「これで彼女も目覚める、のかな」
「彼女も、パーティーに来れると良いですね」
「是非ともお誘いしたいですね♪」
シグナルや竜華の口から飛び出す前向きな言葉を聞きながら、夜七はそっと祈りを捧げた。少女が一歩を踏み出せます様に、と。
――とにもかくにも任務完了。である。
会場にヒールをかけ、戦闘の後片付けを手早く終えた一行。
「パーティーの続きを愉しもうか」
と、レダが言い出し、アルフレッドがそれに乗る。
「今度こそ、お茶を淹れ直しましょう」
「まだ、菓子も沢山残っておるしな!」
そして、レダは悪戯っぽい笑みを浮かべて『アタリ』入りのお菓子が詰まった南瓜籠を、ずずいと仲間に差し出したのだった。
作者:宇世真 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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