海水浴は夏だけのものだと……いつから錯覚していた?

作者:青葉桂都

●秋こそ海水浴の季節!
 9月に入り、風も少しずつ冷たくなってきていた。
 シーズンも終わり、もう訪れる者もいなくなったとある砂浜で、水着の男女が10人ばかり集まっていた。
 彼らの前に立つのは、ブーメランパンツを身につけた異形の男。
「夏が終わると、誰もが海水浴の季節は終わったという。だが、よく考えてみるがいい」
 水着のビルシャナはゆっくりと語りかけた。
「海は常にここにある。泳げるのが夏だけなどということは、愚かな人類が勝手に決めつけているに過ぎないのだ」
 大きく両手を広げるビルシャナ。
「泳ぎたいと思ったならば、そのときが夏! 暦が秋だろうと冬だろうと、我らが夏だと思えば海水浴シーズンは終わらない! それこそが真理なり!」
 歓声があがった。
「その通りだ! 海を俺たちの手に取り戻せ!」
「私たちには泳ぐ権利があるのよ!」
 褐色に日焼けした信者たちが、口々にビルシャナをほめたたえる。
 そして、彼らはもう冷たくなっている海へと飛び込んでいった。

●秋の海は冷たい
「大変であります。もう9月なのに、海で泳ごうとしている方々を見つけてしまったのであります」
 尾神・秋津彦(迅狼・e18742)は集まったケルベロスたちにそう告げた。
 鎌倉奪還戦からはもうずいぶんと経過しているが、ビルシャナ大菩薩の光はいまだに新たなビルシャナを生み出し続けている。
 今回秋津彦の調査で見つかったのは、海水浴は夏だけのものではないという悟りを開いたビルシャナだった。
 ケルベロスたちにビルシャナを倒して欲しいと、秋津彦は告げた。
「ビルシャナは人気のなくなった海水浴場で信者を集めて布教活動を行っております。放っておくと、みんなビルシャナの配下になってしまうのでありますよ」
 ケルベロスたちがビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある演説を行えば、彼らが配下となるのを防ぐことができるだろう。
 なお、単に正論を語っても彼らは聞く耳を持たない。あくまで重要なのはインパクトだ。
「配下にされてしまうと、信者たちはサーヴァントのような状態になって戦闘に参加するのであります」
 強くはないが、数が多いので苦戦することになるだろう。
 その後、秋津彦の後ろに控えていたドラゴニアンのヘリオライダーが、敵の戦力について説明を始めた。
「ビルシャナはまず、破壊の光を放って範囲攻撃を行うことが可能です」
 光を浴びるとプレッシャーを感じて、攻撃が当たりにくくなってしまう。
 他に孔雀の形をした炎を放つ単体攻撃もできるようだ。
「また、津波を呼び寄せ、波に乗って突撃してくることもあります」
 波と一体化したかのようなその動きは、的確にケルベロスを追尾してくるだろう。
 説得に失敗した場合、10人いる信者たちとも戦うことになるが、彼らは殴りかかって来たり、ビーチボールなどの道具を投げつけて攻撃してくる。
 サーヴァントのような存在となっているため、弱いがケルベロスにも傷をつけることができるだろう。
「彼らは10代後半から20代前半の若者たちです。海で焼いたのか、全員日焼けしています。まだ遊び足りないためか、ビルシャナの言葉に共感してしまっているようです」
 体力はあっても金はなさそうなので、泳げそうなところまで旅行に行くことはできないのだろう。
 現場となる海水浴場には、もう彼ら以外の利用者はいない。無関係の者を巻き込む心配は、あまりしなくてもいいだろう。
 ヘリオライダーが説明を終えると、最後に秋津彦が口を開いた。
「残念ながら、ビルシャナにされてしまった人はもう救えません……でも、信者たちは、まだ助けられるのであります」
 これ以上、被害を出さないためにも、力を貸して欲しいと、彼はケルベロスたちに告げた。


参加者
天矢・恵(武装花屋・e01330)
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)
コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)
尾神・秋津彦(迅狼・e18742)
ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)

■リプレイ

●秋の砂浜を抜けて
 浜辺の端に降りたヘリオンから、ケルベロスたちはビルシャナが演説しているはずの現場へと急いでいた。
「最近寒い日も増えてきて面倒だってのに…海入りたいとかどうなってんだ……。はぁ……さっさと終わらせよう。隣の姉貴が変なこと言い出さないうちにさっさと行こう」
 ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)のダルそうな言葉に、黒髪の少女が口の端を上げた。
「あら、別に変なことなんて言うつもりはないわよ。……こんな時期に海水浴ねぇ。入る気はないけど、冷たくないのかしら? まぁ、なんでもいいわ」
 落ち着いた様子で、ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)が言う。
 並んで走る2人の間に、仮面のレプリカントが割って入った。
「残暑を感じる時もありはしますが、最近は秋の気配が強まってきました。そろそろ夏の行事は終わりとしましょう」
 彼女たちの保護者を自認するコスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)は淡々とした口調で告げた。
 並の人間には走りにくい砂浜も、ケルベロスにとってはさしたる障害ではない。
「寒くっても泳ぎたいの? なんでだろう。案外ビルシャナは羽毛で寒くないのかなー。泳ぐ時水弾いちゃうとか」
 病弱だったアウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)には、とても理解できない考えだった。もちろん、彼女だけではない。
「海が好きといっても、海水浴は夏だけで十分だろ」
 天矢・恵(武装花屋・e01330)の声には呆れが混ざっていた。
「もちろんであります。こんな季節に海水浴など……死人が出る前に止めねば」
 尾神・秋津彦(迅狼・e18742)は真剣な声音で言った。
 強い使命感にかられた彼は、ビニールプールと手近の店で調達した氷の入った袋を担いでいた。
 ケルベロスやデウスエクスならば、もちろん秋どころか真冬の海でも泳げるだろうが……信者たちは果たしてどうなのか。
「いた……あの人たちだよ」
 普段よりちょっとだけ大きな声で、地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)は仲間たちへと呼びかけた。
 少年が指さす先で、水着を着たビルシャナと10人ばかりの男女が集まっていた。
「それじゃあ、始めよう。心を込めて、料理してあげなきゃね」
 巻き髪を揺らすヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)が微笑む。
 ケルベロスたちはビルシャナと信者たちに近づいて行った。

●秋の海水浴
 ビルシャナは近づいてくるケルベロスたちを、異形の目で睨みつけた。
「固定観念の罠に捕らわれた愚かなる者共が来たようだな……」
「あ、あの……」
 夏雪は必死に声を出し、敵意を露わにする彼らへと話しかけた。
「泳ぐ権利は信者さん達だけでなく、皆さんあると思いますよ……? でも皆さんが入ろうとしないのには、ちゃんと理由があると思います……。 秋になると水が冷たくなり、クラゲが出るようになります……。これだけでも泳ぎ難くなりますよね……?」
「それで?」
「それに天候も読み難くなり、海へ遠出するには予定自体が立て辛くなります……。海水浴場のお店が閉まるのも、夏が終わったからではなく、お客さんが来なくなるから閉めるんです……。浜辺に他のお客さんや地元の方がいなくなる事で、万が一水難事故が起きても気付いてもらえないかもしれません……」
 がんばって声をはり、少年が語る言葉は間違いなく正論であった。
「人類が勝手に決めたと言っていますが、それはそうした方が良い理由があるからなんですよ……?」
「くだらん理屈だ。そんなものは、海水浴を制限しようとする頭の固い者たちの都合に過ぎん!」
 正論ではあったが、ビルシャナやその信者たちはただ正論を語っても聞く耳を持たないと事前に言われていたはずだ。
「スポーツの秋っていうし、泳ぐの好きなのはわかるけど冷たいよー? 私より長く入れるかな」
 トランジスタグラマーな女性が、かなり攻めたデザインの水着で泳ぎ始める。
 銀の髪を水面になびかせてアウィスは泳いでいたが、その挑発はあまり意味がなかった。彼らは当然、アウィスより長く泳ぐつもりで泳ぎ始めるに決まっているからだ。
 結果としてできるかどうかはもちろん別の話であるが、少なくとも泳ぎを断念させる役には立たない。
 ビルシャナと信者たちもまた海に駆け出そうとする。
「そんなに入りたいなら入ればいい。それこそ気の済むまでな」
「ああ、そうさせてもらうぜ!」
 ホワイトにも言われて、信者たちは駆け出した。
 泳ぎ始めるビルシャナと信者たち……ホワイトの予想と違って、彼らはそう簡単には音を上げず、楽しげに泳いでいる。
 だが、しばしの後、彼らを止める声が浜辺に響いた。
「待たれよ!」
 秋津彦はビニールプールを準備し、そこに海水をくんでいた。
「これから寒くなるのに、海水浴を続けるのでありますか? 信念は固いのでありますね?」
「当然だぜ!」
 近くにいた1人が答える。
「ではそのお覚悟、試させて頂く――!」
 プールに氷を放り込み、彼にそれに入るよううながす。
「行け。凍りつく冬の海であろうと、情熱まで凍えさせることはできぬ。ハートは常に常夏!」
「そうだ! 氷水がどうしたー!」
 呼びかけられた信者が、海から駆け上がってきてビニールプールに踏み込んだ。
「まだ残暑の厳しい今は良くても、直に凍て付くようになりますぞ」
 その頭に、秋津彦は文字通り冷や水をかける。
「しかも営業してる施設もないから暖かい食事やシャワーもない……低体温症で溺れそうになってもライフセイバーの方もいない」
 切々と語りかけるが、目の前の男は彼をにらみつけるばかり。
 だが、さすがに氷水のプールにはインパクトがあったらしい。泳いでいた信者たちのうち3人が、浜辺に戻った。
「今日は炊き出しがあるから良いものを、不安が多すぎませぬかな?」
 視線を横に誘導する。
 そこでは、同じく問答の間に炊き出しを準備する仲間たちの姿があった。
「んー……おいしそうね?」
 ちょうど、ブラックがつまみぐいをしていたところだ。
「……今回は見逃してあげましょうか。信者たちを誘導してください、ブラック」
 恵やヴィヴィアンの作る料理を手伝いながら、コスモスが娘へと告げる。
「秋の海は冷てぇだろ。温まっていかねぇか」
「あったかい料理が美味しくなる時期だもんね~」
 料理を作りながら、2人は泳ぐ信者たちに語りかけた。
「こんな時に海に入ると寒いでしょ? 遊ぶためにそんなつらい思いをすることないんじゃないかな。秋には秋らしい楽しい遊びがいろいろあるのに」
 ヴィヴィアンは秋の行楽特集のページを見せる。
「紅葉を見に行ったり、秋の味覚を堪能したり……オクトーバーフェストとかもあるよね。海水浴は夏が一番楽しいんだから、それまで取っておこう、ね?」
 作っているのは、里芋を中心に、牛肉を使った醤油ダシの芋煮。定番の具材に、さらにかのこなんかも加えてある。
 恵は茸の炊き込みご飯に、海老や牡蠣、鯛の焼き物をうちわであおいで香りを出していた。
 そして、取り出して見せたのは細長い魚。
「秋と言えばサンマだ。新鮮なサンマがあるんだがさばいてみねぇか。ここでおろせば焼きたてが食えるぜ。簡単にさばけるから自分でやってみりゃいいぜ」
 氷水のプールで我に返った3人にくわえて、泳いでいた者たちから3人が岸に戻る。
「海で泳ぐのも悪かねぇが秋には向いてねぇだろ。夏には夏、秋には秋の、季節によって海の楽しみ方を変えたらどうだ」
 赤い薔薇を、赤い髪に生やした青年は静かに笑みを見せた。
「食欲の秋というだろ。夏、海で泳いで疲れた体を、秋の味覚で満たしてやれ」
 戻ってきた信者たちを、彼らは優しく迎えてやった。
「ま、過ぎた夏にこだわり過ぎないで今の季節を楽しみなさいな」
 ブラックの言葉に、戻ってきた者たちは頷いた。
 泳ぐのを許した時点で全員は説得できなかったようだが、しかし半数を離反させたなら悪くない結果だろう。
「忌々しいケルベロスめ! よくも我が信者たちを!」
 怒りにかられたビルシャナが叫んだ。
 と、同時にまだ海で楽しげに遊んでいた信者たちが動き出す。
 炊き出しを飛び越えて、ケルベロスたちは身構えた。

●秋の海に沈め
 ビルシャナの怒りと共に、海が波立った。
 波に乗ったデウスエクスの突撃がケルベロスに襲いかかる。
 ブラックはふらりとその攻撃の軌道上に立った。
 不用意に出てきた彼女へビルシャナの突撃が命中する。
 いや、不用意に見えてブラックはしっかりとその攻撃に備えていた。波の衝撃に揺らぎもせずに、彼女は持ちこたえる。
「かばったつもり? 余計なことしないで……」
「あら、だって可愛い妹が狙われていたんだもの。……冗談よ。うっかりしてただけ」
 もともと狙われていたホワイトと言葉を交わしながら、ブラックは身の丈より長い野太刀を片手で抜き放つ。
 鍔も刀身も真っ白な野太刀に銘はないが、切れ味は非常に高い。
 隣に並んだホワイトのほうは、彼女とは逆に真っ黒な刀を手にしていた。瘴気をまとう刀を利き手に、逆手にはナイフを構えている。
「特殊弾頭装填。強化薬を散布します、意識が飛ばないよう注意してください」
 彼女たちの保護者であるコスモスが特殊弾頭を放ち、感覚を研ぎ澄ませる薬品を散布する。
 2人はほとんど同時に、刀を振るった。
 ビルシャナに付き従ってケルベロスに襲いかかってこようとした信者のうち1人が、2人の斬撃――刃を返しているので打撃というべきか――をまともに食らってよろめいた。
 ケルベロスたちは信者たちをまず、加減した攻撃で死なない程度に痛めつける。
 もっとも、手加減した攻撃では無力化はできないが、恐れをなした信者たちは遠くからビーチボールやパラソルを投げつけてくるばかりになった。単調な攻撃なので見切るのはたやすい。
 信者への対応をとりあえず終えたと見て、ケルベロスたちはビルシャナへの攻撃に移った。
 アウィスは濡れて固まった砂浜の上を、リズミカルな動きで移動する。
 遠すぎず近すぎず、攻撃が高い効果を発揮する距離を見極めて、生み出すものは時空を凍らせるオラトリオの弾丸。
「あなたには手加減しないよ。氷漬けにしてあげる」
 弾丸は過たず敵を捕らえ、ビキニパンツのビルシャナを氷にまみれさせる。
 氷漬けになった敵へと、ケルベロスたちの攻撃が集中した。
「これもまた天狗の兵法!」
 砂をかけたひるませながら、秋津彦が飛び蹴りを叩き込んだ。
 ケルベロスたちはまず敵の動きを止める技を繰り出していたが、その間にも破壊の光や孔雀の炎が確実にケルベロスの体力を奪っていく。
 幾度めか放たれた炎の前に、ヴィヴィアンが割り込んだ。
「あ……だ、大丈夫ですか、ヴィヴィアンお姉さん」
 夏雪は炎に取り巻かれた彼女へと、精一杯の声で呼びかける。
「まだまだ全然平気……って言いたいとこだけど、そろそろちょっと厳しいかも」
「……今……治します……。大丈夫……。痛くない、です……」
 秋の海に、雪が降った。
 舞い落ちる粉雪は夏雪のグラビティでできたもの。
 雪は炎を消し去りながら、ヴィヴィアンの体にしみこんで癒していく。
「ありがとう、夏雪ちゃん」
「いえ……たいしたことじゃ、ないです……」
 傷が癒えたのを確認し、少年は息を吐いた。
 夏雪が戦線を支えている間に、ビルシャナの動きはどんどん鈍っていく……。
「そろそろ危ないんじゃないか? 隙だらけだぜ」
 言葉を発したときには、恵はもう刀を振り抜いていた。
 先ほどまでは持っていなかったはずの刀をどこから取り出して、いつ振るったのか、仲間ですら何人が認識できたのか。
「遊びはそろそろ終わりといたしましょうぞ! 枉事罪穢、祓い捨てる――金輪奈落に沈んでいけ!」
 葵崩紋を刻んだ秋津彦の業物が、光の霊力を帯びて輝きビルシャナを切り裂く。
 浜辺に歌声が響いた。
「これから進む未来はきっと明るい光が差してる 新しい扉を今日も開けて進もう 笑顔の私を見せたいから」
「Trans carmina mei, cor mei…… Evolvo」
 ヴィヴィアンの明るい歌声が、アウィスの澄んだ歌声が、ビルシャナの動きを止めて生命力を流出させる。
「まだだー! まだ泳ぎ足りぬ!」
 敵は渾身の力で波を呼ぶが、ボクスドラゴンのアネリーが狙われたブラックをかばって突撃を止める。
「ホワイト、ブラック、止めをお願いします」
 コスモスが娘たちに声をかけながら引き金を引いた。砲撃が敵を打つ。
 ホワイトは一歩先んじて動き出したブラックに負けぬよう、距離を詰めていく。
「せめて花ぐらい……美しく咲かせて頂戴」
 野太刀で豪快に放つブラックの連撃をかいくぐって、ホワイトは姉よりもさらに近い場所へと肉薄した。
 仕掛けるのは武器のリーチを生かす気もない至近距離。
「耐えてみれば?」
 まだなんとか立っている敵へ冷たい声を投げかけ、彼女は刀を使わず拳を固めた。
 グラビティを込めた拳が、蹴りが正確に急所を打ち貫き、ビルシャナを砂浜へと叩きつけていた。

●食材は大切に
 ビルシャナの死体は光とともに消え去り、我に返った配下が慌てて逃げていく。
「……やれやれ、バッカみたい」
 逃げていく彼らを見やって、ホワイトが呟く。
 説得された者たちは戦いを遠巻きに見ていたが、自分たちも逃げるべきかと話しているようだ。
「あの……体、冷えていないですか……?」
 そんな彼らに、夏雪はおずおずと厚手のタオルを差し出す。
「あ……ありがとうございます」
 だんだんと寒さを感じ始めたのか、彼らはそれを素直に受け取った。
 ケルベロスたちは手早く手当てと戦闘の後片付けをする。
「……この余った食事をどう処理しましょうか」
 コスモスが顎に手をやった。
 仮面に隠れて見えないが、おそらく思案顔をしているのだろう。
「もったいないし、食べていったほうがいいんじゃないかな?」
「そうだな……結局サンマも焼いてないしな」
 ヴィヴィアンの言葉に恵が頷く。
「そうね。せっかくおいしそうな料理だもの」
 アウィスはじっと料理を見つめていた。
「自分、このようなこともあろうかと梨や葡萄を山から採ってきたでありますよ。これも秋の魅力であります!」
 秋津彦が力を込めてそう告げた。
「ま、ついでだし、食べていこうかしら。ホワイトはどうするの?」
「……さっさと帰る。やることは終わったもの」
「あら、そう。せっかくだから食べてけばいいのに」
 姉の言葉を黙殺し、ホワイトは去っていった。
 残った何人かは砂浜で食材を囲む。
「秋の食べ物って、心まであったかくしてくれる気がするよね」
 ヴィヴィアンが言った。
 秋に必要なのはほのかな温もり。
 冷たい水につかることではないのだと、ケルベロスたちは改めて思った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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