●武術とサッカーを組み合わせた全く新しい格闘技
幹が震える。
葉が散りゆく。
男が蹴るたび大樹は悲鳴を上げた。
それでもなお、男は大樹を蹴り続け――。
「お前の、最高の武術を見せてみな!」
――少女の声を聞き、脚を戻して振り向いた。
視線を向けた先、得意げな笑みを浮かべながら仁王立ちしている少女がいる。男は一瞬だけ訝しむような様子を見せたけど、すぐに表情を引き締め身構えた。
深く息を吸い込み、腰を落とす。
少女を見つめたまま、ゆっくりと呼吸を止め……。
「キエェェェェイ!!」
叫ぶと共に大樹へ跳ぶ。
大樹を足場に少女へと飛びかかった!
体を包み込むように少女を掴み、勢いのまま地面に叩きつける!
大きな音が静寂を運んできた。
叩きつけた姿勢のまま男は少女を見つめている。
少女は空を仰いだまま……。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
男の胸に一本の鍵を突き刺した。
小さな声を漏らすこともなく、男は地面に倒れていく。
横に避けた少女が立ち上がるとともに、一人の大男がどこからともなく現れた。
「キエェェェェイ!」
大男は叫ぶと共に大樹を蹴り折る。
勢いのまま別の樹木を足場に飛び、低木を体全体で包み込むように引き抜き地面へと叩きつけた。
一部始終を眺めていた少女は、楽しげな声音で告げていく。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
大男は頷き、街の方角へ向かって歩いて行く。
道義に包まれている逞しい膝を、歪なモザイクに染めたまま……。
●ドリームイーター討伐作戦
ケルベロスたちを出迎えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、メンバーが揃ったことを確認した上で説明を開始した。
「武術を極めようと修行を行っている武術家が襲われる事件が起きることがわかりました」
武術家を襲うのはドリームイーター・幻武極。
自分に欠損している武術を奪い、モザイクを晴らそうとしているらしい。
「今回襲撃した武術家の武術では、モザイクは晴れないみたいです。しかし、代わりに武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするみたいなんです」
出現するドリームイーターは、襲われた武術家が目指す究極の武術家のような技を使いこなすようで、なかなかの強敵になるだろう。
幸い、このドリームイーターが人里へと辿り着く前に迎撃することが可能。周囲の被害を気にせずに戦う事ができるだろう。
「続いて、具体的な説明になりますね」
襲われたのは武術を志す二十代の男性。サッカーと武術を組み合わせた全く新しい格闘技を開発し、極めようとしていた。
「そして、幻武極に襲われた、という形になりますね」
出現するドリームイーターは、そのサッカーと武術を組み合わせた格闘技を極めた武道家、といった存在。
姿は壮年の大男。
戦いにおいては、持ち前のタフな肉体と守りの堅さで防御を固めつつ、殺傷の高い武術を用いながらの粘り勝ちを狙ってくる。
グラビティは三種。
近くの樹などをゴールポストに見立てた三角飛びで相手へと飛びかかり、包み込むように掴み取って地面へと叩きつける投技。加護を砕く力を持つ。
胴体へと叩きつける浴びせ蹴り。その一撃を受けた者は力を万全に発揮することが難しくなるだろう。
虚空を思いっきり蹴ることで、サッカーボールのような空気の玉を相手にシュートする空蹴。これは見えづらい上に微妙な回転がかかっていることもあり、避けるのは難しいだろう。
「最後に迎撃場所になりますが……この、道路から50メートルほど離れた場所にある獣道になりますね。周囲が木々に囲まれていて、視界の悪い場所でもあります」
話は以上で酋長と、セリカは資料をまとめ締めくくった。
「このドリームイーターは、自らの武術の神髄を見せ付けたいと考えているみたいです。ですので、戦いを挑めば喜んで受けてくれるでしょう。ですからどうか、全力でのお相手をお願いします」
参加者 | |
---|---|
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039) |
鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245) |
クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310) |
霧崎・天音(星の導きを・e18738) |
流水・破神(治療方法は物理・e23364) |
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467) |
鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099) |
ディティ・ガラード(ドワーフの降魔拳士・e40358) |
●VS蹴球武術!
風が落ち葉を運んでいく。
木々のざわめきが世界を満たしていく。
木漏れ日ちらつく山の中、ケルベロスたちは武術を奪い具現化したドリームイーターの到来を今か今かと待ちわびていた。
自然の香りが鼻腔をくすぐる中、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)はため息一つ。
「また格闘家か……わざわざ山の中で1人修行しなくてもいいのにね」
心身ともに自らを鍛えるためか、それともまた別の理由か。
仮に尋ねるとするならば、倒さなければならない。
ケルベロスたちの前に姿を現した道着姿の男……ドリームイーターを。
間合いには踏み込まず、ドリームイーターは構えていく。
呼吸を整えていくさまを聞きながら鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)も身構えた。
「てめーの武術を見せてみろっってな!」
駆け出し距離を詰めながら、自らの力を高めていく。
木々に閉ざされた山林の中、サッカーと武術を組み合わせた全く新しい格闘技を取り戻すための戦いが開幕した!
●キックオフ!
ドリームイーターが腰を落とした瞬間、その体全体に影が走る。
「……隙有り」
見上げる暇も与えず龍の幻影が飲み込めば、その体は激しく白く炎上し始めた。
担い手たるクーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)は別の大樹へと飛び移り、ドリームイーターの目から逃れていく。
追いかけさせはしないと、一礼し一呼吸分行動のタイミングを遅らせていた幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)が懐へと飛び込んだ。
「はぁっ!」
着地と共に斜め上へと蹴りを放ち、クロスした腕とぶつかり合う。
早々に諦め飛び退けば、側面から霧崎・天音(星の導きを・e18738)が仕掛けていた。
「……他人から奪った力で……本当の強さが得られるか……見せてもらう……」
両腕に装着したパイルバンカーに導かれ、錐揉み回転しながら脇腹へと……!
「……」
突き刺さらんとした瞬間、肘と膝に挟まれ動きは止まる。
天音は早々に引き抜き飛び退り、反撃に備え身構えた。
次々と仕掛けられていくケルベロスたちの攻撃を、技と力で抑えていくドリームイーター。
その体が明後日の方角を向いていく。
大きく足を振りかぶり、虚空を思いっきり蹴り上げた。
押し出された空気の塊が大樹の頂上へと向かっていく。
「っ!」
大樹の頂上にいたクーデリカは自らバランスを崩し落下した。
空気の塊を左腕に掠めさせるのみに留めたまま、体を捻り地面に着地していく。
痛みはすぐに癒えた。
流水・破神(治療方法は物理・e23364)が治療を施したから。
「ありがとう」
「……あー、いや」
礼を述べ再び木々の狭間に紛れていくクーデリカを見送りながら、破神はシガレットを噛み砕く。
治療役としてドリームイーターと仲間たちの動向を観察しながら、深いため息を吐き出した。
「……あー、マジクソつまんねえ。ヒーラーってのは性に合わせねえぜ。殴り合ってなんぼだぜ、ホントによ」
新たなシガレットを取り出し、咥えていく。
バリバリと音を立てて噛みちぎりながらも、観察を欠かすことはない。
「させません」
視線の先、ディティ・ガラード(ドワーフの降魔拳士・e40358)がドリームイーターの正面へと立ち塞がる。
「チェストォォォォォォォ!!」
勢いのまま放たれたあびせ蹴りをクロスさせた腕で受け止めて、表情を歪めながらも押し返した。
即座に破神が治療に向かう。
それが己の役目だから。
「……はぁ……なんで久しぶりに殴り合えそうな奴相手で、ヒーラーなんだぜ」
愚痴は尽きぬけれど的確に、確実に……!
勢いを乗せて放たれる浴びせ蹴り。
虚空を蹴り上げ放たれるサッカーボールのような空気弾。
そして……。
「キエェェェェェイ!!」
近くの大樹をゴースポスト代わりに跳躍し、飛びかかってくる三角飛び。
ディティは行動の一部始終を観察し、正面から迎え撃つ。
――武とは戈を止めるの意、武術とは戈を止める術。その本分は受け身にある。
胡散臭い師匠の言葉を念頭に、飛びついてきたドリームイーターを受け入れた。
「っ!」
体が中に浮く。
景色が目まぐるしく変わっていく。
冷静に、慎重に、可能な限りリズムを重ね……背中が地面に叩きつけられる寸前に、力強い受け身を取った。
「っ!」
逃しきれない衝撃が体中をきしませていくけれど、決して瞳はつむらない。
常にドリームイーターを観察し、痛みを抱えたまま立ち上がる。
可能な限り技を参考にするのだと、治療を受けながら次の攻撃に備えていく。
隣を炎弾が駆け抜けた。
「殴るだけじゃねーぞ、と!」
担い手たる万里矢が見つめる中、ドリームイーターは更なる炎に抱かれていく。
堪えた様子はない。
かまわないと鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245)が懐へと入り込む。
「立ち塞がる何もかもを撃ち砕く!」
土手っ腹へと打ち込めば、内包する様々な力が爆発しドリームイーターを大樹へと叩きつけた。
即座に着地し身構えていくさまを見つめながら、万里矢はナイフを抜いていく。
「さーて、次はどう来るかな……っと!」
ドリームイーターが距離を詰めてきた。
万里矢は動かず、ナイフを横に構えていく。
横からアビスが割り込んできてくれることを知っていたから。
進路を阻まれたドリームイーターはアビスへと視線を移し、浴びせ蹴りを放ってくる。
左肩で受け止めたアビスは表情を変えずに告げていく。
「その程度? 変わった拳法かなんだか知らないけれど、こんなので倒せると思ったら大間違いだね」
「アビスちゃん、ありがとー!」
横を万里矢が潜り抜け、体勢を戻そうとしているドリームイーターの側面を取った。
振り向く暇を与えず縦横無尽に切り裂けば、炎は更に激しいものへと変わっていく。
「そろそろ辛くなってきたんじゃねーか?」
ドリームイーターは答えず距離を取った。
アビスは破神の治療を受けていた。
止まることのない破神の愚痴を聞きながら、アビスは再び構え直す。
ボクスドラゴンのコキュートスに視線を送りながら、ドリームイーターが大樹に向かって跳んだ瞬間に距離を詰めた。
決して仲間たちを倒れさせない、その強い意志のもと……。
「っ!」
アビスは投げられ受け身を取る。
治療を待つ間、コキュートスが間に割り込み盾となる。
ディティらと共に全力で仲間たちを守っていくと、静かな眼差しでドリームイーターを見つめ続けていく。
●蹴球武術を打ち破れ!
炎に焼かれ、呪縛に縛られ、なおもドリームイーターは腰を落とす。
すかさず鳳琴が踏み込んで、軸足を狙い蹴りを放った。
「輝け! 私のグラビティ。我が敵を――砕け!」
軸足は捉えた。
ドリームイーターは揺るがない。
大樹へ飛びつくついでに跳ね除けられ、鳳琴は地面を転がりながら姿勢を正す。
「けど……」
手応えはあったと、立ち上がると共に身構えた。
視線の先、アビスへ飛びつこうとしていたドリームイーターが地面に突っ込んだ。
瞬間、破神が飛び出した。
今、この瞬間はに回復は必要ないだろうと。
「よっしゃ来た! 殴り合いにはならねぇかも知れねぇが、関係ねぇ! 溜まったストレス、存分に叩き込んでやらぁ!!」
立ち上がらんとしていくドリームイーターの正面に立ち、チェーンソー剣による切り上げを。
炎が青に変わっていく。
それでもドリームイーターは立ち上がり……。
「――ボクの眼を視ろ」
万里矢と瞳を重ねた時、初めて苦痛を覚えたかのように表情を歪めた。
「今……!」
すかさず天音が踏み込んだ。
迎え撃つかのように、ドリームイーターは大きく足を振り上げて――。
「貫くッ! ……これで、どうだぁーーっ!!」
鳳琴が龍を纏い、蹴りを放つ。
軸足を捉えドリームイーターを再び転ばせた。
憂いなく、天音はゼロ距離から地獄の炎弾を打ち込んでいく。
クーデリカも展開した。
無数の呪われた白い炎の魔弾を。
「……白炎展開、呪詛装填…撃ち抜き、爆ぜよ……」
ドリームイーターは青と白に埋め尽くされ、立ち上がる事ができていない。
視界が晴れずとも問題ないと、アビスがコキュートスと共に踏み込んだ。
「もう、終わりにしようか」
コキュートスがブレスを放つ中、背中に掌底を叩き込む。
再び地面へ倒れていくドリームイーターに、ケルベロスたちは怒涛の如き攻撃を加えていく。
動くこともままならなくなった姿を見つめたまま、天音は右足を無数の炎の刃に変えた。
「私が……全ての恨みを晴らす……地獄の……怨嗟の声を聞け……!」
数多の憎しみに導かれ、ドリームイーターへと突き刺さる。
炎は色を失えど、熱量は止まることなく上り続けた。
汗すらも乾いてしまいそうなほどの熱は、不意に霞のごとく掻き消える。
ドリームイーターの姿と共に。
静かな風に導かれ、戦闘の熱も徐々に冷めていき……。
「蹴球武術、恐ろしい技でした…お手合わせに感謝を」
鳳琴が手を合わせ一礼する。
「私も修行中の身。受けた技を参考にしてさらに高みを目指します」
誓いが木々のざわめきと交じる中、天音はドリームイーターが倒れた場所を見つめて呟いた。
「……それでも誰かを犠牲にして強くなる……そういうのは間違ってる……あのドリームイーターは……いつか止めないと……」
元凶となったドリームイーター、幻武極。彼女と決着をつけるのは、はたしていつのことになるだろう?
先を目指す前に殺らなければならない事があると、ディティが山頂の方角へと向き直った。
「すぐに起き上がると思いますが、直前に一試合しているので怪我をしている可能性があります。確認しに行きましょう」
頷き、戦場の修復を行った上で修行していた男性のもとを目指していくケルベロスたち。
道中、ドームイーターが蹴り砕いたと思われる大樹を発見し、クーデリカは悲しげに目を細めて駆け寄った。
戦闘時に傷ついた植物たち。
ドリームイーターが出現時に破壊した木々。
「……これだけで済んだ、と思って良いことなんでしょうが……」
少し形は変わっても、治す事はできたから。
男性も無事に起きる事ができたから。
だから……後は自然の流れに任せよう。
きっと、この変化も力強く受け止めてくれるはずだから……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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