最強の槍術をめざして

作者:なちゅい

●最強の槍術
 長野県の山奥深く。
 森に挟まれた小さな山小屋の近くで、1人の成人女性が山篭りを行っていた。
「これで……っ!!」
 迸る汗を飛ばしつつ、素早く繰り出す槍。その槍捌きは、並の使い手など軽く薙ぎ倒すほどの腕前だ。
 一頻り槍を操る女性。その手のマメはすでに硬くなっており、かなりの時間修練していたことをうかがわせた。
 だが、彼女……桑江・朱里は頭を振る。
「この程度では……、最強には届かない」
 なおも鍛錬を続けようとする桑江の近くへ、いつの間にかポニーテールの少女が現れる。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「…………」
 その少女の呼びかけに、桑江は操られるようにして少女へと槍で攻撃を始めた。
 連続突きからの薙ぎ払い。槍を回転させた勢いからの鋭い刺突。鮮やかとも言える技を桑江は見せたが、少女……幻武極(げんぶきわめ)はそれらの攻撃を平然と捌いていく。
 しばし、攻撃を受け続けていた彼女は口元を吊り上げて。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はなかなか素晴らしかったよ」
 彼女はどこからか巨大な鍵を取り出し、桑江の胸を貫く。幻武極の正体は、ドリームイーターだったのだ。
「ああっ……」
 その衝撃で昏倒する桑江。胸を貫かれたはずだが、傷一つついていない。
 そして、彼女のそばに女性の人影が現れる。桑江とはまったく似つかぬ風貌だが、黒い長髪に長身の美女。その女性もまた槍使いのようだ。
「ちょっと試してみようか」
 幻武極は新たに生み出された武術家ドリームイーターに対し、自らの武術を確かめるようにして技を突き出す。互いの技が放たれる瞬間、モザイクが乱れ飛んだ。
 そして、攻撃の手を止めた幻武極は口元を吊り上げて微笑む。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 こくりと頷く武術家ドリームイーターは小屋から歩き去っていく。己の技を見せ付ける為に。

 ドリームイーターによる新たな事件が予見された。
「槍術を極めた、武道家のドリームイーターが出現するそうだね?」
 ヘリポートへとやってきた月城・黎(黎明の空・e24029)が、そんな話を持ちかける。
 説明を聞くべく、この場に集まった多数のケルベロス。彼らへと予知の話を始めようとしていたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は黎の言葉に頷く。
「そうだね。そのまま話を聞いてくれると嬉しいかな」
 ケルベロス達が静聴を始めたことで、リーゼリットは説明を始める。
 なんでも、武術を極めようとして修行している武術家が襲われる事件が起こるらしい。
「武術家を襲うドリームイーターの名前は、幻武極。自らに欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らそうとしているようだよ」
 今回襲撃した武術家の武術ではモザイクは晴れないようだが、代わりに、武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするらしい。
 出現するドリームイーターは、襲われた武術家が目指す究極の武術家のような技を使いこなすようで、なかなかの強敵となるだろう。
「幸い、夢喰いが人里に到着する前に迎撃できそうだから、周囲の被害を気にせず戦うことができそうだよ」
 今回現れるドリームイーターは、槍を獲物とする女性の武術家のみ。
 身長175センチほどある長身、黒い長髪の夢喰いはクラッシャーとして立ち振る舞い、峻烈突き、薙ぎ払い、串刺しの3種のグラビティを使いこなす。いずれも強力な技だ。
「現場は、長野県の山中。森の合間にある小屋だよ」
 深い森に挟まれるように建てられた小屋は、人里離れて自身の鍛錬に励む者に使用されている。
 そこで発生したドリームイーターは己の技を他人に見せ付ける為、人里を目指して移動を始めているそうだ。
 だが、深い森の中を移動する必要があり、すぐに人里へとたどり着く状況ではない。戦後のヒールを考えるなら、森の中で戦えば人的被害を考慮せずに戦うことができるだろう。
「あと、夢喰い討伐後は、被害者の女性を介抱してあげてほしいかな」
 女性は戦場想定場所となる森をさらに進み、木々の切れ目にある小屋の近くに倒れている。
 襲われた記憶はほとんどないようだが、その女性に事情を話すなどしてフォローがあるとよいだろう。
 一通り状況説明を終え、リーゼリットは更に続ける。
「武道の真髄を見せ付けたいと夢喰いは考えているようだから、戦場を用意すれば向こうから戦いを求めに来ると思われるよ」
 強さを求めるケルベロスであれば、特に負けられない相手だろう。
「もちろん、ボクは皆の勝利を信じているからね」
 ヘリオンの操縦席へと向かうリーゼリットは最後に、ケルベロスへと微笑んでそう告げたのだった。


参加者
暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)
嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)
ランサー・ファルケン(正義を重んじる騎士・e36647)
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)

■リプレイ

●武術を奪うドリームイーター
 長野県の山奥。
 ケルベロス達はドリームイーター、幻武極に生み出された武術家ドリームイーターを探し、森の中を歩く。
「武術を奪う……。見て盗んで取り入れるんなら当たり前ですが、奪うというのも不思議なもんですね」
 今回の事件を聞き、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)は八重歯をちらつかせながら主観を語る。
「……気に入らんな。ケルベロスではなく、自分を傷付ける事が出来ない者ばかり狙うとは」
 その幻武極の行いに、メンバー達は不快感を露わにする。氷雪を思わせる戦士、レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)もその1人だ。
「アイドル道だって、武術だって一緒よ」
 現役の地下アイドル、愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)は持論を語る。極めるのには並大抵じゃない困難がつきまとうし、努力が必要になってくるものだと。
「それを不足しているからって、人から奪うですって? そんなこと絶対許さないわ!」
「『強くなりたい』っていう、人の真剣な気持ちを奪うだなんて、……幻武極はひどいことをするのですね」
 感情を爆発させる瑠璃。対して、大人びた印象の雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)は淡々と語る。
「幻武極……どんな武術ならモザイクが晴れるっていうんだろう」
 現在、中国拳法を修めている少年、暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)は幻武極の追い求める武術について興味を抱く。
「後天的に得られるだろう武術の欠損……」
 そいつに相応しい武術とは。白い髪に色白の肌をしたシャドウエルフ、ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)もまた考えていたが、そのそばで……。
「ああ――ああ! 一人の人間が、そうまで焦がれた武術の精髄……。一体、どんな味がするのかしら?」
 一見すれば柔和な表情を浮かべる、ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)だが、妙なハイテンション駄々漏れで彼女は声を張り上げる。
「ドリームイーターも、たまには気の利いたことをするものね!」
 中学生になる娘がいる一児の母とは思えぬ若々しさを持つユリア。20歳前後のメンバーが多い中、彼女は年甲斐もなく叫んでいた事に気づいて。
「……も、もちろん忘れてないわよ、人助け」
 愛想笑いするユリア。ただ、その目はかなり本気な様子である。
「気にはなるけど、まずは今目の前の脅威に当たらなければね」
「うん。とにかく今は、戦わなくちゃ!」
 機械鎧を装着するヒメが落ち着いた様子で皆に促すと、輝凛が元気な様子で返事するのだった。

●理想の武術家
 森を行くケルベロス達。
 人里離れた場所とはいえ、生み出された新たなドリームイーターは手早く撃破したいところ。レイリアなどは光の翼を羽ばたかせ、上空から敵を捜索する。
 ある程度進むとヒメが比較的木々の少ない場所を発見したこともあり、そこで一行は相手を出迎えることにした。
 自身や仲間が戦闘態勢を整えたところで、輝凛が森に向かって叫ぶ。
「ここが僕達の戦場だ。……嗅ぎ付けて来い!」
 声に反応したのか、程なくしてこの場に現れたのは黒い長髪に長身の美女だった。
「そなたが今回の相手か」
 敵が背中に背負う槍を見て、名が示す通りに槍の扱いを得意とする騎士、ランサー・ファルケン(正義を重んじる騎士・e36647)が名乗りを上げる。
「我が名はランサー・ファルケン。同じ槍使いとして、お相手しよう」
 騎士らしく、彼は誠実な対応で目の前の相手へと対し、ゲシュタルトグレイブを構えて見せた。
「なにはともあれ、あなたの槍術! 楽しませてもらいますよ!」
 麻代が呼びかけ、隣のユリアも興奮した面持ちで対する。
 少し後ろのヒメはブローチを操作してケルベロスコートを解除し、プリンセスモードを発動させた。
「…………」
 すると、相手は無言で槍を取り出してその切っ先をこちらへと突きつけてくる。
「剣程に槍の鍛錬は積んではいないが、貴様相手ならば遅れはとらん」
 光の翼でこの場に降り立つレイリアもまた、凍結槍を取り出して言い放つ。
「朱里の目標は、絶対に取り戻しますから」
 最後方でしずくがゾディアックソードを手に守護星座を描き始めると、敵もまた颯爽と槍を振るってケルベロスへと仕掛けてきたのだった。

●見惚れるほどの槍捌き
 名もなき武術家ドリームイーターに対し、先に瑠璃が仕掛ける。
 ルーンを輝かせた斧を大きく振りかぶり、一撃を叩き込む。敵は避けられずに纏う服を破いてしまう。
 瑠璃に付き従っているウイングキャット、プロデューサーさんは彼女を始め、ケルベロス達を守ろうと身を張る。その上で翼を大きく羽ばたかせ、相手のモザイクを振り払おうとしていた。
 その隣のユリアは身構えて、仲間の支援回復に当たる心積もりだったが……。
「あぁ――もう我慢できない。ねえ、もっと、貴女の技を見せて?」
 初動は回復の必要もないと判断し、彼女は数打ちの刀で夢喰いへと切りかかっていく。
 温厚な大人の女性に見えて、その本性は斬り合いを心から愛する剣鬼。ユリアは武術に全てを捧げた相手が如何ほどの力を持つのか、大いに期待していたのだ。
「…………」
 武術家の夢喰いはユリアの期待を裏切らず、まずは目にも留まらぬ速さで手にする槍を連続して突いて襲い掛かる。武術家の女性が理想とする姿ということもあり、その槍捌きは思わず見とれてしまいそうになる美しさだ。
 その技がモザイクで包まれてしまうのは残念だが、的確に狙ってくる槍に彼女はゾクゾクと身を震わせる。
 ユリアの体を槍が貫いた瞬間、麻代が飛び込む。
「そんだけ長い得物使っといて、得物が抜けなくなるってのは考えなかったんですかぁ?」
 彼女は自らの手に地獄の炎を集め、思いっきり振りかぶる。
「根性!」
 強烈な平手打ちで夢喰いを殴りつけた麻代。彼女に対して怒りを漲らせ、敵は睨みを利かせていた。
「貴様の槍は、此処で叩き折る」
 ただ、彼女ばかりに注意を引かせない。レイリアも凍刃槍を手にして敵の急所を狙って鋭い突きを繰り出していたのだ。
「我が槍の一撃をお見せしよう。行くぞ!」
 そして、別方向からランサーが声を上げて近づく。稲妻を纏わせたゲシュタルトグレイブを突き出す。
 生み出されたドリームイーターにも、神経回路はあるのだろう。相手は痺れで僅かにその身を硬直させる。
「舞い集え――其れは闇夜を斬り裂く光!」
 敵の動きを観察していた輝凛。彼は体内の膨大なグラビティ・チェインを使い、小型のエネルギー光剣、「フォトンビット」を生成する。
 変幻自在に動くフォトンビットは夢喰いの動きを止めながら連続して乱舞を浴びせ、その体を切り裂いていく。
 傷口からどろりと零れ落ちるモザイク。だが、多少のことでは武術家の夢喰いは倒れない。自身に近づくケルベロスを槍で大きく薙ぎ払い、一度態勢を整えようと距離を取る。
 フリーにすれば、また攻められることとなる。ヒメは重力を操りながら、緻密な計算で相手に高機動戦で挑む。
「好きにはさせない――」
 後より出て先に立つ、後の先を撃つ斬撃。ヒメは両手の刀、「緑麗」と「緋雨」を操り、相手の行動を先読みして牽制する。
 だが、相手の最強の槍術を修めた理想の形。やすやすと止められしない。
「もしかしてこの強さも、朱里の頑張る気持ちの表れだったりするんでしょうか」
 仲間達へと星座の光で守護を与えるしずくが考える。これほどの理想を抱く被害者、桑江・朱里は日々、ひたむきに頑張っているに違いない。
「……だったら、尚更助けないと、ですね」
 この理想の姿を通し、しずくは被害者に心動かされながらも仲間の回復支援を続けるのである。

 敵は1体だが、多数のケルベロスに囲まれてなお臆する様子はない。
 プロデューサーさんに壁を任せて攻め立てる瑠璃。しかしながら、グラビティの装備に難があったらしく、足止め重視の戦法で攻め続けることとなる。
(「直接斬り合いたいのは山々だけど」)
 序盤こそ攻撃していたユリアも、極光を発して回復に回る。
 ただ、夢喰いが低い態勢で構えてから一線した衝撃波は、ユリアが率先して受け止めに行く。
 守りの剣は本来、ユリアにとっては好みの戦法ではないが、この場では夢喰いの一撃を受け止めて力量をはかる絶好の機会。彼女は剣速を伴う動きで、敵に貫かれた因果すらも断ち切って自らの傷を塞ぐ。
「…………」
 だが、夢喰いは動揺すらなくまたも、連続突きでメンバー達を貫く。その狙いは麻代だ。
「だいじょうぶ。今、癒します……。あなたの痛みも傷も、嘘みたいに」
 しずくは一時的に自身の体を水のような物質へと作り変え、槍に貫かれて致命傷を負う麻代の体を包み込む。
 瞬く間に傷は塞がる。しずくもすぐに元の姿に戻ったこともあり、その一部始終は儚い幻想を思わせた。
「どれだけ刺されても、突かれても、わたしたちは諦めませんよ!」
 しずくの言うとおり、ケルベロス達は攻撃の手を止めない。
 万全な仲間の支援回復もあり、ヒメは雷の霊力を帯びた刀で夢喰いの身体を貫き、レイリアが凍刃槍を振り上げて相手の傷口を斬り広げる。
 敵に逃げる素振りはないが、レイリアは徐々に仲間と包囲網を狭めていく。それもあって、徐々に一行は夢喰いを追い込む。
「モザイクで隠れてるけど……段々、見えてきた!」
 目を細めていた輝凛は相手の操るモザイクに包まれた槍の突きを見極め、横合いから強く蹴り飛ばしてからそのまま流星の蹴りを叩き込む。
「…………っ」
 輝凛の「AL024 ダブルレイダー」による一蹴を受けた夢喰いは、僅かに嗚咽を漏らす。
「は! 槍のアドバイスなら、名前があからさまなランサーさんの方が良いの出るかもしれません。その辺どうなんでしょうか?」
 挑発の言葉を口にしながら、麻代は日本刀で斬りかかる。敵の注意を主に引き付けていた麻代は全身傷ついていたが、仲間のフォローが届いていることもあって余裕がある様子だ。
 そして、名前を呼ばれて振り返るランサー。
「本人に見せることができないのは残念だが、我が最強の一撃を披露しよう」
 夢喰いに呼びかけ、彼は詠唱を始める。
「さぁ、幾多の英雄達よ。我が忠義、我が正義、我が槍が成しうる一撃を見よ。この渾身の一撃に、我が力の全てを捧げよう!」
 集まる白銀の光。敵を見据えたランサーは一呼吸置き、毅然と敵に向き直ってから大きく叫ぶ。
「流星突き(ミーティア・スラスト)!」
 神速で繰り出された突きはまるでビームの如く戦場を駆ける。
 白銀の光に穿たれた夢喰いは全身をモザイクに包み、消えてなくなってしまった。
 しかし、技を放ったランサーもただではすまない。
「これが、俺の辿り着いた最強の一撃だ……」
 彼は槍を杖代わりにして膝を突き、敵が消えた跡に向けて呟いたのだった。

●もっと高みを目指す為
 ドリームイーターが霧散した森で、ケルベロス達は修復作業を始める。
 しずくは桃色の霧を発して抉れた森の地面を塞ぐ。瑠璃はグラビティを所持してこなかったことを悔やみつつ、プロデューサーさんに清浄の翼を羽ばたかせるよう頼んでいたようだ。
 一方で、ヒメは仲間に先んじて森を進み、小屋を発見する。そこで、被害者、桑江・朱里の姿を発見していた。
「ねえ、大丈夫?」
 近寄るヒメが光の盾を展開させて桑江を介抱すると、彼女はゆっくりと目を覚ます。
「あれ……?」
 意識を取り戻して自身がなぜ倒れていたのかを思い出そうとする彼女へ、修復作業を終えて駆けつけたしずくが優しい笑顔で呼びかける。
「こんな山の中で、ずっとひとりで修行していたんですか……。本当に努力家さんなのですね!」
「私が説明しよう」
 そこでレイリアが桑江にこれまでの経緯を話す。
 彼女がドリームイーター、幻武極に襲われ、一時は武術を奪われたこと。そして、それによって桑江が理想とする姿を具現化させ、ケルベロスが打ち倒したこと。
「槍術、強かったよ。一対一だったら勝てなかった」
「なかなか素敵だったわよ、貴女の武術。極めれば、きっと人間の枠を破れるわ」
 輝凛、ユリアがフォローの言葉を口にする。だが、桑江の表情は浮かない。
「でも、私は負けてしまったのよね……」
 桑江の理想の姿がいかに強かったといえど、ドリームイーターに土を付けられた事実は変わらない。
「人の形をしているが、アレはデウスエクスだ。もし万が一、また遭遇した時はすぐに撤退するといい」
 レイリアは小さく首を振り、さらに言葉を続ける。
「……言っておくが、お前が弱いと侮辱しているわけではない。アレを倒せるのは、私達ケルベロスだけだからだ」
 だからこそ、もどかしい。自身の槍で貫けぬ相手が存在するのだから。
「なら、尚更頑張らなければね、目指すところはまだ先でしょう?」
「強くなろっ。僕も負けないくらい、頑張るから!」
 落胆する桑江を気遣い、ヒメが親身になって呼びかける。輝凛もまた、彼女の求める強さを認めて笑いかけていた。
「最強だって、きっと夢じゃありません。応援してます」
 しずくも桑江を励まし、瑠璃が彼女を諭すように話しかけた。
 ギターもドラムもアイドルも、そして、武術も。一つのことを極めるのはすごく大変だけど、すごく素敵なことなのだと。
「桑江さんもあこがれの人に追いつけるように、どうかがんばってね」
「……そうね」
 そんな瑠璃の声に、桑江は小さく応える。
 さらに、先ほどの技の影響で、右手で持った槍を支えにしてやってきたランサーが呼びかける。
「俺から朱里殿に言える事は1つ。槍に掛ける願いを持ち続けろ」
 その願いを持ち続けて鍛錬すれば、いずれ願いは叶うのだから。
「長物なら懐に入られないようにするのが一番ですけど、入られた時の対処法もあったらいいんじゃないですか?」
 ケルベロス達の言葉でやる気を見せ始めた桑江へ、麻代は早速ダメだしとも取れるアドバイスをしてみせる。
「足とか動かせます? 一時的に槍を手放して、徒手でも良さそうに思えますけど?」
 最強の槍術を求める桑江にとって、それは範疇外の考えではあったが、身を守る術は在るべきなのかと彼女は唸りこむ。
 一方で、麻代はまだ暴れ足りないようで、仲間に対して手合いを願う。
「あんなの見ちゃったら、我慢できないでしょーが!! さぁ、やろうやろうやろう!!」
 それに応じて、模擬戦を始めたメンバー達。
「わたしはもっと、皆をしっかりと支えられるようになりたいです。……がんばらないと」
 戦う仲間の姿に、しずくは改めてケルベロスとしてもっともっと強くならなければと誓うのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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