ふわふわ浮かぶもこもこ巨大羊

作者:天木一

「いってきまーす!」
 少年が玄関を出る。すると足がスカッと空を切った。そこには何もなく、真っ青な空の上だった。
「え? 地面がな……うわあああああ!?」
 落下する少年の遥か遠く先に地上が見える。その体が雲を通り抜けようとした瞬間、ボヨンッと綿のような弾力で少年の体が跳ねた。
「あば?!」
 トランポリンのように跳ね回る少年が慌てて体を固定しようと雲に掴まる。
「雲に乗れた!!?」
 驚き興奮しながら少年が雲の上に立ち歩き回る。
「おおっすげーーー良いながめー」
 雲から見下ろす地上はミニチュアのように見えた。
『メェエエエエエエエ』
 突然足元から鳴き声が響く。少年が下を見下ろすと目が合った。少年の乗っていたのは雲ではなく巨大な空飛ぶ羊だった。
「ヒ、ヒツジ? 雲じゃなくてヒツジ!?」
 ビクッと驚いた少年は足を滑らせて落下する。
「わーーーーーーーー!!」
 タオルケットを蹴っ飛ばして少年は飛び起きる。そこはいつものベッドの上だった。
「雲がヒツジに……なるわけないよね。あー夢かぁ……」
 寝汗を拭い少年が時計を見ようとする、その胸に鍵が突き刺さった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 いつの間にか少年の前に立っていた魔女が鍵を引き抜く。最初からそこに存在していなかったように魔女は消え、傷一つない少年は意識を失ってベッドに倒れた。
 部屋の中にもこもこの雲のようなものが所狭しとぎゅうぎゅうに現れる。それは丸々した羊だった。
『メエエエエエエエエエエ』
 羊は窓を破り、身体を圧縮させながら外へと飛び出し、ふわふわと宙に浮かんで飛んで行った。

「わたあめ……ではなくて、今回はおっきなヒツジのドリームイーターが現れるみたいだよ」
 そう言ってエーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)がケルベロス達に向けて声をかける。
「第三の魔女・ケリュネイアが『驚き』を奪い、新たなドリームイーターを生み出してしまうようです」
 その横からセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が詳細な事件の情報を話し出す。
「ドリームイーターはグラビティ・チェインを奪う為に多くの人々を襲ってしまいます。そうなる前に敵を撃破し、眠ったままの少年を目覚めさせるというのが作戦目的となります」
 今なら人の犠牲が出る前に敵と戦える。そして倒せば少年は目が覚める。
「敵は7mほどある巨大な羊です。少年のイメージなのか、マンガなどに出て来そうな丸々とした羊の姿をしています。その鳴き声は聞いたものを眠くし、羊毛で動きを封じたり、地面に叩きつけて攻撃してくるようです」
 見た目はデフォルメされた羊で可愛らしいが、敵対する相手に油断は禁物だ。
「場所は東京郊外の住宅地。少年の住む家の近くの空に浮かんで、地上に人が通るのを待っているようです」
 深夜で人通りは無く、一般人の被害を考える必要はないだろう。
「ドリームイーターは襲う相手を驚かせようとするようです。そこで驚かなかった相手を最初に攻撃するようです」
 驚きに関する習性を持っている。その性質を利用できれば攻撃対象を限定できるかもしれない。
「雲のような羊……見た目は可愛くとも、人を害する存在です。手加減なしで退治してきてください。よろしくお願いします」
 一礼したセリカは出発の準備にヘリオンへ向かう。
「おっきくてふわふわのヒツジ……きっと可愛いんだろうね……」
 ふわふわもこもこな感触を想像してエーゼットは手をワキワキさせる。
「でもどれだけ可愛くとも倒さないと、みんなで人々を守ろう!」
 エーゼットの言葉に同意して、ケルベロス達も準備に動き出した。


参加者
エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)
イド・モノクローム(禍津凶烏・e03516)
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)
鈴森・姫菊(クーガー・e34735)

■リプレイ

●巨大羊
 涼しげな秋風の吹く静かな夜道をケルベロス達が進む。
「巨大な羊だそうですよ、それはとても楽しい驚きのある光景でしょう」
 巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)はシャーマンズゴーストのルキノに優しく語り掛ける。
「羊は、そのもこもこの見た目も愛らしいですが、あのメェ~という鳴き声も、程よく脱力するような、癒し効果のような、何かがあるような気がします」
 卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は実物の羊を想像して心癒される。
「タタンも良く夢見るですよ! おっきいジョナの中にしまわれちゃうのとかー、ウサギさんの林檎切ってたら逃げられるのとか」
 大きな羊の夢に共感した多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)は、今まで自分が見た夢を思い出して笑みを浮かべる。
「可愛い、もこもこは……、大歓迎なのだけど。倒さなきゃダメ……ダメ……? ほんとに……?」
 エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)が仲間達の顔を窺うが、倒さなくてはならないと念押しされる。
「……そう。残念」
 その返答にガックリと無表情なままエリースは肩を落とす。
「羊の毛、いいもふもふですよね……いえ、きっちりと倒さねば成りませんが」
 もふもふ羊毛を想像してイド・モノクローム(禍津凶烏・e03516)は表情には出さないが、出会うのを楽しみにしていた。
「ふわふわでもこもこな羊……ちょっとだけ触ってみたい気もするけど、催眠状態になったら事だ、誘惑に負けないように戦おう」
 女性だらけの中、違和感なく紛れている男子のエーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)は、女性しか居ない状況に少し緊張した面持ちでいた。
 暫く道を歩いていると、夜空から雲の一部が近づいてくる。目を凝らせばそれが雲ではなく、デフォルメされたもこもこの巨大な羊である事が見て取れた。
「今回の敵は可愛らしくて倒すのがもったいないわね。とは言え、少年を助ける為にもふわもこに眠ってもらいましょうか」
 可愛くとも敵は敵と、鈴森・姫菊(クーガー・e34735)は緩みそうになる心を引き締める。
「しかし……戦う意思を削がれるフォルムよね」
 近づいてくる癒し系の敵を眺め苦労して戦意を保った。
『メェエェーー』
 気の抜けるのんびりした声で鳴きながら7mもある羊が目の前にふわふわ風船のように浮遊する。
「おっきなふわもことは、なんてかわいい……じゃなくて、恐ろしい敵」
 桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)がふわふわ浮かぶ羊を見上げ、唖然とした顔を見せる。
「……っつーか、フツーにでかっ!?」
 目の前にするとその大きさに驚愕し、萌花はオーバーアクションで飛び退いた。
『メエーーメエー』
 その態度に気をよくした羊が一層間延びした声で鳴く。
「もふもふが飛んでますね」
 表情に出難いイドは、驚いている振りをしても顔は変わらぬままだった。
「いえ、確かに驚いてますよ? ほら、わーって」
 何とか驚いているのをジェスチャーで示し、敵の視線を逃れる。
「何?! あの大きな羊!? てか、空にいるとか何なの?!!」
 演劇のようにわざとらしく驚いてみせた姫菊は、敵の視界から外れるように動く。
「羊毛はちゃんと加工しないとフカフカにはならないはずですが……。このサイズでこれはすごいですね」
 羊の立派な毛を見て紫御は思いっきり驚き、興味深げに観察を始めた。
『メェメェー』
 調子に乗って羊は体をぽよんぽよん跳ねるようにさせてもっともっとと驚かせようとする。
「わぁっ! すごい、大きい!」
 素で驚いたエーゼットは大袈裟に声も上げてみる。その隣でボクスドラゴンのシンシアはまるで対抗するように、自らの体のもふもふさを見せつけるようにポーズを取っていた。
「もこもこ……、おっきい……!」
 殺気を放って人払いしたエリースは、ビクッと肩を震わせて後ずさり頑張って驚いてみせる。だがミミックのミミちゃんは平然としたまま羊に噛みついた。
「ふわふわもこもこな羊さん……! こんなところにいるなんて……!」
 癒乃はその可愛らしい容姿にまんざらでもない様子で驚きの表情を見せる。ルキノは驚かずに敵の目の前に行って爪で毛を引き裂いた。
「ひょ……お、大きな羊なのです、タタンは羊の毛刈りをするですよー!」
 驚きを呑み込んだタタンは誤魔化すように体をしゃがませ、真っ直ぐに敵に向かって跳躍し頭から突っ込んだ。その勢いに羊毛が刈り取られていく。そこへミミックのジョナ・ゴールドも続いてエクトプラズムで生み出した武器を振り回して叩きつけた。
『メエエエエエエ!』
 驚かなかったものに対し、不機嫌そうに鳴いた羊はその体毛でタタンとサーヴァント達を巻き取った。その毛のもふもふに戦意を奪われほんわかした表情になっていく。
「さぁ、思う存分もふるから覚悟しなよ?」
 楽し気にくすりと笑った萌花は植物の蔓を伸ばして羊の体を絡め取り、引き寄せるように力を込めタタン達を引き剥がした。

●ふわもこ
「もふもふして気持ちよさそうです……いえ、治療でしたね」
 思わず見惚れそうになったイドはオーロラの輝きで仲間達を包み込み、その体を癒し浄化する。
「戦闘開始よ、ガンガンぶち込んじゃって!!」
 姫菊は手にしたスイッチを押して鮮やかな爆発を起こし、仲間達の闘争本能を高めた。
「素敵なふわもこね、もふって寝てもいい?」
『メェエエー……』
 魔力を増幅させる口紅を塗った萌花が甘い言葉を囁くと、誘惑された羊は照れたように鳴いて動きを止めた。
「可愛いけど、倒さなきゃ……」
 その隙にエリースはボウガンを構え、放つ矢が羊の短い脚を貫く。
「何匹分の毛が刈れるでしょか?」
 楽しそうにタタンはメタルを覆った腕を羊の毛に突っ込み、毛を引き千切るように刈り取った。
『メエエエ!』
 すると怒った羊がタタンをふわふわな毛で弾き、お手玉のように宙に浮かせ地面に叩きつけた。
「シンシアも頑張ってね、遊ぶのに夢中になったらダメだよ」
 エーゼットは羊の居る空間の時間を一瞬だけ止め、その間に魔弾を撃ち出して羊の体に穴を空け、シンシアは任せてと元気にブレスを放った。
「さて、もふもふは堪能したくなるところですが、気をしっかり保っていきましょう」
 紫御は剣を地面に突き立て、光で守護星座を描いて仲間達に加護を与える。
『メ~メメ~エェ~』
 羊がのんびりとした鳴き声でリズムを取ると、その子守歌の如き声を聴いた者の意識が薄れてくる。
「可愛いふわもこに惑わされてはいけません……!」
 見惚れそうになるのを堪え杖を掲げた癒乃は、敵との間に雷の壁を築き子守歌の影響を防ごうとする。
「もこもこの毛、よく燃えそう……」
 エリースは炎を宿した矢をボウガンから放ち、羊の体に突き刺し毛に火を点けた。
『メエエエ!?』
 慌てて羊は燃える毛を地面や塀に擦りつけて火を消す。そして人が丸々収まるようなふわもこの毛玉を飛ばしてきた。
 避けそこなったエリースとエーゼットが直撃を受けて羊毛に取り込まれ、その気持ち良さに幸せそうな表情を浮かべた。
「もふもふに魅了されてしまう気持ち……よく分かります」
「減衰を避ける為、一人ずつ念入りに保護していきます!」
 すぐにイドはオーラを放ってその身を活性化させて正気に戻し、紫御も仲間を分身させて敵の目を惑わす。
「可愛くカットするですよ!」
 電柱を駆け上り大きく跳躍したタタンは足に星型のオーラを帯びると、羊の背を蹴りつけ星型に毛を刈り取った。
「やぁん、超かわいいーっ♪」
 わざとらしいぶりっ子口調で相手の気分を良くさせ、跳躍した萌花は羊の体を駆け上り蹴りを浴びせた。そして足で踏みつける感触を楽しむようにはしゃいで背中を駆け回る。
『メェエエ』
 羊は転がるようにして萌花を振り払い、そのままケルベロス達を巻き込み毛に捕えながら転がる。
「その自慢の毛を穴だらけにしてあげるわ」
 駆け出した姫菊が敵の周囲を回りながらリボルバーから弾丸を撃ち出して攻撃していく。それに対して羊がもこもこ毛を飛ばすと蹴って弾き飛ばした。
「足もあるんだな、これが」
 そして銃撃を続けて敵を牽制した。
「皆さん気持ち良さそうです……羨ま……いえ、このままでは危険です」
 本音の出そうになった癒乃は言葉を濁し、薬液の雨を降らせ冷たい雫で仲間達を惑わす毛を洗い流し正気に戻す。
「ずっと包まれてたくなるくらい気持ちよかった……だけどもう誘惑には負けないよ」
 毛を払い弓を構えたエーゼットは矢を放ち、弧を描いて死角を飛ぶ矢が羊の腹に突き刺さった。

●もこもこの絨毯
『メェッ! メェメメエ!』
 痛そうな声を上げた羊は方向を変えてエーゼットに向かって突っ込んで来る。その前に立ち塞がるミミちゃんとルキノが身を挺して攻撃を受け止め、ぼよよんと吹き飛ばされ、ルキノはふわふわの中に取り込まれた。
「痛そう……でも、攻撃しないと……」
 続いてエリースがボウガンの矢を撃つと、矢は弧を描いて羊の尻に突き刺さった。
「羊の丸呑みなんて初めてだけど、しっかり喰らってやるわ」
 姫菊の元から黒い液体が広がり、薄く大きくなって羊を丸々呑み込んで拘束した。
『メエエ!』
「羊毛ならきっとよく燃えるよね」
 駆けるエーゼットは羊の背に跳び乗り、炎を纏う蹴りを浴びせた。続いて萌花が羊の体に拳を打ち込むと、ふわんと柔らかな弾力が手に伝わる。
「あー、もう、この手触り最っ高!」
 そのまま攻撃しているのか遊んでいるのか分からぬ様子で、羊の体を抱きしめ羊毛の感触を楽しむ。
「その気持ち良さそうな毛を駄目にするのは残念ですが……」
 イドは弾丸を生成して撃ち出し、時を止めるようにふわふわの毛を凍りつかせた。
『メエェーメエエ!』
 羊は毛玉を撒き散らして周囲を包み込み、道路をもっこもこにしてしまう。
「そんなもふもふに惑わされたりするタタンではないのですよ!」
 勢いをつけて飛び込んだタタンは空中でクルクル回転して頭突きを浴びせ、そのままもふもふと感触を確かめるように抱き着いた。続いて飛びついたジョナが齧りつき、一緒に羊毛の中に囚われる。毛で覆われ皆が魅了されていく。
「も、もこもこふわふわには負けていられません!!」
 己が内の気を全身に巡らせ羊毛を弾き飛ばし、紫御は誘惑されていた意識を覚醒させる。
「もっともっとふわもこ~」
 目をぐるぐるさせて姫菊が毛に飛びつき埋まる。
「何だか見ているだけでも心が癒される風景ですが、放置もできませんね」
 癒乃は暖かなオーラを分け与え、試み出す敵の魅惑を消し飛ばす。
『メェ~メメエ~~』
 ずいぶんと毛を失い元気を失った声で羊が鳴き、そのゆったりとしたリズムにケルベロス達の瞼が重くなる。
「早く、終わらせて、あげる……!」
 エリースはミミちゃんから産み出されたエクトプラズム製の矢を番え、ボウガンの引き金を引く。放たれた矢は正確に羊毛の刈られた部分に突き刺さり内部へと食い込む。
『メェッ』
「D-ALICEの狂った茶会へようこそ。もふもふを楽しませてもらったお礼です。遠慮せずにお楽しみください」
 痛みに声が中断したところへ、魔道具を開いたイドは不思議の国のアリスを歪めた物語『D-ALICE』の力を解放し、敵の精神に干渉し心を惑わせて混乱させた。
「これは決して触りたいからではありません。 ふわふわもこもこでも容赦はしませんから……!」
 癒乃は掌に淡い生命の光を宿らせ、もこもこの羊に押し付けると灯はその生命力を燃やし尽くしていく。
『メエエエエ!』
 羊は毛玉を撒き散らしてケルベロス達をまるで雪だるまのようにしていく。シンシアはもふもふに埋められ抵抗しようとしたが、魅力に抗えず毛で遊び始めた。
「もふもふはもう堪能しました、これ以上は結構です!」
 紫御は視線を向けグラビティを集中して毛玉を爆発させ、仲間の周囲から吹き飛ばした。
「危なくもふもふに包まれて気持ちよく眠ってしまうところだったです。でももう効かないのです!」
 タタンは星を煌かせる蹴りを横っ腹に叩き込み、星型に毛をくり抜いた。だが周りの毛がその空間に押し寄せタタンを包み込み魅了する。
「ずっともふっていたかったけど、これ以上もふると手放せなくなりそうだし……」
 萌花は名残惜しそうにしながら蹴りを腹に叩き込んで、最後にもう一度だけともふりまくる。
「危なくふわもこに包まれて眠ってしまうところだったわ。お返しに永眠させてあげるわね」
 突っ込みながら姫菊はリボルバーを乱射して攻撃し、迎撃の毛を躱して懐に入ると拳で毛を抑え、皮膚に銃口を突き付けて弾丸を叩き込んだ。
「我が魂に眠る力よ、数刻の間ここへ……届け!」
 エーゼットは敵を周囲の空間ごと時を止め、その指先から魔弾が放たれ毛の隙間を縫うように羊の中心を貫いた。
『メェ……』
 ボンッと羊が爆発し無数の毛玉となって周囲に散り散りとなり、やがて雪が溶けるように消え去った。

●幸せな夢
 暗い部屋で薄っすらと瞼を開けて少年が目を覚ます。
「うーん、おおきな羊が……」
「もう大丈夫よ、安心して休みなさい」
 優しく姫菊がそう少年に告げると、寝ぼけたまま少年がまた眠りに就き、姫菊はそっと窓から外に出る。
「もふもふの余韻がまだあるかもしれませんが、気をしっかり保って下さいね」
 紫御は仲間にヒールを掛けて羊毛の影響を完全に取り除いた。
「気持ち、よかった、ね……」
 満足そうな雰囲気でエリースも無表情ながら声を弾ませて喜んでいた。
「もふもふして気持ちよかったですよ。あの毛の布団で眠ったらきっといい夢を見れるです」
 触り心地を思い出し、タタンは魅了されたように微笑んだ。
「実にいいもふもふでしたね。敵でさえなければ……」
 皆のようにもふもふを味わってみたかったとイドは羊の柔らかな毛の感触を想像する。
「もっともふもふしたかったけど、敵だから仕方ないよね……今度ふわふわのぬいぐるみ買おうかなぁ」
 エーゼットが気持ち良い毛の触り心地を思い出していると、シンシアが飛びついてきた。
「ってシンシア、くすぐったいよ……はいはい、もふもふなら君も負けてないね」
 構って構ってとねだるシンシアを撫でてやる。
「やばい。あの感触はちょっとマジで手ごわいやつだった。ダイブしてもふもふができそうな柔らかくておっきーぬいぐるみ、欲しくなるよね。こう、抱き枕的な」
 さっき味わったような人をダメにする感触のぬいぐるみが欲しいと、萌花は両手を広げて抱きしめる感触を思い出す。
「いつの日か、分かり合える日が来たら、街に優しいふわもこが満ちる日が訪れるのかもしれませんね……」
 周辺をヒールしながら癒乃はふわもこに包まれる想像をして目を輝かせた。
 誰もが幸せそうな顔で、今日は安眠できるに違いないと笑い合った。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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