真夜中の泪

作者:雨音瑛

●鳴るはずのない水琴窟
 夕日の差し込む教室で、高校生たちが話している。
 進路のこと。気になる相手のこと。部活のこと。そんな会話に割り込む少女が、ひとり。
「ねぇ、あなた達、怪談話は好きかしら?」
 黒いフードをかぶって燭台を手にした少女の雰囲気に驚き、生徒たちは思わずうなずいてしまう。
「今は使われていない飼育小屋のそばに、鳴らない水琴窟があるでしょう? 昔の校長が庭園を造ろうとしていたっていう場所よ。でも、時計が夜中の12時を示した時から明け方まで、勝手に鳴るんですって。……実は、昔この学校で自殺した少女がいてね。自殺の理由はわからないけど……少女は、水琴窟のある場所で亡くなっていたらしいの。その少女の幽霊がこぼす泪……それが、水琴窟の音を鳴らしているそうよ……」
 そうそう、とフードの少女は不気味な笑みを浮かべる。
「うかつに近寄ると、危ないわよ。その少女の幽霊、生者が憎くて憎くてしょうがないみたい。少女の幽霊がいる頃……つまり、夜中の12時を過ぎた頃。水琴窟を訪れると、少女の幽霊に襲われて命を落としてしまうらしいわ」
 教室が、静まりかえる。視線を落としてお互いの様子をうかがう生徒たちが再び顔を上げると、フードの少女はいつの間にかいなくなっていた。
「なんだったんだろ、あの子……?」
「でも、確かめてみたくない? 勝手に鳴る水琴窟」
「えー、でも本当なのかな?」
 言いながらも、生徒たちは興味深そうに少女の告げた怪談話をするのだった。

●ヘリポートにて
 八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)が警戒したとおり、ドラグナー『ホラーメイカー』が動いているとウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が告げた。
「ホラーメイカーは、作成した屍隷兵を学校に潜伏させた。その後は、怪談に興味のある高校生に、――作成した屍隷兵を元にした怪談を聞かる。そうして、怪談に興味をもった中高生が屍隷兵の居場所に自分からやってくるように仕向けているらしい」
 既に、行方不明になった者も出ている。早急な解決が待たれるところだ。
「ホラーメイカーが広めた怪談は、こんな話だ。『真夜中に、使われていない飼育小屋の付近で鳴るはずのない水琴窟の音が聞こえる。それは、自殺した少女の幽霊がこぼす泪によるものらしい。少女の幽霊は生者を憎んでおり、噂を確かめに訪れた人を殺そうとする』……この怪談の真偽を確かめるため探索しようとすると、屍隷兵に襲われるようだ」
 怪談を聞いた一般人の生徒が現場に現れないための対策。加えて、学校に潜伏する『怪談話に扮した屍隷兵』の撃破。それらが、今回ケルベロスに頼みたいことだという。
「怪談を元につくられた屍隷兵は、今は使われていない飼育小屋付近、水琴窟のある場所に現れる。時間は真夜中の12時だな」
 付近に照明はなく、12時ともなれば暗闇に包まれる。ホラーメイカーの話を信じた生徒たちも、懐中電灯やスマートフォンを片手に現れることだろう。
 また、ヘリオンから降下できる時間は12時より10分ほど前。それより前に潜入することはできないため、現場に到着次第、一般人が入り込まないような対策をする必要があるだろう。
 戦闘となる屍隷兵の戦闘能力はさほど高くはないが、状態異常の厄介な攻撃を使い分けてくる。睨み付けて石化させる攻撃、憎しみの心を炎に変えて放つ攻撃、地面にこぼした泪から敵軍までを一気に凍結させて凍らせる攻撃の3つだと、ウィズが説明する。
「そうそう、ホラーメイカー本人は現れないため、必要以上の警戒は不要だ。一般人の生徒が事件現場に現れないようにするための対策と、屍隷兵の撃破に集中して欲しい」
 と、ウィズは付け足した。
「屍隷兵を潜伏させてから誘き寄せる怪談をばらまくなんざ、随分と用意周到なドラグナーだな。まあ、とりあえずは屍隷兵の撃破……と、一般人が立ち入らないようにする工夫か。少しばかり面倒だが……協力、頼んだぜ」
 爽はヘリポートのケルベロスたちを見遣り、うなずいた。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)
八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)
相馬・竜人(掟守・e01889)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)
雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)

■リプレイ

●光を手に
 日付が変わろうとしているいま、学校に灯る光はグラウンドの外灯と非常灯だけ。
 それらの明かりと手元の明かりをたよりに、ケルベロスたちは飼育小屋へと向かう。
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)と香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)は、手分けしてキープアウトテープを貼ってゆく。
 飼育小屋に至る道を塞げば、興味を持った学生が訪れることはないだろう。
「泪にも色々種類はあるものですがー、気を惹く為のものはー、あまり良いとは言えませんわねぇー。特に誰構わず招いてー、深い淵に引きずり込むのは尚更ですのよー」
 ハンズフリーライトであたりを照らしながら、フラッタリーが呟いた。
「泪を流す少女かぁ……デウスエクスの作り話ってわかってても気になっちゃうよね。爽ちゃんはどう?」
 雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)に呼びかけられ、周囲の様子をうかがっていた八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)の笑顔が一瞬だけ固まった。
「あー、その呼び方にいい思い出がなくて……変えて貰っていーか?」
「ん、そうなの? じゃあ『爽くん』でどう?」
 それなら、とうなずく爽は小さく息を吐く。そうして、先ほどの話への返答を。
「幽霊はもちろんだが、どっちかというと幽霊の泪で鳴る水琴窟が気になるかな。中々好奇心そそられるシチュだからな」
 灯りを手に、爽は再び周囲に視線を巡らせた。
 かつて使われていた飼育小屋は、構造からしてウサギのものだろうか。金網の一部は劣化し、人の頭ひとつ分くらいが入りそうだ。
 その他にもいくつかの飼育小屋があるが、どれも生き物の気配はない。
 あとは、植えられた広葉樹が数本。それらが落とした葉が、地面に散らばっている。
 周辺にあるものは、どれも戦闘に支障の出るようなものではない。
 キープアウトテープを貼り終えた雪斗が、時計を見た。幽霊――屍隷兵が現れるには、まだ数分ある。
「屍隷兵使って悪さするなんて、嫌な敵やなぁ……本人を懲らしめたい所やけど……とりあえずは新たな被害者が出んようにせんと、ね」
「うんうん。私たちは誰かを泣かせるんじゃなくて、皆を笑顔にしてあげないと……ね?」
 利香は腕組みをしてうなずき、仲間たちを見渡した。もちろん、笑顔で。
「そろそろ、ですね」
 持ち込んだミニLEDライトで銀時計を照らし、カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)がつぶやく。
 ケルベロスたちは視線を交わした。
 直後、聞こえてくるのは何かを引きずるような音。と、呻くような泣き声。
 やがて照明に照らされる、異形。
 ぱっと見は、細身の少女であった。そんな屍隷兵の姿に驚きながらも、利香は妖刀『供羅夢』を抜く。
「これ以上の犠牲は嫌だからね」
 抵抗感は否めない。それでも、ケルベロスとして。
 相馬・竜人(掟守・e01889)も、手にした髑髏の仮面で、顔を覆う。
 屍隷兵は、一歩、また一歩水琴窟に、ケルベロスたちに近づいてゆく。
 ぽたり、ぽたりと泪が落ちる。
 それは口にし得ない理不尽があるという情の顕れか。なれば、フラッタリーには不要なものだ。フラッタリーのサークレットが展開し、金色に輝く瞳が少女を見据える。次いで、額に隠していた弾痕から地獄の炎が迸った。

●暗雲
 少女も、ただ泣いているだけではない。だらりと下がった腕、その両の拳を握りしめ、篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)目がけて炎を放った。
 身構え、炎の熱に耐えようとするメノウの眼前を、竜人が遮る。
「メディックからやろうなんざ、随分と姑息な手だ。ま、させねぇがな」
 仮面ごしのくぐもった声で、屍隷兵の少女に言い放つ。
「ありがと、竜人さん」
 メノウの言葉に、竜人は視線だけで応えた。
 自身の仕事を全うしようと、メノウはアメノハバキリを手に星辰を描く。その動作は、まるで演舞のよう。
 前衛にもたらされる加護の向こうに、屍隷兵の少女が見える。
 メノウはもともと、怪談に興味を示さないタイプだ。ケルベロスとしての仕事をしていると、自ずと怪談じみたことに首を突っ込むことになるからだろうか。
「……怪談も七不思議も怖い思いするくらいでちょうどいい。死人が出たら、そりゃB級スプラッタ映画だよ」
「違いねえ。ま、でも俺らケルベロスが介入したんだ。ここから先はアクション映画くらいにしておきたいな」
 苦笑し、爽は魔術陣を顕現させた。
 身に着けた鉱石を媒介に、水晶回路にて味方前衛それぞれの守護惑星に接続する。
「清らな路より訪い給え」
 付随させるは、癒しと加護。続いて動いたのは、御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)だ。
「助力しよう」
 そう言って蓮は縛霊手「散華」から紙兵を撒き、後衛に耐性を与える。
「人は未知なる存在に心惹かれるのが常だが、死ぬという噂であっても興味を示すとは命を賭けるに値する程のものか?」
 独りごち、蓮はオルトロス「空木」が咥えた剣で少女を一閃するのを見届ける。悲鳴を上げる少女は、呻きながらも逃走する素振りは見せない。
「……噂の為に殺された被害者、こんな事の為に理不尽に断たれた命を救えるわけではないが、ここで終わらせよう」
「だね。じゃあ、いっくよー♪」
 ドラゴニックハンマーを変形させ、利香は竜砲弾を撃ち出す。妙に明るい物言いは、虚勢かもしれない。
 動かないでねと呟いて、砲弾が落ちるのを見届け。
「……どっかーん!」
 着弾と同時に、自らも声を張り上げる。
 未だ爆風が止まぬ中に、獄炎の縄を投擲するのはフラッタリーだ。その顔には乾いた笑みを浮かび、まるで少女の嘆きを一笑に付すよう。ただ、地獄へと葬送しようと。
 ケルベロスたちの攻撃を受け、少女ははらはらと泪をこぼしては応戦する。
 舌打ちひとつ、竜人は右腕を竜のそれに変えた。さらにグラビティで強化し、一息で少女との距離を詰める。
「挑んでくるか? 上等、かかって来な挑戦者、咬み千切ってやるからよ――ああ、竜が相手だ。逃げても誰も咎めねえぜ?」
 少女を殴り伏せ、距離を取る――前に、少女へと告げる。
「泣くっつーのはよ、何か忘れたい感情だの想いだのあるからするもんなんだよ。……テメエは、何を忘れたいんだ?
 竜人の問いに、少女は応えない。呻き、泣くだけだ。今度こそ、竜人は距離を取る。
 自身の手番。一呼吸し、カロンは魔導書を開く。招来した粘菌は少女に絡み、じわじわと悪夢を見せつける。
 すかさずミミックの「フォーマルハウト」が噛みつき、その間に雪斗が武器から弾丸を生成する。
 放てば穿たれる、少女の体。苦悶の表情を浮かべる少女から、雪斗は思わず視線を逸らす。屍隷兵にされた少女は、どんな気持ちだったのだろう。
(「……きっと怖かった、よね。苦しかったよね。……だから今でも泣いてるのかも」)
 本当なら、傷つけるようなことをしたくはない。しかし。
「屍隷兵のままここにいていいはずないから、なぁ」
 雲に覆われた夜空を見遣れば、今にも雨が降りそうであった。

●どこかで暗く嗤う者
 戦いは続く。
 ある者は躊躇しながら、ある者は直情的に、少女へと攻撃を仕掛けてゆく。
 利香は大きく息を吐き、黒雷をボール状に固めた。
「撃ち込む!」
 利香の放った黒雷は少女に直撃する。
 少女の片目から、つう、と泪が流れた。言葉を話すでもなく、うめき声をこぼすためだけに動く口。
「ホラーメイカーの屍隷兵はどうやって作られて……まさか……だよね……?」
 屍隷兵は、地球の生物の肉体をベースにしてつくられている。息を呑み、利香は思い切り首を振る。これ以上考えても、辛くなるだけだ。
 それは、雪斗も同じだ。素早く竜語魔法を唱え、竜の幻影を以て少女を灼く。
 目の前にいるのは、屍隷兵にされた少女。流れる泪に心を痛めるが、同時に怒りも抱く。それは少女にではなく。
「ホラーメイカー……」
 歯噛みし、雪斗はつぶやいた。その言葉を聞き取った蓮が、静かにうなずく。
「話に纏わる被害者を作り上げ、嘘を事実にしようとするとは」
 蓮はため息をつき、少女を見遣る。そうして、古書に宿る思念を自らの身に降ろした。
「…来い、くれてやる。代わりに刃となれ」
 赤黒い影の鬼は豪腕にて雷を伴う風を起こし、少女の体を切り裂く。
 ふと視線を外せば、少女のすぐそばには悲しみの泪で奏でるという水琴窟があった。
「――間違いでは無い。噂の溜めに殺された被害者、その無念の、嘆きの泪だろう……原因を作った奴を引き摺り出せないのは残念だな」
 蓮の言葉にカロンはうなずき、バスターライフルの狙いを定める。
「好奇心を利用し学生を狙う事件も、その為に屍隷兵を作り出したことも許せません」
 助けることができないのは、わかっている。だからせめて、これ以上の被害者を出さないことを救いに、と。引き金を絞り、光弾を放った。
 さらに空木が瘴気を放ち、フォーマルハウトが偽の財宝をばらまく。
 少女の嘆きは、未だ続いている。
 泣いている女々しさは、竜人にとって気にくわないものだ。苛立ちを怒り、あるいは殺意に代え、竜人は少女の背後に回りこむ。
「テメエが泣こうが喚こうが知ったこっちゃねえよ。俺らに会っちまった不運を嘆いて泣くこった」
 跳躍から一瞬で繰り出した蹴りは、重い。星屑混じりの一撃に少女は体を仰け反らせ、それでもどうにか体勢を整える。
「今日日泣いて何でも解決してくれる男ばっかだと思ってんなよ。むしろ女のが強ぇんだからよ。ちったぁ見習え」
 仮面越しに仲間を見て、竜人は目を細めた。
 少女もまた、目を細める。その視線の先には、竜人。
 竜人を含めた前衛に、少女の攻撃による状態異常が残っている。メノウは薬液の雨を降らせ、癒しを与えた。
「ううん、まだちょっと状態異常が残ってるなあ」
「任せろ、援護する」
 癒しの雨が降り終わり、爽はすかさず極光で仲間を包み込む。
 ヒールを受け、フラッタリーは少女に真正面から接近する。振り上げるは、鉄塊にも似た無骨な剣。
「其ハ雫、雑音、肉nO歪ミ。心ヲ真似タ空言ナリヤ」
 泪を払い、嗚咽を嗤い、悲嘆の面を切潰す、容赦ない攻撃であった。

●泪の音
 少女の受ける傷は深くなってゆく。ケルベロスも少女による攻撃を受けて傷を負うが、癒やし手が、あるいは回復の手段を持つ者が的確に癒やし手ゆく。
 対して、少女には、癒しの手段がない。勝敗が決するのは、もはや時間の問題であった。
「……出来ればこんな噂に変えられてしまう前に防げれば良かったが」
 蓮は散華の拳を握りしめ、少女へと肉薄する。
 人の命を弄ぶ行為には、怒りを覚える。それでも顔には出さない。
 せめて苦しまないように、最後は光へと導かんと、蓮は少女へと一撃を加える。主の思いに同意するように空木は目線を上げ、神器の瞳で少女を睨み付けた。
 そこに撃ち込まれるのは、利香による砲弾。竜人も同じく砲弾を咥え、声高に叫ぶ。
「いいからさっさと死んどけや、なあッッ!!」
 フラッタリーはまるで躊躇せず、爆風の中に突っ込む。鉄塊に炎を纏わせ、少女へと叩きつけた。
 雪斗は少女を見遣り、スノードロップの花を具現化する。
「この花を、キミへ。――もたらされるのは、『希望』でも『慰め』でもないけれど」
 下向きに花弁を垂れる花は少女を追い、喰らいつく。
 春告の花は、少女への弔いの思いも込めて。漂う甘やかな香りをわずかに感じ、雪斗はそっと少女を見遣った。
 エクトプラズムの武器で少女を殴りつけるフォーマルハウトに続き、カロンは重力を足に集中させる。
 痛みゆえか、あるいは待ち受ける自らの運命にか。少女がこぼす泪は、瞬時に地面を凍らせる。凍てつく流れは前衛に到達し、ケルベロスたちに痛みを与える。ひときわダメージの大きいフラッタリーに向け、メノウは日本刀「連光」を振って真空の刃を発生させた。
「清き風、邪悪を断て!――回復術、”禍魔癒太刀”!!」
 刃は霧散し、フラッタリーの傷をたちまち消し去る。
 直後、一歩踏み出すのは、爽。簒奪者の鎌「SilberKristallAugen」を手に、少女の前に立ち塞がった。
「泣くのはもうお終いだ」
 虹銀の刃が閃く。
 少女の首が落ちる。
 少女の全てが消える。あとには何も、残さずに。
 ヒールグラビティを持つケルベロスたちは、手分けしてヒールを施してゆく。
 その間、カロンは断末魔の瞳で現場周辺を調査する。少女が残したものは何もない、ならばせめて行方不明となった被害者の情報だけでも、と。
 断末魔の瞳で見えるのは、被害者の視点の視覚情報のみ。現れた屍隷兵が一瞬だけ見え、逃げようと背中を向けたのだろう、視界から屍隷兵が消え、見える風景の流れる速度が上がったかと思えば、眼前に地面が迫り――そこで、カロンの見えていた映像は途絶えた。
 カロンは黙って首を振る。得られたことは少ないが、帰宅がてら警察に連絡しようと静かにうなずくのだった。
 ヒールを終えたメノウは、ふと校舎を見遣る。
「夜の学校ってどーしてこんなに怖いんだかね……折角だから探検したい気もするけど、これ以上は普通に不法侵入だね」
 帰って寝よーっと、とあくびをひとつ、メノウはその場を後にした。
「女の子は、少しでも楽になれたやろか?」
 雪斗はしゃがみこみ、そっと水琴窟に花を供える。その様子を見て、蓮もまた手を合わせて心の中で経を唱える。
 仲間の行動を見守りながら首をかしげるのは、爽。
「……水琴窟にヒール掛けたら鳴ったりしねーかな?」
 そう言っておそるおそるヒールをする爽の頬に、ぽつりと雨粒が落ちる。
 雨粒はひとつ、またひとつと落ち、ケルベロスたちを濡らしてゆく。
 雨が地面に落ちる音に混じって、妙に反響する音が聞こえる。
「水琴窟……鳴ってますね」
 カロンが少しばかり目を見開き、水琴窟を見た。
「うん……もう、悲しい音が鳴らないと良いね」
 雪斗は目を閉じ、水琴窟の音に聞き入る。
 規則的に、雨の落ちる音とは違うタイミングで。水琴窟は、静かに響いていた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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