珠代と誠

作者:紫村雪乃


 タイヤが悲鳴をあげ、車がとまった。が、すぐに車は走り出した。後にのこされたのは血まみれの女性だ。年齢は十七歳くらいだろうか。
「……誠」
 女性――珠代の口から弱々しい声が漏れ出た。誠というのは珠代の恋人の名である。
 誠はある暴力組織の構成員であった。田舎から家出してきた珠代と知り合ったのは一年前であった。
 二人は知り合い、すぐに恋におちた。そして一年。ある日、誠は傷だらけで帰ってきた。
「組をぬけてきた」
 誠はいった。二人の将来のため、誠は堅気になったのだ。満身の傷はそのために負ったものであった。
「生きているだけましなのさ」
 そういって誠は笑った。そして誠はいった。結婚しよう、と。
「……か、帰らなく――」
 珠代の声は途絶えた。その頬を涙の雫が伝い落ちている。
 次の瞬間だ。珠代のそばに異様なものが現出した。
 下半身が魚である女。が、人魚のような優美さはない。真紅の瞳はあまりにも不気味で禍々しかった。
 エピリア。死神であった。
 ニタリと笑うと、エピリアは珠代の身体に歪な肉の塊を埋め込んだ。
 幾許か。
 突如、珠代の身に異変が生じた。両足がひとつとなったのである。それは蛇の尾と変わった。
 腕は四本ある。爪は刃のごとき硬度と鋭さをもっていた。
「あなたが今、一番会いたい人の場所に向かいなさい。会いたい人をバラバラにできたら、あなたと同じ屍隷兵に変えてあげましょう。そうすればケルベロスが二人を分かつまで、一緒にいることができるでしょう」
 エピリアが告げた。すると珠代はゆらりと動き出した。誠の待つアパートにむかって。


「死神『エピリア』が、死者を屍隷兵に変化させて事件を起こしているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロスたちにむかって口を開いた。
 エピリアは死者を屍隷兵にした上で、その屍隷兵の愛するものを殺すように命じているらしい。その死者の名をセリカは告げた。
「珠代さんは知性を殆ど失っていますが、エピリアの言葉に騙され、愛する人と共にいる為に愛する人をバラバラに引き裂こうと移動しています」
 セリカは二つの場所を口にした。ひとつは珠代が死んだ場所。ひとつは誠が待つアパートであった。その二つの場所を珠代は移動する。
「このままだと珠代さんは愛する人を殺し、その殺された者もエピリアによって屍隷兵とされてしまうでしょう。もう珠代さんを元に戻すことはできません。けれど彼女が愛する者を殺すような悲劇なら食い止めることはできます」
 言葉を切ると、セリカは敵の戦力について説明をはじめた。
「武器は爪です。それは刃のように鋭く硬い。のみならず弾丸のように撃ちだすこともできます。威力は絶大。ただし敵の体力は高くありません」
 セリカの瞳に光がゆらめいた。哀しみの光だ。
「悲劇の連鎖が起こる前に、屍隷兵に止めをさしてあげてください」
 セリカはいった。
「わかりました」
 静かに、その娘はうなずいた。
 人形のように整いたすぎた美貌。それはあまりに非人間的であった。が、その瞳にやどるのは怒りの炎である。
 リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)。それが娘の名であった。


参加者
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
ライツェン・リ(龍顎・e23606)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)

■リプレイ


 血の滲んだような月光の降り注ぐ夜。
 鳴る風音に怨嗟の響きを聞いて、リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)は足をとめた。
「嘆きの歌か」
 リティの白磁の頬を憂愁の翳がおおった。かつて索敵及び指揮連携支援機であった彼女にも、今は心がある。その心が痛かった。
「ミッション、標的とされた一般人を狙う屍隷兵及び死神の排除」
 抑揚を欠いた声がリティの唇からもれた。が、すぐにその声が震える。怒りのために。
「屍隷兵にされた少女が、愛する男を手に掛ける。そんな胸くそ悪い結末は……変えてみせる」
「轢き逃げで殺され、それを死神に利用されるか。せめて恋人をその手で殺すことを防ぎ、供養としよう」
 精悍でありながら端麗という風貌の男がいった。人ではない。竜種であった。のみか、その裡には強大な神――デウスエクスを飼っている。龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)という名のケルベロスであった。
「この辺りでいいか」
 隆也は空き地に目をむけた。かなり広く、戦闘に支障はなさそうだ。
「そうだな」
 想いの熱さを思わせるかのような赤髪の少年がうなずいた。ここからはまだアパートまでは遠い。屍隷兵とされた女性の愛する男性が戦闘に気づくおそれはないだろう。
 絶対にその男性に気づかれてはならなかった。愛する者が殺戮されるところを目撃し、正気でいられる者などいないからだ。そんな悲劇は真平であった。
「キープアウトテープを貼るか」
 少年――ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は立入禁止テープを貼り始めた。これで一般人が空き地に入り込むことはないだろう。
 そして幾許か。
 すうと風がケルベロスたちに吹き付けた。水を含んだような冷たい風が。
「来たよ」
 闇の中、爛と赤く目が光った。青の髪を結った、秀麗な相貌の娘だ。
 名は館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)。かつて見上げた月に心奪われたレプリカントだ。
 その詩月にはわかる。異様な気配が迫りきたることが。
 詩月は戦闘システムを起動させた。各種監視センサーが身体各部を走査する。
 やがて紅い月光にぼうと影が浮かび上がった。
 長く艶やかな髪。わずかに幼さの残る端正な相貌。が、瞳は爬虫のそれであった。
 腕は四本ある。爪は刃のごとき硬度と鋭さをもっていた。そして足はなく、蛇の尾を有していた。
 腕は四本ある。爪は刃のごとき硬度と鋭さをもっていた。
 人間ではない。それは半人半蛇の異形であった。


「くっ」
 大きな紫の瞳が特徴的な愛らしい顔をゆがめ、豊満な肢体の少女が唇を噛み締めた。シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)である。
 珠代という女性。おそらくは美しい女性だったのであろう。それが今や恐るべき姿と変貌し、妄執にとりつかれている。あまりに無残であった。
「エピリア……死んだ人を利用し、想いを利用する……。絶対に許せない……!」
 怒りに震える声をシルヴィアは押し出した。するとくぐもった声が流れた。
「生きているだけまし……か。皮肉すぎる展開だよ、本当に……こんな事に、なるなんて」
 声は山羊の頭骨の内から発せられていた。無論、素顔は見えない。声かに察するに若い娘であろう。マントを身につけており、呪術師を思わせる不気味な出で立ちであった。――クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)だ。
「死者の冒涜アルナ」
 ライツェン・リ(龍顎・e23606)という名の男がいった。二十歳半ばほど。いつも笑顔をうかべている。
 が、一瞬だけ、その顔から笑みが消えた。細くつり上がった目の奥にちろりと青い炎が燃え上がったようだ。
「これ以上の悲劇はたくさんアル。頭は冷静に、心は燃えたぎるマグマのように」
 ライツェンは独語した。すると、その顔に再び能面めいた笑みがもどった。どこか底知れぬところのある若者である。
 その眼前、するすると屍隷兵は迫った。爬虫の目は遠くを見据えている。ケルベロスたちに興味はないようであった。
 が、すぐに屍隷兵の歩みはとまった。その前に人影が立ちはだかったからである。
 それは黒の着流しにさらしをまいた女であった。長い黒髪を無造作に結わえて背に流し、右目に一筋の朱筋をはしらせている。その右目から噴いているのは地獄の業火であった。
「お待ちなせえ」
 女――茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)は右手をあげて制した。
「やくざ者に惚れなすったのか、お前さん。あっしなんぞは侠を追って日陰道に入った口じゃァありやすが、そこに来るとお前さんの場合、侠の方がお前さんの傍の日向へ来るべく足を洗って来たと。――良い女だったんでございやしょうねえ、お前さん」
 しみじみとした口調で三毛乃が語りかけた。対する屍隷兵は黙したままだ。一瞬爬虫の目によぎった光は哀しみの涙か、それとも怒りの炎か。
「さあ、弔いを始めるアルヨ!」
 ライツェンがぎらと目を上げた。その視線の先、空を泳ぐ深海魚のような異形の姿がある。死神だ。
 するとリティが小型偵察無人機を放った。敵を確認。情報を入手するとともに解析、それに従って自身の戦力を最適化する。
「敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
 リティが情報を仲間に伝えた。
 瞬間、ロディの手にリボルバー拳銃が現れた。魔法のような手並みである。
 ロディはトリガーをしぼった。弾丸をばらまく。
 それが合図。ライツェンの手から大鎌が飛んだ。
 それは旋風と化して疾った。死神をざっくりと切り裂く。
 同じ時、空を竜が翔けた。それはクロエの掌から放たれた幻影である。
 竜が炎を吐いた。死神が紅蓮の奔流に飲み込まれる。
 その時だ。
 四つの光が閃いた。


 しぶいた鮮血は四筋あった。
「くうっ」
 苦悶しつつ、詩月が崩折れた。唇を噛み、三毛乃もまたがくりと膝を折る。
 愕然としてリティは眼を見開いた。一瞬にして仲間が一人倒れ、さらに一人は深く傷ついている。恐るべき屍隷兵の戦闘力であった。
「ううぬ」
 隆也もまた呻きつつ屍隷兵を見上げた。まるで返礼であるかのように屍隷兵もまた隆也を見下ろす。
 魔性と変じても珠代は美しかった。唇は血を塗りつけたかのように紅い。真珠色の歯の間から、時折艶かしく舌が動いた。
 と――。
 屍隷兵が隆也を抱こうとするかのように手をのばした。が、その手が愛撫の為にのばされたものではない事は容易に知れた。二対のその先には氷の刃のような爪が煌いていたからだ。
 咄嗟に隆也は跳び退った。接近戦は不利と判断したからだ。一対一にもちこまれたら、いかなケルベロスとて瞬殺されかねなかった。
「危ない」
 叫び、クロエが地を蹴った。隆也の前に踏み込むとゲシュタルトグレイブを繰り出す。紫電をまとわせた巨槍の穂先が屍隷兵の身体を穿った。放電された稲妻が空間を青白く染め、灼く。
「おおん」
 紫電をからみつかせた屍隷兵が身悶えた。麻痺しているのである。
 その時だ。屍隷兵の脇をすりぬけて死神がケルベロスに襲いかかった。
「邪魔するんだね」
 咄嗟にクロエはゲシュタルトグレイブをかまえた。が、遅い。するすると迫ると鋸刃状の歯をむき、サメのようにクロエに食らいついた。
 ああ、という呻きとともに鮮血が空にしぶいた。クロエを噛み裂いた死神が空を泳ぐ。咀嚼しているのはクロエの肉片だ。
「これくらいで」
 血まみれの身をたてなおそうとしたクロエであるが、その動きか凍結した。ぬう、と屍隷兵がクロエに肉薄したからだ。
 上下左右、どちらも避けもかわしもならぬ一撃である。それをクロエは――。
 薙ぎおろされた刃が、がっきとばかりに冴えるナイフの刃で受け止められた。クロエをかばった三毛乃だ。疾風のごとき屍隷兵の一閃を受け止め得たのは三毛乃なればこそであった。
 が、残る三撃を避けえる余力はさしもの三毛乃にはない。血に飢えた三つの刃は容赦なく三毛乃を切り刻み――鮮血は確かに散った。が、他にも散ったものがあった。半透明の超越存在――御業だ。
 光の乱舞。目眩く光の中で三毛乃の傷が癒されていく。
「 式の早打ちは得意でね」
 詩月がニッと笑んだ。
 通常、符を作り上げるには数時間、下手をすれば数日はかかる。驚くべきことに四月はそれを転瞬の間に成し遂げてしまったのだった。
 その時である。死神が身を反転させた。
 刹那だ。歌声が流れた。思い出を胸に、ひたすら前に歩む者たちの凱歌だ。口ずさむのはシルヴィアである。
 死神が怯んだ。彼らには未来も希望も眩しすぎるのだった。
「お前たちには無明の闇こそふさわしい」
 叫ぶ声は空で響いた。舞ったのは隆也である。
 猛禽のように飛翔する隆也の足がはねあがった。それは刃の鋭さを秘めた蹴りだ。
 空間すら切り裂きつつ隆也のつま先が疾った。それは逃げる余裕もない死神を粉砕した。


「ガッ!」
 死神が吼えた。が、その響きはさらなる轟音によってかき消された。雷鳴だ。
 世界を青白く染め、雷の壁が屹立していた。その向こうに佇むのは白き美影である。リティだ。
「退れ、下劣なる死神。もう誰も傷つけさせはしない」
 リティが叫んだ。すると雷の壁がさらに輝きを増した。仲間の傷が癒えていく。
 その時、じれたように死神が動いた。一息に間合いを詰める。
「させるかよ! 持ってけ、ありったけ!」
 ロディの絶叫。重なるファイヤーボルト――リボルバー銃の咆哮は一つ。が、空を疾る銃弾は六つあった。
 ファニングショット。発射速度を上げるため、添え手側の手の平でハンマーを起こして連射するシングルアクションならではの撃ち方である。達人ならば一秒足らずで六発全弾を撃ち切ることも可能だ。
 が、ロディの天才はそれすら凌駕した。数瞬で彼は全弾を撃ってのけたのだ。
 怒涛のごとく乱れ飛んだ弾丸が死神を撃ち抜いた。肉塊と化した死神が地に落ちる。
 それを見習ったか、どうか。空を弾丸のように疾ったものがある。爪だ。
「ぐふっ」
 ロディの口から鮮血が噴いた。彼の首を爪が貫いている。
 あくまで悲しげに屍隷兵がケルベロスたちを見回した。そして四本の繊手をのばした。
「まずい」
 とは、誰の発した言葉であったか。咄嗟にケルベロスたちは身を伏せた。その頭上を流れすぎた爪が機関銃の乱射のように周囲の地を穿つ。幹を砕かれた木が音をたてて倒れた。
 その結果を見届けることもなく、屍隷兵は再び這いずりだした。アパートにむかうつもりだ。
「いかせるわけにはいかない」
 詩月が屍隷兵を睨みつけた。いや、睨みつけようとした。
 眼前にあるは只の屍隷兵。そう思い込まなければ心が挫けそうであった。
 詩月の身に固定された砲身が屍隷兵の方にむいた。ロックオンする。
「躊躇っちゃいけないんだ」
 その詩月の声は轟音にかき消された。唸り飛ぶ砲弾。屍隷兵が爆炎に包まれた。と――。
 爆炎を割って爪が飛んだ。が、緋袴に似たアーマーを翻し、詩月は爪を躱す。
 その隙をつくように屍隷兵が飛び出した。するすると詩月に迫る。その顔は邪魔者に対する怒りに歪んでいた。
「そんな顔は見たくないアル。貴方には微笑みが似合うアルよ」
 ライツェンが屍隷兵の前に立ちはだかった。怒りに燃える屍隷兵の爪が彼を薙ぐ。
「はっ」
 大鎌が爪をはじいた。同時にライツェンは前に出た。裏拳を屍隷兵の胸に撃ち込む。蟷螂拳の応用であった。
 拳の衝撃に屍隷兵が後退した。その眼前、迫ったのは隆也である。
「哀れなるかな。詫びは、いつかあの世で」
 隆也の手刀が空を袈裟に疾った。光の奔流がざっくりと屍隷兵の肉体を切り裂く。
 我流戦闘術。
 龍造寺隆也が実戦の中で編み出した戦闘術だ。夢想自然の流れる動きを重んじており、オーラを込めたその一撃はあらゆるものを切り裂く。
「おおおおお」
 屍隷兵が吼えた。それは慟哭のようにケルベロスたちには聞こえた。
 耳を塞ぎたい衝動をおさえつけ、三毛乃ははしった。
「いきやすぜ」
 クロエに目をやる。するとクロエはうなずいた。
 早く終わらせる。それがクロエの決意であった。長引かせて苦しめる意味などないからだ。
 三毛乃が跳んだ。真上から屍隷兵にチェーンソー剣の刃を叩き込む。
 駆動式の刃と屍隷兵の爪が噛み合った。ギリギリと音たてて火花が飛び散る。
 ぎらり。
 下方から爪が疾った。反射的に三毛乃が空に飛ぶ。翻った彼女の黒髪を断ち切り、爪が上方に流れた。
 その時、屍隷兵の背後にはクロエが躍り上がっていた。
「ごめんね……こうするしか、ないんだ」
 哀しげに唇を噛むと、怒りを力に変え、クロエは大鎌を一閃させた。
 きらり。
 光がはじけた。そして、どうと屍隷兵が倒れた。もはや動くことはできない。それでも愛する者を求めるかのように手をさしのばした。
「助けられなくて……ごめんなさい」
 屍隷兵の――いや、珠代の手をシルヴィアがとった。優しく握る。
「遥かな命の果て……。もう戦わなくて良いの、もう頑張らなくて良いの。さぁ、新しい未来へ……」
 シルヴィアが歌いだした。流れる調べは魂と身体を邪悪により歪められた者を解放する祈りの鎮魂歌だ。
 深く、静かに、歌声が響く。その時、ケルベロスたちは見た。黒い鎖から解き放たれた珠代が天にのぼっていく幻を。
「冥福を祈る」
 つぶやくと、隆也は瞑目した。

 ケルベロスたちがアパートにたどり着いのは三十分ほど後のことであった。姿を見せた誠に事情を説明したのはクロエである。
「……それは本当のことなのか?」
「これを」
 問う誠にライツェンがネックレスを手渡した。屍隷兵がつけていたものだ。
 受け取った誠の顔がくしゃりとゆがんだ。そして泣き崩れた。
「珠代さんの事故解決は警察の仕事」
 困惑した顔でリティが誠を見下ろした。怒り、哀しみ。様々な感情が彼女の内で渦巻いている。あまりの感情の激流にどんな顔をしていいのかわからないのだった。
「珠代を利用した死神は、私達が必ず倒す」
 やっとの思いでその言葉をリティは押し出した。その肩に優しく手をおくと三毛乃がいった。
「気の毒でござんしたね。忘れろとは言いやせん。次の女を探せとも断じて言いやせん。ただ一ツだけ。達者にカタギとして生きなせえ。それがお前さんに出来る弔いの一ツでさァ」

 しばらくしてケルベロスたちはアパートを後にした。誠がこれからどうするのか、ケルベロスたちにはわからぬことだ。
「……震えてる」
 詩月が自身を手を見下ろした。抑えていた怒りと無力感で身体が震えているのだ。
「俺も同じだ」
 ロディもまた拳を見下ろした。詩月と同じように震えている。
「悲しみを止めるために銃を手に取り、スキルを磨き、ケルベロスとなった。……それなのに、オレにはこんな事しか出来ないのかよ!」
 ロディが吼えた。ひしりあげる狼の咆哮のように、その絶叫は夜を引き裂いた。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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