ミッション破壊作戦～歪なる尖兵に引導を

■リプレイ

●ミッション１６－１「福島県いわき市」
　福島県いわき市――ハワイ色を押し出した観光イメージ戦略がユニークだが、最初に「屍隷兵」のミッションが発動された地という方が、ケルベロスには通りが良いだろう。
「造られし者達、ですか……」
　ヘリオンの席で溜息を吐くアーネスト・シートン（動物愛護家・e20710）。
「それにしても、屍隷兵はどれぐらいいるのでしょうかね」
　既に屍隷兵のミッション地域も複数。冥龍ハーデスが創造した「不完全な神造デウスエクス」は、敵戦力として定着した感がある。
「兎も角、まず、被害を抑える為に、倒していかないといけないですね」
　何より、無尽蔵の増援を可能とする、強襲型魔空回廊の破壊を。
「まあ、俺としては、敵にしろ魔空回廊にしろ、目の前で粉々に吹き飛ぶのが見られたらそれで」
　肩を竦める百目鬼・命（眼鏡に総てを懸ける者・e25832）は、三六式対物狙撃砲・改の手入れに余念が無い。
（「歪められた因果に囚われた人々を、あるべき流れへと還す為に」）
　刹那、祈るように紅玉の瞳を伏せるイルヴァ・セリアン（あけいろの葬雪花・e04389）。
「死して尚、尊厳を踏みにじられる人々を、もうこれ以上生み出さない為に……わたしは、戦います」
「ああ、死は尊ぶべきもの、汚す事は許されない」
　御神・白陽（死ヲ語ル無垢ノ月・e00327）の主張は、本性に則したというべきか。明け透けに出来ぬ性状だからこそ、己の糧に真摯に向き合うのだろう。
「そろそろ、かしら」
　１人離れた窓際から、エヴァンジェリン・エトワール（白きエウリュアレ・e00968）は訥々と報せる。高度上空故に、流石にミッション攻略中の同胞までは確認しようもないが、速やかに撤退出来るよう、ルートの想定はしっかりと。
「了解」
　徐に両目を開く比良坂・陸也（化け狸・e28489）。論理と感情、相反を重ねゆく時間は彼なりの精神統一。頬張った赤飯のお握りをごくりと呑み込む。
　赤飯の握りは、歳離れた友からの厄除け。長谷川・わかな（白のかくれんぼ・e31807）曰く「熊神さま」が無事の帰還を祈願してくれた。
「いくぜ、わかな！」
「うん、おじー……陸也くん、頑張ろうね！」
　咄嗟に出掛ったかつての呼び方を、言い直した少女の頬が染まった。新たな絆を重ねて肩を並べる少年少女が、初々しくも微笑ましい。
「さーて、晶撃的に攻撃しようかだぜ！」
　常の笑顔に不敵を滲ませ、タクティ・ハーロット（重力を喰らう晶龍・e06699）もハッチへ歩み寄る。
「はぐれるんじゃないんだぜ、ミミック」
　強風が青年の竜翼を煽り、ミミックはエクトプラズムを発しながらその背にしっかと掴まった。

●歪なる尖兵に引導を
　ミミックを背に、タクティは１番手で飛び出した。
（「屍隷兵が現れるという事は……何処かで屍隷兵にされた人達が居るという事」）
　屍隷兵製造技術は、螺旋忍軍『凶つ月のハクロウキ』を経て、他勢力にも流出した。いわき市に出現する「螺旋屍隷兵」が、屍隷兵製造の基となった可能性もあるだろう。
（「嗚呼、気に食わない……屍隷兵も！　送り込んできてる奴らも！　この流れを止められなかった自分も！」）
　憤るタクティの表情も険しくなる。だが、後悔なんて後でいい。今こそ、悲しき連鎖を止める第１歩を踏み出す時！
「叩き切れ！　グラディウス！　俺たちの思いを全て持っていけぇぇえ！」
　イルヴァも又、デウスエクスの所業に怒りを燃やす。
（「在るべき姿を歪ませ、人々の平穏を乱し、心を踏みにじり、尊厳の全てを奪い去る……そんな非道、わたしは絶対に許さない」）
　何より、死して尚、苦しめられる多くの命を軛から解き放とうと決意する。
（「囚われた人々の魂に、心に、肉体に救いを……屍隷兵という悲しい存在を、徒に、悪辣に、利用させたりなんてしない！」）
「彼らの苦しみを、終わらせる。その誓いと覚悟を、このグラディウスに込めて――貫きます！」
「嗚呼、そうだ……終らせるんだ！」
　命の脳裏を過る惨禍。眼下の屍隷兵もきっと抵抗を許されず、無残にも……グラディウスを振り上げ、思わず叫んでいた。
（「デウスエクス共はいつまでこんな事を続ける？　あぁ……くそっ、反吐が出る」）
　この目に映るすべてを救う――それが「彼女」との約束。約束を果たし続ける為、命は屍隷兵を救うと決心する。その苦しみから、その悲しみから。
「負けない……負けられない！　絶対に！」
　アーネストも一息に屍隷兵へ呼び掛け、魔空回廊へ降下する。
「人々の平穏の為、あなた達を倒す事を許してください！！　黒幕は探し出して、叩き潰します！！　これ以上はやらせません！！」
　揺らぐ花緑青の瞳を閉じたエヴァンジェリンは、星籠のヒンメリを手に深呼吸。沈着を鎧うや、躊躇いなく身を躍らせる。
「屍隷兵……悲しく、苦しいだけの神造兵。此処には、被害者しか、居ないのね」
　ならば、悪夢を終らせよう――朽ちて尚、地にも海にも還れない、その体と魂を、解き放つ為に。そして、いわきの地に帰りたいだろう人の為にも。悲しみだけが溢れるこの地に、笑みを咲かす為に。
「砕けて、魔空回廊……！」
「コレは殺って良いんだよな？　なら、遠慮なしだ」
　次々と飛び降りる仲間を見送り、冷ややかに唇を歪める白陽。屍隷兵への関心は寧ろ薄い。彼の獲物は、強襲型魔空回廊そのものだ。
（「割と感謝してるんだぞ？　好き放題殺って良いモノは貴重なんだ」）
　常日頃は抑えざるを得ない破壊衝動や殺戮欲求――内から蝕むような抑圧を解放する快感、愉悦が笑みとなって零れる。
「態々待っててくれるんだ。欠片も残さず殺り尽くすのが礼儀ってものだよなあ！」
　グラディウスに込める想いは、人それぞれ。わかなのそれは、悔悟と謝意だ。
（「私があの時、ハクロウキを捕らえられていたら……今頃あなた達は、大切な家族に看取って貰えていた筈なのに。もしかしたら、まだその命を繋いでいたかもしれないのに」）
　ここで謝ったとして、屍隷兵には届くまい。無意味かもしれない。それでも。
「ごめんなさい！」
　少女は、叫ぶ。謝罪の先に最初の１歩を、刻み込む為に。
「私、屍隷兵を絶対に根絶してみせる！　私の一生を掛けて、絶対！」
（「責任感も悔いも、わかならしい。けどなぁ……それを少しでも軽くしてぇと思う、男子もここにいる訳で」）
　耳に届いた言葉に金色の眼を細めながら、そんな本音はけして口にしない。代わりに陸也は、ケルベロスとしての決意を刃に注ぐ。
（「敵地でも簡単な戦力増産。屍隷兵ってのは、実に効率的だ……だからこそ許しちゃあいけねぇ」）
　それは、戦える者が前線に出る間に、本来守りたい筈のものが奪われるという事。
（「感情と論理、どっちの理由にしろ、これ以上のデータ収集を許しちゃいけねぇんだ」）
　デウスエクスが大事を奪うならば。目には目を歯には歯を。
「苛烈なる報復者レイラス、我に宿りて報いを与えよ！」
　既に７度起こった雷光と爆炎を抜けて、陸也はグラディウスを叩き付ける――８度目の爆音が轟き渡った。

●螺旋屍隷兵
　肩越しに空を仰ぐエヴァンジェリンは僅かに愁眉を寄せた。
　魔空回廊健在――それでも、攻撃は成った。検証も反省も後回し。今は速やかに撤収するべく、ケルベロス達は１箇所に集う。
「わかな、頼む」
「了解」
　陸也から受け取った１本も一緒に、アイテムポケットにグラディウスを収納するわかな。他は懐に仕舞ったり、武装に紛れさせたり、各々で所持する。
「あっちだな」
　白陽が一方向を指差せば、エヴァンジェリンも無言で頷く。わかなの先導で駆け出すケルベロス達。
「さてと、１体程こちらにやってきますよ。さっさと倒して、撤収しますよ」
　すかさずファミリアロッドを２本、両手に構えるアーネスト。
　ウアアア……ウウウウ……。
　周囲はまだ混乱の坩堝。そんな中、逸早く立ち塞がった螺旋屍隷兵は、呻きを上げて拳を握る。
「死に染まれ――」
　まずは速攻。構えすらせず、月弧を描く斬撃。腰の後ろで交差させての白陽の剣閃に続き、わかなは対デウスエクス用ウイルスカプセルを投擲する。タクティの戦術超鋼拳とミミックのガブリング、息の合った連携が交錯した。
　オオォォォ――。
　半ば割れた螺旋の仮面から覗く眼は虚ろ、薄汚れた衣服もあちこち裂けている。見た目はミッションで対峙する屍隷兵と変わらない。
　それが、まさか歴戦を誇るケルベロス達の初撃を尽くかわそうとは。
「……っ！」
　息呑む暇もなく、敵の拳が命を捕らえる。浸透する螺旋のエネルギーが、青年の体内で暴れ回る。
　グリフィンファンで陣形を辿るエヴァンジェリンは敵のポジションをも見出す。螺旋拳は頑健に依るが、防具耐性が合致していた命を易々と捕らえた。命中と回避、攻防何れも優位なポジションは１つしかない。
「キャスター、ね」
　どんなに強力な攻撃も、命中せねば無為となる。すぐさま、イルヴァはパイルバンカーの切先で、掌に２つのルーンを刻む。
「ansur laguz uruz――其は戦歌、其は嚆矢、番え、捉え、射貫く力。その身に宿れ、いと高きものの名のもとに」
　血染めの紋字を贄に魔力を解放。全てを貫く力にせんと。
「狙っても結構きついが……当たらない程じゃない、と！」
　鍵の妖精は恋をした。それは王への叛逆の物語。これはただその残滓――詩編を媒介に召喚する陸也。妖精の邪視は、螺旋屍隷兵の動作を阻む。
　やはり後衛より狙い定めるアーネストのマジックミサイルは敵影を穿つが、痛みを堪えての命の突撃はかわされた。元より、三六式銃剣戦闘術「破墜」は打撃重視。初手からの命中は相当の幸運あっても難しい。
　恐らく、螺旋屍隷兵は包囲が完了するまで時間稼ぎの心算だろう。群れで襲われれば、ケルベロスとて無事では済まない。
（「守る事、それは、アタシの存在意義……この螺旋屍隷兵も、きっと同じ」）
　更に後衛の陣を定めるエヴァンジェリンの見立てを肯定するように、屍隷兵は攻撃の前に螺旋の風を纏う。邪視の束縛は祓えずとも、魔矢の裂傷は忽ち癒えた。螺旋は敵の装甲を穿つ援けとなろう。
「ちぃっ！」
　タクティの竜爪撃が唸るも、螺旋を散らすにはまだ遠い。グラビティブレイクを繰り出そうとした命は、ハッと息を呑む。
（「見切りかよ！？」）
　眼力が計る命中率は只でさえ高くない上に、命が活性化した技は何れも頑健に依る。これでは到底当たるまい。仲間の盾たるヒールドローンも同様だ。
「オレは、負けない！　絶対だ！」
　敵地の只中で、一か八かを賭け続ける余裕はない。やむを得ず、強気を叫んだ。
　顔を顰める命を見て取り、わかなは急ぎ光輝くオウガ粒子を放出する。
　まず肝心なのは、如何に全員の攻撃が命中するよう図るか……陸也が更にスターゲイザーを放つも、順調に足止めを重ねたとして、目標に達するには陸也１人では５分は掛かる。タクティのミミックも牙剥き奮闘するが、キャスター相手に他のポジションの速攻は厳しい所がある。だが、もう１人のスナイパーたるアーネストに足止めや捕縛の準備はない。
　――――！！
　代わりに、目にも止まらぬ速さで放たれたアーネストの礫が屍隷兵の拳を砕くも……急ぎ降したいなら、寧ろ敵の装甲を剥ぎ、集中打に追撃する氷の厄が望ましい。
　短期決戦と言うのは容易いが、成し遂げるには一手も疎かに出来ない。その内倒せるだろうという悠長は無用。如何に打撃と厄を速やかに重ねるか、効率も重要となる。
　焦燥を呑み、ケルベロス達は弛まず挑み続ける。血が滾る侭、得物に雷気帯びるや軌跡すら見せぬ一撃を見舞う白陽。視界に映る間合いを一足で侵略、神速の突きが奔る。
「……もう！」
　続くイルヴァも雷刃突を繰り出したかったが、活性化していないものは仕方ない。心機一転、敵の急所を狙って影の如き斬撃が閃いた。

●歪を糺す
　アァァァァッ！
　眼力で目星を付けたか、屍隷兵は専ら命を狙い続けた。
「アタシが、守るわ……守ってみせるから」
　迸る螺旋気流を遮り、気力を溜めるエヴァンジェリン。
「簡易的だけどやらないよりはマシだぜ……！」
　次の拳は、タクティが。抉られた胴は結晶化で応急処置する。
　ディフェンダーが全てを庇えずとも、傷付く前衛をわかなが癒し続ける。時にサキュバスミストが立ち込め、ウィッチオペレーションが戦線を支える。
「まだいけるよ！　元気にがんばろー！」
　肩を並べる陸也は感謝の視線を投げると、改めて屍隷兵を見据えた。
「……よし、そろそろだな」
　短くない時間を経て――初めて陸也は【氷結の槍騎兵】を召喚する。鋭槍の傷口が、音を立てて凍り付く。
（「屍隷兵、即ち人の残骸」）
　残すも壊すも冒涜ならば、自身が犯している自覚もある。それでも、迷いは無い。
　陸也の召喚を契機に一気呵成、ケルベロスの攻撃が螺旋屍隷兵を穿つ。ミミックに噛み裂かれた傷口を、タクティの鋼拳が腐汁を撒いて貫いた。
「守るべきものは、此処に」
　イルヴァも又、イガルカを髣髴とする氷撃を空なる斬撃に替えて死角を突く――世界と人々の在るべき姿を守るという誓いを胸に。
「死した体を縛るその枷を、今、断ち切ってあげる。オヤスミ、屍隷兵」
　銀の槍を携え、梟の爪を翻して。エヴァンジェリンの光撃は、憧れる聖女の御手の如く真っ直ぐに。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
　白陽の殺意の本能が、屍隷兵の偽の生命を直截解体せんと侵蝕していく。
「たとえ、装甲に身を付けても、それ以上の攻撃力を持てば破壊される事になるんですけどね」
　一気に肉迫したアーネストは、虎を模した特殊徹甲弾を力一杯に叩き付ける。
　ガァァァッ！
　ぐらりと傾ぎながらも踏み止まる螺旋屍隷兵。雄叫びと共に、拳はあくまでも命の胴に抉り込む。咄嗟にその腕を押えた。初撃は掠りもしなかった。だが、今ならば！
「今度こそ、殴って！　貫く！　……穿て！　『破墜』！！」
　銃口で強かに殴り付ける命。銃器の破損も暴発の危険も構わず、トリガーを引く。
　――――！！
　破壊の衝撃で２つに千切れながら、螺旋屍隷兵は声もなく、忽ち霞の如く失せていった。

「造られしデウスエクス、屍隷兵……わたくしにもウェアライダーの血が半分流れているので、他人事に思えなくて」
　アーネストが失せた屍隷兵の跡を観察する間に、わかなは息も荒い命に急ぎヒールを施した。攻撃を一身に受けたながら倒れず済んだのは、本人の根性と仲間の尽力に因る所が大きい。
「急ぐか」
「ミミック、しっかり掴まっているんだぜ」
　白陽の言葉に否やはなく、降下時と同じくミミックを背負うタクティ。
「あっちが手薄のようです」
　そうして、イルヴァの先導で包囲半ばの網を破って帰還する。
「……次は、必ず」
「そうだな」
　エヴァンジェリンの決意に、陸也は言葉少なに頷いた。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年9月30日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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