血塗れの祝福

作者:雷紋寺音弥

●誕生日
 灯りの消えた部屋の中。ケーキの上に立つ蝋燭の炎に照らされて、家族が歌うのは娘達の誕生を祝福する歌。祖父、祖母、そして両親と居候の叔父。それに二人の娘を含めた大家族の宴。
「お姉ちゃん、お誕生日、おめでとう!」
「あら、そういう梨桜だって、お誕生日でしょ? 私達、生まれてからずっと一緒だったじゃない」
 互いに微笑み合いながら、蝋燭の火を吹き消す二人の少女。その姿は、鏡写しのように瓜二つ。細かな服装の違いに気が付かねば、そっくり同じ人間だと思える程に。
「私達も12歳か……。来年からは、中学生だね」
 そう、妹の梨桜が言った瞬間、どこから入り込んで来たのだろう。いつの間にか、薄気味悪い笑みを浮かべた男が、両親の後ろに立っており。
「……ひっ!?」
「おやおや、これは失礼。ですが、怖がる必用はありませんよ、御嬢さん達」
 ぬっ、と立ち上がる黒衣の男。その動きに合わせ、今まで歌を歌っていた両親の頭がゴロリと落ちる。
「美桜、梨桜、逃げるんじゃ!」
「早ぅせい! 早ぅ……!?」
 慌てて祖父と祖母が立ち上がった瞬間、その身体は一瞬にして縦に両断された。それでも、意を決して叔父が二人の少女を逃がそうとしたが、それよりも黒衣の男の方が早かった。
「どこへ行こうというのですか? 折角の誕生日……皆で祝わなければねぇ?」
「な、なに……をっ……がっ!?」
 振り向き様に拳を構えた叔父の胸板を素手で貫き、黒衣の男は残る二人の少女に迫る。部屋の片隅で抱き合い震える二人へと、男の魔手が容赦なく伸び。
「いやはや、実に素晴らしい家族愛でしたよ。お二人さん、お誕生日……お・め・で・と・う」
 そう、黒衣の男が告げると同時に、少女達の意識もまた漆黒の闇へと沈んで行った。
 後に残されたのは、血の海に転がる遺体のみ。そこへ男が肉塊を投じれば、それは遺体を吸収し、やがて異形の怪物として復活し。
「う゛……あ゛ぁ゛……お゛……ねえ゛……ぢゃん……」
「あ゛……ぁ゛ぁ゛……り……お゛……」
 下半身を肉塊に埋め、生まれ変わった少女達。光を失った灰色の瞳のまま、二人は互いの名前を掠れた声で呼び合っていた。

●双繋儀
「召集に応じてくれ、感謝する。ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)の懸念していた通り、空蝉が再び動きを見せた」
 今回も、嫌な事件になる。挑むのであれば、それ相応の覚悟をして欲しい。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はしばし言葉を切りつつも、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「今回、空蝉に狙われたのは双子の少女だ。誕生日に、家族で集まっていたところを襲われて、屍隷兵に改造されてしまう」
 残念ながら、この凶行を阻止することは不可能である。だが、放っておけば周囲の民家を襲ってグラビティ・チェインの強奪に走るため、このまま放置しておくわけにもいかない。
「現場に到着できるのは、最も近くの近隣住民宅を屍隷兵が襲う数分前だ。一家の住んでいた家には庭があり、敵はそこをうろついている」
 クロートの話では、敵は巨大な肉塊から双子の少女の上半身が生えたような姿をしており、脚の代わりに無数の手がタコ足のように生えている。本体移動は得意ではないが、これを使って近くの敵を蹂躙する他、肉塊に生えた無数の口から不快な笑いや毒液を吐き出して攻撃してくる。
 また、双子の少女は自分以外の者の部位を攻撃されると、それに応じて泣き叫びながら反撃してくる。感情や記憶が殆ど残されていないとはいえ、あまり気持ちの良いものではない。
「これだけでも厄介なんだが、余った遺体の部位からも屍隷兵が生み出されている。残った身体の部位が歪に絡み合ったような肉塊が二つ。それぞれ、5つの眼球を持っていて、そこから呪詛や混乱の光を発射して来る」
 誕生日。誰にでも訪れる、一年に一度の最高の日に、異形の存在として生まれ変わる。
 そんな誕生日など、この世にあってよいはずがない。これ以上の悲劇を紡がせぬよう、今は心を鬼にして屍隷兵を倒さねば。
「一年に一度、この世に生を受けたことを祝福される日。そんな日に、これ以上の涙は必要ない」
 せめて、新たなる惨劇が起きる前に、少女と家族たちに安らかな眠りを。それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)

■リプレイ

●歪なる生誕
 薄暗い裏路地を抜けて民家の庭へ入ると、生暖かい風がケルベロス達の頬を撫でた。
 足元から漂う草の香り。それに混ざって漂ってくるのは、生臭く咽返るような血の匂い。
「あ゛……ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
 ずるずると、何かを引き摺るような音と共に、物陰から異形の肉塊が姿を現した。
 醜く膨れ上がった胴体から、天を貫くようにして生えた姉妹の身体。両腕はなく、脚の代わりに生えているのは、触手のように広がった家族達の腕。そして、身体に埋め込まれた多数の口からは、常に嗚咽と嘲笑が混ざったような、奇妙な声が漏れている。
「家族ひとまとめ……。胸糞悪いっすね」
 忌むべき姿に成り果てた存在を前にして、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)は思わず顔を顰めた。
「双子も家族も生きている時は勿論死んでも一緒ってか。……はは、最悪だ」
「随分。好い趣味、御持ちだね。折角の、誕生日。生まれたコトを、祝福される日。家族と過ごす。幸福な時間……ね」
 エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)が渇いた笑みを浮かべ、霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)も淡々と言葉を切る。二人とも、表向きは平静を装っているが、その内に秘めたる感情は、隠そうにも隠し切れるものではなく。
「……また、ここにも幸せを壊された人達がいる」
「……空蝉だっけ? ……君の奪った夢は、いずれ君を滅ぼすよ」
 風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)に続け、叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)は事件の元凶へ向けて言葉を紡いだ。が、今となっては、全てが終わってしまったこと。空蝉の名を持つ螺旋忍軍は、その名が示す通り、まるで抜け殻を残して去った蝉の如く姿を消している。
「……ともかく、今はやるべきことをやらないと」
 余計なことを考えるのは後だ。眼球を埋め込まれたような肉塊が新たに出現したことで、四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)は自らの腕に絡み付かせた攻性植物を解き放った。
「救いの手を伸ばせずに悔しいな……。しかし、だからと言ってこれ以上悲劇を広げるわけにはいかない」
 そこまで言って、四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)はしばし呼吸を整える。
 目の前にいるのは、無残にも殺されてしまった人々の残滓。そして、新たなる悲劇を紡ぎ出す存在でしかない。
「せめて、これ以上苦しまないように、私達が引導を渡してやるよ」
 迷いを捨て、ガトリングガンの照準を合わせる和奈。同時に、ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が凄まじい殺気を放ち、周囲から人の気配さえ消して行く。
「これ以上苦しまないで済むように、そして空蝉の道具から解放するために……」
「死者には安らかな眠りを……陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 ウィッカのナイフと沙雪の霊刀。二振りの刃の刀身に月が照り映え、それが戦いの狼煙となった。

●笑う肉塊
 惨殺現場に残された、巨大な肉塊のような屍隷兵。今や、蛸のような姿をした死肉の集合体と化した少女を前に、ケルベロス達は果敢に攻撃を仕掛けて行った。
「あ゛……ぁ゛ぁ゛……い゛だ……い゛ぃ……」
「う゛……ぁ゛……お゛……ねえ゛……ぢゃん……」
 だが、理屈では解っていても、やはり感情的な部分はどうにもならない。屍隷兵と化した双子の姉妹は、攻撃を受ける度に苦痛と嘆きの声を上げ、互いに庇い合うようにして叫ぶのだ。
 心を持っているからこそ、見るに堪えない惨状だった。よもや、空蝉はこれらの精神的な効果まで解った上で、このような怪物を生み出したのではあるまいか。
 仮にそうだとすれば、その悪辣さはデウスエクス達の中でも群を抜く。なんとも許し難い存在だと、沙雪は歯噛みしつつも刃を掲げ。
「祓い給い、清め給え、死天、剣戟、急急如律令!」
「……っ!? ぎぃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」
 虚空より無数の剣を呼び出し、放つが、眼球を埋め込まれた肉塊を狙ったそれは、果たして双子の身体にも深々と突き刺さっていた。
「異形の身に堕ちても家族を庇うか……。美しい家族愛、というやつなのかもしれないけれど……」
 業炎に包まれた刃を構えつつ、宗嗣は憎むべき敵の姿を肉塊どもの先に見据えた。
 本当の悪は、ここにはいない。自分が討つべき存在は別にいる。だが、絆という名の感情が、これ以上穢されるのを見るのは御免だ。
 宵闇を照らす炎を宿した霊刀が、奇妙な軌跡を描いて眼球の埋め込まれた肉塊を斬り裂いた。噴出する炎は敵の身体を包み込み、その熱にやられたのだろうか。
 邪悪な光を宿した眼球が、肉塊からどろりと溶け落ちた。それでも、未だ屍隷兵達は何ら怯む素振りさえ見せず、戦うことを止めなかった。
「キヒッ……キヒヒッ……」
 双子の身体を生やした肉塊に埋め込まれた口が、次々に不気味な嘲笑を紡ぎ出す。それに合わせ、小型の肉塊に埋め込まれた眼球も、一斉に怪しげな光線を発射して来た。
「しまった! 抜けられたっす!」
 呪言にも似た笑い声の矛先が後ろにあることを知って、佐久弥が思わず振り返る。その先にあったのは、両腕で胸元を抱え、何かに怯えるようにして座り込んでいる柚木の姿。
「あ、あ……あぁぁぁ……」
 心の奥底に仕舞い込んだはずの記憶が、情け容赦なく彼女の心を蝕んでいた。囮として、まるで道具のように使われた挙句、用済みとなれば掌を返して捨てられた過去が。
「違う、私は、私は役立たずなんかじゃない……!」
「先に回復役を狙うってわけか。ここは仕方ないね」
 すかさずエリオットがオーロラにも似た光で柚木の身体を包んだが、正直なところ、これは本意ではなかった。
 回復に手を欠けば、その分だけ攻撃の手数が減る。ただでさえ、相手は持久戦が得意そうな布陣だ。即効力を欠かれることは、それだけ敵のペースに乗せられてしまう危険性が増える。
「やってくれる、ね。出鱈目に暴れて、いるように見えて、なかなか考えて……?」
 そこまで言って、悠は相棒のボクスドラゴン、ノアールの様子がおかしいことに気が付いた。
「どうした、ノア?」
「……クァァァッ!!」
 突然、牙を剥き出しにして、ノアールが悠にブレスを放った。先程、眼球より放たれた怪光線より味方を庇った際、代わりに錯乱させられてしまったようだ。
「やれやれ……世話が、やけるねェ」
 片手でブレスを受け止めつつ、悠は自らの身体に溜めた気をノアールに解き放つ。盾として味方を庇うまでは良かったが、それで敵が増えては堪らない。
「これ以上、小細工なんて通用しないって事を教えてやるよ! クウ君! オウガ粒子を集中散布! グラビティチェインの流れを回復させて!」
 和奈の展開するオウガメタルの粒子が、夜の闇を照らしながら広がって行く。その輝きが与えるものは、超感覚ではなく正常な状態を維持するための力。
「なんとか立て直せそうですね。……ここからが、本番ですよ」
「了解っす! 少しでも早く、終わらせるっすよ!」
 炸裂するウィッカの蹴りが星を呼び、佐久弥の繰り出す鉄塊剣の一撃が、眼球の埋め込まれた肉塊を叩き潰す。何かの潰れるような音がして肉が爆ぜたところで、柚木も気力を振り絞って立ち上がった。
「今ここに武士(もののふ)集いて戦に挑む。――照覧あれ!」
 戦の神に捧げる演舞が、戦う者達の力を呼び起こす。それは、さながら異形の怪物へと成り果てた者への、鎮魂の祝詞を思わせるものだった。

●火葬封印
 夜の風が運んでくるのは、耐え難き腐臭と嘆きの声。だが、それはいつしか焼け焦げた肉の臭いへと変わり、庭一面に広がっていた。
「ウ……ギュ……」
「ギュル……ウル……」
 潰された二つの肉塊が、身体を小刻みに痙攣させている。徹底的に斬られ、突かれ、叩き潰された跡。もはや立ち上がる力さえ残しておらず、程なくして肉塊は動きを止めた。
「う゛ぅ゛……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
 潰された肉塊の姿を目にし、双子の身体を生やした屍隷兵が吠えた。こんな姿にされてもなお、家族への想いは僅かながら残っているとでもいうのか。もっとも、今やそれさえも利用されているであろう様は、見るに堪えないものがあり。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
 本能のままに、巨大な屍隷兵は近くにいた宗嗣目掛けて突撃した。蛸を思わせる八本の手。かつては、それぞれの家族のものだったのだろう。
 その、全てが怒涛のように押し寄せて、宗嗣の身体を蹂躙する。霊刀で捌こうにも捌き切れない程の手数。凄まじい怪力を誇る腕の数々が、宗嗣の服を裂き、身体を貫き、骨をあらぬ方向へ圧し折った。
「くっ……! まだだ……まだ、倒れるわけには……」
 気力だけで踏み止まり、宗嗣は刃を杖代わりにして立ち上がった。敵は大技を使った直後で隙だらけだ。攻めるなら、この一瞬に駆けるしかない。
「これ以上、苦しまないように……! 終わらせることが、倒すことが私にできる唯一の救いの形だ!」
「幾重の加護よ、我が杖に宿れ……マギノストライク!」
 和奈のガトリングガンが火を噴き、魔力で強化されたウィッカの杖が、横薙ぎに敵の身体を打ち据える。弾丸が命中する度に肉が爆ぜ、殴打の衝撃で多数の口からコールタールにも似た色の吐瀉物が噴出した。
「う゛……ぁ゛……い゛……だい゛……よぉ……お゛……ねえ゛……ぢゃん……」
「あ゛……ぁ゛ぁ゛……り……お゛……り……お゛……」
 触手と化した手をのた打ち回らせ、屍隷兵の上に生えた双子はお互いの身体を寄せ合いながら嗚咽する。合成の素材に使われてしまった故、二人はお互いを抱くための腕を持たない。その様が、死してなお利用される彼女達の様を、酷く救いのないものへと変えている。
「柚木チャン、なにやってる、の?」
「早く、宗嗣をフォローしないと拙いんじゃねぇ?」
 敵の動きが止まったところで、悠とエリオットが柚木に言った。しかし、頭では解っていても、彼女の心は目の前の現実を受け入れることができなかった。
(「わかってはいる、あれがもうヒトではないのは。でも……だからって、こんな、こんな……」)
 情け容赦ない猛攻の前に、悲痛な叫びを上げて苦しむ双子の少女。それが、既に人へ戻れない存在であったとしても、彼女達の声は、顔は、生前のものと大差ないのだ。
「仕方ない、ねェ……。にゃあ、お」
 ノアールを柚木の下へ向かわせつつ、悠の呼び声に影が鳴く。足元から迫り来る無数の黒猫。それらが纏わりついたところで、エリオットの蹴りが青い炎を呼ぶ。
「青炎の地獄鳥よ、我が敵をその地に縛れ」
 繰り出される蹴撃は鵙となり、敵の身体を貫いて杭と化した。それはさながら、鵙が獲物を枝で刺し貫く早贄の如く。
「あ゛……がぁ゛……お……どぉ……ざ……ん……」
「おが……あ……ざ……ん……」
 肉塊の中枢を貫かれる痛みに、少女達が再び叫んだ。それを見たエリオットも、思わず顔を背けずにはいられなかった。
 身体の痛みは感じずとも、心の痛みまでは誤魔化せない。だが、それでも戦うしかないのだ。今の彼女達に与えられる救いは、一刻も早く第二の死を与えてやることのみ。
「柚木嬢……君の気持ちも、解らないではないが……」
「あんなもの見て、平気な方がどうかしてるっす! でも、皆、痛みに耐えて頑張ってるっす!」
 沙雪の言葉に続け、佐久弥が叫んだ。その声に、柚木もハッとした表情になって顔を上げた。
「そう……ですね。……解りました!」
 指輪を掲げ、柚木が光の盾で宗嗣を守る。同時に、佐久弥が大地を蹴って、沙雪が呪符を投げ付けた。
「天より降り来る天ツ狗――万物喰らい万象呑まん」
「我が秘術を受け、滅せよっ!!……臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 炎血を纏った大剣が振り下ろされて爆発を呼べば、九字印により編まれし五芒星の結界が、凄まじいエネルギーの奔流を生み出して屍隷兵を包み込む。もはや、嘆きの悲鳴さえ聞こえない程に、その力は煌々と夜空を染め。
「俺の隠し玉だ……その魂、貰い受ける……!」
 渦巻く炎を刀身に収束させて、最後は宗嗣が一突きの下に敵の身体を刺し貫いた。
「お゛……ねえ゛……ぢゃん……」
「り……お゛……」
 真横から貫かれた双子の身体。もう、離れ離れになることもない。
 地獄の業火が、全てを灰へと変えて行く。異形と化した双子の身体。それらは、やがて全て燃え尽きて、跡形もなく消え去った。

●沈黙の決意
 戦いが終わった夜の庭。全てを終えたケルベロス達が家の中に足を踏み入れてみれば、そこに広がっていたのは夥しい量の鮮血の痕。
「助けられなくて、ゴメンなぁ……。楽しい誕生日だったのに、な」
「救えなくて、御免。どうか、最期だけでも。痛み無く、安らかに……」
 黙祷を捧げるエリオットや悠。その一方で、沙雪や和奈は改めて空蝉を討つという決意を固めていた。
「すまない。いつか君達の仇を討つから……」
「あなた達の幸せを奪った報いを、必ず受けさせてやる」
 空蝉を倒しても、死んだ者は戻らない。それでも、事件の元凶に報いを受けさせることで、少しでも救いになれば幸いだと。
「埋葬の手配は、こちらでやります」
「せめて、灰だけでも遺族に届けてあげたいっすね……」
 箱に集めた灰をウィッカへと渡し、佐久弥が言った。親交のある者がいないのであれば、先祖の墓に埋葬することも考えねばならない。
「あの……わ、私は……」
 黙祷を終え、最後に沙雪が弾指を行ったところで、柚木が遠慮がちに顔を上げる。その様子から、何かに気付いたのだろうか。
「泣きたい時には、泣けばいいんだ。それが、人間らしさってやつ……なんだよね?」
 自分達は、それを守るために戦っている。そんな宗嗣の言葉に、柚木も小さく頷いて答えた。
 来世があるなら、また皆で仲良く。今度こそ、誰にも奪われることなく、幸せに暮らして欲しいという想いを込めて。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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