秋祭り帰宅後の悲劇

作者:なちゅい

●人知れず骸にされて……
 その週末、山形県のとある自治体にて秋祭りが開催されていた。
 ささやかながらに、行われる祭りに集まった沢山の人。彼らは出店を楽しみ、祭り用に組まれた木造の高台を中心とした踊りを見せ、子供達による演奏など、出し物が参加者によって催される。それが一層祭りを盛り立ててくれた。
 ただ、祭りは終わってしまうもの。人々は散り散りになって帰宅の途につく。
 人気のない林道に一軒屋を構える金山(かなやま)一家もまた、存分に祭りを愉しんで自宅へと戻ったところだった。祖父母と両親、それに3人の子供達。小学生の息子、娘と、保育園児の息子だ。
「麻里花(まりか)、もう眠たい……」
 娘はすでにおねむタイム。3歳の息子、陸(りく)はすでに母親の腕の中で眠っている。
「スマホスマホー!」
 歩きスマホを止められた小学生の息子、拓海(たくみ)は、早速スマートフォンを取り出す。
 そこで、突然現われた黒衣の男が拓海の体を寸断し、さらに近場にいた祖父母2人を惨殺してしまう。
「「あ、いやああああああああああっ!!」」
「……ん、なに?」
 叫ぶ母親と娘の声に小さな息子も目覚める。そして、何気に振り向いた惨状に言葉をなくしてしまう。
「あっ、あっ……」
「貴様……っ!」
 家族を護ろうと実を盾にする父親。しかし、黒衣の男は彼もまた意識することなく刃を振るって真っ二つに切り裂いてしまう。
「うわああああああああん……!!」
「麻里花、逃げて……っ」
 泣き始めた息子を抱えた母親を男は親子共に亡き者とし、必死に家から逃げ出そうとする娘を見つめる。
「ああああああ、ああああぁぁぁ……っ」
 その慟哭の声もまたすぐに止まる。男……傀儡使い・空蝉が投げつけた刃が小さな少女の命を刈り取ってしまったのだ。
 ……程なくして。
 血に濡れた家の中、空蝉は肉の塊のようなものを中心にして、この場にあった死体を混ぜ合わせていく。
「くっくっくっ…………」
 完成した屍隷兵を見た空蝉は含み笑いをしながら、そのままこの場から姿を消してしまう。
「アアアァァアアァァァアアアア……!」
 一方、この場で作られた屍隷兵は苦悶の声を上げながら、ぴたり、ぴたりと足音を立てて外の林道へと出ていったのだった。

 痛ましい屍隷兵の事件が頻発している。
 ヘリポートに集まるケルベロス達、そして、説明を始めようとしているリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の表情は重い。
「仲良くお祭りに出かける家族が、空蝉によって改造されてしまうと聞いたよ」
 長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)の言葉に、リーゼリットは小さく頷いてから、口を開く。
 現状、神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)の危惧していたことが現実のものとなっている。
「……螺旋忍軍が研究していたデータを元に、屍隷兵を利用しようとする勢力が現れているよ」
 螺旋忍軍の傀儡使い・空蝉もその一体で、仲の良い家族を惨殺して、その家族の死体を繋ぎあわせる事で屍隷兵を強化しようとしているらしい。
 生み出された屍隷兵は、近隣住民を惨殺してグラビティ・チェインを奪う事件を起こしてしまうだろう。
「空蝉の凶行を阻止する事はできないけれど、家族の屍隷兵が近隣住民を襲い始める前には現場に駆けつける事が可能だよ」
 屍隷兵にされた家族は近隣住民にも仲が良い家族だと評判が良く、近所付き合いも良好だったらしい。
「近隣住民を虐殺するような悲劇を、彼らに起こさせるわけには行かないよ」
 現れる屍隷兵は4体。3mほどの大柄な個体が1体と、余った部分で作られた1mほどの個体が3体いる。どうやら、空蝉の姿は現場周辺にはもうないようだ。
「布陣は大型がクラッシャー、小型3体のうち、2体がディフェンダー、1体がジャマーとして立ち回るようだよ」
 屍隷兵の戦闘力は高くないが、大型は屍隷兵の中ではそれなりに手ごわい相手だ。
 グラビティは大小共通で、直接の殴りかかり、体の一部を小さな弾丸としてからの撃ち出し、それに死骸となった苦しみの叫び声の3種を使用してくる。
「大型は攻撃されたタイミングで、その部分を構成していると思われる家族の名前を叫びながら反撃を行うことがあるようだね……」
 痛ましい状況にリーゼリットは表情を歪ませながらも、説明を続ける。
 現場は、山形県某所にある人気のない林道だ。
 夜、8時ごろに現れる屍隷兵はそこから住宅地を目指して歩き、住民を探してグラビティ・チェインを奪おうとする。速やかに現場周辺の人払いと屍隷兵の抑え、そして撃破を行いたい。
 説明を終えたリーゼリットは言いにくそうにしながら、ケルベロス達へと呼びかける。
「屍隷兵にされた人はもう救うことができないけれど、傀儡使い・空蝉の傀儡とさせられるくらいなら、せめて……」
 言葉を詰まらせ、彼女は涙を零す。
 ケルベロス達はそれぞれこの状況に対して自身の感情を吐露しながらも、ヘリオンへと乗り込んでいくのである。


参加者
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
月見里・一太(咬殺・e02692)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
カロリナ・スター(ドーントレス・e16815)
リップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)
皇・晴(猩々緋の華・e36083)

■リプレイ

●価値観の違い
 秋祭りの楽しい時間。
 完全に日が沈んでもその余韻も覚めやらぬ街で、ケルベロス達は沈んだ顔で依頼に臨む。
「殺されただけにとどまらず、さらに罪を重ねようとしている不運な家族を弔わなければな」
 男性のような外見の目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)の発言に、藍色の髪をポニーテールにしたカロリナ・スター(ドーントレス・e16815)が同意する。
「『汝、殺すことなかれ』です。せめて、彼らが他人の幸せを犯してしまう前に止めたいですね」
「彼らに出来る救いはもう倒す事しかありませんか」
 こちらは男装の麗人、髪に赤紫の猩々木を咲かせた皇・晴(猩々緋の華・e36083)。女性ばかりのメンバーで長身が際立つ彼女は小さく首を振り、毅然と語る。
「……この結果には悔やまれますが、やるだけやりましょう」
「うん」
 ピンクのポニーテールを揺らす佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)は怒りに身を震わせながら、小さく頷いた。
 ただ今回は、被害者に憐れみや同情を寄せているメンバーばかりではない。
「ただつなぎ合わせただけというのは、どうにも雑な印象があります」
 寝癖が跳ねるほどのぼさぼさ頭に、寝ぼけ眼のアト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)は屍隷兵について考える。
「……死体を弄ぶにしても、もう少し機能的に扱うなどすればいいのですけどね」
 ダモクレスを生み出す工場で生まれたという彼女は、他の者とはやや人の死体に対する考え方はズレているようだ。
 そんなアトにちらりと視線を向けた、茶色のウェーブへアをフィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)。
 彼女は今回の事件の黒幕である空蝉と、殺害した人間を研究に利用する宿敵とが重なり、強い怒りと被害者を助けられなかった強い後悔の念を感じていた。
 そして、この状況においても鼻歌すら響かせているリップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)へと視線を向ける。
「あぁ……、またヒトの肉が喰べられる」
 その呟きにも感情は篭っていない。皆の沈痛な面持ちに共感せず、指を噛む彼女は食欲を満たしたいという欲望だけを示している。
「…………」
 フィルトリアはそんなリップに、少し警戒心を抱いていた。
 灯りで夜道を照らしながらそんなメンバー達の様子を見ていたのは、黒狼の獣人。
 チーム唯一の男性である月見里・一太(咬殺・e02692)は自分の為にならぬと判断したのか、我関せずと歩く。

 やや険悪なムードのまま、一行は並木道に差し掛かっていく。
 すでにフィルトリアが並木道周辺の地形を把握しており、スムーズに移動しながらメンバー達は対象を探す。
 ランプやライトを手にして前方を照らすメンバー達。そろそろ、被害者宅が見えてこようかというところで、ケルベロス達はそれらを発見した。
「あああぁぁぁああぁぁ……」
 歪な形に組み上げられた死者の塊、屍隷兵。メンバーよりも大きな1体と、小型3体が獲物を求めて彷徨っていた。
 一太が置いた正面、それにフィルトリアが高光度サイリウムを周辺に撒く。
「家族の団欒のひと時……。それを奪ったばかりかこんな化け物になんて……、許せない!」
 それによって、照らし出された屍隷兵の姿に、勇華は眉を吊り上げ、怒りで声を荒げる。
「……まず私が……でる」
 先陣を切って飛び出そうとするリップを、フィルトリアがすかさず制する。
「リップさんは後ろから、援護をお願いします」
(「今……他に言いふら、されても……困る」)
 以前、彼女には自身の性分を知られており、止められてはかなわないと判断したリップ。大人しくこの場は従い、彼女は殺界を展開して状況の推移を待つ。
 その間に、メンバー達は住宅地への進路を塞ぐように、半円状に屍隷兵達を包囲していく。
「止めないといけませんね」
「ええ、未熟ですが、先輩方の力添えを」
 カロリナは目を見開いて相手を見つめる。前に出た晴も仲間を守ろうと身構え、相手の出方を窺っていたようだ。
「小型1匹でも逃がすと、大変なことになりそうですしね」
 アトもこの場を抑えねばならぬという考えは、皆と一緒。彼女は遠巻きに位置取って構えを取る。
「番犬様の出迎えだ! 冥途まで案内してやるよ、亡骸ァ!」
 叫ぶ一太は右目と両腕の地獄を燃え上がらせ、相手を威嚇する。
 ゆっくりと歩み寄ってくる屍隷兵の姿に様々な感情を抱きながらも、ケルベロス達はこの場でそれらを止めるべく、攻撃を開始するのだった。

●立ち塞がる屍に……
 やや行動の遅い屍隷兵達に先んじて、真が動く。
「オマエの相手はこのオレだ。動きが鈍いね」
 彼女はディフェンダーとして、他の仲間に攻撃が行かないようにと相手を挑発する。その上で、相手の至近距離を移動して見せていた。
「それっ、凍り付け!」
 そして、真はまず、仲間と先に打ち合わせしたとおりに盾となる小型を狙って拳を突き出し、同時に氷結の弾丸を発することで相手を凍りつかせようとする。
 屍隷兵達も大型が早速、真へと殴りかかるべく腕を振り上げた。
「しっかりやれよ」
「ナノナノ!」
 真がそう声をかけると、彼が連れていたナノナノ、黒いちゃんちゃんこを羽織った煎兵衛が飛び出し、身を張る。
 大型の拳を受け止めた煎兵衛は小型に対し、ハート光線を発する。真曰く、『めろめろハートを撃ち続けるだけの簡単なお仕事』を果たそうとしていた。
 フィルトリアはリップへ視線で牽制をしつつ、盾となる小型目掛け、オウガメタルを纏わせた拳を叩きつける。自らの技量を合わせた彼女の一撃は、殴りつけた部分を凍結させてしまう。
 そのリップは自身の肉体から突き破るようにして赤黒い泥を現し、相手へとけしかけていく。
「……それじゃあ……喰べる、ね……?」
 それらは彼女の感覚とリンクしており、触れるだけで相手を喰らい、呑み込んでしまう。
「あは……、美味、しい……もっと……もっとっ……」
 遠距離でも『食べよう』とする彼女に、フィルトリアはあからさまに嫌悪感を示していた。
「ごめんね……助けられなくて……」
 勇華はデウスエクスと成り果てた屍へ、謝罪の言葉を口にする。
「せめてこれ以上苦しまないように、これ以上の被害が出ないように、わたし達が終わらせるよ!」
 勇者のオーラを発する勇華は、両腕を広げる小型へと鋭く拳を突き出す。グラビティの乗った強烈な一撃は、さらに凍りつく面積を広げていた。
 彼女はさらなる一撃をと、聖光鎌クラウ・ソラスを携えて切りかかっていく。
 続けて、一太がバトルオーラを纏わせた地獄の拳で降魔の一撃を叩きこむが、彼の技は魂ではなく熱を喰らい取る一撃。その打撃の瞬間に小型屍隷兵の体の一部が凍りついていく。
 そいつは動く度、小型は凍りつく体に亀裂を走らせて痛みを感じる。それでも、全身から肉弾を発して、ケルベロスを撃ち抜こうとしていた。
 戦いの中においても、王子様のように振舞って小型を抑える晴。紳士的に振舞う彼女の所作は、こうした男性がいたならという理想を体現したもの。
 シャーマンズゴーストの彼岸と共に身を張り、晴は女性が多いチームメンバーのカバーへと回る。
 火力として戦うメンバーの為にと晴がカラフルな爆発を起こして仲間を鼓舞する。屍隷兵の叫びに耐えられるよう、彼岸は黙して祈りを捧げてくれていた。
 回復役としては、アトも立ち回る。立ち上がりは星型のオーラを蹴り込んでいたが、屍隷兵が相手とは言え仲間の傷は深まる。
 アトは仲間の体力を見て、気力を撃ち出して戦線を支えていたようだ。
 戦いが進むうちに、小型の屍隷兵の体が崩れ始める。
 流星の蹴りを一度相手に叩き付けたカロリナは身を翻し、マインドリングから弓を具現化する。
「主よ、どうか彼らを止める力をボクにお与え下さい」
 祈りの言葉を発したカロリナは、渾身の魔力を注いだ光の矢を射放つ。
 魔弾と化した矢は狙い通りに小型の身体を射抜き、屍隷兵はその場に崩れ落ちていったのだった。

●嘆きを受け止めながら
「ああああぁぁぁあああぁぁぁ……」
 苦しみながらも屍隷兵達は目の前のケルベロス達に自らの体をぶつけ、叫び声を上げてくる。
 ただ、小型の能力は劣る。盾となりながら、攻撃をしていた屍隷兵達はその身を少しずつ崩していて。
「銀色の翼よ、皆を癒せ!」
 真はオーロラを発して煎兵衛と共に仲間のカバーに当たりながら、攻撃にも打って出る。
「これでトドメだ。破ッ!」
 手前まで近づいた敵目掛け、真は素早く蹴りを繰り出す。無影脚とも呼ばれる一蹴は小型の上半身を砕き、完全に無力化した。
 さらに、屍隷兵達へと攻め入るケルベロス。
「ああぁぁああぁぁ……」
 それは、苦悶の叫び。相手の心情にも働きかける声はグラビティとなってケルベロス達を苛むが、勇華は聖光鎌クラウ・ソラスを携えて。その身体を観戦に切り裂いてしまう。
「ごめんね……」
 勇者として助けられなかった家族へ、勇華は再び小さく謝罪してから大型へと立ち向かう。
 大型の動きを制しようと、一太はすでにそちらを叩いていた。
 電光石火の蹴りを繰り出し、大型の首元を蹴りつけていく。
「り、りくううぅぅぅ!」
 一際大きな声を発する大型。それが叫びとなり、真や晴らディフェンダー陣を苛む。
 その一撃に耐えながらも、晴は翼を広げて仲間をオーロラの光に包む。彼岸も祈りを捧げ続け、晴のサポートを繰り返していた。
 アトも小型を倒す間に傷ついていた仲間の為に、ハーモニカを取り出す。
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 低い音から高い音へとテンポのよい旋律で紡がれる行進曲。アトのその一曲は仲間の気分を向上させる。
「おばあ、ちゃあぁぁ……」
「まま、あぁぁ」
 ただ、攻撃する度に大型から発せられる声に、幾人かのケルベロス達が表情を陰らせる。
「主よ、彼らに安らぎをお与えください」
 そんな中、カロリナは相手の叫び声に動じず、祈りの言葉を呟く。そして、具現化した光の弓から凍結の一矢を放っていた。
 後方のリップもまるで声に応じることなく、捕食器官:黒杯を飛ばす。しかし、その様子は他のメンバーとは著しく異なる。
「たく、み……」
「もっと……ちょうだい……」
 食らいつかれた大型屍隷兵の嘆きの声。対して、リップは声が聞こえていないかのように、嬉しそうな顔でその肉を喰らっていく。
 一時を置き、屍隷兵が離れたところで真が飛び込む。
「握りつぶしてやる!」
 相手の腕を掴む彼女は、加えた一撃によって網状の霊力で大型を縛り付ける。
「マ、マァァ」
 いち早く家族をあの苦しみから、嘆きからの解放を。
 仲間と自身の攻撃で相手の体が徐々に凍りつくのを見たフィルトリアは、手元に純白の炎を発した。
「せめて、安らかな眠りを……」
 その炎は触れるものを清め、浄化する。
「おじ、ちゃ……」
 少しずつ、不安定になってきている大型屍隷兵の体。それは肉を落としながら殴りかかってくる。
 それによって殴打されたのは、勇華だ。彼女は屍隷兵が家族の名を叫ぶ度に身を震わせ、怯んでしまいそうになってしまう。
 だが、勇華はしっかりと拳を握り締めて。
「届けぇぇぇぇ!!! 勇者ぁぁぁパァァァァンチ!!!」
 このおぞましい状況を作り出した空蝉に対する怒りも込め、彼女は全ての貫く拳を抉りこむようにして突き出す。
「まりかああぁぁぁああ……!」
 またも発せられた声に、勇華の動きが止まる。トドメには少しだけ届かない。
「眠れ、亡骸」
 そこで、一太が惨殺ナイフを手にして迫っていた。
「理不尽だが、アンタらは終わっちまったんだ。だから、眠れ」
 刃は肉を裂き、屍隷兵の全身を断ち切る。
「あぁ…………」
 ようやく、その活動は完全に止まり、家族は苦しみから解放される。
「オツカレサマ」
 静まり返った戦場で、真が一言そう呼びかけていた。

●潰えた命の行く末は
 並木道の剣戟が静まり返り、ケルベロス達は後片付けを始める。
「さぁ、咲かせましょうか。満開の花を」
 荒れた道を舗装する為に、晴は菖蒲色の花を咲かせ、舞い散る花びらによって周囲を幻想で埋めていく。
 真も翼を広げ、極光を発して広い範囲を修復し、道路を均していたようだ。
「埋葬してあげましょうか」
「後片付けは必要か」
 アトに同意する一太も屍隷兵の埋葬に手を貸す。それに、リップもまた近づいていくのを見て、フィルトリアが彼女を遮る。
「どうして、こんな事を……」
 問いかける彼女の表情には、複雑に感情が入り混じっていた。
「なんで? ……お腹が空いたから……食べたい、から……何か変?」
 しかし、事も無げに告げるリップに、仲間達は驚きの声を上げた。
「ご飯だよ……。敵もここの皆、も……全部私の……ご飯」
 でも、人を食べると皆が怒るから、いつもは我慢していると彼女は主張する。
「だけど……、あれはもう人じゃない……ただのお肉……。皆にはアレが人に見える、の……?」
 肯定も否定もしないメンバーの中、フィルトリアが叫ぶ。
「彼らはモノではありません。リーゼリットさんの涙を見て、あなたは何も感じなかったのですか!?」
 怒り半分、悲しさ半分。フィルトリアはその感情を込めて言葉を投げかけるが、リップには届かない。
「涙……? ……悲しかったんでしょ……でも私は悲しく、ない」
 リップは自身の行いを諦め、この場を去っていく。
 それを誰も追うことなく、残りのメンバー達は並木道の脇の土を盛り、手厚く遺体を葬る。
「主よ、どうかこの者達の魂を救い給え」
 カロリナが祈りを捧げると、フィルトリアもそれに合わせる。
 罪もなく殺されてしまった家族に冥福を。真も近場に咲いていた花を手向け、祈っていた。
「空蝉はいずれ、オレ達が倒さなければなるまい」
 この事件の元凶、傀儡使い・空蝉。その討伐を真は犠牲者家族の墓前に誓うのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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