●ランプの灯
黒い紙で作られた蝙蝠の飾り。魔女の箒にオバケのクッキー、ミイラの人形にドクロの置物、そして南瓜を模したオレンジ色のランプ。
ハロウィンが近付くにつれ街中に増えていく飾りを見て、娘は憂鬱になる。
ハロウィンは好きなのに一緒に楽しめる人がいない。せめて気分だけでもと、ハロウィン限定のお菓子を見に行くも虚しくなって結局買わずじまい。
一人家に帰って寂しく食事を取り、テレビにハロウィン特集が映ればすぐに消す。
そんなある日の帰り道に、娘はソレと出会った。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか」
赤い頭巾を被ったモザイクだらけの少女。
表情は隠れていて見えないのに、笑っていると娘は感じた。
「その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
「え……?」
いつの間にやら、娘の身体を大きな鍵が貫いていた。
何が起きたかも分からぬまま、崩れ落ちる娘。
その隣に南瓜のランプを持った魔女が現れた。顔も、手も、足も、肌と思わしき部位は全てモザイクが掛かっている。
魔女は倒れた娘に構うことなく、ランプを揺らしながら夜の闇へと姿を消した。
●南瓜の灯
「日本各地でドリームイーターが暗躍しているようです」
切り出したセリカ・リュミエールの手にはオレンジ色の南瓜のキーホルダー。ぼんやりと光を放ち、セリカの手を照らしている。
藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査により発覚したこの事態。
出現したドリームイーターは、ハロウィンに対し何かしらの劣等感を持っていた人々。それゆえか、ハロウィンパーティー当日に、一斉に動き出すようだ。
便宜上、この件のドリームイーターをハロウィンドリームイーターと呼びますね、とセリカは前置きを入れる。
ハロウィンドリームイーターが現れる場所は分かっている。
世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場――鎌倉のハロウィンパーティー会場だ。
「皆さんには、実際のハロウィンパーティーが開始する直前までに、ハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいんです」
セリカが予知したハロウィンドリームイーターは魔女の仮装をしているのだと言う。
黒い大きな三角帽に黒いワンピース、箒や杖の代わりに南瓜のランプを持っているらしい。
「ハロウィンドリームイーターは心を抉る鍵や、モザイクを使って攻撃してきます。モザイクを使っての攻撃は2パターン。悪夢を伴うものと、モザイクを大きな口に変えるものです」
ハロウィンドリームイーターはパーティーが始まると同時に現れる。
それを利用し、実際のハロウィンパーティーが始まるよりも前に、ハロウィンパーティーが始まったように楽しそうに振まえば誘き出せるはずだ。
セリカのキーホルダーに視線を向けていた朝倉・皐月(地球人の降魔拳士・en0018)は拳をぐっと握り締め、集まったケルベロス達を振り返った。
「ハロウィンパーティを楽しむためにも、ドリームイーターをばーんっとぶっ飛ばそうね!」
参加者 | |
---|---|
浅儀・織(空間忍術・e06748) |
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362) |
伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765) |
ヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864) |
飛翔院・紫龍(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e12695) |
サラミン・アラカルト(お菓子大好き・e13876) |
ブランネージュ・ヴァイスブリーゼ(白雪風の幻影・e17167) |
グレタ・ヴェルサーチェ(壊れかけの聖女・e17375) |
●フェイクの灯
飾りつけられたハロウィンパーティーの会場はオレンジや黒といった、ハロウィン馴染みの色で溢れている。
テーブルの上には勿論、パーティー用の料理。
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)が焼いたパンプキンタルト。
ヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864)のパンプキンプリンや南瓜のフィナンシェ。
応援に駆けつけたリリキス・ロイヤラストと内牧・ルチルの料理もテーブルに花を添える。
タキシードを着た浅儀・織(空間忍術・e06748)を見つけると、嬉しそうにルチルの尻尾が揺れた。
その織はといえば、用意した南瓜の被り物をすっぽり被り、動かないようごそごそ調整している。
「おぉ、何かこれ落ち着く気がする!」
「本当?」
「ああ、ベッドの端っこに座ってる時の感覚に似てる」
ここぞとばかりに、次々とお菓子を腹に収めていくサラミン・アラカルト(お菓子大好き・e13876)は、理解に苦しむといわんばかりに首を傾げた。
するとふわり、サラミンのスカートが揺れる。黒いマント、ブラウスの上に黒いワンピースを着た彼は、女性の吸血鬼の仮装をしている。
折角の機会、普段は出来ない格好をしよう、女の子の格好――いわゆる女装をすれば男には敷居が高いスイーツも気軽に食べられるという発想の結果、こうなった訳だ。
幸運なことと言っていいのだろうか。リリキスやベルタ・プリメーラといった『男の娘』が他にもいる為、変な目で見られることはない。
フランケンシュタインのような仮装をした咒八は気だるげな表情で、海賊の仮装をした飛翔院・紫龍(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e12695)と共に次々と料理を平らげていく。
「ったく、めんどくせえ」
「そう言うな。パーティーの始まりだ、楽しもうではないか」
漏れてしまった咒八の本音。
厄介な敵も、それを誘き寄せる為に見せかけのパーティーをしなくてはいけないというのも面倒臭い。
けれど、咒八の目は会場のいたるところへ鋭く向けられている。
そんな2人の背後にそろり、そろり近付く2つの影。
パァンッ!
「うおっ!?」
「おっ?」
咒八と紫龍が振り返れば、クラッカーを持った伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765)と朝倉・皐月(地球人の降魔拳士・en0018)がいた。
「ハッピーハロウィーン!」
「トリック・オア・トリート!」
心遙の羽が彼女の機嫌を表すかのようにぱたぱたと開閉する。オラトリオの羽を活かした天使の仮装はとても馴染んでいる。
皐月はすっぽりと白い布を被ってお化けの仮装をしている。笑っているような声音から、イタズラが上手くいったことに満足しているようだ。
くすり、ヴァルリシアの唇から笑みが零れる。
今回のハロウィンパーティーは彼女の孤児院の子供達も楽しみにしている。心遙と皐月のような微笑ましいイタズラも起こるかもしれない。
気付けば心遙はお菓子や料理に舌鼓を打っている。
子供達に進められた道士風の仮装に身を包んだヴァルリシアは、コポコポと甘い香りのミルクティーをカップに注ぐ。
事前に事件が予知されていただけあり、一般人の退避をする必要はなかったのでヴァルリシアも気兼ねなく、仮初のパーティーを楽しんでいるようだ。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
カップを受け取ったブランネージュ・ヴァイスブリーゼ(白雪風の幻影・e17167)は、火傷しないよう気をつけながらミルクティーをすする。
甘い香りに心が宥められるようだ。
被害者の女性の気持ちは、ブランネージュにも分かる。だからこそ、その気持ちを利用する輩を許せない。
けれど、今は表面上だけでも楽しんで見せなければ。白いローブととんがり帽子もその為のものだ。
「っと」
「あら」
ミルクティーを飲んでいるうちにずれ落ちたブランネージュのとんがり帽子をヴァルリシアが整えてやる。
結果的にブランネージュがヴァルリシアの姿をまじまじと見てしまったのだが、見られることに慣れていないヴァルリシアは恥ずかしそうに頬を染める。
一方、魔女の仮装をしたグレタ・ヴェルサーチェ(壊れかけの聖女・e17375)は陽明・麗艶やベルタとなにやら相談している。
集団でパフォーマンスをして盛り上げるつもりだったようだが、セクシーポーズをしてみせる……というのは未成年もいるパーティーでやるようなものではないと思い至ったらしい。
「ハロウィンは教会の祭ではないけれど楽しみにしている人は多いし、神も許してくれてる。何をするのがいいだろ――」
相談しながらも料理を食べていたグレタの手が、ぴたりと止まった。
同時に全員が一点を振り返る。
「どうやらおいでなさったようだ」
視線の先には、黒い魔女の衣装に身を包んだモザイク。今回の標的たるハロウィンドリームイーターだ。
グレタが皿を置くと、ジャキン、と音を立ててアームドフォートが展開する。
ニッ、とサラミンが笑う。
「さぁ、楽しいパーティーの開幕だよ」
「悪いけど……あんたの未来、撃ち抜くわ!」
ブランネージュがバサリ、ローブを脱ぎ捨てる。
白いローブが床に落ちるよりも先に、ケルベロス達は一斉に動き出した。
●オレンジの灯
「また後でな!」
言って、織は南瓜の被り物を投げ捨てる。
同様に脱ぎ捨てられたケルベロス達の衣装をルチルとリリキスが回収していく。
その様子をちらと横目で確認しながら、織は紫龍へと自身の分身を纏わせた。
その紫龍へ、ドリームイーターが鍵を突き出す。
「イヤ、イヤ、イヤ! ハロウィン、キライ!」
斬撃が紫龍の肩を抉るものの、紫龍にだけ見えた敵は織の分身がねじ伏せた。
「ハロウィンを狙うとはけしからん奴だな」
「ええ。人の気持ちを利用して踏みにじるなど、許されることではありません。……少し、手荒になります」
ヴァルリシアによる魔術切開とショック打撃を伴う強引な緊急手術。
紫龍の傷を癒している間に、皐月が前進する。
「いっくよぉ!」
重力震動波に変換された気合が炸裂するも、ドリームイーターはくるり、ターンをしてかわしてみせた。
むっ、と顔を顰めた皐月の横を、紫龍が駆け抜けていく。
「せいっ!」
鉄塊のような剣を振りかぶり、叩きつける。紫龍の手に伝わるのは確かな手応え。
機を逃すまいと、心遙は掌からドラゴンの幻影を放つ。
「ドラゴンさん、お願い!」
幻影はドリームイーターへ一直線に飛んで行き、その身を焼く。
「イヤッ! 邪魔、シナイデ!」
「大丈夫、今日は本気で相手をしてあげるわ」
駄々をこねる子供のように叫ぶドリームイーターにブランネージュの弾丸が迫る。
壁から跳ね上がった弾がドリームイーターの手を貫く。ぽとり、落ちる南瓜のランプ。
そこへサラミンが畳み掛ける。
ドリームイーターが身を庇うように振り上げた鍵をものともせず、強烈な一撃を叩き込む。
堪らず走り出そうとしたドリームイーターだが、如月・恭二の高笑いと共に弾丸が雨となって襲う。
「こちらの方は気にせず思い切り暴れなさいな、シスターグレタ!」
麗艶の声援にグレタはサムズアップで返すと、ドリームイーターへと向けていた主砲を一斉発射した。
続く攻撃によろめくドリームイーター。
咒八が両手に1本ずつ持ったライトニングロッドを振り下ろそうとすると、ドリームイーターはモザイクを飛ばして阻止する。
ライトニングロッドを振るってモザイクを払っている隙に、ドリームイーターは咒八と距離を取っていた。
「ったく、めんどくせえ。……が」
思わず零した口癖。
けれど、そこで終わりではない。
咒八はビッ、とロッドの先端をドリームイーターへ向ける。
「ここできちっと始末するぜ」
「その通りだな!」
どこからか現れたグラビティチェインがドリームイーターを捕らえる。織の空鎖縛だ。
逃れようと身悶えるドリームイーターだが巻きついた鎖は離れない。
「そんなに怒るなよ……少し大人しくしてな」
「ウルサイ、ハナセッ、ハナセッ!」
身を縛る鎖をそのままに、ドリームイーターは跳びはね、モザイクを飛ばす。
モザイクは大口へと姿を変え皐月の肩に喰らいつく。
決して小さな傷では無いが、肩を抑えながらも皐月は笑った。
「中止になんて、させてあげないよ」
飛び出してきた紫龍の攻撃をかわしたドリームイーターだが、ケルベロス達の攻勢は止まらない。
ブランネージュが溜めていたオーラを皐月へ放つと、そのオーラを追い越すように心遙の時間を凍結する弾丸が敵を襲う。
続けて地裂撃で仕掛けようとしたサラミンだがこれは完全に見切られると判断し、光る猫の群れを召喚した。
「あまりイタズラしすぎちゃ駄目だよ」
ハロウィンらしい、悪戯猫の召喚。召喚された猫のエネルギー体は一目散にドリームイーターへ向かい、宙を駆けていく。
猫の群れがドリームイーターを襲う中、響く金属の音。
グレタのガトリングガンが狙いを定めた。
「全弾撃ち尽くす。フルファイア」
ガガガガガガガ、耳を刺す音と共に襲い掛かる銃弾。
その雨が止んだ頃には、ボロボロになったドリームイーターの黒い服がそこにあった。
ふらり、ふらり、揺らめくモザイク。
ガクガクと、膝と思しき部位が震えてるのが見て取れる。
ヴァルリシアはその姿を見て怒りを抱いた。
人の気持ちを利用し、踏みにじった、この事件を引き起こした元凶への強い怒り。
「主よ。御身のご加護が彼女にありますように……」
祈りの言葉と共に弓を引き絞る。
放たれた矢は、狙い違わず寂しい魔女の心を貫いたのであった。
●ハロウィンの灯
「……これ、さっきの奴か?」
「そうだろうな」
面倒臭そうな顔の咒八の横で、大きな南瓜のランタンをつつく織。
ドリームイーターは倒れた途端、この姿になったのだ。
「どうするのがいいだろうか?」
グレタだけでなく何人かのケルベロスは警戒したままだが、何かが起こる気配は無い。
「このままでいいんじゃない? さっきまでの様子じゃ、何か出来るわけでも無さそうだし」
「それもそうか」
ブランネージュはクルクルと手の中で回転させていたリボルバーをホルスターに収めると、戦闘の痕跡が目立つ会場に向き直る。
建物へのヒールは多少幻想的なものになるものだが、今日はハロウィンパーティーだ。丁度いいだろう。
「被害者の娘に、お見舞いとしてお土産を持っていこうか」
ヒールを手伝おうとしていた心遙だったが、サラミンを手伝おうと思いなおす。
あちらはヴァルリシアも手伝っている。時間はまだあるし、人手も充分だ。
「こはるも手伝うよ!」
パタパタ、羽を揺らし、仮装の輪を揺らし、お気に入りのワンピースを揺らしながら、心遙はサラミンのもとに駆け寄る。
パーティーは楽しいものになるだろう。
寂しい心を満たそうという心が、このパーティーにはあるのだから――
作者:こーや |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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