鎌倉ハロウィンパーティー~トリック・オア・ダイ!?

作者:深淵どっと

「ああああ何だよ何だよ! この空気は!」
 どこを見てもカボチャカボチャ、いや、カボチャはいい。ハロウィンなんだから、あって然るべき、それより男が許せないのは。
「何でこの時期からカップルで溢れてるんだよ! ハロウィンだぞ? 起源を辿れば云々……」
 恋人がいない人間に取ってはこの時期から年末にかけては苦行である。何かにつけてイベント、イベント、そしてイベントとなれば若者にとって恋人がいるかいないかはとてつもなく大きな影響を及ぼす。
 それこそ、イベントへの参加の是非が変わるくらい。
「百歩譲ってカボチャ被れよ! 俺だってこんな甘々な雰囲気じゃなくて、もっとハロウィンらしいパーティだったら……」
「参加できるの?」
 不意に耳に入った少女の声。直後、男の胸に『鍵』が突き刺さった。
「……じゃあ叶えてあげましょう。カボチャを被って、悪霊もビックリな最高のパーティで、あなたの心の欠損を埋めるのです」
 鍵が刺さった部分からは不思議なことに血は一滴も出ていない。
 いつの間にか男の目の前に立っていた赤い頭巾の少女は、倒れる男を見下ろし呟くと、くるりと踵を返した。
「さぁ、パーティの幕開けですよ」
 少女の残した言葉の後、男の隣に奇妙な人影が浮かび上がる。
 ――カボチャだった。血塗れのチェーンソーを持った真っ赤なカボチャ頭が、立っていた。

「……ううう、カボチャ頭、怖いです」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が見た予知は中々ホラーな光景だったようで、いつも以上に彼女の姿が小さく見える。
「ハッ! こ、怖がってる場合じゃありませんですね! え、えーと、藤咲・うるる(サニーガール・e00086)ちゃんの調査で日本各地でドリームイーターが暗躍してるのがわかりました!」
 出現するドリームイーターはハロウィンのお祭りやイベントに劣等感を持っていた人物で、ハロウィンパーティー当日に一斉に行動を開始するようだ。
「狙いは一番大きなハロウィンパーティー……つまり、鎌倉のハロウィンパーティー会場です!」
 折角奪還戦の復興も順調だと言うのに、またデウスエクスによって惨劇を起こさせるわけにはいかない。
「みんなにはハロウィンパーティーが開始する直前までに、ドリームイーターを撃破してほしいのです!」
 対応する敵は一体、全身がモザイクに包まれたドリームイーターである。
 しかし、頭にはハロウィンらしくオドロオドロしく眼と口が繰り抜かれたカボチャを被り、体の所々には包帯が巻かれているホラーチックな風貌をしているようだ。
「と、特に目立つのが……まるで両手に持ったチェーンソーで誰かを襲った後みたいに、返り血塗れになっていることなのです……!」
 ゴクリと、怪談話をするようにねむは語る。
 返り血、とは言うが、実際に誰かを襲ったわけではなくそう言う風貌のドリームイーターと言うことだろう。
 無論、放っておけばその限りでは無くなるかもしれないが。
「ドリームイーターはハロウィンパーティーを狙って襲撃してきます。なので、実際にパーティーが始まるより早く、まるでパーティーがもう始まった! みたいに楽しそうに振る舞えば誘き出すこともできると思うのですよ」
 そうすることでパーティの最中を襲いに来たところを迎撃するより、一般人を巻き込む危険性も低くなるだろう。
「鎌倉はこの前の戦いで大変な思いをしたばっかりです! ハロウィンパーティーはそんなみんなが楽しむための大切なお祭りですから、邪魔するなんて酷いと思います!」
 先程まで怯えていたのを忘れ、プンプンと言う擬音が聞こえそうなほど意気込むねむ。
 そんな彼女に見送られ、ケルベロスたちは現場へと向かうのだった。


参加者
ジュリア・ファリフィエル(もふもふニート伝説・e00753)
ミシェル・マールブランシュ(十時の従者・e00865)
白神・楓(魔術狩猟者・e01132)
ダミア・アレフェド(蒼海の人魚・e01381)
朝霧・美羽(そらのおとしもの・e01615)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白天使・e02161)
天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027)
クライス・ミフネ(月華美刃・e07034)

■リプレイ


 鎌倉で催されるハロウィンパーティ会場では、開宴までまだ時間があるにも関わらず多くの仮装した人々と喧騒で賑わっていた。
「今日はみんなで! たっくさん楽しんじゃおーね!」
 流れるおどけた音楽に合わせてギターを鳴らすのは朝霧・美羽(そらのおとしもの・e01615)、ぴょんぴょんと跳ねる度に仮装で身に付けた妖精の羽がふわりふわりと踊っている。
 奏でられる楽しげな音色と一緒に宙空をゆらゆらと漂う白い布は、彼女のビハインドだ。
 そしてその音楽をBGMに、ジュリア・ファリフィエル(もふもふニート伝説・e00753)とミシェル・マールブランシュ(十時の従者・e00865)は手品などの芸を披露していた。
「はい、リンゴがあっと言う間に……こんな風に!」
 ジュリアのジャグリングしていたリンゴが、いつの間にかジャック・オ・ランタン風に飾られていたり。
「そして、そのリンゴを使ったケーキがこちらになります」
 ミシェルが何も乗っていない皿にハンカチを被せると、突然リンゴのケーキが現れたり。その都度、どこかから歓声の声が上がる。
 因みに美羽のギターと一緒の音楽を流しているのはジュリアのテレビウムのコウル。テーブルの上にちょこんと座り、画面にはハロウィンらしいおどけたお化けの映像も流している。
「さて続いては――う……マシュ様、痛いです」
 アップルパイを配りながら次の手品の準備をし始めたミシェルに一匹のボクスドラゴンが齧りついた。
「あ……ミシェルさん、大丈夫?」
 そのボクスドラゴン――マシュのパートナーであるスノーエル・トリフォリウム(四つの白天使・e02161)が魔女の衣装で駆け寄る。
「えーと、トリックオアトリートなんだよ?」
「既にだいぶトリックなんですが……その、痛いです。流石に」
 スノーエルの後に続いて悪魔の角と尻尾を付けた白神・楓(魔術狩猟者・e01132)とダミア・アレフェド(蒼海の人魚・e01381)が料理やお菓子を手にやって来た。
「じゃーん! 私も魔法使いのコスプレなんですよ!」
 両手にお菓子を持ったままダミアは器用にその場でくるりと回ってみせる。
 その足元でボクスドラゴンのミラは羊のきぐるみとジャック・オ・ランタン風の帽子で最早ドラゴンではない別の生き物状態だ。
 賑やかで、華やかで、少し妖しげなハロウィンパーティ。けれど、どこかがおかしい。何かがおかしい。
「……どうやらゲストがお出ましみたいだね、歓迎の準備をしようか」
 ――不意に、喧騒に混じって聞こえてくるのは唸るエンジンのような雑音と、暴力的に甲高い何かが削れるような音。
 楓の言葉にお菓子を食べていたクライス・ミフネ(月華美刃・e07034)の狐の付け耳が揺れた、ように見える。
「トリックオア……トリックの時間かな?」
「そうだな、『パーティ』の始まり、ってところだな」
 ガイコツマスクの幽霊船長、もとい天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027)はマスクの下でニヤリと笑みを浮かべると、武器を構えた。
 刹那――コウルのテレビ画面が消え、BGMがピタリと止まった。まるで時が止まったように、誰一人動かない。
「来た!」
 そして同時に周囲の一般人をなぎ倒し、無粋なゲストが姿を現す。
 まるで今しがたなぎ倒した一般人の返り血を浴びたような、B級ホラーの怪人の如き、惨劇的な姿。
 頭に被ったジャック・オ・ランタンの瞳がギラリと、ケルベロスたちを捉える。予知されていたドリームイーターだ。
 だが、奇妙な事にデウスエクスの出現にも関わらず、周囲の一般人は慌てるどころか以前として動こうとはしなかった。
 パーティの喧騒もそのまま。まるで時間が切り取られたかのような、そんな不思議な光景。
「さあ、錨を上げるぜ!」
 ガイコツマスクを脱ぎ捨てて、矜棲はパーティ会場のスピーカー電源を落とす。
 すると――ブツン、と言う機械的な音と共に全ての喧騒が消え失せた。
 水を打ったような静けさがパーティの魔法を解き明かす。パーティに集まった一般人は全て仮装を施したマネキン、賑やかな喧騒はスピーカーから流された偽装だったのだ。
「ようこそ、あなたの為のハロウィンへ!」
 しかし、偽装はここまで。ここからこそが本当の『パーティ』の幕開けである。


「トリック・オア・トリック!」
 自分が誘き出されたことに気付いているのかいないのか、両手に持ったチェーンソーを不気味に揺らめかせているカボチャ頭にクライスが先手を打つ。
「そぉら、悪戯をプレゼントだ。避けられるかな?」
 敵を撹乱する高速軌道に合わせ、楓の重たい拳撃がカボチャ頭に叩き付けられる。
「まずは前菜からよ!」
「皆さんにインドラの加護を……」
 同時にジュリアとダミア、ミラがメンバーへの支援を行う。
 そして、コウルがテレビ画面からカップルがパーティを楽しんでいるような映像を繋いだものを強烈な閃光と共に放った。
 カボチャ頭はケルベロスたちの攻撃を掻い潜りながら、手にしたチェーンソーを振り上げる。交差した刃が擦れ合って耳障りな騒音をかき鳴らし、摩擦によって燃え上がった炎を纏った刃がコウルに襲いかかる。
「おねえちゃん、お願い!」
 唸りを上げる刃に飛び出したのは美羽のビハインド、美羽の作り出した光の盾で刃を受けつつ、反撃に転じる。
「悪戯にしちゃ度が過ぎてるし、お菓子にしては物騒だな、全く!」
 敵の攻撃の隙を突いた、矜棲の鋭い斬撃がそれに続いた。
「夜より顕れし古の竜よ、我が呼びかけに応え、仇成す敵を焼き払え!」
 魔導書を手にしたスノーエルはまるで本物の魔女のように、高らかに呪文を唱え古の竜……っぽいものを作り出し、マシュと共にブレスを浴びせる。
「これで……燃えろ!」
 ケルベロスたちの攻撃を見かけとは裏腹の素早さで受け流すカボチャ頭だったが、足の止まった隙をミシェルの鎌が捉えた。
 鋭い刃に走る地獄の炎が敵の包帯を焼き斬り、燃え上がらせる。
 炎に包まれながらも暴れる様は、さながらハロウィンの夜に現れた悪霊のようだ。
「トリック・オア・トリート! あなたはお菓子を持っていなさそうね? トリックよ!」
 周囲のマネキンを蹴散らしながら暴れるカボチャ頭に向かって、ジュリアは手にしたロッドを手品のように一匹の鳩に変えて攻撃する。
 コウルも引き続き映像を照射するも、敵の狙いはより近くで交戦していたミシェルへと向けられた。
「ッ……!」
「ミシェルさん! 大丈夫ですか!?」
 すぐにマシュが飛び出しカボチャ頭を突き飛ばす。それをスノーエルの放った光が追撃した。
「く……浅くは無いですね、だが……『認識』したな?」
 『それ』を認識してはいけない。『それ』に応えてはいけない。『それ』に応じたとき、残された道は1つ。
 カボチャ頭がミシェルを斬った直後、その動きがどこかギクシャクと鈍る。
「皆様、そろそろ宴もたけなわと行きましょう……!」


「何だかよくわからないが、チャンスってことじゃな!」
 敵の挙動を好機と見たクライスは素早い動きで敵を撹乱しながら、日本刀で急所を的確に斬り付ける。
 そして動きを抑えられた敵に、ケルベロスたちは攻撃を重ねていく。
 対するカボチャ頭は体を覆っているモザイクを活性化させ、自身を焼く炎を鎮火させようと試みるが、戦況を立て直すにはあまりに遅すぎだ。
「そら、その頭もっとスカスカにしてやろうか?」
 楓の放った弾丸の嵐が補修したばかりのモザイクを削り取っていく。
「もう少しだよ! みんな頑張ろう!」
 激励の言葉と共に、美羽が軽快なステップを踏んだ。
 小気味良いリズムが賑やかしい星空の輝きを産み出し、パーティのクライマックスを鮮やかに彩る。
「フェンリルの氷で凍えなさい!」
 炎が消えたところに今度は熱を奪う凍結光線が放たれる。
 ダミアの攻撃に続き、遠距離から重ねられる攻撃を避けつつカボチャ頭は再びミシェルに狙いを定める。
「そう何度もやらせないよ!」
 燃え盛るチェーンソーをスノーエルのボクスドラゴン、マシュが飛び出し受け止める。
「ヒールは任せて!」
 上手く防御したとは言え、炎を伴った強烈な一撃にジュリアはすぐに癒やしのオーラでマシュを包む。
「トリックも度が過ぎると白けるよ! そろそろ倒れな!」
「同感ですね……少しばかり、しつこいかと!」
 辛うじて致命傷を避け続けるカボチャ頭を楓とミシェルがコンビネーションで追い詰めていく。
「そろそろ本当のパーティを始める為に、終わらせようか!」
 二人の攻撃に飛び退いたところを狙いすまし、矜棲はリボルバー銃の引き金を引いた。
「シメはこいつだ!」
 瞬きの間も許さない一瞬の早業。銃撃と同時に振り抜かれた斬撃が弾丸を押し出し、空を斬り裂く弾丸を加速させる。
 咄嗟にチェーンソーで弾こうとしたカボチャ頭だったが、神速の弾丸はその反射を上回る。
 右目に着弾した弾丸はカボチャ頭の半分を吹き飛ばす――が、まだ倒れない。執念に近い気迫がその足を踏み止まらせた。
「わ……ちょー怖いんだけど……」
「本当にしつこいな!」
 とは言え、最早最後の悪あがきだ。振り上げられたチェーンソーよりも早く、クライスはその懐に潜り込む。
「森羅万象を征し、一天四海を絶つ!」
 一閃、交差する剣戟。一瞬の静寂が響き渡り、両者の動きが止まる。
「……楽しいパーティーに敵なんて無粋ダヨ」
 ぐらりと揺れたのはカボチャ頭。手にしたチェーンソーはがらんと音を立てて地面に落ち、それに遅れて膝を付いて今度こそ倒れるのだった。


「……さーて、まずは片付けだな」
 戦闘が終わったパーティ会場を見渡しながら矜棲は苦笑する。
 チェーンソーで真っ二つにされたテーブル、戦闘の余波でバラバラに飛び散ったマネキン。
 いかにもオドロオドロしい雰囲気はある意味ハロウィンらしいかもしれないが、とてもパーティができる状況では無さそうだ。
「まだパーティまで時間はあります、エル、こちらを手伝ってもらえますか?」
「うん、マシュも一緒に行こうね」
 パーティ会場のスタッフも合流し、まずは全員で片付けと壊れてしまった箇所のヒールを行っていく。
 間も無くして会場は元通りとなり、ハロウィンパーティは無事開催された。
「いやぁ、やっぱりトリートオアトリートだよね」
「たくさんあるから、遠慮しないでね?」
 始まってしまえばクライスの言う通り、トリートだらけ。
 ジュリアの作ったアップルパイを幸せそうに頬張る。
「ボクも! もうお腹ペコペコだよ。トリックはもう十分貰ったから、トリートが欲しいな!」
「ほら、慌てるなって。ジュリアの言う通りまだまだあるからさ」
 楓は大きな鍋に入ったシチューを振る舞いながら、美羽を宥める。家出中の彼女のために魔法瓶に入れた持ち帰り用の物も準備済みだ。
「美羽さん、クライスさん、お菓子も一杯ありますよ? クグロフにタルトタタンに……」
「スコーンにカボチャパイもあるんだよ」
 ダミアとスノーエルの用意したお菓子の山に、二人の瞳がキラリと輝く。
 勿論、お持ち帰り用に袋詰めされた物もある。暫くはトリート三昧を続けられそうだ。
「(……赤頭巾のドリームイーター、ですか)」
 一般人の仮装を横目にミシェルは小さくため息をこぼした。
 今回も何とか無事防げたものの、ようやく元の街並みを取り戻しつつある鎌倉を狙われるとは……。
「ミシェルさん……傷、大丈夫?」
「あ、エル。えぇ、お陰様でパーティを楽しめていますよ」
 スノーエルに声をかけられ、ミシェルは表情を和らげる。
「……エルこそ、大丈夫でしたか?」
「うん、ちょっと怖かったけど……ミシェルさんと一緒なら大丈夫……って」
 少しはにかみながらスノーエルも笑みを返した。
 恋人も、友人も、各々がそれぞれの楽しみ方でパーティを満喫しているのを眺めながら、矜棲は手にしていたジャック・オ・ランタンと目を合わせる。
 顔の半分が弾け飛んだそれは、あのカボチャ頭が消滅した場所に残っていた物だ。
「ま、イベント事がカップル御用達になってしまうのは世の常ではあるよなぁ」
「でも、恋人が居なくたって、イベントは楽しめると思うわ? ドリームイーターを倒したことで彼も目を覚してると思うし、様子を見に行こうかしら」
 ジュリアとダミアが横からそのカボチャを覗き込む。
 どことなく、その評定は淋しげに見えるのは、気のせいだろうか。
「良いですね、まだまだパーティも続きますし、お誘いしましょうか!」
 鎌倉のハロウィンパーティは多くの人々、ケルベロスの手に支えられ、無事開催を迎える事ができた。
 ハロウィンの夜はまだまだ長い。
 折角の賑やかなお祭りだ、楽しまなければ損と言うものだろう。

作者:深淵どっと 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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