ミッション破壊作戦～禍樹園強襲

■リプレイ

●禍樹園強襲
　屋久島上空を、ヘリオンが飛ぶ。
　眼下に広がるは、自然豊かな、巨大な森林地帯である。
　だが、異物は簡単に、見て取れた。
　目標である、強襲型魔空回廊、それを守護するドーム状のバリアは、土地を占拠した征服者の旗のようにも見える。
　ヘリオンより、目標を見下ろすのは、8人のケルベロス。
「生物の血肉を苗床にして増えていく……ゾッとする生態ですね」
　嫌悪の感情を隠さず、玖々乱・儚（罪花喰らい・e00265）が言った。
　この地域を支配するは、あまりにもおぞましき侵略者、スター・ピルグリム。
　生物に産卵し、その肉を苗床として無限に繁殖し続ける、忌まわしき星の巡礼者である。
「……既に現地の動植物にゃ被害が出てんだろうな」
　悔し気に、神白・煉（死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023）は言う。屋久島の広大な自然は、既にピルグリムの侵略を受けているのだろう。攻性植物へ複雑な感情を抱く煉にとって、眼下に広がるのは、怨敵が闊歩する、地獄の再現であるのかもしれない。
「スター・ピルグリムの侵略はここで断ち切らないと……誰かの大切な人が被害にあうかもしれない、よね」
　頷きながら、アトリ・カシュタール（空忘れの旅鳥・e11587）は言った。そう、今はまだ、大きな被害は出ていない。だが、もし、このままスター・ピルグリムを放置していれば。
　その被害は、自分達の大切な人に及ぶかもしれないのだ。
「昔の資料によると、かつてとんでもない被害を出したとか、多くの天使が苦しめられたとか……色々聞いてるのよね」
　と、板餅・えにか（萌え群れの頭目・e07179）。
　生命をむさぼり、繁殖する。スター・ピルグリムは、人類の――いや、全ての生命の天敵ともいえる存在なのかもしれない。
　だが。
「地球じゃ好き勝手出来ないって事、教えてやろう。ここには俺たち、天敵ケルベロスがいるからな」
　村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）が言う。
「そうだな、ここらでガツンと叩きのめして、自分たちのしてきたことを後悔させてやろう！」
　リーファリナ・フラッグス（拳で語るお姉さん・e00877）が同意する。
「地球を苗床になど、わたくし達が絶対にさせませんわ！！」
　ミルフィ・ホワイトラヴィット（ナイトオブホワイトラビット・e01584）が言う。
　ケルベロス達も、その言葉に決意を新たにした。
　そうだとも。星の巡礼者よ。今日この日、お前達は初めて天敵に遭遇する。
　お前達が全てを食らいつくすなら、我々は全てを守り抜こう。
　キンッ、という音が響いた。
　卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）が弾いたコインが宙を舞う。手の甲と手の平で包み込んで受け止める。コインが指し示したのは――。
「――ジャックポット。大当たりだ」
　不敵に笑うと、
「他人のチップを貪って増えるイカサマ野郎どもに、賭けのスリルって奴を教えに行くか」
　その言葉と同時に、ヘリオンは降下ポイントへと到達した。
　ケルベロス達がたがいに視線を合わせ、頷く。
　８人のケルベロスは、その手に輝く小剣を携え、眼下を見やる。
　そして一斉に、飛び出した。
「鳥さんに叫びを聞かれてしまうのは一大事。私ほどのいい女ともなれば男も飛ぶ鳥も放っておかないですからね。大変なことになってしまうかも。まぁ、それはさておき」
　軽口一つ叩きつつ、えにかはグラディウスを構え、
「このグラディウスにえにかいたもちの全てを賭ける！」
　叫ぶ。乗せる想いは、敵との決着。
「命の尊厳を冒涜する緑の悪魔どもっ！　俺の獄炎で燃え尽きろっ！！」
　煉が叫ぶ。想いは、攻性植物への正しき憎悪。
「ラクシュミ様がわたくし達に託して下さった想い、無駄には致しませんわ！！」
　ミルフィが叫ぶ。想いは、女神の願いに応え、巡礼者を滅するために。
「お前らを欠片も残さず葬り去ってやる！　覚悟しやがれ！」
　柚月が叫ぶ。想いは、侵食者への怒り。
「こんなやつらがいたんじゃ、私も安心して彼氏探しができないだろうがぁ！！」
　リーファリナの叫び。言葉は少々個人的な事情に基づいているが、想いは確かに、侵略者からの解放を願い。
「いくぜ、グラディウス、地球を汚す雑草を焼き尽くそう」
　儚の叫び。想いは、侵略者への反撃を。
「この一撃に思いをのせて……多くの人を守る一撃となれ！！」
　アトリの叫び。想いは、大切な仲間を守るための。
「オレ自身をオールインベット、コイツでぶっとびな！」
　泰孝の叫び。想いは、おぞましき侵略者の排除を。
　８人のケルベロス、それぞれの想いが、グラディウスへと力を充填させる。
　掲げた剣は輝きを増し、強襲型魔空回廊を覆うバリアへと接触。
　そして。

●邪なりし、星の巡礼者
「無理か……次に来るまで、持ちこたえてくれよ……」
　柚月が悔しげにつぶやいた。魔空回廊に変化は見られない。つまり、今回は破壊出来なかった、という事だ。
　とは言え、強襲型魔空回廊へダメージを与えるという、作戦自体は成功している。
「さて、捕まる前に逃げさせていただきますかね」
　儚が言った。
　そう、作戦自体は成功したが、ケルベロス達はここから脱出しなければならない。周囲にはスモークが立ち込めており、一見、それに紛れて脱出を図ればいいように思える。が、そう上手くいかないのがこの作戦の厄介な所である。
　予定通りならば、脱出を阻む強敵が姿を現すはずだ。
「グラディウスをお預かりしますわ！」
　ミルフィが言った。事前の打ち合わせ通り、ミルフィが仲間たちのグラディウスを受け取り、死守する。
　８本のグラディウスの重さが、ずしりと両手にかかる。いや、これはグラディウスだけの重さではない。これを守るという、その責任の重さでもあるのだろう。
　ミルフィは頷き、改めて気持ちを引き締める。
「私の知る限りだと、とんでもない奴が飛び出てくるはずですが」
　えにかが警戒しながら、呟いた。
　ずるり。
　と。
　何かを引きずるような音が聞こえた。
　ずるり。ずるり、と。
　こちらに近づいてくる。
　やがて、スモークの中から、それが現れた。
「――――！」
　ケルベロス達は、思わず息をのんだ。
　スター・ピルグリム。それをおぞましく、邪悪に肥大化させた存在が、そこにいた。
　えにかは、自分の中の冒険者の魂が、ピルグリムとの決戦を望んでいる、そう思っていた。
　仮に、冒険者の魂と言うものがあるとしよう。
　月並みな言い方をすれば、それは、前世の記憶。いや、前世の前世のその前世か、とにもかくにも今生ではない、遥か昔に訪れた、終わりなき幻想の冒険の記憶かもしれない。
　もしそう言ったものを、えにかが、或いは、ケルベロス達が持っていたとしたら。
　その魂は、恐らく、たった一つの警句を、持つ者に与えただろう。
（「ああ、そうだ――」）
　えにかが、胸中で呟いた。
（「こいつだけは、絶対に、野放しにしちゃだめだ――！」）
　それは、冒険者の魂があろうともなかろうとも。
　その姿を見たケルベロス達全てが感じたことでもある。
　あまりにも巨大で。
　あまりにも邪悪な。
　ギガンティック・スター・ピルグリム。
　すべての生命の天敵が。
　目の前に、居た。
「rrrrrr――！」
　それは吠えた。この個体は、肥大化する過程で、たまたまそう言った発声器官を得たのだろうか。とにもかくにも、そいつは甲高い声でほえた。
　それは、攻撃を受けた怒りか。或いは、獲物を見つけた喜びか。
　そいつは吠えて。次の瞬間、巨大なハサミ状の手を儚へ向けて振り下ろした！
「――チッ！」
　舌打ちひとつ、儚は簒奪者の鎌、『疫刈-ヤクガリ-』をとっさに構えた。ガギリ、と音をたて、刃と刃が交錯する。
「クソッ、吹っ飛べッ！」
　煉はドラゴニックハンマー、『ヴォルフガングクラッシャー』を砲撃形態へと変形させ、竜砲弾をぶっ放す。
「rrrr――！！」
　悲鳴をあげ、ピルグリムがハサミをひっこめる。
「まずは一枚、ベットだ。コイツはくれてやる、拾いな」
　泰孝が『愚か者の金貨（オロカモノノキンカ）』を放り投げた。その音はピルグリムを蝕み、その動きを阻害させる。
「出し惜しみはなしだ！　暗闇射抜くは漆黒の瞳！　顕現せよ！　スナイパーアイ！」
　柚月の身体が光り輝き、次の瞬間、激しい斬撃が放たれ、ピルグリムの身体を切り裂いた。『霧晴夜明（キリハレヨアケ） 』による一撃だ。
「この一振りで星の厄災を穿つ！」
　えにかが如意棒をヌンチャク状に変形させ、叩きつけた。ピルグリムの身体が裂け、白い体液が噴出する。
「さっきの借りは、返しますよ！」
　儚と、テレビウム『てれ』が動いた。儚はウイルスカプセルを投射。ウイルスはピルグリムの身体を蝕む。てれは儚を鼓舞し、傷をいやす。
「誰も傷つけさせない……誰も、犠牲になんてさせない！　旅人の守護を、あなたに……！」
　戦場を、翡翠色の鳥が飛ぶ。アトリの『旅人の守護（タビビトノシュゴ）』。翡翠色の鳥は儚の傷を癒し、守護の祝福を与える。
「胸糞悪い奴だと思っていたが……いや、コイツは本当に、ほっといたらダメな奴だ！　ここで叩きのめす！」
　リーファリナが飛び、虹を纏った急降下蹴りを浴びせる。反動を活かして、一回転してから着地。油断なく構えをとる。
　間髪入れず、ミルフィが続いた。宙を舞い、流星の煌きの如き空中蹴りをお見舞いする。
「ラクシュミ様が危惧していた理由が分かります……なんて、おぞましい……っ！」
　間近で見たピルグリムの姿は、ミルフィに本能的な嫌悪感を与える。ミルフィだけではない、他のケルベロス達も、同じ感覚を抱いたはずだ。
「rrrrrrr――！」
　ピルグリムは吠えると、産卵管を振り回し、周囲の樹木をなぎ倒した。それらを身体に取り込み、瞬く間に傷を癒してしまう。
「……はっ、流石バケモンだぜ……！」
　煉が呻いた。
　と。
「……ケルベロスの皆様方……！」
　戦場に、声が響いた。姿が見えない。だが、この声は、確か――。
「ラクシュミ様ですの！？」
　ミルフィが叫んだ。
「はい……！　遅くなりまして申し訳ありません。ですが……」
　オウガの女神、ラクシュミは一瞬、言いよどんだ後、
「申し訳ありません、スター・ピルグリムの数が多く、皆様に直接加勢することが困難な状況です」
　と、遠くの方から、何かが吹き飛ばされるような音が聞こえた。
「私は可能な限り、周囲のスター・ピルグリムを排除していきます。皆様方が戦いに集中できる時間稼ぎにはなるはずです……！」
　つまり、ラクシュミは、此方に向かいつつあるスター・ピルグリムの一群を、ある程度受け持ってくれるという事のようだ。目の前の敵との戦い、その後の脱出に、多少の時間的な余裕が発生する。
「このような形でしか皆様に助力できず、申し訳ありません」
　ラクシュミの言葉に、
「いいえ、お手を煩わせ……すみません」
　ミルフィが答える。
「もともとこっちの作戦なので、今の状況も割とラッキーと言うか。助かりますよ」
　と、えにか。事実、有難い加勢である。時間的にも、気持ち的にも、実際に余裕が生まれたのだから。
「ありがとうございます……それでは、ご武運を、ケルベロスの皆様……！」
　それきり、ラクシュミの声は聞こえなくなった。代わりに、遠くで戦闘音が響いている。
「ラクシュミに負けてらんないな！」
　煉が叫び、駆けた。流星の飛び蹴りで、ピルグリムの脚部を狙い撃つ。
「これがコイントスの報酬か……悪くはないな」
　ニヤリ、と笑いながら、泰孝がバスターライフルからエネルギー弾を発射。
「こいつは俺達で切り抜けよう！」
　柚月も追い打ちをかけるように、流星の如き蹴りを放つ。
「これで負けたら、カッコ悪いわよね」
　えにかは『モザイクの毒林檎（エニカサンガイチバンカワイイ）』を手にし、
「そうだな！　コイツを倒して、皆で帰ろう！」
　リーファリナが飛び出す。そのタイミングに合わせて、えにかは毒林檎を放り投げた。それがピルグリムに接触するや否や、リーファリナの蹴りが突き刺さり、攻撃と共に毒林檎を体内深くに埋め込む。
「せっかくの共闘だけど、楽しむのは次にとっておこう！」
　儚が冷気の杭をぶち込み、そこにてれが光線で追撃をかける。
「皆の傷は、私が癒すから……！」
　アトリの決意と共に、翡翠色の鳥が再び戦場を舞う。
「ラクシュミ様のお心遣い、無駄には出来ませんわ！」
　ミルフィのアームドフォート、『アームドクロックワークス・ネメシス』が一斉に火を吹いた。
　ケルベロス達の猛攻は続く。
　ピルグリムの一撃は重く、受ける傷は決して浅くはない。しかし、ケルベロス達の対策、戦術は十分といえるものであったし、今や士気も上がったケルベロス達を壊滅させるには至らない。
　ラクシュミの増援による時間的余裕が発生したことも後押しし、ケルベロス達は勢い止まず、ピルグリムにダメージを与え続けた。
　そして、さしもの怪物も、ついに地に倒れ伏す時が訪れたのである。
「rr……rrrrr……！」
　弱々しく、ピルグリムが吠える。動くだけでも傷が広がる。産卵管やハサミすら振り上げるのがやっとと言った所か。
　前衛のケルベロス達も傷だらけであったが、倒れるものはなく、怪物を見据える。
「仕留めるぞ！」
　煉が『奥義『天星狼牙』（オウギ テンセイロウガ）』を放つ。蒼き炎の狼と化した右腕がピルグリムに撃ち込まれるや否や、怪物の身体は蒼い炎に包まれた。
　同時に、ケルベロス達が一斉に攻撃を開始した。ケルベロス達の最大火力による一斉攻撃は、
「――――！」
　怪物に断末魔の悲鳴をあげさせた。炎に飲まれながら、怪物が消えていく。星の巡礼者は、真っ白な灰となって、その旅を終えた。
　ケルベロス達は、生命の天敵に打ち勝ったのだ！　だが、感慨にふけっている暇はない。そこかしこから、ラクシュミの攻撃から逃れてきただろう、スター・ピルグリムたちの気配を感じる。速やかに離脱しなければならない。
「ラクシュミ様は――」
　アトリの言葉が聞こえたのだろうか、
「私は大丈夫です」
　ラクシュミの声が、響く。晴れかけたスモークの隙間から、ラクシュミの姿が見えた。
「あのピルグリムを退けるなんて……流石です。ですが、皆様も傷を負っているはず。今は退いてください」
　ケルベロス達は、その言葉に甘えることにした。話したい事はあったが、今はそんな余裕はないだろう。ラクシュミと出会える機会は、まだあるはずだ。
「いくぞ！」
　泰孝の言葉に、ケルベロス達は頷いた。
　些か後ろ髪を引かれる思いではあったが、振り切る。
「……また来ますよ」
　えにかが呟いた。
　ピルグリムとの戦いは、まだ始まったばかりだ。
　初戦は制した。この勢いは殺さない。決着の時まで、勝ち続ける。
　ケルベロス達は決意を新たに、今は離脱の途へとつくのだった。

作者：洗井落雲	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年9月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 15／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 2
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