隠然たるワイルドハントの策動

作者:澤見夜行

●辿りついた場所
「これは……一体なんですの……」
 旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)が驚きの声を上げる。
 そこは栃木県茂木町、人里離れた山奥の山村。
 ドリームイーターの言う『ワイルドの力』を追っていた竜華は、何かに引き寄せられるかのように、そう言ってしまえば第六感的なものに従いこの地を訪れた。
 山村はすぐ目の前にある。いやあるはずだった。
 小高い丘の上から俯瞰して見たその村は、すべてモザイクに覆われていたのだ。
「これほどのモザイク、ドリームイーターの仕業ですの?」
 動揺を抑えながら村の入り口まで近づき、モザイクの中がどうなっているのかを調べようとする竜華。しかし、外からではモザイクが邪魔で何も確認することができなかった。
「やむを得ませんわね」
 竜華は覚悟を決め、モザイクの中へ足を踏み入れた。
 粘性の液体が身体にまとわりつく。モザイクの中は不思議な液体で満たされているようだ。
「呼吸は、できますわね。声もでます。……それにしても辺り一帯がバラバラに混ざり合ってますの?」
 竜華の視界に広がる光景は奇怪だ。
 村の家屋や、周辺の森の木々が四散、分散しチグハグに繋がり合っている。まるで不整合の光景に目眩がする。
 一体この村に何があったのか?
 不可思議極まりない状況に、竜華は驚嘆を隠せずいた。
 そんな竜華の前に、突如影が踊りでる。
「――ッ!? 誰ですの!?」
「このワイルドスペースを発見できるとは、まさか、この姿に因縁のある者なのか?」
「そんな、私ですの!?」
 それは竜華と同一の姿をしていた。否、本来竜華が表に出していない、もう一つの姿と言うべきか。妖艶な肢体に纏わり付いている蛇が竜華を睨み付ける。
 幾重にも重なる驚愕に思考が追いついていかない。一体何が起こっているのか。逡巡が判断を曇らせる。
 しかし、竜華の姿をしたソレは、そんな竜華の事を構うことなく指を突きつけ告げた。
「だが今、ワイルドスペースの秘密を漏らすわけにはいかない。お前は、ワイルドハントである私の手で死んでもらわなければならぬ」
 ワイルドハントを名乗るソレは、瞬時に殺気を膨らませ、未だ事態を飲み込めないでいる竜華へと襲いかかった――。


 慌てた様子でミッションルームに入ってきたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、事態の説明を始めた。
「緊急で集まってもらったのは他でもありません、ワイルドの力について調査していた竜華さんが、調査中にドリームイーターの襲撃を受けたようなのです」
 モニターに表示される地図は、ずいぶんと人里離れた山奥のようだ。
「ドリームイーターは、自らをワイルドハントと名乗っていて、山奥の山村ひとつをモザイクで覆って、その内部で何らかの作戦を行っていたようです。
 このままだと、竜華さんの命が危険です。皆さんには急ぎ、救援に向かって彼女を救い出し、ワイルドハントを名乗るドリームイーターの撃破を行ってください」
 セリカは手元の資料を読み進めながら詳細情報を伝えてくる。
「戦闘が行われるのはモザイクに包まれた村の中となります。特殊な空間になりますが、戦闘に支障はありません」
 続けて敵の戦闘能力について説明をするセリカ。
 敵は竜華と同じ姿で、その身体に纏わり付かせた蛇で締め上げ、動きを封じる攻撃をしてくるようだ。また、金色に光るその瞳で催眠に似た症状を引き起こしてくるらしい。ドリームイーターらしくモザイクによるヒーリングも可能なようだ。
 状態異常や行動阻害、回復も持つやっかいな敵だ、とセリカは言う。
 説明を終えたセリカはケルベロス達へと向き直る。
「ヘリオライダーの予知でも予知できなかった事件を、竜華さんが調査で発見できたのは、敵の姿とも関連があるのかもしれません。それに敵はワイルドの力を調査されることを恐れているのかもしれませんね。
 どちらにしても、無事に竜華さんを救い、ワイルドハントを名乗る敵を撃破してください」
 宜しくお願いします、と頭を下げセリカはケルベロス達を送り出すのだった。


参加者
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)
上野・零(リスタートハート・e05125)
ノア・ウォルシュ(太陽は僕の敵・e12067)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
スズネ・シライシ(千里渡る馥郁の音色・e21567)
ブラン・バニ(トリストラム・e33797)
ブラッディ・マリー(鮮血竜妃・e36026)

■リプレイ

●救援
 ヘリオンから飛び降りた番犬達は、眼下に広がるモザイクを見据える。
 報告通り、村一つがモザイクに包まれていた。
「まるで村自体が巨大なドリームイーターのよう……悪夢を見ている気分です」
 京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)は表情に出すことはないが、不可解極まりない光景を前に、疑問が沸いてくる。
「……けれど、まずは敵を倒さなくては始まりませんね」
 旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)が一人耐え凌いでいる。急ぎ救援に向かわねばならない。
(「……なんで旋堂さんの暴走した姿なんだろ……?」)
 上野・零(リスタートハート・e05125)は、ワイルドハントを名乗る夢喰いに疑問を感じていた。一度感じた疑念はつきること無くわき上がる。
 暴走という言葉が引っ掛かかっていた。零は一度暴走を経験している。それによって何かわかることがあるのだろうか。
 七人は村の入り口に着地する。
「……急ぎましょう、竜華が心配だわ」
 アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)は村一つをモザイクで覆うという異様な空間、そして竜華の風貌を持つという敵に多くの疑念を持っていた。
 しかし、今は竜華を心配する気持ちの方が大きい。
 その表情は変わることなく無表情であるが、竜華を心配する雰囲気は強く感じ取れた。
(「……この液体に入って、悪影響とかでないよね?」)
 零のむける疑惑の表情からブラッディ・マリー(鮮血竜妃・e36026)が意図を読み取ったように、答える。
「さて、どうかしらね……どちらにしても」
 皆が頷く。そう、どちらにしても入るしかないのだ。
 ケルベロス達は纏わり付く液体の感触をかき分けるように村へと入っていった。
「合流と救出は確実に行わないとね」
「ええ、そうね。私は向こうを見るわ」
 ノア・ウォルシュ(太陽は僕の敵・e12067)とブラッディはそう言うと翼を広げ飛び立つ。
「上は宜しくね!」
 二人に声をかけブラン・バニ(トリストラム・e33797)は慎重に、しかし性急に地を駆ける。
(「謎だらけの今回の任務……少し怖いけど……でも!」)
 竜華を助けなければいけない。その思いがブランの背を押していた。
 周囲を警戒しながらスズネ・シライシ(千里渡る馥郁の音色・e21567)は思考する。
(「失われた時の世界にドリームイーター……可能性や失われた時、それ自体がモザイク足り得るって事なの?」)
 目に映る光景に想いを馳せながらスズネは地を駆けた。
 耳を澄まし、気配を辿る。目が廻るような景色の中、確かなものは聴覚だ。
 土を踏む音に紛れて、微かな金属音が耳に届いた。
「……向こうかな」零は聞こえた方角を指差す。その音は仲間達にも聞こえたようだ。
 上空を飛ぶ二人からも声があがった。
「あれは……旋堂だ――!」
 バラバラに結合された風景の中、上空から竜華を探していたノアは爆発音と共に土煙が上がるのを見つける。
「北東よ! 近いわ!」
 上空から竜華の居場所を知らせるブラッディ。その身はすでに現場へと急行していた。
 立ち眩むような景色の中を、番犬達が疾駆する――。

●虎口の番犬
 突如ワイルドハントを名乗る自身と同じ姿をした夢喰いに接敵した竜華は、動揺を抱えたまま戦闘へと突入していた。
 なぜ自身の本性とも言うべき姿をしているのか。疑惑、疑念が身体の動きを鈍らせる。
 多数の大蛇が肌を強烈に締め上げ、そのたびに痛覚が視界を明滅させた。
(「いけない……集中しなくては……!」)
 焔纏う大剣を構える。その身に這わせる鎖もまた、燃え盛る炎を纏い火粉を迸らせた。
 戦意を感じ取る夢喰いは、しかしその妖艶な肢体をクネらせ、勝ち誇るように宣言する。
「無駄だ、お前に勝ち目などない――!」
 夢喰いの霊妙な金色の瞳が、竜華を凝視する。瞬間、クラリと視界が揺れた。
 催眠と思われる効果を感じ取った時にはすでに遅い。ぼやけた視界が倒錯する。
 この身を啄もうと伸びる大蛇の群れ。
 歪む視界の中、焔鎖でそれを叩き落とし、手にした大剣で薙ぎ払う。
 音が鳴るほどに歯を食いしばると、大きく息を吸い込んだ。
「ハアァァ――ッ!!」
 烈迫の気合いを籠め、叫ぶ。世界を覆う靄が霧散していく。
「こざかしい真似を」
 夢喰い慌てることなく大蛇を放つ。捌ききれない何匹かが肌を血に染めていった。
「くっ……!」
 襲い来る大蛇の群れを、叩き、薙ぎ、払い、躱しながら竜華は時間を稼ぐ。
 背後で夢喰いの攻撃により家屋が倒壊する音が聞こえた。
 返す刀で夢喰いに手傷を負わせながら、その魂と生命力を奪う。そうして自身の負傷を少しでも癒やしながら仲間を信じて待つ。
 救援は必ず来る。自己幻像の強敵を前に折れそうになる心を奮い立たせる。
(「必ず来ます……必ず――!」)
 仲間を信じ耐え凌ぐ竜華だったが、細い糸を辿るような緊張の攻防の中、一瞬の判断ミスが致命的な隙を生み出した。
「しまっ――!」
 その絶好の機会を夢喰いは逃さない。必殺の一撃が竜華を襲う――はずだった。
 飛び出した影に、弾かれる一撃。竜華を守るように立ち並ぶは七人の番犬。
「間に合ったね」
「――! 皆様っ!!」
 折れかけた竜華の心に、安堵と共にわき上がる力。
(「ええ、やれますわ。仲間と一緒なら、まだ――!」)
 満身創痍の身体を立ち上がらせる。
「――さあ、覚悟はできまして!」
 不敵に笑うは竜蛇の姫。妖艶な肢体に巻き付く鎖が、勇気奮い立たせる音を奏でた。

●集う力
「手ひどくやられたわね、あと一歩遅かったら殺されてたんじゃない?」
「マリー様ったら。ふふふ、私は皆さんのことを信じていました」
 竜華を治療しながらブラッディが戯ける。
 傷だらけの竜華は、安心したように言葉を返した。
「……おのれ」
 夢喰いが、竜華に狙いを定め大蛇を放つ。
 手負いの竜華を狙うその一撃は、ノアの篭手によって弾かれた。
「配置代わるよ、旋堂」
「ノア様、ありがとう、助かります!」
 お礼を言い、戦闘配置を代わる竜華。その隙を狙う夢喰いの追撃を、ノアがその身を挺して守る。相手の狙いは読めていた。であれば、対処は容易い。
「やらせないよ」
 淡々と冷めた印象を持たせるノアだが、その意思は熱気を纏う。絶対仲間を守るという強い意志が誰の目にも感じ取れた。
「旋堂さんが戦列に戻るまで、自由にはさせないよ!」
 竜華を執拗に狙う夢喰いの動きを邪魔するように、ブランが飛びかかり流星のごとき蹴りを見舞う。
 重力を伴うその一撃は重く夢喰いの足を鈍らせる。
「……風よ、この手に」
 アリスの声に誘われるように、優しい風がモザイクの世界にそよぐ。風が仲間達を守る鎧となった。
 夕雨の放つ雨粒ほどの弾丸が夢喰いの足を撃ち貫く。そして地を蹴り、夢喰いへ肉薄すると更なる一撃を狙う。
 零は夕雨が飛び込むのに合わせて走る。視界を広く持ち、連携を重視する立ち回りだ。
「……夕雨さん、合わせますよ」
 今もまた、夕雨の果敢な一撃を回避する夢喰いを狙い、的確にその身体に傷をつける。
「零さん、ナイスです」
 即席ながら息のあったコンビネーションに満足し、クールな二人が頷きあった。
「竜華には悪いけれど……同僚と同じ姿の存在を殺せるなんて、ふふふ、楽しみだわ」
 手にしたナイフを構えながら、ブラッディは抑えきれない衝動を口にする。
「ちょっとマリー様、聞こえていますよ!」
 自分と同じ姿の者を楽しそうに惨殺する光景を想像して、竜華は抗議の声をあげた。
「チッ、やっかいな連中め」
 無数の大蛇が土煙をあげながら大地を這う。
 全方位から襲い来る攻撃は、強烈な一撃では無くとも確実に痛苦を与えてくる。
 夕雨とノアが必死に仲間を庇う。徐々に、確実に体力を削られていく。締め上げられた肉と骨が軋みをあげ、痺れをもたらした。
 反撃を試みる夕雨とノアだが、その俊敏な夢喰いの動きに翻弄され躱されてしまう。
 援護するようにアリスと零が踏み込み追撃を免れた。
「けっこう素早いね」
「では、私とブランにお任せを。私達なら動きを止められそうよ」
 笑顔を湛えた桃色珊瑚の瞳が俊敏に動く夢喰いを捉える。
 その淑やかな佇まいからは想像できない無駄のない動きで、夢喰いを追い詰めていった。
「早く動くだけでは物足りないわ」
 重力纏いし一蹴が夢喰いに直撃する。
「スズネさん――!」
 離れて、と言う前にスズネは後退する。その背後からブランの放った気を咬む弾が夢喰い目がけて放たれた。
 行動阻害を伴う両者の一撃は、夢喰いの肌を裂傷させた。傷口からモザイクが舞い散る。
 しかし、夢喰いの金色に光る双眸は、まだ死んではいない。
 幻妖なその瞳が前衛を担う四人を捉える。
 催眠をもたらすその視線に、すぐさま対応するのはブラッディだ。
「斬れ、穿て、砕け、殺せ、撃て、折れ、断て、殺せ、焼け、抉れ、潰せ、殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ――!」
 殺人を教唆するその洗脳は強制力を落としてあり、仲間達の催眠を打ち払う働きをする。
「ノワさん!」
 ブランのかけ声に、背後に佇むサーヴァントが物言わぬ祈りを捧げ、邪気打ち払う力を仲間達に与えた。
 無数の大蛇とその瞳で番犬達を相手取る夢喰いは、隙あらば自身を回復するモザイクを駆使しその傷を癒やしていく。
 対する番犬達は連携による一撃を積み重ね、確実に夢喰いの体力を奪っていく。
 戦いは一進一退というべき泥沼に落ちていく。
 幾度目かになる夢喰いの攻撃が番犬達を傷つけ、その身体に真っ赤な傷跡を刻みこんだ。
「殺したくなるくらい、忙しいわね――!」
 夢喰いの熾烈極まる攻撃の波が、回復したばかりの仲間達を次々傷つけていく。
 誰を優先して回復するべきか、効率的に、的確に。思考の波に忙殺されながらブラッディは忌々しげに吐き捨てる。
「いい加減殺されてくれないかしら」
 新たに傷つく仲間へと幻影を纏わせていくブラッディ。その視線が一瞬夢喰いからはずれた。
「要は、あいつか」
「いけない!」
 ブラッディを睨み付ける夢喰いの金色の瞳。立ち眩むブラッディを見るや否や、ブランから桃色の霧が放出され、ブラッディを包み込む。
「くっ……ありがとう」
 ブラッディの感謝に頷くと、ブランは敵へと向き直る。
 ブランは回復役であるブラッディを補い助けていた。戦闘の要たる回復役をやられるわけにはいかない。その考えが功を奏した結果だ。
「チッ!」
 夢喰いが焦りの色を見せ始める。
 圧倒的な力の差を見せつけていた夢喰いも、群れとなった番犬達の力を侮っていた。
 互いに補い、相乗効果をもたらすその連携に、徐々に追い詰められていく。
「私の姿をしているんですもの……その程度じゃありませんよね――!」
 挑発する竜華。それは姿を奪われた事に加え、元々好ましく思っていない自身の本性を曝け出されたことへの腹立たしさもあるが、何より戦闘狂としての本能がそうさせる。
 快楽にも等しい鼓動の昂ぶりは、力となって苛烈に夢喰いへと襲いかかった。
「負けるわけには――!」
 凶悪な牙を宿す大蛇が舞う。
「ッ……」
 夢喰いの流れるような攻撃にアリスの肌が締め上げられていく。痛みを紛らわせるように唇を噛む。怯む訳にはいかない。
 追いすがる大蛇が更にアリスを襲う。
「させません」
 咄嗟に大蛇の前に割り込み、身を挺してアリスを守る夕雨。
 仲間をこれ以上傷つけさせやしない。皆は全力で庇い守り切る。
 強い思いが、夕雨の心に火を灯す。
「ありがとう」
「お気になさらず。相手も辛い局面です。さあ、参りましょう」
 自身が一番傷ついているというのに、夕雨は弱気を一切見せることはない。
 番傘型の槍を肩にかけ、仲間達を奮起する。血と汗が頬を伝い混ざり落ちるが、心は折れはしない。地獄化された左眼が迸った。
「行きます!」
「合わせるよ」
 竜華とノアの息のあった連携が烈破のごとく夢喰いを襲う。その猛烈な連激に夢喰いの反応が追いつかない。見る間に裂傷が増えモザイクが吹き出す。
「やりますね」
「お互いに、だね」
 足の止まった夢喰いに、スズネが雷光の如く接近すると一突きにする。
「自慢の足もこれまでかしらね」
 スズネの言うように、夢喰いの動きはその勢いをなくし始めていた。
「ワイルドハント、それにワイルドスペース……」
 それらが持つ意味、力、そして正体とは――。
「……当然、答える気はないのでしょうね」
 独白するアリス。その静かな青い瞳はいまだ倒れることのない敵を捕らえ続ける。
 疑念は後回し。その謎は、何れ暴かせて貰う……今は状況の打破に専心するのみ。
 心の中に強く刻みこむと傷ついた身体に力をいれ大地を蹴った。
「だから……もう、今日は終わらせましょう――」
 アリスのナイフがジグザグに夢喰いを斬り裂いて行く。
 傷つき回避を優先する夢喰いに、夕雨と零が肉薄する。
 右眼と左眼。二対の地獄化された双眸が夢喰いを捉える。
 炎弾が逃げる夢喰いの足を貫き、動きをとめた。
 そこに溶岩を彷彿とさせる紅蓮の竜巻が襲いかかる。
「オォォ――ッ!」
 散らばるモザイクに手を伸ばす夢喰い。
「さぁ……決着をつけましょう、もう一人の私。炎の華で彩って差し上げます!」
 互いに満身創痍。蓄積された傷が身体に悲鳴をあげさせる。余裕はない、これで終わらせる。
 真紅の焔鎖が八方向から夢喰いを襲う。拘束された夢喰いが見上げた先、炎を纏った大剣をただ一刀、振り下ろす竜華が映った。
 咲き乱れる炎の華。散り舞う火の粉が戦いの終わりを告げた。

●謎はモザイクに包まれて
「もう一人の私……貴女は何故、私の姿を……?」
 だが、質問に答えることなく夢喰いは完全に事切れていた。
 あとには散らばるモザイクが残るだけだ。
 傷を癒やし村を探索する八人だったが、そこに手がかりになるようなものは見つけられなかった。
「だめだ、こっちにもない」
「やっぱり何も見つからないようねぇ」
 これだけ不可思議な空間なのだ、手がかりの一つでもあってもよさそうなものなのだと、スズネは嘆息する。
「そろそろ戻りましょう。あまり長居したくない場所だもの」
 空間を満たす液体は、上手く採取することができず、結局、何一つ収穫がないまま村をあとにする他なかった。
「これは、推論なんだけど――」
 そういってノアは自分の考えを述べる。
 失われた時の世界。今回の夢喰いはそれに関わる存在なのではないかと。
 確証はない。しかしもし、あれが『別の可能性世界の力を行使する者』だとしたら――あの姿も竜華が暴走した可能性を映し出したものなのかもしれない。
「なるほどね、一つの可能性として考えられるのかも」
 ノアの考えが真実なのかどうかはわからない。全てはモザイクの中だ。
「ワイルドハント、ワイルドスペースとは一体……」
 誰に聴かれること無く呟いたその疑問は、静かにモザイクの空へと消えていった。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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