安らげぬ傷の疵痕

作者:幾夜緋琉

●安らげぬ傷の疵痕
 静岡県浜松市と湖西市を通る、浜名バイパス。
 時刻は深夜……そんな時刻ともなれば、殆ど往来する車も無い。
 そして、我が物顔で猛スピードのツーリングを楽しんで居る二輪車乗りの男性。
『ヘッヘ、待ってろよー。もーすぐ到着するからなぁ!』
 と僅かな車の隙間を左へ右へ、と運転していく。
 ……が、そんな彼を襲う不幸。
 道路脇の車道外側線の上を、ドリフト気味に曲がったその瞬間、そのスピードのままバイクはガードレールを突き破り……砂浜に二輪車と共に投げ出されてしまう。
 ……当然、身体を強く打ち付けられた彼は、大量の出血。
『……うう……あか、り……』
 ライダースーツの中に入れてあったロケットを、震える手で取りだす彼。
 ……最愛の、恋人の写真を握りしめ……そのまま彼は、絶命。
 そして、そんな彼の元に、闇に紛れてやってくるのは……エピリア。
 彼女は何処か微笑むようにすると、その死体に歪な肉の塊を埋め込む。
 ……そして。
「あなたが今、一番会いたい人の所へ向かいなさい。会いたい人を、バラバラに出来れば、あなたと同じ屍隷兵へと買えて上げます。そうすれば、ケルベロスが二人を分かつまで、共にいることが出来るでしょう」
 そう言うと、エピリアは其の場から消え失せる。
 そして……肉の塊を埋め込まれた彼は、人の様で人の様でない姿を形取ると……周りに浮遊する深海魚型死神と共に、その恋人の元へと動き始めるのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まって貰えたッスね。それじゃ、説明させて貰うっすよ!」
 と、黒瀬・ダンテは集まったケルベロス達に元気よく挨拶すると、早速。
「今回、死神の『エピリア』が、死神を屍隷兵に変化させ、事件を起こしているのが解ったんッスよ」
「エピリアは死者を屍隷兵にした上で、その屍隷兵の愛するものを殺す様命じている様なんッス」
「この屍隷兵は、知性をすでに殆ど失っているッスけど、エピリアの言葉にダマされていて、愛する人と共にいる為、愛する人をバラバラに引き裂こうと移動している様なんッス」
「このままでは、屍隷兵は愛する人を殺し、その殺された者もエピリアにより屍隷兵とされてしまうッス。そんな事、黙って見ている訳には行かないッスよね!」
「既に屍隷兵となってしまった者を元に戻す事は出来ないッスけど、彼が愛する者を殺す様な悲劇が起こる前に、撃破してきて欲しいッスよ!」
 更にダンテは。
「今回の屍隷兵となってしまった男性は、静岡県の弁天島という所の近くの砂浜を歩いている様ッス」
「周囲には国道があるッスけど、深夜の砂浜は真っ暗ッスし、多くの光を炊かなければ周りの人も漁船の灯位に思って気にしないと思うッス」
「ちなみに屍隷兵の周りには、深海魚型の死神が4体、彼を護る様に浮遊している様ッス。つまり、屍隷兵と深海魚型死神4体を倒す、という事になるッス」
「又砂浜ッスから、足元は不安定な様ッス。しっかりとした靴等で対処をお願いしたい所ッスね!」
「後、屍隷兵自身は、近くに済む遠距離恋愛の恋人さんに遭いたい一心で、深夜バイクで飛ばしてきた所の様ッス。屍隷兵となって直ぐッスからそんなんい強敵では無いにせよ……心は痛むかもしれないッスね」
 と、ダンテはそこまで言うと。
「死ぬ前に愛する人に一目会いたい、というのは解るッス。でも、その気持ちを利用して殺人を起こさせるなんて絶対に許せないッス。どうか、ケルベロスの皆さんのチカラで決着を付けて欲しいッス!!」
 と、拳を再度振り上げるのであった。


参加者
大神・凛(ちねり剣客・e01645)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
御門・愛華(竜喰らいの落とし子・e03827)
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)
ジェノバイド・ドラグロア(元八八八番被験体・e06599)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)

■リプレイ

●愛する命を
 死亡したての人間を、屍隷兵へと塗り替える者、エピリア。
 ……死神の力を受けた屍隷兵は、既に人の姿をしておらず、醜悪な姿形を取っており、更に会いたい人にあう為に、其方に向けて動き始めているという。
 そんなダンテの言葉を聞いたケルベロス達は、その屍隷兵の事故現場である浜名湖の近く、浜名バイパスへと急いでいた。
「……しかし、不愉快ですね……まぁ、死神連中の行為に対して愉快と感じた試しはないのですが」
 と、その向かう道中、アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)の口を突いて思わず出て来た言葉は、怒りの声。
 それにジェノバイド・ドラグロア(元八八八番被験体・e06599)とエリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)も。
「人の不幸ですら私欲の為に利用する……反吐が出るぜ……」
「そうですね……人を化け物へと改造し、愛する人を殺させる……あいつと……僕がかつて戦った敵と同じやり口だ。エピリア……お前の思い通りになんて決してさせない。彼の死の運命は覆せなくとも、せめて人としての尊厳と、残された人の命は守って見せる……」
 ぐっ、と拳を握りしめるエリオット。
 ……愛する人を殺すように指示を与え、そして愛する人を殺しバラバラにする事で、同じ屍隷兵とし、死ぬまで永遠に一緒に居られるようにしてあげる、とは言うが……勿論、エピリアがそれを保証している訳でもない。
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)と御門・愛華(竜喰らいの落とし子・e03827)の二人も、そんな仲間達の言葉を聞いて。
「死神に利用される程のそれだ。彼女のことを愛していたに違いない。だからこそ、悲劇は起こさせはしない。どんな姿に変わろうとも、彼は彼女との幸せを願っていたはず。殺そうとしているそれは、死神にそそのかされてのものに過ぎないのだから……」
「ええ。愛する人に合いたいという、無くなった人の無念を利用する死神『エピリア』は許せません。だからこそ……悲しみの連鎖はここで終わらせます」
 と、唇を噛みしめる。
 そんな仲間達の言葉に……とても目立つ赤いペンぐるみに身を包んだヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)が。
「くぁ、まぁアレなオチね~。死人は生者の邪魔をしちゃ~いけないのオチ。例え、ソレが親愛なる者であっても……のオチね~♪」
 言葉上では、ふざけている様にも思えるが、その言葉は真剣。
 ……まぁ、ペンギンの脚ひれをペタペタと音を鳴らしながら歩いているのは、その雰囲気をぶち壊しにしている気もするが……それはさておき。
 そんなヒナタのテンションに合わせるようにジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)も。
「そうやね! 暗い所は夜目でカバー。皆の分までよーく見なね! そして足元注意、ショシュールは動きやすいのにせなね!!」
 と明るく声を掛けるジジ、それに愛華が。
「そうですね。砂浜だと、思っていたより足を取られるでしょうし、注意しないと。一応アクアシューズを履いてきましたが」
「あ、それ可愛いやね!」
 ジジの言葉に笑う愛華が。
「それに脚力強化の装飾も用意してきました。後動きの邪魔にならないようなライトも……明るさはこれくらいで充分かな?」
「そうだな。余り明るすぎると、周りにここにいますよ、と明らかにしている様なものだからな。それ位でいいだろう」
 と大神・凛(ちねり剣客・e01645)が頷く。
 と、そうしている間にも、ケルベロス達はその事故現場へと到着。
「見つけました……あそこです」
 と、愛華が指指す先には燃え上がるバイク。
 そしてその前に、人の姿をしていない肉塊が蠢いている……かろうじて、人のような姿は取っているが、人と判断出来る程では無い。
 ……そしてその周りを護る様に浮かんでいるのが、怪魚型死神……そんな彼らを見て。
「……もう被害者を救う手立ては無いようです。ならば、一刻も早い安らかな眠りにつかせる事こそ、私たちに出来る『救い』であると信じましょう」
 とアゼルの言葉に、ジェノバイドが。
「ああ。死神ども……纏めて地獄に送り返してやる……行くぞ!」
 と皆と共に、砂浜へと降り、向かうのであった。

●燃えた命に
 そして、砂浜を駆け抜けるケルベロス達。
 皆、マリンシューズを履いている事で、取りあえず足元に砂が入る事は無い。
 でも、それ以上の小細工は無しで、真っ正面から死神達に向かい合うケルベロス……それに対し、死神達は、ウウウ、と呻き声を上げる。
 ……うつろな表情の彼を見て、愛華が。
「あなたを助けられなくてごめんなさい。この仕打ちをしたデウスエクスは必ず倒します。だから……今は眠って下さい。最後に……恋人さんに遭わせられなくてごめんなさい」
 と、一言謝罪を呟く愛華。
 勿論、屍隷兵はそんな言葉に心動かされる事も無く……。
『……ウウウ……』
 と唸りながら、ケルベロス達に対峙。
 そんな屍隷兵の前に立ちふさがると、ジジが。
「Je touche du bois!」
 と『デュ・ポワ』で自分に妨アップを付与、それと共に。
「これで炎マシマシ、ばっちりピャン・キュイやで~!」
 とドヤ顔を浮かべる。
 そして、フィストがメタリックバーストを前衛陣に付与する一方、同列のアゼルが接近し、キャバリアランページを周りを飛び回る怪魚型死神に叩きつける。
 更に続くは、怒れるジェノバイド。
 屍隷兵を無視し、浮遊する死神をターゲットとして、ブレイズクラッシュの一撃を叩き込む。
 勿論、屍隷兵は、ウウウ、と呻き声を上げて攻撃してくる……が、それにジェノバイドが。
「うるせぇ!! てめぇの相手はまだ先だ! すっこんでろ!!」
 と怒号。
 勿論怒号を認識などする事は無く、屍隷兵は攻撃。
 死神に加え、屍隷兵の攻撃を受けたケルベロス達の体力に。
「回復は任せて下さい! お願い、ヒルコ!」
 と後列、メディックポジションに立つ愛華が宣言、そして左腕を竜の腕に変え、左手より放つ地獄の炎が、対象を守る様に包み込む。
 そして、同時にフィストのウイングキャットのテラも、清浄の翼でヒールしていく。
 ……そして、中後衛の行動の後、前衛が攻撃。
「くぁ。いくのオチよ~!」
 とペタペタ音を鳴らしながら接近、怪魚型死神をまるで射的の如く狙い、グレイブテンペストの一撃を叩き込むと、続くエリオットがゾディアックミラージュで範囲攻撃。
 更に凛が、竜爪撃の斬撃を喰らわせる。
 ……と、クラッシャー二人と、凛とライドキャリバー、ライトのディフェンダーの防衛陣で対抗する。
 次の刻、先手を取ったジジは。
「……ええニオイ、するカナー……せんやろナー……ま、ハママツはポワソンのおいしいトコロやって聞いたよ♪ ケド……コレはさすがに食べられまへんネ」
 と言いつつ、怪魚型死神に向けて爆炎連鎖獄で炎で燃やす。
 その炎に包まれた怪魚型死神一匹が燃え尽き、消えていく。
 そしてフィストがナパームミサイル、フィストが桜花剣舞と連携して攻撃。
 更にジェノバイドはスカルブレイカーを、叩き落とすように振り落とし、そのまま怪魚型死神一匹を地面へと叩き落としていく。
 ……そして、ヒナタ、エリオットが続けて稲妻突きと、アイスエイジ。
 一方、死神と屍隷兵らの攻撃を、その身を持ってカバーリングする凛とライト。
 怪魚型死神の噛みつき攻撃と、屍隷兵のスローな殴り攻撃は、少しずつではあるが確実なダメージをたたき上げる。
 でも、愛華が。
「大丈夫、いま治すね」
 とジョブレスオーラで凛を回復し、テラもライトを清浄の翼。
 そんな回復のバランスをしっかりと取りながら、浮かぶ怪魚型死神を一匹ずつ、確実に仕留めていく。
 ……そして、戦闘開始から七分程で、屍隷兵の周りに浮かんでいた怪魚型死神4体を、全て滅殺完了。
 残るは屍隷兵のみとなるが、屍隷兵も……今迄の範囲攻撃で、かなり体力が削られていて、フラフラ。
 ……そんな屍隷兵の動静に、ヒナタが。
「……くぁ、もう充分のオチよ」
 と一言を呟くと、次の瞬間……今迄のふざけていた行動がなりを潜め、一歩ずつ無防備な格好で屍隷兵へと接近。
 そして。
「貴方の生は既に終わっている。故にその魂を……この血に、残して置く訳には行かない。さぁ……時間のオチ。輪廻転生悠久の彼方にて、次は同じ『人』としてまた会おう」
 と言うと共に、屍隷兵を抱きしめるようにしながら『転生の炎』を燃え上がらせる。
 ……焔に包まれた屍隷兵が、苦しそうな悲鳴を上げる……が、それにジジが。
「うちらがマドモアゼル・あかりをお守りするデス! ムッシューが大好きな、大事なヒトのこと、ゼッタイ絶対守るデス!!」
 と宣言し、スピニングドワーフを叩きつけ……屍隷兵は砂浜の上に横たわる。
 ……そして。
「最後に、あんたの彼女に伝えておきたい事はあるか?」
 とジェノバイドが問いかける。
 が……屍隷兵はその言葉に。
『……ウウウ……』
 と、唸り声を上げるのみ。
「……解った。さあ……静かに眠れ」
 と瞑目したジェノバイドが、その脳天からスカルブレイカーを叩き込み……屍隷兵は、そのまま崩れ墜ちて行くのであった。

●失われた命に
 そして……屍隷兵を倒した後。
 砂浜には焦げ臭い匂いが燻る……そして、戦いの後の爽快感は、微塵も無い。
 そっと、屍隷兵の死した後の砂浜に目を凝らしてみると……そこには、一部が焦げてしまったペンダントロケットが。
「……」
 そのロケットを、そっと手を差し伸べるようにして持ち上げるフィスト。
 上のボタンを押すと、パカッと開き、その中には、仲良く顔を寄せ合っている男女の姿。
「……これがあかり、なのだろうな……」
 とフィストは小さく呟き……再び、閉じる。
 そして、膝一つ付き、そのロケットを軽く握りしめて眼を閉じ……彼の冥福を祈るフィスト。
 いや、フィストだけではない。
 アゼルや、エリオットも、もはや影も形も無い屍隷兵の骸へ、静かなる冥福を祈る。
「どうか、彼の魂が安らかでありますように……」
 と、エリオットの呟きが、皆の思い。
 ……そして暫くの間、その冥福を祈ると共に。
「……そのロケット、いいでしょうか?」
 とフィストに問いかけるエリオット。
 その瞳を見て、頷き渡すフィスト。
「宜しく頼む」
「ええ」
 詳しくは口にせず、そのままフィストは、砂浜を後にする。
 そして、残る仲間達で、荒れてしまった砂浜を片付け、焼け焦げてしまったバイクも、人目に付かない所へと運び、埋葬。
 ……一通り終わる頃には、もうすっかり朝陽も昇り、朝を迎える。
 でも……まだ漂う沈痛な思い。
 それを振り払うように、ジジが。
「な、皆。帰る前に生のポワソン食べてこ?」
「くぁ。ポワソンって何のオチ~?」
「魚やって。ハママツには美味しいポワソンがあるって聞いたんね!」
「くぁ、それは美味しそう~のオチよ!」
 赤ペンギンの翼をぱたぱたっ、と振るわせるヒナタ。
 勿論、彼らだって悲しい気持ちはある。
 でも、だからこそ……明るく強く、前向きに一歩踏み出す事が、それが自分の使命である、という事も。
「くぁ、皆一緒に行く~のオチよ~!!」
 身体を大きく震わせながら、先頭を歩くヒナタ。
 その滑稽な動きに……僅かではあるが、その陰鬱たる気持ちも、落ち着きつき、そしてヒナタに続き、砂浜を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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