沈んだ想いは浮かび上がる

作者:夏雨


 河口付近の海岸。その日はやや波も高かった。
 沖へと戻ろうとする流れの速い波に飲まれた人影。その人影を追って使命感を帯びた男性は沖の方へと泳ぎ出した。一緒に海岸を散策していた幼い我が子と妻を残して。
 溺れた人を追って泳ぎ始めた男性だが、強い波には逆らえずあっという間に飲み込まれる。岸を目指そうとしても沖へと流されていき、大量に海水を飲み込む。次第に浮上する体力もなくなっていく。体は酸素を欲し、走馬灯のように妻と子どもの顔が目の前に浮かぶ。
 男性が死体となって海中を漂い始めた頃、半人半魚の姿の死神・エピリアは深海魚型の死神5体を引き連れてやって来た。
 エピリアは男性の死体に歪な肉塊を埋め込み、おぞましい屍隷兵を生み出した。肉塊と共に膨れ上がった死体は、3メートルほどに達する巨体へと変貌し、海底に両足をつけた。
 エピリアは生み出された屍隷兵に対し告げた。
「あなたが今、一番会いたい人の場所に向かいなさい。会いたい人を、バラバラにできたら、あなたと同じ屍隷兵に変えてあげましょう」
 かつての男性、屍隷兵はぴくりと指を動かす。
「そうすれば、ケルベロスが2人を分かつまで、一緒にいることができるでしょう」
 エピリアはその言葉と共に、海中や空中を自在に泳ぐ死神たちを残してデスバレスに帰還した。

 浜辺には救助隊が集結し、母子は男性の帰りを信じて待ち続けていた。
 人としての理性も知性もなくし、残滓の記憶を頼りに屍隷兵は海底を歩いて浜辺を目指す。5体の死神を引き連れた屍隷兵の頭が、波間から覗こうとしていた。


「死神・エピリアの企てが判明しました。どうやら死者を屍隷兵に変えて事件を起こすつもりのようです」
 招集されたケルベロスたちに向けて、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はエピリアの計画の一部分について話し始めた。
「エピリアはその屍隷兵に、愛するものを殺すよう命じます。人としての知性を失った屍隷兵にとっては、エピリアの言葉がすべてです。屍隷兵に殺された人もまた、エピリアの手によって屍隷兵へと変わる未来をたどるでしょう。
 残念ながら1度死に、屍隷兵へと変わってしまっては手遅れです……」
 『新たな悲劇を生み出さぬよう、屍隷兵を撃破してください』と、悔しさをにじませながらセリカは言い添えた。
 屍隷兵は海底から救助を待つ妻子がいる浜辺へと向かい、深海魚型の死神と共に浜辺に上陸するだろう。
「海中で戦おうとは思わない方が賢明かと……例え『水中呼吸』を駆使しても、荒波に耐えながら戦うのは厳しいでしょう」
 浜辺に上陸した屍隷兵を迎え撃つことをセリカは進言した。
 浜辺には妻子に加え救助隊の姿もあるが、屍隷兵の注意は妻子に向かうだろう。どの道浜辺に見える一般人を避難させることは不可欠と言える。
 屍隷兵自体の強さは雑魚以上強敵未満と言ったところだが、死神5体の戦力も加わるために混戦になる恐れも充分にある。死神たちは目的を果たすため、屍隷兵を守る布陣で戦いに臨む。
 セリカは夫を待つ妻の心境を推し量り、避難に支障が出ないかどうかを気にかけた。
「妻子は彼の生還を願って浜辺に残っています……彼の死を告げられて取り乱す恐れもありますし、速やかに避難してもらうにはそれなりの配慮が必要かもしれません」


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
御影・有理(書院管理人・e14635)
ユグゴト・ツァン(凹凸不変な地獄震盪・e23397)
鉄・冬真(薄氷・e23499)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)

■リプレイ


 屍隷兵の襲撃が予測された海岸。
 ヘリオンから見下ろした浜辺には、セリカの話した通り救助隊らしき複数の人影があった。
 続々と浜辺へ降下してきたケルベロスたちの姿に、その場の空気は騒然となる。
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は避難が必要な状況について早速切り出した。
「デウスエクスの襲撃が予知されています、この場を⼀時離れて避難してください」
「どういうことですか? まだ夫が見つかってないんです――」
 疲れて眠ってしまった男の子を抱えながら、案の定食ってかかる妻。人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は妻の言葉を遮り説得に加わる。
「状況はお聞きしていますよーぅ。⼿早くデウスエクスと戦い⽚付けられれば、⾃分達もそれだけ早く遭難者の⽅を探す⼿伝いになれますので。今は迅速な避難を、お願いしますぅ」
 一刻を争う事態であることを理解しつつある救助隊に、「救出は任せ給え」とユグゴト・ツァン(凹凸不変な地獄震盪・e23397)は避難を優先するよう促した。
「捜索を迅速に再開する為に、ご協⼒お願いします」
 御影・有理(書院管理人・e14635)も重ねて妻に協力を仰ぐ。
「今は⼀刻も早く敵を倒しご主⼈の救助へ向かう事が重要です。どうか我々に任せて避難して頂けませんか? お⼦さんを守る為にもお願いします」
 真摯な態度で説得を重ねる鉄・冬真(薄氷・e23499)を、妻は黙って見つめる。
 自身のやる気スイッチを現す眼鏡を着用し、『真面目モード』のリナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)。リナリアは「アナタたちが襲われて⼀番⼼を痛めるのは誰?」と言いかけたが、
「旦那様の帰りを⼆⼈で迎えてあげる為にも今は逃げて、⽣きて――」
 そう訴える有理に妻は縋りついて懇願する。
「お願いします! 助けてください、どうか夫を――」
 すべての事実をあえて告げないようにしている手前、妻の必死な姿に有理の表情は一瞬くもる。
 『ダイナマイトモード』を発動する有理は、救助隊の面々になだめられて浜辺から離れようとする妻子に向けて、
「大丈夫、すぐ終わらせます」
 いかにも頼もしい武装を披露して妻子が安心するように努める。
 オルトロスのアマツと共に、仮面ごしに妻子を見つめる巫・縁(魂の亡失者・e01047)は、妻に夫の死を感づかれてはいないかと懸念していた。
 妻とのやり取りを横目に、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は海の方に注意を向けていた。荒れる波間から屍隷兵の姿が覗くのを今か今かと待ち構える。
 ふと横に並ぶ縁に気づき、千里は「おとなしくしてくれそう?」と妻の様子を尋ねた。
「問題なさそうだ……最後に、真実を伝える方が――」
 そう言いかけて、縁は「とにかく闘いに集中しよう」と言い直す。千里は言葉少なに海原を見つめていた。
 浜辺から退散し始める妻子らを見送り、リナリアは『殺界形成』を駆使して一帯の浜辺に殺気の幕を下ろした。


 準備は整ったとばかりにケルベロスたちの視線は海原へ注がれる。やがて、何か大きな魚の背びれが複数見え始めた。
 海から宙へと飛び上がった魚影はやはり死神で、そのまま宙を泳いで浜辺へと向かってくる。その後を少し遅れてついてくる屍隷兵。浅瀬を進み始める頭、海水に濡れた肌は人とはかけ離れ、腐食を示すような不気味な色合いをしている。
「あれが……奥さんでもわからないかもしれないけど――」
 かつての夫が殺される姿を見せないようにと、千里は戦闘域となる周囲に霧のようにガスを充満させ、浜辺の様子を覆い隠すように努める。
 徐々に浜辺へと近づき、屍隷兵の全身が見え隠れする間にも、死神たちは障害となる存在を視認した。ケルベロスたちを排除しようと迫る死神たちは、暗黒色のオーラを集束させた黒い弾丸を次々と撃ち出す。
 浜辺を散開するケルベロスたちは直撃を避けるが、地面に着弾した黒い弾丸は、爆風をともなってオーラの力を発散させる。放たれた攻撃は波紋のように影響し合い、その間を縫うように動く8人はそれぞれで死神を迎え撃つ。
 攻撃による影響を相殺しようとするリナリアは、取り出した爆破スイッチのボタンを押した。その瞬間、アクション映画顔負けの爆破が背後から巻き起こり、死神たちに戦いを挑むケルベロスたちの姿が勇壮に映える。
 完全に浜辺へ侵入した死神たち。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪、参ります」
 刀を構えて立ち回る沙雪の周りには桜吹雪が舞い始める。沙雪は桜吹雪の幻影をまとい、
「剣戟、剣舞、桜花」
 死神たちをも惑わす剣舞で切り込んでいく。
 有理の手から放たれた槍は上空へと飛び、眩い光を帯びた槍は無数に分裂して刃の雨を死神たちに降らせた。
 アマツやミミックの椅子を引き連れて、ボクスドラゴンのリムはその中を果敢に進む。翼を広げて死神の1体へと迫るリムは、勢いよく吹き出した炎で死神の視界を覆った。1体の死神がリムへと襲いかかろうとするが、周囲へと流れ込むおどろおどろしい瘴気に怯む。アマツが操る瘴気から逃れようとする死神たちの目の前に、椅子は財宝の幻影を転がしつつ注意をそらした相手へと襲いかかった。
 サーヴァントたちの連携も手伝い、空中を泳いでいた1体は地面へと転がった。
 海水を滴らせながら浜辺を進む屍隷兵は、ケルベロスたちを見ていないようにも見える。遅い歩みながらも進むことをやめない屍隷兵に一抹の焦燥感を覚えるも、攻勢を緩めない死神たちに立ち向かう。
 ピラニアのように鋭い牙を見せつけて迫る残る4体。縁と冬真の扇から自在に伸びる羽は鞭のように振るわれ、4体をもれなく打ち据えていく。
 1匹は攻撃を受けながらもそれをはね退けるように突進を続ける。その動きに反応したのは、全身のあらゆる部分を地獄化した状態を現したユグゴト。ユグゴトの全身は炎のように渦巻く灰色の冷気となり、千里の前に進み出た冷気の体に死神の牙を突き立てられる。
 死神を振り払ったユグゴトは、『立ち去れ』という文字が刻まれた鉄塊剣を突き立て仁王立ちになる。突き立てた拍子のずしんという衝撃が威圧感を増し、口の見えない頭からは深淵からの歌声が響く。
「我等は地獄の⺟で在る。我等は楽園の⽗で在る――♪」
 不気味な歌に身構える死神たちは、ユグゴトの周りを旋回し始めた。布陣を整えるのかと思えば、次第に死神の周囲には水泡が目立ち始める。それが負傷状態からの再起を図る行動と見通した千里は、黒鉄の金属細工の烏揚羽を取り出す。ひとりでに上空へと羽ばたく蝶の体から、無尽蔵に流れ落ちる金属体。空中で渦を巻く流体は黒い光沢を持つ鏡面を形成し、一気に熱を帯びていく物質からは湯気が立ち上る。
「お前にかける情けはない……死ね……」
 千里が死神へと言い放った言葉と共に、宙に浮かぶ鏡面からは漆黒の光線が照射された。


「――強制された⽣に⺟なる抱擁を。我が掌に在る救済を」
 砂塵の向こうに吹き飛ばされる死神、逃げ惑う死神へと響かんばかりのユグゴトの歌声。その歌声は狂ったように死神の1体をユグゴトへと突進させる。
 剣をくわえたアマツはその死神に飛びかかるが、僅差で死神の頭突きをまともに受けた。砂浜の上に投げ出されるアマツは悲鳴をあげることもなく、すばやく起き上がる姿は誇り高い闘志をにじませる。
 立ち向かうアマツの姿に、吹雪を生み出すツグミの魔法が重なる。
「それでは、一気に⽚付けますよーぅ」
 ツグミの号令に合わせる吹雪は生き物のように動き、死神たちに凍てつく空気を送り込む。アマツが剣を突き立てる瞬間と同時に、完全に凍りついた1体の死神の体はバラバラに砕け散った。
 2体の死神を残し、大剣を構える縁は歩みを止めない屍隷兵を狙う。
「奔れ、⿓の怒りよ!  敵を討て!」
 ――⿓咬地雲!
 砂浜へと斬りかかった縁の大剣からは衝撃波が生まれ、龍が地中を突き進むような勢いで砂浜を突き上げながら屍隷兵へと走る。その攻撃の軌跡を追うように屍隷兵と迫る千里。
 屍隷兵への狙いをそらそうと尾ヒレをばたつかせる死神たちに、冬真の放つ炎弾が迫る。1体は被弾すると同時に滅却されるが、もう1体は構わず突き進む。その道筋へとへ立ち塞がり、すばやく印を切る沙雪。光そのものの刀身を指先に現し、刃を瞬時に死神へと到達させる。死神は沙雪の動きを捉え切れず、とどめを許す結果となった。
 死神たちが最後を迎える間にも、縁の生み出した衝撃波は砂を吹き飛ばしながら屍隷兵を襲う。直撃を受けながらも踏み止まる屍隷兵に対し、接近する千里は刀の切っ先を向けた。
 視界に飛び込む千里の姿を視認すれぱ、鋭く荒々しい一撃が屍隷兵を突き倒す。
「遅い……それで防げると思う……?」
 バラバラと砂粒を散らして仰向けに倒れる巨体を前に、千里は身構えながら言い放った。
 次々と立ち代わる攻撃手を幾度となく振り払いながら、屍隷兵は進むことをやめない。何度砂浜に押し戻されようと、ケルベロスたちの包囲を突破しようとする。
 リナリアがオウガメタルから解放する光り輝く粒子は宙を舞い、仲間の傷を癒すと同時にその感覚を研ぎ澄ます触媒となる。
 屍隷兵から受けた傷を回復へと導くリナリアは、渋い表情を浮かべながらつぶやいた。
「……いい加減あきらめなよ」
 魔導書の一節を唱えるツグミは、リナリアと共に仲間の傷を癒やしにかかる。
「無念だったお気持ちはある程度お察ししますよ。魂やら元の分は、残しておきましょうかーぁ」
 とつぶやくツグミは、ガントレットをはめた右手を掲げた。
 巨体にはね退けられるリムと椅子を横目に、ユグゴトは屍隷兵へと剣を振り下ろす。
 刃を両手で受け止めた屍隷兵と競り合うユグゴトは、頑として浜辺の先を目指そうとする屍隷兵に向かってまくし立てた。
「貴様の⾁体も⼀種の仔だ。暴⾛中の我が為した所業と同等。故に赦しは無く、蹂躙される運命に在り。怨みを残さず逝き給え」
 しかし、屍隷兵は邪魔をするなと言わんばかりに咆哮を示し、ユグゴトを押し返す。
 両足を滑らせて後退するユグゴトに向かって、屍隷兵は右手を突き出そうとする。その手を狙う冬真から放たれた氷の波動は、屍隷兵へと達する。腕でなぎ払われたように見えたが、瞬時に腕を覆う薄氷は確実に屍隷兵の体を侵食する。
 屍隷兵はそのまま冬真へと反撃に出た。僅差で勝る屍隷兵の速さが目標を捉え、鋭い痛みが冬真の脇腹をかすめる。屍隷兵の親指の付け根から伸びる錐のように鋭い骨が、冬真の肌を切り裂いていた。痛みに耐えながら、冬真は言った。
「恨んでくれて構いません……貴⽅が苦しまずに眠れるのなら」


 負傷した冬真の様子を見てざわつく心を静めながら、有理は鎮魂の力を込めた歌声を響かせる。
「何処に在す、此処に亡き君。鎮め沈めよ、眠りの底へ――♪」
 朗々と響く有理の歌声は、屍隷兵の動きを鈍らせていく。
「形無くとも、届けと願い。境の⻯よ、御霊を送れ――♪」
 鎖状のエクトプラズムを振り回す椅子は、ビシビシと屍隷兵を打ち据える。屍隷兵の巨体と対比されると、足元で動く椅子はミニチュアのようである。それでも屍隷兵はゆっくりと片膝をつき、消耗した様子を見せる。
 死神に対して憤りながらも、沙雪の太刀筋はまっすぐに相手を捉える。
「ここで終わってもらおう……死神の思い通りにはさせない!」
 肩から胸にかけて走る斬撃。ツグミはその傷口目がけて鋼の右手を押し当てる。傷口を押し開くように力を加え、相手を食い破るような勢いでバキバキと鈍い音を立てる。
 自らの技術で吸収でき得るものを吸収し尽くそうとするツグミの右手。食い込む指先により一層の咆哮を発し、屍隷兵は上半身にしがみついていたツグミを振り落とす。
 完全には倒れず、ケルベロスたちを見据える屍隷兵。
「――千⻤流……奥義」
 この一撃で、救ってあげる。
 傷口へと再度走る研ぎ澄まされた一撃に思いを込め、千里の刀は更に深く屍隷兵の肉体を終焉へと突き飛ばした。
 砂浜の上に仰向けに横たわる巨体は、もう動くことはない。
 どうにか遺体をヒールできないかと試みたリナリアだが、砂城のようにもろく崩れていく姿を前にやるせない気持ちがあふれるだけだった。
「……最後の言葉すら聞けないのね」
 一方でツグミは、遺体の太い指の間に食い込む光るものを見つけ、それを引きはがした。

「探す必要はないって、どういうことですか?」
 浜辺の隅で救助隊に囲まれ、遠目に化物の死体が横たわっていることを認識しながら、妻は震える声で聞き返した。
 言葉に詰まりながらも、ケルベロスたちはここまで来た本当の理由、溺れた男性はすでに手遅れだったため、デウスエクスを生み出す材料となってしまったこと、真実を告げずに避難させたことを謝罪した。
 力なく座り込んだ女性は、声を押し殺して泣き始める。
「嘘を説いた番⽝に⼤いなる許容を――」
 ユグゴトが重ねて詫びようとした矢先、女性がもらしたか細い声に顔色を失う。
「ウソツキ……」
 その一言をしぼり出した女性は、一層嗚咽をもらす。少し離れたベンチで休んでいた男の子は、ただならぬ空気を感じて母親へと駆け寄る。「ママを泣かせちゃダメ!」と、まだ多くは理解していない子どもながらに母親を思いやり、男の子は母親に抱き寄せられた。
「⾃分にはそういう存在がいませんので、お気持ちが分かるとは⾔えませんがぁ……」
 そう言いつつ、ツグミは遺体の中から見つけ出した結婚指輪を女性に差し出した。
「……ありがとう、ございました……」
 指輪を受け取り礼を述べた女性からは、不本意な結果を必死に受け入れようとしている様子が伝わってきた。
 妻子に背を向けたユグゴトは蒼白な顔を見せないように、人知れず海岸から離れていく。
 妻子と救助隊が帰るのを見送り、ケルベロスたちを迎えに来たヘリオンも砂浜へと着陸した。
 ヘリオンへと向かう一行の最後尾を歩く冬真と有理。
 冬真と歩調を合わせてその隣りを歩く有理は、不意に立ち止まる冬真の顔を覗き込む。「どうかした?」と尋ねるや否や、冬真は有理を抱き寄せた。冬真の背中をなでる有理は、その抱擁を受け入れる。
 お互いの温もりで、悲劇の中で心を折られそうな痛みを慰め合う。自身の支えである存在同士、互いに必要としている相手であることを確かめ合い、2人はまた進み始めた。

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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