人喰いピアノを奏でる怨霊

作者:ハル


「終わったー! あちーっ!」
 午後7時。部活を終えたサッカー部の少年が、ボールを宙に蹴り上げる。
「よっと! 帰ったら、ゲームだな。倒せないモンスターがいるんだよ、手伝ってくれ!」
 打ち上げられたサッカーボールを、もう一人の少年が、足の甲でピタリと止める。
「おお、やるじゃん」
 蹴り上げた少年は、相方の見事なトラップに感心しながら、
「じゃあ部屋作ったら連絡くれな」
 年頃らしく、ゲームの話題で盛り上がっていた。
「ねぇ、あなた達、怪談話は好きかしら?」
 そんな二人の背後に、ヌッと音もなく影が忍び寄る。黒いフードを被った少女であった。二人は、少女が纏う不穏で怪しげな空気に気圧され、思わず頷いてしまう。
「そう、なら良かったわ。実は、こんな話を聞いたのだけれど……」
 少女は、満足そうに頬笑むと、訥々と語り始める。
「旧校舎の音楽室に、今は使われていない一台のグランドピアノがあるの。そのピアノでね、熱心に練習していた一人の男の子がいた。でも、ある日……きっと男の子は、自分で調律をしようとしていたのね。鍵盤側から中を覗き込んだ拍子に、何らかの原因でピアノの屋根が外れてしまって……」
 少女が、昏い微笑を浮かべる。
「ま、まじかよ」
 その表情から、少女の語る男の子の末路を悟り、二人の少年は絶句した。
「男の子の首は、本来ならばありえない方向を向いていたそうよ。それからというもの、男の子はもう一度ピアノを弾ける身体を求めて、今も旧校舎の音楽室で、歪な音色を鳴らして訪れる者を待っているというわ」
「……怖すぎるだろ、それ」
 ブルリと、背筋を震わせる少年達。
「え?」
 だが、もう少し詳しい話を聞こうと振り返ると、ほんの一瞬の間だったのも関わらず、黒フードの少女の姿は忽然と消えていた。
「旧校舎の……音楽室、か」
「い、行ってみる……か?」
 だが、少女の残した怪談は、確実に少年達の心に根付いている。黒いフードの少女が、どこかでニタリと嗤っているとも知らずに……。


「少女の正体は、『ホラーメイカー』と名乗るドラグナーです。屍隷兵を利用し、また新たな事件を起こそうと暗躍しています」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が告げると、ケルベロス達の表情が引き締まる。
「また、今回の事件は、植田・碧(ブラッティバレット・e27093) さんの懸念を元に、発覚しました」
 碧に感謝を告げながら、桔梗は資料を配る。
「ホラーメイカーの手口は、学校に屍隷兵を潜伏させた後、怪談に興味を持ちそうな中高生に、その潜伏させた屍隷兵を元にした怪談話を吹き込み、中高生を自ら危険な場所へと誘導するというものです」
 今回ならば、屍隷兵の潜伏先は旧校舎の音楽室。狙われたのは少年二人となる。
「残念ながら、既にこの怪談話を吹き込まれ、一人の女子生徒が行方不明になっております。取り込まれたとみて、間違いないでしょう。ですので、一刻も早く解決する必要があります!」
 今回の事件でホラーメイカーが用意した怪談は、旧校舎の音楽室で、グランドピアノに首を挟まれた少年が、怨霊となって音楽室に留まっているというもの。
「皆さんには、この怪談話に基づき、旧校舎の音楽室を探索してもらうことになります」
 予知で標的にされた少年二人は、周囲に現れられないように対策を取ることで救う事ができるだろう。
「出現する屍隷兵は、2体。恐らくはホラーメイカーに作成されたものに加え、取り込まれて屍隷兵にされた女子生徒だと思います。悔しいですが、現場にホラーメイカーの姿は確認できませんでした……。どこかで高みの見物をしていると思うと、やりきれませんね」
 総じて、屍隷兵の戦闘力は低い。だが、最初はどこかに潜んでいると思われるので、奇襲には注意して欲しい。
「逆に、潜伏場所を先に発見できれば、戦闘はより有利に進められるはずです」
 桔梗は資料を回収し、深く溜息を吐く。
「夏も終わりが近いと思えば、また新たな用意周到なドラグナーが現れましたね。ともかく、これ以上の犠牲者を出さないためにも、皆さんには敵の撃破をお願いします!」


参加者
ジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183)
柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)
シィ・ブラントネール(遥か気高きペイジィグァン・e03575)
羽丘・結衣菜(ステラテラーズマジシャン・e04954)
佐藤・非正規雇用(一纏恒星・e07700)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
植田・碧(ブラッティバレット・e27093)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)

■リプレイ


「羽丘さん、そっちはどうだ?」
 旧校舎の玄関や周辺にテープを張って回っていた佐藤・非正規雇用(一纏恒星・e07700)は、自分の範囲を粗方終え、羽丘・結衣菜(ステラテラーズマジシャン・e04954)に声をかける。
「順調よ、これで……終わりっ!」
 形成を張り巡らせていた結衣菜はそれを受け、ついでとばかりに玄関に立ち入り禁止の札を貼り付けると、笑顔と共に振り返る。そして「碧ちゃんはー?」と、周囲を見渡した。
「ここにいるわよ。それにしても羽丘さん、えらく厳重ね?」
「んふー、でしょ?」
 植田・碧(ブラッティバレット・e27093)の姿はすぐに見つかった。立ち入り禁止の札に加え、玄関前にはカラーコーンまで用意されている。目を丸くする碧に、結衣菜が胸を張る。
「さっ、とっとと皆と合流しようぜ。玄関って独特の雰囲気あるしな」
 そして、下準備を終えた佐藤達は、店長の先導の元、他の仲間が探索を始めているはずの旧校舎の音楽室へと向かった。

「危ない場所には近づくな……そんな簡単なことが、どうしてできないもんかね?」
 音楽室の灯りのスイッチを何度か押してみるも、反応はない。自嘲するような薄笑いを浮かべたジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183)が、溜息をつきながらスティック式ランランを床に適当に置く。
「そこはお年頃ですから、仕方の無い面もあるんじゃないでしょうか? むしろ私は、よくこんな怪談話を作れるものだなって、感心してしまいます。……もちろん、人を屍隷兵に仕立て上げるなんて事は、許せませんけれど」
 窓際を調べながら、柔和な笑みで柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)は言った。普段と変わらぬおっとりとした様子からは、余裕すら感じさせる。
 と――コンコン。窓が鳴る。鳴らしているのは、シィ・ブラントネール(遥か気高きペイジィグァン・e03575)だ。
「外から音楽室全体を見ていたけど、まったく敵の姿は見えないわ! もう9月なんだから、怪談話もいい加減にして欲しいわよね!」
 結衣が窓を開けると、外側から窓越しに音楽室を伺っていたシィが、大仰な仕草を交えながら収穫はない事を報告する。
「……夏は終われど怪談は続くものだ。……むしろ、喜ばしいことではないか? さて、ワタシはロッカーの中を調べてみるとするか」
 シィの報告を受け、祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)が、物陰やロッカーの探索を始めた。
「まぁ、ケルベロスをやっていると、正直怪談程度で動じなくなってきた気もするのですが……喜ばしいとは。所でイミナさん、どうでしたか?」
 ロッカーを覗き込んで閉じるイミナに、半ば答えを予測しつつ篠村・鈴音(焔剣・e28705)が問いかける。返ってきたのは、進展なしとのこと。
「なら、あそこでしょうか? 正直、入るのは無理だと思っていたのですが……」
 鈴音の視線の先にあるのは、一台のピアノ。一連の怪談の原因ともいえるそれだ。鈴音がピアノの屋根を外して確認しようとした所で、タイミングよく佐藤、結衣菜、碧が合流する。
「こ、こんばんは~……」
 戻ってきた佐藤は、ビビりながら早速ロッカーを調べるが、そこはすでにイミナが探索済み。
「ねー、碧ちゃん。旧校舎って怪談の宝庫だと思わない? 誰もいない音楽室のピアノが独りでに鳴り出すとか。図工室の絵が動き出すとか」
 そうして合流組も探索を続けていると、唐突に結衣菜が碧に言った。
「そ、そそそ、そういうの、や、やめてよ。べ、別に怖い訳じゃないけどねっ!」
 怖いのがダメな事を隠している……つもりの碧は強がるが、事実異変が起こっていた。足音がついてきている気がするのに、振り返っても誰の姿もないのだ。碧は胸を撫で下ろした。そうして、自然と足元に視線が向く。
「……ぁ、お、俺も怖いのが苦手で……」
 そこには、碧のスカートを捲ろうと、裾をつまむ佐藤の姿。そして、その変態行為を不思議そうに眺めるまんごうちゃん。イミナに自分の探索が全て無駄だと知らされた佐藤は、ネタに走ったのだ。
 ――ガッ!
 光の速さで、碧の足裏が佐藤の頭を地面に固定する。
「覚悟をできていますか?」
 固定された頭を、鈴音の黄金の右足が捉えた。
「やっぱりサトウは変態だったんだね! いつかやると思ってたよっ!」
 佐藤を絶賛警戒中であったシィが指を鳴らすと、レトラの炎が佐藤を包む。
「……まったく、賑やかな奴らだな」
 苦笑を浮かべながら、ジョージが肩を竦める。
「……佐藤さんは、変態……なんですね」
 結衣は、努めて佐藤から距離を取っていた。


「さて、気を取り直してピアノの中を……」
 発案者の鈴音が、ゆっくりとグランドピアノの屋根を外す。中のスペースは少ない。人ならば、到底入れるはずもないだろう、人ならば。
 だが――。
「……身体が欲しい……ピアノを弾ける……新しい身体が……欲しいぃぃ!」
 ピアノの中には、二体の屍隷兵が、折り重なるようにして入り込んでいた。それはまるで、ボストンバッグに全身を納める芸のようであり、
「……よう、来てやったぜ。お前達の思惑とは、ちょいとばかし違っただろうがな」
 横から中を覗き込んだジョージが、皮肉交じりの笑みと、言葉を投げかける。
 そして、
「皆さん、見つけました!」
 改めてデウスエクスに常識が通用しない事を痛感した鈴音が、敵の発見を報せる。そして――熱風の刃……疾れッ! 気合い一閃。緋焔を瞬時に高熱化させると、目にも止まらぬ斬撃を放った。
「イギァッッ!」
 屍隷兵の真っ赤な瞳が、ケルベロス達を向く。だが、動き出すよりも早く。
「気が合うね、スズネ! ワタシもこっちから狙いたいと思っていたのよ!」
 鈴音とタッチして前に出たシィが、まずは前衛に妖しい幻影を纏わせつつ、爪を剥き出しにするレトラと共に屍隷兵をピアノの中に抑え込む。
「援護するわ!」
「羽丘さん、こっちからもいくぜっ!」
「いいか、各個撃破だ。あのピアノ狂いの方から仕留めていくぞ」
 結衣菜と佐藤が発生させたカラフルな爆発が、士気と連帯感を向上させる。そして、勢いのままに、ジョージが鈴音が一撃を喰らわせた相手に狙いを絞って無骨なナイフを突き立てた。
「痛い゛……痛い゛……痛いぃぃっ!」
 未だ反撃もままならず、屍隷兵が叫ぶ。
(怖いもの見たさに確かめに行くのは、人の性ってものよね。でも、それを利用して屍隷兵を生み出そうだなんてっ!)
 碧は、半端な気持ちでここに来た訳ではない。騒いでいたのは、歴として存在する救えない犠牲者から、少しでも目を逸らしたかったかも……そんな自分を完全には否定できない。そんな思いをねじ伏せ、碧は昇華させるために、屍隷兵にグラビティ弾を撃ち込んでいく。
(……できれば、こうなる前に助けられればよかったんですがっ……)
 そろそろ、不意打ちで屍隷兵を抑え込むのも限界だろう。垣間見える取り込まれた少女の形相は負の感情に満ちていて、結衣が眉根を寄せる。
「本当に、よくこんな怪談を思いつくものです。まずは体勢を整えましょうか」
 その言葉には、ジョージに告げた時とは違い、怒りが籠もっていた。結衣は、少しづつ敵の影響を受けつつあるDfのために、Evergreenから聖なる光を発生させる。
「……鈴音……さっきのワタシの言葉、少し付け加えさせてもらおう……」
「えっ?」
 突然のイミナの言葉に、緋焔を構える鈴音の動きが一瞬止まる。
「……怪談が続くのは良いことだ……だが――それは被害が出なければの話だ」
 イミナもケルベロス。ゆえ、そう思うのは当然の事。最も、それと祟るかどうかは無関係であるが……。イミナの言葉に、鈴音は「分かっています」と笑顔を見せた。
 そして――。
「……蝕影鬼、祟り掛けるぞ」
 イミナと蝕影鬼が、縛霊手と心霊現象によって屍隷兵を拘束しようと試みる。
 次いで、鈴音は、構えた緋焔をブラフに、飛び蹴りを見舞う。
「……まだ終われない……もう一度ピアノを、ピアノを弾くまではァァァァァッッ!」
 だが、その一撃は妄執を瞳に浮かべる屍隷兵の腕に食い込み、致命には至らない。起き上がった屍隷兵が、ノソリ……ノソリと、ピアノから這い出てくる。その場から逃れ、後退した屍隷兵2体は、虚空で何かを演奏するように五指を滑らせた。
 無人のピアノが奏でるのは、エリーゼという女性のために捧げられた名曲。しかし、滑らかな五指の動きとは正反対にその音は乱れ、歪みきっている。その酷すぎる不協和音に、ジョージの口から血が溢れる。
「……たいした演奏だ。俺でも浴びる程の酒を呷れば、弾けそうなくらいにな」
 パチパチと、次から次へ溢れ出る血を拭いながら、ジョージの乾いた拍手が音楽室に木霊する。だが、その動く死体の様は、ジョージに遠い過去と、最近の情熱的な男を想起させた。嫌な記憶を振り払うように、ジョージの表情が凍る。
(……学習しないのは、俺も同じか)
 そう内心で独りごちると、ジョージは一転して淡々と、屍隷兵の攻撃を意に返さずに打撃を加えていく。
「店長、攻撃は任せた! 俺はジョージさん達にヒールするぜ! これは竜派なのか? それとも――」
 店長が神器で屍隷兵に迫るのを尻目に、佐藤はピアノに対抗するように曲を披露する。歌詞はスルーして、メロディーだけなら聞けなくもない曲であった。
(レトラは男の方を相手してくれているわね! ならワタシは、女の子の方を!)
 怒りで男屍隷兵を引きつけている間に、シィがもう一方の噛みつきを肩口で受け止める。深々食い込んだ牙が肌を抉るが、結衣の付与してくれた耐性が効いていた。続け、シィは再度妖しい幻影を付与する。
「ブラントネールさんのおかげね!」
「当然だよ! だって、このワタシの幻影だもの!」
 すると、早速幻影の効果が出たのか、碧は放った蹴りに手応えを感じ、ドヤ顔のシィに感謝を告げる。
「私達の援護もありがたいけれど、シィちゃんも自分の身体を労らなくちゃね! この恵みを以て、あなたを癒やすわ」
 結衣菜は、肩を押さえるシィを、魔法の木の葉で包み込む。
 ここまでの戦況は、ケルベロス達優勢。敵は2体のジャマーゆえ、一撃一撃で付与される毒や、増殖する毒の量はケルベロス達を強く苛むが、同時にケルベロス達も多量のBSを付与し、男屍隷兵は行動に支障をきたしていた。
「私の役割は特に重要みたいですね」
 その中で、前衛に後衛にと聖なる光を纏わせる結衣は、毒の進行を食い止める意味で大いに活躍している。時折女好きの佐藤から結衣に歓声が飛ぶが、他の女性陣の妨害もあり、結衣は困ったような笑顔を浮かべるだけだ。
「……捕まえた、ぞ」
 その時、一瞬の隙をつき、イミナが2体の屍隷兵を領域に捕捉する。
「……怪異には怪異を、怨みを淀みの底へ……引キズリ、込メ……!」
「アアッ! まだっ……マダマダァ! アイイアアッ!」
 創造された沼からは、恨み辛みの籠もった亡者の腕が生え、屍隷兵を飲み込まんと引きずり込む。女屍隷兵はからくも生き長らえたが、男屍隷兵は地面をガリガリと引っ掻きながらも闇の沼へと引きずり込まれ、二度と現れることはなかった。

● 
 屍隷兵は1体になろうとも、その旋律は衰えることはなかった。今も、歪な音色が旧音楽室を満たし、ケルベロス達を苛んでいる。
 だが――。
「…忌まわしい、呪わしい、醜い姿に成り果てたな。…だがいい、死してまで取り繕う必要はない」
「……あぅ……アア……ア……」
 屍隷兵に、蝕影鬼の背後攻撃に続き、イミナの螺旋の氷結が襲う。男屍隷兵と違い、取り込まれた元少女は、真面な言葉を発することすらできず、ただ狂ったように虚空の鍵盤を弾く。
「っ! まんごうちゃん、お願い!」
 だが、相手は所詮は屍隷兵。音色によって結衣菜の口が鉄の味に塗れても、まんごうちゃんとレトナの祈りや、佐藤の補助があれば問題ない程度の耐性はすでにできている。攻勢に回った結衣菜が、影の弾丸を放った。
「生まれ変わったら、今度は危ない場所には近づかないようにするんだな」
「……そうね、残念だけれど。でも、興味は人にとって大事なものだから、難しいわね」
 彼女は、ケルベロス達が救った少年の、ありえた未来かもしれないのだ。ジョージの暗器が地獄の炎を纏い、屍隷兵に打ち付けられる。
 碧は奥歯を噛みしめながら、電光石火の蹴りで、その感触を自身に刻みつけた。
「……落ち着いて、いつも通りです!」
 その点、鈴音は碧よりも、良い意味で大雑把だ。屍隷兵を救えないものとして、もちろん悲しみは抱きつつ割り切り、
「ハアアアアッ!」
 緋焔に空の霊力を纏わせ、断つ!
「アアゥィィ!!!!」
 消滅の寸前で、屍隷兵が足掻いた。音色を変え、ケルベロス達の力を奪おうとしたのだ。が、ジョージ達Dfが、効率の良い回復を許さない。
「そろそろ退場してもらうわよ! ナタの罪業、天に代わって撃ち抜いてあげる!」
 むしろ、レトナの炎が屍隷兵を焼く。それに怯んだのを大きな代償として、シィの翼が煌々と輝くと、とてつもない早さの弾丸が放たれる。まるで今が真昼であると錯覚させる程の光に、「罪」諸共、屍隷兵の身体の大半が吹き飛んだ。
「よっしゃ! 仕上げだぜ! 店長は柊城さんを助けてあげてくれ!」
 霊力を帯びた私兵を散布する佐藤が指示を送ると、店長が屍隷兵を燃え上がらせる。
「キャアアアアアアッッ!」
 その際、ほんの僅か少女らしさを残した悲鳴が上がり、ケルベロス達の心を揺さぶる。
「これが彼らにとっての、せめてもの救いとなるなら!」
 結衣の掌が、屍隷兵に触れる。込められた螺旋は屍隷兵の内部を破壊し、トンッ! そう結衣が軽く押しただけで、粉々に砕け散ったのだった。


「…………」
 すべての後処理を終えた後、結衣はピアノに黙祷を捧げていた。
「……死は誰にでも平等、か……」
 そう隣で呟くジョージの声には、その実そう思ってはいない響きが込められている。
「さて……」
 碧が手を叩く。その表情は、不気味な旧校舎から出られるゆえ、若干油断しているように見えた。だが、意気揚々と振り返ると、目の先30㎝の距離にレトラがいて、碧は文字通り飛び上がって驚いた。
(あ・お・いさん♪)
「ふきゃああ!!」
 さらに、驚いて神経が高ぶっている所に、鈴音に耳元で息を吹きかけられ、碧は情けない声を上げさせられてしまう。
「はははは! アオイ、今の声なにー!?」
「碧ちゃん、可愛いー♡」
 案の定、碧はシィと結衣菜に大笑いされ、「な、なんの事かしら? ち、違うわよ? 今のは……違うの!」そう強がる事しかできなかった。
 その後、見当たらなかった佐藤はテープで簀巻き状態で発見され、事前にその事を知っていた鈴音が空気を読んだこともあり、翌朝まで放置されていたという……。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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