幽闇の十四階段

作者:犬塚ひなこ

●十四番目
 夕暮れの放課後、彼女は突如として現れた。
「あなた達、怪談話は好きかしら? この学校の十四怪談のお話なのだけど――」
 少女は怪しく目を細め、校門前で喋っていた少年達に語りはじめる。
 曰く、東校舎の端にある四階の階段は呪われているらしい。上階の教室は数年前から殆どが物置になっており、普段は用事がなければ誰も通らない場所だ。それゆえに確かめる者も少ないのだが、其処だけ段数が十四になっているのだという。
「四……死の階段って昔の生徒は呼んでいたらしくてね。何でも、出るそうなの」
 怪しい少女はフードで目元を隠し、勿体ぶって一度黙る。
 少年達はその語り口に引き込まれたらしく、はやく続きをとせがまんばかりに身を乗り出した。そして、少女は口をひらく。
「昔、十四階段から落ちて死んだ子の亡霊が、新しい体を求めて…………ふふふ」
 余韻たっぷりに語った少女は、興味があったら確かめてみると良い、東校舎の窓の鍵はあけておくと伝えて何処かへ去っていった。残された少年達は顔を見合わせる。
「どうする?」
「……ちょっと行ってみようか」
 亡霊に出会ったらどうなるのかまでの考えは少年達にはない。
 ただ、危険な好奇心と無謀な勇気だけが其処にあった。

●十三階段の向こう側
 ドラグナー、ホラーメイカーが、屍隷兵を使った事件を起こそうとしている。
 雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は予知された事象について語り、生徒達に危険が迫っていると話した。
「夜の東校舎の四階に続く十四階段から落ちて死んだ生徒が現れる。その生徒は全身の骨が折れていて、新しい骨を手に入れる為にその階段に訪れた生徒を襲う……という噂が今回にホラーメイカーが作った怪談のようなのです」
 勿論その怪談はでっちあげであり、現場に待ち受けているのはおぞましい姿の屍隷兵だ。
 既に学校の怪談を探索して行方不明になった者達もおり、早急に解決する必要がある。今回はそうはさせたくないと告げ、リルリカはケルベロス達に解決を願った。

 現れるのは歪な形をした屍隷兵が一体。
 夜の学校は戸締りされているが、ホラーメイカーの手によって東校舎の一階、件の階段の真横に当たる窓の鍵がひらかれている。
「皆さまが現場に向かった時、ちょうど小学生の男の子達が窓から校舎に入ろうとしていると思います。何とかそれを止めてあげてから、皆さまは四階に向かってくださいです」
 子供達さえ避難させれば後は戦いに集中するだけ。
 そのまま階段を上がっていくと四階の教室に隠れていた屍隷兵が現れる。戦場は階段と踊り場付近になるのでやや戦い辛くはあるが、ケルベロス達なら問題なく動けるだろう。
 敵は力任せに腕を振り回したり、毒を孕む一閃を放ったり、苦痛に満ちた咆哮をあげて襲い掛かってくる。
 どれも厄介ではあるが、皆で協力しあって戦えば勝てない相手ではない。
 ケルベロス達なら大丈夫だと信じ、リルリカはぐっと掌を握る。
「ホラーメイカーは学校に屍隷兵を潜伏させてから、生徒さんを誘き寄せるような怪談話をばらまく……なんて用意周到なのでしょうか。許せないです!」
 学校の怪談なんて嘘っぱち。純粋な生徒達が屍隷兵の被害に遭う前に早急に撃破して欲しいと願い、リルリカは仲間達を真っ直ぐに見つめた。


参加者
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
ケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)
小鞠・景(冱てる霄・e15332)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)

■リプレイ

●少年と好奇心
 夜の学校に現れるという怪異の噂。
 それは好奇心旺盛な少年達にとっては魅力的な話だ。
 彼等は現在、興味と恐怖が綯い交ぜになった気持ちを抱いてホラーメイカーに示された東校舎に向かっていた。だが、窓辺に近付いたそのとき――。
「こんばんはあ、夜の冒険です?」
 平坂・サヤ(こととい・e01301)のやわらかな声が背後から響き、少年達は一瞬驚く。
 驚かせてすみません、と頭を下げたカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は自分達がケルベロスであると告げる。シュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)も噂は本物ではないと話し、危険だと伝えた。
「さ、少年共。ちょいと洒落にならないでございますからさっさと帰るでございます」
 ケイト・クリーパー(灼魂乙女・e13441)が真剣さを強調して事の重大さを教えると、傍らに控えていたライドキャリバーのノーブルマインドが駆動音を響かせた。
 小鞠・景(冱てる霄・e15332)もそっと頷き、静けさを宿す眸を彼等に向ける。
「そもそも、こんな時間に校舎に入ってはいけませんよ」
「……ごめんなさい」
 景やサヤの隣人力のおかげか少年達は素直に謝った。ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)は良い子だと明るく笑い、やさしい口調で告げてゆく。
「噂が気になる気持ちはよくわかるけど、こんな時間に出歩いてるのがバレたら、家の人や先生に叱られちゃうぞ」
「危ない目にあってしまってはママとパパも悲しむわ。きっと今も心配しているはず」
 好奇心旺盛なのは良いことだけど、と付け加えた藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)は淡く笑む。ティユ・キューブ(虹星・e21021)もその通りだと同意を示し、少年達を諭していった。
「こうして見つかった以上は諦めておくれ。不思議でもなんでもない危険は望んだものでもないだろうし、夜にここまで来れただけでも十分さ」
 な、ペルル、とティユはボクスドラゴンに小学生達の勇敢さを問う。異議なしと言うように匣竜は翼をぱたぱたと揺らした。
「でも、ケルベロスだっていってもお姉さん達も危ないんじゃ……?」
 すると少年が心配そうにうるる達を見上げる。だが、シュリアは緋色の双眸を鋭く細め、ひらひらと手を振った。
「ほらほら、ガキはアイスでもくって早めに寝ろ!」
 シュリアの強い言葉には心配などしなくても良いという思いが込められている。それを感じ取ったらしき少年達は、分かった、と言って窓から離れた。
「おばけよりもっとこわいものに遭う前に、今日はおうちに帰りましょーねえ」
 サヤは手を振り、その背を見送る。
 それから一行は鍵のあいた窓から内部に侵入した。念の為にケイトがキープアウトテープを張り、カルナが内鍵を閉める。
 仲間と共に上階へ続く階段をのぼる中、カルナは事件の元凶を思った。
「それにしても……噂話を作り出しておびき寄せるとは、中々手が込んでいますね」
「自作自演の怪談話だなんて、ひどいものね」
 うるるも敵について考え、まったくもう、と軽い溜息を吐く。
 ホラーメイカーによって既に被害が出ていることや、取り返せぬ命があることを思うと胸が痛んだ。だが、ルトは拳を固く握り締め、戦いへの決意を固める。
「さて、もうすぐ四階だ」
 ルトが階上を見上げると、非常灯の薄明に照らされた影が見えた。ケイトは目を凝らし、それが間違いなく屍隷兵であることを確かめる。そして、
「さっそくいらっしゃいましたね。生憎、私は割と怖いもの知らずでございまして……」
 ――さぁ、戦争でございます!
 真夜中の学校に凛とした声が響き渡った刹那、闘いの幕があがった。

●闇を導く光
 現れたのは到底ヒトとは思えぬ、歪な姿をしたモノ。
 階段を下りてくる屍隷兵を見据えた景は逸早く動き、硬い床を蹴りあげた。
「お先に失礼します。先手は頂きますね」
 跳躍した景は失われた星座を畏み、箒星を喚ぶ。尾を引き流れる小さな星は周囲を淡く照らし、敵の身を鋭く穿った。
 噂を信じた少年の好奇心は悪いものではない。
 しかし、前途ある未来が死で塗り潰される未来を知っていて黙っているわけにはいかない。景は流星を腕で払おうとする敵から距離を取り、射線をあける。
 其処へうるるが続き、電光石火の一閃を放った。
「どんな戦いでも先手必勝だって、ママが言っていたわ」
 容赦のない旋刃の蹴りが炸裂した次の瞬間、屍隷兵が反撃に出る。うるるの足を掴もうとした敵の動作に気付き、ティユが相棒竜を呼ぶ。
「ペルル、そっちはお願いしたよ」
 その声に応え、素早く翼を広げた匣竜はうるるに触れようとしていた屍隷兵の腕に体当たりを仕掛けた。其処に踏み込んだティユは敢えて敵の攻撃を受けに向かう。
 そして、勢いのままに振り下ろされた兵の一閃がティユを襲った。
 されど身構えていた彼女は衝撃に耐える。すぐさま紙兵を散布したティユは自らの傷を癒し、守りの加護を広げていった。
 ルトは仲間の身を案じながら、自らも攻勢に出る。
「行くぜ、まずは攻撃力を削いでいこう」
 銃身をしかと支えて狙いを定めたルトは引鉄をひといきに引いた。瞬刻、バスターライフルから解放された零の重力が敵を穿つ。
 屍隷兵として利用されてしまった以上、元が罪の無い人達だったとしても敵は敵。
 ルトは言葉にしない思いを胸の奥に押し込め、次の一手に備える。ケイトも続けて行動に移り、更なる紙兵を飛ばした。
「役を果たせでございますよ、From Junkyard!」
 ひらりと舞う兵達は仲間に宿る加護を深めていく。援護に入るケイトに変わり、ノーブルマインドが炎を纏って敵に突撃した。
 カルナも敵を見つめて攻撃の機を窺う。不気味な唸り声をあげて階段の踊り場まで下りてきた異形に向け、流星を思わせる蹴りを解き放った。
「もう夏も終わり。怪談も店じまいの時期ですよ」
 足止めを狙った一撃は見事に巡り、カルナは蹴った勢いを使って宙で回転を入れ、床に着地する。敵の前から身を引いたカルナの代わりを担う形でシュリアが躍り出た。
 その狙いは敵の牽制だ。
「ホラーっつーのは別に悪くねーけど、現実じゃねーからこそだろ」
 ビビってねーからね、と呟いたシュリアはカルナに追い縋ろうとする間に割り込む。そして、強く握った拳を一気に突き出した。
 シュリアの一撃は閃光の銀と呼ぶに相応しい。鋭い痛みが脳を犯すが如く、敵の身を揺らがせた。しかし、それだけでは終わらない。
「好奇心を逆手に取られるのは、業腹なのですよ」
 静かに瞳を細めたサヤが掌を翳す。途端に対象が貫通される可能性が集約され、オーラの刃が敵を四方から貫いた。
 それがサヤが纏う空白から放たれたのだと気付いた景は、流石です、と彼女に賞賛の言葉を送る。そのとき、敵の動きを注視していたうるるが声をあげた。
「気を付けて、そこよ!」
「ああ、オレ達が狙われてるみたいだ!」
 うるるからの呼び掛けにルトが応え、シュルツに目配せを送る。中衛に向けて放たれた薙ぎ払いはひとかけらの容赦もなかった。
 だが、シュルツは華麗に一撃を避け、ルトへの攻撃もティユが肩代わりする。
「っと、大丈夫か!?」
「平気だよ。守ることが今の僕の役目だから」
 ルトの問いにしかと答えたティユは床を蹴り、自分の言葉が本当だと示すべく反撃に移った。良かった、と一先ず安堵したルトも身構え直した。
 戦いは巡りゆき、敵は攻撃を放ち続ける。
 しかし、ケルベロス達は一歩も引かなかった。景とうるるは攻撃手として絶えず痛みを与え続け、着実に敵の力を削っている。
 そんな中で景はふと敵を見遣り、嘘の噂を思い返した。
「怪談ですか。……いえ、別に苦手、ではありませんが不気味さは拭えないですね」
 平静を崩さぬまま首だけをゆるりと横に振った景は一気に竜槌を振り下ろす。其処に合わせてシュリアが加速させた槌による追撃に走った。
「不気味だよな。ああ、分かるぜ」
 何か通じるものがあったのかもしれない。二人は頷きあい、視線を交わした。
 その間にも攻防は繰り返され、ケイトが懸命に癒しに回る。燃え立つオーラを飛ばして癒してサムズアップしたケイトは攻撃に立ち回るノーブルマインドに命じた。
「しくじるなでございますよ、相棒!」
 エンジン音が激しく響く中、サヤも紡いだ気力を盾役として立ち回る二人に施す。
 ホラーメイカーは随分と用意周到だ。餌を撒いて殺しに掛かるなんて、と考えたサヤは敢えて目の前の屍隷兵に問いかける。
「ねえ、何人殺しました?」
 勿論、答えはない。哀れな兵に答えられるはずがない。
 返答の代わりに唸り声をあげた屍隷兵を瞳に映し、カルナは僅かに俯いた。胸裡に浮かぶのは元の姿の在り様を歪められたことへ憐憫。そして、一滴の哀悼。
 カルナが破鎧の衝撃を打ち込めば、ティユとペルルが隙を突いて左右から敵を挟撃する。だが、ティユ達に向けて激しい薙ぎ払いの一閃が返された。
「既に犠牲が出ているのが遣る瀬無いが、それだけにこれ以上は一切なしとしよう」
「……そうだな」
 痛みに耐えつつ紡がれたティユの声を聞き、ルトは歯噛みする。
 屍隷兵に与えられる救いはこの手で屠ることだけ。それ以外の手段を持っていない自分にどうしようもない無力さを感じたが、ルトは決して敵から目を逸らさなかった。
 ルトは掲げた剣で以て聖別の扉をひらく。
 其処から放たれた燐光は生ある者に力を与えた。煌めき舞う淡い光はまるで、幽かな希望を照らしているかのように見えた。
 そして、時は巡る。
 已まぬ攻撃に堅牢な防御、的確な癒し。全てが揃った戦いは終幕に近付いていた。
「趣味の悪い怪談話はこれで最後にしてほしいものだわ……!」
「私達の手で終わりにしましょう」
 うるると景は確かな勝機を感じ取り、畳みかけるチャンスを窺う。其処から攻撃に移ったカルナは不可視の魔剣を形成していく。
「力だけが自慢では足元を掬われますよ? よそ見はいけませんね」
 軽口と共に振るった魔力の塊は敵の身を斬り裂き、修復困難な傷跡を残した。間もなくお休みの時間です、と告げたカルナ。彼の一撃は致命傷と成り得るものだ。
 シュリアは自慢の八重歯を見せつつニヤリと笑い、敵を見据える。
「さぁ……骨の髄まで楽しもうぜ?」
 其処まで楽しめば待つのは灰となるだけ。再び放たれた閃光の銀は敵を揺らがせ、一瞬の夢を魅せた。
 されど敵も最後の抵抗をみせる。
 ケイトは終わりまで援護を続けると誓い、力を紡いだ。
「回れ、燃ゆる魂の歯車よ。轢き潰せ、向かい来る攻勢の尽くを!」
 巨大な歯車を模ったオーラを固定化させてゆくケイトの守りは強固なものだ。ティユも誰も倒れさせないと決め、最後の癒しを放った。
「終焉を、ここに導こう」
 極星一至。星の輝きをもって星図を投影したティユの力は仲間達に優しく巡る。
 うるるは今が好機だと察し、めいっぱいの声で呼び掛けた。
「あともう少し――最後はいっきに叩き込むわよ!」
 呻く屍隷兵にうるるは告げる。痛みも苦しみも全て忘れていい。私が覚えていてあげるから、と。一瞬後、苛烈な降魔の一撃が敵の胸を穿った。
 サヤも其処に続き、この怪談だけは本当にしてあげましょう、と薄く笑む。
「ここが十四段目ですよ。おまえはここで、おわりです」
 かの身を貫くのは星の一閃。手繰られた因果の力が屍兵を弱らせていく最中、景は鋭い刃を差し向けた。
 彩のない瞳に影が映った刹那、刃は標的の力を根こそぎ奪い取る。
 瀕死の屍隷兵を見つめたルトは今一度、魂を導く扉の鍵をあけた。実際に手に掛ける自分がこんなことを願うのは自分勝手なのかもしれない。それでも。
「せめて、最期くらいは……」
 あたたかな光に包まれて、安らかであってほしい。そう願わずにはいられなかった。
 そして――不死なる者は聖なる光によって焼き尽くされた。

●帰途
 偽の噂と共に屍隷兵が葬られ、学校に平穏が戻る。
「皆様大丈夫でございます?」
 ケイトが残っていた傷に癒しを施しながら問うと、仲間達は平気だと答えた。敵の亡骸も消失してしまった現在、この場に長居は無用だ。
 皆は其々の健闘を労った後に階段を下り、一階の窓から外に出た。そのとき、うるるは何かの気配を感じて辺りを見渡す。
「あの男の子たちは無事にお家に帰れたかしら……?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん達だ! おかえり!」
 其処に現れたのは帰ったはずの少年達だった。一服しようとしていたシュリアは思わず煙草を取り落としそうになる。
「こら、お前等! さっさと帰れって言っただろうに」
 新手の怪談かと思った、と呟いたシュリアの視線は厳しかったが、少年達は引き下がらなかった。サヤは何か理由があると感じて問いかける。
「なにかあったのですか?」
「怒らないから言ってみるといい」
 ティユも少年達と視線を合わせて言葉の続きを待つ。
「おれたちの学校の平和を守ってくれるケルベロスに、ありがとうって伝えたくて!」
「僕たち、お礼を言うために待ってたんだ」
 そして少年達はうるるやカルナ達に頭を下げた。同時に告げられた『ありがとう』の言葉を聞いたサヤと景は思わず顔を見合わせ、そっと微笑む。
 少し驚きはしたが彼らの思いは真っ直ぐだ。それにきっと、ケルベロスは絶対に負けないと信じてくれていたのだろう。
「まったく、そんなことの為に待ってたのか。けど……こっちこそありがとうな!」
 ルトは最初こそ呆れ気味に肩を竦めたが、すぐに快い笑みを浮かべた。そして、伸ばした手でくしゃくしゃと少年達の頭を撫でてやる。
 護れなかったものも確かにあった。されど、しかと護れた命も今此処にある。
 少年達がルトにじゃれつく様を眺めながら、カルナとシュリアは周囲に危険な気配がないか探った。だが、特に何も見つからなかった。
「ひとまずは一件落着かな」
 カルナは息を吐き、今回の事件が無事に解決したことを実感した。
 そうして景は少年達に手を差し出す。
 送りますよ、と申し出た彼女に彼らはもっと話していたいと駄々をこねた。しかし、景は首を横に振って帰路を示す。
「先生やお母さんお父さんを心配させたり、叱られたくはないでしょう?」
「ちぇー、わかったよ」
「はい、良い子にはお菓子をあげましょう」
「お菓子なら僕も持っているよ。皆で食べながら帰ろうか」
 渋々と納得する少年達に景がキャンディを差し出すと、ティユも偶然持っていた金平糖を取り出した。まるで星を手にしているようだと目を細めたティユの隣では、うるるとサヤが楽しげに金平糖を眺めている。
 菓子を頬張る少年達の表情は輝き、仲間の穏やかな声が聞こえる。たまにはこんな夜も良いだろうと感じ、番犬達は歩き出した。
 護った今日の先に、より善い未来が訪れることを願って――。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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