
「スリングショーット!!」
「スリングショーット!!!」
残暑の海に湧いたのはビルシャナと信者だ。
「おなごの水着はスリングショットが至高!」
「そうだそうだ!!」
「肌を晒せ! ポロリも大歓迎だ!!」
「そうだそうだ!!」
夏の暑さに頭が沸いてしまった色々と手遅れなビルシャナは、男信者どもを引き連れて海に来ていた。
青春宜しく海岸を走るビルシャナと信者たち。誰かいれば信者に引き入れる為、説法を聞かせよう……と、この場所を選んだはいいが。
「教祖様ー!」
「なんだー!!」
折しも盆過ぎ。そして秋めいた気温。
「誰もいませーん!!」
信者獲得はそこで終了した。
●
「ビルシャナが出現しました。撃破してください」
顔を赤らめてケルベロス達に状況報告をするセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。
「今回のビルシャナの教義は『女性の水着はスリングショットが至高』だそうです」
「スリングショットって……、あの露出度の高い?」
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)の問いかけに、セリカは赤い顔のまま頷いた。際どいにも程がある水着だ。凛子の口にした通り露出度が高く、ほぼ紐と言っても過言ではない。セリカは咳払いを一つすると、気を取り直したようにケルベロス達を見回した。
「出現場所は海岸ですが、何を思ったのかそのビルシャナが信者を連れて出現したのは誰もいない海です。ここ最近秋めいて気温が下がり、海水浴をする人がいなかったのは不幸中の幸いと言えます」
つまり人払いの必要はない、と。
全員が納得した表情を見せるとセリカの説明は次へ進む。
「信者は八名、全員男性です。恐らくはビルシャナのせいで血迷っているだけでしょうから……出来れば、説得をお願いします」
果たして本当にビルシャナのせいなのか。しかしその質問は誰の口からも上らなかった。
「相手はあのビルシャナです。ここで見逃してしまえば、いつか誰かに被害が及びます。……どうかお願いします」
今示された道は、ビルシャナの撃破。その一つだけだ。
参加者 | |
---|---|
![]() マイ・カスタム(ロボのフレンズ・e00399) |
![]() 蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227) |
![]() イスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873) |
![]() 斎王・キロ(オーク触手堕ち絶対させるマン・e20363) |
![]() 白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055) |
![]() アドナ・カテルヴァ(戦えドラゴニアン・e34082) |
![]() 六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994) |
![]() ナナリア・クレセント(フルムーンシンガー・e37925) |
●
「き、……教祖様ぁ!」
「……な、ん、だぁー!?」
「ひ、ひとっ……人影、を、発見、し、しましたー!!」
未だ砂浜を走っていたビルシャナと信者達は、複数の人影に気付いてその進行方向をそちらに向ける。頭が足りていない面々は、この場所に何故人が居ないのか、そして今更何故人が現れたのか考える事も無い。
一帯に吹く風はそこそこ涼しいのに、信者達の全身に流れる汗は決して走っていた時間が短い訳ではない事を物語っている。
ビルシャナが全速力で人影に近付く。そうしている間に、後ろの方で一人の信者が転んで倒れていた。もう限界だったようだ。
「……お、っ……まえ、た、ち、水着と……言ったら……スリ、……スリングショット……に、決まっているよな……?」
肝心のビルシャナもよろよろのぐだぐだ。声が辛うじて届く範囲に到着したビルシャナは、震える膝で歩み寄る。
「…………」
そんなビルシャナを見返す瞳は、どれも冷え切っていた。
「……スリングショットは良いぞぉ……! 麗しの乙女の柔肌、最低限しか隠さない布面積、ポロリも望めるパラダイス! スリングショットはこの世の楽園である!!」
ビルシャナは息を整えながら捲し立てる。……自分が今声を掛けている、その全員がケルベロスだとは露ほども思っていない様子で。
「……まさか、こんなビルシャナがいるとはな……」
ドン引きした様子のイスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873)が小声で呟くも、ビルシャナは気付いていない。イスズもスリングショットではないものの、露出の多いパレオ付きビキニを着ている。彼女が惜しげもなく晒した肌に気付かないまま、ビルシャナは自分の妄言を垂れ流す。
「スリングショット! スリングショット!!」
「ラブアンドスリングショーット!!!」
ビルシャナと信者達は疲労困憊ながらも声を合わせてお祭り騒ぎだ。その途中で転んで遅れた信者もやっと合流した。
「ビルシャナ依頼は初めてだけど……こんなのしかいないの……?」
哀れなのはそう呟いたナナリア・クレセント(フルムーンシンガー・e37925)である。うら若き彼女の目の前に広がる光景は、鳥人間と良い年した男共が古き時代のセクハラ親父のような気持ち悪い己の欲望を吐き散らす、という下手すればトラウマ一直線のものだった。
年齢相応の可憐な花柄ワンピースの水着を着ていたナナリアは、その気色悪さに嫌悪感を露にしながら愛用のギターを抱いたまま後ずさる。
「さぁ、お前達も我が教義の素晴らしさをとくと味わうがよ……い?」
嬉々としてケルベロスの面々に話しかけるビルシャナの動きが止まる。
それは、この団体の中の一人が腰から下が無いビハインドである事。
そして、二体ほど主人の足元に待機しているテレビウムがいる事。
「……貴様らっ……!! ケルベロスか!」
「漸く気付いたのですか?」
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)が感情の乏しい声で口にした言葉は意図的なようで、表情も普段の柔らかいものと違い少し固い。目に宿る感情は、恐らくビルシャナへの蔑視。
「騙された!!」
ビルシャナは失意のまま砂に膝を付けた。信者達も砂に額を擦り付けるような姿勢で咽び泣いている。
「もうやだこのビルシャナ」
まだ始まったばかりだと言うのに、六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)の偽らざる本音が零れ出た。ここで呆れて帰らないのはケルベロスとしての責任感か。
「悟りじゃなくて魔境を拓いてどうするんですか、仮にも毘盧遮那と名もついてるのにっ……!」
白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055)の憐れみを帯びた声は、打ちひしがれるビルシャナには届いていない様子。尤も、声が届いて正気に戻るならこんなふざけた教義など広めていないのだろう。
ともかく、ビルシャナ討伐の依頼は幕を開けてしまったのである。ケルベロス達はビルシャナが失意の淵にいるうちに、先に信者の説得に取り掛かることにした。
●
「肌を出せば出すほどいいなんてまだまだ。どんなに凄い水着だろうと、女子が着てくれなければ単なる布切れさ」
マイ・カスタム(ロボのフレンズ・e00399)が説得に掛かったのは未だ蹲ったままの信者二人だ。共に向かったアドナ・カテルヴァ(戦えドラゴニアン・e34082)も説得に参加する。
「水着って元々水の中で動く為のものでしょ? なのにスリングショットじゃあ、ええと色々気になって動けないじゃない!」
マイは瑞々しいレモンイエローのハイレグワンピ、アドナは麗しい青いホルターネックビキニを纏っており、スリングショットほどのインパクトは無いにしろ、通常であれば海水浴客の視線を集めることは間違いなかっただろう。こんなビルシャナと信者達しかいない依頼に似つかわしくない程の華やかさだ。
「逆に、そんなの着てくれる女子は下心ありあり、獲物を狙う狩人そのものじゃないか」
「それがいいんじゃないか!!」
顔を上げた信者は見えないマジックで『下心しかありません!』とでも顔に書いているかと思う程に清々しかった。
「狩人どんと来い! 恥ずかしがり屋な子だって美味しく頂ける!!」
「解ってないな、君は」
ちち、と指を左右に振ってダメ出しをするマイ。その唇は笑っている。
「真に素晴らしいのは、淡色系ワンピース!!」
力一杯主張するのは、スリングショットとは違った趣の水着。
「これなら女子でも着やすく、水着としての機能もばっちりだし、ポロリの心配がないということは逆に言えば女子を沖に誘いやすく、水の中でもキャッキャウフフできる事請け合い!」
「彼女さんが居る人は彼女がぽ、『ぽろり』とかしても良いの? 恋人が居ない人は、そういう無理推しする人は、モテないよ!」
「ぐぅっ……! 痛いところを……!!」
「例え彼氏さんに『どんな水着が良い?』って聞いたとしても、女の子の着る服を決めるのは、結局女の子自身なの!」
女性の尊厳を守る方向で説得をしているその場所に、別のメンバーからの説得が聞こえ始めた。
「スリングショットが悪いとは言わないけど、やっぱりビキニが良いよ」
ラッシュガードに包まれていた、汗ばんだ柔肌を晒すように脱ぎだす千那。
「こんな風に谷間を強調して見せれたり、ボトムの食い込みを直す仕草だって唆るだろう?」
「それに……水着だけで選ぶのか? 肝心の中身には興味が持てぬ……という訳ではあるまい?」
千那に倣い、イスズも蠱惑的な声で続く。水着はイスズも千那もシースルー生地のパレオが付いたビキニだ。この類の水着は下手に肌を出すより格段に色香を増す。
二人の前にいるのは三人の信者だ。内二人は完全に目が釘付けになっている。
「そもそも、そのような水着を着る者なぞ……余り居ぬぞ? この様なタイプの方が着ている者が多いと思うが」
イスズは前屈みで谷間の強調。
千那はボトムの食い込みを指で直しながら。
それぞれ男の情欲を煽るような艶めかしい表情で、信者達の気を引いていた。
「……お、おい、これ別にスリングショットじゃなくても良いんじゃないか……?」
「ああ……。いやしかし若いのに良い身体してんなオイ……」
揺れ動く信者達の心。しかし。
「俺、自分の娘と同年代には欲情しねーわ」
そう言い放った信者がいた。
「え、娘?」
「娘。高校生……え? あれ? 俺なんでこんな所に」
信者が自分の家族を思い出し、勝手に正気に戻りかけていた、そんな時。
「フハハハハァ!!!」
テンションの高い不気味な笑い声が周囲に響いた。
●
「テンション上がるぜぇ!」
高笑いしながら全力疾走していたのは斎王・キロ(オーク触手堕ち絶対させるマン・e20363)だった。そして、その前方にいたのは。
「うわーああぁ!!」
「助、助けてぇええ!!!」
彼に追われている二人の信者であった。
キロが身に纏っているものは、あれ程信者達が愛を叫んでいたスリングショット(男性用)であった。前衛的で猛々しいその水着がとても良く似合っている。しかし何故だろう、信者達は怯え泣き叫び逃げ惑っていた。その内片方の信者が転んで頭から砂にダイブする。キロがその一人に狙いを定めた。
「どうしたぁ!? お前達が希い、思いの丈を叫び、待ち焦がれていたスリングショットだろう!?」
「ひぃっ! や、やめて……来ないで……男のは要らねぇんだよおお!!!」
「男女差別するなぁ!」
立てずにいる信者に向かい、追い打ちのテンタクルボム。捕縛特化のそれが信者に当たり弾けて、中から形容不可能な混沌が信者を拘束する。完全に身動きが出来なくなった信者ににじり寄るキロ。
「教育してやろう。真のスリングショットの素晴らしさをな……!」
キロのスリングショットから、彼のサンチ砲(暈し)がポロリと顔を出した。ポロリを声を大にして望んでいた筈の信者の表情が絶望に歪む。
「や、やめ、らめぇ、お、お母さあああああああん!!!」
…………。
その光景を見ていた信者達に、大小様々な絶望が襲った。インパクトとしては絶大すぎる効果に、他のケルベロス達も暫し言葉を失う程。
「……もう、止めにしませんか?」
一人の信者の犠牲により、キロから逃げ切ったもう一人の信者。
顔を真っ青にしていたその信者に優しく声を掛けたのは、知人同士の凛子と夕璃だ。
凛子は真夏の海を思わせる青色の紐ビキニの上からパーカーを羽織っており、清楚な印象で肌理細やかな肌が眩しい。
並んだ夕璃は白を基調とした競泳水着。清楚に見えつつ、張りのある豊かな身体は主人の意思を無視して自己主張が強い。他の面々と水着の趣が違えど目のやり場に困る。
大多数の男は二人の姿を見ればこう言うだろう――『眼福』と。
「というかポロリがいいなら、貴方達も着て、股間ポロリさせればいいんです。……まさか自分がポロリするのは嫌なのに、人にしろとか言っている訳ではありませんよね?」
凛子の言葉に力なく首を振る信者。男のポロリを見た後だと流石に聞き分けも良く、説得もスムーズだ。
「水着はあくまで泳ぐ為の物ですし、好きな人になら……ちょっと位、大胆な水着も……っていう位なら、まだ判るんです……一応は」
夕璃も、控えめな意見ながら自分の思いを信者に伝えた。水着を着ているせいか頬はほんのり赤く色づき、本人の羞恥心を視覚で訴える。
「……でも、えっちな視線で見るのは、めっ、です、めっ……!」
左右から厳しく優しく、飴と鞭のような説得を受けて信者が項垂れた。もう、この信者からの敵意は全く感じない。
(私も、敬愛するあの方が喜んでくれるなら、あ……でもやっぱり恥ずかしい……)
声に出せない本音が、想いを寄せる人の姿と一緒に頭をぐるぐる回る夕璃。苦悩と照れが渦巻く思考に、ふと過ぎった記憶があった。
「あれ、そういえば凛子さんの今年の水着コンテストの水着ってスリ……」
「きゃあ! そ、それを今思い出さないでください!!」
今口にしたらビルシャナからターゲットにされかねない言葉をポロリしかける夕璃。
実際、凛子ほどの肢体の持ち主がスリングショットを着ていたら、崇拝対象としてポロリ大歓迎の変態、もといビルシャナ達からもみくちゃにされていたかも知れない。……今回は約一名のスリングショットで信者達は阿鼻叫喚だった訳なのだが。
「貴方まさか、あんな水着を子供の私にまで着させるつもり?」
ナナリアも信者相手に説得中だ。相手の信者はキロの姿にも酷く狼狽えたりはせず、彼女にじりじりと近寄っていた。
「水着に貴賤などないんだよ、お嬢さん……。男のスリングショットだって、愛でろと言われたら愛でてみせよう……」
それはビルシャナの洗脳から来る言葉なのか、それともこの信者の生来のものか、件の彼の注意が向いていないからこその大口なのか。それを今知る術は無い。
信者は手に女性用のスリングショット水着を持っているが、彼女の縦にも小柄な体格から考えて大きめかも知れない。普通に着たら紐部分がたるんでポロリどころの騒ぎではないだろう。
「私みたいな子供はこういう可愛らしい水着がお似合いなのよ。このっ……変態!」
「変態結構!」
信者の魔手が迫る。
「うっ……、ふぇ」
幼いその大きな瞳に、大粒の涙が浮かぶ。ぺたりと砂の上に座り込み、両手で涙を拭うポーズをして大きく息を吸い込んだ。
「うええええええええん!!」
「え、えっ? ええっ?」
幾らケルベロスとはいえ少女だ。それがどういう事か漸く気付いたらしい信者が途端に挙動不審になる。変態の称号にロリコンがつくような行為をしているのだ。それが教義とはいえやりすぎた。
「お巡りさぁん、この人変態ですうわああああん!!」
「ちょっ……! やめて! 警察はやめて!!」
足元にいたテレビウムのシングがよしよしと彼女の頭を撫でる。そんな姿を見た信者は頭を掻いて、何かを考えるような仕草をして見せて。
「……仕方ない」
耳を疑うような一言を。
「更衣室に案内するから」
それ以上を口走らせないうちに、ナナリアのバイオレンスギターが逆袈裟の動きで信者の顎に向け振り抜かれた。勿論手加減攻撃だ。
白目を剥いて気絶する信者を、目が覚めないうちに警察へとしょっ引こう。そうナナリアは決意を固めるのだった。
信者達は全員説得に成功した。一部物理攻撃もあったが、ビルシャナの支配からは逃れることが出来たようだ。
「もしもーし」
未だ失意の淵から帰還しない様子のビルシャナに声を掛けるアドナ。つんつん、と指でつついたら漸く意識がこちら側へ帰ってきたらしい。
「……ハッ! わ、私は一体……。お、お前達は!」
「お気付きになった所を大変申し訳ないのですが」
凛子が声を発する間にビルシャナが見たのは、武器を構えるケルベロス八人の姿。
「『お還り』ください」
その言葉を聞いたが最後、ビルシャナにとっては何が何かも解らないまま繰り出される物理とグラビティの連続攻撃。
こうしてビルシャナの野望は、その身と共に塵に還った。
●
ナナリアのギターの音色をBGMに、討伐を終えたケルベロス達は海を楽しんでいた。
砂浜をのんびり歩いたり、冷たい海に入って水を掛け合い笑う水着の女性陣。即興の歌詞で旋律を奏でるナナリア、その光景を笑みを深めて眺めるキロ。
「いやぁ、良い眺めだねぇ」
「ちょっとキロ君! あんまりジロジロ見るな!!」
マイの窘めるような声が彼に飛ぶ。尤もそれは他の女性陣を気遣った言葉だが。
彼は気にするでもなく、軽く首を振った。そして視線は再び海に。
「本当」
彼女達は気付いていただろうか。そして、知っていただろうか。
盆を過ぎたこの時期には、毒クラゲが一気に成長して海に入る者に害を成すことを。
「良い眺めだねぇ」
彼はこの時何を見ていたのか。
それはきっと、彼以外誰も知らない。
作者:藤森燭 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2017年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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