フローライティア

作者:犬塚ひなこ

●鉱石少女
 蛍石の名を抱く淡い色の鉱物、フローライト。
 神秘的な紫や青、透き通ったクリアな石、穏やかな緑や黄色。どうしてか昔から蛍石が持つあたたかさのようなものに惹かれた。
 少女はフローライトばかりを並べた自室の棚を眺め、穏やかな時間を過ごしていた。
 だが――。
「やめて、やめてよ! それは大切な石なの、壊さないで!」
 突如、目の前に現れた二人の魔女によってそれらは破壊し尽された。泣き叫ぶ少女を見つめた魔女達は視線を交わしあい、同時に手にした魔鍵を掲げる。次の瞬間、少女の胸に突き刺さった鍵が淡く光った。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 魔女達――ディオメデスとヒッポリュテは鍵を引き抜き、倒れる少女を一瞥する。
 すると其処から胸に大きなフローライトが埋め込まれた二体のドリームイーターが現れた。片方は蒼の蛍石ような瞳をした悲しげな少女。もう片方は緑の鉱石めいた瞳の奥に怒りを抱いた少女。
 魔女はいつしか其処を去り、夢主の少女にそっくりな夢喰い達も部屋を出る。
「ああ……私の蛍石、大切な石達が……」
「この怒り、どうしてくれましょうか……」
 そして、ふたつの心を持つドリームイーター達はその感情を解放するべく其々に呟いた。

●フローライトの涙
 怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデス。
 そして、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテ。
 パッチワークの魔女がまた動き出したようだと語り、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は予知された事件について説明を始めた。
「二人の魔女はその人のとても大切な物を破壊して、それによって生まれた『怒り』と『悲しみ』の心を奪ってドリームイーターを生み出すようなのでございます」
 リルリカは既に件の怒りと悲しみの夢喰いが動き出してしまっていると話し、現場の状況を告げてゆく。
 敵は二体。それ以外の配下などは存在はいない。
 現在、ドリームイーター達は少女の家を飛び出して近くの公園にいるようだ。
「今からすぐに公園に向かえば敵に遭遇できます。避難を促したりしている時間はないので、皆様は戦いに集中してくださいです」
 避難行動を行うよりも攻撃を仕掛けた方が周囲の人間を逃がす時間を作ることになる。そのため、絶対に倒す気概で向かって欲しいとリルリカは願う。
「夢喰い達の攻撃は石化やパラライズの効果があるので気を付けてください。一体に動けなくされた後にもう一体が猛攻撃を仕掛ける、というパターンが予想されますです」
 夢喰い達は見事な連携で襲い掛かってくる。少しでも油断すると連続攻撃で此方が倒されてしまう可能性もあるので注意しなければいけない。
 敵さえ倒せば眠らされたままの被害者の少女も目を覚ますことが出来る。
「大切な物を目の前で壊されたら、悲しくて怒っちゃうのもあたりまえです! その感情からドリームイーターを生み出すなんて許せないです」
 リルリカは憤りを示し、頬を膨らませる。
 そして少女はケルベロス達に信頼の宿った眼差しを向けて願った。どうか、不当に具現化された怒りと悲しみを鎮めて欲しい、と――。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
篠宮・マコ(夢現・e06347)
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)

■リプレイ

●意思
 大切な物、大事なものを思う心。
 それはきっと、自分が星に憧れ、惹かれる気持ちと同じなのかもしれない。
「ウン、わかるような、気がする」
 真昼の公園にて、ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)は澄んだ空を見上げた。
 今回、敵となったのは大切な物を壊された怒りと悲しみが具現化されたドリームイーターだ。リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)は瞳を伏せ、肩を落とす。
「魔女の登場ですか……意地の悪そうな方で今後頭の痛い案件が増えそうですね」
 リュティスやジルカの傍らにはウイングキャットのシーリーとペコラが控えていた。その隣では雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)が敵の気配を探っている。
 その際、思うのは魔女達のやり口。
 本人ではなく、その人が大切にしている物を狙う。それが実に理に適っていると感じるからこそ、余計に腹立たしい。
「あんな手口……デウスエクスじゃなくたって、誰であっても許されない事だよ」
「……許せない。倒しましょう、一刻も早く」
 これ以上、怒りや悲しみを生まないためにも、と思いを言葉にした結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)も地面を踏み締めた。
 そのとき、フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)が敵影を見つける。
「見て、あの遊具の陰!」
 幸いにも敵の近くに一般人はいない。方向を定めたフェクトは誰よりも速く駆け、二体のドリームイーター達の下に向かった。
「悲しいの。大切な私の蛍石が……」
「許せない。どうして……どうしてなのよ!」
 少女の姿をしたそれらは其々に悲しみと怒りを口にして、此方を睨み付ける。翼猫のぴろーを連れた篠宮・マコ(夢現・e06347)は視線を受け止め、夢喰い達を見つめ返した。
「石の価値はよくわからないけど、大事なものを壊されて許せないって気持ちはわかるよ。でも、あなたたちを見過ごすわけにはいかないの」
 ごめんね、と告げたマコの後方。ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)は少女達の胸に宿った石を眺める。
「これがフローライト……綺麗だな」
 見ていると心が和らぐ、と感嘆の溜息を吐いたティティス。だが、すぐにはっとした彼はボクスドラゴンのイサと共に身構えた。同様にフローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)も敵を見据える。
 蛍石は感情の乱れや混乱を正し、冷静さを取り戻す石。
「怒りに、悲しみ……感情に振り回されるあなた達は……紛い物でしかない……」
 そして、フローライトは自分と同じ名を持つ石をしかと瞳に映す。
 ――刹那、戦いの緞帳が上がった。

●鉱石
 青い瞳の悲しみと、緑の瞳の怒り。
 二人の少女が同時に動き、胸に宿った鉱石を光らせた。その一閃が仲間に向けられたと察したマコとリュティスは前に踏み出し、攻撃を受け止める。
 そして、攻勢に出たレオナルドがブラックスライムを解き放った。
「いくぞ、お前達の怒りも悲しみも俺達にぶつけて来い!」
 二人の瞳の違いを確認しながらレオナルドは悲しみの少女を黒槍で穿つ。
 一見は勇猛果敢に叫ぶ彼の内心は揺らいでいた。足も手も震えそうだ。しかし、戦いから逃げる訳にはいかない。
 フェクトもレオナルドの一撃に続き、同じ標的に狙いを定めた。
「他人の大事なものを壊すなんて趣味が悪いよね。人の嫌がることはしてはダメって習わなかったのかな?」
 君たちに言ってもしょうがないんだけど、と呟いたフェクトは地面を蹴りあげる。其処から跳躍したフェクトの蹴りは見事に衝撃を与えた。
 その間にシエラが護りの左手から癒しの光を生み出す。
「大切なもの、大切なひと。それは人にとっての核――」
 支える柱を失ってしまえば、きっと心が壊れてしまう。だからこんなことを認められない、と前を見据えたシエラ。その身にちいさな力が巡ってゆく。
「悲しい、苦しい……」
「絶対に許さないんだから!」
 少女達は尚も己の感情を吐露し、ケルベロス達を睨み付けた。
 本来なら魔女へと向けられるはずの思いは歪み、目の前の者にぶつけられている。ジルカはそれは間違っていると首を振り、ペコラに願う。
「ペコラ、みんなの援護優先でお願いだよ」
 自分も頑張るから、と相棒猫に向けて片目を瞑ったジルカは幻影の大鎌を手に取った。
 鉱石や宝石は星の欠片のよう。けれど破壊は悲惨な過去を思い出させる。意識の裏に浮かぶ思いを振り払ったジルカは柄を強く握り、刃を振り下ろした。
 仲間が敵を穿つ中、フローライトは星の剣に魔力を込める。地面に描かれた守護星座は光を放ち、前線に立つ者に加護を宿した。
「支えるのは……任せて……」
 フローライトは誰も倒れさせないと心に決め、次の一手に備える。
 続いたイサも前衛に雪氷の力を宿した。ティティスはすかさず竜槌を砲撃形態に変形させ、青い瞳の敵を狙う。
「大切なものを壊す事は心を壊す事と同じだ」
 夢喰いを見据えたティティスはひといきに竜砲弾を放った。
 其処へマコとぴろーが癒しに入る。翼猫が広げていく清浄なる力に合わせ、マコは己の傷を癒していった。自分は大丈夫だから、と告げたマコの声に頷き、リュティスはシーリーと共に打って出る。
「最初はあっちの青い子からでいいよね」
「はい、集中して撃破ですね。シーリー、一緒に頑張りましょう!」
 マコの呼び掛けに頷いたリュティスは炎を纏う蹴りで悲しみの少女を蹴り抜いた。
 だが、ドリームイーター達も反撃に移る。
 悲しみの少女が来ると察知したフェクトは敢えて受け止める姿勢を取り、機を見計らう。鉱石化の一撃を手にした杖で弾き、横手に回ったフェクトは思いきり振り被った。
「吹っ飛べ! 神様すごいフルスイング!」
 言葉通りに最大威力で放たれた一撃が敵を揺らがせた。
 しかし、すぐ其処には怒りの少女が迫っている。このままではフェクトが大打撃を受けると感じたマコは、危険を顧みずその間に割り込んだ。
「痛いけど、まだ大丈夫」
「すぐ……癒すから……安心して……」
 砲から取り出した蛍石に魔力を込めれば、魂に力が宿る。冷静さを仲間に宿したフローライトはどんな傷でも治すと決意をあらたにした。
 援護はフローライトに任せておけば安心だろう。巡っていく戦いの中で信頼を覚えたレオナルドは呼吸を整える。
「見た目が女の子なのは少しやりづらいですが、言ってる場合じゃ無いですね!」
 恐怖は消えない。自分は弱虫なままだ。
 それでも、企みは絶対止めてみせると決めた。だから俺に勇気を。今だけは恐怖に立ち向かえるように、と願ったレオナルドは地獄の炎を燃えあがらせる。
 炎弾が放たれていく最中、シエラも攻撃に入った。
 逸る気持ちはあるものの、冷静に、冷徹に。バスターライフルを構えたシエラは徐々に悲しみの少女が弱っていると感じていた。
「大丈夫……一体ずつ、確実に仕留めていこう」
 そして、シエラが撃ち放った鋭い光線が敵を真正面から貫く。胸の鉱石が砕けると同時に少女の悲しみの感情が爆発した。
「いや……苦しいよ、悲しい、よ……!!」
 その声を聞いたジルカは一瞬だけ俯き、悲しげな瞳でちいさく微笑む。
「そうだね、悲しいね――俺も、悔しい」
 誰かの大事な物を壊すなんて絶対に許さない。きらきら欠けてゆく鉱石を見るのはすこしさびしいけれど、心を食い物になんてさせない。
 だから、と悲しみの少女を見つめたジルカは手にした武器を握った。瞬刻、振り下ろされた得物が夢喰いの胸を砕く。
 まるで糸の切れた操り人形のように、かくん、と膝折れる少女。
 一体が戦う力を失ったと察し、ティティスは残る怒りの化身に視線を映した。
 悲しみとは違う、燃えるような怒りの感情は激しい。
「辛いのだろうね。悲しみも、怒りも――」
 ティティスには大切なものがない。それゆえに大切なものが壊される悲しみはよく分からかった。だが、それが苦しみを生むのだということは理解できる。
 思案する彼を案じたのか、イサがルルルと歌うように鳴いた。自分は平気だと視線で示したティティスは指先を宙にかざして熾炎を紡ぐ。それに合わせてイサが竜の吐息を吐き、攻撃の援護にまわった。
 戦いは巡り、怒りの少女は罵声を浴びせながら襲い掛かってくる。
 シエラはそれを心苦しく感じたが、機を確かに持った。マコも一切動じずに対応し、ぴろー達と共に仲間を守り続ける。
 戦いは危なげなく、ケルベロスの有利な状況で進んでいた。
「勝てそうだね。このままの調子で行こう」
「うん、神様として全力で片を付けるよ!」
 マコが冷静に紡いだ言葉にフェクトが答え、二人は同時に駆ける。左からはマコが放つ洗脳電波。右からはぴろーの引っ掻き。そして、正面からはフェクトの杖による一撃。
 きゃあ、と怒りの少女から悲鳴があがる。
 仲間の攻撃が直に効いたと察したリュティスはシーリーに攻撃を願った。敵も更なる反撃に移ろうとしているが、それすら受ける気概だ。
「魔女の策略は気になりますが、何か手掛かりが見つかるまでは目の前の問題を片付けていくのみですね」
 リュティスは敵からの一閃を受け、痛みを堪える。その代わりにジグザグに変形させた刃を振るい返したリュティスに合わせ、シーリーも尻尾の輪を飛ばした。
 彼女が受けた傷はフローライトが対応し、即座に癒していく。
「蛍石の……魂への呼びかけを……皆に……」
 かの鉱物が抱くのは悲しい感情ではないはずだから。フローライトは紛い物の蛍石をしかと捉え、続く戦いへと思いを巡らせた。

●感情の行く先
 ふたつの負の感情のうち、片方は既に砕けている。
 残る怒りを見据えた仲間達はまもなくこの戦いの決着がつくと感じていた。
 ケルベロス達の布陣は完璧だった。レオナルドとフェクトが攻撃に徹し、マコとリュティスが守りに入る。ジルカとティティスは確実に敵を追い詰め、シエラが不利益を与えることで敵の動きを縛った。そして、フローライトが癒しに徹する。
 実に均衡の取れた攻防だった。
「石は砕けても、少女の宝物である事に変わりはないはずだ」
 故に取り返す、とティティスは夢喰いに宣言する。銀髪の髪が風に揺れ、アイオライトを思わせる瞳が敵を貫く。そして、ティティスは花唇をひらいた。
 紡がれるは氷葬鎮詩。
 絢爛の万華鏡が大輪の氷華の如く咲いては砕け、希望を穿ちながら廻る。全ては静かなる闇の中へ、と彼が囁けば深い闇が敵を覆った。
 其処に隙を見出したマコは翼猫を呼ぶ。
「ぴろー、合わせてね」
 その声を聞いたぴろーは欠伸をしながらも尻尾くぉ立てた。次の瞬間、精神を極限まで集中させたマコの一閃と猫尻尾の輪が敵を貫く。
 リュティスもシーリーを伴い、敵の力を削ろうと動いた。
 刃に惨劇の鏡像を映し込んだリュティス。その一撃はドリームイーターを苦しめ、更なる怒りの言葉を呼び込んだ。
「悔しい、苦しい……何で、こんな――!」
「ごめんなさい。でも、その怒りもあと少しで終わりです」
 リュティスはぐっと感情を堪えて夢喰いに呼び掛ける。蛍石の光が反撃として放たれたが、リュティスはしかと耐えてみせた。
 フローライトは仲間の傷を治すべく、自分が持つ蛍石の力を解放する。
「もう……悲しみや怒りの言葉は……紡がなくていいから……」
 呼び掛けた思いは心からのもの。最後まで癒しを担ったフローライトは仲間達に後を託し、戦況をしっかりと見守った。
 その眼差しを受け、ジルカはもう一度くるりと幻影の大鎌を回す。ベニトアイトの煌きを宿した刃が描くのは終わりへの道標。
「見ていて、もっと綺麗なもの、見せたげる」
 君の瞳だって負けてないケド、とペコラにそっと告げたジルカは鎌に魔力を込める。
 さあ時間を止めてあげる。
 夢のよな青、映る悪夢。そして、貴方の鼓動へ振り下ろすのは終焉の引鉄。
 アダマスの鎌が敵に大きな痛みを与えた直後、フェクトは魔力を紡いだ。反撃などされぬうちに、一気に畳みかけると決めたフェクトは仲間に合図を送る。
「大切なもの、大切な想い。それを奪うなら、神様の裁きが下るよ!」
  モーゼの奇跡に准えた一撃は形ある全てを断ち切るが如く猛威を振るい、敵の力を奪い取った。レオナルドも其処に続き、居合いの構えを取る。
「これで終わりだ。この一刀で片を付ける!」
 畏れの炎から陽炎が揺らぎ、刃が見えないほどの高速の斬撃が繰り出された。その一閃が深く巡る様を確かめ、シエラは最期を与えに駆ける。
「怒りも悲しみも、いつかは忘れるものなのかもしれない。だけど……ずっと消えない痛みだって、あるから。こんなこと、そう何度だって繰り返させない」
 だから、終らせる。
 決意と共にシエラが放った超重の一撃は怒りを飲み込み、そして――。

●悲しみと怒り
 夢喰いは倒れ、辺りに静けさが満ちた。
 シエラは少女達が消える様を見遣り、周辺被害がないことを確認する。レオナルドは皆にお疲れ様、と告げた後に夢喰い達が立っていた場所を見つめた。
「彼女たちの目――悲しみをたたえた青と、怒りに染まった緑が忘れられません」
 あの感情の根源は本当にあったものだ。
 決して紛い物などではなく、魔女が引き起こした悲劇のひとつ。
 マコも俯き、地面に落ちた蛍石の残骸を見下ろした。
「倒しても、壊れた石はもう戻らないんだよね。元凶をなんとかして、はやくこんなこと終わらせないとね……」
「でも、せめてこれくらいはしたいね」
 フェクトは砕けた石を拾い上げてヒールを行う。これで少しでも悲しい気持ち、怒る気持ちがおさまってくれるといいと願ったが、蛍石には幻想的な花が咲いてしまった。
 形が変わった石を掌の上で転がし、フェクトは肩を落とす。
 これを届けに行ったとしても少女はどんな顔をするだろうか。幾らヒールを施そうとも、傷付いた心までは癒せない。
「やっぱり……完全には……戻らない……」
「大切な物を奪うなんて、厄介な事を……」
 フローライトとリュティスは顔を見合わせ、現実を受け止めた。
 しかし、ティティスは首を振る。前と変わらぬものは与えてやれずとも、自分達に出来ることはあるはずだ、と。
「元には戻せなくても、壊れた石をまた別の物に生まれ変わらせることはできないかな。欠片を首飾りにしたり、とか」
「また、すこしずつ集められるといいね。欠片だって綺麗だから」
 ジルカは少女にそう告げたいと話し、修復された花の蛍石を手に取った。
 自分の宝物はこの手にはできないとしても――罪もない少女には、せめて。ティティスとジルカは小さく頷きあい、少女の家を目指した。
 きっと自分達には少女の悲しみは癒せず、怒りを消すことも出来ない。そう感じたレオナルドは拳を強く握り締め、遠い空を振り仰ぐ。
「魔女……お前達は俺が、必ず!」
 その決意の言葉は深く、ケルベロスの胸の裡に巡っていった。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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