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ホラーメイカーの噂を耳にしたのは、修学旅行のしおり作りで教室に残っていた男女二人。
「中庭の右から二番目の花壇には、白骨死体が埋まっているの。放課後に土を掘り起こせば骨に引きずりこまれてしまう……だから、この学校から園芸部が消えたのよ」
「マジか……めっちゃ怖いな」
「ね。修学旅行で話したら盛り上がりそう」
もっと詳しく知りたいところだったが、ホラーメイカーの姿は既にない。
「『実際に行ってみたが……』みたいな動画か何かあったら良くない?」
「いいな! 今日の分終わったら撮りに行くか!」
言うと、二人は作業を再開するのだった。
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「給食室の次は中庭、ですか」
簾森・夜江(残月・e37211)の言葉に、高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)はうなずく。
「ちなみにこの高校で園芸部がなくなったのは、単純に人が減ったせいらしい。……修学旅行のスパイスにするには過激すぎる案件だったね」
その高校の二年生である男女二人は、放課後の教室の中でホラーメイカーに出会った。
既にホラーメイカーは去った後のようだが、彼らはまだ教室にいるだろう。
「彼らは作業が終わったら中庭へ行って、噂を確かめるつもりでいるらしい」
彼らが作業を終えるまでの十分間で戦いを終えてしまうことも出来るし、作業が終わった後に訪れることがないよう根回しをしておくことも出来るだろう。
「現れる屍隷兵は二体。どちらも中庭の花壇に行ったあたりで、物陰から飛び出してくるようだ」
花壇に向き合う形でいれば、屍隷兵に背中を見せることになるだろう、と冴。
「屍隷兵の被害者が出る前に、撃破しておかなければいけないね」
冴は呟いて、ケルベロスたちを見送るのだった。
参加者 | |
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ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108) |
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854) |
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096) |
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987) |
レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365) |
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高校へと出向いたケルベロスたちの中、ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)だけが教室へと立ち寄った。
「もし興味で足を運んでいたら、修学旅行の席は二つ空いていた……いい話のネタじゃあないかな?」
意味ありげな微笑と共にそう言い残し、ミリアムは仲間のケルベロスたちが待つ中庭へと向かった。
――ホラーメイカーと遭遇した生徒たちが中庭へ来るとしてもあと十分。それまでに戦いを終えるために、各々が戦いの用意を済ませていた。
中庭へと入っても、まだ敵の気配はない……花壇の方へ行かない限り、屍隷兵は姿を見せないことだろう。
「二人が来る前に、ここで刈り取る……」
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)は呟きと共に殺気を放つ。
元暗殺者であるがゆえに鋭い殺気――櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)も束ねた札を手に、殺気を重ねる。
「……それでは、不自然な存在たる彼らにはご退場願いましょう」
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)もまた殺気を放ちつつ、ゆっくりと花壇へと歩み寄る。
花壇を見下ろすように立てば屍隷兵は姿を見せるはずだが、それでは背後を取られてしまう。
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)は後ろ向きに歩くことで、出現する屍隷兵と相対する位置を作る。
光の盾に武装。ロウガの金の眼差しは、油断することなく周囲に巡らされていた。
片手にゾディアックソード、もう片方の手に携帯電話を持つのはレフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)。
「セット完了です」
今回の戦闘は十分以内に終わらせたい――五分後、八分後、九分後、十分後にタイマーをセットすれば、ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)もゾディアックソードを構え。
「花壇に死体なんていらないよ」
携えたボクスドラゴン・イサは細く高く、喉の奥で声を上げる。
花壇の前にディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)が立つと、ブラックスライム『闇蜥蜴 - with -』が滑るように姿を見せ。
「……遠慮は要らん……with、“喰らえ”」
――屍隷兵が出現し、ケルベロスたちへと向かい来る。
それより早く、蜥蜴の咢が屍隷兵へと食らいついていた。
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呑み込むようにして喰らわれた屍隷兵へと、リーナは刃と共に迫撃。
魔宝刃ファフニールの漆黒は今は歪曲し、抉り刻むための形になっていた。
「これ以上……犠牲は出させない……」
突き出した刃を即座に引き抜き、横転しながら屍隷兵の反撃を避ける――行き場を失った屍隷兵の攻撃は、今度はロウガに向けられるが。
「おばさんに任せなさい!」
言いつつミリアムが攻撃を受け止めたため、攻撃がロウガに到達することはなかった。
「瞬きの刃、一突き制して全てを制す!!」
ロウガの放った突きは雷鳴のように苛烈。
舞いあがる土埃と屍隷兵の声にならない悲鳴は、白翼の羽ばたきによって打ち消された。
時間に制限があるから、ケルベロスたちは十分間で戦いを終えるための作戦立てをしていた。
だからこそ二体のうち一体の屍隷兵が集中砲火を受けていたし、もう一体の、攻撃を受けていない屍隷兵がここぞとばかりに攻撃をしてくるだろうことも折りこみ済み。
「しばし、こちらにお付き合いくださいますと幸いにて」
密かに迫っていたもう一体の方を見もせずにヒルメルが言えば、赤鉄の鎖が纏わりつく。
「……喜ばしさとは無縁ではありますが」
相手から受ける攻撃は少なければ少ないほど良い――千梨は、現在集中攻撃を受けているもう一体をも戒めようと、札をぱらりと広げる。
「痛いのは好きか?」
声と共に、痛みと戒めが屍隷兵を襲う。
行動の阻害も狙いではあったが、千梨にとっての一番の目的はダメージを多く稼ぐこと。
攻撃手としての一撃が効いたのか、屍隷兵は妙な踊りでも踊っているかのように身をよじらせた。
「まずは君からだ」
微笑と共にティティスが言えば、アイオライトの輝きが星座を作って広がる。
白く、何にでも染まる髪にもその色は映り、イサは主からの光を浴びながら氷の属性をインストール。
加護を得たミリアムは、ドラゴンの幻影を作り出す。
揺らめく蒼い炎は獣の舌のようにチラチラと屍隷兵の身の上を這い回り、いつまで経っても消える気配はなかった。
星座の輝きを増すのはレフィナード。
時間の制約がある戦いだからこそ、攻撃に回る彼らを倒れさせるわけにはいかない。
前衛の維持、そして戦況の確認。
それこそが後衛に立つ自身の役目と心得て、レフィナードは携帯電話の画面へと視線を向ける。
残り、九分。
●
残り八分、七分――時間は経過する。
攻撃の対象とならない方の屍隷兵は動きを封じられてほとんど何にも参加出来ず、ケルベロスたちは一体に攻撃を集約させることが出来ていた。
六分――ついに最初の、五分経過のアラームが鳴動する。
屍隷兵の呪詛は実体を持って千梨を取り巻き、じわじわとその身を侵蝕しようとする。
与えられたものが自身を蝕むのが分かる――イサが氷の角をすりつければ、そこから注がれた氷属性が千梨を守る。
「助かったよ」
言ってから、千梨は与えられた氷属性を自らの中で練り、騎士を作り上げる。
エネルギー体だからこそ、攻撃を一つすれば消え失せてしまう……だとしても、それの行いは屍隷兵の受けたダメージを加速させて。
「死の苦しみを思い出していただきましょう……甚だ、お気の毒ではありますが」
行き届いたヒルメルの一礼は呪詛。
影が屍隷兵に抱き着いたかと思えば、攻撃を放とうとする腕に、顔に、喉に縋り付く。
さながら不吉な愛撫、力が抜けたのか動きの鈍った屍隷兵へと、ティティスは業火を与えた。
轟音と共に上がった炎が屍隷兵の姿をかき消す。
燃え盛る炎の中であっても、ロウガは慄くことなく飛び込んでいく。
「終わりだ! 極寒よ、その命を封印せよ!!」
言葉と共に吹き荒れる吹雪――激しい風雪の中に二体の屍隷兵は閉じ込められ、そのうちの一体は生命を終えた。
残された屍隷兵を苛むのは、ミリアムが重ね続けた炎。傷口を焼かれる屍隷兵の目の前で、ミリアムは蒼い炎を自らに纏わせ。
「アナタにワタシは視えない」
ミリアムの動きそのものが速いわけではない……しかし炎と陽炎が視線を惑わし、屍隷兵は守りの姿勢を取ることが難しい。
蒼い炎に一閃――炎と共に屍隷兵の体も綺麗に引き裂かれ、その衝撃に屍隷兵は動くことが出来ない。
レフィナードが扇を舞わせると幻影が生まれ、あやかしの力が周囲に広がる。
「今です、お願いします!」
炎によって動きを奪われた屍隷兵を目を細めて見ていたディークスはレフィナードの声にうなずくと、晶樹の手鎚から青い煙が噴き出す。
「既に死んで居る『生命体』……ならば、在るべき姿へ還してやろう」
遠心力も加えての放出――残滓のような煙が消えるより早く、リーナは屍隷兵へと接近していた。
立ち止まることなく駆け、屍隷兵が身構えたところで屈んで下から上へと霊刀「鳴月」を滑らせる。
受けた傷痕から流れる血はどす黒く、生命力を感じない色。
「あなたも、安らかに……眠って……」
●
繰り返される攻撃と癒し。
携帯電話の画面に表示された残り時間を見る隙もないほどの目まぐるしさで戦闘は繰り広げられていく。
――そして二度目のアラームが鳴る。
「残り二分ですね」
呟いてレフィナードは戦場へと視線を巡らせる。
回復手は多くなかったが、動きの阻害に努めたお陰か受けるダメージと回復量は釣り合っていた。
残りの体力が心許ない仲間はいるだろうが、あと少しの間ならば持ちこたえることは可能なはず――そう判断して、レフィナードはゾディアックソードへと地獄の炎を与える。
炎絡み付く斬撃の後で肉薄したのはミリアム。
跳躍によって接近したミリアムは地面に手をつき、側転するようにして屍隷兵の顎へと鋭い蹴りを放つ。
耳元で揺れる落涙の蒼を彩る赤髪が美しく、ディークスも長い髪をなびかせて屍隷兵へと立ち向かう。
握り締めた漆黒の柄を手首で操り、ディークスは喉笛へと突き立てる。
顎を砕かれ、喉からは血が溢れ出る――人間ならば死んでいてもおかしくない状態だというのに、屍隷兵の動きは止まらない。
その姿にリーナは目を伏せ、天へと手を伸べる。
「集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす……! 討ち滅ぼせ……黒滅の刃!!」
集う力が成したのは黒く輝く魔力刃。
振り払えばその力は圧倒的で、屍隷兵は抵抗するように手足をばたつかせ、ケルベロスたちへと襲い掛かる。
力任せの一撃――イサが受け止め、千梨は淡々と言う。
「しかし、襲い方が力任せで情緒が無いなあ。怪異ならばもっと密やかに迫るべきだ」
リーナが敵から距離を取ると同時に、千梨は薄く笑み。
「……こんな風に」
木のない中庭に、紅葉が満ちる。
視界を埋め尽くすほどの紅葉は、その隙間から狙う爪を隠匿していた。
「紅に、惑え」
声と共に襲い来る爪、飛び散る鮮血に消え去る紅葉。
美しい紅葉が消え去った後も残る美しいものは、ティティスの歌声だ。
「――キミの絶望を咲かせよう」
描かれたルーンが生み出したのは、絢爛なる万華鏡。
咲き誇る氷の華は砕け散り、生命を、煌めきを、光を、希望をも打ち砕く。
暗闇へと堕ちるかのように響く声――イサの毒のブレスは、確かに屍隷兵の足元を捕える。
幻影灯『青鷺火』の青白い輝きに面を照らすヒルメルは、鎖を手に屍隷兵へと歩み寄る。
間もなく、招かれてはならぬ客が訪れてしまう――そうなる前に、この招かれざる客を始末しなければならない。
「なんとも慌ただしいものです」
肩をすくめ、予備動作なしで鎖を伸ばす。
伸びた鎖が屍隷兵の全身に巻きつき、万力でもって締め上げる。
「体に大地を、動きに風を。心に水を、技に火を」
そこに響き渡るのは、ロウガの声。
「恐怖に闇夜の安らぎを、瞳に希望の輝きを――我が剣戟、純粋にして至高!!」
叩きこまれたのは重力。
翼を打てばロウガの姿は屍隷兵の視界から消え、刹那を経て死角へと移る。
「戦うは天軍の剣、舞うは闘神の刃!!」
踊るように振り下ろされる腕。
叩きこまれた攻撃が、屍隷兵の命を潰えさせた。
●
「うわっ、え、なんかあったんですか!?」
――戦いを終えたすぐ後に、中庭の入り口からそんな声が聞こえた。
「驚かせてしまって申し訳ありません。花壇や庭は、元に戻しておきますから」
男女二人組……おそらく、ホラーメイカーと出会った二人だろうと考えながら、レフィナードは微笑と共に言う。
屍隷兵の骸は既に見えなくなっているから、彼らを必要以上に恐れさせることはない。
「興味を持つのはいいけれど、危険もあることを忘れてはいけないね」
少しだけ釘を刺してから、ティティスは屍隷兵――死してなお道具として扱われた存在へと思いを馳せる。
戦いの際は戦いにのみ専念していた千梨も屍隷兵について改めて考えていたが、彼らがかつてどういった存在だったのかは、何も分からなかった。
「怖い噂には裏がある事も多い……。程々に、ね……」
リーナは彼らに言ってから、今回の噂について訊くことにした。
元からあった噂を利用したのか、それとも新たに作ったのか――ホラーメイカーと遭遇した彼らは初めて聞いた噂だったようだが、だからといって新たに作ったとは限らない。
(「まだ、調べた方が……いい……?」)
今回の一件だけで、全てを結論づけることは早計かもしれない。
他の事件の様子も調べた方が、ホラーメイカーの足取りは掴みやすいのだろう。
(「……好奇心よりも、話が虚構であれその犠牲者を悼む心があれば、今回のような事もなかったのかもしれませんが」)
話の不自然さに気付かないことも、思慮の浅さも実に若者らしい――思いつつ、ヒルメルはあえて屍隷兵の倒れたところの地面の窪みは元に戻さないことにしておく。
ミリアムによって花壇は幻想的な形に生まれ変わり、ロウガも全体のヒールを終え、祈りの形を取る。
捧げる相手は哀れな屍隷兵。これ以上、利用される骸がなければいい――今度こそ大地に還れるようにと、祈りを捧げる。
瞑目し祈るのは、ディークスも同じ。
(「……今はただ安らかに」)
――空は暗く、街には明かりが灯る。
ケルベロスたちも校舎を後にし、帰るべき場所へと向かうのだった。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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