ウェルカム・トゥ・フィアーズ

作者:鹿崎シーカー

 暗くなった学校の廊下を、三つの火が鬼火じみて進む。三つ又の燭台を手にし、フード付きマントを羽織った少女は揺らめく明かりを頼りに歩く。背後には、制服姿の男子が三人。マントの少女が口を開いた。
「知ってる? この学校ができる前のこと。この土地にはね、病院が建っていたのよ」
「病院?」
 口を挟む男子の一人に、少女は振り向きもせずうなずいた。
「そう、病院。それなりに大きくて、患者も医者も大勢入って居たみたい」
「ハーン……」
 金髪の男子がつまらなそうに鼻を鳴らした。少女の後ろ姿を胡散臭げな目で眺め、髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。
「じゃあ怪談ってのは……何か? トチ狂って患者切り刻みまくった医者の霊か? それとも秘密の人体実験の被験者が化けて出るってか?」
「おい……」
「黙ってろ」
 制止する仲間を払いのけ、金髪の男子は少女を挑発的に見据えた。
「どうせ怪談つっても大したことないんだろ? ほら、早く続き話してみろよ」
 直後、少女が立ち止まり、どこからか風が吹きこんだ。マントをはためかせた風はすぐに止み、少女は少年達を肩越しに見返る。燭台の火に照らされた彼女の口元は、酷薄な笑みの形に歪んでいた。彼らの背中に走る悪寒。
「人体実験の被験者が化けて出る……いい線行ってるわ、あなた」
 そう言って、彼女は前に向き直る。少女の数メートル先、廊下は行き止まりになっており、白い扉が嵌めてある。関係者以外立入禁止のプレートがかかった扉をじっと見ながら、少女は口を動かした。
「その病院には地下があってね、よく人体実験をしていたそうよ。なんでも、選りすぐった患者たちを切り刻んで、健康なところを繋ぎ合わせて、強い人間を作り上げようとしたそうな。でも……」
 少女が緩く首を振る。合わせて燭台の火も揺らぐ。
「できたものは、とても人の手には負えなかった。強く在れと作られた創造物は暴走し、医者も患者も引き千切って食い漁り……最後は、病院ごと土の下に埋められた。それから長い年月が経ち、病院の上に学校が出来て、集まった人の臭いを感じた彼は……」
 そこで少女は言葉を切った。半身で振り返り、意味深な笑みを浮かべた口元に燭台を近づける。
「この学校のどこかにね、地下へ通じる扉があるの。お腹を空かせた怪物は、夜な夜な扉を引っかくそうよ。……どうして、でしょうね?」
 息が吹き、ろうそくの火がかき消える。廊下が一瞬暗くなり、元に戻った時、少女は姿を消していた。その場に立ち尽くす男子の一人が、金髪の方に目を向ける。
「……だってよ」
「……ハッ。面白えじゃん」
 不敵に笑い、金髪は垂れてきた冷や汗をぬぐう。ツカツカと速足で廊下を通り、行き止まりの扉のノブをつかんだ。
「怪物? いるわけねえだろ。確かめりゃあわかるんだからな……」
 独り言めいてつぶやき、金髪はドアノブをゆっくりひねった。


「よくもまぁこんな話ポンポン思いつくよね、ホラーメイカー」
「……悪趣味」
 むすっとした表情のミッシェルと顔を突き合わせ、跳鹿・穫は嘆息した。
 某学校に、ホラーメイカーが自作の屍隷兵を潜ませたとの予知が入った。
 ホラーメイカーは放課後、学校に残っている生徒達に自身が創作した怪談を聞かせて好奇心を誘発。真偽を確かめるべく学校を探索した生徒に屍隷兵を見つけさせ、屍隷兵を襲わせて殺害するつもりらしい。
 回りくどい方法であるが、屍隷兵を事件前に仕込む、学生に怪談話を伝える、屍隷兵を発見した学生が殺されるという三つの手順を踏むことで、事件解決に乗り出したケルベロスとの遭遇を避ける意図もあるようだ。あるいは、わざわざ危険な場所に出向いた挙句殺される人間を見て楽しんでいるのか。
 ともあれ、ホラーメイカーの策に嵌まって姿を消した者もいる。皆には、早急な屍隷兵の排除を依頼したい。
 今回、ホラーメイカーは学校の一階廊下に屍隷兵を潜ませている。屍隷兵は一般的な成人男性ほどの背丈をした人型で、シルエットは人間そのもの。だが筋線維を無数に束ねたような姿をしており、瞬発力と筋力を駆使した肉弾戦を仕掛けてくるようだ。
 知能は非常に低いため組し易い相手だろうが、出現するのは直線通路。戦闘の際には何か戦いやすくなるような工夫を入れると良いかもしれない。
 幸いというべきか、ホラーメイカーはこの事件に口出しすることはないようで、出現するのもこの屍隷兵も一体のみ。ここで確実に仕留めてほしい。
「ホラーメイカー……なかなかずるい人みたいだけど、これ以上の被害は出しちゃいけないからね。まったくもう、どうやって屍隷兵作ってるんだかね……」


参加者
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
立花・恵(非力かわいい・e01060)
カーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)
シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍ガンナー・e29164)
ベルベット・フロー(母なるもの・e29652)
神苑・紫姫(ヒメムラサキ色吸血鬼・e36718)

■リプレイ

「お、おい!」
 友人の制止も聞かず、金髪の男子生徒は扉に速足で近づいていく。両手をポケットに突っ込んだまま風を切るようにして歩き、立入禁止の扉の前へ。肩越しに振り返ると、二人の仲間が離れたところで立ち尽くしていた。
 金髪は怯えめいた彼らの表情を鼻で笑う。勇んでドアノブをつかみ、ひねろうとしたその瞬間。誰かに肩を叩かれた。
「待て」
「アイエッ!?」
 金髪が弾かれたように振り返る。ドアに背中をぶつけた手前、そこに立っていたのは……橙色の装束を着た、ニンジャであった。
「ドーモ、エイプニンジャでござる」
「アイエエエエエ!?」
 悲鳴を上げ、金髪はハッと我に返った。奥歯を噛んで気を持ち直し、目と鼻の先で仁王立ちした岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍ガンナー・e29164)に凄んで見せる。
「な、なんだお前……誰だよ」
「その扉はデウスエクスの罠でござる。開けてはならぬ」
 応じる風太郎に、金髪は怒鳴った。
「デタラメほざいてんじゃねえぞコラーッ! ……いや、待てよ」
 金髪が顎に手を当て、ほくそ笑む。
「そうか。テメェ、あの女の仲間だな? 怪談だかなんだか知らねえけど、嘘だってバレんのが怖くて脅してんだな? ハッ! そうはいかねえ。必ずバラしてさらし首にしてやる」
 嗜虐的な笑みを浮かべて言い放つ金髪。風太郎は溜め息を吐くと、肩をすくめて首を振った。
「嘆かわしいでござるな。よもやここまで無軌道だとは。……相棒ッ!」
「はいよー」
 風太郎の背後からベルベット・フロー(母なるもの・e29652)がひょっこりと顔を出す。
「こうなれば致し方あるまい。アレを頼むでござる!」
「おっけー。んじゃ、ポジションチェーンジ」
 下がる風太郎と入れ替わり、ベルベットが前に出る。前にした彼女は、火の点いた顔面を伏せた。片手で炎の顔面を覆い、低いトーンで声を発する。
「……アンタさぁ、ちょっとは聞き分けた方がいいよ?」
 輪郭に薄紫色の火が灯る。威圧的にゆらめく炎に照らされた金髪の顔から、徐々に血の気が引いていく。
「アンタは肝試しのつもりなのかもしれないけどさ、こちとら危ないから注意してんの。デウスエクスに、素人が近づいて、ただで済むと思ってるの? それとも……」
 紫の炎が急速膨張。勢いよく顔を上げたベルベットは焼けただれた目を見開いた。
「お前もこうなりたいのかァァァアアアアアアッ!」
「アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
 絶叫した金髪は泡を吹いて気絶。ベルベットの背後から白いドレスに包帯で目隠しをした少女の霊が浮き上がる。紫炎の残滓をまとったビハインドのステラは、ドアにもたれズルズルと崩れ落ちる彼を見、後ろを向いて手を振った。眷属の合図を受けた神苑・紫姫(ヒメムラサキ色吸血鬼・e36718)は残りの男子に向き直る。
「……とまぁ、端的に言いまして。あなた方が耳にした噂は、デウスエクス絡みの事件ですの」
「……この場は我々が受け持つ。立ち去れ。怪我をしたくないだろう」
 紫姫とディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)に告げられた男子達は、お互いの顔を見合わせる。すぐにうなずき合うと、バッとお辞儀を繰り出した。
「はい帰ります!」
「今すぐ帰らせて頂きます!」
「よろしいこと。ステラ!」
 主に呼ばれ、ステラが金髪を引きずりやってくる。慌てて金髪を受け取り、彼を肩に引っかけた男子達にラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)と立花・恵(非力かわいい・e01060)が苦笑混じりに忠告した。
「肝試しは構いませんが……本当に、危険な目にあったりもするのでこういう事はほどほどにしてくださいね?」
「ま、このご時世、そういう怪談の類は大体デウスエクスだと思っとけ。……なんてな」
「はい! すんません!」
「以後気をつけます!」
 金髪を引きずるようにして立ち去る男子達。制服の背を見送りながら、ラインハルトは小さく息を吐いた。
「好奇心猫を殺す……とありますが、人はどうして怖いものや恐ろしいものに近づきたがるのでしょうか……」
「それこそ怖いもの見たさだろ」
 壁にもたれていたカーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)が立ち上がる。背中を伸ばし、片目でディディエと恵を見やる。
「それより、とっとと始めようぜ。誰も来ないようにするんだろ?」
「……そうだな」
 ディディエが懐から短刀を取り出し、男子生徒が去った廊下に投げつけた。真っ直ぐ飛翔するそれを恵が素早いドロウで銃撃すると、ナイフは光を放って破裂。クモの巣めいて編まれたテープの網で廊下をふさいだ。扉から大きく距離を取った風太郎はシャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)に目配せした。
「さて、次はそなたの仕事でござる。任せたでござるよ」
「ああ、任せろ」
 ひとつうなずいたシャインは片足を上げ、振り下ろす。ヒールから白い光の波紋が素早く拡散。校舎の内装をうっすら白く染めていく。色の変わった天井を見やりベルベットは両頬をたたいた。
「よっしゃ! そんじゃま、開戦と行きましょうか!」
 言うなり、大きく息を吸いこみ始める。口腔に炎と稲妻を収束させる彼女の隣で風太郎は拡声器型の銃を構え、シャインは一本立てた指先に満月じみた光を現す。静かに武器を取り出す仲間の前で、風太郎は堂々と言い放った。
「準備万全、然らば今こそイクサの時! 悪しきデウスエクス、殺すべし!」
 トリガーを引き光線を発射。同時にベルベットが熱線を吐き、シャインが月光を飛ばす。三つの光は真っ直ぐ袋小路のドアへ突っ込み、大爆発を引き起こした。壁が吹き飛び天井が崩落。床を亀裂が伸びてくる。派手な崩壊の音を聞くカーネリアの猫耳がぴくりと動いた。
「向こうも起きたみたいだな……」
 徐々にフェードアウトしていく崩落の音に代わり、地獄めいた重低音が空気を震わす。立ち上る土煙の中、瓦礫の一部が隆起し跳ねた。欠片をまき散らして起き上がったのは、全身の筋線維を剥きだしにした異形の人影。天に咆哮するそれを前に、仲間の後ろに下がった紫姫は優雅に一回転してスマホを向ける。
「では参ります。吸血鬼の威光、見せて差し上げますの!」
 スマホが光り、紫色に爆破した。紫炎の爆風を追い風にラインハルトが先陣を切って疾走、同時に屍隷兵もスプリント。風を切り刀を抜いたラインハルトは接近する相手を見据え呪文を唱える!
「You're……mineッ!」
 直後うなじが裂け血が噴出。跳躍したカーネリアは空中で無数の短剣に変化した血をキャッチ、上半身を思い切りひねる。
「行くぜ! 篁流射撃術ッ!」
 炎灯る血のナイフ。それを走ってくる屍隷兵に狙いを定め、投げつけた!
「『霧雨』ぇッ!」
 火の尾を引いて飛んだナイフの群れがラインハルトを追い越し屍隷兵に突き刺さる。バランスを崩し速度を落としたその胸に、ラインハルトは刀を構え突きを繰り出す。
「はァッ!」
 切っ先が筋線維の鳩尾を射抜き、半ばまで埋まった。勢いに押され一歩下がった屍隷兵は、しかし足を踏みしめる。床が砕けゾンビのパンチがラインハルトの顔面を打つ! のけ反る彼の真横を駆け抜けた恵は、低空ジャンプキックを放った。蹴り足が太ももにヒットした直後、屍隷兵は刀を殴り折って恵の顔面を捕まえる。
「ッ!?」
 軽々と振り回された恵の後頭部が地面に叩きつけられる! 陥没した床に埋まった恵に足を上げる屍隷兵。その脇腹を光線が打ち据えた。吹き飛び転がる屍隷兵に風太郎が飛びかかって回転エルボー!
「素早く庇う事風の如し! イヤーッ!」
 光線銃を撃って加速した肘が鼻面に激突。風太郎は横っ飛びから側転してジャンプ。横壁を蹴って出された跳び膝蹴りを、屍隷兵は跳び下がって回避する。壁に衝突する風太郎を飛び越え、無骨な小槌を振り下ろす! クロスガードした屍隷兵の反撃フックをいなし至近距離で激しく打ち合う。
「よう! スッゲー顔だね!? もしかして……アタシの生き別れの弟だったり? ……うおっと!」
 背を反らしたベルベットの鼻先を爪がかすめる。追撃のヘッドバットをハンマーの柄で受けて押し返し、鉄槌をフルスイング!
「違う? そりゃちょっと残・念ッ!」
 燃える殴打が屍隷兵の腹に直撃。身をくの字に折って吹き飛ぶゾンビの背後にシャインが回り、鋭い回し蹴りを叩きこんだ。
「踊れ」
 回転しながらステップを踏み、蹴りを重ねて連打する。宙吊りになった屍隷兵の真横に滑り込み、槍めいたサイドキック! 横壁に激突したそれへディディエは鎌を横薙ぎに振るった。切っ先が胴に食い込み、筋線維を断ち切って沈む刃を屍隷兵は瓦割りめいたパンチでへし折る! とっさに飛び退くディディエに飛びかかる屍隷兵をラインハルトがタックル妨害。紫姫の出す紫の煙をまとい、うなじから出た血の柄をつかんだ。
「お前の相手は……こっちだッ!」
 血を固めた刀を引き抜き縦に一閃。袈裟掛けに斬られた屍隷兵はラインハルトをにらんで踏ん張り腕を振り回した。片手でガードする彼に近づき前蹴りを連発! 腹を地団太じみて蹴りつけ、肩口に噛みかかるゾンビをオーラのタコ足が絡めとる。ディディエはオーラに包まれた腕を振り抜き、天井に屍隷兵の脳天をぶつけた。
「……リンクス!」
「あいよっと! 篁流格闘術!」
 走るカーネリアが軽く跳んで屈み、全身のバネを用いてジャンプ! 天井の屍隷兵へアッパーを撃つ!
「『隼六花』ッ!」
 拳が筋線維で覆われた体を撃ち抜き、二人は天井をぶち破って上階へ飛翔。屍隷兵の上を取ったカーネリアは斧めいたかかと落としで追撃!
「『垂雪』ィッ!」
 火の点いた蹴り足が屍隷兵を突き落とした。隕石じみて落下し床をへこませた肉体に恵が一歩で接近。銀の銃を胸にねじ込む。
「戦うしか能のない化け物なんて、役者にゃ少し足りねぇな! まして正体はデウスエクス! お前の話は破綻したッ!」
 直後、屍隷兵がバネ仕掛けの如く跳ね起き恵の首を両手でつかむ。指が軋む首の骨を折りかける寸前、虚空に紫の炎が出現。中から飛び出たステラは紫の短剣を屍隷兵の片手首に突き刺した。片手の指が緩むと同時、恵は発砲! 遠くの紫姫はスマホを操り、二人の間を爆発させる。紫の爆風が恵とステラを剥がした瞬間、屍隷兵脇腹の弾痕が破裂した。
「今でござる! 行くぞ相棒ッ!」
「おうよーッ!」
 風太郎とベルベットが突撃を敢行! 跳ね起きた屍隷兵は脇腹から肉と臓器をこぼして咆哮し、猛然と駆けた。伸びた筋線維の腕を恵とすれ違った二人が打ち払い、銃と槌を正拳突きめいて突きだす!
『イヤーッ!』
 銃口と鉄槌の頭部を打ち込まれた屍隷兵がノックバック。その隙に二人は懐へ踏み込んだ。
「化け物には化け物ってね! アンタの相手はアタシだよッ!」
「苛烈に攻めるは火の如し! シャイニングオーバードライブ!」
 振りかぶった風太郎の蹴り足が金色に、ベルベットの口が真紅に輝く。二人は爪先と口腔に作った光球を零距離解放!
「うらああああああああッ!」
「ニンジャシュゥゥゥトッ!」
 爆轟が屍隷兵と二人を共に吹き飛ばす。ステップを踏んだシャインはイルカめいて華麗に跳躍。弧を描いて落下する敵を追い、宙で上下を反転させる。ピンヒールの足先に集まる虹色の閃光。
「悲劇はここで終わらせる。月虹の煌き……受けてみろ」
 冷たく口にし、オーバーヘッドキックを繰り出す。爪先から放たれた虹のアーチは屍隷兵に直撃し、地面へ勢いよくぶち当てた。激しくバウンドして転がる屍隷兵は床に爪を立てて制動をかける。クラウチングスタートじみた姿勢で顔を上げた彼の目前に赤い魔法陣が出現。ナイフで自分の手を切ったディディエは足元の陣に血を落とし、低く唱えた。
「……咽び啼け、告死の女妖。我が求むるは葬送の唄」
 魔法陣が強く瞬き、緑色の服に灰色のマントを羽織った女性をホログラムの如く投影。顔を覆いすすり泣く女性は手を離すと甲高い絶叫を上げた。四つん這いで硬直した屍隷兵へ、血の双剣を手にしたラインハルトと短剣を引き連れたステラが疾駆。その背を紫の爆風が押す!
「まだだ……あの程度で倒れると!」
 刃を構えた二人が女性をすり抜け、這いつくばる屍隷兵に刃を振るった。
「思うなぁぁぁッ!」
 二色の剣閃が屍隷兵の両腕を断つ! 支えを失くし甲高い悲鳴に吹き飛ぶ屍隷兵へステラが複数本のダガーを射出。ズタズタの胸に刃が埋まったその身へ、シャインは天井すれすれから急降下。飛び蹴りを短剣の柄に叩きこみ、床を跳ねる屍隷兵へ言い放つ。
「ラストダンスだ。光栄に思え」
 靴音を鳴らしシャインの姿がかき消えた。月光めいた光の尾を引き高速移動しながら浮いた屍隷兵の全身を絶えず蹴る。筋線維が千切れ、血を噴きだした屍隷兵の背後に回り、横蹴りを撃ちこんだ。背を曲げた屍隷兵の胸元が大きく膨ら破裂。屍隷兵は白目をむき、くずおれた。


 静まり返った廊下を走り、うつ伏せに倒れた屍隷兵を無言で見下ろす。銃口を向け、数秒。起き上がらないのを確認すると、リボルバーをスピンさせてホルスターに差し込んだ。
「……もう大丈夫だ」
 ベルベットとカーネリアは武器を下ろすと、死体に駆け寄りひっくり返す。胸に風穴が開いた屍隷兵に面の皮は存在せず、人体模型めいて露出した筋肉があるばかり。二人の顔に無念が過ぎる。
「ひっでぇ顔だね。本当に……」
「これじゃ……遺族に返すのは無理そうだな……」
「……いや。そうとは限らない」
 懐から煙管を取り出し、ディディエは低い声でつぶやく。
「……行方不明者に、それと同じ歯型の者がいないか調べれば、身元を割れるかもしれない。死体を見て、遺族がどう思うかはわからないが」
 煙管を加え、大きく吸い込む。重い沈黙の中、吐き出された紫煙を眺め、紫姫はせき払いをした。
「あー、こほん。ともあれ、落ち込んでいる暇はありませんわ。ひとまず、ここを修復するしましょう」
「うむ、左様でござるな」
 風太郎が神妙にうなずき、深々と頭を下げた。
「此度の事件はこれにて潰えた。拙者達の任務は終了でござる。皆の協力に感謝しよう。ご苦労でござった。諸々を始末し、そやつを手厚く葬ろうではないか」
「……そうですね。静かに弔える場所、探しましょう」
 一度目を伏せ、ラインハルトが屍隷兵の腕を肩に回して引き上げる。シャインに何事か言われた風太郎は小さくうなずき、天井の穴へ跳躍。しばらくして天井が輝き、光が穴を埋め立てた。ふさがった天井を見上げ、恵は床に手を触れる。
「それじゃ、早く終わらすか。……学校に報告もしないとな」
「派手に壊したからな。怒られないうちに済ませるか」
 恵の腕から光の粒子が、床に刺したカーネリアの剣から炎が、紫姫の足元から紫の霧が現れ、傷ついた校舎を覆い始める。夜が静かに更ける中、校舎は修繕されていった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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