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壁にずらりと掛けられた帽子は、種類や色で絶妙なグラデーションを描いている。
その美しさに微笑を漏らす女性ーーその目の前に現れたのは、二体のドリームイーター。
二体が腕を払えば帽子の全てはあっけなく破壊され、女性は悲鳴を上げる。
「あ、あぁぁぁ! 私の帽子、私の帽子が!」
女性の顔は怒りと悲しみに歪み、その感情のままに彼女は二人に詰め寄る。
……女性の振りかぶった拳を易々と避けた二体は、同時に鍵を彼女の心臓に突き立てる。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれど、あなたの怒りと」
「悲しみ、悪くナカッタ!」
気を失う女性のそばにドリームイーターが生み出されたのを見ると、二体はその場から姿を消した。
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「大切にしていたコレクションを傷つけられるのは、辛いことだね」
高田冴の言葉に、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)は深く頷く。
「こんなことをするなんて……」
「その上、ドリームイーターまで現れたとなると放っておけないね。グラビティ・チェインを奪われる人が出て来る前に、倒してしまおう」
現れるドリームイーターは二体、前衛と後衛に分かれて戦闘を行うようだ。
「二体とも帽子をかぶり、シャツにスカートまたはズボンというシンプルな服装だが、よく見ると帽子柄になっているらしい」
言葉を話すことはあるらしいが、怒りと悲しみを表明する以外のことは出来ない。
彼らから何らかの情報を引き出すことは難しいだろう、と冴。
「女性の住んでいるマンションの屋上に奴らはいるようだ」
平時は開放されていない屋上なら、人を気にせず戦うことができるだろう。
「人のものを壊した上に『怒り』と『悲しみ』を奪うなんて……許せない所業だ」
何としても倒さなければいけないだろう、と言って、冴はケルベロスたちを見送った。
参加者 | |
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ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275) |
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028) |
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608) |
神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471) |
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166) |
紗神・炯介(白き獣・e09948) |
燈家・彼方(星詠む剣・e23736) |
柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881) |
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「封鎖は頼んだぜっ!」
屋上のドアが開くと同時に草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)は弾丸のように飛び出した。
「帽子を、帽子が……!」
『怒り』のドリームイーターも怒声と共にあぽろの正面に立ち、鍵と共に拳を振り上げる。
鍵と拳を受け止めたのはボクスドラゴンのアネリー。
ドリームイーターと組み合うような形になっているアネリーの背後、あぽろは日本刀『GODLIGHT』を抜いてドリームイーターを斬りつける。
「空に大地に、希望の恵を」
自らに属性を注ぐアネリーの横、ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)の歌声は力強く響く。
「森羅万象、光、あれ!」
金の稲妻轟く詠唱・第二楽章に動きを止めたのは『悲しみ』のドリームイーター。
「行きますよ、へメラ!」
呼びかけに画面を瞬かせるテレビウム・ヘメラと共に、ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)は戦場に立ち。
「花咲く未来に、希望の華を。百華繚乱、咲かせましょう!」
歌いながら帽子を叩けば花弁が舞い、ヴィヴィアンもコーラスに混ざり、柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)は兎耳をぴこぴこ動かしつつ満月のような輝きを生む。
うさこてぃぶな服に集う輝きに重なるように紗神・炯介(白き獣・e09948)はオウガメタルの光を散らし、眩さに双眸を細める。
視線の先にいるのは、『怒り』『悲しみ』のドリームイーター。
「力のない者の、大切な物を破壊する――まるでいじめっ子だね」
みっともない、という侮蔑を声音に滲ませる炯介に対し、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)は憤懣の表情。
ウイングキャット・ヴェクサシオンとクストの風になびく髪が表情を隠したかと思えばその感情は顔からは消え、代わりに現れたのはロゼの歌にぴったりの笑顔だ。
豹柄のワンポイントがある帽子を振りながら踊り、その流れの中で生まれた流星と共に『怒り』のドリームイーターを蹴りつける。
神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471)も歌に加わり、力強い護りを添える。
大切なものを壊されるというのは、何よりもショックなこと――だからこそ負けるわけにはいかないと、ララは形見のギターを爪弾く。
音楽に溢れた戦場においても、燈家・彼方(星詠む剣・e23736)は集中を欠くことはない。
「水は留まり、いずれ澱む」
星の力を宿した刀は、地面に突き立てられ。
「……逃がしません」
彼方の言葉と共に『怒り』の男の足元に広がった水は足を捕えると凝固し、蔦が絡むかのように動きを阻む。
地面から刃を抜く彼方の眼差しは、敵を射貫いて。
「わざわざ人の大切なコレクションを破壊するなんて、許せませんね……!」
その言葉に応えるように、白星の刃が煌めいた。
●
凍てつくレーザーの勢いは激しく、放った炯介の帽子は頭から離れてしまう。
飛び去ってしまう直前に指先でつまんで引き寄せて、被る前にソフトハットのつばへと囁きかける。
「行かないで」
――あぽろの放つ時空凍結弾はさながら小型太陽。穿たれた縁は焦げ、異臭と共に黒煙を上げていた。
間断なく撃ち込まれた弾丸に周囲は激しく明滅し、踊る『quatre☆etorir』の面々をコマ送りのように魅せる。
射撃を終えたあぽろが振り向けばロゼと目が合う。笑みを交わし、あぽろは汗に濡れた額をぬぐう。
「最っ高のライブ演出だろ?」
「ええ、本当に!」
歌と踊りを止めようとするドリームイーターから彼女たちを庇うヘメラはピンクのドレスを翻しながら応援動画で支援、手にした白銀のマイクはクストとヴェクサシオンの作る風切り音を周囲に広げた。
オウガメタル『Angelique estrella』の輝きを広げるロゼによって、攻撃の精度も威力も上がった。
彼方は研ぎ澄まされた刃を手に、ドリームイーターへと肉薄する。
「――ッ!」
ひと息に一閃――空間すら引き裂けそうな一撃に、ふわりと黒髪が揺れる。
彼方の浴びせかけた斬撃にドリームイーターはよろめき、倒れ込む――だが背中を打ちつけた先は硬い床ではなく、ふかっとした柔らかな感触。
帽子がずるりと脱げ落ちたドリームイーターが倒れた先を見れば、そこには宇佐子の顔があり。
「がしっ」
掴み上げて、
「ぼかっ」
鉄拳制裁。
宇佐子が手を離せばよろめきつつ今度こそ床に伏し、ぼろぼろとモザイクをこぼしながら『怒り』のドリームイーターは消え失せた。
残るは『悲しみ』のドリームイーター。
鞠緒は雫の描かれたドリームイーターの帽子を手に取り、あらわになったモザイクまみれの頭へと手をかざす。
「この物語は、緩慢な死へのカウントダウン……」
――与えられた虚無と絶望は、一体どんな形をしていたのか。
「私の帽子、私の帽子ぃ……!」
すすり泣くような声を上げながら悶える『悲しみ』の彼女は足元に落ちた帽子を探して這いつくばり、床すれすれを泳ぐブラックスライム『時空遊泳』がヒレを叩きつける。
鞠緒の放ったブラックスライムの残滓にヴィヴィアンが指を伸ばせば黒い蔓へ変わり、生え出でる攻性植物がドリームイーターを床へと縛り付けた。
戦いの力を添えるのはララの仕事――こぼれる音はケルベロスたちを励まし、戦いへと向かわせる。
その唇は、歌と共に淡い花の香りを広げていた。
●
「まだまだ、行きます……!」
ひらりと彼方は身を翻し、刃を天へ滑らせる。
白と黒の刀身は陽光を受けて光る様は、一番星にも似て壮麗。
彼方によって屋上の床ごと薙ぎ斬られたドリームイーターは濁った悲鳴と共に自らを癒そうとするが、炯介が紳士用ステッキで床を叩けば、その動きも止まる。
「お裾分け」
銀の柄を煌めかせながらステッキを回転すれば、いつの間にかドリームイーターを蝕んでいた黒点は広がり。
――癒しに転化されんとしていたモザイクも黒く冒されて、何の形も取れずに融けて消えてしまった。
ヒールも出来ないドリームイーターへ跳びかかるのは宇佐子だ。
「えいっ」
手にしたぴこはんを目いっぱい振り下ろせば、ちょっぴり間抜けな音には似つかわしくないほどの打撃を与えることが出来た。
アネリーのブレスが戦場を満たし、誰もが視界を塞がれる――ヴェクサシオンが翼を打って視界を晴らすと、ヘメラはフラッシュ代わりに画面を激しく明滅させ。
「ちゃんと見ててね!」
真っ先に踊りだしたのはヴィヴィアン――オウガメタル・ルーチェを羽衣のように纏い、柔らかな光と共にドリームイーターの守りを奪う。
「どうかしら?」
光を受ければドレスの深い蒼が際立ち、ララは微笑しながら一回転。大きく開いた背中が白く映え、リボンの色にも似た弾丸がドリームイーターに殺到する。
「バトルもわたし達のステージです!」
鞠緒が両手を広げればハツカネズミのファミリアが走る。攻撃を終えて戻ってきた二匹を腕に上らせて、よくできましたと指で撫でた。
「さぁ、あぽろさん! よろしくお願いします!」
歌声――四名が帽子を手にすれば、そこからは魔法がこぼれ落ちる。
あぽろは歌声に笑みをこぼし、全身に力を込める。
繰り返されたロゼの歌は、あぽろの破壊の力を増幅させていた。それら全てを右手に集め――あぽろは、地を蹴る。
「テメェもエキストラ参加だ! 〆の手伝いよろしくッ!」
より高まる歌声の中で、あぽろは右手を突きだし。
「――『超太陽砲』!!」
轟音が歌をかき消した――空へと光の大柱が伸びた。
その輝きがあぽろの体から消えた時、屋上からドリームイーターの姿は失われていた。
戦いを終えたケルベロスたちは、今回の事件の被害者の元へと赴く。
「酷い事するよね。帽子にヒール、試してみる? 元通りとはいかないだろうけど……」
大穴が開き、また引き裂かれ、切り刻まれた帽子を手に、炯介は尋ねる。
「ええ……そのままでいるのは、この子たちにとって不幸なことですから」
許可を得て、ケルベロスたちは帽子のヒールを始める。
なるべく元の形に戻るようにララは努めたが、原型が分からないものもあり、ヒールグラビティによる幻想もあるので復元は出来なかった。
「ヒトの大切なモンを平気で壊すその性格、フツーにムカッ腹が立つぜ」
言いつつあぽろもヒールに加わり、彼方は分身の術を使っててきぱきと癒していく――ほどなくして、帽子たちは形を変えて生まれ変わった。
(「ちょっとファンタジーになっちゃったけれど、許して下さるかしら?」)
ちら、と鞠緒が彼女へ視線を向ければ、帽子たちは元あったように壁へと並べられていた。
形も色も変わってしまったから、配列は前のものとは違うのだろう……それに少し寂しさはあるようだったが、彼女の表情からは深い悲しみも、強い怒りもなくなっていた。
「屋上のお片付けも終わったのよ」
言いつつ宇佐子が戻ってくる頃には、帽子のヒールも終わっていた。
大切なコレクションを理不尽に壊される――それは、心を壊すことと同じ。
ならば少しでも彼女を癒せるようにと、ロゼは歌を聴いて欲しいとお願いする。
「あ、ライブするんですか? 僕も聴いていきたいです……!」
彼方もそわそわと嬉しそう。
宇佐子が管理人の許可を取り、ライブの準備は完了。
「この帽子たちをかぶったら幸せが訪れますように!」
ララが言って、歌が始まる――曲名は『マジカル☆ハット』。
彼方は目を輝かせ、炯介は微笑と共に、あぽろは掛け声も入れて、小さな小さなライブは始まる。
宇佐子はライブを聴きながらサングラスと謎のスカーフを身に着け、歌の切れ間に独りごちる。
「やはりこのユニット……持っているな、売れる、売れるのよ!」
賑やかな歌声は、翳る彼女の心を少しばかり晴らすことが出来たらしい。
「みなさんの帽子も、とても素敵ですよ」
微笑む彼女に見送られて、ケルベロスたちはその場を後にするのだった。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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