プールの底から

作者:八幡

●プールの底から
 日も暮れる時間。
 茜色の空に浮かぶ雲は厚く、肌にまとわりつく空気はしっとりとした熱気を帯びており……まだ夏が終わり切っていないと主張しているようだ。
 そんな夕暮れ時、数人の中学生が談笑しながら家路についていたのだが、
「ねぇ、貴方たち。怪談に興味はある?」
 唐突に真後ろから声を掛けられた……声をかけて来たのはフードを目深に被った女……その女の異様な風体に中学生たちは小さくを身を震わせ、こくこくと黙ってうなずくことしかできなかった。
「もう何年も前の話なんだけど。数人の生徒が夜のプールで勝手に泳いでいてね……初めは皆で楽しく遊んでいたのだけど、悪乗りした一人が水中から他の子たちの足を引っ張ったり、沈めたりして遊びだしたのね」
 中学生たちの反応に満足したのか、フードを被った女は淡々と話しを始める。
「夜のプールと言うこともあって、怪談っぽいと生徒たちもはしゃいでいたのだけど……ふと気が付くとその子が何時まで経っても浮いてこないことに気が付いたの。慌てた生徒たちはプールに潜ってその子を探したけど、見つからない……夜のプールで何の準備も無ければ当然かもしれないけど、これだけ探して見つからないなら先に帰ったのかも? と誰かが言い出したのね」
 始めはフードを被った女に気圧されて話を聞いているだけだった中学生たちだが、徐々にその話自体に興味を持ち出す。
「生徒たちは、その言葉に乗って逃げるようにプールを後にした……でも、翌日プールの中から水を飲んで何倍にも膨らんだ死体が見つかって……それ以来、夜のプールではしゃいでいる子たちが居ると出るらしいの……何で置いて帰っちゃったの? もっと遊ぼうよ? って、プールの底へ引きずり込もうとする水死体の姿の、その子の霊が……」
 話の落ちを聞いて、ひぇっと身を震わせてお互いの顔を見合った中学生たちが、それは事実なのかとフードの女の方を向くが……フードの女の姿は既になかった。
 忽然と姿を消したフードの女に再び小さく悲鳴を上げる中学生たちだったが……何今の? ヤダ気持ち悪く無い? ……でも、本当かどうか確かめに行くのは良いかもな? 今日暑いしね。と、夜に集まる約束をしながら再び家路についた。

●ホラーメイカー
「大変! ドラグナー『ホラーメイカー』が、屍隷兵を使って事件を起こそうしているんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前に立つと話を始める。
「ホラーメイカーは、作った屍隷兵を学校に潜伏させたあとに怪談に興味がある中高生に、屍隷兵を題材にした学校の怪談を聞かせて、興味を持った中高生を引っかけようとしているんだよ!」
 怪談話に合わせた屍隷兵を作成するのではなく、屍隷兵をもとに怪談を作ってホラー好きな中高生を釣ろうと言うことか……なるほど、素材も自分で作るのであればいくらでも怪談を作り出せるだろう。
 しかも怪談に興味さえ持たれれば、餌が自分から狩場にやってくる。こんな愉快なことは無いだろう。
「学校の怪談を探索して行方不明になっちゃった人も、もう居るんだよ……だから、すぐに解決しないと!」
 既に行方不明者も出ているのであれば、手をこまねいている暇は無い。
 透子はケルベロスたちに頷き、話を続ける。
「今回の学校でホラーメイカーが広めた話は、夜のプールで遊んでいると事故死した生徒の霊が現れるっていうものだよ。それでね、もう怪談の噂は広がってると思うから、一般の人たちが近寄らないようにしながら屍隷兵を倒して欲しいんだよ!」
 探索中や戦闘中に一般人に乱入されると面倒だろう。あらかじめ近づけないようにしておくに越したことはない。
「現れる屍隷兵は三体で、バトルオーラのような技を使ってくるんだよ。プールは学校側以外は森に囲まれてて、屍隷兵は獲物が近づくまではそこに隠れてるみたい」
 夜だけに現れると言うことは、当然それ以外の時はどこかに潜んでいる訳だが……、
「森の中を探しても探し出すのは難しいから、怪談にある通りプールで遊んでおびき出すのが良いと思うんだよ」
 透子の言う様に怪談をなぞることで確実に誘き出すのが良いだろう。
 一通りの説明を終えると透子はケルベロスたちを真っ直ぐ見つめ、
「怪談を利用して罠を仕掛けるなんてとんでもないんだよ! 絶対、ホラーメイカーのたくらみを阻止してね!」
 力強く言葉をかけると、後のことをケルベロスたちへ託した。


参加者
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
サイファ・クロード(零・e06460)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)
速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)
紅・姫(真紅の剛剣・e36394)

■リプレイ

●怪談よりも
 深い闇をたたえる水面に、無数の光が煌く。
 手を伸ばせば光を手に出来そう……そんな考えが脳裏をよぎるが、闇をたたえる水は人の手によって作られたプールでしかなく、そこに在る光たちも空を映す鏡でしかない。
 夜のプールが持つ非日常感だけでは、世界の絶景を巡って来た我が身には少し物足りないなと考えつつ、セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)は殺界形成を張る……もっとも、これから現れるチープなホラーにはこの位がお似合いかもしれないが、
「屍隷兵を作るデウスエクスは何体か報告されているが、怪談か……べ、別に怖くないけども、中々手の込んだ真似をするよなっ!」
 なっ!? と夜のプールを前に耳を後ろに倒しながら、速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)が同意を求める。
 正直この程度の怪談であれば慣れているセルリアンと違い、紅牙は耐性があまりなさそうだ。「怪談の部分はホラーメイカーの趣味なんじゃないか?」なんて斜に構えて胸を張っているが、木々が風で揺れるたびに紅牙の耳が忙しなく動き、
「プールの周りには誰も居なかったわ」
 プール周辺に人が近づいて居ないかを見て回って来た、紅・姫(真紅の剛剣・e36394)が後ろから声をかけると、紅牙は小さく飛び上がってからわたわたと振り返る。
 そんな様子に姫は首を傾げるも、何でもないぞ! と再び胸を張る紅牙の様子に色々なことを察し、
「あちらはどうなったかしら?」
 別の場所の様子を見に行った仲間たちの方へ視線を向けた。

 セルリアンが殺界形成を張ったころの校門付近。
「ここは危ないから早く逃げるにゃ」
 深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)は、浮輪やら水中眼鏡やらで完全武装し、遊ぶ気満々な様子の学生たちを前に此処は通さないにゃと両手を広げていた。まるで威嚇するレッサーパンダが如き雨音の姿にほんわかとしていた学生たちに、
「この周辺に不審者が立ち入った情報を掴みましたので暫く立ち入り禁止です」
 ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)もまた両手を腰にあてて、この先には行かせませんよと通せんぼをする。
 雨音とニルス……レッサーパンダとメイドさんが二人で通せんぼする姿はとても微笑ましい、ニルスは不審者が立ち入ったと主張しているが、何なら目の前の学生たちが不審者に成りそうな勢いだ。
 フフフなんて笑っている学生たちを横目に、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)がキープアウトテープを張っていると、
「出るらしいんだよ……本当に……」
 校門の真裏当たりに座っていた、サイファ・クロード(零・e06460)が小さく呟いた。膝を抱えて歯をがちがち鳴らしながら呟くサイファに、まさか本当に怪談が……なんて学生たちに動揺が走るが、
「怪談? そんな前時代的な与太話なんて、ある訳ないでしょう?」
 斜め下から睨みつけるように学生たちを見つめつつニルスは全否定する。怪談ではない……となると、そんなに凄い不審者が? と、学生たちに更なる動揺が走り、
「今は良い子も悪い子も此処へ近づいちゃいけませんよ。大人しくお家へ帰ってくださいな」
 一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)が、だからケルベロスが出動しているんですよと学生たちに話しかける。すると学生たちは、お互いの顔を見合わせて……奇妙な悲鳴を上げると凄い勢いで帰って行った。
 歌彼方たちケルベロスが出張っているという事実が、不審者の脅威を裏付けていると感じたのだろう。
「ちなみにですケド、幽霊は出まセンヨ?」
 走り去っていく学生たちの背中を微笑ましく見守る歌彼方の横で、パトリシアが膝を抱えるサイファの肩に手を置いて怪談は作り話であることを伝えると、
「え……あ、フィクションだったの?」
 サイファは心底安心した様子で立ち上がったのだった。

●夜のプール
「人払いは上手くいったかしら?」
 心なし軽やかな足取りで近づいてくるサイファたちの姿を見た姫の問いに、パトリシアが「問題ないでショウ」と応える。
「さてにゃ、水遊びの時間にゃ!」
「さぁ、騒ごうぜ!」
 全員揃ったところで気が強くなった紅牙が小さく拳を握り、ビーチボールを手にした雨音も遊ぶにゃとプールサイドに立って並ぶ……が、二人の動きが固まった。
 真っ暗なプールは底が見えず……まるで巨大な空洞のようにも見えたからだ。ここに飛び込むのは幾何かの度胸が必要だろう。
「早く飛び込みましょう?」
「うにゃ?!」
 どうしよう? なんて顔を見合わせている紅牙と雨音の背中に歌彼方がそっと触れると、二人は小さくを身を震わせて体勢を崩し……慌てて歌彼方の手を掴むも体勢を立て直すには至らず、そのまま三人揃ってプールに落ちた。
 派手に水柱を上げながら入水した紅牙たちが、やったな!? なんて笑いながら水の掛け合いをしている横で、ニルスとパトリシアもプールに入る。
「夜のプールも、ちょっとドキドキしますが楽しいです」
 ショートパンツビキニと言うなかなかに遊びなれていそうな恰好のニルスは、さりげなく歌彼方たちに混じるが……、
「……ワタシ今年で30なんだケド、大丈夫カシラ。噂とは合致しなさそうダケド」
 同じくきゃいきゃいしながらも、パトリシアはどことなく虚ろな目をしていた。夜にプールで騒いでいることが怪談の発生条件なので問題はない、それに学生に見えないと言えば、
「どうしたの?」
 ドワーフらしく小学生にしか見えない姫へ視線を向ければ、姫は何やら両手を空へ突き上げているサイファへ水をぱしゃぱしゃと浴びせながら小首を傾げていた。
「これがリア充の夏なのか……! ああ、今オレは青春をすっげえ満喫している……」
 サイファは青春を噛みしめているようだ。ナイトな学校のプールで可愛い女の子たちに囲まれきゃっきゃうふふしている姿は、まさにリア充の夏と言えるだろう。もっとも、場所が場所なだけにリア充よろしく写真を投稿するアレをしたら別の意味で燃え上がりそうではあるが。
「そろそろかな」
 そんなサイファに、良かったわね? なんて言いながらぱしゃぱしゃと水をかける姫や、水鉄砲まで持ち出して遊び始めた雨音を眺めつつ、セルリアンは騒めく木々の合間へ意識を集中させた。

●襲撃者
 暗闇のプールも慣れてしまえばどうと言うことは無く、むしろ余計なことを考えなくて良い分単純に水遊びを楽しめるような気さえした。気さえしたのだが、
「ひゃう?!」
 雨音からパスされたボールを受け取ろうとしていた紅牙は、唐突に足首に感じたぬめりに思わず声を上げる。そして、ほぼ同時にプールの水面が膨れ上がり――プールの底から三体の不気味な影が出現した。
「――死線を超えた罪、己が原罪の刃に蝕まれることで贖え」
 水上に顔を出した、それら……醜く膨れた水死体のような屍隷兵の頭上へ向け、禍月を構えたセルリアンが飛び込むと、水面に到達したセルリアンが水柱を上げるのと同時に、屍隷兵の肉が割れる。
 抜、斬、収の三連動作を同瞬の一刹那に連結させ、回避も防御も剣閃の認識すらも許さないセルリアンの技を前に、屍隷兵の体を斬ったと言う結果のみが残ったのだ。
 何が起こったのか理解できずにいる屍隷兵が、自分たちの後ろへ着水したセルリアンの姿を確認しようとするが、そこへ雨音が水の礫をばら撒くように放って阻害する。
 意識が再び正面へ向いた屍隷兵を前に、パトリシアが自分自身にちらつく分身の幻影を纏わせ、サイファが水の底にケルベロスチェインを展開し、味方を守護する魔法陣を描く。
「さぁ、恐れ知らずを証明しましょうか――いきます、全身全霊で!」
 仄かな明かりを放つサイファの魔方陣……それを映す水面を片翼の翼で切り裂きながら歌彼方は屍隷兵の胸元へ飛び込み、水面へ手をついて体を反転させると流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させる。
 歌彼方の蹴りをまともに受けた屍隷兵は呻きながら仰け反り、仰け反った先で水中を移動していたニルスがバスターライフルを豪快に振り回し大地をも断ち割るような強烈な一撃を背中に叩き込んだ。
「べ、別にお前ら何て怖くないんだからな!」
 ニルスの一撃で盛大に水が飛び散り、あらぬ方向に曲がった屍隷兵の体へザヴォちゃんと名付けたニルスのライドキャリバーが炎を纏って突っ込み、紅牙が敵に喰らいつくオーラの弾丸を放つ。放たれた弾丸は周囲の水滴ごと屍隷兵の腹を抉り……屍隷兵は文字通りの水死体になった。
 動かなくなった屍隷兵を横目で確認しつつ、姫は残り二体の屍隷兵の前へ立ち全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出する。
「幽霊の正体見たり。かしら」
 放出された粒子が味方の超感覚を覚醒させる中、姫は小さく首を振った。色々と人を襲う策をよく思いつくと呆れると同時に、アクションものに置いて正体を見せた幽霊は狩られるのみよねと。

『ルロロロォ!』
 膨れた肉塊に相応しい奇声を上げて屍隷兵が拳を振りかざすと、煽るように首を振った姫へ音速を超える拳を振り下ろす。
 姫は鉄塊剣を構えて屍隷兵の一撃を受け止めるも、衝撃で周囲の水が散り……飛び散る水に紛れるように動いたもう一体の屍隷兵が背面に居たセルリアンへオーラの弾丸を放った。
 直撃は免れない……が、セルリアンはそれを避けず、サイファが展開した魔方陣の加護に任せて踏み込み、ドラゴニック・パワーを噴射し、加速したドラゴニックハンマーで屍隷兵を横なぎに殴りつける。
 セルリアンの肩口をオーラの弾丸が貫くのと同時に、痛烈な一撃を受けた屍隷兵の体が揺らぐ。
 続けて衝撃音と共に水柱が上がる中、パトリシアは揺らいだ屍隷兵の脳天へ身元不明者製造機を突き刺し、魂を喰らう降魔の一撃を放つ。
「……もう、どうなっても知らないからなっ!!」
 パトリシアのチェーンソー剣を脳天に受けて奇妙に身を震わせる屍隷兵の姿に、小さく悲鳴を上げた紅牙はグラビティチェインを用いて形成した苦無に螺旋の力を込めて投擲する。
 胸元に吸い込まれるように突き刺さった苦無は、曲がり、捻じれながら屍隷兵の体内に吸い込まれ……爆散四散した。
「スプラッターね」
 それから飛び散る肉片をものともせずに踏み込んだ姫が上段に構えた鉄塊剣を振り下ろすと、その強烈な一撃によって上半身を砕かれ屍隷兵は物言わぬ肉片へと変わった。

●後始末
 肉片がプールに沈んでいく中、最後の一体が腕を前に突き出すとそこから雨音へ向けてオーラの弾丸を放つ。
「うにゃ!」
 雨音は綺麗な飾り鞘に収まった唐刀を抜き放ち、水を切るように斬り上げて弾丸の軌道を逸らす……一瞬、氷を連想させる透き通った刀身が月夜に輝くが、次の瞬間には非物質化し霊体のみを汚染破壊する斬撃を屍隷兵へと振り下ろす。
 魂を裂かれて痙攣する屍隷兵を前に、サイファは次の一手を迷うが……、
「進め。至れ。私の歌よ、彼方まで。輝け。私の翼、私の刃、私の命――!」
 語りかけるように歌い述べる歌彼方の声を聴いて、生命を賦活する電気ショックを飛ばし、歌彼方の戦闘能力を向上させる。
 歌彼方が歌うのは心意を研ぎ澄ます覚悟の歌。運命の打破。悲劇の否定。涙の結末なんて、捻じ曲げろと歌う歌、
「――暗夜に映えろ、手向けの白花!」
 歌が終わると同時に、歌彼方が雷光纏う片翼の光の翼をはためかせると白き極光が屍隷兵へ収束し……収束した光は熱と衝撃をもって白光の花のように咲き乱れた。
「Schiessen wie der Blitz!」
 白光の花に身を剥がれ続ける屍隷兵へ、ニルスはコマンドワード認証により電磁加速砲撃形態に変形したTor Roarが向ける。それからDwarven Hammer Ver.Busterの銃身を接続部に挿入して、可変式電磁加速砲ミョルニールレールを完成させると砲弾を打ち出す。
 打ち出された砲弾は、一筋の雷光となって水面を裂き屍隷兵の体に大穴を穿つと……光の尾を残して夜の空へと消えていった。

「屍隷兵と言っても、ただのデウスエクスか」
 初相手となる屍隷兵が全てプールの底へ沈んでいったのを確認し、セルリアンは小さく息を吐く。単純な戦闘能力でいえば、デウスエクスよりは劣る屍隷兵だが基本的な部分は大差がないと言えるだろう。
「……」
 もっとも、その素体には地球の生物が使用されている。歌彼方は屍隷兵とされたものたちを悼むように瞳を閉じ、
「……一方で防げなかった悲劇もあるのです……せめて屍隷兵となった犠牲者がこれ以上苦しまないように……」
 ニルスもまた一礼をする。
 そんなニルスたちを見つめてから、サイファは沈んでいったものたちを探すようにプールの底へと視線を向ける。
 この屍隷兵たちの素体が何かは分からないが、もしかしたら行方不明になった誰かなのかもしれないと、ずっとここに縛られていたのかもしれないと、そんなことを考える。
 助けられなくてごめんとも思う……だが、いずれにしても終わったのだ。屍隷兵は本当の死と言う形で終わりの無い苦しみから解放された。
「さてと、後片付けをするにゃ」
 屍隷兵たちへの感傷に浸っていたサイファたちが振り返ると、雨音がにこにこと掃除道具を差し出し、
「ううぅ……スプラッターだぜ……」
 紅牙が頭を抱えていた。
「後片付けをシナイト。新しい怪談が生まれそうデスネ」
 飛び散った肉片、プールに沈む肉塊……とても学生には見せられない色々なものが、ここには集約されていたのだ。
「それは何だか不毛ね」
 パトリシアの言葉に姫は小さく頭を振る。怪談でおびき寄せる敵を倒しておいて新しい怪談を作ってしまっては何だか不毛だ。
「よし、夜が明けるまでには片づけようぜ!」
 黙々と掃除を始めた姫たちを見つめていたサイファが気持ちを切り替えるように大きく息を吸い込んで宣言すると、一行はその言葉に頷いたのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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