黒兎真拳最終奥義

作者:つじ

●動物の型
 形象拳。それは様々な生き物から強さの着想を得て、それを象る流派である。
 カマキリを模した蟷螂拳、ヘビを模した蛇拳などが有名だろうか。今回、山中にて修業を行っていた者が使う武術も、この類のものだった。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「よっしゃー! それじゃちょっと覚悟してよー!?」
 ドリームイーター、幻武極の呼びかけに、年若い格闘家が威勢良く応える。拳法家っぽい格好をした彼女が模す生き物、それは……。

 ウサギだ。

 鍵となるのは脚力。踏み込み、跳躍、そして蹴り。しなやかな両足から繰り出されるそれらは、しかしデウスエクスである幻武極には通用しない。
 一通り攻撃を見て、受け続けた幻武極は、見切りをつけるように反撃に出た。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 拳法家の飛び蹴りを悠々とかわし、手にした鍵で相手を貫く。
「そんな……!」
 そうして無念さを滲ませながら倒れた拳法家の横に、新たなドリームイーターが生み出された。
 その拳法家とよく似た姿のドリームイーターは、本物よりも長く、強靭な両足を確かめるようにステップを踏み始める。
「さあ、お前の武術を見せ付けてきなよ」
 幻武極の声に頷いて、武術家ドリームイーターは獲物を求めて山を降りていった。
 
●形象拳(兎)
「皆さん聞いてください! 修業中の武術家が襲われるという事件が発生します!!」
 白鳥沢・慧斗(オラトリオのヘリオライダー・en0250)が、声を張り上げてケルベロス達に呼び掛ける。
 事件の内容は最近多発しているドリームイーターの起こすもの。自らの欠損である『武術』を求める幻武極が、各所で修行中の武術家を狙って動いている。
「とはいえ、今回襲撃した武術家の拳法ではモザイクが晴れなかったようですね! ただ、その代わりに生み出した武術家ドリームイーターを、人里で暴れさせようとしています!」
 幸い、このドリームイーターが人里に到着する前に迎撃する事が可能だ。人の居ない山中、周囲の被害を気にせず戦う事が出来るだろう。
「敵は生み出された武術家ドリームイーターのみです! この個体は……えーと、ウサギを模した謎の拳法を使用してきます。世の中には色んな武術があるんですねぇ」
 半ば途方に暮れるように慧斗が言う。マイナーどころの話ではない。大概の人間にとって未知の拳法と言って良いだろう。
「そんな強力なものとは思えませんが……問題は、被害者の『理想の姿』としてドリームイーターが生み出されているという点です。油断は禁物ですよ!」
 いかに冗談のように聞こえる拳法だろうと、ドリームイーターのグラビティとして放たれる事を考えれば馬鹿にはできない。
「動きとしては足技が主体のようです。こちらを惑わす奇妙なステップに、首を狙う鎌のような回し蹴り。後は何か気合を入れると足からオーラが飛ぶとか。気を付けてくださいね!」
 一同を勢いづけるようにそう言って、慧斗は拳を握って見せる。
「このドリームイーターは、自らの武術の粋を見せつけたいと考えているようです! 場を用意すれば、拒むことなく挑んでくるでしょう!」
 是非返り討ちにしてやって欲しい。そう言って、彼はケルベロス達を送り出した。


参加者
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)
テトラ・カルテット(碧い小鬼・e17772)
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)
シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)
アリシア・クローウェル(首狩りヴォーパルバニー・e33909)

■リプレイ

●山中にて
 ヘリオンから戦闘予定地に降下。敵と遭遇する前に、テトラ・カルテット(碧い小鬼・e17772)がその場の様子を確認する。
「視界バッチリ! ひと気ナシ! 被害者は遠く! やはー……まったく理想的な場所だね」
 明かりも殺界形成も、避難誘導だって必要ない。手がかからないのは素晴らしいが、これはこれで手持無沙汰になるのも事実か。
「拳法の使い手ね……楽しい戦いができそうね」
 まぁそれはともかく、これから現れる敵へと思いを馳せ、シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)が好戦的な笑みを浮かべる。
「兎の武術だっけ? 兎って正面切って相手に襲いかかる生き物でもないから、どうかと思うんだけど」
 一方で因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)は首をかしげているが、そう。今回の敵はウサギを模した技の使い手だという。
「……これはアリシア達への挑戦と受け取った! 当方に迎撃の用意ありっ!」
 黒く長いウサギ耳を立て、アリシア・クローウェル(首狩りヴォーパルバニー・e33909)が拳を握れば、それに呼応する者が二人。
「同じ兎同士、負けられないん!」
「そうだね、私は拳法家じゃないけど……ちょっと対抗心、湧いちゃうかな」
 シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)とフィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)、二人の頭にも分かりやすい長耳があった。
「同じ兎として? せっかくだし、どれほどのものなのか見せてもらおうかな」
「つーか、ウサギの拳法はマイナーって話だったんじゃねぇのかよ……」
 そんな様子を一歩引いて眺め、相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)が「話が違う」とこぼす。何の因果かウサギが多い。しかもその内何人かは武闘派な台詞を吐いている。
「やる気があって何よりです。……彼女も自らの武がひとを傷つけることは望むまい、止めなければなりません」
 そうして鷹揚に頷いたメルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)に応えるように、ドリームイーター、『クロウサギ』が跳び出してきた。

●うさぎさんいらっしゃい
「貴女がデウスエクスの拳法使いね。いざ、勝負!」
「おお? なになに挑戦者?」
 バトルガントレットと縛霊手、蒼色の両腕を合わせたシャルロットに、クロウサギが目を丸くする。
「いいよいいよー、せっかくだから黒兎真拳の神髄、見せてあげちゃう!」
 異様に軽いノリで応えつつ、敵は独特の姿勢で体を沈み込ませた。形象拳、それは獣の姿を模すものだが。
「やははーなんとも可愛らしい! でも目には目を、ウサギにはウサギを! こっちにはウサギが4人も居るぞー!」
 ウイングキャットのエチルと共に前衛に立ち、テトラが攻撃に備えて紙兵を撒く。
「えっ、ホントに? ウサギ祭できちゃう?」
 同時に敵も地を蹴り、奇妙なステップを踏み始めた。
「何を言っているのかよく分かりませんが」
 翻弄するような動きを、テトラと共にメルカダンテが迎え撃つ。
「いつも通りに、シンシア」
「了解、纏めて治しちゃうんよー!」
 シンシアのメディカルレインに合わせ、メルカダンテがオウガメタルの金属粒子を展開。これらの動きはもちろん、攻撃に回る者達のために。
 跳び上がったアリシアが、上空から仕掛ける。
「さぁ、同じ兎として紛い物には負けられませんね!」
「あーそれ言われちゃうとイタイなー。言っても私ウサギじゃないからなー」
 しかし、敵はそれをかわし、続くシャルロットの縛霊撃からも逃れてみせる。
「動きは速い、けど……!」
 確かに隙はある。木々を足場に跳ねたフィオの蹴撃が、クロウサギを捉えた。
「ぶぎゃぁ!?」
 顔面に靴底を貰って倒れ込んだ敵に、ケルベロス達は追撃にかかった。

 初動はおおよそ想定通りか、キャスターという立ち位置もあり、やはり敵の動きは捉え難い。
 踊るように足を跳ね上げ、クロウサギがステップを踏んで白兎の攻撃を避ける。
「私の動きについてこれるかなー?」
「身軽さなら負けぬっ!」
 一足で上方の木の枝へ、続く一歩で急転換、間合いを測るにしては大仰なその動き、テトラが続く。このスピード勝負を煽るような言動には、その辺りに自信を持つフィオとアリシアも反応、距離を詰めにかかった。
「捕まえられそうか?」
「どうでしょう」
 サークリットチェインを張りながらの鳴海の言葉に、メルカダンテが言葉を濁す。
「ウサギを模すだけあって素早いようですからね、脚から狩らねば」
 仕掛けるタイミングを測りつつ、彼女もまた敵を追った。
 敵の素早さは証明済み。ならばこの場合起点となるのは勿論スナイパーだろう。
「逃がさないよ」
「うひゃあっ!?」
 狙い済ましたフィオの斬撃が奔り、敵の足を斬り裂く。
「痛ったい! 何すんの!」
 反撃に放たれるのは足からの気弾。しかし攻撃を通さない布陣は整っている。
「そこはこの美少女が通さないっ!」
 割り込んだテトラがそれを阻止。ダメージをものともせずに、輝く笑顔を振りまいて見せる。
「こんな美少女に甲斐甲斐しく世話焼いて貰えるなんて、幸せじゃない?」
「まぁ……大怪我しないように気を付けるんよー」
 アピールの凄いディフェンダーの後頭部に、シンシアの回復効果付きの矢が突き立った。
 壁役、そして癒し手がカバーに回る間に、攻撃手達は着実に布石を積み重ねていく。足元を狙った斬撃に、アリシアの跳び蹴り。彼等の計算通りなら、これらが後に活きてくるはずだ。
「でも本当にこれ兎の動き? ステップ以外怪しくないかな?」
 防御を抜けてきた痛烈な気弾にシャウトで対応しつつ、白兎が半眼で呟く。動きが素早いのはまぁ分かるが、攻撃の質が破壊力に寄り過ぎているような。
「というか、使う技が我々のものと似ているのが気になるのですが……」
 似たような感想を抱いたメルカダンテが、扇を振りつつ頷く。おそらくその辺りに答えは出ないだろうが。
「まぁ、張り合うのはあっちに任せていいよな?」
 浮かぶ疑問に一歩引いた位置でそう言って、鳴海はサイコフォースの爆発を敵の眼前に巻き起こした。
「ウサァァァァァ!!」
 爆風に煽られ、軽く焦げながらも高く舞うクロウサギに、降魔の拳を振りかぶったアリシアが追いすがる。一方のフィオ、シャルロット等は予測された着地地点を狙うべく木々の間を駆けていく。邪魔になりそうな木を巧みに避けていく様は、街中など障害物が多い場所ならもっと見応えがあっただろう。
「マー君、シンシア達も追っかけよう!」
 シャーマンズゴーストを引き連れて、シンシアもまたそちらに跳ねていった。

●狩るもの狩られるもの
 半ば追いかけっこのような戦闘が続く中、あるタイミングでシャルロットがクロウサギと対峙する。
「いざ……!」
 突き込まれた拳を蒼の手が払い、シャルロットは懐へと踏み込んだ。勢いを乗せた蹴りは、しかしクロウサギにいなされる。続けて放ったのは、手でも脚でもなく、尾。意表を突かれた様子のクロウサギは、それに足を取られつつも反撃を――。
「エチルっ!」
「うぎゃあああああっ!?」
 ――放とうとしたところで、横からすっ飛んできたウイングキャットに捕まり、汚い悲鳴が上がった。
「ただのにゃんこと侮るなかれ! この子も立派にあたしの一部、可愛さは強さである!」
「なに! なんなのよさっきからぁ!!」
 誇らしげに言い放つテトラに、エチルを振り払ったクロウサギが抗議の声を上げる。
「竜の羽ばたきの如く、敵を圧倒し、翼風と共に散れ!」
「へぶっ」
 そこに翼を打ち振るうように、シャルロットの両腕が炸裂。敵は一時的に地面に突っ伏し、沈黙した。
 このように、ケルベロス達は敵の動きを徐々に把握しはじめていた。武器とするのは数とスピード、攪乱と言う意味ではこの数の差がモノを言う。
「お命頂戴!」
「なるほど、くびをはねられそう、な感じですね」
 襲い来る回し蹴りを、メルカダンテが冷静に受け止める。回復を厚めにし、『持っていかれない』ように気を付ければさして怖い攻撃ではない。そして、その間に。
「申し訳ありませんが、アリシアは拳法家ではありませんので邪道も使わせてもらいますよ」
 攻撃に意識の行った敵に、アリシアが飛び掛かる。蹴りつけた相手を踏み台に、誘うように後ろへ。
「やったなーっ」
「悪いけど、こっちの兎も凶暴だからね……」
 その裏を取って、フィオの緑の瞳が紅く染まる。
「……狩られるのは、お前の方だ!」
 紅月夜の猟宴。尾を引く赤光と共に放たれる連撃が、敵を身を貫いた。
「かなり足に来ているようだね?」
 兎だって武器を使う事もある。白兎の振るうチェーンソーがそこに追い打ちをかけ、たまらず逃れようとしたクロウサギの首根っこを武骨な腕が掴み取る。
「捕まえたぜ」
 鳴海のそれは整った『武術』とはまた違う、雑で、凶悪な手法。
「これなら嫌でも当たるだろ」
 『負け犬の矜持』をここに。銃口を押し付けた状態で引き金が引かれ、牙を剥いた弾丸が敵の首の肉を抉り取る。
「くっ、こうなれば幻の必殺技を出すしかないようね……!」
 追い詰められたクロウサギがゆらりと構える。そこで何となく気配察したシンシアが敵の前へ――。
「さあ、今こそお前の奥義を見せてみるんよっ――シンシアじゃなくてマー君にっ」
 敵の前へ、シャーマンズゴーストを差し出した。
「うおおおおぉウサギャラクティカマグナムシュートォォォ!!」
 やたらと気合の乗った後ろ足キックを受け、マー君は星になった。
「……マー君の頑張りは無駄にはしないんよっ」
 尊い犠牲を胸に、シンシアの放った矢がクロウサギの喉元を掠める。
「にゃに……ッ!?」
 MAO-03C、ギルティホーンと名付けられたその矢には、攻性寄生因子が込められている。溢れ出た『黒山羊』は、既についていた敵の傷を蝕んでいく。
「兎と言えば、忘れちゃいけないのは牙だよ」
 さらに素早い踏込と共に、迫る白兎が首の皮を、肉を、噛み千切って行き過ぎた。
「っか……何で首ばっかし!?」
「仕方ないでしょう。そういうものだ」
 抵抗する敵を抑え込むように翼を広げ、メルカダンテが『貫く槍』で敵を釘付けにする。
「出番です、アリシア」
「終わりです。誰であろうとアリシアのこの一撃からは逃れられません」
 応じたアリシアの手で、大鎌が閃く。
「その首をアリシアに差し出すのですよ……!」
 花を摘み取るように容易く、同じ場所に重ねられた斬撃は、ドリームイーターの首を刈り取った。

●勝ったのはうさぎだ
「やはー、上手くいったね!」
 高らかに勝利を宣言するテトラの横で、力無く倒れたドリームイーターが消滅する。期せずして始まったウサギ同士の戦いは、ケルベロス側の勝利で幕を下ろした。
「やっぱウサギはおっかねぇなぁ……」
 首が落ちるという割とえぐい結末に、鳴海が小さく呟く。目の前の戦いもそうだが、彼には他にも思い当たるウサギ……というか、人物が居たのだろう。
 そして一方、シャルロットは戦闘の痕をを踏み越え、周りに視線を巡らせていた。
「被害に遭った人は、どのあたりに居るのかな」
 このドリームイーターの元になった人物が、恐らくはそこら辺で倒れているはずだ。山中で修行を敢行するような人物なのだから、簡単に風邪を引くようなタマではないと思われるが……。
「拳法家、ねぇ……」
 今回の相手の戦いぶりを思い返して、白兎があるアイデアに思い至る。
「兎なら、兎らしい格好で戦うのならどうだろうか。バニーガールとか」
 可愛さ、愛くるしさで油断を誘うのも確かに一つの手のような気もする。……するけれども。
「白兎。おまえそれは……」
「いや、別に可愛いバニーさんが見たいとかそんな理由じゃないよ?」
「……」
「……」
 ともあれ。山林に日は高く上り、ケルベロス達の手によって、この場所は平和を取り戻した。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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