●
「やっぱ飲みの後はラーメンだよなー!」
真夜中のラーメン屋を訪れた二人の若者は、注文の品が届くまでの時間を潰しながら会話をする。
「……そういや、見たか? ユウマのあれ……」
「ああ、見た見た。強くなったみてーだけど、ひどいよな、あれ!」
酒が入っているからか、二人の声は店の外に聞こえるほど大きい。
「マジキモくねえ? 人としてどうなんだよ」
「終わってんじゃね?」
ぎゃはははは、と笑い声が重なった時、店に誰かが……何かが入ってきた。
「おっ? おー……ユウマか」
人の形を成した、攻性植物。
ユウマと呼ばれたそれはずるずると彼らの元まで近付いていくと、無言でツルを彼らに伸ばす。
「……もしかして、さっきの聞いてたか?」
「ジョーダンだって。でも実際、お前……」
その後に、彼らは何を言おうとしていたのか。
何であれ、攻性植物に首を斬り落とされてしまい、何を言うことも出来なくなってしまった。
●
「人サマの悪口は言っちゃいけない……ってことかよ?」
トゥリー・アイルイヘアド(の降魔拳士・e03323)はそう言って、唇を吊り上げて笑みを浮かべる。
「あまり良いこととは言えないっすね……相手が攻性植物なら、なおさらっす」
黒瀬・ダンテはそう返して、戦場の説明を始める。
「場所は茨城県かすみがうら市。デウスエクス、攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化した者が、深夜のラーメン屋で事件を起こすみたいっすから、これを退治して欲しいっすよ」
ダンテが言うと、トゥリーは長い髪をかき上げる。
「攻性植物になっちまったユウマのお友達はタダの人間だから、敵にも味方にもなんねーな。勝手に逃げてくと思うけど、怪我もさせたくないってんなら避難させといた方がいいのか?」
「念のためにやっておくのも、悪い考えではないと思うっす。店員とか、他の客もいるはずっすからね」
敵は攻性植物1体のみだ。
「攻撃方法は、捕食したり、ツルで絡め取ったり、破壊光線を出したりするみたいっす」
「1体だけでも油断できねー相手か……楽しい戦いになりそうだな」
笑みを浮かべるトゥリーにうなずき返し、ダンテは言う。
「トゥリーさんの見付けてくれたこの事件、絶対に見逃すわけにはいかないっす。どうか、攻性植物を退治して欲しいっすよ!」
参加者 | |
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写譜麗春・在宅聖生救世主(自宅天使アルタクセルクセス・e00309) |
難駄芭・ナナコ(南国黄金果実体験・e02032) |
トゥリー・アイルイヘアド(レプリカントの降魔拳士・e03323) |
内牧・ルチル(忍剣・e03643) |
水納守・摩弥(悠遠古今の導き手・e04571) |
キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853) |
ルオン・ヴェルトラング(アポリオン・e11298) |
真神・命(百鬼の姫巫女・e17921) |
●
茨城県かすみがうら市のとあるラーメン屋――ラーメンの芳香と共に、男性の品のない声が店外まで届く。
「戦いの前に思わぬ強敵が……これが伏兵か!」
難駄芭・ナナコ(南国黄金果実体験・e02032)は目を見開き、それからしみじみとつぶやく。
「メシテロじゃねえか……アタイ、この戦いが終わったら、バナナラーメンを食うんだ……」
「だ、ダメなんだよ! 私たちは女の子……」
写譜麗春・在宅聖生救世主(自宅天使アルタクセルクセス・e00309)はナナコに言いつつも、表情はもはやラーメンに負けていた。
しかし、ゆらりと現れる人影を模した何かが姿を見せると、ケルベロスたちの表情は一転して緊張したものに変わる。
「あたしたちも行こう」
月ヶ瀬女学園の制服の上からコートを着用した真神・命(百鬼の姫巫女・e17921)が豆柴の姿になっている神筆【太郎丸】をひと撫でしてから立ちあがると、一同も攻性植物の後を追って店内へと入った。
静かに攻性植物は若者たちへと近付いている――植物のツルが伸びた瞬間、キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)と千罠箱は射線上へ飛び出した。
千罠箱とハエトリグサ状の葉が互いを喰い合おうと拮抗する。
水納守・摩弥(悠遠古今の導き手・e04571)は攻性植物と背中合わせに立ち、店内にいる全ての一般人に声を届けた。
「ここは私たちケルベロスが食い止めるよ。焦らず慌てず、ゆっくり急いで避難してね!」
「クソガキ共、死にたくなきゃコッチに来な!」
トゥリー・アイルイヘアド(レプリカントの降魔拳士・e03323)は攻性植物に狙われた若者たちの座るテーブルに飛び乗り、近くにあった窓を開け放つ。トゥリーがテーブルに飛び乗った衝撃で湯気立てるラーメンのスープが微かに揺れるが、器からこぼれることはない。
トゥリーの誘導によって若者たちが店外から脱出した――それに気付き、攻性植物は千罠箱とキーリアの攻撃を受けながらも彼らを追おうとした。しかし、内牧・ルチル(忍剣・e03643)の緑針が窓の桟に突き刺さり、攻性植物の動きを阻む。
「貴方の相手はこっちです!」
声と共にルチルは分身を纏い、自らの姿を捕えにくく変える。
緑針を窓の桟から抜き取ってルチルに投げ返し、ルオン・ヴェルトラング(アポリオン・e11298)は赤い瞳で攻性植物を見据える。
「……腹が減ったな」
決して満たされることのない、飢えたつぶやきをひとつ。
真夜中の戦いが始まろうとしていた。
●
在宅聖生救世主が蹴りを放つと、攻性植物の全身を構成するツルがぞわりと粟立つ。
黒にも似た緑色のツルは間近で見ると細かい毛が生えており、その一本一本がさわさわと蠢いている――ということを確認できるほど接近してしまった在宅聖生救世主は、思わず顔を背けてしまう。
「一気に食欲失せたんだよ……」
窓から逃げた若者たちを窓から追えないと理解した攻性植物は、別の場所から追おうとでも思ったのかドアの方を向き直る。しかし、そこにはナナコが立ちはだかっている。
「さぁ、燃やされてぇか凍らされてぇか、バナナになるか。選びな!」
バナナオーラを立ちのぼらせるナナコに直進する攻性植物。弾き飛ばしてそのまま店外へ出る考えだったが、急激に重さを増す脚が言うことを聞かなくなる。
「ほれ、どこへ行くのじゃ? 通りたければわしらを何とかしてみるがよい」
真横から放たれたキーリアのペトリフィケイション――ローブの下で笑みを浮かべ、キーリアは攻性植物の意識をケルベロスたちへ向けようとする。
まだ店内に人は残っている。
摩弥は近くにいた客が驚きのあまり動けずにいるのを怪力無双で持ち上げて店外へと運び、トゥリーはテーブルの上を移動して厨房へと入り込むと、逃げるべきかここにいるべきか迷っている様子の従業員らに声をかける。
「よう大将、悪いがガキの喧嘩だ、私らが仲裁すっから深夜の飯屋ならよくある事と思って避難してくれるかい?」
小柄な姿には見合わない言葉遣いや手にした武器に、従業員らは彼らがケルベロスであることに気付く。大慌てでガス栓を閉めるなどの最低限の作業をおこない、従業員らは裏口から逃げていく。
ルオンがざっと店内を見渡したところによると、摩弥が運んでいる人が店内に残っている最後の一般人のようだった。一般人の誘導よりも敵の牽制を行うべきだと判断し、ルオンは攻性植物へと向き直る。
人の形をした攻性植物をルオンが見るのは初めてのことだった。いくら植物といってもデウスエクス、擬態するだけの知能は持ち合わせているということかもしれない――。
――だが、喰ってしまえば同じこと。
「……その骨肉、喰らわせてもらう」
「黒き形代よ……降りかかる災厄を払え!!」
店内へ突入前に召喚していた墨人形の形代を仲間達の影に宿らせ、命は彼らを災厄から守る。
一般人を抱えて店外へ動く摩弥と入れ違いに店内へ姿を見せるのは神筆【太郎丸】。豆柴姿のそれは命の腕に飛び込むと、身の丈ほどもある大きな筆へと姿を変えた。
「餓え満ちず・渇きに疼き・五臓を食んで・骨噛み砕く」
ルオンが右手を広げると、命の百鬼墨呪『黒子人形』によって作られた墨人形もまた右手を広げ、そこからは牙が生え出でる。
「我が手に牙・蝕み尽くせ」
右手が攻性植物の内側へと深く突き刺さる――ぶちぶちとツルの断ち切られる音。
「――喰・喰・喰」
ルオンが右手を引き抜けば、緑色の体液を滴らせる肉がそこにはある。肉を握り潰せば手中からは咀嚼音。攻性植物の奪われたエネルギーは、そのままルオンの糧と化した。
ぴんと尻尾を立てたまま、ルチルはブラックスライムから距離を取る。攻性植物はルチルとの距離を詰めようと脚部を鋭い形状にして追いすがるが、攻性植物の眼前には槍と化したブラックスライムがある。
ブラックスライムの液体が周囲に散る中、ルチルはじっと攻性植物を見据えており――。
「それでは参りましょうかっ?」
●
声と共に、攻性植物の頭部に槍が貫通する。
「チッ、せこい真似しやがって」
厨房から戦場へ復帰したトゥリーは、槍が突き刺さる寸前、攻性植物が体を構成するツルを退避させて頭部に穴を開けているのを見ていた。
穴の縁をかすめたからダメージは与えることが出来ている。命中していれば致命傷を負わせられていたはずの一撃が軽いものに終わってしまったことに、ルチルは尻尾を逆立てていた。
「コールデバイス……“飛翔する摂理の盾”!!」
トゥリーの飛翔防壁の展開を受けるキーリアの体にはダメージが蓄積している。早期の回復をしているとはいえ、全てのダメージを癒せるわけではない。それでもキーリアは慌てもせず、縛霊手を攻性植物へと差し出した。
「そうら、縛りつけてやろうかのぅ」
不可視の霊力が攻性植物の全身を絞め上げているために攻性植物の体は奇妙に歪む――戒めが緩んだ一瞬の間隙、攻性植物は持ちうる全てのツルをキーリアに殺到させた。
小柄な姿が埋め尽くされそうなほどの蔓触手が、キーリアの骨を砕き内臓を潰そうと動き回る。
摩弥が惨殺ナイフで蔓触手を切り離そうとする寸前に蔓触手は引き揚げ、後には全身に蔓の痕を残すキーリアがいた。
「大丈夫っ!?」
百鬼墨呪『黒子人形』の形代がに癒しをもたらす――キーリアは苦しげな息をひとつ、それから平然とした表情を取り戻し、傍らにいる千罠箱の頭を軽く叩いてやる。
「年寄りは労わるものじゃろうて……千罠箱、あの小僧に分からせてやれい」
命令を受け、千罠箱は黒い脚でぴょんと跳躍、夜終世界のアウローラにも似た色の何かを吐き出しながら攻性植物に喰らいついた。
「これが! ナナコさんの必殺技、パート2だぜぇ!」
ツーサイドアップにしたバナナ状の髪房を揺らしながら、ナナコはどこからともなくバナナを出現させる。
「右手にバナナ! 左手にもバナナ! 2本のバナナを合わせれば!」
店中に充満するラーメンの香りにも負けないほどの強いバナナの香りが漂う――全ての者の意識が嗅覚に集中した瞬間、ナナコは目にも止まらぬ連撃を攻性植物に叩きこむ。
「百倍以上の威力を生み出すぜぇ!」
バナナデコされた改造スマートフォンから、両手のバナナから、バナナ的バトルオーラから、バナナティックエアシューズから放たれる攻撃の数々と芳しき香り。
気分はもうバナナの国。エクアドルとフィリピンのバナナな所取りという具合だ。
「ううっ……やっぱりお腹空いたんだよー!」
一度は失せたはずの食欲がむくむくと回復するのを覚える在宅聖生救世主の視線は、厨房とバナナを行ったり来たりしている。
「あああああ、いい臭いが私のお腹を攻撃するんだよー!?」
悲鳴と共にグラインドファイア。こうなると攻性植物の燃える匂いすら美味しいものにすら感じられるから不思議である。
「まだだ……もっと喰わせろ」
辺りに満ちる匂いなどとは無関係に、ルオンの地獄化された内臓はいつまでも空腹を訴え続ける。執拗に放たれる鋼鉄咀嚼・蝕身の牙は、癒えない飢餓のための足掻きでもあった。
「……逃がしはしないっ!」
光条が攻性植物に集中し、破壊をもたらす。
摩弥はインフィニット・レイを放射した直後、すぐさま近くのテーブルの下へ潜り込んで死角からの追撃を為す。
攻撃を受けて、攻性植物の体が傾いでいた。
●
「危なっかしい雑草小僧じゃ。そろそろ退場してはくれんかの?」
キーリアの時空凍結弾が炸裂する横、命の百鬼墨呪『黒子人形』による回復が為される。それでもまだ回復が足りていないとルチルは判断し、命に声をかけながら日本刀を抜く。
「ささやかですが、足しにしてください!」
愛刀の影がルチルの周囲に浮き上がり、幻影と共にルチルは滑らかに刃を滑らせる。
「舞いましょう、更に戦い続ける為に!」
刃を交える動作を含む剣舞がトゥリーを鼓舞し、癒しへと変わる。トゥリーは惨殺ナイフを握り直し、ジグザグスラッシュで攻性植物に癒せない傷を加えていった。
――シンプルな戦いの方がトゥリー好みではあるのだが、勝利こそが優先すべきもの。そう思って補佐に徹するトゥリーの想いに報いるべく、在宅聖生救世主は天を指す。
「広めよ、天の詔を。さすれば汝に繁栄を」
無我の境地とすら思える真剣な瞳は、ただ敵のみを見据え。
「広めよ、天の勅を。でなくば自らの手で繁栄を」
声に招かれ、在宅聖生救世主の頭上には光の十字架が形成される。
「天言は届く、太陽と月が照らす領域の全てまでに」
文字通り光速なのではと思えるほどの速さで十字架は攻性植物を追尾・着弾、攻性植物の身だけを対象とした局所的な破壊をもたらす。
衝撃波に在宅聖生救世主ウェービーなツインテールが激しくなびく。余波に身を取られないように体を低めながらケルベロスたちは息をひそめ、攻性植物のいる方を見つめる。
風がやむ。
その場には、何の姿もなかった。
「戦いはまだ終わらない。ここからが本番!」
命は力強く言い切ると、ものすごい早さで店内のヒールを行っていく。
摩弥とトゥリーはは店外へ待機させていた従業員ら、そして残っていた客らを引きつれて店内へ戻り、店の再開を促す。
戻ってきた客の中には、攻性植物――ユウマの友人だった若者たちの姿もある。
「ああ為りたくなかったら、ヤバイもんには手を出すんじゃねーぞ」
自分よりもはるかに小さなトゥリーに念を押され、彼らはうなずく他にない。
「ユウマさんはケルベロスだったんでしょうか?」
ルチルの問いかけに、分からないと彼らはかぶりを振る。
攻性植物はケルベロスにとっては武器でもある――だが、ただ体に受け入れるだけではいけない。
精神的な制御、そして共生関係が築けなければ、攻性植物を扱うことは出来ないのだろう――そう考えるルチルの元に、ナナコの明るい声が届く。
「ラーメン食おうぜ! バナナトッピングは必要だよな!?」
空いたテーブルに乗るラーメンには、もれなくバナナがついている。
「真夜中にラーメンなんて……そんな不摂生したらお肌とか色々……」
「カロリーは気になる、けど……まぁ、たっぷり動いた後だし……セーフだよね?」
乙女として色々気にする在宅聖生救世主と摩弥だったが、結局ラーメンには勝てなかった。
トロリと甘いバナナがラーメンにマッチし、バナナラーメンは不思議な美味しさ。
「うめぇ! うめぇ!! バナナ最っ高!!!」
全力でバナナラーメンを食するナナコの横、トゥリーもバナナラーメンをじっくりと味わっている。
「歳を取ると脂っこいものは辛いがのぅ……これはいけてしまうわい」
キーリアは千罠箱とバナナラーメンを分け合いながら、目を細めて笑う。
「サイドメニュー! 制覇!!」
力強く言い切り、命はサイドメニューのページの全ての商品を注文する。
「そんだけ喰い切れんのかよ? ――っと、大丈夫そうだな」
少し呆れてトゥリーは言うが、底無しの食欲を持つルオンが黙々と運ばれてくるサイドメニューを片付けている様子を見て思わず笑みをこぼす。
「うううう、いいもん!」
在宅聖生救世主は命とルオンの姿を見て、自分も餃子に箸を伸ばした。
「食べた後ちゃんと運動すれば太ったりなんかしない、はず……なんだよーっ!」
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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