●じいちゃんのバット
ある日の朝、少年は仏壇の前に立っていた。
見た目からするとおそらく高校生。部活かなにかで野球をやっているようで、スポーツバッグと2本入るタイプのバットケースをかついでいる。
「……じいちゃん。今日の練習試合もがんばってくるからな」
しばしの間、彼は仏壇に手を合わせていた。
それから、1本のバットをケースから取り出した。
「俺、最近は来年のレギュラー候補だって言われてるんだ。きっと、じいちゃんが買ってくれたバットのおかげだよ。ありがとうな」
彼の身長からするともう短くなったバットを仏壇の前で掲げる。
事件が起きたのは、それをケースにしまおうとした時のことだった。
突然現れた魔女がそのバットを叩き折ったのだ。
「な……」
荷物を放り出して少年は折れたバットへと手を伸ばす。
2つに折れたバットを、両手で拾い上げた少年の眼尻に涙があふれだす。
頬を伝った涙が落ちたところで、彼は残骸から手を放して拳を握った。
「なにしやがる、てめえらっ!」
怒りに任せて拳を振り上げた少年の心臓を、魔女たちは手にしたカギで貫く。
「私達のモザイクは晴れなかったね。でも、あなたの怒りと……」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ」
魔女たちが告げる前で、少年は意識を失って倒れこむ。
そのそばに手足が生えた人間大の巨大なバットが2本出現していた。
1体はヘッドが上を向いていてヘルメットをかぶっており、もう1体はグリップが上を向いていて巨大なグラブが刺さっている。
ヘルメットには怒りに吊り上がった目、グラブには悲しげに垂れた目がついていた。
倒れたままの少年には目もくれず、現れたドリームイーターは家を出て行った。
●ヘリオライダーの依頼
パッチワークの魔女が再び動き出した。
集まったケルベロスたちに石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はそのことを静かに告げた。
「今回動き出したのは第8の魔女・ディオメデスと第9の魔女・ヒッポリュテです」
怒りを奪う魔女と、悲しみを奪う魔女なのだという。
「2人はとても大切にしている者がある一般人を襲います。そして、その人の大事にしているものを破壊し、それによって生まれた『怒り』と『悲しみ』を奪うのです」
後には2体のドリームイーターが残り、グラビティ・チェインを得るべく徘徊する。
悲しみのドリームイーターが『大事なものを壊された悲しみ』を語り、それに理解を示さない者を『怒り』でもって攻撃するのだ。
「敵は『怒り』が前衛で、『悲しみ』が後衛として行動し、連携しながら戦うようです」
厄介な相手だが、被害が出る前に倒して欲しいと芹架は告げた。
次いで、芹架は自分が予知した敵について語り始めた。
「野球部の高校生が、大事にしていたバットを壊されました。どうやら、亡くなった祖父からの贈り物だったようです」
出現する2体のドリームイーターは手足の生えた巨大なバットの姿をしている。
『怒り』のドリームイーターはヘルメットをかぶっている。
「こちらはまず、その体を思い切り振りまわして近距離の対象に攻撃を行います」
命中率は比較的低いが非常に威力が高く、体力に劣る者やサーヴァントなら一撃で倒される可能性がある。魂が肉体を凌駕することもできずに倒されるだろう。
同じく体を振り回して衝撃波を起こすこともできる。遠距離にも届く衝撃波には防具を破損させる効果があるようだ。
スライディングによる攻撃も可能で、連続スライディングによる追撃もできるようだ。
「次に『悲しみ』のほうは野球のグラブがバットに刺さった姿をしています」
剛速球を投げることで遠距離への攻撃を行う。武器をめがけて投げており、受けると攻撃の威力が鈍らされてしまう。
また、無数のボールをまとめて自分の体で打ち出すことで、範囲にプレッシャーを与えつつ攻撃することもできる。
さらに直接ボールを叩きつけることで、敵を麻痺させる直接攻撃もできる。
「魔女本人は姿を消しており、今回遭遇することはないでしょう」
また、配下もいないため、2体の敵とだけ戦えばいい。
「喋ることが可能ですが、それぞれ、悲しみと怒りを表現する以外の言葉は発することができません」
会話は成立しないものと考えていい。
彼らは犠牲になった少年の住む住宅地内を2体一緒に徘徊している。
残念ながらヘリオンで急いで向かってもドリームイーターの出現を阻むことはできないが、現場からそれほど離れないうちに到着することができるだろう。
住民の避難は行われるはずだが、敵が出現した後で避難することになるため、逃げ損ねた者がいる可能性もある。少し注意して戦った方がいいかもしれない。
少年本人は魔女に襲われた自宅内で意識を失って倒れているが、敵を撃破すれば目を覚ますはずだと芹架は言った。
「私より皆さんのほうがよくご存じでしょうが、壊れた物をヒールしても直すときには多少変化します。つまり、完全に戻すことはもうできません」
最後に芹架は言った。
「命を奪われるよりはマシだとは言えるかもしれませんが……許せない類の敵だと言って、差し支えないでしょう」
よろしくお願いしますと、芹架は頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994) |
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) |
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524) |
大原・大地(内気なチビデブゴニアン・e12427) |
皇・希莉(エラーコード・e16786) |
葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315) |
●この先立ち入り禁止
着陸したヘリオンから飛び出したケルベロスたちのうち、幾人かはその翼を用いて空へ舞い上がった。
「僕は今の家族に拾われた身だけど、とても良くして貰ってる。義理の家族でさえそうなんだから、実のお爺ちゃんに貰ったバット、とても大切な物なんだろうね」
オラトリオの少年が言った。
「それを私欲の為に折る2人の魔女。確信犯だからタチが悪い。まずは目の前の脅威を取り除かないとね」
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は魔女たちへの憤りを隠そうとはしなかった。
「怒りと悲しみの魔女ですか、というよりその原因を本人達が作りだすというのもありなんですね。ドリームイーターはやはり不思議ですね」
ヴァルキュリアの光る翼を広げて葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)は見回した。
「敵のことは後にして、逃げ遅れた人がいそうな場所を探しましょう……どんな場所が怪しいでしょうか?」
おどおどとした様子で大原・大地(内気なチビデブゴニアン・e12427)が言った。
鱗に包まれた肉体が、妙に丸みを帯びたドラゴニアンだ。
「連絡を取り合いながら、声をかけて回るしかないだろうね」
瑠璃の言葉に頷き、3人は住宅地の上空に散っていく。
(「なぜドリームイーターは無理やり感情を炙り出そうとするんだろう……」)
考えながらも、大地は地上へと目を配った。
空からの探索を任せて、残るメンバーは地上を移動していた。
立入禁止のテープをはりながら、5人のケルベロスたちは2本の巨大バットを探す。
「逃げ遅れた人を閉じ込めちゃわないように、気をつけなくちゃね」
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)が言った。
住宅地を移動しているうちに、瑠璃から敵を見つけたという連絡が届いた。
移動したケルベロスたちは塀の上から突き出た野球用のヘルメットを見つける。
「いました。あれが……大切なものから現れたドリームイーターなんですね」
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)は自分の大事なものが彼らのようになってしまったところを想像し、声を震わせた。
2本の巨大なバットが、獲物を探して徘徊していた。
「大切な物を壊された上に、この仕打ちってのは、あんまりだぜ」
敵の姿を見て、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が憤りの声をあげた。
「怒りと悲しみは感情の中でも特に強いものだ。奪われたものは必ず取り返す」
皇・希莉(エラーコード・e16786)は笑みを浮かべたまま、静かに決意を固める。
ただ、敵は悲しみに理解を示さなかった相手に襲ってくるらしい。そして、理解を示さない役目は別行動中の大地だった。
ケルベロスたちが敵を発見したことを伝える。大地ももう移動しているようだ。
「誘導は任せて攻撃をかけるつもりだったけど……すぐつくなら待った方がいいのかな」
黒ビキニで大きな胸を包み、峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は杖を構える。
だが、迷う必要はなかった。ドリームイーターはケルベロスたちへ近づいてきたのだ。
「壊された。大事なものが壊された。ウオォォォン!」
悲しみのバットが叫び声をあげた。
●怒りのバットから守れ
「私も大切な方にいただいたものがあります。それを失った時を想像すると……悲しいです……泣いてしまいそうです」
ここにいない誰かのことを思い出し、泉がまず答える。
「……うん、大事にしていたものを壊される事ほど悲しいことはないよね。その気持ちは痛いほど分かるよ」
笑顔のままながら、希莉もそう告げた。
「俺もよ、壊されたくない大切な物、有るぜ。それが壊されたら、きっと、人目を憚らず号泣するだろうな。後悔しても仕切れない、やり場の無い怒りにさいなまれてよ」
「大事なものを奪われた怒りも悲しみも、俺もわかるよ。大事であればあるほど、いっぱい泣くし、いっぱい怒る」
他の者も共感する言葉を投げかけていた。
「だから、お前達の気持ち、俺が受け止めるぜ」
無銘の刀と、銘を刻んだ刀の二振りを鬼人はゆっくりと構えた。
「悲しんで、怒って……そんな当たり前のことをして、狙ってくるドリームイーターを俺は許さない!」
簒奪者の鎌を構えたルアが怒りの声を上げた。
空からぽっちゃりした青い影が下りてくる。
「そんなに悲しみことでしょうか? 形ある物はいつか壊れますし、それに執着していてもしょうがないのでは?」
大地はあえて理解できない振りをして、ドリームイーターたちに声をかけた。
「フザケルナァァ!」
怒りの声をあげて、ヘルメットをかぶったバットが自らの体を振り回す。
大きなお腹を思い切り殴り飛ばされる。
きつい衝撃だったが、お腹の肉が防いでくれたのか、大地はその場で踏みとどまった。
ルアが簒奪者の鎌を振り下ろした。その後方で、無数のボールを悲しみのバットが空中に出現させている。
「ジン、みんなを守ってあげて!」
ボクスドラゴンに声をかけながら、大地は太陽の大盾を構えて身を護る。
大量のボールがケルベロスたちに襲いかかってくる中、ジンがルアを守っていた。
「13・59・3713接続。再現、【聖なる風】」
恵の左手中指に複雑に入り組んだ青白い魔術回路が出現し、浄化の風が吹きつける。
ボールの嵐の中で仲間たちが反撃に転じる。
鬼人が前衛である怒りのバットに接近し、泉や希莉が後方から敵を狙う。
だが、敵も容易くは倒せない。
撃破するまで、まだまだ持ちこたえなければならなかった。
「ここで倒れるわけには行かない!」
騎士団の紋章が刻まれた大盾を構えて、大地は叫ぶ。
ただでさえ大きなその盾が、さらに二倍の大きさにまで巨大化した。
ほどなく、瑠璃や風流も合流してきた。
「逃げそびれた人が3人いたけど、全員逃がしたよ」
「もう誰もいないと思うわ」
仲間たちに告げながら、2人も戦線に加わる。
ジンや希莉のライドキャリバーであるキミと協力して、大地は攻撃をしのいでいる。
「まず、大地さんたちを回復した方がよさそうだね」
白銀のオーラを溜めて瑠璃が大地を回復する。
風流は大切な刀をしっかりと握りしめた。
「この親友の形見の愛刀が壊されるかと思うと、とても悲しいです。そして、ひどく壊した相手を恨みますね」
フランという名だった宿敵の大剣を、打ち直した日本刀。
しっかりと刀を握りしめて、風流は明日から本気を出すと心に誓った。
「ということで、私のこの悲しみと怒りはバットを壊された少年の思いに乗せて、壊した本人……はこの場にいないのであなた方にぶつけたいと思います」
悲しみのバットの足元が赤熱化した。
想いは煮えたぎるマグマへと変わり、勢いよく噴出する。
牽制する風流に合わせて、希莉もアームドフォートの一斉射撃で敵の動きを止めた。
瑠璃は大地を回復した後で、改めて杖を構えた。
霊杖『菫』は、彼が一族の長老から賜ったものだ。それを愛用する彼には、祖父からもらった道具を大切にする気持ちもわかる気がする。
「月の女神の銀色の弓矢の力、具現するよ」
彼の一族に秘められていると言われる、太古の月の力。銀の弓矢……すなわち三日月の力が、仲間たちへ矢のごとく降り注ぐ。
強化された力で前衛がドリームイーターへ幾度も攻撃を加えた。
鬼人は振り回されるバットの打撃に耐えながら、背後に回り込む。
敵越しに見えるルアが、竜の幻影を生み出して炎を叩きつけている。怒りのほうのバットは、もう瀕死の状態だった。
恵が魔術を発動させる。
「大事な人が傷ついたり、大切なものが壊されたら悲しいし怒るよ。でもその感情そのものを人を襲う手駒にするのは控えめに言って悪趣味過ぎるね」
石化の魔術がバットを捕らえて固めていく。
泉もハンマーを砲撃形態に変えて、雷を叩き込み、足を止めた。
その背後で、鬼人は刀を構える。
「恵の言うとおりだ。その悲しみも怒りも、少年の物なんでな。デウスエクスが簡単に奪っていいものじゃない。返してもらうぜ。少年の為にも、な」
越後守国儔の銘を持つ業物へ力を込める。
「我流剣術「鬼砕き」、食らいやがれ!」
一瞬のうちに三度振るった斬撃の軌道が一点で重なる。
その軌跡の残像が消えぬうちに、裂帛の突きがその一点を貫いた。
貫いた一点を中心として、バットの表面にひびが入っていく。そして、ドリームイーターが砕け散った。
●悲しみのバットを打ち砕け
「ああ、悲しい、とても悲しい……」
嘆きの言葉は決して仲間に向けられているわけではない。
希莉は仮面で覆った目を悲しみのバットへと向けた。
嘆きの声を上げながらも出現した無数のボールをケルベロスたちへと打ち込んでくる。
泉が起こした爆発が彼に向かったボールを砕くが、他の球は止まらない。
大地がとっさに瑠璃をかばった。
「これで防ぐ!」
大盾を構えて防御する彼を横目に、希莉は笑みを浮かべたまま側方へと移動。
回避しきれなかったが、攻撃の前に一瞬できた隙のおかげで直撃は避けた。
「希莉さん、大丈夫ですか?」
「ええ。なんともないわ」
機械のように変わらない笑みを浮かべたままで彼女は答えた。
攻撃した側であるバットのほうもまた、炎に包まれて徐々に体力を失っている。
風流や彼女が牽制に放っていた攻撃は地味ながら効果を発揮していた。
大地が敵に接近し、痛烈な一撃を叩き込む。彼を追って、希莉も一気に敵へ接近した。
「もう少しだから、頑張って耐えておくれよ」
前衛の一員であるライドキャリバーに声をかけると、希莉は狙いすました飛び蹴りを叩き込む。そこに、キミも炎を吹き上げながら突撃をしかけた。
ルアは敵に指先を突き付けた。
「よーし、狙っちゃうよ~。動かないでね~。あ、ほらダメでしょ動いたら。いま狙ってるんだからじっとしてて~」
いつも通りの軽い口調だったけれど、眼差しはふざけてはいなかった。
指先にともった紫色の光が敵へと飛んでいく。
何事も広く浅く接するルアにも大事に思える相手くらいいる。きっと誰にだってあるはずだ。だからこそ、薄っぺらに嘆く敵は許すわけにはいかない。
回避しようとしたドリームイーターを追って、光は屈折して飛んだ。
光の反対側から挟撃をかけた鬼人が、空の魔力を込めた刃で追撃をかけた。
前後からの攻撃で動きがとまったところに、別の刃が接近した。
「抜き放たれた光の刃は獲物を追いひた走る」
風流が抜き放った刃が魔力によって飛び、突き刺さったのだ。
連携攻撃を受けた殺人バットが悲鳴を上げた。
1体倒れたことでケルベロスたちは有利になっていた。
大地を中心とした防衛役たちが主に攻撃を引き受け、瑠璃が二種の回復を使い分けて彼らを支えている。
「さすがに攻撃に回る余裕はないね。けど、最後までしっかり支えるよ」
ボールをつかんだまま強力な平手を受けたジンに、気を飛ばして回復する。
ケルベロスたちの攻撃の影響で、徐々に敵の動きは鈍っていった。
恵は投げつけられた豪速球に対して大きく身をひねる。
羽織っていたケルベロスコートが舞い上がった。並外れて大きな胸が弾み、その真下ギリギリのところを球がすり抜けていく。
「怒りと悲しみを手駒に使う魔女をボクは許さない。生み出されたキミたちもね」
ファミリアロッドが使い魔へと変化して、魔力のこもった一撃が敵を引き裂く。
戦いの終わりは近づいていた。
「さあ、その悲しみも返してもらうぜ」
非物質化した鬼人の無名刀が敵を切り裂く。
泉は敵へと一気に接近した。
「悲しみや怒りは抱いて当然の状況、それでもその感情で誰かを傷つけることは同じく悲しみや怒りを生み出すことにつながりますから、ここでその連鎖は断ち切らせていただきます」
ドラゴニックハンマーを後方に構える。
「これも自信はありませんが、フタツメ、当たれば痛いですよ?」
無駄のない動きで重たいハンマーの重量を十分に乗せ、真芯へと叩きつける。
巨大バットに穴を穿ち、敵はそのまま消えていった。
●壊せないもの
「……片付いたな」
「はい。今日も、なんとかなったようです」
ロザリオを一撫でする鬼人に、泉が頷いた。
「ふう、疲れた……汗かいちゃった……後でお風呂入ろう」
大地が大きく息を吐いた。
だが、まだ休むわけにはいかない。ケルベロスたちはそのまま、少年が倒れているはずの家へと向かった。
彼は、すでに目を覚ましていた。床から半身を起こしている。
「体は大丈夫みたいだね。けど……」
瑠璃の視線は折れたバットに向けられていた。少年も同じだった。
「バット折れちゃったね……。でもさ、キミが無事でじーちゃん喜んでると思うよ。バットが無事でキミになんかあれば、じーちゃんきっと後悔しちゃったんじゃない?」
ルアの言葉に、彼はすぐには答えなかった。
「だからさ、バットが……じーちゃんがキミを守ってくれた。そう思うよ」
「そう……ですね。そうかも……しれません」
声は小さく、言葉はゆっくりと……それでも、少年はルアに応じた。
身動き一つしなかった少年はようやくケルベロスたちを見上げて、礼を述べた。
「ボクたちの話を聞いてくれないかな。それをどうしたいか、聞きたいんだ」
恵が言った。ビキニの少女の姿に、少年が目を丸くして頷く。
「ヒールすれば直す事は出来るかもしれない。けど、アタシ達の力では元通りに出来ず少し形が変わってしまう。それでも良いかな」
単調ながら暖かみの感じられる声で希莉が言う。
「物はいつか壊れるもの。それを嘆くのではなく今まで自分を支えてくれたことに感謝をし、これからは一人でも歩いていくことを誓うことが大切よ」
風流も言葉を添えた。
「形が変わっちゃうなら、直さなくていいです」
少年はすぐに答えた。
「でも……もし修復できるなら……直して欲しいです。もう使えなくてもいいですから」
言葉を聞いて、鬼人が折れたバットを持ち上げた。
骨董商の見習いをしている彼は、修復作業にもかかわった経験がある。ヒールを使わずとも元通りに直せるものがたくさんあることを、彼は知っていた。
「折れただけのバットなら何とかなるかもしれない。思い出の姿に戻してやりたいんだ。なんとしても、な」
「お願いします。……すみません、1人で歩くのが大事だって言ってくれたのに」
「いいの。気にしないで」
風流は首を横に振る。
(「偉そうなことを言っていても、私もまだ支えていてほしいと願ってしまうもの」)
心の中で、彼女は呟いた。
「どのくらいの戦いだったんですか? 練習試合……できるかな」
「調べてみなきゃわからないですが……もし中止になってて、それでも野球がしたいなら、自分もつきあいますよ」
大地の言葉に、少年が弱々しいまでも笑みを見せる。
今日、すぐではないかもしれない。だが、彼はきっと立ち直れると、皆は思った。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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