世の中カップルだけと思うなよ!

作者:あかつき

●許すまじ!
「半分こできるアイス……二人で飲むドリンク……それらは全て、独り身への嫌がらせに他ならぬ」
 廃屋の庭で手を広げ、異形のビルシャナは説く。
「絶対に、許せるものではない!」
 そう言って拳を振り上げるビルシャナに、集まった信者達は歓声を上げる。
「そうだそうだ! 一人で行って美味しそうなものがカップル用だったやつの悲しみを考えろ!」
「そうよ、特にコラボカフェで半分こ用のだった時なんて……悲惨だわ!」
「彼女と来た時の思い出が……うっ」
 口々に賛意を唱える信者達に、ビルシャナは口許に笑みを浮かべた。

●そんなわけで
「霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)の危惧した通り、半分こできるアイスや二人で飲むドリンクなどを、独り身への嫌がらせであると説くビルシャナが現れた。ビルシャナは強い説得力を帯びた言葉で信者を増やそうとしている。このままでは信者は完全にビルシャナの配下になってしまう……。配下になってしまえば、戦闘でビルシャナのサーヴァントのように行動することになる。その前に、ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、配下になることを防げるだろう」
 ヘリポートに集まったケルベロス達に、雪村・葵が説明をする。
 配下になってしまった場合、ビルシャナの撃破が第一目標であるため、彼らの生死は問わないが、敵の数が増える分戦闘が不利になる事は考慮に入れておくべきだろう、と付け加えた。
 ビルシャナは一体、配下は説得により増減する。集まった信者達の人数は10人だ。
 昼間の明るい時間帯なので、照明などは必要ないだろう。
「まぁ半分こしないといけないものを一人で食べると少し多いが……それを嫌がらせと感じるのは被害妄想に近いな。被害が拡大する前に早めに撃破してきてくれ」
 そう言って葵はケルベロス達を送り出した。


参加者
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
君影・リリィ(すずらんの君・e00891)
冷泉院・卯月(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e21323)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
リンスレット・シンクレア(サキュバスのギャル系螺旋忍者・e35458)
鳳・小鳥(オラトリオの螺旋忍者・e35487)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)

■リプレイ

●独り者のビルシャナ
「何故二人用ってだけでカップル限定ってなるんだよ……」
 ビルシャナの言葉に湧く人々を見て、霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)の口から思わずそんな台詞が漏れる。
「邪魔をしにきたのか?!」
 ケルベロス達に気付いたビルシャナが叫ぶ。それに反応して周りの信者達もケルベロス達の方を向く。
「我らは今忙しい。邪魔をするのであれば、手加減はしない」
 そう言うビルシャナに、信者達も口々に同意を示し始めた。
「空は良い……空は……」
 そんな彼らの元に、ぽつりと呟くような声が届く。
「何処?」
 信者とビルシャナ達は困惑したように辺りを見渡し、一人の信者が上の方を指差した。
「あそこ!」
 彼らが視線を向けた先は、廃屋の横の電柱の上。
 そして電柱の上から降りてきたのは、鳳・小鳥(オラトリオの螺旋忍者・e35487)。小鳥は視線を信者達に向け、それからふむと小さく頷き自分の前髪を指に巻き始める。
「美味しそうな物がカップル用だった時、あんたは悲しく無かったのかよ!」
 奇妙な沈黙を破ったのは若い男性信者。
「そんなことを思うようだからおひとり様なんじゃないだろうか?」
 ずばっと言ってのけた小鳥に、男性信者はうっと呻いて胸を押さえる。
「だ、大丈夫か?」
 俯いた男性信者に、別の男性信者が駆け寄った。
「わし、独り身だけど別にお二人様商品見ても多めを食べられてラッキー程度にしか思わんがな……」
「なんて図太い神経をしているんだ……」
 小鳥の言葉に、駆け寄ってきた方の男性信者が呆然として呟く。
「そもそも、半分こ用商品って一人分に考えたら少なくて損した気分はするんだがな。半分こできるアイスや二人で飲むドリンク……同量一人用で500円商品が1200円か。わしほしくないな」
 うーん、とメニューを思い浮かべながら滔々と語る小鳥に、男性信者二人は顔を見合わせる。
「もしかして、俺たちに足りなかったのはああいう心根の強さだったのかもしれない」
 胸を押さえて俯いていた男性が、ぽつりと呟く。
「ああ、そんなに気にする事無かったのかも知れない。なんというか、俺たちが気にし過ぎていたんだな」
 2人は悟ったような顔で空を見上げながら、その場を去って行った。
「じゃあ! コラボカフェの2人用メニューはどうしろっていうのよ!」
「アレは結構辛いわ! 案外カップル向けだってこれ見よがしに主張してきたりするし!」
 詰め寄る女性信者2人。そんな2人に一歩、二歩と歩み寄るのはモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)。
「ワタシも独身ながらプチオンリーの景品で夫婦茶碗を当ててシマイ、実用性について真剣に困惑した経験が御座いマス」
 そう言うモヱに、2人の信者は拳を握る。
「それならあなたにも……!!」
 この苦しみが解る筈。そう言いたそうな女性信者をモヱは手で制する。
「だからこそ、お話できる事がアリマス」
「だからこそ……お話できる事……?」
 尋ね返すもう1人の女性信者に、モヱは静かに頷く。
「コラボカフェの例でお話シマス。半分こする相手は、現実に居る必要は御座いマセン」
 何だって?! と、2人の信者に動揺が走る。
「半分はコラボ作品キャラの為にあり、お供え物のようなモノなのデス。そのお下がりを頂くに過ぎマセン。自分&推しが恥ずかしいのであれば『推し&推し』カップル、デス。小さなぬいぐるみやミニフィギュアを半分こメニューの傍に置き、SNS映えするように撮影すれば、同志たちの元へと愛を伝える事もできるでショウ」
 そう語るモヱに、信者2人は目を丸くし、硬直する事暫し。
「真理だわ」
「それで良いのか?!」
 呟く女性信者に、思わずビルシャナが一言。
「私たちにとってはそれが正義! ありがとう、目を覚まさせてくれて!」
 2人の女性信者は楽しそうに、それこそスキップをする勢いで、どこかへ行ってしまった。
「でも、だからって……二人用商品を見て彼女と来た時の思い出が過ぎるのは辛いだろう?!」
「これ見よがしに二人用商品なんて売って、嫌がらせよ!!」
「可哀想だろう!」
 そう叫ぶ男性信者三人と女性信者三人、ビルシャナは満足気に腕を組む。
「その通り!」
 頷くビルシャナに、リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)は盛大にため息を吐いた。
「独り身、独り身と、貴方達は友達も作れない程ぼっちで寂しい大人なのかしら。恋人が居なくても、友達と行けば良い話。そもそも友達が作れないようなやつに恋人は無理ってものよ」
 リシティアはビルシャナや信者達の訴えにはあまり興味は無さそうだが、指摘は的確だった。
「それは……」
 詰まる信者に、君影・リリィ(すずらんの君・e00891)がサーヴァントのレオナール、愛称レオに頬を寄せ、笑う。
「どうしてカップルに限定して絶許主張するのかしらねぇ。誰と半分こしたって良いと思うのだけれど……ねぇ、レオ♪」
 猫なだけにご機嫌そうに尻尾を立てて喉を鳴らすレオナールを見て、女性信者が唖然とする。
「ひとつのものを分け合う事が特別なのは、相手が大切な存在だから。別に彼氏彼女じゃなくても半分こはできるのよ。思い浮かべてみて……あなたの大切な存在。親や兄弟姉妹お友達……あなたが幸せを分かち合える相手を」
 リリィはそう語りかけながらも、焼印入り南瓜まんじゅうを取り出す。
「まさか……これまでの人生で一人も居なかった、なんて事ないわよね?」
 そう言いながら、リリィはまんじゅうを半分に割り、片方をレオナールに渡し仲良く食べ始める。
「ああいうのも、凄い良いかも知れないわ!」
 ぐっ、と女性信者が一人、拳を握りしめ、ビルシャナの元から離れていく。
「あたしも伴侶が居る訳じゃないから完全なカップル限定だと困っちゃうけど……でも半分に分けられるなら一緒にご飯を食べる友と共に食を楽しむのも良いんじゃないかしら?」
 残った信者達がお互いに顔を見合わせながら、なにやら話し合っている信者達に、フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)が語りかける。
「同じ釜の飯を食べる事で育つ友情もあるわよ」
 そう言われ、信者達はどうしたものか、とお互い視線を合わせながらそわそわし始める。そんな様子を見て、トウマがため息を吐き、呆れたように肩を竦めた。
「あーのーさー、なんで分け合うのが『カップル』前提なんだよ。別に友達と分け合うでもいーじゃねーか。特にそこのお前!」
 そう言ってトウマが指差したのは、信者達の後ろの方で踏ん反り返って居たビルシャナ。
「お前信者とも分け合いたくねーのか。おなじこと考えてんだから、『美味しいけど1人だから食べにくいしちょっと付き合え』でも全然問題ねーだろーが。今更世間体気にしてんのか。ビルシャナになってまで」
 信者達の視線がビルシャナに集まる。
「え……えぇっ……」
 もごもごと吃り始めるビルシャナをほぼ無視して、冷泉院・卯月(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e21323)が続ける。
「そもそもぉ、カップル用とかお二人様向けとかぁ、例えば家族向けの場所とかカップル向けの場所なら当然あった方がお店の方もお得ですよねぇ〜。そういう場所に自ら飛び込んで文句言うくらいならぁ、その人たち以上に楽しんだ方が建設的だと思いますけどぉ〜」
 そう言う卯月に、信者達とビルシャナはカッと目を見開いた。
「それが出来てれば苦労しない!」
 騒ぎ立てる信者達とビルシャナに、ずいっと卯月が取り出したのはカップル用のハート型ストロー付きドリンク。
「でぇ、相談なんだけどぉ〜……1人で飲むには多過ぎるから、誰か一緒に飲んでくれないかなぁ〜……?」
「は、はいっ!!」
 さっと手を挙げた1人の男性信者に、周りの信者達が視線を向ける。
「裏切るのか?!」
「俺、やってみたかったんだよ!! アレ!!」
 ぎゃあぎゃあ大騒ぎする信者達に、すっと手を挙げたのはフレック。
「えーっと……じゃあ、あたしと一緒に食べる?」
「食べます!!」
 先程カップル用ハート型ストロー付きドリンクに手を挙げた男性に文句を言っていた男性信者が、ばっと手を挙げた。
「俺だってやってみたかったんだー!!!」
 向けられた冷たい視線に、彼は渾身の叫びをあげた。
「結局……私たちはあぶれたまま……」
 去っていく背中を見ながら、残った信者達がこの世の終わりとばかりに暗い顔をした。そんな彼らに、ビルシャナは大きく手を広げ、説く。
「貴様ら! このように、我ら独り身には救いなど無いのだ。こうして独り、取り残されていく!」
「ちょっと待って!」
 ビルシャナの演説にストップをかけたのは、レオと仲良くまんじゅうを半分こにしていたリリィ。
「もし今あなた達に、分かち合える存在がいないとしたら……今から探しましょうよ。幸い、ここには『同士』がいるのでしょう? 誘ってみましょうよ、ご一緒しませんか、って」
 リリィの言葉に、4人は互いに顔を見合わせる。しかし、彼らは互いに何も言えずにいる。そんな彼らに、リリィは続けた。
「それとも……誰とも関わりたくない? 違うでしょう? だってあなた達が其処の鳥頭の甘言に乗ってしまったのは孤独の辛さを知るからだもの。あとは行動する勇気! あなたが心を開けば、きっと誰かと半分こができるはずよ!」
「鳥頭?!」
 リリィの言葉に激昂するビルシャナを他所に、信者達の顔がぱっと明るくなる。そして、誰からともなく相手の手を握った。
「ちなみに今回持参した甘味は私のバイト先で売ってるものなの。美味しいわよ」
 まんじゅうの宣伝を聞き流しながら、信者達は互いに声を掛け合う。
「一緒に、食べましょう!!」
「よろこんで!」
「僕も一緒に!!」
「よろしくお願いします!!」
 そんな彼らを見て、鳥頭呼ばわりされた上に信者達に逃げられたビルシャナは、怒りを露わに叫ぶ。
「許さんぞっ!!」

●鳥頭、怒る
 ビルシャナは、叫びながら閃光を放つ。破壊の力を持った光は、ケルベロス達だけでなく互いに手を取り合う元信者達へも襲いかかる。
「きゃあぁっ!!」
「うわぁっ!!」
 悲鳴をあげる元信者達とビルシャナの間に身体を滑り込ませるのはリリィとレオナール。
「大丈夫ですか?!」
「は、はい……」
 一方、卯月は一緒にドリンクを飲もうと誘った信者はさり気なく物陰の攻撃射程外まで逃してきた後、シロウサギに騎乗し、ビルシャナへと向かう。
 キキィッ、とシロウサギのタイヤを軋ませながら、卯月はビルシャナの側面へと回り込み、ファミリアロッドを構える。
「いっきますよぉ!!」
 杖の先端から発射された大量の魔法の矢は、ビルシャナへとぐさぐさ刺さっていく。
「ぐぬぅっ!!」
「今の内に回復ヲ!!」
 ふらつくビルシャナを見て、モヱは素早くライトニングウォールで回復を施していく。
 モヱの回復の時間を稼ぐように、サーヴァントの収納ケースはエクトプラズムで作成した武器を使い、ビルシャナに攻撃を食らわせた。
「我の邪魔を、するなぁぁぁ!!!」
 そんなビルシャナに、リンスレット・シンクレア(サキュバスのギャル系螺旋忍者・e35458)は鼻を鳴らす。
「折角まとまったんだから、あんたこそ邪魔しないでよね!」
 リンスレットはそう言うと、ビルシャナを熱い情欲に潤んだ瞳で見つめる。
「そんな事より……ほらぁ♪ あたしだけを見ててよぉ、全部見せてあけわるからさぁ……ね?」
「ぬぉ……」
 快楽に満ちた夢を見せつけられたビルシャナは、がくりと脱力する。
「空に生き、空で育ったわしにかなうはずもあるまい!!」
 動きの鈍ったビルシャナに、小鳥は螺旋力を帯びた手裏剣を投げる。
「そっな、1人じゃ身体足らねぇもんな、半分にしとくなァ」
「ヒッ!!」
 膝をつくビルシャナは、楽しそうに笑うトウマの顔を見て、引き攣った声をあげる。
「ああ、これが俺の知った『感情の奔流』だ。……少しばかり誇張して教えてやるよ」
 嵐を思わせる感情データが螺旋力を伴いビルシャナに強制インストールされていく。
「あ、あ゛あ゛あ゛!!
 悲鳴をあげながら蹲るビルシャナだがまだ闘志は尽きておらず、ぐっと握りしめた拳には震えるほどに力が込められる。
「カップルとか伴侶とかってあたしにはよく解らないけれど……でも、道を迷わせた人に道を示すのも、戦乙女の役目よね」
 フレックはぽつりと呟き、魔剣「空亡」を抜き放ち、振りかぶる。
「ソラナキ……唯一あたしを認めあたしが認めた魔剣よ……今こそその力を解放し……我が的に示せ……時さえ刻むその刃を……!!」
 ビルシャナの時空間『ごと』斬り裂く一撃。ビルシャナは身体を切り裂かれるが、しかし最後の力を振り絞り、ゆらりと起き上がる。
「くっ……出直して……!!」
 渾身の力で地面を蹴り、その場を離れようとしたビルシャナ。しかし。
「何処へ逃げようが何をしようが、私の眼はお前を逃さない……」
 リシティアの声に、びくりとビルシャナが身体を震わせたその瞬間。異空間から紫色をした攻性魔眼が無数に展開され、その視線の1つ1つに見つめられ、逃げ場をなくしたビルシャナは、再度閃光を放とうとするが。
「魔女の接近戦を見せてあげるわ」
 リシティアが一言告げると同時、魔法の一斉砲火が開始される。ビルシャナは悲鳴をあげる暇もなく、焼き尽くされた。

「こんなもんかなぁ?」
 そこそこに損傷した廃屋の庭をヒールで治し、リンスレットは伸びをする。
「お疲れ様、リンスさん」
 レオナールと一緒にヒールに勤しんでいたリリィが声をかける。ケルベロス達の尽力により、殆ど元通りになった廃屋の庭の隅で固まっていたのは、卯月とドリンクを飲みたい信者、フレックと食事をしたい信者、それから信者同士で意気投合した信者達。
 正気に返った彼らは、ケルベロス達に頭を下げる。
「ご迷惑おかけして、すいませんでした」
 そんな信者達を横目に、ヒールを終えたトウマは持参した二個セットのアイスを半分に割る。
「別に2人用メニューを分け合えっつーことじゃねーのになー。……あ、食うか? 1人だけだとちと多いしな」
 そう言って差し出したアイスを、信者の1人がおずおずと受け取り頭を下げる。
「あ、ありがとうございます……」
「気にすんなって」
 そう言うトウマに苦笑しながら、フレックが少し考えてから提案する。
「取り敢えず……折角集まったし皆でご飯でも食べようか? 1人悩むと抱え込んで思考が一辺倒になりやすい。そういう時は皆で時間を共有すると色々と見えてくるものもあるかもしれないわよ……なんてね」
 ぞろぞろと歩き出すケルベロス達と信者達の一番後ろで、小鳥が空を眺めて、一言。
「うむ、カップル限定商品か……弟を連れて行けば、割引商品買えるかの?」
 零した呟きは、秋口の涼しい風に吹かれ、何処かへ流れていった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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