星々の交わり

作者:つじ

 夏から秋へ。季節の移り変わりを示すのは、木々の葉の色や風の冷たさだけではない。空に描かれた星の巡りもまた、暦と共に移ろいゆくもの。
「今日はよく晴れたなぁ」
 階段を上がり、屋上へ出た男が、年老いた父母に声をかける。幸運にも昼間の雲はどこかへ流れ、蒸し暑く煙る空気も多少は緩和されている。冬場のようにはいかないが、ここ最近では一番、綺麗に星が見えていた。
 男の後ろからは彼の妻と、三人の子供達がそれぞれに続く。
「暑いよ、早く部屋に戻ろうぜ」
「わっ、蚊が居るわよ、蚊が!」
 明かりを落とした屋上に、子供らの声が響く。受験だのなんだので、家族行事への付き合いがめっきり悪くなった彼等だが、こうして星を見る時間だけは別だ。
 幼い頃には皆夢中で星座を追っていたものだったが……成長と時の流れ、そして昔からの『家族の時間』を思い、子供らの母はそっと目を細めた。二人の息子と一人の娘、彼等もいつかは巣立っていくのだと、そう思いを馳せる。
 それが、もう叶わぬ夢であるとも知らず。
「――あ?」
 ばつん、と耳障りな音がして、星を見上げていた少年の頭が消える。
 星明かりの下に赤く、血飛沫が上がった。
「……いやああああ!?」
「なんなんだアンタ、やめ――ッ」
「やめろ、はやく逃げるんだ!」
 暗闇の中を、現れた黒ずくめの男が舞う。家族を守ろうとした父親を、妹を逃がそうとした兄を、助けを呼ぼうとした母親を、順番に、丁寧に手折っていく。
「そんな、どうして、こんな……」
 問いへの答えは決まっている。こんなに仲の良い家族なら、きっと一つになって働いてくれるだろう。
 何もかもを失い、立ちすくむ老夫婦に、黒ずくめの男は奇妙な肉塊を手にして歩み寄った。

 しばしの後、屋上には歪な球体のみが残されていた。
 ところどころ、あらゆる方向に飛び出した棘は、人の手足であったそれだ。
 悲嘆に暮れる嘆きの声。苦しみに呻く怨嗟の声。漏れるそれらの隙間から、一つの顔がすべてを忘れたように空を眺めていた。
「アア、ほしが、きれい」

●流れ星、ひとつ
「神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)さんが危惧していたように、螺旋忍軍が研究していたデータを元に、屍隷兵を利用しようとする勢力が現れ始めたようです」
 集まったケルベロス達に、ヘリオライダーのセリカがそう切り出す。
 その勢力の一人、螺旋忍軍の傀儡使い・空蝉は、仲の良い家族を惨殺して、その家族の死体を繋ぎあわせる事で屍隷兵を強化しようとしているらしい。
「一つの家族が、その犠牲となりました。これを防ぐ事はできません」
 沈痛な面持ちで彼女は言う。
「ですが、生み出された屍隷兵が、近隣住民を襲い出す前に止める事は可能です。どうか、皆さんの手を貸してください」
 さらなる悲劇を止めるために。そう願い、セリカは一同に真剣な眼差しを向けた。
「屍隷兵は大型のものが一体と、小型のものが三体です」
 屍隷兵としては個体強度が高いが、他のデウスエクスに比べれば戦闘能力はそう高くない。ケルベロス達ならば、十分に撃破可能だろう。
「仲の良い家族を惨殺して屍隷兵の材料にするなんて、許せるものではありません」
 眼差しはそのままに、セリカはケルベロス達に呼び掛ける。
「敵……空蝉の狙いに迫るためにも、どうかこの一件を無事解決してください」


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
ベーゼ・ベルレ(ツギハギ・e05609)
御影・有理(書院管理人・e14635)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
鉄・冬真(薄氷・e23499)
レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
ルーニア・リステリアス(微睡はいつまでも・e37648)

■リプレイ

●星の巡り
 惨劇は既に成った。空蝉による蹂躙の嵐は過ぎ去り、静まり返った民家をケルベロス達が見上げる。
「こんな時でも、星空は変わらないんだな」
 周囲のそれより一際高い屋上の向こう、広がる夜空に日月・降夜(アキレス俊足・e18747)が目を細めた。めいめいに瞬く星達は、眼下の出来事など気にも留めていないように映る。当然の事、と言えばそれまでなのだが。
「どれだけ伸ばしてももう、手が届かないなんて……」
 ベーゼ・ベルレ(ツギハギ・e05609)も、同じ光景を見て眉間に皺を寄せる。既に終わった惨劇と星を重ねてはみても、感じる無力さが和らぐことはない。
「ええ、救われないわね」
 それに頷いて、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が歩を進める。屍隷兵に変えられた人達は、もう元には戻せない。しかし、それでも彼女等がここに赴いた理由は。
「私達にできることは、彼等が加害者になる前に止めることだけ……」
 家族を奪われた痛みを想起し、御影・有理(書院管理人・e14635)が決意を新たにする。
「そうね。それが出来るのは私達だけだって言うなら――」
 芍薬の言うように、誰かが手を下さなくてはならない。
「――終わらせましょ。この悲しい事件を、私達の手で」
 この事態に終止符を打つべく、ケルベロス達は動き出した。
 これ以上誰も巻き込まないために、降夜とベーゼがキープアウトテープを張り、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が殺界を形作る。
 事態に気付いていない一般人達も、これでおいそれと近寄ってはこないだろう。

 屋上に上がった一同を迎えたのは、小さなすすり泣きと、嘆きの声。
「これが、神造デウスエクス……」
 呻きに似た声を上げたベーゼの前で、肉の塊が傾き、少しだけ角度を変える。球体から突き出た足の一つが地面にぶつかり、星の見えない位置に転がった少年の頭部が悲鳴を上げた。
 醜悪な肉塊は全部で四つ。七つの頭の付いた『アステロイド』に、小さな『ダスト』が付き従っている。臓物の固まった赤い星と、色んな指が突き出した白い星。最後の一つが黒く尾を引いているのは、誰かの髪が絡みついているからか。
「……助けられなくて、ごめんなさい」
 小さく謝罪を口にする有理に、鉄・冬真(薄氷・e23499)が気遣うように視線を送る。
 一方で、アンセルムはその言葉に首を横に振った。終わってしまった惨劇、そしてこれからする事、それらは謝って済む話ではないという、彼なりの意思表示だ。
「……ここは、星がよく見えるね」
 屋上の様子を一通り眺め、レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)が自らの銃に手を伸ばす。こんな状況でなければ、この場所はプラネタリーカフェに通う彼にとって、親近感を覚える場所ではあった。
「手遅れになってしまった後だけど……せめて星空が見える場所で送りたい」
「苦しみがこれ以上続かぬよう、私たちの手で止めよう」
 彼に続き、ルーニア・リステリアス(微睡はいつまでも・e37648)がシャーマンズカードを手に取る。
「ああ、あぁ、ほしが、ながれる」
「だれ? あなたたち、邪魔をするの?」
 剣呑な気配に反応するように、二つの顔が視線を蠢かせ、ケルベロス等を捉える。地面に近い腕が地面を引っかき、足が奇妙なリズムを刻んで巨大な球体が動き出した。
「ころすことしか出来ない、造られた存在。今日のおれとおんなじっすね」
 皮肉な繋がりに、ベーゼが笑い顔を作ろうとして、失敗する。
 くしゃくしゃに歪んだ顔には、隠し切れぬ悲しみが浮かんでいた。

●衝突
 ごろり、と巨体が地面を転がる。下敷きになった顔の呻きを響かせながら迫るそれを、ベーゼがその太い腕で受け止めた。
 想像に比べて柔らかで、重い感触に彼が歯を食いしばる。回転動作の鈍ったそこに、追従する小さな星達が殺到する、が。
「させない……!」
 そこに有理が立ち塞がる。両手で持てるボールのようなサイズの球体からは、それぞれに槍が、刃が、飛び出して彼女を切り裂いた。それはきっと誰かの爪や、余った肋骨。浮かぶ感情を押し殺しつつ、有理は戦い、見届けるために視線を『敵』へと集中させる。そうして前衛、壁役を務める二人が初動を抑え込んだところに、攻撃手達が仕掛けていく。
「何も思わなくて大丈夫。あれは、ただのデウスエクス……!」
 あえてそう言葉にして、アンセルムが精霊を解き放つ。合わせて振るわれたレスターの手刀と同時に、凍て付く空気が敵陣を包み込んだ。
「そこだね」
「さっさと数を減らしたいところだが……」
 手近な一体に冬真の卓越した一撃が刺さり、降夜の蹴撃がそれを追う。しかし別の球体が合間に飛び込み、彼の動きを阻んだ。
「そう簡単にはいかないみたいね。……当分は耐えてもらうわよ?」
 言葉の後半を壁役に投げて、芍薬が九十九を従えマインドシールドを展開。応援動画がその後に展開される。
「大丈夫。だから――」
 濡羽色の扇を鞭のように変形させた有理が敵を迎撃し、リムがブレスでそれを援護する。続けて動いたベーゼは『破壊のルーン』を味方へ。
「でも、早めにお願いするっすよ」
「ああ、手を抜く気は無い」
 それに重ねてルーニアが御業の鎧を纏い、攻撃の準備を整えていった。

 『アステロイド』への攻撃を『ダスト』が阻む。役割のはっきりした敵に対し、ケルベロス達の取った手も明確だった。
「よろしくっすよ、ミクリさん!」
 ベーゼの声に従って、ミミックが財宝をばら撒く。流れる無数の煌きを目にし、頭部のいくつかが感嘆の声を上げた。
 一塊で動く敵をまとめて叩けるよう、攻撃は自然と範囲を攻められるものに偏る。アンセルムのロングブーツが風を纏い、嵐を巻き起こせば、ルーニアの召喚した猫の群れが星々を毒に染めていく。
 庇い合う『ダスト』に攻撃を阻まれ、『アステロイド』にはほぼ攻撃が届いていない状態だが。
「……状況が、分かっていない?」
 転がる動きを受け止めた実感を、有理が口にする。攻撃が余り行っていないのが原因か、『アステロイド』は時折思い出したように転がる程度。それも、『頭』達が星を追いかける意味合いが強そうに感じられる。
「それはそれで、良いのかも知れないけどね」
 一方で、『ダスト』は盛んに攻撃を繰り返してきていた。有理に向けられた身を投げ出すような突進を、冬真が半ばで叩き落す。
「今のうちに、仕留めてしまおう」
 音も無くそこに迫り、アンセルムがシャドウリッパーで黒い『ダスト』を切り裂いた。出来損ないの星が、赤く割れる。
 弱った個体を狙う動きは事前に打ち合わせ済みである。手早く、的確に。確りと連携を繋いだケルベロス達の手で、衛星が追い詰められていく。
「これで、阻むものはなくなったな」
「さぁ、次だ」
 有理の刃が赤の上に三日月を描き、降夜の手刀が白を打ち砕いた。

●悪夢の終わり
 主を守るように動いていた衛星を落とし、ケルベロス達の視線が最後の星へと集まる。だが当のアステロイドは、死んだ自らの一部になど興味が無いように微妙な動きを繰り返している。
「いたい、くるしい」
「これはゆめ、ゆめのような……」
 それぞれに空を見上げようとしながら、複数の頭部がうわごとを口に乗せる。現実逃避の産物か、それに合わせて徐々に傷が癒えていくようにも見えた。
(「地球もアスガルドも……星の美しさは変わらない」)
 思い出に浸っているのか、その様子はレスターの中の記憶を呼び起こす。故郷に居た頃、兄弟で共に流れ星を数えた記憶。その弟を、敵に回った兄弟を、彼はその手で葬っていた。
 繋がる記憶に感傷は千切れ、冷めた判断のもとにレスターが跳ぶ。
 星を見上げる者達にこの技を放つ皮肉さを感じつつ、放たれたスターゲイザーの一撃が『アステロイド』を揺らす。
「ああッ!?」
 範囲攻撃とは違う重さの衝撃に、空気を吐き出すような悲鳴がいくつも起こった。
 あまりのダメージに戸惑うような様子を見せる敵に、持ち前の瞬発力を活かした降夜が踏み込む。冷静に、冷徹に、そう努めてきた彼が狙うのは、現在最上部に位置した頭。
 痛みも苦しみもあるだろう、だからせめて、好きなもの……星を見ている間に。
「貫け」
 練り上げたグラビティと共に拳が撃ち込まれ、球体に一つ、穴を穿った。
「かっ、アァァァァァァ!!?」
「なっ――」
 ひしゃげた頭部の横、残っていた口が金切り声を上げる。同時に、まるでようやく現実に立ち返ったように細い腕が、太い腕が、一斉に降夜へと伸ばされた。
「ああ、あァ、何てことを」
「やめてくれ、孫には手を出さんでくれェ!」
「ッ……離してもらおう!」
 有理の振るった刀が腕の一つを両断し、その間に降夜が逃れ出る。標的を失った腕は、そのまま有理へと伸ばされていく。
 夢の中に居るような、濁った瞳。幾つもの手に異常な力で引き寄せられる中、彼女はそれを見て取った。
 害意の有無は分からない。だがきっと、この存在はこうやって誰かを傷つけ続けるのだろう。
 こんなもの、続けさせてはいけない。止めなくては。
「誰も、連れて行かせたりするもんかっ……!」
 決意を込めた咆哮と共に、両腕を広げたベーゼが巨体の前に立ち塞がる。その手から放たれた光の鎖は、『アステロイド』を抑え込む。だが動きを制限されながらも、『彼等』は縋りつくように腕を伸ばし、前へ転がろうとしていた。
「……気持ちの良い光景じゃないわね」
 まだ見ぬ『首謀者』の趣味の悪さに、芍薬が喉を揺らす。以前ならば、心を持たぬ頃の自分ならば、これを見ても何も感じないままでいられたのだろうか。
「早く、ケリを着けてあげましょ」
 彼女は逸る気持ちを抑え、役割を全うするべく仲間のために爆破スイッチに手を伸ばした。
 ブレイブマインによる後押しがされ、さらにルーニアによる御業の鎧が傷ついた冬真を包み込む。
「崩せる?」
「ああ、やってみよう」
 サイコフォースの爆発によって敵の姿勢が崩される。それを契機として、ケルベロス達の集中攻撃が仕掛けられた。
「だめ、もう、なにもみえない……」
「どうして、こんなァ……!」
 重ねられる猛攻に、敵の疲弊が露になる中、顔の一つ……いや、『父親』が目を剥き、嘆きの声を上げた。
「……!」
 これはただのデウスエクスだ、そう振る舞ってきたアンセルムの指先が、その言葉に揺らぐ。「どうして」と、その問いに対する答えなど、彼は持ち合わせていないのだから。
 一瞬の空白。だがそこを『隙』としないよう、降夜が側面から拳を叩き込んだ。降魔の拳が巨体を揺らし、敵を蝕む。
「いけるか?」
 反撃を受けぬよう下がりつつ問いかける降夜に、アンセルムが視線を返す。しかし、彼が何かを口にする前に、降夜は次の仕掛けに備えて動き出した。
「こんな悪夢、さっさと終わらせてやろう」
 抱く思いは、結局のところ同じなのだから。
 人形を抱いたアンセルムは自らを律するように吐息を一つ。そして――。
「其は、凍気纏いし儚き楔。刹那たる汝に不滅を与えよう」
 氷霜の楔。生み出された氷の槍が、折り重なって敵を貫いていった。

 悲鳴と共に転がる『アステロイド』の攻撃の重さを、ケルベロス達のそれが凌駕する。一因となっているのは手数を活かした氷か。ブレイクで姿勢を崩す事に成功してから、その効果は目に見えて上がってきている。
 ルーニアのシャイニングレイによってそれが上乗せされる中、一同は卓越した連携と威力重視の攻撃で敵を追い詰める。
「痛みも嘆きもここに置いていって下さい。貴方達が静かに眠れるように……代わりに僕が背負います」
 この痛みに終焉を。冬真の手で閃く黒刀に合わせて、有理が術を紡ぎ出す。
「何処に在す、此処に亡き君。鎮め沈めよ、眠りの底へ。形無くとも、届けと願い。境の竜よ、御霊を送れ」
 現れ出るは幻影の竜。鎮魂の願いを込めた物悲しい咆哮が、悪夢の中の『彼等』を揺さぶる。
「こんな、もう、いやだ……」
 頃合いか。それを聞き、ここまで自らの負傷の顧みず仲間のカバーに当たっていたベーゼも攻撃へと回る。
「もう、苦しいのはおしまいっすから……おやすみ」
「冥土の土産よ、安らかにとは言えないけど……きっと、空の向こうは星が綺麗に見えるから」
 ベーゼの巨腕と赤熱した芍薬の腕が打ち込まる。そして押し負けた『アステロイド』の動きが止まったところに、レスターが銃口を向けた。
「俺はヴァルキュリアだ。キミたちの魂は、キミたちが愛した星空へちゃんと送り返すと約束する」
 だから、今は眠ってほしい。夢も見ない程に深く。
 引き金が引かれ、燃え盛る地獄の炎が『アステロイド』を貫く。
「……」
 力尽きた『彼等』は、悲鳴もなく眠りの中へと落ちていった。

●穏やかな眠りを
 戦いは終わり、屋上に静けさが戻る。見上げれば、星もまた一層輝きを増したような気がする。
 星空の思い出は美しいものだったが、と有理の頭にそんな思いが浮かぶ。星空を見上げる度に、この日の事も思い出すのだろうか。
「――安らかに眠れますように」
 だが、それもまた彼等ケルベロスの負う宿業なのかも知れない。亡骸に祈りの言葉を送る有理の傍らで、冬真も深く頭を下げる。
「……」
 そして無言のまま、唇だけを小さく動かした。
 一方、淡々と戦闘痕にヒールを施していた降夜とアンセルムは、足元に転がったそれに気付く。
「……望遠鏡、か」
 戦闘の最中に巻き込まれたのだろう、破損したそれに伸びかけた手が止まった。
 壊れたそれを直したところで、使う者はもう居ないのだが。
「家族で、使っていたのだろうな」
 そこに歩み寄ったルーニアが、そっと手をかざす。
「せめて、思い出だけでも……」
 ヒール効果により、それは元の姿を取り戻した。
 在りし日を思わせるその様に、アンセルムが踵を返す。ヒールの必要な個所はまだ残っている。だが、しかし。
「……幸せに、普通に暮らしていたのに、なんで、こんな……!」
 抑えきれず、溢れ出る思いのまま、彼は壁に拳を叩き付けた。
「……ごめん、キミたちを助ける事ができなくて」
 レスターもまた、遺骸のあったそこに謝罪を告げる。弔いの代わりに、置かれたのは一つの球体。
「夜が明けても……これならずっと星が見れるだろう」
 天球プラネタリウム。光によって屋上に生み出された星の中に、レスターの瞳からこぼれた光が散った。
「おれたちに手が届くのは、これくらいなんすかね……」
 掌に作り物の星を映して、ベーゼが呟く。どんなに手を伸ばしてみても、本物のそれには届かない。
 彼等も、届かぬ場所に行ってしまった。ならば、せめて星々の描く星座のように。
「どうか、皆いっしょでいられますように」
「……そうね」
 天国にしろ空にしろ、家族一緒に居られると良い。芍薬もまたそう願った。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 9/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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