とある山の一角。
滝の近くで鍛錬に勤しむ武術家の元を、1人の少女が訪ねた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
その言葉を浴びた途端、武術家は操られるように攻撃を仕掛け始める。
「我が編み出せし『獅子流武術』をなめるな!」
実際、武術家の技は研ぎ澄まされていた。少女はサンドバッグのように拳や蹴りを受け続けるだけだ。だが、
「なぜ出ない、獅子のオーラ! 修行が足りないのか」
武術家の理想は高い様だ。
「ふふ、僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
少女が一瞬の隙をつく。大きな鍵で貫かれた武術家は意識を失い、傍らに別の影が立ち上がる。
獅子の頭部を持ったその男が、拳を繰り出す。すると、放たれた獅子のオーラが近くの木を粉砕した。
「ほら、お前の武術を見せ付けてきなよ」
少女にうながされ、獅子頭の男は人里を目指す。
「己の武術を極めるべく修行中の武術家が襲われる事件が予知されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)によれば、黒幕たるドリームイーターの名は、幻武極(げんぶ・きわめ)。自らに欠損している『武術』を奪い、己のモザイクを晴らそうとしているらしい。
今回襲った武術家の技でモザイクが晴れる事はないようだが、代わりに武術家のドリームイーターを生み出すのだ。
「このドリームイーターは、襲われた武術家が理想とする、究極の武術家の姿を具現化したもの。手強い相手となるでしょう」
ただし、武術家ドリームイーターが人里に着く前に接触できるため、人的被害を抑える事は十分可能だ。
襲われた武術家は、我流武術である『獅子流(ししりゅう)武術』の使い手。目指す極みは、獅子のオーラを発射するというものらしい。
まるで格闘ゲームのような技巧だが、ドリームイーターはその理想の技を実際に使う事ができるのだ。
武術家ドリームイーターは赤い道着姿で、その頭部は勇ましい獅子のものだ。
用いる技は、3種。
獅子のオーラを拳より放つ獅子咆哮拳。獅子のオーラを地面に叩きこみ、敵の足元から噴出させる獅子震裂撃。そして、獅子のオーラを相手に直接叩き込むキック、獅子爆裂蹴だ。
なお、ポジションはクラッシャーである。
「この武術家ドリームイーターの目的は、自分の技の威力を示す事。ですので、挑発したり、戦いの場を整えたと告げれば、背を向けるような真似はしないでしょう。皆さんも持てる技と力で撃破してほしいと思います」
参加者 | |
---|---|
叢雲・蓮(無常迅速・e00144) |
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955) |
ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263) |
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447) |
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145) |
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816) |
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180) |
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930) |
●READY?
滝の音を遠くに聞く、山の中。
獅子頭の武術家ドリームイーターとの戦いに備え、シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)達が、開けた戦場の用意にかかる。
「戦いには相応しいフィールドが必要だからね」
「でも、オーラが見えるほど強力な技ってなら分かるけど、オーラにこだわるのは本末転倒じゃないかなあ」
いい感じのスペースを仕立てながら、因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)が思うところを口にする。
「ふぅむ、見てくれにこだわりすぎるも何ではあるが、これはこれで新しい技のインスピレーションになりそうで御座るなぁ」
自らも我流で技を編み出したディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)としては、興味がある様子だ。
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)や宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)、そして他の仲間も協力して、順調かつ迅速に作業は完了した。
「通販で購入した草刈機が役立ったでござる。やはり通販は便利……!」
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)が、満足げにうなずく。
出来上がったバトルフィールドを前にして、叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が、双眸をきらきらさせる。もうすぐここで、獅子のオーラ使いと戦う事が出来るのだ。テンションも高まろうというもの。
そうして手伝いを終えたフィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)が、ふと、言った。
「こう、さー。ケルベロスが言うのもなんだけどさー。普通の武術でオーラって実際に出るもんなの?」
……まあ、出ないでしょうね。
という感じの返答が仲間から来た。
ともあれ、準備は済んだ。あとは、『最後の役者』をこの舞台に招くだけだ。
●ROUND1
ただひたすら人里を目指す、獅子頭のドリームイーター。
だが、不意にその足が止まる。
「隠れても無駄だ。私は武術家だからな」
根拠不明の自信を見せる獅子頭の前に、ケルベロス達が姿を現した。
何者か、と問う獅子頭に、白兎が何かを突きつけた。ぺしっ、と。
「これは、果たし状、だと?」
「そう、ワ~タシは『赤ペン神拳』伝承者のヒ~ナタ・イクスェ~ス!」
赤ペンギン着ぐるみのヒナタの名乗りを、獅子頭は、しかし一蹴する。
「そのような流派は知らんな」
「ならば説明しようッ!」
赤ペン神拳とは、ペンギンのオーラをまといステキムーブで相手を煽りつつ攻撃する、伝説の暗殺拳であるッッ!
「さあ、ワ~タシとアナタ、どちらの拳が優れているか勝負のオチよ!」
くいくいっ、とヒレで相手を挑発するヒナタさん。
「やはり知らんが、興味はある。それで、そちらの者も、手合わせ希望か?」
「ああ。そっちが獅子なら、こっちは龍だ。龍虎相打つ、もとい龍獅子相打つって感じで、一つ力比べでもどうかな?」
シェイの申し出に、獅子頭がうなずいた。
「面白い。だが、我が獅子流の相手として、貴殿らに相応しい力量があるか?」
「心配には及ばない! なぜなら、わたしは天才だ!! 当然武においても天才である!」
日出武がポーズを決めると、スキンヘッドが太陽光を反射し、輝いた。
「聞いたことのない武術なのはそっちの方だなあ。どうせ三流田舎流派に決まっている! このわたしの前では獅子どころか野良猫にも劣る下郎よ!」
「ほおう……」
ぎろり、獅子頭に睨まれる日出武。
その外見から、豪胆なように見えて、実のところビビリである。だが、天才を演じる事こそアイデンティティ。たじろぐ素振りは見せぬ。
「いいだろう、我が獅子流、しかとその目に焼き付けるがいい!」
日出武の虚勢も功を奏したか。獅子頭の了承を得たケルベロス達は、戦場への案内を始めた。
木々の間を縫って、疾走する一同。別に急ぐ必要はないのだが、獅子頭のテンションに合わせた結果である。
そして程なく、他の仲間達の待つ戦場が見えてきた。
「さあ舞台は整えたで御座るよ、御仁。拙者ら全員でお相手仕る!」
バトルフィールドに立ち、ディバイドが名乗りを上げる。同時、獅子頭をケルベロス達が取り囲む。
「一対多数か。だが数に頼む戦い方では、獅子流は破れんぞ! はあッ!」
獅子頭の気合が、周囲の空気を揺るがした。その瞬間、闘気がオーラとなって、その全身から放出された。
拡散する事なくコントロールされた闘気は、獅子頭の背後に、もう一つの獅子の頭を顕現させたではないか。
「ホントに出た、獅子のオーラ……!! カッコいいのだよ!!」
蓮が、腕をブンブン振った。
「ボクも修行したら出るようになるかな……? んとんと……居合と一緒に、狼のオーラとか龍のオーラが出るとカッコいいと思うのだ!!」
「あ、ああ努力次第だな……」
蓮の勢いに、獅子頭も若干たじたじだ。
「いやいや、獅子の闘気を顕現する武術とはなかなか豪勢な。しかし、拙者らが打ち破らせてもらうでござるよ」
独特のオーラ音を聞きながら、日仙丸が身構えた。
「見た目が派手で、実際に攻撃が激しくても、付け入るスキは十分にある筈……」
相手の一挙手一投足を、慎重にうかがうフィオ。
一触即発……張りつめる空気。
「いざ!」
獅子頭の地を蹴る音が、バトルスタートの合図となった。
●ROUND2
まずは下ごしらえ。日仙丸が、小型治療用端末機をリリースした。仲間達の元に向かい、その防備に回る。
「まずは我が金剛破斬剣を御照覧あれ」
言うなり、ディバイドの刀『空蝉丸』が、烈火をまとった。披露されるは、剣舞。機人による舞だ。
ディバイドの炎斬は、赤道着やたてがみを傷つける事なく、ただ獅子頭の霊体、そして獅子のオーラを焼いていく。
「次は竜だよ」
ディバイドが射線を空けると、シェイが掌を向けた。
「騙すようで悪いけど、私は武人ってわけじゃないからね。こうやって、魔法なんかも使ったりするのさ」
詠唱完了とともに現出した幻竜波が、獅子頭へと喰らいついた。
だが、四肢の先にまとった獅子のオーラを操り、竜の波動に抗う。
「今度はこちらの番だ。かつ目せよ、奥義、獅子大震撃!」
獅子頭の右拳が、大地に打ち込まれた。
四方にヒビが走ったかと思うと、周囲のケルベロス達の足元から、オーラが噴出。一同の体を跳ね飛ばした。
「見たか、これぞ獅子流……!」
「もっと技を見せて欲しいのだ!」
突然、蓮が獅子頭の死角から現れた。
「オーラは出せないけど、カッコよく吹き飛んで欲しいのだ!」
ワクワク顔の蓮の手が軽く触れた途端。打ち込まれた螺旋の力が、獅子頭の体内で暴れ回る。
後退する獅子頭を追って、白兎が行く。
「オーラが出せるから何なのさ? 見た目ばかり気にしてるような攻撃ってなんていう嘉知ってる? 『虚仮威し』って言うんだよ。だから、こんな感じにすぐ真似できる」
白兎が、獅子頭のモーションをなぞった。そうして起動した技は、しかし獅子ではなく、
「ラブリーうさぴょんパンチ!」
愛らしいウサギのオーラが、獅子頭を吹き飛ばした。
「おのれ、獅子流を愚弄するか!」
まんまと白兎の策にはまった獅子頭が、その身を追いかける。
仲間達が次々と技を繰り出す中、タイミングをはかるフィオ。
獅子頭の攻撃は、いちいち派手だ。だが、目くらましとして利用してやれば、死角にも入り込みやすい。
「柔よく剛を制す……大技とか無くったって戦いようはあるってところ、見せてやらないと!」
そこに飛来するヒナタ。
「くあ~、赤ペンキック! のオチ!」
ヒナタのペンギン足が、獅子頭の技の出を潰す。
そしてここぞ、とフィオが動いた。体を半獣化させつつ、拳を振りかぶる。
急加速を伴い、猛攻するフィオ。その瞳が描く紅の軌跡が、獅子頭の目に残光を焼きつける。
だが、獅子頭はフィオが離脱した瞬間、猛然と進撃した。次に控えていたシェイの体を、拳でえぐる。
「一撃では終わらん!」
「そうはさせるか」
なおも攻撃を続けようとする獅子頭を、日出武が重量を生かした蹴撃で食い止める。
「ルゥ殿、失敬するでござる」
日出武が引きつける間に、日仙丸がシェイに手を当てた。直接注ぎ込まれた螺旋の加護が、気力と体力をみるみる充実させていく。
「助かるよ」
「なんの。戦いはこれからでござる」
日仙丸が、仲間と拳を交える獅子頭を見据えた。
●FINALROUND
傷を癒し、駆け出すシェイ。
一歩ごとに、その気が脚へと注ぎ込まれていく。やがて鋼と化した脚による踏み込みが、地面を砕く。噴出した衝撃が、獅子頭目がけ襲い掛かる。
「これは、虎か!」
シェイの気に噛み砕かれながらも、獅子頭の声は歓喜を含んでいた。
異なる技を目にして昂ったか、再び獅子の一撃が、地を、ケルベロス達を揺さぶる。
「……くぁ、見事。のオチ。……が! それでは届かない! 空の果て行く手……このワ~タシには届かない!」
ヒナタの全身からオーラが噴き出した。当然のように、ペンギンの形。
「さあ、その体に、魂に刻むが良い! これが赤ペン神拳究極奥義!!」
ヒナタの掛け声とともに、オーラはペンギンから『鳳凰』へと変化。そこから真髄の一撃を叩き込む。
「覇凰天塵拳! のオチ!」
「ぐあああッ!?」
相手が態勢を立て直すよりも早く、ディバイドが切りかかった。獅子のオーラを裂いて、突きを放つ。雷をまとったそれが、獅子頭の胸を貫いた。
「く……!」
痛みに見開かれた獅子頭の目に、手刀を繰り出す日仙丸の姿が映る。
派手さこそないが、堅実にして鋭利な一撃が、獅子頭を貫くと、背から氷の華が咲く。
敵味方問わず、飛びかう派手な技とフレーズの数々。
「ワクワクが止まらないのだ!」
歓喜をあふれさせた蓮が、居合の構えから、縦横無尽の斬撃を放った。狙うのは仲間の刻んだ傷口!
「まだまだ!」
獅子頭のキックを、日出武が両腕をクロスさせ、ガードした。
「そんなんじゃ虫も殺せねえぞ」
「バカな、無事であるはずがない……!」
だが実のところ、相手の攻撃が全く効かぬ体を装っているだけである。
必死こいて痛みをこらえると、日出武が獅子頭の体を突く。
その時、皆は見た。聞いた。謎の効果音とともに、獅子頭が奇声を発して倒れたのを。
「本当はさ。ガチでの格闘戦ってそんな好きじゃないんだけど、見せてあげるよ。見掛け倒しじゃない、中身の伴った攻撃ってのをね」
白兎が、兎の敏捷さを生かして跳ね回る。ダメージの蓄積故に、獅子頭の回避が鈍った隙を見出し、キックを浴びせた。
倒れた獅子頭が顔を上げると、フィオの呪斧が振り下ろされる瞬間だった。
「これはかわせぬ……!」
その言葉通り。フィオの一撃が、獅子頭を叩き潰した。
上がる土煙の中、ゆらり、獅子頭が立ち上がる。
「み、見事……!」
蓮が油断なく構える中、賛辞を残し、前のめりに倒れる獅子頭。ケルベロス達の勝利であった。
ドリームイーターといえど、武術家の端くれ。哀悼の意を表した後、日出武達は、滝つぼ近くにて昏倒した武術家を発見した。
「くそっ、獅子流が完成していれば、あんな少女に後れを取る事など……」
歯噛みする武術家。
白兎がどうしたもんかなー、と頭をかいていると、シェイが励ましの言葉をかけた。
「まぁ試みとしては面白いと思うよ。中々難しいと思うけどね。まだやる気があるって言うなら、微力ながら応援しているよ」
「これで参考になるかどうかわからんでござるが」
そういうと、日仙丸が、ぶわっ、と闘気をあふれさせた。
「おおっ、これぞ我が目指す極致! その技、伝授してはくれまいか!」
「バトルオーラは、鍛練の末の産物ではないでござるが……闘気という点では近しいでござろう。何か、ヒントになればよいでざるが」
聞いているのかいないのか、武術家は、さっそく真似して気合を高め始める。
技を極めたいという精神は、ちっとも失われていないようだ。
「何にせよ、これにて一件落着で御座るな、はっはっはぁ!」
ディバイドの豪快な笑い声が、滝つぼに響いたのだった。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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