鎌倉ハロウィンパーティー~魔女のモザイクは何の味?

作者:りん

●彼氏なんて……。
 10月31日はハロウィンだ。
 本来ならば日本の風習ではないそれは色々な業界の思惑とお祭り好きな日本人の気質も相まって、近年かなりの盛り上がりを見せていた。
 街を歩けばディスプレイにはジャック・オー・ランタンや、紫色の悪魔の羽、魔女の帽子などが小物として飾られ、飲食店やお菓子屋では南瓜を使ったメニューが並ぶ。
 仲睦まじい男女はイベントにでも参加するのか、店先で腕を組んでああでもない、こうでもないとお互いに小物をあてがっていた。
 そんな街並みを横目で睨み付けるように見ているのは一人の女。
 会社帰りのOLなのだろう、きっちりとパンツスーツを着こなしてカツカツとヒールを鳴らしながら歩く。
「……ハロウィンなんて馬鹿みたい。金儲けに皆踊らされて……」
 学生の頃は好きな人も居たしそれなりに交際もしてきたが、就職してからは仕事に忙殺されそんな余裕もなく職歴イコール彼氏いない歴となっている。
 一人暮らしのアパートのドアを少々乱暴に閉め鍵をかけると、彼女は俯きはぁーっと長い溜息をついた。
 皆で集まって騒ぐのは好きだ。
 学生時代の友人たちからハロウィンパーティーの誘いも受けているが、全員彼氏を連れてくると言っているのだ。
 就職して早5年。そろそろ結婚を意識した付き合いを開始している子もいるだろう。
 そんな中、お一人様での参加はしたくない。
「ハロウィンか……」
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう」
 部屋の中から聞こえてきた声に、彼女は驚き顔を上げる。
 ここは自分の部屋。誰かがいることなどあり得ないのに。
 そこには赤い頭巾を被った少女が立って居た。
「えっ!?」
 驚く彼女に構いもせず、少女は手に持った鍵を彼女の心臓に突き立てた。
「世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 心臓を突き刺された彼女はがくりとその場に崩れ落ちたかと思うと彼女と入れ替わるように人間を模ったモザイクが現れる。
 とんがり帽子に黒い服……魔女の服装を見に纏ったドリームイーターは、アパートのドアを開けると颯爽と外へと出かけて行ったのであった。
 

 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査の結果、日本各地でドリームイーターが暗躍しているのが判明した。
「と、言うわけで、ドリームイーターを倒してきて欲しいっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言って、詳しい説明を開始していく。
「今回はハロウィンのお祭りに対して劣等感を持っている人がドリームイーターになってるっす」
 さしずめハロウィンドリームイーターと言った所だろうか。
 彼らはハロウィンパーティーの当日……つまり、10月31日に一斉に動き出し、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場に現れるのだと言う。
 世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場は鎌倉。
「皆さんにはパーティー開始直前までにハロウィンドリームイーターを撃破して欲しいっす」
 そうすれば、実際のハロウィンパーティーは無事に開催できる。
「皆さんにお願いしたいのは魔女の格好をしたハロウィンドリームイーターっす」
 モザイクを飛ばす攻撃をしてきて、それには麻痺だったり、冷静さを失わせたり、眠りに誘ったりする効果があるらしい。
 ハロウィンドリームイーターはハロウィンパーティーが始まると現れるので、戦う前にまずはあたかもハロウィンパーティーが始まったかのように楽しく振る舞って、おびき出さなければならないだろう。
「せっかくのハロウィンっす! 気兼ねなく楽しむためにもドリームイーターの撃破、お願いしたいっす!」


参加者
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)
藤・小梢丸(カレーの男・e02656)
サクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
葉山・芽咲(小さな芽吹き・e04511)
大倉・郎朗(ブタマンアーミー・e11673)
エミリア・ライスター(翠眼の狙撃手・e17721)
シュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)

■リプレイ


 世界一盛り上がる鎌倉のハロウィンパーティー。
 そのパーティーの準備が着々と進む中、もう一つ、それよりも先に開催されるパーティーの準備がケルベロスたちの手によって進んでいた。
 特別なゲスト……ハロウィンドリームイーターのためのパーティーだ。
 全身黒尽くめに骸骨のペイントをつけているのは大倉・郎朗(ブタマンアーミー・e11673)。
 暗がりでみると骸骨だけに見える仕掛けだ。
 お決まりの台詞を言われたら出すための飴をポケットに忍ばせ、彼はハロウィンパーティーの準備にとりかかっていた。
 会場に必要不可欠な料理を乗せるための大きな机、そして仲間と楽しむための道具を運び、用意した電飾を適当につけていく。
 電源を入れて再度位置を調節し直せば、また次の作業。
(「これが終わったらケバブとピザを準備して……」)
 ピザには少し細工をする予定だ。
 噴き出た汗をぬぐいつつ、郎朗は口元に笑みを浮かべた。
「楽しみですね」
 パンプキンパイにパンプキンモンブラン、そしてパンプキンプリン。
「………完璧です!」
 南瓜をふんだんに使ったお菓子を作ってきたのは白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)だ。
 お菓子を堂々と食べられる機会は逃さない。
 せっかく日本にもハロウィンパーティーが根付いて来たのだ。
 そんな楽しい日をめちゃくちゃにされてはたまらない。
「せめて、Trick or Treat、くらい聞いてからして欲し……ってしちゃダメですね」
「それは遠慮願いたいな」
 まゆの言葉にそう言いながら紙コップや取り皿、そしておしぼりを机に並べているのは吸血鬼の格好をしたエミリア・ライスター(翠眼の狙撃手・e17721)だ。
 お菓子の準備も大事だが、こうした備品もまたパーティーには欠かせない。
 その配慮に感謝しつつ店で買い込んできたお菓子を並べているのは葉山・芽咲(小さな芽吹き・e04511)だ。
「仮装パーティーとかやったことないので楽しみ!」
 彼女はゾンビの服を身に纏い、うきうきしながらお菓子を並べ終る。
 それを終えればビンゴの準備。
 ハロウィンドリームイーターをおびき出すためには楽しくパーティーをすることが重要なのだ。
 少しでも楽しむためにゲームも全力で楽しまなければ。
 仲間たちがパーティーの準備を整える中、藤・小梢丸(カレーの男・e02656)は会場から少し離れた場所にやって来ていた。
 彼の目的は一般人を戦闘に近づけない様にすること。
 眼鏡の位置を直した彼は懐からカレールーの箱を取り出すと、その中からキープアウトテープを引っ張り出す。
 何でそんなところに仕込んでいるのかなどとカレー好きな彼に無粋なことは聞いてはいけない。
 ぴーーーーっとパーティー会場に続く道を封鎖すると小梢丸は一つ息をつき、決意したように顔を上げて会場へと戻って行った。
 小梢丸にキープアウトテープを任た南瓜頭に黒マント姿のシュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)は持って来たお菓子を綺麗に盛り付けていた。
 彩りを考えながら丁寧に。
「………よし」
 納得いく配置を終えたら後は主食の準備。
 少し無理をして用意してもらったローストビーフにチキン、そしてトマトソースミートボール。
 とても美味しそうなそれらを運びながら、エミリアはごくりと喉を鳴らした。
「そろそろ始めましょう」
 周りを確認したサクラ・チェリーフィールド(四季天の春・e04412)は大きな赤い帽子を被り直すと、メンバーにそう声をかける。
 準備はとても楽しいものだが、そろそろ始めなければ。
 エミリアの用意したラジカセにサクラは用意した音源を入れ、スイッチをぽちりと押した。


 パーティーらしく、怪しく楽しい音楽が流れる中、ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)の声が響く。
「皆さん。今日は貴方達の心に眠る化け物を解放する日です。さあ、思う存分参加者の皆さんを驚かせてやってください。ただし、あまりに羽目を外し過ぎると俺が地獄へ連れて行きますよ」
 黒いローブを纏ったゼフトがそう呼びかければ一足早いハロウィンパーティーの始まりだ。
「肉が……足りない……!」
「にくをぉぉあ……よこせぇえええ」
 そう言いながら徘徊しているのは郎朗と芽咲。
 2人はテーブルを巡ってローストビーフやチキン、ケバブに手を伸ばす。
 ちなみに郎朗は肉を主に狙っていくが、芽咲は合間合間にお菓子を挟んでいたりする。
 彼女曰く、
「とぉおぶん……だいじぃいい……」
 なのだそう。
 その彼女に同意するように甘いものを食べているのはエミリアだ。
 チョコにマシュマロ、パンプキンモンブランもとても美味しく、彼女はぽつりとつぶやいた。
「しあわせ……」
 その隣でひたすらにカレーを食べているのは小梢丸。
 正直、引きこもりにはこんなパーティーを盛り上げるほどの術を持ち合わせていないのだからカレーをひたすら食らうしかない。
 カレー美味しい。幸せ。カレーは正義。
(「こんなに美味しいものがあるのだからドリームイーターもお腹を空かせて出て来るに違いない」)
 お菓子や料理で盛り上がる中、さらにパーティーを盛り上げようとゼフトがビンゴカードを配っていく。
「さあ、お化けも驚くような賞品満載のビンゴ。何が当たるかな?」
 がらがらと番号の書かれたボールが回る。
 一つい目の番号が読み上げられようとしたその時、それは会場に現れた。
 とんがり帽子に黒い服。ハロウィンの服装として定番の魔女。
 それだけならばパーティーにやってきた参加者ともとれる恰好ではあるが、とんがり帽子をかぶるその顔はどんなに目を凝らしてもよく見えない、モザイクでつくられていた。
 招かれざる客、ハロウィンドリームイーターだ。
「でてこなくても、いいんだけどなぁ……」
 このまま楽しく楽しいパーティーが続けられればいいのに。
 まゆの願いは空しく、魔女がモザイクの手を振り上げた。


 芽咲に向かって投げられたモザイクを小梢丸が受け止める。
「これがカレー味ならねぇ……」
 ぴりっとした刺激を伴う攻撃に、小梢丸は思わず呟く。
 この刺激がカレーによるものならば喜んで受け入れられるのだが、そんな嬉しい刺激ではないし連続して食らいたくはない。
 敵は1体なのだから早く倒してしまおうと、まゆはハロウィンドリームイーターとの距離を一気に詰める。
「いきますよー!」
 まずは相手の攻撃力を削ごうとFeldwebel des Stahlesを真横に薙ぎ払う。
 その烈風でハロウィンドリームイーターの身動きが止まっている間にシュネカが小梢丸に向かい光りの盾を飛ばしていく。
「無理はするな」
 光りの盾は小梢丸の体力を回復すると同時に彼の痺れも取り払う。
 そこにゼフトの操る攻性植物が黄金の果実を実らせ、その光を前衛の4人へと降り注ぐ。
 これで彼らに降りかかるモザイクの脅威が少しは軽減されるはずだ。
「今日の戦闘スタイルはゾンビでやっちゃうよ!」
 そう言いながらブラックスライムを解き放ったのは芽咲。
 肉を求めて人を襲うゾンビのようにブラックスライムはハロウィンドリームイーターをまるごと飲み込もうとするが、あちらの回避がわずかに早く、ブラックスライムは虚空を飲み込む。
「そこだ」
 避けた場所にエミリアのバスターライフルから放たれたエネルギー光弾が降り注いでモザイクの動きを阻害すれば、静かに横たわる雄大なインド洋の淵で僕たちは夜明けのカレーを食すと名付けられた小梢丸のブラックスライム……通称ブラックカレーが今度こそ魔女を丸呑みにした。
「よそ見をしてはいやですよ。最後までよろしくお願いいたしますね」
 斧を振り上げたサクラの声に、彼女のボクスドラゴン……エクレールも反応し、サクラが斧を振り下ろすと同時にブレスを吐き出す。
 魔女服が斬り裂かれた所へ獣化した郎朗の拳が撃ち込まれる。
 重力を集中させた拳は回避しようとしたハロウィンドリームイーターの胴体に見事にめり込み、そのモザイクを散らして行った。

 戦況はケルベロスたちに有利に動いていた。
 敵がハロウィンドリームイーター1体だということもあるのだが、そのハロウィンドリームイーターの攻撃の特性をよく理解し、それだけでなく動きを封じ防御力を削いだことが大きいだろう。
 飛んできたモザイクの軌道は単純で、そしてダメージもさほどなく。
 例え攻撃を受けたとしても回復を担当するシュネカが傷を即座に癒していく。
 対するハロウィンドリームイーターはこちら側の攻撃を避けようにも足元が覚束ない。
 徹底して色々な効果を与えて来たのだ。
 それに加えて魔女にはをれらを回復する術はない。
「ふっ……!」
 郎朗の振るった簒奪者の鎌を何とか避けてモザイクを飛ばしたハロウィンドリームイーターだったが、それは楽々と避けられて。
 そうなれば次はケルベロスたちのターン。
「はっぴいぃ……はろうぃぃいん!」
 力任せに振り下ろされたまゆの一撃を回避したハロウィンドリームイーターはしかし、流星の如く走り込んできたゼフトと槍と化した芽咲のブラックスライムの攻撃を躱すことはできず。
 膝を負ったハロウィンドリームイーターにダメ押しとばかりにエミリアが魔法の光線を放てば、シュネカの掌からドラゴンの幻影が放たれモザイクをちりちりと焼いていく。
 光と炎が消えた後、ハロウィンドリームイーターが居た場所には可愛い魔女のあみぐるみが落ちていたのだった。


「傷の手当ては……必要なさそうだな」
 シュネカはディフェンダーの身体を確認し、ふぅと息を吐く。
 まともに攻撃を受けたのは最初のみ。
 その後の攻撃は見切れたり、威力が弱かったりとケルベロスたちにとって脅威とはならなかった。
 手早く倒し終えたことで会場の飾りつけや料理など、派手に壊れたものもない。
「せっかく準備もしましたし……このままパーディーに突入にしちゃってもいいですね♪」
 まゆの言う通り、そのままハロウィンパーティーに突入して問題ないだろう。
「パーティー突入賛成ー!」
 彼女の声に芽咲が真っ先に賛成しごちそうを物色し始める。
 ハロウィンドリームイーターを倒し終え、女性もいずれ意識を取り戻すだろう。
 憂いも危険もない状態。楽しまなければ損である。
「せっかくのハロウィンですもの。彼女も素敵な思い出が作れるといいですね」
 ここに居ない女性を思いサクラがそう口にすれば、ゼフトもそれに頷いた。
 ざわめきが戻り始めた会場へと続く道を塞いでいるキープアウトテープはエミリアの手で剥がされゴミ箱へ。
「さぁ、楽しいハロウィンパーティー、再開といこうじゃないか」
 モザイクの姿が無くなった鎌倉の街で、世界一のハロウィンパーティーが幕を開けようとしていた。

作者:りん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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