創の誕生日―奏でる工を作る秋

作者:柊透胡

「皆さん、オルゴールはお好きですか?」
 ヘリポートでは生真面目な面持ちが常の都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)だが、今日は何処か楽しそうだろうか。
「近く、オルゴール組立て教室に参加するのですが、良かったらケルベロスの皆さんもと思いまして」
 9月になって、暑気も幾分和らいだ。「秋」にも多々あれど、創にとっては今年も「工作の秋」らしい。
「製作時間は……長くても1時間程度と聞いています。講師の方もいらっしゃいますし、結構手軽に組み立てられるようですよ。もう少し時間は掛かりますが、パーツの組立てにも挑戦出来る上級コースもあるようです」
 まず、好みの曲とオルゴースケースを選択。そして、(上級コースは、シリンダーのかしめ作業やぜんまい巻き入れなど、パーツの組立てを経て)オルゴールの組付作業。シリンダーと櫛をきれいな音が出る位置に手で調整し、ドライバーを使ってネジで固定する。微調整で音色・音量・リズムが変わるとか。
「最後にケースにオルゴールを組み込みます。ケースには櫛の歯の振動を増幅させ、音を豊かにする役割があるそうで、この箱組が出来れば完成です」
 曲は選ぶ前に試聴も出来るし、オルゴールケースのバリエーションも多い。
 例えば――シンプルな十二角形の透明ケースならオルゴールの機構もよく見えるし、トッピング小物で飾り付けても良し。様々な彫刻を施された木製のケースやフォトフレームを友達と色違いで選んでも楽しいだろう。重厚な宝石箱は定番だし、各種の動物の縫ぐるみは女子を中心に人気だとか。
「オルゴールかぁ……私も好きよ。細かい作業はちょっと不安だけど、挑戦してみようかな」
「皆さんの作品は、私も拝見したいですね。宜しければ、お話も聞かせて戴けると嬉しいです」
 オルゴール組立て教室のパンフレットを置いて退席したヘリオライダーを見送り、結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)はケルベロス達に向き直る。
「そう言えば、教室がある9月14日は、彼の誕生日なのよね。28歳、だったかな」
 或いは、節目の日に何かを作るのが彼にとっての「けじめ」、なのかも知れない。
「教室のあるオルゴール工房はカフェも併設していて、オルゴールを作った後は、彼もお茶に寄るみたいよ」
 オルゴールのBGMが流れるそのカフェは、ウィーン風のメニューが豊富。工房と向き合うように臨む中庭は四季の花々が美しく、テラス席もお勧めらしい。
「誕生日はやっぱり『特別』だと思うのよ。一言でも声を掛けてあげれば、喜ぶんじゃないかしら。折角だし、私も何かお祝いしようかなって。良いアイデアがあったら手伝うわよ?」


■リプレイ

●一般コース
 9月14日――陽射しは鮮烈だが、羊雲浮かぶ空は高い。オルゴール組立て教室は、夏と秋の境を実感する朝から盛況だった。
 一足早く、窓際の席で組立てを始める都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
(「皆を誘った張本人の癖に」)
 周囲に構わぬ集中振りに苦笑い。結城・美緒はケース用の縫ぐるみを選び始める。
「リューは何にする? 折角だし、ケースか曲はお揃いとかどうかな」
「お揃いいいね!」
 花守・蒼志の誘いに表情を輝かせるフリューゲル・ロスチャイルド。
「俺は細かな機構が好きだから、中の見える透明ケースがいいかな」
「んー、んん……じゃあ、曲が一緒がいいなー」
 フリューゲルは、小物入れタイプのケースが良いらしい。
「蒼志や鈴蘭や、他の皆とも一緒に出来た思い出、入れられるようにね!」
 屈託ない笑顔が微笑ましい。
「じゃあ、どんな曲が」
 きゅーきゅー♪
「……その曲が希望なんだろうけど、もっとヒントが欲しいかな」
 ボクスドラゴンの鈴蘭の鳴き声に、首を傾げる蒼志。
「あ、鈴蘭、それボクがこないだ歌ってたやつ?」
 虎耳をピクリとさせて、フリューゲルが小声で歌い出したのは――まるでそっと背を押してくれるような、優しい応援歌。
 きゅーきゅー♪
 鈴蘭も嬉しそうに歌(鳴き)声を上げる。
「蒼志は? これ好き?」
「ああ。曲はそれにしようか。リューが歌ってくれなかったら、迷宮入りしちゃう所だったよ」
 同じメロディでも、奏でる者次第で違って聴こえる音楽の面白さ。それはオルゴールも同じ。
 きゅきゅー!
 クスクスと楽しそうな蒼志の頭の上で、鈴蘭は抗議の声を上げたけれど。
「卵型に宝石箱……色んな種類があるんだね。どんなオルゴールを創るか決まった?」
 カエルの縫ぐるみに触れ、傍らに笑い掛けるラウル・フェルディナンド。
「そうね、その子も魅力的だけど……」
 愛嬌ある縫ぐるみに目を細めて、けれど、月織・宿利が手にしたのは、彫刻された丸い木製ケース。
「ラウルくんみたいに、優しいぬくもりを感じるオルゴールを作りたいな」
「俺も……君のように、愛らしくて日々を輝かせてくれる、オルゴールにしようと思うよ」
 並んで席に着き、機構部のシリンダーと櫛を手で調整、ドライバーでネジを固定する。
 組付の次は箱付。蜜色に真珠、蒼穹の硝子細工のケースにオルゴールを丁寧に組み込むラウル。
「……もしかして、俺を見てたの?」
「あ、バレちゃった?」
 ふと顔を上げれば、瑠璃の双眸と蒼い瞳が重なる。悪戯っぽく笑う宿利。彼の真剣な眼差しと器用な手元に見惚れたなんて、小さな秘密。それでも、伝わるものがあって、ラウルは気恥ずかしさを誤魔化すように手を伸ばす。
「作り手の想いが宿ったオルゴールは、きっと優しい唄を奏でるだろうね」
 玻璃の月をそっと撫で、白金と蒼海の小箱を眺める笑顔は優しい。
「ふふ、それならきっと、ラウルくんのオルゴールも素敵な音色を奏でる筈ね」
 優しい唄を届けられるよう、もう一頑張り。完成まで、後少し。
 玉榮・陣内のオルゴールケースは、南国ジオラマ風。パーツを持ち込む程の凝りようだ。
 まずシリコン素材と絵具で浅瀬を作り、本物の貝殻を埋め込む。深さや遠近感の表現に、海の色を細かく塗り分けた。
「浜比嘉島の景色に少し似てきたかな……」
 歪な茸形の岩を浅瀬を囲むように配置して、満足げに翠の双眸を細める陣内。仕上げの黒いハチワレ猫の置物は、ちょっとした遊び心だ。
 やがて、陽気に流れ出す沖縄の名曲――シチグヮチの帰省の時は、不本意にも一緒にいられなかったから。あの子に、少し遅いお土産を。

●上級コース
 上級コースのテーブルは、細かなパーツが幾つも並ぶ。
「最近、細工物に凝ってるんだって? 偶にはふたりでひとつのものを作るのもいいよね」
「ええ。メリルのお店に置いてくれればいつでも聞けるし」
 メリルディ・ファーレンの提案に、楽しそうに頷くユスティーナ・ローゼ。
「ある程度の御膳立てがあるなら何とかなるけど、本当に一からって難しいでしょうね……メリルだって分野違いだけど、いっぱしのプロな訳で。よくやるわ」
 宝石加工職人から教わっているユスティーナの呟きはしみじみとして。ケーキ屋を営むメリルディは快活に橙の双眸を細める。
「んー、確かに一からは大変かもだけど、その分思いも込められるから楽しいよ」
 幾つかを試聴して、聞き覚えのあるメロディに思わず相好を崩すメリルディ。
「ねぇ、これ」
「……あの時の曲ね、うん、覚えてる」
 ユスティーナが、初めてメリルディの店に来た時に掛かっていた曲。
「これにしよっか。落ち込んでる時に聴いたら、きっと元気になれるから」
 メリルディが雨上がりの虹のイメージで透明ケースにラインストーンを飾る間に、ユスティーナはオルゴールを組み立てていく。
「もう2年か……あの出会い方で今こうしてるってのも、中々の奇縁よね」
 大体はメリルディが構ってきた所為……もとい、お陰。ケーキのデコレーションに似た作業に熱中する彼女を横目に、ユスティーナは常ならば鋭い眼差しを和ませる。
 リリア・カサブランカの選曲は、甘くロマンチックなメロディ。かつて依頼で学んだ、ピアノ調律の技術を役立てればと意気込む。
 オルゴールの調律は、機械が示す周波数と職人自らの耳で音を確認しながら、櫛の歯をグラインダーで削る、非常に繊細な作業。流石に短時間では難しく先に調律済だ。それでも、ベストの音色を求めて、組付の微調整で耳を澄ます。
「こんなに種類があるなんて!」
 次はケース選び。散々悩んだ末、キャバリアの縫いぐるみを手に取る。婚約者のペットに似ている。きっと可愛い子犬が歌っているように見えるだろう。我知らず、リリアの表情が綻ぶ。
(「喜んでくれるといいな」)
 組立て経験のあるリュセフィー・オルソンは大凡順調だったが、オルゴールの動力、ゼンマイの巻き入れに手こずる。
「すみません、都築さん。ゼンマイだけ手伝ってくれませんか?」
 長い鉄の板の加工は力がいるが、壊れ易い部分でもある。その加減が判らず、結局、創に声を掛けた。
「こんな感じで宜しいですか?」
「ありがとうございました」
 組付までやり遂げれば、後は、リュセフィー自ら落葉を描いた木製のケースに、箱組して完成だ。ケースにもオルゴールの音色を豊かにする役目がある。最後まで丁寧に。ゆったりとした調べが聴けるのも後少し。
 蒼天翼・真琴が探すのは、昔、よく親が聴かせてくれた歌。記憶を頼りに試聴を繰り返す。
「……ああ、この曲だ。懐かしい」
 流石にシリンダーからとなれば、職人の手でも数週間掛かる。既存から見付けられて幸いだった。
「意外と思うような音が鳴らないものだな」
 それでも、細かなパーツの組立から試行錯誤。拘りたい者には打って付けか。
「創の曲、聴いてもいいか?」
「勿論」
 透明ケースのゼンマイを回せば、哀愁漂うスラブ民謡がほろほろと。
「悪くない……が、箱を飾るなら手伝うぞ。これも手作りの醍醐味だ」
「お気遣いありがとうございます。でも、機構がよく見たいですので」
 創の返答も、やはり拘る者の言葉だ。
「創さんの趣味って、こんな感じなんですね」
 イッパイアッテナ・ルドルフに話し掛けられて、当人は怪訝そうに首を傾げる。
「お洒落な工房ですよね。工作も面白い」
 丁度、箱組中のケースはウォルナットの正六面体。相棒のミミック、ザラキと似ている。
「落ち着いた雰囲気は好ましいです。工作は……機械弄りは特に好きです。ルドルフさんにも楽しんで戴けているなら、何よりと思います」
 創の口調は相変わらず堅苦しいが、表情はヘリポートで見るより穏やかだ。
「はい! 全力で楽しんでます!」
 流れる調べは朗らかな祭囃子。オルゴール特有のゆったりした速さが素朴で、イッパイアッテナは相好を崩した。

●オルガニートのコンサート
 秋の花が咲き初める中庭。午後、テラス席に集うのは旅団「エブリデイ☆マジック」の5人。全員、手回しオルゴールを抱える。
「工房の人には、無理言っちゃったね」
 シェリン・リトルモアは申し訳無さそうだ。彼らの希望は「合奏出来るオルゴール」。だが、日本で普及しているシリンダーオルゴールは、シリンダー1回転が約15秒。 曲の極一部を奏でるのみだ。又、曲の始めから鳴り始めるとは限らない。合奏は想定外の構造なのだ。
 組立て教室のオルゴールはこのシリンダーオルゴールだ。手に余ると最初は丁重にお断りされた。
「流石に駄目かなって、諦め掛けたけど」
「オルガニート、というのですね」
 苦笑混じりに頬を掻くセレネテアル・アノン。シルク・アディエストは、しげしげと手回しオルゴールを眺める。
 がっかりした表情を見かねたか、帰ろうとした5人を呼び止めたのは工房の主人。オルガニートなら可能だ、と。
「ふっふっふ、筋肉的にばっちり仕上げたからな、失敗なんてありえんと判っていたぜい!」
「まあ、キャラパン作る時みたいに想像力が必要だったけどな、曲譜カード作りは……」
 大いに胸を張るムギ・マキシマムの隣で、肩を竦めた蔵寺・是之はテーブルの紙テープを取る。
 彼らが作ったのは、この曲譜カードだ。オルガニートは、穴開きの帯状カードをオルゴールに挿し、ハンドルを回すとカードが進んで音楽を奏でる。20弁の櫛歯はハ長調の音階のみなので、全くでたらめに鳴らしてもそれ程聞き苦しくならないとか。カードは紙製で、パンチで穴を開ければ良い。曲の長さも自由自在。
 思い思いにカードを作り、後はオルガニートにカードを挿し込みハンドルを回せば――いよいよコンサートの始まり。
「あっ! 美緒さん、聴いてください~! 皆で作ったんですよ~!」
 セレネテアルに誘われて、通りすがりの美緒が初めての観客だ。
「ちゃんと出来てるかドキドキですねぇ。ではみなさん! いきますよー! せーのっ!」
 シェリンの音頭で、最初はシルクから――静かな旋律に、セレネテアルの高音域とムギのテノールが重なる。更にシェリンと是之の旋律が加わって。次第に明るく楽しく、賑やかなメロディが響く。
「初めてにしてはいい音色だよな……中々良い体験になったぜ」
「それぞれはシンプルでしたが、合わさると素敵なハーモニーになってますね~!」
 奏で終えて是之が灰の双眸を細めて呟けば、セレネテアルは感激の面持ち。
「『エブリデイ☆マジック』の皆さんを連想させるような素敵なメロディです~!」
「ええ、これぞ、エブリデイ☆マジックという感じですね」
 美緒と一緒に拍手するシルクも、満足そうだ。
「……うむ、全く心配してなかった、本当だぞ!」
 ムギは自信満々ながら、内心は安堵のガッツポーズをしている。
「曲を聞いてると、旅団の皆の顔が見たくなるな」
「僕も『エブリデイ☆マジック』の皆さんの顔が思い浮かびます! 素晴らしい思い出の品が出来ましたね♪ 旅団でも聴かせてあげましょう!」
 ちなみに、曲譜カードは正しい方向だけでなく、裏返しや逆方向から入れたりと4通りの演奏が可能。1枚で4種類、違った曲を楽しめる。
「まあ、どんな風になっても、様々な人が集まる『エブリデイ☆マジック』を示す事に違いはないでしょうし、これも1つの味ですね」
 これぞ、エブリデイ☆マジック――シルクの言葉に否やは無い。
「偶にはこうやって皆でのんびりと曲に酔いしれるのも悪くないな……嗚呼、悪くない」
 しみじみと呟くムギに頷き、是之はお手製のアンパンを配って回る。
「パンを食べながら演奏……は、流石に難しいか。味はお墨付きなんだがな……」
 残念そうながら、創にも大きなアンパンをプレゼント。
「誕生日おめでとさん……切欠作ってくれてありがとな」
「いえ、私も良いものを聴かせて戴きました」

●オルゴールカフェの午後
 大きな窓からの昼下がりの陽射しを、レースカーテンが優しく遮る。カフェのウィーン風の内装は、落ち着いた空間。BGMは繊細なオルゴールの調べだ。
「はあ……」
 コーヒーと「モア・ヒム・イムト」を前にテーブルに突っ伏すアンセルム・ビドー。
 ちなみに、「モア・ヒム・イムト」はウィーン伝統のケーキ。温かいチョコレート蒸しケーキに生クリームがたっぷりと。
 傍らには、濃紺の硝子ケース。煌く天の川の意匠は、唸りに唸ったアンセルムのやる気と気力と集中力の賜物だ。
(「この夏は本当に楽しい事が沢山あった、から」)
 オルゴールの調べも星を散りばめたような夜想曲で、夏の宵をイメージした。
(「……あ、体力戻ったら、都築にお祝いとお礼言わないと」)
 色々と使い尽くして、回復にはもう暫く掛かる模様。
「あまいチョコケーキ、大好きです。おいしいですね~」
 ザッハトルテを大きく一口、ミルクティーを啜って幸せそうなミストリース・スターリット。
「あ、もうミストったら……」
 少年の口元の菓子屑を拭い、シャイン・ルーヴェンは甘やかすように微笑む。
「えへへ、つい夢中になったです~。シャインさんのりんごパイもおいしいです~」
 シャインの前には、紅茶とアプフェルシュトュルーデル――温かなバニラソース掛かったアップルパイは、確かに口が蕩けんばかりだ。
 互いの菓子をシェアしながら、楽しいお茶会のお供は月夜に蝶が舞うステンドグラスの小物入れと薄紫のウサギ。
「本当に、シャインさんのオルゴール、きれいですね。イメージがシャインさん通りです!」
 小物入れが奏でるのは、「水に映る煌く三日月をイメージした夜想曲」。静かで月夜にぴったりの曲。
「ノクターンすてきですね」
「ミストのだって、可愛いうさぎさん。自分だけのオリジナルって、何だか嬉しいし素敵だわ」
「えへへ、うまくできました!」
 何れも、丁寧に心を込めて作り上げた。満足な出来栄えに、完成した時思わずハイタッチした程――その実、ミストリースのオルゴールは、白鳥の調べをウサギが歌う不思議。優美で綺麗なその曲は、目の前の姉とも慕う淑女のイメージというのは、小さな秘密。
「じゃあ、同時に出しましょ」
「ええ」
 各々オルゴールを組立て、完成後にカフェで待ち合わせたコマキ・シュヴァルツデーンとウルトレス・クレイドルキーパー。
「オークはUCさんの誕生日に因んだケルトの守護樹だし、銀杢が出ていたから……どうかしら?」
 コマキの作品は、オークの小物入れ。蓋を開ければ、素朴なイギリス民謡が流れ出す。
 ケースの柾目を横切るような帯状の杢は、虎の毛のような斑点模様にも見える。或いは虎斑とも呼ばれる天然木の造形美だ。
「何か、入れるものある? ピック、とか……」
 段々、コマキの声が小さくなる。ウルトレスの作品は、銅版にエッチング加工でカナリアを意匠した宝石箱。曲はケルト民謡で、哀愁漂い湿り気帯びた調べを奏でる。
(「UCさんのオルゴール、すごく凝っているわ……私のはシンプル過ぎたかしら」)
「シルバーグレインの小物入れとイギリス民謡ですか……とても落ち着くデザインとメロディですね。聴きながら眠れば、良い夢が見られそうです」
 だが、コマキの心配を余所に、静かに杢を撫でるウルトレス。
「自分こそ、魔術用の宝石を扱われる事が多いかと宝石箱にしてみましたが……魔力帯びた呪具の保管には見合わないでしょうか」
「そんなこと。オルゴールの音色もすごく懐かしい感じがして、落ち着くわ。いつも着けてるピアスとネックレスを入れて、大切に使わせて貰うわね」
 互いに安堵を滲ませ、オルゴールを交換した。
 オルゴールのBGMに、時折別の調べが混じり――その度に幸いがさざめくよう。
 優しい空気の中、創は窓際の席で静かに本の頁を捲る。お供はトプフェンシュトュルーデル。季節のフルーツが添えられた、爽やかな口当たりのチーズパイだ。
「やあ、オルゴール作りは上手くいったかい」
 気さくに声を掛けてきた八島・トロノイに、慇懃に会釈する創。
「それなりの物は出来たと思います」
「俺は宝石箱を作ったよ。こいつは……交換したんだ。個性的な音で可愛いだろ」
(「何回やり直しても、不思議な音色になったんだよね……トロノイさんのはすごく綺麗な音でびっくりしたなー」)
 窓越しに意地の悪そうな笑顔を認め、思わず溜息を吐くウォーレン・ホリィウッドは、取り敢えずはさて置いて。
「ここは良い眺めだな……中庭の花が良く見えるよ。ほら、あそこに」
 何食わぬ顔で中庭を指差すトロノイに釣られ、創も窓の外を眺めた次の瞬間。
「創さん、お誕生日おめでとー」
 緑の掛け布を取っ払い、大きく手を振るウォーレン。そこには、デンファレをメインに秋の花と大きな誕生祝いのバルーンを飾ったアレンジメントが。
 ――――♪
 軽やかな音色は、子猫が歌うバースデイソング。出来たてのオルゴールを前に、美緒はちょっぴり得意げな表情か。
「おめでとう!」
 子猫の隣には、誕生祝のメッセージ付きのザッハトルテ。創が中庭の祝いに目を瞠る間に、すかさずセッティングを果たし、トロノイも又にんまりと。
「ありがとう、ございます」
 今年のお祝いのコンセプトは「さり気なく」だったようだが、創にはやっぱり嬉しい驚きだった模様。
「じゃあ、皆でケーキ食べよー」
 足早に中庭から店内へ。嬉々としてナイフを取るウォーレンを見上げ、創は目尻を和ませ頷いた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月23日
難度:易しい
参加:23人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 2
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