●薔薇の花は美しく散る
「ふふ、やっぱり綺麗……。我ながら上手く作れたわ」
彩香は、うっとりと綺麗な花瓶に薔薇で出来たドライフラワーを、幸せそうな顔で眺めていた。
「大輪の薔薇の花でドライフラワーを作るのは本当に難しいけれど……私が思い描いていた通りのもの出来たわ。色合いも良いものが出来たし、こんなものは二度と作る事なんて出来ない。……これは、私の最高の宝物だわ」
心底幸せそうな笑顔を見せる彩香。そんな彼女の前に、第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテが現れる。そして、二人の魔女は思いっきり花瓶ごと割り、薔薇のドライフラワーを粉々に破壊した。
「何、貴女達!? ああ……私の作った芸術を……二度と作れない大切な薔薇を壊すなんて、酷すぎる、酷すぎるわ……。どうして、見ず知らずの貴女達が私の大切な宝物を壊すの!? どうして!? 許せない!!」
悲しみと怒りに満ちた彩香を見て、二人の魔女は微笑むと、二人同時に彼女の心臓を鍵で突いた。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
意識を失い、倒れ込んだ彩香。そんな彼女の傍から白い薔薇と赤い薔薇のドリームイーターが現れたのだった。
●ヘリオライダーより
「困った事に、パッチワークの魔女がまた動き出したみたいなんだ」
デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、そうケルベロス達に話し始めた。
「今回動いたのは、怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテの2体。2体が共に行動しているようで、2人で被害者の人……今回は彩香という女性なんだけど、彼女の宝物である薔薇のドライフラワーを壊し、それによって生れた『悲しみ』と『怒り』。その心を奪ってドリームイーターを生み出すようなんだ。生み出されたドリームイーターは2体。連携しながら周囲の人間を襲ってグラビティ・チェインを得ようとしているみたいなんだ。『悲しみのドリームイーター』は、『大切なものを壊された悲しみ』を語り、その悲しみを理解出来なければ『怒り』を持って殺害してしまうようなんだ。このドリームイーター達が事件を起こしてしまう前に、このドリームイーターを撃破して欲しい。お願いするよ」
デュアルは状況などの説明をする。
「場所は夜の住宅にあるマンション。そして、被害者の住むマンションの屋上に現れるんだ。マンションだから、近くに住んでいる人達を避難を呼びかけると良いかなって思う。それから、ドリームイーターは人間ぐらいの大きな薔薇の姿をしている。悲しみの薔薇は白色、怒りの薔薇は黄色をしていて、連携しながら戦ってくるよ。それで、白い薔薇は『自分の悲しみを話す』、赤い薔薇は『自分の怒りを話す』んだ。だけど、それしか話せないから、会話をする事は無理だと考えて欲しい。でも、どちらも被害者の悲しみと怒りをぶつけてくる。その事も、少しは考慮してあげると良いかもね。……残念ながら、会話は出来ないけど」
デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、明らかに怒った顔をしている。
「ミーミアもね、オラトリオだから髪にお花が咲いているの。だから、お花を愛する人の気持ちは分かるつもりなの。このドリームイーターの『悲しみ』と『怒り』が消えるように、頑張りたいの。お願い、みんなも力を貸して欲しいの!」
参加者 | |
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ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720) |
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968) |
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772) |
リーズレット・ヴィッセンシャフト(アルペジオは甘く響いて・e02234) |
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441) |
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079) |
宵華・季由(華猫協奏曲・e20803) |
皇・晴(猩々緋の華・e36083) |
●薔薇の花は美しく散る
場所は、今回の事件の被害者である彩香が住んでいるマンション。現れる時刻は夜。
ケルベロス達はマンションに向かう前に、管理会社に連絡し、管理人を通じて住民の避難の要請をしておく。
「ミーミアさん、宜しくな! 頼りにしてるぞ!」
「任せてなの! ミーミアも直ぐに応援に行くのよ!」
薔薇のドリームイーターが現れる屋上の近くで、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、一旦、住民の避難とキープアウトテープを貼りに離れる。リーズレット・ヴィッセンシャフト(アルペジオは甘く響いて・e02234)の言葉に、ミーミアは嬉しそうに頷くと、皆に手を振ってからウイングキャットのシフォンと、応援に来てくれたエフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)と一緒に走って行った。
屋上に到着すると、それは居た。白と赤の薔薇。しかし、大きさは人間と同じくらいあるのが不気味だ。
「なんてことだ、薔薇が台無しに」
その奇妙なドリームイーターに強い怒りを抑えながら、アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)は、そう呟く。彼は薔薇が好きで薔薇を育てている。そして何よりも愛する妻は7色の薔薇を咲かせる歌姫。まるで愛しの妻を害されたような気持ちになった。
宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)も、悪友であるアレクセイの妻の歌姫のファンであり、同じように薔薇が好きだ。友人の気持ちも痛いほど分かる。
「薔薇が散ってしまったの……私の大切な大切な薔薇が散ってしまったの。二度と……二度と散らない様にと願って作ったのに……色あせない様にと作ったのに……散ってしまったの、壊れてしまったの……」
悲痛かつ涙声で切なげに嘆く白い薔薇。その傍にいる赤い薔薇がいる。語らずとも、その赤き花弁は燃える様で、強い怒りを抑えている事が分かった。
切々と語る白い薔薇の話を聞き、エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)は、大切なドライフラワーを壊された彩香の悲しみが心に響いてくる。彼女もドライフラワーを作っているから、その気持ちが分かるのだ。だからこそ、許せない。
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)は、ドリームイーター達を視野に入れつつ、被害者である彩香を探す。ドリームイーターより少し離れた所にいる彩香を見つけたマイアは、皆にもう少し話を聞く様に伝えると彼女の元に気がつかれないように移動して、危なくない場所まで運んだ。
「もう大丈夫よ」
マイアのその言葉を合図に、ケルベロス達は戦闘態勢に入った。
●白い薔薇と赤い薔薇のドリームイーター
最初に動くのはアレクセイ。
「同じ薔薇を愛するものとして薔薇を傷つけ貶めた事、けして許しません。報いを受けて頂きます」
嘆き悲しむ白い薔薇の傍で怒りを燃やしている赤い薔薇の隙を突き、漆黒の弾丸を撃ち込む。
「悲しいわね、彼女が残したかった、薔薇の美しさを、こんなに歪めて……」
続けてエヴァンジェリンが動き、Brinicleで冷たく寒く痛い極寒の風を放った。凍てつく風は赤い花弁を凍らせていく。
「許せない、許せない、許せない!! お前達も壊すのか!! 美しく大切な私の薔薇を壊すのか!!」
初めて赤い薔薇が言葉を発した。それは、燃えたぎる怒りだ。赤く燃える怒りだ。燃える様な赤さの花弁が、赤い薔薇の周りを舞い踊り始める。燃える炎の様に赤い花弁は舞い踊る。それは炎の様に。踊る赤はエヴァンジェリンの意識を奪おうとするが、それを皇・晴(猩々緋の華・e36083)が庇って入り、代わりに彼女が赤き花弁に誘われた。
「大丈夫でしょうか? 怪我は?」
「……ありがとう……」
攻撃を受けつつも凛々しく声をかける晴に、トラウマにより他の人との接触が苦手なエヴァンジェリンは、その言葉が嬉しくて、頷く様に感謝を伝えた。
その一方で、白い薔薇の方も赤い薔薇に動きを合せてくる。
「悲しいの……悲しいの……。もう、酷い事をしないで……」
嘆きの言葉に合わせて、こちらは白い花弁が舞う。その白さは悲しみに濡れ、薔薇を愛する季由の心を捕らえてしまった。
「季由さん、目を覚ませ!」
リーズレットが直ぐに肉球グローブを両手にはめて、肉球でぷにぷにさせて季由を癒していく。
「……猫……!」
ウイングキャットのミコトと大の仲良しな季由に、肉球による癒し効果は抜群だった。その間にボクスドラゴンの響がアレクセイに属性インストールを施していく。
一方、マイアは赤い薔薇に阻まれないように、白い薔薇に向かって石化する光線を放ち、その動きを抑えるようにしていった。
(「このドリームイーターが壊されたドライフラワーの派生品って思うと、ちょっと気が引けるけど……残滓が残ってるほうが気分悪いだろうしね」)
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)は、元になったものが壊されたものでもあるし、ドリームイーターもドリームイーターで壊される事を嘆き怒ってもいるので少々気が引ける思いがあったりする。しかし、とても酷い事であるという事も分かっているので、構え直す。そんな彼女を後押しする様に、自称姉貴分のボクスドラゴンのペレが軽く背中を押してくれた。
「ありがとう、ペレ。食い破るよ! ジャンガナータ!」
ジャンガナータと名付けたゾディアックソードと、もう一振りを構え、ノーフィアは赤い薔薇に向かって輝きと共に十字に斬りつける。そして、ペレはエヴァンジェリンへと属性インストールを施した。
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)はオウガ粒子を、ウイングキャットのユウキはアレクセイ達の集中力と護りをそれぞれ上げていく。人の手で作られたものは唯一無二。でも、心が折れなければ、また作り出せる。プロカメラマンを目指す彩月だから、その事が分かる。だから、彩香を助けて前を向いて貰いたい。
「よし、大丈夫。支援するぞ、ミコト! この薔薇は、人を楽しませるために生まれたのであって、けして傷つけ悲しませるための花ではないんだ」
リーズレットに癒して貰った自分の状態を確認してから、季由はミコトに声をかける。それにミコトは頷いた。
季由はオウガ粒子、ミコトは清らかなる風を送り、晴達の集中力と護りを更に固めていく。
晴は自らの傷を癒し、シャーマンズゴーストの彼岸も回復に回る。更に遅れてやってきたミーミアとシフォン、エフイーの支援を受けてコンディションを整えていった。
「これで先輩達を、しっかりと護れます!」
晴は、そう気合を入れ直した。
●嘆きの薔薇
「おのれ、おのれ、おのれ……! まだ壊すというのか? 我々をも壊すというのか!?」
燃える様な赤い薔薇。その傷を癒す様に白い薔薇が光で優しく包む。その光を打ち消すかのように、赤い薔薇の怒りは真紅に燃えた。真紅の花弁を揺らす薔薇は、自らの棘も鋭いものにしていく。その棘も怒りで鋭利なものになっていた。その鋭さを増した棘は、アレクセイに向かって乱れ飛んでいく。それを晴が何とか受け止めた。
「アレクセイ先輩、宜しくお願いします」
「ありがとうございます。あの薔薇は……私が止めましょう」
晴に礼を伝えたアレクセイは、罪過の黒棺を放つ。薔薇がこれ以上穢れない様にと、黒く染めて。そして、黒く染まった赤い薔薇は、黒き花弁となって消滅した。
「あああああああ……!!」
悲鳴が上がる。声の主は白い薔薇。
「壊れてしまった……私の片割れが壊されてしまった……どうして? どうして? どうして、皆、壊してしまうの?」
嘆き悲しむ白い薔薇を見ていると、何故だか、自分達が薔薇を壊したような気持ちになってくる。……もし、薔薇たちと話が出来たら、何か違ったのだろうか。そんな気持ちも抱いてしまう。……しかし、倒さなければ被害者の彩香は目覚めず、この薔薇は人を殺していくのだろう。それは、させる訳にはいかなかった。
エヴァンジェリンは動く。白い薔薇に向かい、強烈な一撃を加えた。間髪置かず、リーズレットは身に纏っていたオウガメタルを拳へと巻きつけ強烈な一撃を与えた。
「……ふふふ、私は何もしてないわよ? 貴方を狂わせるのは他ならぬ貴方自身よ」
マイアの魔眼で白い薔薇を凝視する。そして、白薔薇に呪いをかけた。自らが身体機能及び神経系を狂わせる、そんな呪いを。
続けてノーフィアが白薔薇の急所を目がけて強烈な蹴りを叩き込む。一方の彩月と季由は、カラフルな爆破により、エヴァンジェリン達の士気を重ねる事で更に高めていった。
「晴ちゃん、元気出して!」
再び自らの回復に入った晴に、ミーミアは雷の力を使って回復を施していく。同じくエフイーも回復してくれ、シフォン、ユウキ、響、ペレ、彼岸は、それぞれ別れながら全員に加護がつくようにと飛び回っていった。
「どうしてなの? どうしてなの? どうして酷い事をするの? 辛くて哀しい事をするの?」
白い薔薇は訴える。その言葉は悲痛で、恐らくドライフラワーを壊された彩香の心を一番表している様だった。
その悲しみは、赤い薔薇とは違う棘を作り上げる。痛みでも、きっと受けたものは違うのだろうと思える白い棘。だが、それはこちらへの攻撃手段。皆、身を構える。
白き薔薇の棘は舞い、降り注ぐように回復をしている彩月に降りかかる。それを、晴がなんとか防いだ。
「ありがとう、直ぐに回復するわ」
彩月はムーンライトシャワーで、月の光を優しい癒しの力に変えて晴の体力を回復させる。
一方、アレクセイは白い薔薇に向かい巨大なハンマーを容赦なく打ち下ろした。更にマイアが白い薔薇を捕らえていく。そこにリーズレットの炎の龍が撃ち放たれた。
「オルヴォワール、夢喰いの薔薇。次に咲く時は、また誰かを、……彼女を、笑顔にしてあげて」
エヴァンジェリンは、再び極寒の風を、今度は白い薔薇に向けて放つ。冷たく凍っていく白い薔薇は、哀しみに満ちた色を残しながら凍っていき、砕けるように散っていった。
●夜空の下で
戦いで壊れた屋上をヒールで直していく。
一方、彩月、晴、ミーミアやサーヴァント達を中心に彩香を癒していく。そのかいあってか、彩香は目を覚ましてくれた。
「……そうなんですか。そんな事が……」
「悪いのはドリームイーターで、君が責任を感じる必要は無いんだよー?」
落ち込んだ様子を見せる彩香に、ノーフィアがのんびりとした口調で励ます。こういう時は、彼女の様な口調の方が良いのかもしれない。少し、彩香が安心した顔をしたから。
「今回は残念だったが諦めなければまた素晴らしい作品ができるさ」
「薔薇を愛する心があるのならまた次はもっと素晴らしい薔薇が作れるはずです」
「今作れたんだからまたこれからも良いものは作れる。だって仮に壊されなくても更に良いものを作ろうとするでしょ?」
「……ええ、そうですね」
季由、アレクセイ、彩月も励ましの言葉を彩香に贈る。それに、彩香は少し明るい顔をした。元気が出て来たのかもしれない。
マイアは攻性植物である結晶花『Amber Mistelten』から、色とりどりの薔薇の花を咲かせた。
「好きな色があれば貰って? 貰って貰えたら薔薇がきっと喜ぶわ」
「私はドライフラワーではないけど、プリザーブドフラワーを作っているんだ。これは青い薔薇のプリザーブドフラワー。良かったら貰って欲しい」
「良いんですか? ありがとうございます」
マイアとリーズレットの贈り物は薔薇の花を愛する彩香には素敵な贈り物だったようだ。嬉しそうに笑っている。
「ドライフラワー。作り方教えてー、って言ったら教えてくれるかな?」
「興味があるんですか? 私で良かったら一緒に作りましょう?」
「アタシも、ドライフラワー、作っているの……」
「じゃあ、三人でドライフラワー、作ろう!」
ノーフィアと彩香のやり取りに、勇気を出してエヴァンジェリンも加わってみる。三人なら、とても楽しく出来そうだと思った。
「お疲れ様なの!」
ミーミアがケルベロス達や彩香に、用意してきた薔薇の形のチョコレートと飲み物を渡していく。
「ありがとう♪ わたしもサンドウィッチ作ったから、良ければどうぞ」
「本当? ありがとうなの!」
彩月のサンドウィッチに満面の笑みをミーミアは浮かべた。
向こうでは、季由とミコトがチョコレートを奪い合っているのを見て、晴は思わず微笑んでから、彼岸を見る。彼岸は彼岸で嬉しそうにチョコレートを食べていて、それが微笑ましかった。
「彼岸もお疲れ様でした」
そう言って、晴は彼岸を優しく撫でたのだった。
リーズレットとエフイーは夜空の星を見ていた。薔薇も綺麗だけれど星空も綺麗だと思う。星々は掴むことは出来ないけれど。
「ゼノさんは星に何かお願いごとでもしているのか?」
「ん、ああそうだな……君とこれからもずっと一緒に居られますようにと願っていたよ」
「ならば私も真似っ子してお願いしようかな! 皆がずっと幸せでありますように! って!」
そう言って、リーズレットとエフイーは微笑みあう。
ドリームイーターの薔薇は散り、彩香もまたやる気を取り戻してくれた。
照らす星々の様に綺麗な薔薇が再び彩香を笑顔に出来るように。リーズレットが願う様に、皆がずっと幸せでありますように。
それが叶う日が来ると、そう信じて――。
作者:白鳥美鳥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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