なんでもない宝物

作者:洗井落雲

●なんでもない宝物
「おっ……アハハ、やったぁ……!」
 田舎の町の、少し奥。セミの鳴き声と水の音だけが響く河原にて、小学生ほどの年齢の少年がご機嫌な様子で笑った。
 手には、まん丸くて綺麗な、河原の石があった。
 ただの石。そう言ってしまえば、それだけの物だ。金銭的価値も、学術的価値も、何もない、何の価値もない石ころ。
 だが、その少年にとっては、それは宝石よりも何倍もの価値のあるもの。
 小さな冒険と探索の果てに手に入れた、紛れもない宝物であったのだ。
「綺麗な石ねぇ」
 と。
 女性の声が聞こえた。
 少年が振り向けば、そこには奇妙な格好をした2人の女性の姿がある。
 奇妙? いや、そう言う段階ではない。1人は、下半身が明らかに人間の物ではないのだ。
「少し借りるゾ!」
 女の片割れはそう言って、少年の手から無理矢理宝物を奪い取った。しばし眺めた後、突然、それを握りつぶしてしまった。
「え、え?」
 呆然とした顔で、少年が呟く。女が手を開くと、驚いたことに、粉々になった石が、ぱらぱらと零れ落ちた。
 宝物を壊された。それを理解した少年の目の端に涙が浮かんだ。少年は、2人の女を睨みつけると、
「何するんだよ!」
 抗議の声を上げ――目を見開いた。
 ぐさり、と。
 2つの鍵が、少年の心臓を貫く。
 それは、ドリームイーターが人間の夢を得るための行為。
 そう、2人の奇妙な女は――。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれど」
 そう言って、2人の魔女は、同時に鍵を引き抜く。
 少年は意識を失って、河原に倒れた。
「あなたの怒りと」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
 魔女がそう言った途端、少年のすぐそばに、2体の『石の怪物』が姿を現した。
 外見は、つるりとした――先ほど少年が拾った石のように――質感の、石でできた人型の怪物である。
 その顔には、1体には激しい怒りの表情が。
 もう1体には、さめざめと泣く悲しみの表情が。
 それぞれ、刻まれていた。

●2人の魔女、ひとつの犯行
「どうやら、パッチワークの魔女がまた動き出したようだ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達に向かって言った。
 今回現れたのは、怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテ。
 2体の魔女は大切なものを持つ一般人を襲い、その人が持つ大切なものを破壊。それによって生じた『怒り』と『悲しみ』の心を奪ってドリームイーターを生み出すという。
「生み出されたのは2体のドリームイーターだ。この2体は連携して行動し、周囲の人間を襲ってグラビティ・チェインを奪うようだ」
 なんでも、悲しみのドリームイーターが『宝物を破壊された悲しみ』を一般人に語り、相手がその悲しみに共感しなかった場合、『共感されなかった怒り』によって相手に襲い掛かるらしい。
「ちなみに、共感した場合も『この悲しみを理解できるとは思えない』という怒りで以て相手に襲い掛かるそうだ。被害者の気持ちはわかるが、何ともはた迷惑なドリームイーターだな」
 頭に手をやりつつ、アーサーが言った。
 今回の作戦は、このドリームイーターが本格的に活動する前に現場に急行し、討伐する、という物だ。
「敵は2体。それぞれ……そうだな、『怒りの石像』と『悲しみの石像』、と呼ぶことにしようか」
 『怒りの石像』はケルベロスで言う所の『クラッシャー』として前衛を担当し、『悲しみの石像』は『スナイパー』として後衛に位置し、連携して行動しているようだ。
 どちらも自身の怒り/悲しみを大声で語るだけで、会話の類は一切不可能だ。
 戦闘区域は山奥の河原だ。
 幸い周囲に人はおらず、人通りもほぼない。少年のひみつの場所だったのだろう。人払いなどは必要なさそうだ。
 近くには被害者の少年が倒れている。ドリームイーターを倒せば意識を取り戻すだろう。
「少年の宝物については……残念ながら、ヒールで元に戻すことはできない。外見が変わってしまうからな……。だが、何らかのフォローは出来るかもしれん。余裕があったらでいいから、考えてみておいてくれ」
 そう言って、アーサーは頭を下げた。
「まったく、魔女の所業は許せんな……これ以上被害を増やさないためにも頑張ってくれ。作戦の成功と、君達の無事を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
ミア・シェーンハウゼン(天意悠久・e35386)
柴・大亮(ワンダフルヒーロー・e37876)

■リプレイ

●秘密の場所で
 ケルベロス達が向かったのは、少年の秘密の河原。
 辺りには草木が茂り、奥には小さな滝が見えた。穏やかに流れる川の音が、涼しさを感じさせる。
「なるほど……まさに『涼やか』。過ごしやすい、良い場所だね」
 どこからともなくイワタバコの花を取り出しつつ、ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)が言った。
「だなぁ! 遊びに来たんだったら最高なんだろうけど」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が同意する。ナコトフやハインツの言う通り、休暇で訪れたのなら、心地よいひと時を過ごせだただろう。
 しかし、今回、ここに訪れたのは、ケルベロスとしての使命の為。
 このような美しい場所も戦場にしなければならない。
「……静かでいい場所なのですが……本当に、まったく。その所業と言い、不愉快ですね」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)はそう言いつつも、顔には笑みが浮かんでいる。だが、その笑みはどこか張り付いているような、一切の感情を感じさせぬものである。
「ドリームイーター。少なくとも少年の宝物は、あなたたちを慰撫する糧ではありません」
 そう言った絶奈の視線の先には、2体の怪物がいた。
 つるりとした質感の、2mほどの石像である。2体の石像は、それぞれ違う表情をしていた。
「酷いよぉ……酷いよぉ……」
 嘆き声をあげるその石像の表情は、悲しみに彩られ、
「酷いなぁ! 酷いなぁ!」
 怒りの声をあげるその石像の表情は、怒りに満ちている。
 この2体こそが、少年の心より生まれたドリームイーターに違いない!
「その悲しみも怒りも、元は男の子の物でしょ。自分の物のようにふるまうのは止めて」
 曽我・小町(大空魔少女・e35148)が言った。
「人の大切なものを奪い、その悲しみと怒りさえ利用する……。気に食わないのよ、やり口がッ……!」
 ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)が静かに、口を開いた。努めて静かな表情を保っているが、内ににじむ嫌悪感は隠しきれない。
「どうして分かってくれないの……酷いよぉ……」
「どうして分かってくれないんだ! 酷いなぁ!」
 勝手なことを口走りながら、2体の石像はギシギシと体を揺らしながら、臨戦態勢に入る!
「酷いのはあなた方。……と言っても、意味はないのですね」
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)が言う。
「少年の大切な宝物を……それを己が欲の為に砕いた外道は自分が成敗するっす!! 行くっすよギン……変身ッ!」
 自身のオウガメタル、『ギン』に呼びかけた柴・大亮(ワンダフルヒーロー・e37876)が戦闘態勢に入る。
 それに合図に、ケルベロス達は各々構えをとった。
「さぁ、行きまショウ!!」
 ミア・シェーンハウゼン(天意悠久・e35386)が戦いの始まりを告げる。
 かくして、少年の夢を取り戻すための、ケルベロス達の戦いが始まった。

●秘密の場所の、秘密の戦い
「慈悲はありません。与えるつもりもありません。一息に排除させてもらいます」
 にいっ。と。
 絶奈が笑う。今までの張り付いたような笑みとは違う、ある種狂気すら感じられる笑みである。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝」
 唱えるや、絶奈の前面に幾重もの魔法陣が展開された。その中心より現れたのは『槍』にも見える輝ける物体。それはどこか、生命の根源を想起させる――。
「かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 『槍』の先端を、怒り顔の石像――『怒りの石像』へと向ける。より一層、青く輝くその光は、定命の者には生命の祝福を。そうでない者には裁きを与えるという――。
「DIABOLOS LANCER=Replica(ディアボロスランサーレプリカ)!」
 蒼い槍が放たれた。槍の――青い光の奔流に、『怒りの石像』が飲み込まれていく。
 絶奈のテレビウムも、負けじと閃光を撃ち放ち、2人の放つ光が、『怒りの石像』へとダメージを与えた。
「うし、気合い入れるぜ!」
 ハインツがカラフルな爆炎を発生させ、味方のケルベロスを鼓舞する。一方、ハインツのオルトロス『チビ助』は、口にくわえた剣で『怒りの石像』へ一撃をお見舞い。つるりとしつつも硬い皮膚へ、傷を与えた。
「まずはこれでも……食らいなさいっ!」
 言葉と共に、ユスティーナはアームドフォートを一斉射。その弾丸は『悲しみの石像』を捉え、次々と着弾。石像の表面でいくつかの爆炎が起こる。
「援護します。どうぞ、この歌を」
 風音によって紡がれし歌は、ケルベロス達を鼓舞する。同時に、ボクスドラゴン、『シャティレ』はブレスで以て『怒りの石像』を攻撃。
「援護するわ、バッチリ決めちゃってよね! グリも、頼むわよ!」
 小町が妖精の祝福を宿した矢を放ち、絶奈を援護。小町の言葉を受け、ウイングキャット、『グリ』も翼を羽ばたかせ、ケルベロス達に清浄な風を送る。
「子供の『夢』を踏みにじるその行い……デイゴの花に代わり、きつい灸を据えねばなるまいね」
 ナコトフがデイゴの花を口元に掲げ、目を閉じた。
 と、ナコトフの足元に、無数のアイビーが咲き乱れた。
 一見すると美しい光景。だが、これは、ナコトフのグラビティによって生成されたものだ。
「花言葉は『不滅』……けしてキミを離しはしないよ」
 いうや、アイビーが急速に成長し、『怒りの石像』の腕に巻き付き始めた。蔦を伸ばし、その手を絡めとる。
 『虚樹征花(コジュセイカ)』。『不滅』の花言葉を冠するアイビーをグラビティにより発生させ、敵の武器を封じるというナコトフのグラビティは、『不滅』の言葉通り、一筋縄ではその効果を消滅させはしないだろう。
 事実、『怒りの石像』の動きは些か鈍った。ミアを狙って放たれた拳の一撃は、その本来の威力を発揮する事はなかった。
 『悲しみの石像』は『怒りの石像』の援護に回るつもりらしい。発生させた石を『怒りの石像』に押し付け、傷を癒し始める。
「まずはコイツを……喰らえっす!」
 大亮が『悲しみの石像』へ向けて、螺旋の軌跡を描く手裏剣を撃ち放つ。
「あなた達の与えタ絶望を上書きスルほどノ希望の歌、聞かせテあげマスワ!」
 ミアが魂の歌を歌いあげる。
「――飲み込んでください」
 絶奈のブラックスライム、『親愛なる者の欠片』が『怒りの石像』を飲み込んだ。間髪入れず、テレビウムが殴り掛かる。
「雷雲よ、みんなに力を!」
 ハインツが叫ぶ。と、手のひらに、球体状の雲塊が生成された。微弱な雷光を発するそれを、上空へ投げ飛ばし、
「奔れ、研ぎ澄ませ、《閃(ブリッツ)》ーーッ!!』
 すると、雲塊から稲妻が奔った。それはケルベロス達に向かう。もちろん、ダメージが発生するわけではない。その稲妻を受けたものは、その雷撃により、肉体と神経が活性化されるという。
 『竜ノ加護《閃》(ドラッヘグナーデ・ブリッツ)』。 雷の竜の魂を喰らい手に入れたとされるその技は、ケルベロス達の力を大いに増幅させる。
 一方、チビ助は地獄の瘴気を放ち、『怒りの石像』を攻撃。
「どれだけ援護したって、無駄だって事! 教えてあげる!」
 続いて、ルーンアックス、『uruz wird』を構え、ユスティーナが斬りかかる。グラビティを込めた一撃は、『怒りの石像』に与えられた保護効果を、その体表の石と共に粉砕した。
「怒りと悲しみを生むためにわざと大切なものを壊すとは……許しておけませんね」
 言いつつ、風音は再び鼓舞の歌を歌い、ケルベロス達を援護する。シャティレは先ほど攻撃を受けたミアへ、属性を注入して回復をはかった。
「援護、続けるわよ!」
 小町が再び妖精の矢を放ち、グリも羽ばたいて邪気を祓う。
「凍り付くと良い」
 攻性植物から、時間を凍結させるという弾丸を撃ち放つナコトフ。
 勿論、石像たちも黙ってやられているわけではない。『怒りの石像』は腕を振り回し、前衛のケルベロス達をまとめて攻撃。『悲しみの石像』は再度の『怒りの石像』の援護を行う。
「とっておき行くっすよ!  喰らえーッ!!」
 大亮が叫び、拳にグラビティを集中。
 そのまま、『怒りの石像』を思いっきり殴り抜けた。
 グラビティを集中し、思いっきりぶん殴る。
 『必殺 犬パンチ(ヒッサツ ワンパンチ) 』。ただ、それだけのシンプルな技。それ故に効果はてきめんである。
「続けテ、行きマスワ!」
 鉄塊剣、『Heilige Arche』に地獄の炎をまとわりつかせ、ミアが『怒りの石像』へ斬りかかる。炎は石像を焼き、ダメージを与えた。

 ケルベロス達の集中攻撃により、『怒りの石像』は瞬く間に瀕死の状態に陥った。
 『悲しみの石像』による回復など、文字通りの焼け石に水だ。

「希望の輝きよ、未来への道を切り拓け!」
 小町が祈るように両手を組んだ。刹那、その手に光り輝く竜巻を纏う。
 『―輝きの轟嵐―(シャイニング・デストーム)』は、その竜巻を放ち、敵に撃ち放つ技だ。
「――シャイニング・デストーーームッ!」
 叫びとともに放たれた光輝く竜巻は、『怒りの石像』を飲み込むと、そのままバラバラに分解してしまった。
「酷い……なぁ……! 酷……いな……ぁ! 酷……い……」
 怒りの叫びが、徐々に消えていく。やがて声は聞こえなくなり、『怒りの石像』は活動を停止したのだった。
「なーにが、酷い、よ。酷いことしてるのはアンタ達!」
 小町が、ふん、と鼻を鳴らしつつ言い放つ。

 残された『悲しみの石像』だったが、もはやケルベロス達にとって脅威とは言い難い存在となっていた。はじめのうちは些か厄介であった範囲攻撃も、ケルベロス達はあっという間にその動きを見切ってしまう。
 後は、完全にケルベロス達のペースで戦いは続いていった。
 そして、『悲しみの石像』がその身体を崩壊させるまで、さほどの時間はかからなかったのである。

「では、これで終わりとしましょう」
 風音はそう告げると、瞳を閉じた。
 すうっ、と息を吸い、そして紡ぐは雷鳴が織りなすかのような歌。
「嘆きの歌を紡ぎし音よ、光の鉾となりて彼の者を貫け!」
 歌を構成する音、その一つ一つが光の鉾として具現化して行く。そして、光の鉾は一斉に、『悲しみの石像』へと襲い掛かり、その身体に次々と突き刺さってゆく。
『雷神の荘厳なる哀歌(マエストーソ・ラメンタツィオーネ・ディ・ユピテル) 』。その歌声により、『悲しみの石像』の身体は完全に粉砕された。
「酷い……よぉ……」
 最期の声を弱々しく吐き出し、『悲しみの石像』は活動を停止した。

●秘密の場所の、新しい宝物
 ドリームイーターを倒せば、被害者となった人間も目を覚ます。
 ケルベロス達が、少年のもとに駆け付けた時と、彼が目を覚ました時は、丁度同じタイミングだった。
 少年には、幸いけがはない。ただ、突然目の前で見つけたばかりの宝物を破壊されてしまった事のショックは、まだ残っているようである。
「戦っていて思わされたが、なんと静かで美しい場所だろうね」
 ナコトフが、優しく、少年に声をかけた。
「……どうだろう。ボクなどに言われるまでもないかもしれないが、こんなに美しい場所には、きっと、素敵な宝物がまだ沢山残っていると思うんだ」
 続いて、ユスティーナが、
「なくなったものは確かにつらいけれど、そういうのを乗り越えて、新しい何かを探そうって思えるようになるのは、格好いいと思うのよ……えーと、上手く言えないんだけど、要するにね?」
「つまり、もしよければ、一緒に石を探しませんか、というお誘いなのですが」
 風音が、ユスティーナの言葉を引き継いだ。ナコトフも優しげな顔で頷く。
 少年はびっくりしたような顔で、ケルベロス達を見た。
 何せ、少年から見れば憧れの存在からの誘いである。
「いいの!?」
 思わず、少年が声を上げる。
「1人だけでナク、皆で思い出を作りまショウ。そうすれバ、きっと一人で作るより素晴らしい思い出がつくれますワ!」
 ミアがぽん、と手を叩きながらそう言って、
「新しい宝探しと一緒に「ケルベロスとの冒険」も楽しんで下さい」
 絶奈が続ける。そして、その言葉に、ケルベロス達は優しく頷いたのだった。

 かくして、ケルベロス達と少年の、新しい宝物探しが始まった。
「アニキ、この石、あの子気に入ってくれるっすかね!?」
 大亮がすべすべとした、丸い石を手に、ハインツに見せる。
「おっ、結構綺麗だな! でもオレの方が……ほら、なんだかイルカみたいに見えないか?」
 ハインツが答えた。2人ともすっかり童心に帰って、石拾いを満喫している。
「そうそう。今回の依頼、頑張ったな。これからも一緒に頑張ろうぜ」
 と、ハインツが大亮へ、優しく言葉をかけた。
 大亮は感無量、と言った表情で、はい! と返事をしたのだった。
「……あの子、大丈夫そうね」
 楽し気に石を探す少年を見ながら、小町が言った。
「ショックから立ち直れそうですね」
 シャティレと共に石を探していた、風音が答える。
「んー、それもあるんだけど……なんというかね、自分の価値観を否定されたように感じちゃったんじゃないかなぁって、心配になっちゃったのよ」
 なるほど、と風音は頷いた。
「そうですね……でもきっと、誰しも自分の、自分だけにしかわからない宝物と言うものを持っているはずです。否定されても、その気持ちはそう簡単には壊れたりしない。例え小さな子でも、確固たる価値観は持っている……そう思いますよ」
 紐飾りを撫でながら、風音が答えた。
「この石ハどうでショウ! スターのような形をしてイマスワ!」
 ミアがトゲトゲとした石を片手にやってくるのへ、
「いや、ボクの見つけた石の方が美しいね……みたまえ、この形……ヘリクリサムに似ているだろう? まさに『永遠の思い出』という言葉を体現するにふさわしい石だよ……!」
 ナコトフはどこかうっとりとした表情で、拾ってきた石を優しく撫でた。
「ねぇねぇ、この石なんてどう? 水切りしたらよく飛びそうよ?」
 ユスティーナも、平べったくすらっとした石を持ってくる。
「ちなみに、どれがいいですか?」
 と、絶奈は少年に尋ねるが、
「うーん……どれもちょっと違う」
「だ、そうです」
 絶奈は張り付いた笑みで、皆に言った。
「む、難しいデスワ……!」
「なんと……さらに美しい石が存在するというのかい……!」
「むー、こうなったら意地よ! まだまだ一杯探すわよ!」
 三者三様の感想を述べながら、再び石探しに赴く三人である。

 新しい宝物探しは些か難航しているが、ケルベロス達にも、少年にも、笑顔は絶えない。
 きっと少年にとって、今日この日こそが一つの宝物となるだろう。
 ケルベロス達と少年の、かけがえのない一日は、もう少し続くのだった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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