●トルコビーズ細工
「出来たぁ……ああ結局今日も一歩も外に出なかったよ……でも完成っ!」
トルコの伝統技法『オヤ』は、ビーズを使ったとても細かいデザイン細工である。昨今では今風のアレンジなども出来るとあって、人気が高くなっており、沙羅もすっかりそれにハマっていた。ひとつひとつ、野イチゴやアザミの花、雪の結晶などの形をビーズで作り、それを組み合わせていくのだ。
最初は腕輪や襟飾りなど小さいものを作っていたが、今回は思い切ってケープの縁飾りを作ってみた。白いケープの縁にひとつひとつ雪の結晶型のビーズを縫い付けていくと、安物のケープが一気に華やかになる。
苦労して完成させた作品は、何度見ても飽きない。しかもこれは身に着けて出かけることが出来るのだ。
「あー、冬が楽しみだなっ♪ 明日もう寒くなればいいのになっ♪」
その時だった。
テーブルに広げたケープを横からかっさらった者がある。
「え……?」
沙羅が驚いて顔を上げると、ふたりの魔女はケープを乱暴に引っ張って引き裂いた。ビーズ細工の糸が切れ、ぱらぱらと辺りにビーズが飛び散った。
「ええーーーッ?!」
ひどい、たった今完成したばっかりなのに。ここ最近の週末を全部使って作った苦労の結晶が目の前で引きちぎられて、沙羅は悲痛な声を上げた。
『フム……これがオマエの……』
「なんてことすんのよっ! ていうかあんた達何なの! 警察に突き出すから!」
『悲しみ、そして怒り……だね』
沙羅のケープを引き裂いたのはふたりの魔女、第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテだった。ディオメデスとヒッポリュテはふたり同時に沙羅の心臓に鍵を突き刺した。血は出なかったが、沙羅はそのまま意識を失ってその場に倒れた。
『私たちのモザイクは晴れなかったけど……あなたの怒りと悲しみ、悪くなかったよ』
沙羅の怒りと悲しみを元に魔女たちが作り上げたのは、白いケープで上半身をスッポリ覆ったドリームイーターと、全身を寒色系のビーズで覆われた、キラキラ輝くドリームイーターだった。
●趣味っていうのは
「パッチワークの魔女、第八と第九番目が現れたよ。怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテの2体だ」
ヘリオライダーの安齋・光弦が、そう説明を始めた。
「今回こいつら2体の魔女が狙うのは『大切な物を持つ一般人』なんだ。その大切な物をわざわざ本人の目の前で破壊して、それによって生じた『怒り』と『悲しみ』の心を奪う。そしてその感情を元にしたドリームイーターを生み出すんだけど……質が悪すぎるよ! 趣味で作ったものへの思い入れっていうのは、一言では言い表せないっていうのに……!」
自身もハチミツ集めという地味な趣味のある光弦、今回の被害者の気持ちがわかるらしい。
「今回の敵は2体。常に一緒に動いてグラビティ・チェインを得ようと人間に近づいていくんだ。まずは『悲しみ』から生まれた奴が『ケープを破られた悲しみ』を一般人に向かって語る、それが理解されないと『怒り』の方が怒って殺してしまう。でも仮にその悲しみわかるよ、って言ったところで、お前に何がわかる! って結局殺すんだよ。ひどいもんだ」
コツコツと時間をかけて作った手芸品を目の前で引き裂かれる悲しみと、怒り。それを全く無関係な人間に対してぶつけるという、なんとも悪質な事件である。
「被害に遭ったのは、涌井沙羅さんっていう20代のOLさん。昔から手芸が好きで、最近じゃ綺麗なビーズ細工にハマってた……それが元でドリームイーターが生まれるなんて、許しちゃおけない。撃破を頼んだよ。ケルベロス!」
参加者 | |
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ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020) |
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770) |
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433) |
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
神居・雪(はぐれ狼・e22011) |
ジェミ・ニア(星喰・e23256) |
流水・破神(治療方法は物理・e23364) |
●怒りと悲しみのドリームイーター
2体のドリームイーターの行方を追って、ケルベロスたちはとある一軒、つまり被害者である涌井沙羅の家の周囲を二手に分かれて捜索していた。挟撃でドリームイーターを確保、という作戦である。
右手からは、4人。
「……やり口が、幼稚です。可哀想な沙羅さんと……ケープさん」
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)は、今回の事件に秘かに怒り心頭だった。アイラノレ自身が物作りを嗜む事、大切に作り上げた物に対しては友人のような、人と同じように絆を感じる彼女であれば、無理もない。
「ほんとにね、コツコツ作ったものを一瞬で壊しちゃうなんて、ひどすぎる!」
即応じた月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)には、自分が不得手な細かい手芸の作品や、それを作る人への憧れがある。何より、物を大事にする気持ちそのものを大切にしたい、という優しさが、縒の気持ちを一刻も早い事件解決へと向かわせる。
「にしても、確かに自分たちで原因を作って奪うってのはなんつーか、今までと比べて随分と雑い気がするな……」
隣を歩いていた神居・雪(はぐれ狼・e22011)が暗灰色の尻尾を揺らしてそう呟くと、縒が金色の瞳をきょろりと向けた。
「確かに、わざと悲しませて、怒らせてるもんね」
「焦ってる、とも取れるか?」
会話にこそ加わらないが、流水・破神(治療方法は物理・e23364)も常通りの仏頂面で、話が聞きとれる程度の距離を保っている。ギロリと鋭い視線は、敵の姿を求めて気を抜かない。
そして左手からも、4人。
「オヤは写真で見たことがあるが、とても美しいものだったな」
ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)が今回の被害者の趣味であるビーズ細工『オヤ』について言及すると、輝島・華(夢見花・e11960)が溜息混じりに悲しげな声を出した。
「コツコツ作ってきたものを壊されるなんて……正直慰めの言葉が見つかりません」
積み重ねた努力を踏みにじる暴力に、華は悲しくすらなってしまう。とは言え、華はあとで必ず被害者の沙羅に会いに行こうと決めている。
「ふむ、僕には手芸の趣味は無いが、旅先の写真を見返している時に突然掻っ攫われて破られたら……と思うとな」
旅の空に生きる奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)は物品に拘る方ではないが、それでもその悲しさは理解出来た。
「そんな風に感情を揺さぶって利用する、というのが……許せない」
ジェミ・ニア(星喰・e23256)自身は感情の起伏の激しい方ではない、と自分で思っている。それでも怒って当然、悲しくて当然という事を平気でするデウスエクスはやはり放っておけない。
と、そこへ近付いてきた者がある。白いケープをかぶっている、というか、頭部をスッポリケープで覆った人影だ。
『……アタシ、本当に……本当に頑張って作ったのに……ひどい、ヒドイ……一度破れてしまったものは、もう戻らないのに……』
ヒンヒンと声を上げて泣くドリームイーターの前に立ちはだかって一十が答える。
「はあ、へえ……? それはご愁傷さまだが、何をそう泣くことがあろうか。また作り直せばよかろうものを」
『ヒドイ、ヒドイ……私の気持ち、わかってない……』
あまりに被害者がましいドリームイーターの物言いに、思わず本気で言い返す華。
「やったのはあなた達の主……共感なんて出来ません!」
ヒルダガルデがさり気なくジェミの耳元に、連絡を、と囁いてから前に出る。彼女はニヤリと不敵に微笑んで、ドリームイーターを見据えて言った。
「紛いものめ。その悲しみも、怒りも、お前達のものではないだろうに」
一方。
(「こちら左班……敵に接触」)
(「了解」)
ジェミの通信を受けたアイラノレが鋭く頷いた時には、雪と破神が先を争うように駆け出していた。
「どうやら、2体とも向こうのようですね。行きましょう」
「あっわ、待ってぇー!」
と、縒が慌てて後を追う。
『なんッッだと! もういっぺん言ってみろ!』
と、いつの間にか悲しみのケープ型の隣には、怒りのビーズ型が出現してやたらに怒鳴り散らしているではないか。
「何度でも言います! あなたの気持ちなんかわかりません」
『ひドイ、ヒドイ……』
『殺シテやる!!』
「はっ、その怒り、ぶつける相手が違うんじゃねぇか?」
雪が挑発的にそう言いながら、華と敵の間に滑り込む。今回の戦いでの壁役は、一十と雪。そして雪のライドキャリバー、イプタムが務める。
「縒さん、そちら側お願いします」
「あ、ニアさん! うんわかった!」
ジェミと縒は頷きあい、一般人が立ち入れないようにと道の両端へキープアウトテープを張り巡らせ始めた。
『今すグ殺シテヤル!!』
短気そうにがなりたてて前に出てくる怒り型ドリームイーターが壁になり、悲しみ型はスッと後ろに引いた。
「作戦通り、前から崩していくのが良さそうです」
攻撃の一翼を担うアイラノレが力強くそう言えば、もう一翼のヒルダガルデが静かに頷く。
「回復専ってのは正直、性には合ってねえが……こなせなくはねえ、やってやるぜ」
一番引いた位置に陣取った破神の言葉には、暗に仲間達への責任感が籠められていた。
「イペタム!」
雪が呼ばわると、ライドキャリバーのイペタムが道の端から全力で突っ込んでくる。一瞬の併走から、雪が前に出て『怒り』のドリームイーターことビーズ型に、強烈な拳を叩き込んで、戦いは始まった。イペタムもそのままスピンで同じ敵に突っ込んでいく。
「いくぞ!」
真白い髪を風に泳がせ、ヒルダガルデの獣の拳が狙うのもビーズ型。1体に戦力を集中させ、確実に撃破していく作戦なのだ。
「動くな!」
ジェミが鋭く言った直後、轟音と共に敵の足元に一撃が見舞われた。
敵の動きをじっくりと観察していた一十が、音高く指を鳴らした。
「……はじめよう。君の為の膳立てだ」
小気味のいい音が戦場に響き、仲間達の背筋にぞくりとした緊張感が走り、それは漲る力へと変わる。その一十の頭上を、ボクスドラゴンのサキミがくるりと一周飛び、それきりツンと澄まして忙しげに離れていってしまう。相変わらず、主に冷たいサキミである。
「ハァッ!」
アイラノレが狙い澄ましてデウスエクス専用ウイルスを投下した。
『フザケルナ! フザケルナ!……グッ!』
怒り型はヒステリックに怒鳴りつつ、ケルベロスの攻撃を受け続けている。
「頑丈ですね……こちらも守りを固めて参りましょう」
華が敵の様子を具に観察しながら、光の壁を呼び出し前線の仲間を守る。
「来ねぇんなら、軽く遊んでやるよ。……やっぱり前に出てる方が性に合うんでな」
「うち、援護したげる!」
未だ仲間に手傷を負った者がいないことを確認してから、破神はチェーンソー剣を唸らせて前に出た。縒が放った砲撃の爆煙ごと、敵を切り裂く!
『ヒドイ、ヒドイ……ヒドスギル』
歌うように言って、ケープ型イーターはその場でクルクルと回転を始める。白いケープがさながら闘牛士の布のように揺れ、同時にアイラノレに向けて魔法光弾が炸裂した!
「……っくっ、やってくれましたね……!」
『シネ! シネ!』
そこへ追い討ちとばかりにビーズ型が、その身体に纏っているビーズの玉を弾丸がわりにして発射! 飛び出してそれを受けたのはイプタムだった。
「いいぞ! 今度はこっちの番だ、食らいな」
雪の番えたアローが敵を正確に射抜く。
「さて、なかなか面倒な技を使ってくる様子か」
「こちらも、守りを固めた方がよさそうですの」
と、一十が星座の守りを呼び出せば、華は再び光の壁で仲間たち全体を包む。
攻撃の手が収まらないのは、アイラノレ。ウイルスに続いて取り出したのはアンティークな薬瓶。
「使い方次第で、薬は毒へ、ドクは薬へと変わります。用法容量を守って正しくお使いくださいね……」
低く呟いて蓋を開け、舞うが如き動きでアイラレノは瓶の中身をビーズ型に向かってぶちまけた。
『グオォオォオッ!』
ジュウ、と何かが溶ける音色の後、それは氷結する。悶絶する敵を何処か虚ろな目で眺めるアイラレノの様子に、華が思わず息を飲む。が、次の瞬間には視線は縒に持っていかれる。
「猫の牙だからって侮ったら後悔するよ……!」
獅子の咆哮をすら思わせる気迫で放った縒のグラビティが、敵に飛びかかり、食らい付く。その間に破神はドスリと一撃、拳をアイラレノへ見舞った。が、これは攻撃ではなくヒールである。どうやら破神の地元ではこれが普通らしい。
「う……っ?」
「荒っぽいが、治るものは治る。治ったらさっさと倒してくるんだぜ」
ドクターの荒療治の効果は抜群、しかし更にアイラレノを攻撃してくるケープ型。
『アア、哀シイ、カナシイカナシイカナ……』
「しつこいな、同じ者ばかり狙うものではない!」
割り込んだ一十が裏拳で敵を振り払う。
「押し負けてらんねぇ!」
「続こう!」
雪が叫んで立て続けに矢を放つのを追って、ヒルダガルデが重たい拳を叩き込む。ジェミが確実に砲撃を当てて削り、敵の陣形を崩していこうとするが、壁役のビーズ型は自己回復もするのでなかなか厄介だ。
『ヒドイ、ヒドイ……ヒドスギル』
「あ……、またさっきの……」
ケープ型が踊り始めた、と華が思った次の瞬間、光弾が華に命中した。同時に、ビーズ型が怒号なのか笑い声なのかわからぬような声を上げて雪に襲い掛かる!
『コノはみ出シ者! オ前の居場所なンかこの世のドコにモナイ!』
「うあぁっ?!」
「雪さんっ!」
ズブリと雪に鍵が穿たれる。血は出ない、が、一瞬全身をひどい不安が駆け巡った。敵の術中に陥る、と危惧した雪はしかし落ち着いて静かに詠唱を始めた。
「川の恵みよ。今、我らの身に宿れ。……力、借りるぜ」
思い出すのは故郷の風。カムイの力は、雪の中から悪しきものを浄化していく。
「離れよ!」
ヒルダガルデのハンマーの一撃が作った隙を、ジェミは見逃さなかった。よろめいたビーズ型を見据え、胸元に構えた手刀が白い熱を帯びていく。
「穿て!」
抜刀よろしく、敵へ向けて放ったジェミの圧縮エネルギーが一閃。美しい白鷺と化した光はビーズ型に食い込み、抉り、敵を穿ったまま白い羽根を散らすが如く、敵と共に砕けた。
『ウギャアアアアチクショオオオオ! ムカつくんだヨオオオ!』
『アア、ヒドイ、ヒドイ……』
最期まで怒号を上げていたビーズ型が消滅し、残るはケープ型。悲しい声を上げはするが、それが本物の感情か、と言われれば怪しい。
「ひどいのは、あなたたち……逃がしませんの!」
怒りも露わに華が白い掌から魔力を籠めた花弁を舞い上がらせた。花びらは一枚一枚、白いケープに張り付き、刻んでいく。こんな風に沙羅姉様のケープを破ったのでしょう、とばかりに。悪くねえ、と口角を持ち上げつつ、破神はその華の傷を癒す。
今がチャンス、と攻撃を畳み掛けるケルベロスたち。だが最後の反撃、ケープ型が飛びすさび、縒の頭を包み込む!
『ヤメテ、ヒドイ、何スルノ……!』
「あっ? う、うわ!」
「往生際の悪い!」
雪とヒルダガルデが組み付いてケープを引き剥がす。狙いをつけていたジェミと一十が離れた位置から砲撃と突きで釘付けにしたところへ。
「ケープさんの無念、思い知りなさい!」
アイラレノの強烈なハンマーの一撃。白いケープは元のモザイクへ、そしてモザイクは粉々に砕けてこの世から永遠に消え去ったのだった。
●作る喜び
「う、うーん……」
ちらりと被害者の様子を見るだけ見て、外傷もおかしな様子もない事だけをしっかり確認すると、破神は白衣の裾を揺らして早々に部屋を出て行く。今回の破神は徹頭徹尾、治療役に徹したようである。
他メンバー達は被害者の沙羅に一言かけるべく、部屋に残った。
「沙羅姉様、ご無事ですか? お怪我はありません?」
心配そうに覗き込む華と目が合って、沙羅は芽をぱちくりさせる。
「さ、さらねえさま? わ……私の事ですか?」
物慣れぬ呼び名に沙羅がドギマギしていると、ジェミからも優しく声がかかる。
「酷い目に合いましたね。もう心配ないですよ」
混乱する沙羅に、ケルベロスたちはゆっくりと事態を説明した。ドリームイーターの魔女に狙われて、大切な手作りケープを破かれた……という事実を徐々に思い出し、沙羅の表情が曇りかけるが。
「まずこれだけは、伝えたい。あれを作り出せる貴女の技術と根気は、素晴らしいものだと思うよ」
ヒルダガルデが心からの誠意を籠めてそう言い、アイラノレが意を決して思うところを沙羅に告げた。
「沙羅さん、もう一度ケープさんを作ってあげてくださいませんか」
黙りこくって俯いている沙羅に、アイラノレは熱心に語りかける。
「あの子も、大事に作ってくれた貴方のところへ、また来たいと思うんです」
「……あの子……」
そんな風に自分も、語りかけながら作ったんだっけ、と思い出すと、何だかまた悲しい気持ちが押し寄せた。だが、今沙羅の傍にいるのはその悲しみを吸い取るドリームイーターではなく、力強く励ましてくれるケルベロス達に他ならない。
「簡単じゃねぇのはわかってるんだけどさ。……もしまた作ったなら、見せてくれよ」
雪の言葉遣いは普段通りだが、口調は少し柔らかい。ヒルダガルデも頷いて続ける。
「私もあの美しさを一度、目の前で見てみたい」
少しずつ、沙羅の表情が緩んでいく。こんな風に注目されるのは照れくさいけど、皆が心から興味を持ってくれているのは嬉しかった。
「ねー涌井さん、他に作りかけのとかってない? あったら見せて欲しいなぁ」
我慢しきれなくなった縒が、ちょっと甘えた風に言ってみると、沙羅は少し躊躇ってから道具箱を引っ張り出し、中からスカーフを取り出した。縁飾りには葡萄のビーズ細工が2,3房付けられていた。紫と緑を混ぜて、熟しかけた色合いが表現されている。
「ま、まだ全然途中のしかないんだけど……ゴメン」
「うっわあーすごい! うち、こんな綺麗なの初めて見た!」
「ああ、これが」
はしゃぐ縒だけでなく、皆一斉に覗き込んで感嘆の声をあげた。サキミに至ってはそのキラキラに興奮し、飛びまわっている。一十が慌てて宥めた。
「サキミ、落ち着けサキミ……お前のそのテンション久々に見たぞ……」
アハハと声を上げて笑う沙羅。きっと彼女は冬までにまた、新しいケープを作り上げるだろう。
大切なものを壊される、怒りと悲しみ。物づくりにはしばしば困難がつきものではあるが、今回のような形で壊されるのは、作る苦しみとは全く筋が違う。何の理由もなく奪うような横暴を、決して許してはおけないと思うケルベロスたちだった。
作者:林雪 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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