鎌倉ハロウィンパーティー~ひとりの魔女

作者:雨音瑛

 オレンジ、黒、紫、黄色……街のそこかしこに、派手な色彩の飾り付けがされている。そんな街の様子を尻目に、辻・カナは自宅アパートへと帰ってきた。ふと窓の外を見ると、一戸建ての家が目に入った。
(「確か先週完成したばかりで、夫婦と子どもが出入りしていたっけ」)
 その家のドアには、カボチャやオバケ、魔女など、ハロウィンモチーフの飾りがついたリースがかけてあった。
 世の中は、ハロウィンムード。カナはため息をついた。恋人いない歴イコール年齢。生まれ育った街から遠く離れた場所での勤務で、友達はいない。カナは、ハロウィンの楽しいイベントとは無縁な自分が情けなく、みじめに思えた。
(「30歳になったとはいえ、私だって楽しいことがしたい。そう、できるなら……」)
 カナが、またため息をつく。そんなカナの視界に、突然赤い頭巾を被った少女が現れた。少女は、手に持った鍵で被害者カナの心臓を突いた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 意識を失ってその場に倒れこんだカナの横に、魔女の仮装をしているようなドリームイーターが誕生した。ローブを着てとんがり帽子をかぶり、顔や手足はモザイクになっている。
 赤い頭巾の少女はそれを見て満足そうに微笑み、ドリームイーターはその場から姿を消したのだった。

●鎌倉ハロウィンパーティーの危機
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんの調査で判明したのですが、日本各地でドリームイーターが暗躍しているようなのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、厳しい顔つきで言う。
「出現しているドリームイーターは、ハロウィンで開催されるお祭りに対して劣等感を持っていた方です」
 しかも、とセリカが続ける。
「ドリームイーターは、ハロウィンパーティーの当日一斉に動き出すようです。そのうえ、現れるのは世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場……鎌倉のハロウィンパーティーの会場です」
 ケルベロスたちの言葉を待たず、セリカはケルベロスたちに訴えかけた。
「ケルベロスの皆さんには、実際のハロウィンパーティーが開始する直前までにハロウィンドリームイーターの撃破をお願いしたいのです」
●ハロウィンドリームイーターを撃破せよ
「ハロウィンパーティーが始まると同時に、ハロウィンドリームイーターが現れます。ハロウィンパーティーが始まる時間よりも前に、パーティーが始まったかのように楽しそうに振るまってください」
 そうすることでハロウィンドリームイーターを誘い出すことができる、とセリカが言う。
「また、ハロウィンドリームイーターは3種類の攻撃をしてきます」
 モザイクを飛ばして相手を包み込み精神を悪夢で侵食する攻撃 、モザイクを巨大な口の形に変えて相手を欲望ごと喰らう攻撃、『心を抉る鍵』で相手の肉体を斬り裂くと同時にトラウマを具現化させる攻撃をするとのことだ。
「ハロウィンパーティーを楽しむためにも、ドリームイーターの撃破をお願いします。せっかくのハロウィンパーティーなのですから」
 セリカはそう言って微笑み、ハロウィンで彩られる街を見た。


参加者
ゼロアリエ・ハート(妄執のアイロニー・e00186)
樋口・琴(地球人の巫術士・e00905)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)
フレーゲル・プラティンス(微睡みの天使・e05884)
鮫洲・蓮華(可愛く愉快にカオスで自由・e09420)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)

■リプレイ

●開幕
「それではさっそく、お菓子交換パーティーと洒落込みましょう」
 ケルベロスハロウィン開始前の会場で、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が仲間に向けて微笑む。顔は目深に被ったフードで、足元は長めのローブで隠している彼女の仮装は、魔法使い風のビハインドコスチュームだ。連れのテレビウムは南瓜の被り物をし、マントをつけている。画面に笑顔の顔文字を浮かべて、上機嫌だという意思を絶奈へ伝えてくる。
 じゃあ俺からね、と元気な声を張り上げたのは、フランケンシュタインの仮装をしているゼロアリエ・ハート(妄執のアイロニー・e00186)。玩具のチェーンソーを振りかざし、ハロウィンならではの言葉を、と。
「ワルイ子はいねがー! 違う、トリックオアトリート!」
 ノリよく否定して言い直す言葉に、ケルベロスたちの余計な緊張もとける。
「では、まずは私からお菓子を提供しましょう」
 王子のような仮装をしたアリエータ・イルオート(戦藤・e00199)が差し出したのは、ハロウィンにぴったりのひと工夫されたお菓子。チョコスティックにお化け風マシュマロ、小振りな南瓜頭に見えるのは、クレープ生地で南瓜餡と生クリームを包んだものだ。アリエータの取り出したお菓子に、シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)が驚きと喜びの声をあげる。
「うっわあ、かわいい! しかもおいしそう!」
 オラトリオの羽を活かして天使の格好をしているシエラシセロは、満面の笑みでお菓子へと手を伸ばす。しかしせっかくの天使の仮装、神々しく見えるようにお淑やかな動作をしようと気をつけていたことを思い出す。今更ながらこほんと咳払いをして上品にお菓子を食べたが、あとの祭りだ。
「そんなカッコしてても、やっぱりシェラはシェラだね!」
「もう、ロアったら!」
 声を上げて笑うゼロアリエを、頬を膨らませたシエラシセロが何度か軽く叩く。
 早くも楽しく盛り上がる仲間たちを、まんざらでもなさそうに眺めるのはフレーゲル・プラティンス(微睡みの天使・e05884)だ。
「……皆そんな格好してると、別世界みたいですね。悪くねぇです」
 そう言う彼女も、水色のドレスにエプロンを重ねている。新緑のような色をした髪と並び、色鮮やかに格好に仕上がっていた。
 そんなフレーゲルの後ろから飛び出したのは、クマともタヌキともつかない着ぐるみの須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)。輪夏いわく「森の妖精」をイメージしているとのことだ。
「がおー、食べちゃう、ぞ。……お菓子の方が良いけど」
「輪夏ちゃんに同じく! とりあえず、お菓子をください!」
 イタズラする気はゼロ、の鮫洲・蓮華(可愛く愉快にカオスで自由・e09420)が輪夏に便乗する。白いうさみみをつけて懐中時計を持ち、ベストを着て紳士風の出で立ちだ。とはいえ、蓮華の容姿とうさみみも相まって、可愛らしさに拍車をかけているのだが。
 二人へとお菓子を差し出すのは、樋口・琴(地球人の巫術士・e00905)。
「たくさん用意してきましたよ。どうぞお召し上がりください」
(「……あの人が生きてた時は、家族3人でこうやってハロウィンを楽しんでましたね」)
 琴は小さく息を漏らし、しみじみと思い出す。もはや戻らない、幸せだった昔を。
 
●出現
 ふと寂しそうな顔をした琴に気づき、フレーゲルが唐突にトリックオアトリートを呟く。
「お菓子くれなきゃ、ふて寝して戦闘しないぞ……です。……間違えたです、願望が混じりやがりました。心配しなくとも悪戯ですよ、お前の家の枕を奪うだけだから安心するです」
 にやりと笑うフレーゲルにつられる形で、琴も思わず笑ってしまう。
「おっ、じゃあ俺もいっぱいあげちゃうよー! シツより量なのよね、俺」
 ゼロアリエが大量の駄菓子を取り出すと、じゃあボクも、とシエラシセロがクッキーやキャンディーを取り出して配り始めた。
「皆さんの仮装、それぞれ華やかで素敵ですね……ところで」
 アリエータが琴を見る。上から下まで、ゆっくりと。
「つかぬことをうかがいますが、なぜ喪服を?」
「もう仮装という年齢でもないですし、こういう場では喪服も仮装と取られそうな気がしたので」
 何の疑問も持たず、上品に首をかしげる琴。どう答えたものか、とアリエータも首をかしげる。そんなやり取りをする二人に、仲間がやって来てはお菓子をねだり、差し出し、喜び、笑い、はしゃぎ。おびき出すための行為とはいえ、大盛り上がりだ。既にパーティーが始まったかのような雰囲気は、もう十分に出ていた。もちろん、警戒も怠ってはいない。
 ドリームイーターの出現に真っ先に気づいたのは、アリエータだった。すぐさま仲間へと伝え、戦闘態勢へと移行する。
「楽しいパーティーをジャマするなど許さんぞー!」
 ゼロアリエが腕を振り回しながらドリームイーターに抗議する。シエラシセロも普段は隠している勿忘草を髪へ表出させ、戦意を示した。
 ドリームイーターへ最初に仕掛けたのは絶奈。『親愛なる者の欠片』を鋭く伸ばし、敵を貫いた。続くのはサーヴァントであるテレビウム。手にした凶器で遠慮なしにドリームイーターを殴りつける。
「ケルベロスによる介入までを含めるなら、今回のドリームイーターはカナさんにとって救いでもあるわけですか。……世の中何が幸いするか判りませんね」
 独り言ともとれる絶奈の言葉に、アリエータは同意を示す。
「復興の為にも、被害に遭った人の為にも。必ず止めなくてはいけませんね。仮装パーティも楽しみ、ですけど」
 いたずらっぽい笑みを浮かべ、アームドフォートの主砲をドリームイーターへ向ける。アリエータが合図をすると、一斉発射による攻撃がドリームイーターを襲った。
 一方のフレーゲルは、不機嫌そうにドリームイーターを睨む。そして一切の遠慮なしに、ドラゴニックミラージュでドリームイーターを焼き捨てた。
「おちおち願望も抱けねぇとか、ぼっちの敵でやがりますね……」
「ほんと、ヒトの弱みにつけこむとは許せないね! みんな、エンゴするよ!」
 ゼロアリエが拳を突き上げ、前衛の背後に色とりどりの爆発を発生させた。ハロウィンらしい賑やかな演出に、前衛の士気が高まる。続くのはシエラシセロだ。
「ハロウィンパーティーを襲撃させないためにも、ボクらが頑張らなきゃね!」
 シエラシセロが地面に守護星座を描くと、それは前衛の仲間たちを守護するように輝いた。ナイス、とゼロアリエがシエラシセロに笑いかける。
 あくまでパーティーを妨害したいらしいドリームイーターは、ケルベロスたちの攻撃を受けながらもモザイクを飛ばす。そのモザイクに包まれたアリエータはよろめき、武器のコントロールを失いそうになった。
 だが、ここで弱気になってはいけない。
(「参加したくても、こうして来ても結局そこにいないカナさんを――助けたい」)
 アリエータが、強い意思をもって敵を見据えた。
 
●猛攻
「周りが楽しそうなほど、混ざれてないと寂しくなる時ってある。でも、そういう時って一歩勇気出して混ざっちゃえば楽しくなること、多いと思う」
 輪夏が、手にした武器を握りしめる。だから、と熾炎業炎砲を放ち、先ほどより大きい声を出す。
「モザイクで参加じゃなくて、ちゃんと本人に参加してほしかった、よ」
 燃え上がるドリームイーターを横目に、蓮華が何度もうなずく。
「うんうん。お祭りは、誰かの孤独感を置き去りにしてやるものじゃないよね」
 蓮華がジョブレスオーラでゼロアリエを包む。その横から一歩踏み出し、【氷結の槍騎兵】でドリームイーターを凍らせるのは琴。
「手加減はしませんよ」
 夫の生命を奪ったデウスエクスは別格ではあるが、他の全てのデウスエクスも琴にとって憎悪の対象だ。口調こそ変わらないが、その目には明確な憎しみが宿っていた。
 勢いに押されつつあるドリームイーターだが、まだ余裕があるようにも見える。
 ここらで大きなダメージを与えておこう、と思い至ったのは絶奈。次いでその目に口元に、狂的な笑みを浮かべた。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 絶奈の眼前に魔方陣が多重展開されていく。そこから召喚されるのは、巨大な『槍』にも見える『輝ける物体』、その一部だ。一部とはいえ、それはあまりに巨大。
 凄惨な笑みをもって、絶奈はドリームイーターへと攻撃を撃ち込む。パーティー会場の破壊が懸念されるほどの巨大さを持ってはいたが、会場は不思議と無事だった。
 絶奈の壮絶なDIABOLOS LANCER=Replicaによって一度は倒れ伏したように見えたドリームイーターは、ゆっくりと敵意を持って起き上がった。満身創痍にも見えるが、何とかまだ戦えるようだ。
 さらに体力を削ろうと、氷結の螺旋を撃ち出すアリエータ。フレーゲルも斬撃を浴びせ、ゼロアリエがフォートレスキャノンで畳み掛ける。そこに好機を見出した輪夏が、ドリームイーターへと影法師を放った。
「あなたの影、ちょっともらう、ね」
 斬撃を受けて、ドリームイーターの影が足元から奪われる。どことなく気もそぞろになるドリームイーターを見て、このまま優位を保とうと蓮華がポーズを決める。すると、蓮華のコスチュームが一瞬で変化した。
「さぁ、あなたの瞳には蓮華しか見えなくなるよ?」
 変わったのはコスチュームだけではない。蓮華そのものの肌も褐色に変化し、頭部には竜の角が現れる。その容姿で薄紗を纏った蓮華は、ドリームイーターの周りで身体の自由を奪う踊りを踊る。ドリームイーターに踊りの効果が現れていることを確認すると、蓮華は元の格好へと戻った。
 それでもまだ倒れようとしないドリームイーターを睨むのはフレーゲル。
「迷惑かけたくねーぼっちの願望はガン無視で欲望を満たそうとしやがりますか。そんなだからてめーらデウスエクスはダメです。ぼっち以下です」
 フレーゲルはいっそう不機嫌な顔で、真っ直ぐにドリームイーターを指さした。
 
●消失
 シエラシセロは迷いなく旋刃脚を繰り出した。お菓子交換の時とはうって変わり、男らしい戦いぶりだ。シエラシセロに急所を貫かれたドリームイーターは、心を抉る鍵を取り出して琴へと向け、体と心を抉る。やがて琴にしか見えないトラウマが襲いかかった。
(「私が、あの人を失った悲しみではなく、あの人の危機で力に目覚めていたら……」)
 失ったものは取り戻せない。しかし、今はケルベロスとして戦う身。琴は精神を集中し、気力溜めでトラウマを消し去った。
 平静を取り戻した琴を見て、テレビウムの画面に映る顔文字が安堵を示すものに変わる。テレビウムはドリームイーターへ向き直り、顔から閃光を放って攻撃をした。その後ろで、絶奈がルーンアックスを静かに掲げる。
 闘争を好む狂戦士の様相を示しながら、願いは他が為の救済者。その矛盾を否定するでもなく受け入れるでもなく微笑をたたえたまま、絶奈はドリームイーターを十字に斬りつけた。ひるむドリームイーターへ、アリエータがフォートブレードで斬りつけると同時に追撃を与えていく。
 ドリームイーターからはかなりの消耗が見て取れるが、気を抜くわけにはいかない。傷を負った仲間がいることを確認して、フレーゲルは静かに祈り始めた。
「慈悲深き安息の女神よ。我が願いを聞き届け、汝の祝福を与え給え。安らかなる眠りを、痛みを癒す光を。我らの闇を払う者達へ」
 つまり「さっさと終わらせて寝てぇです。助けて」という願いの祈りだ。フレーゲルの祈りに応えるかのように天から陽光が降り注ぎ、前衛にいるケルベロスたちの傷がたちまち癒えていく。
「エアパーティだって可能な真のぼっちオーラに、てめぇは破れるですよ……覚悟するがいいです。みんな、もうちょっと頑張るですよ」
 フレーゲルのグラビティで傷が癒えたゼロアリエは、勢い良くスイッチを押してドリームイーターを遠隔爆破した。打撃を受けながらも、ドリームイーターは腕のモザイクを巨大な口の形に変える。最大限まで開いた口はアリエータを喰らおうとする。が、その口はとっさにアリエータの前に出たゼロアリエに喰らいついていた。
「平気ヘイキ! 俺、頑丈さにはちょっとしたジシンを持ってるからね!」
 勝手にだけど、と快活に笑うゼロアリエを見て輪夏は安心する。これならきっと大丈夫、ドリームイーターを打ち倒すことができる、と。輪夏は深呼吸をして斬霊刀を持ち直し、空の霊力を帯びさせる。次の瞬間、輪夏はドリームイーターを両断した。
「ここは一度、さよなら」
 輪夏が言うが早いか、ドリームイーターは魔女のシルエットへと变化した。そのまま壁に張り付き、箒に乗る魔女のウォールステッカーとして会場の飾りとなった。これで無事にハロウィンパーティーを開催することができるだろう。
「ではパーティーが終わったら、ヘリオライダーの予知情報から推測される地点を中心にカナさんを捜索ましょう」
 絶奈の提案に、ゼロアリエとシエラシセロ、蓮華が元気に手を挙げて賛成をする。輪夏も手にしたキャンディーを見つめて微笑む。
「わたし、カナにこれを渡して、元気づけてあげる、の」
「美少女天使なフレーゲル様も、もちろん行くです。ついでにお菓子か枕か、選ばせてあげるのです」
 不敵に笑うフレーゲルの横で、琴も楽しそうに言う。
「では、私も。年齢の近い私も一緒なら、きっと辻さんも警戒を解いてくれるでしょうし」
「なら、決まりですね」
 アリエータが力強く頷く。
 ハロウィンパーティーが終わったら、お菓子を持ってカナのところへお見舞いに行こう、と。そう約束を交わしたのだった。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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