さぁ行こうぜ! 修練のその先へ!

作者:河流まお

●最強を目指して
 人里離れたとある山間に朽ちた廃寺がひとつ。
 そして近隣住民からも忘れ去られているだろうこの場所を勝手に間借りして修行に明け暮れる若者が一人。
「く、まだだ! もう一度ッ!!」
 若者が男として生まれ、自然と目指したものは『最強』だった。剣にも銃にも負けぬ最強の武術を目指してこの若者が考案したのは、実践武術と『けん玉』を組み合わせた、まったくあたらしい格闘技――。
「うぉおおおおお!!」
 カンカンカン!
 若者の修めた絶技が極限の中で研ぎ澄まされてゆく。彼の操る鋼鉄の玉がその演武と共に、まるでツバメのように宙を舞い、訓練用の木人の頭部を木っ端微塵に粉砕した。
「へえ、見事なものじゃないか」
 突然掛けられた声に、若者は驚愕する。仮にもこの『拳玉拳』を極めたと自負する自分がこうも易々と背後を取られるとは――。
 問われて幻武極(げんぶ・きわめ)と名乗る女。一見少女のように見えるが、この女が『相当に出来る』ことは若者には一目で解った。
「――」
 互いが視線で交わす以心伝心。強者と強者が出会ったのなら、言葉はそう多く必要ないのだ。
「お前の最高の『武術』を見せてみな!」
 両手を広げ、犬歯を見せて微笑む少女。若者はけん玉をヌンチャクのように構えたのち、その全身全霊を掛けて強者へと挑む!
「うぉおおおおおッ!!!」
 ――数分後。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 己の技を出し尽くして膝をついた若者に幻武極は語り掛ける。
 長杖のような鍵をくるりと優雅な弧を描いて構えなおすと一突きでもって若者の胸に差し込む幻武極。
 ぐらり、と意識を失って倒れた若者の傍らに、無数のけん玉を指に挟んだドリームイーターが出現する。
 カカカンッ! カンッ!
 一振りで複数の技を決めるドリームイーターは己の力量を確認しているかのようだ。
「この廃寺を出て山を下ると小さな村がある。そこで、お前の武術を見せ付けてきなよ」
 この場を立ち去ってゆく幻武極の言葉に、拳玉拳ドリームイーターはゆっくりと頷きを返すのだった。

●遥か理想の先、武術の極み
 とまぁ、そんな予知を語り終えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロス達に向き直る。
「数日後、とある山間の廃寺で己の武術を極めようとして修行を行っている武術家の方が、ドリームイーターに襲われる事件が起こります」
 武術家を襲うドリームイーターの名は、幻武極。
 どうやら自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているらしい。
 今回襲撃した武術家の技ではモザイクは晴れなかったようだが、代わりに武術家のドリームイーターを生み出して一暴れさせようと目論んでいる。
「出現するドリームイーターは、襲われた武術家が追い求める理想の形。つまり修練の極みと言える技を使いこなしてくるので、かなりの強敵となると思われます」
 とても真剣にセリカ嬢。
 ここで「でも、けん玉じゃん……」とツッコみたいところだったが、その油断が死を招くことになりかねないのだ、とセリカの表情は語っていた。
 幸い、このドリームイーターが人里に到着する前に迎撃する事が可能なので、周囲の被害を気にせずに戦う事が出来る。
「接敵場所は廃寺の境内。幻武極はすぐに立ち去ってしまうので、敵は一体です」
 敵ドリームイーターは『拳玉拳』というまったくあたらしい格闘技で襲い掛かってくる。既存の武術とはかけ離れた動きをしてくるようなので、しつこいようだが油断は禁物だ。
「未知の武術を操る危険な敵ですが、皆さんどうか宜しくお願いします」
 そう説明を結び、セリカは深く一礼するのだった。


参加者
イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
セラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529)
モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)

■リプレイ

●本日は快晴なり
 良く晴れた晩夏の山奥。ツクツクボウシの鳴き声を聞きながら廃寺の境内を進むケルベロスの一団の姿がある。
 仁王像が睨みを効かせる中門を潜り抜けると、石畳の先に朽ちた本堂があるのが見て取れた。
「お、どうやらあの場所みたいだぜ!」
 どこかワクワクしたような様子の青年は紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)。
 セリカの説明では今回の敵はかなりの使い手と聞いている。腕比べとなれば、同じく『武』を志す者である大輔としては心躍らぬわけがない。
「拳玉拳……一体どんな技なのでしょう。個人的に興味がありますね」
 モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)もまた、まだ見ぬ敵の武術に想いを巡らせてゆく。
「侮れば命取り、とセリカさんは言ってましたが……ですけど、けん玉ですか……」
 イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)はどこか考え込むような表情だ。この依頼、どうにも緊張感を保つのが難しい。
「どんなものでも極めれば武器になる、ということなのかもしれませんね」
 油断を振り払うようにモモコ。
「それにしても、武術って何かと何かを組み合わせて、全く新しくしなきゃいけない縛りでもあるのかしらね……?」
 続いて愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が呟く。そして何故けん玉を組み合わせたと思わざるを得ない。
「……恐らく、男のロマンがそうさせるのだろう」
 熱き魂を胸に秘める青年、イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)が静かにその見解を示す。
「戦隊モノでもそうだ。忍者要素しかりフルーツ要素しかり。大ヒットするためには、何かしらの組み合わせは必要不可欠だ」
 イグナスの言葉に男性陣が「うむ」と深みある声で頷く。そう、組み合わせとは無限の可能性。
 宇宙の真理、男の浪漫なのである。
「そ、そうなんだ……」
 ただならぬ説得力に気圧されながらなんとか相槌をうつ女性陣。
 まぁそれはともかく『大ヒット』という単語は聞き逃せない地下アイドル(デビュー5年目)の瑠璃。
「ほほう――。ならあたしもヘドバンと頭突きを組み合わせた全く新しいライブパフォーマンスとかも……」
 彼女の言葉に相棒のウイングキャットの『プロデューサーさん』が何か言いたげににゃーにゃー鳴いている。
 アイドルは一度イロモノになると、なかなかその『色』から抜け出せなくなると聞く。十分注意されたし。
 さて、歩いていて気が付くのは建物自体は年月相応に朽ちているものの、境内は思っていたより綺麗であることだ。
「けん玉の人が掃除しているのか……変な人かと思っていたが、なかなかに好人物のようだ」
 星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)が感心しながら改めて境内を見渡すと、キラリと輝く金色の物体が視界に入った。
「ん、あれは……?」
 近づき見れば、本堂のすぐ前にピッカピカに磨かれた千手観音像が鎮座していた。
 その手には持物(じもつ)の代わりにけん玉がびっしりと握らされており、首から『第一期、門下生募集中!』と書かれた看板が垂れ下がっている。
「……」
 前言撤回。やはり変な人だった。今回の災難はバチが当たっただけなのかもしれない。
 とはいえ、この若者の『けん玉愛』は優輝の心にもどっしりと伝わってくる。
「きっと、この若者は新しい拳法を編み出そうとして一生懸命にけん玉の修業をしたのね……」
 同じく心を打たれたのかセラ・ギャラガー(紅の騎士・e24529)。スッと瞳を閉じ、けん玉修行に明け暮れる若者の姿を想像してみるセラ。
 雨にも負けず、風にも負けず。ただひたすら最強の称号を目指し――。
 セイッ! ハッ! シェイ! ハッ! 動きが硬い、もう一回!
「も、門下生募集って……く、ふッ」
 必死に笑いをこらえるセラさん。だが、そんな彼女を誰が責めることが出来ようか。
「み、皆さん! 油断は禁物ですよ! 新しい魔女『幻武極』を追うためにも、まずはこの事件をしっかりと解決しましょう!」
 感染力の高い笑いを必死に耐えながら、イリスが仲間たちに活を入れる。
 そう、如何に油断せずに拳玉拳と向き合えるか。この依頼は自分自身との戦いなのだ。けん玉恐るべし。
 さて、看板娘の千手観音像を過ぎれば、敵の潜む本堂はもう目の前だ。
「皆、準備はいいか?」
 先頭に立つ氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)が仲間たちに呼びかける。
 この場所が仮にも道場を名乗っているのならば、やはり突入の掛け声はこれしかない。
「たのもうッ!!!」
 バァン!
 蝶番が壊れんばかりに勢いよく扉を開け放つ緋桜。
 見据える正面にドリームイーターの姿が見えた。
 その頭部はけん玉を思わせる赤い球体。薄汚れた黒帯胴着の下にはち切れんばかりの筋肉を備えている。
「――む、何奴!?」
 その球体の頭部のどこに目があるのか定かではないが、驚きながらケルベロス達に振り向くドリームイーター。

●拳玉拳
「ほう、道場破りか」
 その赤いまんまる頭部がニヤリと笑ったように見えた。
「ドリームイーターがどこの世界から来たかは知らないが、大人しく自分たちの世界に帰るか、投降しろ」
 戦闘前の温和な印象が一変し、逆巻く炎のような激しさを見せる緋桜。
「もし抵抗するってんなら……命を賭けてもらう事になる」
 だが、敵は「命を賭ける勝負こそ望むところ」と短く返すのみ。やはり戦いは避けられないようだ。
「ならば、武を極めるものとして貴様の力、見極めさせてもらおう」
 セラが古式武術の型を取り、手先を揺らして静かに挑発。
「面白い! 刮目して見よ! これぞ我が奥義・拳玉八爪流ッ!!」
 指と指の間の全てにけん玉を挟みこむドリームイーター。両腕で合わせてけん玉8つ。
 このレッツパーリーと言ってきそうなスタイルこそ拳玉拳の理想の形。
 開戦を告げるように銀閃を鞘から奔らせて抜き放つイリス。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
 ゾディアックソードを真っ直ぐに敵に突き付けて名乗りを上げる。
 敵がどのような攻撃方法を持つかはまだ分からない。まずは、とイリスは慎重にスターサンクチュアリを使い今後の布石を打ってゆくことにする。
 魔法陣が展開し、乙女座の幻影が前衛の足元に現れた。
「いくぞぉおッ道場破りども!」
 周囲に放置されている仏像の一つがけん玉の範囲内に入り木っ端微塵になる。迫りくる敵に対し、構えをとる大輔。
「機甲武術師範代、紫藤大輔! 参る!」
 鉄球の速度はケルベロスの動体視力を以てしても捉えることが難しい。だが、鉄球を操る糸はあくまでけん玉と結ばれており、これを注視することである程度の軌道を先読みすることが出来る。
 味方に振るわれる攻撃を読み、間に割って入る大輔。
「――ッ!」
 防御の型をとり衝撃を逃がす。それでもなお意識が飛びそうになるこの威力。敵が積み重ねた修練を感じさせる一撃だ。
「いい一撃だ! 武術を修めるものとして、敬意を払うぜ!」
 降魔真拳をお返しに腹に叩き込む大輔。
「ぐぬッ! 貴様もやるようだなっ!」
 敵同士ではあるもの、お互いに武術家として通じるものがあるのか二人は不敵に微笑みを交わす。
「なるほど、面白い武器ですね……ですが」
 鉄球の範囲内はさながら暴風圏。しかも所々でしっかりけん玉の技を極めてくるのがまた心憎い。
 後方から雷刃突で牽制しながら敵の攻撃を見極めてゆくモモコ。あえて大きく動いて敵の攻撃が大振りになるのを誘う。そして横薙ぎに迫ってきた鉄球は待ち望んだ一撃!
「――これなら!」
 前方に倒れ込むようにして鉄球を回避するモモコ。後ろ髪に鉄球が触れた音が聞こえるが、それを置き去りにしてモモコは走る。
「いきますっ!」
 放つ一撃は神速の刃。片手平突き(カタテヒラヅキ)。
「ぐ……出来る」
 呻く声と共に一拍遅れて血が飛沫く。一撃離脱で距離をとるモモコ。
 戦いは序盤から激しい攻防の連続だ。
 触れるもの全てを叩き潰すような攻撃重視の敵に対して、ケルベロス達がとった布陣は攻守のバランスがとれた構成。
 緋桜と大輔、そしてプロデューサーさんの三枚壁で守りを固め、瑠璃が全体を支えてゆく。
「そっちが実践武術とけん玉なら、こっちはミュージックファイターっていう音楽とグラビティを組み合わせた、全く新しいアイドルよ!!
 拳玉拳に対抗し、まったくあたらしいスタイルを提唱する瑠璃。
「あたしのファンにしてあげるから、覚悟しなさい!」
 廃寺に瑠璃の歌声が響き渡る。
 回復、支援にBS解除とメディックを担う瑠璃はまさに目の回る忙しさだ。
「猫の手カモンッ!」
 プロデューサーさんが清浄の翼で手助け。毎ターン慎重な状況判断が迫られるが、なんとかこれを捌いてゆく瑠璃。
 もし彼女に感謝の意を表すなら次のライブに客として行ってあげるといいかもしれない。地下アイドル業界はたった1人の客入りが生死を分ける過酷な戦国世界と聞く。
「助かる、瑠璃」
 支援を受けながら敵を狙う優輝。瑠璃の負担を減らすために優輝が出来ることは手数を絶やさず攻め続けることだ。
「攻撃は最大の防御。いくぞ――!」
 かざした優輝の掌に星と羅針盤を模した魔法陣が現れる。
 優輝が纏う白い旧日本海軍の軍服姿も相まって、その姿は敵を撃破するための航路を指し示す提督を思わせた。
「開け、先導と流星の門!」
 錠が解かれたような音が響き渡り、魔法陣の中から蒼の眼をした白龍が召喚される。「撃てッ!」
 優輝の号令と共に滅びの光が敵を貫く。
「ぐくッ!」
 頭部に着弾し、煙を噴き出しながら仰け反るドリームイーター。ぐらりと体勢を崩し、敵の操る鉄球の嵐が一瞬だけ乱れた。
「今だ! イグナス!」
「おう!」
 連携して攻撃を叩きこむイグナス。地獄と化した右手から放つ轟竜砲が敵の球体頭に命中すると、その頭部に深い亀裂が刻まれる。
「拳玉拳とか面白いこと思いつくもんだな。斬新と言えば斬新だけれども鎖分銅とかフレイル辺りと理屈同じじゃねえのかな」
 それならば十分対応は可能だ、とイグナス。
「ぐ……ならばこれならどうだ!」
 すぐさま態勢を立て直し、反撃に転じるドリームイーター。
 カカカカンッ!
 と、中空に無数の火花が散る。鉄球同士がビリヤードのように互いを弾き飛ばし複雑に軌道を変化させてゆく。
「うお!?」
 避けたと思った鉄球が弾かれて軌道を変え、後頭部めがけて飛んできた。敵は厄介な隠し玉を隠し持っていたようだ。
「よくわからん動きをしてくるならば此方はそれを上回る超加速で迎え撃つまで!」   轟ッと一際強く炎を噴き上げてその動きを加速させてゆくイグナス。
「これが俺のトップギア! アクセラレーションファントムッ!」
 ケルベロスとドリームイーター。互いの全力を出し尽くすような戦いは続く。

●修練の彼方へ
 敵の攻撃力に押し切られそうな場面もあったが自己回復グラビティも駆使して戦線を維持するケルベロス達。
「光よ、かの敵を束縛する鎖と為れ!」
 イリスが刃を構えた。朽ちた廃寺の天井から差し込む幾筋もの陽光。それがイリスの刃に集まってゆく。
「銀天剣・玖の斬!!」
 袈裟懸けの斬撃と共に、敵の身体に光り輝く鎖が絡みつく。
「ぐぬ!」
 動きを阻害されて呻くドリームイーター。しだいに敵に状態異常が積み重なり、その動きが鈍くなってくる。なんとかけん玉を繰りセラを狙う敵だが、
「わが攻撃、光の如く、悪鬼羅刹を貫き通す」
 セラの放った光の矢が敵の上腕に突き刺さる。その衝撃で手元が狂ったか、鉄球はセラに命中せず彼女の眼前を紙一重で通り過ぎてゆくのみ。
「貴方の実力はその程度? 二流ね」
 ふふ、と笑みを浮かべるセラ。それは冷たくも美しい、見るものの魂を奪うような微笑。
「ぬ、ぬぬ~ッ!! 拳玉拳が! 修練のその先に到達したこの俺の技が敗れるはずがないのだぁああッ!!」
 追い詰められたドリームイーターが憤怒の叫び声を上げる。
「俺も武術の心得はある。俺の首里手とどちらが上か勝負しようぜ」
 渦巻く鉄球の嵐の間隙をついて、一気に距離を詰めてゆく緋桜。
「ぬ!」
 間合いに踏み込まれたドリームイーターは、けん玉の剣先で緋桜を貫こうとするが――。
「そうくると思ったぜ」
 敵が取り得る攻撃方法を事前に検討していた緋桜はこの一撃を予見していた。切っ先が緋桜の頬をかすめるが致命傷には程遠い。
「警告はした……」
 割って入るは敵の懐。拳の威力が最も発揮される、必殺の間合い。
「これで終わりだ!」
 緋桜の『蒼氷の意志撃(アイス・レイジ・リベンジ)』が敵の腹に喰い込む。その打撃と共に敵の内腑が凍り付く!
「――ごはッ……!」
 周囲に散在する仏像をなぎ倒しながら吹き飛ぶドリームイーター。その指からけん玉が離れ、床を転がってゆく。
「み、見事……ッ!」
 そう一言残し、ドリームイーターは爆散。
 残されたのは戦いの余熱と、敵が使っていた8つの鋼鉄けん玉のみ。

●決着。そして新たなる修練の始まり
 戦いが終わり、廃寺の内部をヒールで修復していくケルベロス達。
「う、うう……ん?」
 道場の隅に避難させていた若者が目を覚ました。
「お怪我はありませんか?」
 モモコに介抱されながら身を起こす若者。
「むむ、俺は一体……君たちは誰だ……?」
 朦朧とした頭で本堂の中を見渡す若者。その視線に止まるのは本堂の中央、敵が残していった8つのけん玉である。
「は! 入門希望かねッ!? いやはや、けん玉持参とは素晴らしいやる気だ!」
「あ、その、ええと――」
 押しに弱いのか勢いに流されそうなモモコ。
「君こそが一番弟子だぁあああっ!!」
 暑苦しい叫びが道場に木霊する。この流れは非常にまずい。
「……さてと、俺はちょっとこの廃寺を散策してこようかな」
「帰って次のライブの打ち合わせしないとね。プロデューサーさん」
「そういえば、明日の店の準備があるのだった」
「俺も撮り貯めてる特撮の録画を消化しないとな」
 急ぎではない用事を思い出す面々。まさに機を見るに敏。怪しい雲行きを感じ即座に対応。
「これからも武術の鍛練を頑張ってな。武を極めんとするものとして、お互い精進していこう!」
「それじゃ、今後も応援しているわ」
 締めの一言を残して立ち去ってゆこうとする仲間達。
「そう言わず体験入門だけでもッ! 絶対強くなれるから!」
 ガバッと足に縋りついてくる若者。必死だ。
「ま、まぁ、確かに貴方のその武術、極めればものすごいものになると思います」
 実際、強敵でしたとイリス。その言葉に若者が顔を輝かせる。
「でしょ!? ちょっとだけでいいから!」
「じゃあ、ちょっとだけ……」
 戦いは終わった。
 だが、「NO」を言えなかった幾人かのケルベロス達は、なんだかよくわからない武術の稽古をその後もみっちりと積むことになるのだった。

作者:河流まお 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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