●目覚めし機械巨人
夏休みの間、鍛えに鍛えたサッカースキル。磨き続けた技の数々を試すため、大切な人に修練の成果を見せるため、住宅地の外れにあるサッカーグラウンドにキックオフの笛の音が鳴り響いた。
地元のサッカークラブに所属している小学生たちが紅白に分かれてボールを蹴り、勝利を目指して走り回る。親や兄弟、友人らは楽しげに彼らを応援し続けた。
赤が白の陣地に踏み込めば、道半ばにて止められ攻め返される。残っていたディフェンスをかわされ一対一の状態に持ち込まれたキーパーは、体を張ってボールを遠くへ弾き飛ばした。
両者ともなかなか点は入らない、けれども一瞬たりとも見逃せない攻防がサッカーグラウンドでは繰り広げられていた。
――地鳴りが起きるその時まで。
最初に気づいたのは、兄の応援に訪れていた幼い少女。
両親に地鳴りを伝えようと袖を引っ張るも気のせいだと返されてしまう。
そうかもしれないと少女がグラウンドへ向き直った時、更に大きな地鳴りが……。
「おにいちゃん!!」
少女の目の前で、ボールを追いかけていた少年が掻き消える。
会場が騒然とする中、一人、また一人と少年たちは……果てにはグラウンドにいた審判さえも姿を消した。
誰かがなぜ、を問う暇もない内に、気づかぬ内に闇色に染まっていた地面から白黒の何かが顔を出していく。
それは、全長7メートル弱はあると思しき巨大ロボ型ダモクレス。
サッカーグラウンドの地中に埋まっていた殺戮兵器。
球状の物体をつなぎ合わせて作られた人型のような形をしているその巨大ロボ型ダモクレスは驚き固まっている人々をなぎ払いながら、眩い太陽の下で立ち上がる。
キョロキョロと周囲を見回した後、住宅地から更に離れた場所にある大型ショッピングセンターに向かって歩きはじめていく。
さらに多くのグラビティ・チェインを奪うために……。
●巨大ロボ型ダモクレス討伐作戦
「先の大戦末期にオラトリオによって封印された巨大ロボダモクレスが、多摩地方の住宅地の外れにあるサッカーグラウンドにて復活し暴れだすという未来を予知した」
集まってきたケルベロスたちにそう前置きし、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は具体的な説明を始めていく。
「幸いなことに、復活したばかりの巨大ロボ型ダモクレスはグラビティ・チェインが枯渇しているため、戦闘力が大きく低下している。だが、放っておけば人が多くいる場所へと移動し、多くの人間を殺戮してグラビティ・チェインを補給してしまうだろう」
力を取り戻した巨大ロボ型ダモクレスは多量のグラビティ・チェインを略奪した上で、体内に格納されたダモクレス工場でロボ型やアンドロイド型のダモクレスを量産してしまうだろう。
「そんなことをさせる訳にはいかない。故に、どうか力を取り戻す前に巨大ロボ型ダモクレスを撃破してきて欲しい」
注意点は一つ。
巨大ロボ型ダモクレスは動き出してから7分経つと、魔空回廊が開いて撤退してしまう。そうなれば撃破は不可能となるため、その前に決着をつける必要がある。
「続いて、状況や巨大ロボ型ダモクレスの具体的な特徴について説明しよう」
出現時刻は午前10時半ごろ。
出現場所はサッカーグラウンド。観客席と行った施設は存在しない開けた場所。
当日、現場となっているサッカーグラウンドでは地元のサッカークラブによる紅白戦が繰り広げられている。夏休みの総決算という触れ込み故か、家族や友人らの応援も多く訪れている。
幸い、ケルベロスたちが現地に到着してから巨大ロボ型ダモクレスが出現する時刻までは結構な時間がある。そのため、余裕を持って避難活動を行うことができるだろう。
「街や建物は破壊されたとしても直せるが、命はそうはいかないからな。命に危険が及ばないよう、どうかよろしく頼む」
続いて、巨大ロボ型ダモクレスについて。
全長7メートル弱。姿は、白黒模様のボールをつなぎ合わせて作られたような人型。
戦いにおいてはとても攻撃的で、破壊を好む。
グラビティは3種。
体の一部を切り離し、敵陣をボールのように跳ね回らせてプレッシャーを与えていく攻撃。
球状の腕を高速回転させることにより生み出される二本の竜巻で敵陣を包み、防具ごと肉体を引きちぎる攻撃。
体を丸めて急加速し、まるで蹴り飛ばされたサッカーボールのような体当たりで加護ごと敵陣を弾き飛ばす攻撃。
「また、先ほど説明したとおり巨大ロボ型ダモクレスはグラビティ・チェインの枯渇により弱体化しているが、一度だけ全エネルギーを振り絞りフルパワーの攻撃を行う事ができるようだ」
いつ、そのフルパワーの攻撃が行われるかはわからない。
しかし、その威力が絶大であろうことは容易に想像する事ができる。重々注意して立ち回る必要があるだろう。
「以上で説明を終了する」
ザイフリート王子は資料をまとめ、締めくくった。
「巨大ロボ型ダモクレスが回収されれば、ダモクレスの強化を許すことになる。何よりも罪もない人々への殺戮を許すわけにはいかない。どうか、全力での戦いをよろしく頼む」
参加者 | |
---|---|
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298) |
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830) |
空舟・法華(回向・e25433) |
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322) |
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690) |
荒城・怜二(闇に染まる夢・e36861) |
佐々・木佐木(寄せ斬り鎖使い・e37861) |
ソルヴィン・フォルナー(継ぎ接ぎの・e40080) |
●準備中
「拙者等はケルベロスだ。此処は戦場になる故、急ぎ避難を」
眩い太陽が世界を照らす吉日に、葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)が凶事を告げた。
郊外のグラウンドに集まっていた大人たちがにわかに騒然とし始める。
ただ一人落ち着いた表情で佇んでいたジャージ姿の初老の男性が手を叩き、そんな大人たちに静まるよう促した。
「わかりました。それで、私たちは何を……」
初老の男性……少年サッカークラブの監督が導き手となり、紅白戦のためにやって来た人々は住宅地の小学校へと避難していった。
涼しやかな風の音さえも近くに聞こえる静寂に抱かれながら、萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)は尻尾に違和感を覚え振り向いていく。
ボクスドラゴンのウルが、ラグビーボール片手に尻尾を引っ張っている。楼芳を見上げる瞳は楽しげな輝きで満たされていた。
「……たしかにそっちもキックオフだが……。遊ぶのは後でな」
楼芳はラグビーボールを取り上げる。
時は午前10時半。いつ、このグラウンドの下に眠っているという巨大ロボ型ダモクレスが出現してもおかしくはないのだから。
一人、また一人と戦いに向けて、精神を集中させていくケルベロスたち。
聞こえてくる音色は変わらない。
風はあれど香りはなく、ただただ熱が冷まされるだけの無味乾燥な空気が漂い始め……。
軽く、鎧のつなぎ目が擦れあった。
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は眉根を潜め、聴覚に意識を集中させていく。
体が揺さぶられる。
地響きも聞こえてきた。
足腰に力を込めながら、右院は来る戦いに向けて思いを馳せていく。
休日に見た映画で、こういう展開のアニメがあった。確か、サッカーアニメとロボットアニメのコラボレーション作品。
それは巨大ロボじゃなくて無数の小型量産機だったけど……。
「だから、えっと……一体なら何とかなる、怖くない」
拳をギュッと握りしめ、得物の先端を地面に向けていく。
ひときわ大きな音を立てて亀裂が走った。
その向こう側が見えることはない。
ボールをつなぎ合わせて作られたような巨大ロボ型ダモクレスがいることは知っているけれど。
「……この人数だから、ダモクレスとのサッカー勝負、とはいかないかな?」
荒城・怜二(闇に染まる夢・e36861)が冗談めいた言葉とともに小さく笑う。
足元に控えているミミックの柘榴はカタカタと蓋をかちあわせていた。
●キックオフ!
ボールをつなぎ合わせて作られたような……の情報通り、大きな大きな丸い顔。
光を写した瞬間佐々・木佐木(寄せ斬り鎖使い・e37861)が距離を詰める。
地表に乗せられたボール状の手に狙いを定め身の丈ほどもある青龍刀を振り上げていく。
「まずは一撃、です」
風切音と共に振り下ろし、刃は沈む手の中へ。
斬ることは敵わず、ゴムボールのような弾力に跳ね除けられた。
木佐木が姿勢を正して着地する中、巨大ロボダモクレスは胸のあたりまでを晒し、動きを止めていく。
「死は感じられたかの?」
力の担い手たるソルヴィン・フォルナー(継ぎ接ぎの・e40080)はニカっと口の端を持ち上げながら、サングラスをキラリと輝かせた。
「さあ、奴が動くまでできる限り連射じゃ。魁を務めた木佐木のような勢いで、わしに続けい!」
頷き、距離を詰めていくケルベロスたち。
楼芳はウルと共に見送り巨大ロボ型ダモクレスを注視する。
攻めている時こそしっかりと敵の動向を見極め、仲間たちを護ることができるように。
「……」
最初に使ってくるグラビティは何なのか。
前兆があるのならばどのようなものなのか。
七分しか戦えないからこそ可能な限り動きを把握し、次の攻撃へ……!
「……行くぞ、ウル」
巨大ロボ型ダモクレスが弾むように空へと跳んだ時、楼芳は駆けた。
ウルが後を追いかけてくるのを感じながら、大きな音を立てて着地していく巨大ロボ型ダモクレスの正面へと踏み込んでいく。
楼芳の姿を太陽から隠すかのように、巨大ロボ型ダモクレスが両腕を前方にかざしてきた。
影が運んでくる一握の涼を感じながら、楼芳は鉄塊の如き剣を横に構え――。
「っ!」
前触れもなく両手と思しき部分が切り離された。
重力に任せて落下してくるその手を、楼芳は横に構えたままの剣を掲げて受け止めていく!
刃ごと体が沈んでいく、切り離された手の中に。
きっと、これから先程の木佐木のように弾かれる。
弾んだ手は仲間たちのもとへと向かうのだろう。
「……させん!」
素早く剣を左手に任せ、手の一端を掴み取った。
両足が宙に浮く。
風圧に逆らい手にしがみつき、顔の動きだけでヘルムのバイザーをお仕上げた。
――仮に構造そのものがボールなのならば……。
龍のあぎとを開き、落下していく手に噛み付いていく。
気力で顎を締めながらオーラを注いだ。
小さな音が鳴る。
僅かな風が頬をくすぐり始めてきた。
楼芳が地面へと辿り着く頃にはもう、手は弾力性を失っていて……。
「……」
素早く離れ、ウルのいた方角へと視線を向けていく。
可能な限り前衛陣の元へ行かせないようにするのが精一杯な様子だった。
「大丈夫ですよ。護ってくれているのなら、後は僕が……ふぁ」
労うように、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)が爆破スイッチを押していく。
カラフルな爆煙が立ち上り、楼芳とウルを中心とした前衛陣を癒やし始めていく。
さらにテレビウムの地デジがウルのもとへと歩み寄り、元気に応援し始めた。
オリヴンがぼんやりとした視線を向ける中、動きの精彩を取り戻した仲間たちが改めて攻め上がっていく。
弾力のあるボディは攻撃の多くをはねのける。
一部は傷を刻めたのか、一つ、二つと空気が抜けていくかのような小さな音が唱和し始めた。
動きを乱す様子はなく、巨大ロボ型ダモクレスは体を丸めていく。
まるでサッカーボールのような姿へと変貌し、勢いをつけて転がってきた。
空舟・法華(回向・e25433)が立ち塞がる。
まるでゴールキーパーのように両腕を広げて。
「巨大なサッカーボール、この手でしっかり受け止めます。サッカーロボには一点だって取らせません!」
腰を落とし、全身で巨大ロボ型ダモクレスを受け止めていく。
勢いも質量も相手の方が上だけど、気力だけなら負けていない!
じりじりと地面を削りながらの後退を余儀なくされるも、少しずつ勢いは弱まっていった。
その背中を地デジが応援する。
オリヴンはオウガ粒子をきらめかせながら両者のぶつかり合いを注視した。
押しつぶされると感じたか、法華が気合を入れて誰もいない左側へとクリア。
何もない方角へと転がっていく巨大ロボ型ダモクレスを見送りながら、オリヴンはオウガ粒子を収め法華のみに意識を集中させた。
「ゆら、ゆら。揺らいで」
揺らめく輝きが法華を包み、疲労と痛みに染められていた体を癒やしていく。
強化を優先しつつ治療にも意識を割いていけば防御面に問題は生じないだろうと、ぼんやりと考えながら戦場全体を観察し続けていく……。
弾力のある足を踏みつけて、ソルヴィンはトランポリンの要領で飛び上がる。
「どうやらどれもこれもまとめて薙ぎ払うための攻撃みたいじゃな。ならば、わしが相手じゃ! お前はボールじゃ!」
炎に染めた足で腰の辺りを蹴り、装甲の反発を受けて仲間たちのいる場所へと吹っ飛んだ。
巨大ロボ型ダモクレスの体がソルヴィンへ向けられていくさまを見て、右院は背後へと回り込んでいく。
一人で中衛を務めるソルヴィンが惹きつけてくれている。
惹きつけきれなくても防衛役が守ってくれる。
だから攻撃のみに意識を集中し、一つ、二つと足を形成しているボールを飛び移っていった。
首後ろへとたどり着いた時、巨大ロボ型ダモクレスの両腕がドリルのように回転し始めたこと。
金属同士が擦れ合う激しき音色が響く中、風がうずまき始めていく。
右院は離れない。
ブラックスライムを槍に変え、首と頭のつなぎ目に穂先を向け……。
「これも当たりやすいとは言えないけど、この距離なら……!」
真っ直ぐに突き出し、つなぎ目へと差し込んだ。
次の刹那には竜巻のような空気のうねりを受けてふっとばされるも、首筋に残したブラックスライムは問題なく内部への侵入を果たしていく。
安堵の息と共に姿勢を正し戦場に視線を巡らせれば、先だって竜巻に突入し上空へと巻き上げられていく法華の姿があった。
法華は目まぐるしく変わっていく景色を眺めながらも笑みを浮かべていく。
竜巻の回転に逆らうように放出しているオーラに打ち消されたか、法華が巻き込まれている側の竜巻は他の仲間に辿り着く前に勢いを失い始めたから。
ブラックスライムが内部機構を襲い始めたか、巨大ロボ型ダモクレスが著しくバランスを崩す様子を見せたから。
「これなら……」
法華は上へ、上へと向かっていく。
竜巻がそよ風に変わる頃には巨大ロボ型ダモクレスの頭上へと到達していた。
自由落下に任せ、法華はナイフを突き立てる。
巨大ロボ型ダモクレスの脳天に。
「流石に、ここは……厚い!」
先端が何かを破く感触すら得られず跳ね飛ばされた。
衝撃そのものは伝わったか、巨大ロボ型ダモクレスが膝をついていく。
「……」
膝裏に竜躁斬が飛び込み鎖を放つ。
相手を引き寄せる代わりに自分が飛びつき青龍刀を横に薙いだ。
膝に該当すると思しき部分から空気が漏れる音が聞こえる中、後方ではオリヴンと地デジを中心に法華、そして同様に前衛陣を護った楼芳の治療が行われていた。
「大丈夫……削りきられるほどじゃありません。ぼくと、地デジで治療します」
「ああ、任せた」
傍らでは、怜二が巨大ロボ型ダモクレスに手をかざしていく。
瞳を細め、巨大ロボ型ダモクレスの脛と思しき場所だけを見つめていく。
「氷結の螺旋よ、敵を凍えさせよ!」
凍てつくような螺旋を放ち、脛と思しき場所へと注ぎ込んだ。
みるみるうちに脛と思しき場所は硬質化し、ほのかな冷気を放ち始めていく。
「柘榴!」
すかさず柘榴へ命じれば、喜び勇んで駆け寄っていく。
勢いのままに噛み付くも存外に硬く通らない。
表面に亀裂は走った。
柘榴が口を話した瞬間に破裂した。
「凍てつけば脆いか、或いは脆くなっていたか」
巨大ロボ型ダモクレスを挟んで向こう側。
脛の裏に刃を突き立て砕いた影二がひとりごちながら姿を消す。
同様に柘榴が離れる中、巨大ロボ型ダモクレスはバランスを崩しながらも無事だった部分を合体。
不格好ながらも立ち上がっていく。
「……磁力か何かでパーツをつなぎ合わせているのか。まあ、どっちにしても……」
一つ一つ砕砕いていけば問題ない。
怜二は前傾姿勢になっている巨大ロボダモクレスの中心に狙いを定めつつ、胸部発射口を展開。
エネルギーを収束させ、ゆっくりと照準を合わせ……発射!
「っ!」
両足に力を込めて反動を和らげつつ、ブラスターが巨大ロボ型ダモクレスの中心を焼いていくさまを見つめていく。
ゴムの焼けるような臭いも漂う中、グラウンド中に轟いた。
「五分経過か。いや、それだけじゃない」
アラームに混じり聞こえてくる歓声。
まるでサッカースタジアムに集うファンたちが奏でているかのように明るく、情熱的な。
発生源は……。
●ゲームセット!
「最大出力の攻撃が来るぞ!」
影二の警告がケルベロスたちに浸透する中、巨大ロボ型ダモクレスは体を丸めていく。
攻撃に備えて距離を取るもの、万が一の状況に備えて仲間たちからも離れる者……と様々な姿を見せる中、ソルヴィンは巨大ロボ型ダモクレスの正面に立ち塞がった。
「ククク……欧州にて名も無きの皇帝と呼ばれたわしの華麗にして荒々しい守りを見せてくれるわい!」
サングラスの影に隠れた瞳をきらめかせながら、サッカーボールのような形状に変化した巨大ロボ型ダモクレスを見つめていく。
ボールが蹴り出されるかのようなブースターが火を噴くタイミングを図るため、鼓動を呼吸をダモクレスの駆動音に重ね合わせた。
それ以外の全てを消し去った世界の中、ソルヴィンは呼吸を止め、鼓動と駆動音だけを感じ取り……。
「……なんてのう!」
微細に変化した瞬間、ソルヴィンの鼓動を除き全ての音が消え失せる。
ブースターが火を吹くことなく、巨大ロボ型ダモクレスは静止したまま動かない。
「最大の一撃を防いだ今こそ好機! 畳みかけるのじゃ!」
「ああ。行くぞ、ウル」
楼芳がウルと共に飛び出して、側面へと回り込む。
凍りついていた箇所へとウルが浴びせかけていくブレスに導かれ、炎の剣を振るい破裂させた。
甲高い音色も響き渡る。
影二が別の凍りついていた箇所を砕いたから。
「もはや元に戻る事も叶うまい」
「もとに戻っても、満足に動けないとは思うけどね」
頂点近くの部位を、右院がルーンストーンを用いた魔法の樹弓でしぼませていく。
隣は怜二のブラスターが焼き払う。
柘榴も噛みつき破裂させた。
次々とパーツが砕かれているけれど、巨大ロボ型ダモクレスの戦意が失われることはない。
怜二のは素早く視線を走らせ、数多のパーツに守られるようにして奥に収められていた頭に目をつけた。
「……コアパーツは頭、か」
「わかりました!」
素早く木佐木が駆け寄り鎖を放つ。
頭に巻き付かせ外側へと引きずり出していく。
「捕獲、完了。寄せて斬ります!」
脳天に刃を突き立てた。
厚く硬く、刃先が軽く傷つける程度に収まった。
「それで十分だ」
影二が言葉を残しながら姿を消す。
頷く木佐木が距離を取り、万が一に備えて身構える中、影二は頭と体のつなぎ目に姿を表した。
「実は虚であり、虚は実……我が刃は影を舞う」
木佐木の刻んだ傷跡に刀を突き立て、まっすぐに沈ませていく。
硬い部分に到達するとともに角度を落とし、巨大ロボ型ダモクレスの頭を両断した。
素早く影二が飛び退けば、逃さぬとばかりに頭部は激しく爆発する。
けれどケルベロスたちを飲み込むことはなく、自らの体だけを焼き尽くし……。
静寂が涼を運んでくるグラウンド。
穴だらけの景色を前に、オリヴンがふとした調子でつぶやいた。
「……ロボも、サッカーしたかったのかな?」
ボールのようなダモクレス。
サッカーのように思えなくもない技の数々。
もっとも、彼とサッカーができるような存在もそうはいないのだけれども……。
「……それでは、修復していきましょう。少年たちが、再びこのグラウンドで駆け回ることができるように」
法華が手を叩き、事後処理を始めていく。
今日は本来、サッカー少年たちの晴れ舞台。夏休みの間に培った実力を試す時間だったのだから。
もちろん、その時には観戦を。
約束した観戦を!
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2017年9月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|