日暮に風鈴

作者:犬塚ひなこ

●夕暮れの夢
 かな、かな、かなと、ひぐらしの鳴き声が聞こえる。
 空の色は鮮やかな橙。夕焼けが照らす縁側に座った少年は夏の終わりを感じていた。
「もう夏もお終いか……」
 季節があっというまに過ぎゆくこの時期は如何してか物悲しい。縁側から見える庭に咲いている向日葵はもう枯れかけていた。このまますぐに秋になってしまうと思うと名残惜しく思える。
 吊るされた風鈴が夕風を受けてちりちりと鳴った。
 その音に哀愁を感じた少年は大きな溜め息を吐く。その間も風鈴は、かなかなと鳴くひぐらしの聲と合わさって鳴り続けた。
 やがて鳴き声は止んだが風鈴の音は止まない。もう風もないのに、と少年がおかしさを感じたそのとき、耳を劈くような風鈴の音色が響き渡り視界が暗転した。

「うわあ、おっきな風鈴のお化けが襲って……!? って、なんだ夢か」
 或る夏の日の夕刻、少年は驚いて飛び起きた。今まで自分が見ていたのは現実の縁側そっくりの場所で同じように過ごす夢。いつの間に居眠りしてたんだろう、と首を傾げた少年は風鈴お化けが夢で良かったと安堵した。
 だが、少年は知らない。自分の背後に『驚き』を奪う魔女が立っていることに――。

●夏の終わりに
「――『私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ』……なんて、いい加減もう聞き飽きてきたよね」
 魔女・ケリュネイアがよく口にする言葉を真似ながら、栗島・リク(ムジカホリック・e14141)はまた事件が予知されたと語る。
 その説明通り、『驚き』の夢がドリームイーターと化してしまう事件だ。
「具現化したのは大きな風鈴お化けだって。魔女は何処かに去ったから追えないけど、今ならお化けが事件を起こす前に止めに行けるよ」
 夢喰いは現在、少年の自宅付近を彷徨っているようだ。このままでは夢を奪われた少年は目を覚ませず、近隣住民にも被害が及ぶ。
 このタイプの敵は相手を驚かせたくてしょうがないらしい。探索を行わずとも付近を歩いているだけで、向こうからやってくるだろう。
「一応、夕方だから人払いをしておいた方がいーね。後はそうだね。夢喰いはオレ達を驚かせて来るからその対処もしないといけないかな」
 ふわりとした栗鼠尻尾を揺らし、リクは注意点を告げていく。
 風鈴お化けは出会い頭にかなり大きくて煩わしい音を響かせて驚かせてくる。敵はその際の驚きが通じなかった相手を優先的に狙ってくるので、狙われたくなければ驚いたフリをしなくてはならない。
 リクは厄介な相手だと零し、軽く肩を落とした。
「敵の性質をうまく利用できれば、有利に戦えるかもしれないから気を付けていこう」
 しかし、すぐに顔をあげたリクはちいさな耳をぴんと立てる。其処には夢を奪われた少年を助けたいという思いが宿っているように思えた。
「子供の無邪気な夢を奪ってドリームイーターを作るなんて許せない。少年くんが目を覚ませるように、さっさと事件を解決しようか」
 魔女の企みも潰したいからね、とリクは付け加えた。
 そうして、愛用のショルダーキーボードを背負い直した彼は仲間達を見つめる。その眸の奥に映るのは信頼。そして、より良い未来への希望だった。


参加者
月海・汐音(紅心サクシード・e01276)
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)
高辻・玲(狂咲・e13363)
栗島・リク(ムジカホリック・e14141)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
シャウラ・メシエ(誰が為の聖歌・e24495)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)
風鈴・羽菜(シャドウエルフの巫術士・e39832)

■リプレイ

●夕焼けに凛と鳴る
 何処かからひぐらしの声が響いてきた。
 夕暮れ時に日暮とも表される虫の聲が響いてくるのは何とも風情がある。夏から秋にかけて、不思議な懐かしさを感じさせる音と風景は心地好かった。
「善い夏の終わりの日に悲劇は起こさせたくないな」
 ミカ・ミソギ(未祓・e24420)は日本の夏を深く語れるほどにはよく知らない。だが、この雰囲気が悪くはないものだということは分かる。
 そうだね、と頷いた栗島・リク(ムジカホリック・e14141)と天喰・雨生(雨渡り・e36450)は周囲を見渡し、敵や一般人の気配を探る。
 すると光の翼で空を飛んでいたシャウラ・メシエ(誰が為の聖歌・e24495)が仲間達にひらひらと手を振った。
「ちかくにひとはあまりいませんでした。ね、オライオン」
 シャウラはウイングキャットの名を呼び、そっと地面に降りる。それを聞いたルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)はよし、と掌を握って気合いを入れた。
 そして、ルリカは人が紛れ込まぬように殺界を形成していく。
「これで良いかな。後は敵を待つだけだねー」
「ああ、問題ないだろう。出会った人にも避難するよう伝えておいたからね」
 高辻・玲(狂咲・e13363)はもう般人が訪れることはないと告げ、仲間達に目配せを送った。これでいつ敵が現れてもすぐに対応できると感じ、月海・汐音(紅心サクシード・e01276)は頷く。
 風鈴・羽菜(シャドウエルフの巫術士・e39832)も玲に視線を送り返した。
「ドリームイーターが現れたら驚く、ドリームイーターが現れたら驚く、ドリームイーターが現れたら驚く。……うん、大丈夫です」
 念の為に三回も復唱した羽菜の気合は十分。
 そのときだった。
 ――ジリリリリリリリリ、と音量と音色を間違えたかのような、おそらく風鈴と思わしき音が辺りに響き渡った。
 とっさにシャウラが耳を押さえながら屈み込み、羽菜が驚いた声をあげる。
 途端に羽菜の頬が淡く染まった。予定より大袈裟に驚いてしまったことに照れてしまったらしい。だが、明らかに驚く仕草を見せたのは八人のうち二人だけ。
「わあ、すごーい。面白い音だね!」
 ルリカは喜ぶ演技を行い、雨生やリク、汐音は驚けないままで其処に立っていた。
 敵は遭遇時に驚かなかった相手を狙う。故にケルベロス達はその性質を利用した作戦で立ち向かおうとしていたのだが――。
「ごめん……」
「来るって分かってると驚けないね」
 雨生が謝り、リクは気まずそうに頬を掻く。
「音が大きいだけだったものね」
 そう語るのは汐音。ルリカも対応を違えてしまっており、バツが悪そうにしていた。
 作戦はうまくいかず、風鈴お化けは六人と一匹を標的と見做したらしい。拙いと感じた玲だったが、慌てずに無反応を貫くことで敵の気を引こうと狙う。ミカも同様に敵を見据え、挑発の言葉を紡いだ。
「ほら、こっちだよそんな驚かせ方が通用すると思った?」
「随分なご挨拶だけど――それでお終いかい?」
 玲も冷ややかに敵に告げ、しかと身構える。
 盾として、護り手として、戦線を守ってみせると決めた二人は迫り来る敵の一閃を受け止めるべく前へと駆けた。
 決して負けたりはしない。その思いは強く、戦場に満ちていった。

●風鈴の音
 敵が巻き起こした強い風がルリカに迫る。
 だが、その動きを察した玲がすぐさま強風から仲間を守った。鈍い痛みが走ったが玲は動じず、手にした剣で星座の守護陣を描く。
「相変わらず、好勝手してくれるね」
 この風鈴お化けも元は子供が見た無邪気な夢に過ぎない。
 夢を利用して人を襲うような真似は何度でも挫くまで。真っ直ぐな決意を抱く玲が魔力を解放すると、前衛に加護が広がってゆく。
 羽菜は仲間達の動きをしかと見つめ、自らも攻撃を仕掛けに向かう。
「これが私の初舞台となるのですね。……参ります」
 観客は自分の姓と同じ風鈴の姿をしたドリームイーター。未だ己の力は弱いが怖気づきなどしない。掌を握った羽菜は其処に螺旋の力を宿し、一気に敵を穿った。
 シャウラはオライオンに皆を守るよう願い、爆破スイッチを用意する。
「風鈴はなまえのとおり、風に音をつけてすずしさとフゼイを楽しむものだって、ききました。でも……」
 この音はちがう、とシャウラは首を横に振る。
 そして、爆発と共に仲間達の背後に色鮮やかな煙が舞った。その鼓舞を受けながら、ミカも自らの身体へと喰らった魂を巡らせる。
 禍々しい呪紋が全身に宿っていく最中、ミカは夢喰いに視線を向けた。
「風鈴か。夏という概念のセミファイナルみたいだな……」
 彼が語るセミファイナルとは、道端に転がっている死んだような蝉のことだ。
 力尽きていると油断してはいけない。まだ足が閉じきってないそれに近付くと物凄く激しく動き、耳を劈くような声で鳴くのだ。
 つまり、それを通じてミカが言いたいのは――。
「今朝もあれで驚いてきたからなぁ、正直二番煎じで本当に驚けそうにない……ま、好都合なんだけど」
 風鈴お化けなど蝉に劣るということだ。
 高度な皮肉が通じているのか居ないのか、夢喰いはりんりんと音を鳴らす。
「やけに大きな音だね。あまりいい音色じゃないかも」
 それを聞いたリクは興味なさげに肩を竦め、ショルダーキーボードに手を掛けた。其処から演奏されてゆく幻影のリコレクションは戦場に響き、敵の動きを僅かに封じる。
 汐音も狂騒ノ碧キ氷槍を用いて敵を穿った。
「いけない、予想以上に素早いわ」
 されどその一閃はひらりと宙を舞った敵に躱されてしまう。しかし、すかさず駆けたルリカが大丈夫だよ、と追撃に走った。
「風鈴の音色って綺麗だし涼し気だけど、なんで巨大……。最近、巨大金魚も見たけど、やっぱ巨大になると可愛さとか色々なくなっちゃうね」
 真紅の花びらのようなオーラを舞わせ、ルリカは一気に攻め込む。其処へオライオンが尻尾の輪を飛ばしていく。
「ちいさい風鈴をまえあしでおさえるのとはちがうから、気をつけてね」
 シャウラは相棒猫に呼び掛け、自分はいつでも癒しに回れるようにと身構える。
 雨生は仲間の援護を信じ、気咬の弾を解き放った。そのとき、雨生は敵が自分に狙いを定めていると悟る。
「来る……受け止められない、かな」
 やや不安げに呟いた雨生だったが、その懸念はすぐに晴れることになった。
 飛び出したミカが迫り来る音の波紋を敢えて受け、痛みを肩代わりしたのだ。痛、とちいさな声がミカから零れ落ちたが、その瞳はしかと敵を映していた。
「任せておいて。少し痛いけれど、まだ耐えられる」
 ミカは身体に響く衝撃を抑え込みながら、反撃として光の翼を暴走させる。粒子となった一閃で夢喰いを貫き、ミカは身を翻した。
 羽菜も螺旋を描く手の動きに合わせ、禁縛の呪を形成していく。
「喰らってください。さしずめ、火調演舞『火輪炎縄』といったところでしょうか」
 禁縄を迸らせた羽菜は双眸を細め、御業をひといきに解き放つ。決して火捕旋光ではないと自分に言い聞かせた羽菜は緩く首を振った。
 そうして、戦いは続く。
 攻撃をくらわせるにしても、攻撃が飛んでくるにしても、風鈴お化けは鳴り続けた。
 ルリカは眉を顰め、綺麗とは言えない音に溜息を吐く。
「……うーん、りんりん煩い。これ、風鈴じゃないや。風鈴っぽい何かだよ」
 だから遠慮なく、と地面を蹴ったルリカは流星めいた蹴りで以て敵を貫いた。リクと汐音も其処に続き、更なる攻撃を加えていく。
 だが、戦況は良好とは言えなかった。敵からの狙いが分散することで守護役が想像以上の無理を担うことになり、更には回復対象が増えることでシャウラの手が割かれる。
 玲も癒しの補助を行ったが、徐々に体力が削られていくばかり。オライオンも仲間を守り続けているが、既に倒れる寸前だ。
 シャウラは少しの恐怖を感じたが、癒しの手を止めないと心に決める。
「こんなに大きくてずっとなりつづけけてたら、ワビもサビもないいですよ、ね。きっと」
 光盾の加護を仲間に宿しながら、シャウラは風鈴を見つめた。
 蝉の声に、風の音。本来なら彼の少年とて風鈴の情緒を楽しんでいたのだろう。不協和音は止める、と口にした玲は刃を斬り返す。
「風情の欠片もない悪夢は、一刻も早く覚ますとしようか」
 刹那、全てを賭して、全てを断つ紫電の一閃が放たれた。斬られたことすら知覚できぬ一撃は風鈴を斬り裂き、大きな衝撃を与える。
 しかし、次の瞬間。
 それまでりんりんと鳴っていた風鈴の音がひときわ大きく響き渡った。かなり鋭い衝撃が来る、とリクが感じた時には既に遅し。
「気を付けて、その一撃は――」
 ミカが注意を呼びかけるがリクはおそらく避けることが出来ない。されど敵に追い縋った玲がリクの目の前に危険を顧みず踏み込んだ。
「玲さん、ダメだ!」
 リクは思わず叫ぶ。されど狙い澄まされた凛音は真っ直ぐに、まるで呪いのように玲に絡み付き、逃れえぬ痛みを齎した。それによって彼は膝を突き、荒い息を吐く。
「すまないね。後は、頼んだよ……」
 耐え切れなかったと零し、玲はその場に伏した。
 決して玲の行動が悪かったのではない。彼が盾として立ち回ることを選んだ結果だ。暗雲が立ち込めるかのような不穏な空気の中、仲間達は敵を見据える。
 未だ、其処に勝機は見えなかった。

●起死回生
 戦いは激しく、敵に決定打を与えられぬまま巡っていく。
 番犬達の攻撃に対して強風を吹かせて対抗する夢喰いは次々と此方の動きを止めていった。まず汐音が痺れで攻撃を阻まれ、次に雨生が身動きを封じられる。
 すぐにシャウラが若返りの果実を模倣して作り出し、仲間の痺れを取り払った。
「がんばり、ます。だから、みなさんも……」
 失われた生命力が途端に汐音に戻っていくが、援護は後手にまわるばかり。
 積極的に癒しの補助を行っていた玲が倒れた今、リクとミカが回復に努めていた。されど不利益を取り払えるのはシャウラのみ。オライオンも途中までは癒しを担っていたが、今は敵の攻撃によって消滅している。
 攻撃に専念するルリカと羽菜達も焦りを感じていた。
「もう! 風鈴は風鈴らしく、涼やかにしてて欲しいんだけど!」
 ルリカは竜槌を振りあげて氷の一撃を放つ。敵も弱っている様子が見えるが、此方の消耗の方が早かった。何よりも、驚かなかったことによって攻撃の的となっているルリカの体力は殆ど無い。
「あ……もう駄目、かも」
 幾度かの攻防の後、ルリカは強風を受けて身動きが取れなくなり、やがて戦闘不能に陥った。その間も羽菜は必死に業炎砲を撃ち放ち、敵の力を削る。
「いけません。初舞台を、こんな形で終わらせたくはありません……!」
 しかし、羽菜は自分の攻撃が焼け石に水でしかないとひしひしと感じていた。それでも、と顔をあげた羽菜は最後まで戦い続けることを誓う。
 そのとき、風鈴が凛と鳴った。
 汐音は自分に危機が迫っていると察したが、今は誰も庇ってはくれない。
「何時いかなる時も、覚悟くらい決めているわ」
 他の誰かがやられるくらいなら、と考えた汐音は一撃を敢えて受けに行った。そして、汐音はその場に倒れる。
 現在、立っているのはミカと羽菜、シャウラと雨生とリク。
 此方の方が数は多いが、誰もが疲弊している現状は劣勢としか呼べない。
「……まずいな」
 ミカは血が滴る程に拳を握り締め、ちりちりと鳴る風鈴夢喰いを睨み付ける。
 長く続く戦いの中、ミカの体力は癒しが効かぬ程に消耗していた。このまま守りに入るばかりでは押し負けてしまうだろう。
 それならば、と光翼を広げたミカは其処に光粒子の刃を形成した。
「この一手を次に繋げてみせる」
 決死の覚悟で突撃したミカは身体ごと回転し、敵とすれ違いざまに翼の刃で切り抜ける。一閃は風鈴の一部を削り取り、砕けた硝子が辺りに散った。
 一瞬後。敵の反撃がミカの身体を貫き、その翼から光が失われていく。
「諦め、ないで……まだ、負けてはいない。だから――」
 途切れ途切れに振り絞った言葉を最後に、ミカは地に落ちた。だが、彼の一撃は夢喰いを倒すのに十分な致命傷となって巡っていた。
 おそらく、それこそ狙い通り。ミカは刺し違える覚悟で勝利への突破口を開いたのだ。
 リクとシャウラは頷きあい、雨生は雨呪を発動させていった。
「我が名は天喰。雨を喚ぶ者」
 雨生が紡ぐ魔の波動が巡りゆく所へ生きる事の罪を肯定する楽曲が流れ、イズンの林檎が作り出される。シャウラ達の癒しは後押しとなって広がった。
 たとえ己が未熟だとしても、この意志は折れていない。羽菜はよろめく風鈴を強く見つめ、自分の最大限の力を解放しようと決めた。
「この一閃で終わらせてみせます。風が奏でる羽菜の舞、ご覧くださいませ」
 握り締めた拳に誓いと思いを込め、羽菜は敵に向けて駆けてゆく。
 そして、螺旋の力が敵を貫き――戦いの幕は此処で下ろされた。

●季節の巡りに
 夢喰いは幻のように消え去り、後には夕暮れの静けさが残る。
 滑稽な見た目ではあっても敵の力は強かった。倒れた汐音は未だ意識を失っており、ミカと玲、ルリカはかなりの重傷を負っている。
 彼らよりも傷は軽いとはいえ、雨生とリクも相当な痛みを抱えていた。
「甘く見てたわけじゃないんだけど……」
「ごめんね、ありがとう」
 雨生は深く息を吐き、リクも肩を落とす。
 今回は下手をしたら全滅するか、敵に逃げられていたかもしれない。だが、勝利を得られたのは果敢に守り続けてくれた玲とミカのお蔭。そう感じたリクは感謝を伝えた。
 羽菜もミカの手当てを行いながら礼を告げる。
「本来なら私が倒れていてもおかしくなかったというのに……申し訳ありません」
「いや、これくらい慣れてるから。それよりも……」
 護れてよかった、とミカは双眸を細めた。身体に残る痛みは深いが、ミカと玲の傷は名誉の負傷だ。仲間の誰もがそう感じているだろう。
 ルリカも苦戦が続いた戦いを思い返し、デウスエクスの力量を改めて知る。
 一歩間違えば窮地に陥る。それが戦いというものだ。
 この作戦の失敗は次に活かそうと心に決めたルリカは、ふと風鈴お化けが奏でていた音を思い出した。
「本物の風鈴の音色が恋しくなってきたなあ。夏、もう終わりだもんね」
 聞きたいな、と顔をあげたルリカは仲間達に明るく笑いかける。暫し療養が必要な傷だが、この痛みも教訓になるはずだ。
 皆に応急手当てを施したシャウラは頷き、夕暮れ色の空を見あげた。
「はい、かわいい音がききたいです」
 シャウラはオライオンが復活したら音色を聞かせたいと考える。
 きっと、今頃は意識を奪われて眠らされていた少年も目を覚ましている頃だろう。玲は痛む身体を起こし、そっと願う。
「今度こそ良い夢を」
 ――そして心穏やかに次の季節を迎えられるように、と。

作者:犬塚ひなこ 重傷:ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150) 高辻・玲(狂咲・e13363) ミカ・ミソギ(未祓・e24420) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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