カッパが潜むプール

作者:青葉桂都

●カッパはカッパッパーと笑う
「ねえねえ、面白い噂を聞いたんだけど、知りたくない?」
 夕焼けに赤く染まった教室で、その女子生徒は唐突に声をかけてきた。
 窓から差し込むオレンジ色の光を背にした彼女が、自分たちとは異質な空気を放っているのを感じて、無駄話に興じていた数人の少女たちが口を閉ざす。
「夏にぴったりな怪談話よ。興味あるよね?」
 問いかけられた少女たちが、思わず首を縦に振った。
「この学校に、プールが2つあるのはもちろん知ってるよね。体育館のそばにあるプールと、校舎裏にある閉鎖されてるプールと……」
 表向きは老朽化のため閉鎖されているということになっているけど、と彼女は言う。
「閉鎖されてるプールにも、実はずっと水がはってあるのは知らないよね?」
 どうしてだと思うか問いかける彼女に、女子生徒たちは首を横に振る。
「実はね。そのプールにはカッパの群れが住み着いちゃったの。カッパが人を襲うから、仕方なく新しいプールを作ったのよ」
 でも、と彼女は言う。
「一度水を抜いちゃったことがあって、カッパが外に出てきて人を襲う事件が起こっちゃったのよ。全身の水分を奪われてカラカラになった死体がいくつも見つかった」
 事件の後カッパのプールを見に行った人は、プールに変な色の液体が少し溜まっているのを発見した。カッパがプールを満たそうとして事件を起こしていたのだ。
「それ以来、プールにはずっと水がはられたまま。夜に近くを通って、泳いでる音を聞いた人が何人もいるけど、聞いたことない?」
 女子生徒たちの顔を見回す。
「でも、絶対に近づいちゃだめよ? 凶暴なカッパに襲われちゃうからね。知らずに近づいて……そのまま行方不明になった人が何人もいるんだから」
 恐怖に息を呑む音を女生徒たちが漏らした。
「それ……本当の話なの?」
 1人が我に返って問いかけたとき、すでに彼女は姿を消していた。
 沈黙がしばし、続く。
「なんだったのかな、今の子……うちのクラスの子じゃないよね」
 誰かが声を上げたのを聞いて、他の少女たちも会話を再開する。
「カッパかあ……怖いけど、ちょっと見てみたいね」
「でも、襲われちゃうんだよね」
「男子が一緒なら大丈夫じゃない?」
 カッパの話題は、しばらく続きそうだった。

●カッパの犠牲を止めろ
 集まったケルベロスたちに石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は新たな屍隷兵の活動が確認されたことを告げた。
「事件を起こしているのは『ホラーメイカー』というドラグナーです」
 ホラーメイカーは作成した屍隷兵を学校に潜伏させる。そして、学校内でその屍隷兵を元にした怪談を広めて、生徒が潜伏場所に自ら向かって犠牲になるよう仕向けるのだ。
「今回事件が起こることを予知した学校では、使われていないプールにカッパが住み着いたという噂が流れています」
 これは篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)の調査を受けて予知された事件だ。
 夜のプールにカッパのお化けが出る噂について調べていたことで判明したのだという。
「放置しておけば、プールを調べに行って犠牲になる生徒が出るでしょう」
 現場であるプールに向かい、屍隷兵を撃破して欲しいと芹架は言った。
 また、現場に生徒が来ないように対策する必要もあるだろう。ヘリオンで直行すれば到着は夜になる。忍び込む生徒が出てきそうな時間帯だ。
 次いで、芹架は敵について説明を始めた。
 プール内にはカッパ型の屍隷兵が6体潜んでいる。数は多いものの、戦闘能力はデウスエクスとしてはそれほど高くない。
 ホラーメイカー本人はすでに姿を消しており、今回交戦することはない。
「屍隷兵はまず、触れた相手の水分を吸い取って自身を回復しつつ攻撃をしてきます」
 相撲の技で力任せに投げ飛ばして攻撃することも可能だ。相手を挑発する効果があり、思わずこの敵を狙ってしまうようになる。
 また、津波を起こす範囲攻撃を起こすこともできる。受けると波に足を取られて、攻撃を回避しにくくなってしまうようだ。
 戦場は老朽化して閉鎖された学校のプールだ。
「カッパの姿をしていますが、別に水中だと強化されるといったことはありません。ケルベロスが相手なら普通にプールサイドで戦おうとしてくるでしょう」
 プールには一応水がはられているが、腰ぐらいの深さでケルベロスやデウスエクスが溺れることは万が一にもあり得ない。
 仮に落下しても戦闘に大きな影響はないだろう。
「幸いなことに、今回の現場となった学校ではまだ犠牲者が出ていません。ですが、早急に解決しなければ時間の問題です」
 今のうちに撃破して欲しいと芹架は最後に付け加えた。


参加者
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)
月見里・一太(咬殺・e02692)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
テトラ・カルテット(碧い小鬼・e17772)
カティス・フォレスター(おひさま元気印・e22658)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)

■リプレイ

●夜の学校にて
 もう日も暮れたその夜に、ケルベロスたちは学校の敷地内を移動していた。
「学校の七不思議、でしょうか。度胸試しにはもってこいかもしれませんが、放っておくわけにはいきませんからね」
 カティス・フォレスター(おひさま元気印・e22658)は暗い空をながめて呟いた。
「怪談は怖いけど気になる、そういうものです。だからこそ、それを悪用して犠牲者を増やすホラーメイカーの好きにはさせません、必ず解決しましょう!」
 蝶に似たキアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)の翼が、夜闇におぼろな光を放っている。
「ホラーメイカー、か。そういう響きは好きだが、やってることは難儀だな」
 リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)が、毛先だけ赤い前髪のそばで眉をひそめる。
「河童とか、本物なら楽しいのに……屍隷兵とあっては、被害が出る前に倒すしかあるまい。ちょいと気合入れていこうか」
「屍隷兵の研究はまだ進んでるってことかしら」
 思案顔をしたのは、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)だ。
 2人の言葉を聞いて、オラトリオの少女が表情を曇らせた。
「屍隷兵……嫌なものですよね、死者を操る敵というのは……。お父さん、お母さんを殺した死神を思い出しちゃいます」
 神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は軽く目を閉じて忘れたい記憶を頭から追い出した。
「ええ、これ以上の犠牲者なんて出させません。絶対に」
「そうね。今はできることをやっていきましょう」
 校舎から少し離れた古いプールが見えてきた。
 会話しながら移動するケルベロスたちは、中庭のあたりで人の気配を感じる。
 小さな声を交わしながら肝試しに来ていたらしい生徒たちが逃げていく。
 追おうと思えばできたが、それよりもプールの周囲に近づけないようにしてしまうことにした。
 何人かで協力し、建物の周囲に立入禁止のテープを張っていく。一般人の接近を防ぐテープの長さには限度があるが、人数をそろえていたおかげで完全に囲むことができた。
「カッパですかぁ……見るのはちょっと楽しみですけどぉ……。水分を吸い取られるのは御免被りたいですぅ……」
 人首・ツグミ(絶対正義・e37943)が間延びした声を出す。
「でも、カッパがいるだなんてドラグナーさんも可愛いこと考えるんだねぇ。この時の為にカッパ兵さん作ったのかな……よよよ、なんてけなげだこと」
 テトラ・カルテット(碧い小鬼・e17772)が涙ぐむ仕草をしてみせる。
 あるいはカッパに似たものができたからそれに合わせて怪談を作ったのかもしれないが、どちらが先だろうが屍隷兵は屍隷兵だ。
 先ほどの生徒たちが戻って来られないよう、テトラは殺気を放った。
「このおどろおどろしくもチャーミングな気配……にゅっふっふ悪い子はいねがー! キープアウトテープな皆もあたしに続けーっ!」
 ヘッドライトを身につけて、ウイングキャットのエチルと並んで駆けていく彼女を、仲間たちも追っていく。
 暗いプールを、カティスやバジルの用意した光源がかすかに照らしていた。
 プールの奥から気配が近づいてくる。
 浅い水をかきわける、屍隷兵たちの姿が明かりに照らし出された。その頭部が光を反射して鈍く輝く。
「番犬様が迎えに来てやったぞ! 地獄に帰れ屍共が!」
 狼の姿となった月見里・一太(咬殺・e02692)が、牙を剥き出して吠える。
「カッパー!」
 屍隷兵たちは水を蹴りたててケルベロスたちへと飛びかかってきた。

●屍隷兵たちの猛攻
 近くまで来ると、屍隷兵たちは一様に頭頂部だけ毛がないタイプの禿頭であることがわかった。
 いわゆるカッパ禿というやつだ。
 体表を緑色に塗られた禿頭の屍隷兵たちはコミカルな姿に見えたかもしれないが、彼らが死体から作られたと考えれば笑う気にはならないだろう。
 一体が津波を起こして、前衛のケルベロスたちに叩きつける。
 だが、次の敵が攻撃してくるより早く、一太が獣の拳を叩きつけ、鈴が重力を操って飛び蹴りを放つ。
 テトラは前衛と思しき敵が一太に迫っていく、その前に割り込んだ。
 小さな体が投げ飛ばされるが、空中で回転して体勢を立て直しながら美少女親衛隊召喚機を構えた。
「美少女親衛隊の皆! お仕事お仕事ー!」
 飛び出した紙兵たちが仲間を守るべく飛び回る。
 たとえ投げられながらでも、テトラは笑顔を忘れない。
 触れようと迫る次の一体の横を軽く跳ねながらすり抜けて、攻撃を回避してみせる。
 とはいえ、さらに別の敵が放つ津波はさすがにかわせず、動きが鈍ったところを投げ飛ばされてしまった。
「ろ、老骨にはちょっとばかし厳しいかもかも……」
 受け身も取れずに衝撃をまともに喰らって、彼女は呟いた。
 美少女を自称し、見た目はまだまだ若いテトラだが、実際には若作りしているだけでけっこうな年齢なのだ。
 最後の1体が襲いかかってくるが、それをかばってくれたのはエチルだった。
「助かったよ、エチル。まったくもう、あいつら許せないね」
 テトラは思わず敵をにらみつけていた。
 カティスが弾丸のような黒い物体をばらまいて敵陣を制圧する。
「少し毒気を抜かないと」
 バジルはテトラへと手を向けて、呟いた。
 頭に血が上っている……いや、カッパによって上らされている『美少女』へと、オーラが白い蛇の形をとって伸びていく。
 仲間を癒す命綱であり、足枷でもある白い蛇がテトラに絡みつく。
「無茶しないでね」
「へ? うんうん、もちろんわかってるよ! あたしの仕事はみんなのサポート! 美少女に甲斐甲斐しく世話焼いて貰えるなんてご褒美でしょでしょっ☆」
 頭をぶんぶんと振りながらテトラが答え、バジルは静かに頷いた。
「数がいるのが厄介ですね。今癒します。蒼の抱擁にて、再び立ち上がる力を!」
 キアラも優しい光をテトラへと放ち、護っているようだ。
「ええ。うまく回復していきましょ、キアラちゃん」
 頷く彼女と共に、バジルは後方から敵の動きをよく見始めた。
「河童か……河童とタヌキのCMがあったな。タヌキの方が好きだが……ここの河童は特に可愛く無いな」
 前方では、リーファリナがしょんぼりした顔をしながらも鋭い蹴りで敵を吹き飛ばして、ツグミがミサイルを敵前衛に降り注がせていた。
(「可愛くない、か……。屍隷兵だし、地球の人が犠牲になってるのよね……。……これ以上の被害を出さないためにも撃破させてもらうわ」)
 もはや人であったことも忘れて襲ってくる屍隷兵を見て、バジルは思う。
 プールサイドで敵味方が入り乱れて、乱戦は続いた。
 1体1体の攻撃は強力ではないものの、今回は何しろ手数が多い。
 テトラとエチルのほか、カティスのビハインドであるタマオキナも仲間たちを攻撃からかばっていたが、すべてをしのぎきることはできない。
 ツグミは自分の体に屍の手が触れるのを感じた。
 体内の水分が接触した点を通して吸い取られていく。
「やられちゃいましたねーぇ」
 水分を奪われた体がきしんでいるが、間延びした彼女の口調が変わることはない。
 自分の血も、他人の血も、流れたところでツグミは意に介しはしなかった。
「お母さんから受け継いだ浄化の光……貫いてっ!」
 攻撃した敵を巻き込むように、鈴の翼から光が広がっていく。
 その光の陰に隠れてツグミは敵に接近した。
「仕方ないから……吸い返しましょうかーぁ」
 この敵は、弱っているからこそツグミから体力を吸い取っていったのだ。鹵獲した魔術と降魔拳士の力を無理やり融合させつつ、軍服の少女は敵に迫る。
「あなたの全て。余さず残さず有効利用してあげますよーぅ♪」
 抉り取るように突き立てた右手が、カッパの中にあるものを吸い尽くしていく。
 すべてをエネルギーに変換しながら引き抜くと、敵はプールへと落下していった。
 1体が倒れても、敵は意に介する様子はなかった。
 後方から接近した2体の敵が、リーファリナと一太にそれぞれ組み合った。
「力比べと行こうか! 一気に押し切ってやるぞ」
 押し合うリーファリナの横で、唸り声で威嚇しつつも一太が投げ飛ばされる。
「やりやがったな屍が!」
 怒りにかられた一太が如意棒を敵に向けた。一気に伸びた棒が痛烈にカッパを突く。
 カティスはすぐに、同じ敵へと狙いを定めた。
「覚悟してください……少しばかり痛いですよ?」
 弾丸の形へと変じたサボテンを飛ばす。命中した敵のエネルギーでサボテンは一気に肥大化して、敵を貫く。
 タマオキナがポルターガイスト現象を起こしてさらにその敵を打った。
「さきにあの敵から片付けてしまいましょう」
「ああ、わかった!」
 呼びかけに応じた仲間たちも遠距離攻撃を集中させていく……2体目が倒れるまで、さして時間はかからなかった。

●カッパの川流れ
 残る敵は4体だった。
 1体1体の敵はさして強くはない。敵の数が減れば減るほどに、ケルベロスたちは有利になっていく。
 中衛にいたカッパが津波を起こした。
 後衛のケルベロスたちが頭から水を浴びる。
「ひぅっ! 汚い!? これプールの水ですか!? そ、掃除してないからなんか変な虫とか蛙の死骸とか気持ち悪いのが……」
「言うな! 私たちはさっきから何度もそれを浴びてるんだぞ!」
 悲鳴を上げた鈴に、リーファリナが思わず叫んだ。
「美少女らしくない……」
 テトラとエチルがそろって肩を落とす。
「で、でも……。んきゅ……こんな事で怯んじゃダメ……きゃあああっ」
 ボクスドラゴンのリュガが、そんな彼女に属性をインストールして回復していた。
 一太は彼女らを尻目に波を起こした敵に接近した。
「浴びたくなけりゃ、さっさと片付けりゃいいのさ」
 闇に紛れる漆黒の毛が、一瞬だけライトを反射しながら駆ける。
 中衛の敵がもう死にかけなのはわかっている。
 牙にグラビティを込めて、狼は大きく口を開けた。
「屍だろうが関係ねぇ――咬み殺す」
 喉の肉を食いちぎると、屍隷兵の首が後ろに倒れてぶらさがり、その勢いで体のほうも倒れていった。
「……美味くはねぇな。河童は珍味って聞いたんだが」
 肉を吐き出して、一太は呟く。
「帰ったらお風呂入らないと」
 鈴の声が背後から聞こえてきた。
 少しでも長く生き延びようというのか、敵がケルベロスたちの水分を吸い取ろうとする頻度が増している。
 リーファリナはある意味危機に陥っていた。
「やめろ、水分を取るな!? お肌に悪いだろう!?」
 テトラたちがちょくちょくかばってくれているので体力的には大丈夫だが、三十路の婚活ケルベロスには気になるポイントだ。
 もてなくなったらどうしてくれる! ……と、言おうとして、かつてもてたことが今まであったのかどうかと思わず自問してしまう。
「吸われたら吸い返せばいいんですよーぅ。ほら、こんな風にーぃ」
 右手を突き刺しながらツグミが告げた。
「それができるならっ……。ああもう、全てを打ち砕く界の怒りよ。力の猛り、轟きをもって我が敵を討ち滅ぼさん!」
 魔術円から砲門が姿を現す。異なる界の力が、今しがた彼女から水分を吸い取った敵を容赦なく撃滅していた。
 残る敵は2体。
 もはやケルベロスたちの勝利は疑いようがなかったが、屍隷兵たちが逃げ出す様子はない。
「回復はもう1人でも足りそうですね」
 キアラはバジルに声をかけた。
「そうね。リューちゃんも手伝ってくれているし、交代で攻撃にも加わってよさそうね」
 ボクスドラゴンに目を向けながらバジルが答えてくれた。
 仲間たちが狙っている1体へキアラは長槍を向ける。
 もはやボロボロとなったカッパたち。キアラも好奇心の強いほうなので、もし同じような噂を聞いたら調べに来てしまうかもしれない。
「だからこそ……見逃すわけにはいかないんです」
 槍に象った蝶が、ライトに照らされてもなお暗い闇の中に浮かびあがる。
 敵の弱点を見定めて振るう槍が、5体目を打ち倒していた。
 最後の敵へケルベロスたちの攻撃が集中する。
 鈴は幾たび目か、重力を操った蹴りを敵へと叩き込む。
「ふむふむ、キミはここ斬るとダメそうだね?」
 テトラが死角から襲いかかったかと思うと、カティスが時空を凍らせる弾丸を撃つ。
 一太やツグミのドラゴニックハンマーが砲撃形態となって敵を打ち、リーファリナのハンマーが凍り付かせる。
 バジルやキアラも、もう回復は不要と判断して螺旋の力や御業による炎を放っていた。
 最後のあがきか、襲い来る津波をテトラとエチルが受け止めた。
「にゃははー! あたしとこの子の可愛さの前には無駄なあがきっ! もう諦めるのだ!」
 カッパはなにも答えなかった。
 弱った敵へと、鈴は天鈴弓を静かに構える。
「……助けてあげられなくてごめんなさい」
 屍隷兵にされてしまった名も知れぬ誰かへと告げて、審判の矢をつがえる。
「この光があなた達の救いになってくれる事を……」
 もはや地球を愛せなくなってしまった誰かにケルベロスができることは、1つしかない。
「ジャッジメントアロー!」
 放った光の矢は最後の敵を貫き、光の中に消し飛ばす。
 そして、プールには再び静寂が訪れた。

●良い子は家に帰る時間
 静かになったプールの前で、リーファリナが大きく息を吐いた。
「プールや渚で男の視線を集めるはずが、河童か……」
「気を落とさないでください、リーファリナさん。お日さまの下でのんびりしてたら、細かいことは気にならなくなりますよ」
 肩を落とすリーファリナを、カティスが元気づけた。
「閉鎖されてはいますがぁ……。一応、戦闘痕などあればヒールしておきましょうかーぁ」
 ツグミの言葉に一太が同意し、ケルベロスたちは戦場を手早く片付けた。
 屍隷兵たちの死体を一カ所にまとめ、鈴やバジルが目を閉じる。
「今はまだこれくらいしかできないけれど」
「殺された挙句、河童になんてされたくなかったですよね……。安らかにお眠りください……」
 彼らを蘇らすことも、元に戻すこともできない。手を合わせてあげるくらいしかできないのだ。
 しばし祈りを捧げる2人を邪魔する者はいなかった。
 後始末を終えたケルベロスたちは、校舎へと向かった。
「もう危険はないですけど、肝試しを続けさせてあげるわけにはいかないですからね」
 気持ちはわかりますけど、とキアラは呟く。
「見るならカッパより美少女だって教えてあげるのだ!」
 校舎の一角に隠れている生徒たちはすぐに見つかった。
 震えている生徒たちへと一太が近づいていく。
 覗き込んだ狼の頭に、悲鳴があがった。
「気持ちが解らんとは言わんがな。だが、夜中に出歩くのは感心できねぇぞ。帰れ、送ってやっから」
 おびえている者たちが落ち着くのを待って、一太が声をかける。
 彼らが再びホラーメイカーの怪談を聞かないよう、ケルベロスたちは願った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。