ミッション破壊作戦~晩夏の空挺大作戦

作者:のずみりん

「そろそろ晩夏の様相だが、魔空回廊破壊用のグラディウスが再使用可能になったぞ」
 リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は輝く小剣型の兵器『グラディウス』を並べ、ケルベロスたちに呼びかけた。
 この全長70センチほどの小剣はデウスエクスとの戦いには使えない。もっと巨大な獲物……デウスエクスたちの地上侵攻の要『強襲型魔空回廊』を破壊するための武器なのだ。
 強襲型魔空回廊を破壊するという事はデウスエクスの侵略拠点『ミッション』を破壊するということ。デウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込めるということ。成功すれば世界に与える恩恵は計り知れない。
「グラディウスは使い捨ての装備ではないが、グラビティ・チェインを吸収して再使用可能になるまで相応に時間がかかる。どのミッションを攻撃するかは皆に任せるので、相談して決めてくれ」

 グラディウスの使い方はごく簡単だ。魂の叫びでグラビティを高め強襲型魔空回廊の周囲を覆うバリアへと接触させればいい。
 問題になるのは強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢ということだが、そこは私たちの仕事だとリリエはヘリオンを指す。
「要はいつも通りだ。ヘリオンで目標直上まで送る、強襲型魔空回廊まで空挺強襲をかけて、そのまま離脱してくれ」
 強襲型魔空回廊の周囲のバリアは半径30mと巨大で、高空からでも外すことはまずない。
 更にグラディウスによる攻撃は雷光と爆炎を発生させてグラディウス所持者以外を薙ぎ払うため、攻撃後の撤退も速やかに行える。
「回廊の耐久度だが、理論上では8人のケルベロスがグラビティを極限まで高めて回廊にグラディウスを集中すれば、一回の作戦で破壊できるし、また破壊できなくとも回廊にダメージは蓄積するから無駄はない」
 およそ十回も攻撃すれば確実に破壊できるだろうとリリエはいい、だから無理はするなと続ける。
「回廊の破壊は重要だが、回廊は攻撃を続ければ必ず破壊できるものだ。降下攻撃後は無理せず、命とグラディウスを第一に帰還してくれ」
 グラディウスによる攻撃で一時的に無力化できるとはいえ、強襲型魔空回廊は敵の重要拠点だ。素早く行動すれば連携しての包囲は避けられるだろうが、妨害する敵と一度は戦いになるだろう。
 素早く倒し、デウスエクスが態勢を回復する前に脱出できなければ、降伏するか暴走して撤退するしか手はなくなりかねない。グラディウスも危険にさらされるだろう。
「遭遇するだろう敵はミッション地域ごとに特色がある。攻撃目標を決める際は、それを参考にするのも手だろう」
 混乱状態になるとはいえ、回廊周囲のデウスエクスたちは精鋭だ。迅速な行動と決断が必要になる場面も多い。情報と覚悟はあるに越したことがないはずだ。
「行先は決まったか? ……では往こうか、ケルベロス」


参加者
榊・凛那(神刀一閃・e00303)
クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
コール・タール(マホウ使い・e10649)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)

■リプレイ

●晩夏の空を降る
 クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)にとって、小松の空は見慣れた空だった。
「姉さん、見てる?」
 呟きに答えはない。わかっている。
 超高空からの空挺強襲では、タイミングを選べる攻め手が圧倒的に有利だ。ダモクレス達の隙をつき、反撃に飛び立つ間も与えずに一撃……これまで何度も仕掛けてきた戦術。
 だから今……この降る空のわずかな時間は自分たちのものだと、ケルベロスたちは知っている。
「空港を爆撃する、誘拐されたクロエの姉ちゃんを元にした飛翔機士……デウスエクスはどいつもこいつもえげつねぇ真似をしやがる」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)は彼の追う死神を重ね、その怒りを込めてグラディウスを握る。
「空港は多くの人の夢、希望を乗せて飛び立つ空の玄関口……返してもらうぜ、クロエの姉ちゃんも、この空も!」
「これ以上ダモクレスの……侵攻はさせない……姉妹同士で戦うのは悲しい、けど……」
 静かに頷く霧崎・天音(星の導きを・e18738) の髪で色違いのリボンが風になびく。袂を分かち、その手で決着をつけた彼女の姉との思い出は、表に出ない彼女の感情を語るように激しく揺れた。
「因縁と悲しみはおしまいにするぞ。この空は略奪だけの餌場じゃねぇんだ」
「あぁ、飛行機も、基地も、一般人だって必死に皆を守ってんだ。日本中の人間の命を脅かすダモクレスは、今ここで潰すまでだ」
 天音たちに続くはコール・タール(マホウ使い・e10649)、村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)。
「同感……うちの一族、代々カウンターテロ要員みたいなものでね。その血に連なる者として、ブッ潰さないと沽券に関わるんだよ!」
 仲間たちの因縁は果たしてやりたい、それ以上に彼女らを弄び、人々を脅かすダモクレスを許せない思い。エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)の使命、義憤、そして精霊結晶が研ぎ澄ます感覚が指し示す敵への闘志に、グラディウスが輝きを放つ。
「先触れ、いくよ。クロエ……届かせるよ、絶対」
 雲を裂いた地上には今まさに飛び立たんとする飛翔機士の姿。
 三度にわたり回廊へと挑んできたクロエの話はよく聞いている、彼女の失った人……それが自分の大切な人であったら? 思いを重ね合わせ榊・凛那(神刀一閃・e00303)はひるむことなく敵陣へと突入した。
 クロエの願いを叶えたい、彼女は強く願う。
 回廊の破壊がクロエの姉の奪還に何処まで繋がるかはわからない。だが、それでも。
「……えぇ。見えてなくても感じさせるわ」
 何かをやらなければ永遠に届かない。眼下の飛翔機士たちを止め、空を取り戻さなければ。
 迫る敵性反応に唸りをあげて起動するマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の戦闘システム。『突入態勢、彼我の優位に変化なし』
 ショルダーシールド『HW-13S』をダイブブレーキに最終調整。
「アンタらはもう十分に飛んだだろう? 他にも飛びたい奴が大勢いるってことだ! SYSTEM COMBAT MODE ENGAGE!」
 コールにあわせ、突き立てたグラディウスが破壊を解き放った。

●戦果始末
『砕く意思を!空を取り返す、妹の本気をねっ!』
 突き立てたグラディウスにクロエはこれまでと違う手応えを感じた。
「……姉さん?」
 呟きは閃光と爆音に消え、応えはない……いや。
「イヤな流れは……断ち切れたかな?」
「ああ……俺たちに守れない物はない!」
 半信半疑といったエリシエルの問いに、柚月は力強く頷いた。
 魔空回廊は消えていた。その周囲を守る障壁ともども、跡形もなく。
「やったよ……クロエ……クロエ?」
「……ありがとう。気のせいかな、今……」
 言いかけ、クロエは凛那と共に身を投げた。
「MISSON UPDATE,ENEMY INCOMING……!」
 エンジンが奏でる爆音のなか、降着姿勢を起こすマークが警告する。
 二人のレプリカントから展開される攻防の支援子機を跳ね飛ばし、滑走するは鋼の戦乙女。飛翔機士。
「っとに、余韻もあったもんじゃない。用事も済んだことだし三十六計、だね」
 煉へとグラディウスを投げ渡し、エリシエルは『二代孫六兼元真打』を鞘走らせる。ターンする飛翔機士めがけ、勢いのまま横凪……と、いうところからいきなりの転回。
「!?」
「そちらも必死だろう。とっととお暇するさせてもらうよ」
 瞬間、剣を支えにした飛び回し蹴りが飛翔機士の上半身を強かにうつ。エリシエルの剣は初見殺しの奇剣、その技においては真打の名刀すら、自在に囮に変化する。
「一気に撃破して、さっさと終わらせないと……」
「んだな。時間もねぇんだ、速攻で潰す」
 繰り返す攻撃の中、ケルベロスたちの経験は飛翔機士、ダモクレスたちを上回っている。後はどれだけ早く離脱できるか……天音のほったグラディウスをケルベロスコートへ直接受け、回転する煉。
「よろしく」
「皆まで言うなって!」
 天音の螺旋氷縛波を追いかけ気味に煉の蹴りが疾走する。氷の螺旋をぶち抜き、加速する『スターゲイザー』の一打が飛翔機士を来た空へと打ち返した。
 魔空回廊なき大地の上空、それでも旋回し、再び向かってくる飛翔機士の心境はいかなものか。あるいは彼女らも……?
「いつも通りだ。敵は殺す」
「……そうね。今はそれしかない」
 ちら、と見やったクロエに頷き、コールは魔法陣の形成を加速する。敵は殺す、同時にそれが因縁を晴らす手助けとなるのなら願ったりだが。
「ビーム、くるわよ!」
 マークの放つ『XMAF-17A/9』アームドフォートの弾幕をかわし、体勢を立て直す飛翔機士のパターンをクロエが警戒する。
 クイックポインターの照準光、ガトリングガンの斉射にもひるまぬダモクレスの突進だが、大丈夫だ、問題ないとコールは召喚する得物で応えた。
「―――皆、殺す。お前らが戦う意志を見せ続ける限り―――」
 引かれる結弦に合わせ、それは顕現した。
 伝説に語り継がれる超弩級の戦斧。名づけるなら『伝承武具・戦滅する賢者』
「――殲滅せよ」
 弾かれる黒塗りの大弓。余りの巨大さゆえに砲弾としてのみ扱われる鏖殺の象徴は呼応し、描かれた砲身から空へと放たれた。

●決着の最期
 凍気の激流を切り裂き、斧が飛ぶ。その破壊エネルギーを減しながらも、十分な威力をもってコールの斧は飛翔機士を直撃する。
「効果は十分……だが、さすがに耐える」
『データ、送信……データ、送信……』
 コールの呻きは聞こえたか、よろめきながら飛翔機士は雑音まじりの通信を繰り返す。それは見る者により、悲鳴にも怒りの叫びにも聞こえた。
「こうも見た目じゃ区別つかないってのはな……いや」
 彼女らもクロエの姉のように純粋に空を求める者たちだったのか、あるいは最初からそのように作られたそんざいだったのか。ふと思いながらも、柚月は首を振って動きだす。
「確かなのは、今……お前が汚していい場所じゃねぇってことだ。マーク!」
「ROGER」
 エクスガンナーシステムの指揮するレーザードローンの支援の下、柚月はチェーンソー剣を手に走る。
「暗闇射抜くは漆黒の瞳! 顕現せよ! スナイパーアイ!」
 逆手で引き抜くは終わりなき闇を切り裂く光の力を宿したカード。光の壁として顕現した力を通過し、それを宿した鎖鋸が飛翔機士へと叩きつけられる。
 逃れようともがくダモクレス。
 チェーンソー剣の力に引っ張られた巨体が横転し、翼をぐしゃりと潰していく。
 もがくように放たれるミサイル、一斉射。
「これ以上の手間は……えぇいっ、私の生命、預けるわ。大事に使いなさいよ」
 かわして仕切り直すか? 覚悟で突っ込むか? いち早くクロエは決断した。円陣を組む三基のヒールドローンが、凛那へと収束された癒しの光を照射する。
 よろめく意識を感じ、膝をついたクロエの前を彼女の剣が駆ける。
「確かに預かったわ……今日のあたしは守護の剣! たとえ折れてもクロエを、みんなを守る!」
 着弾するミサイルの熱波、爆風。だがそれを上回る力を背中に受け、凛那は踏み込む。
「我が剣、我が心、束ねて一刀と為さん。されど、我が剣は曇りを許さず……其は唯、守(も)る者の為、道を拓く刃なれば!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァー!」
 使い手の技量、霊力が開く霊力の刃、神魔調伏の真の姿が両翼ごとにランチャーを打つ。返す刀は凍結光線が阻止するも、これで空は封じられた。
「まだ……あと一歩……!」
「十分だぜ。ここは……継ぐっ!」
「ボクが……いや、ボクたちが、だね」
 動けぬ凛那を超えて飛ぶのは煉、エリシエル。守りが凛那の領分なら、最後の決は彼らの役目。
「万理断ち切れ、御霊布津主!」
 加速する最速の斬撃が装甲を破り。
「これが……俺の牙だっ!」
 降魔真拳の奥義が狼のように食らいつき、蒼炎を注ぎ込む。傷口より炎を噴き上げ、飛翔機士の身体が空へ舞う。
 炎を上げ、その身を砕き飛び続け……飛翔機士は空へと消えた。

●振り返る空
 開けた突破口をケルベロスは走る。
「MISSION COMPLETE CLEAR SKY」
「急がないと……ダモクレスの侵略、また始まっている、から……」
 ひとまずの戦闘終了を告げるマークの声に、天音が早くも走り出す。
 ダモクレスの拠点は破壊されたが、まだ多くの敵は残存しておりケルベロスたちには変わらぬ脅威だ。やることがいつも通り、混乱の回復を待たずの突破撤収。
 マークの『LU100-BARBAROI』のクローラーが咆哮するのを皮切りにケルベロスたちは駆けだした。
「折れるまで無理しないでよ。その。寝覚め、悪いし……」
「お互いに、ね」
 少し素直じゃない感謝と共にクロエは傷ついた凛那を背負う。煙幕の中に放たれた天音の閃光弾を囮に、一行は騒音の増した敵拠点跡を走る。
「殿、引き受けるよ」
「わりぃ、頼むわ」
 煉が抑えるコートの懐には、皆から預かったグラディウスがある。飛翔機士との戦いで消耗しているのはお互いだが、ここはエリシエルに任せるのが上策だろう。
 ……彼女が捨て身の覚悟を決めるような事にはならないでほしいものだが。
「CAUTION,SMOKE EMPTY」
「……見えたぞ、蓮池公園だ!」
 最期の発煙筒の煙が薄れる先に、うっすら浮かぶ遅咲きの蓮花。柚月は快哉を小さく叫んだ、その瞬間。
「とらえられた、か?」
「……おそらく、大丈夫。去っていく……」
 一瞬の暗転、そして風が吹いた。
 伏せたまま弓を抜くコール、答える天音もまた火球を伏せ手に構え、油断なく様子を伺う。静寂が戻るまで、しばし。
「生きているのね、まだ……」
 クロエはぽつりとつぶやく。空に飛行型ダモクレスの姿はすでになく、追いつくことはできない。
 魔空回廊を中心とした拠点の破壊は所属するダモクレスたちにも影響を与えてくれるかもしれない、もしかしたら何処かにいる彼女の姉にも……だがその結果をクロエが知る時間は今はまだない。
 奪還か、悲劇か、結末は決まっていないともいえる。

「クロエ……あれ、泣いてる?」
「凛那だって……バイタルサイン、乱れてるわよ」
 気づけば小松基地の外縁で、気づけば涙が頬にあった。
「……良い後方支援だった。さすが、エルブランシュガルディエンヌだな」
「う、うん……ありがとう」
 多くを語る時ではない。戦術システムに問うことでもない。マークの彼らしい労いを仰ぎ見やり、クロエはそっと礼を告げた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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