割れ鏡の悪魔

作者:七尾マサムネ

 とある放課後の事。
 教室に残った中学生男子3人組が、無駄話に興じていた。
「ねぇ」
 唐突な呼びかけ。
 3人が振り返ると、教室の入り口に、フードを被った少女が立っていた。
「あなた達、怪談は好きかしら?」
 その得も言われぬ雰囲気に、こくこくうなずく3人。
「『旧校舎の割れ鏡』という話を知っている? 夜、旧校舎の保健室のそばにある、ひび割れた鏡の前で、3回願いを言うの。叶うと天使が現れるけれど、叶わないと悪魔が現れて殺されてしまうのよ」
「そ、それ、ただの噂だろ?」
 男子の問いかけに、少女は不気味な笑みを残し、姿を消した。
「何今の」
「ちょっと面白くねえ?」
「行ってみっか」
 ニヤッ。3人は笑みを交わした。

 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)によれば、1体のドラグナーが事件を起こそうとしているという。
「『ホラーメイカー』は、中高生に怪談を聞かせて興味を惹き、わざと探索するよう仕向けるんっす。でも、そこには屍隷兵が潜伏していて……」
 その末路は、言うまでもあるまい。
 さて、今回の怪談は『旧校舎の割れ鏡』。
 夜、旧校舎の特定の鏡の前で、3度願いを唱える。叶えば天使が祝福に現れるが、叶わねば悪魔が現れ、殺される。
 だが、この怪談話に従って行動すると、悪魔型の屍隷兵に殺されてしまう。最初から天使などいない、というわけだ。
「そこで、怪談を聞いた生徒達が旧校舎に近寄らないようにした上で、潜伏する屍隷兵を撃退してほしいんす」
 まずは、ホラーメイカーの話に従い、例の鏡の前で願いを3回告げる。これは別に何でも構わない。そうすれば、獲物が来たことを知った屍隷兵が現れ、襲い掛かって来る。
 現れる悪魔型屍隷兵は、2体。1体はスナイパーを務め、魔力で生成した矢を飛ばしてきたり、魔力の光線を放ったりしてくる。
 もう一方はクラッシャー。魔力をこめたパンチや、翼から魔力の雨を降らせて来る。
 もっとも、屍隷兵の戦闘力は決して高くない。2体同時とはいえ、よほど油断しない限り窮地に陥る事はないだろう。
 なお、ホラーメイカー本人は学校にはいない。仕掛けた罠にまんまと引っかかる被害者を高みの見物、という事なのだろうか。
「この屍隷兵は、螺旋忍軍が集めたデータを元に作られたものみたいっすね。でも、ケルベロスの皆さんの敵じゃないっす! 頑張ってほしいっす!」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
貴龍・朔羅(虚ろなカサブランカ・e37997)

■リプレイ

●夜の校舎に潜む闇
「さすが夜の旧校舎……雰囲気あるなー。いかにも何か出そうって感じするぜ。まあ、出てくるのが屍隷兵じゃあ、色々台無しだけど」
 安全ヘルメットのライトを頼りに、旧校舎を進む平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)。
 遅れて続くカタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)の足取りは、なにやら妙だった。
「あ、暑い……苦しい。そのうえ眠い。さっさと帰りたい……」
 だるそうなカタリーナの仕草は、どこか気まぐれな猫を思わせる。
「ホラーメイカーに屍隷兵……様々な敵が、出てきますね。学生さんたちに被害が出ないように最善を尽くさなければいけませんね……」
 ともあれ、貴龍・朔羅(虚ろなカサブランカ・e37997)達が、件の割れ鏡の場所を確認している頃、他の仲間は現場の封鎖に向かっていた。
「人間誰しも叶えたい願いの一つや二つあります。ですが、それは自分の手で叶えてこそ。安易に他者に叶えてもらったところで何の意味もないんです。願いを叶えたいという純粋な心を踏みにじる行為は絶対に許せません」
 廊下の一方を封鎖するリモーネ・アプリコット(銀閃・e14900)のキープアウトテープ発動にも、知らずと力がこもる。
「うぅ……怪談話とか苦手なんですよねー……。でも、それ以上に事件が起きる方が嫌ですから、怖いのはちょっとだけ我慢です!」
 朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)が、自分の心を奮い立たせながら、作業に勤しむ。
「複数のデウスエクスさん達に、屍隷兵さんの技術が流出してるみたいですね……なんとしても企みは阻止しなきゃ……」
 アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が、最後の通路を封鎖したところに、こちらもテープを張り終えたファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)がやってくる。
「やれやれ、怖いもの見たさに、怪談の真相を確かめに行くなんて、どこの国のティーンエイジャーも変わらないねぇ。一人では絶対行かないんだけど、複数人だと気が大きくなるんだよね」
 さて、準備は万端。
 封鎖班が割れ鏡の元に向かう途中、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が合流した。外の人払いを終えてきたのだ。
 やがて、全員が割れ鏡の前に集合する。
 作戦の始まりだ。

●割れ鏡に願いを
 そそくさと身を隠す朔羅やファルケ、リモーネ、アリス達。
 和は、イシコロエフェクトが隠蔽手段だ。隠密気流をまとったカタリーナは、標的が姿を見せるまで、束の間ののんびりタイムといった趣。
 そして環が、割れ鏡の前に立つ。傍らには護衛役のフラッタリー。
「こういうものはー、一度噂が立てば次々と集まるものー。しかし人の形を崩した魍魎にー、悪魔の形を継いだとてー、悪魔の如き力を得るとはー、限りませんけれどもー」
 では、いざ。
 促された環は、息を、すぅっ、と吸うと、
「みんなと笑って毎日を過ごせますように、みんなと笑って毎日を過ごせますように、みんなと笑って毎日を過ごせますようにー!」
 願い事を繰り返すこと、三度。恐怖も相まって、最後の方はもう悲鳴に近くなっていたりする。
 どうだろうか。鏡は沈黙したままだ。
「まだ出ませんかー、それではー……生麦生米生たま……」
 悪魔に、願いとそうでないものを聞き分ける知性があるものやら。フラッタリーが試しに繰り返そうとしていると。
 ぬるり。
 割れた鏡の隙間から、黒いもやのようなものが溢れ出たかと思うと、みるみるうちに1つの形を成した。コウモリを彷彿させる翼を広げたその姿は、確かに悪魔そのものだ。
 屍隷兵とわかっていてもなお恐怖心を煽る異形。死を与えにやってきた、ホラーメイカーよりの使者。
「し、屍隷兵になってしまった人は助けられないけれど、せめて犠牲者が少なくて済むように、より多くの人が笑って生活できるように、願いは自力で叶えてみせます!」
 願いをあざ笑うように滑空する悪魔を、若干涙目になりつつも、環が見据えた。
 しかし、もう1つの影が、天井より音もなく現れる。鏡にばかり注意を向ける人間を、仕留めるために。
 禍々しく伸びた爪が、環達の背後より振り下ろされる。だが。
 がきぃっ!
 すかさず対応したフラッタリーが、悪魔の爪をはじき返した。サークレットが展開し、つむっていた金の瞳が露わになっている。宿るは、戦闘狂の輝き。
「ライトオーン! さあ、ヒーロータイムの、始まりだー!」
 和達のライトが悪魔達を照らすと同時、味方の背後で、華やかな爆煙が上がった。怪談とは程遠い勇ましい爆風が、仲間達の心から恐怖を払いのける。
 朔羅達に囲まれた事を悟り反応しようとし悪魔の目を、リモーネのランタンの光が焼いた。そしてファルケが、ひるんだ悪魔を蹴り飛ばす。
「貴方がたが、命を奪う悪魔であるなら……私達が、命を護る天使となります……!」
 オラトリオの翼を広げたアリスが、ハンマーを構えた。
「さぁ、始めようか、神モドキども」
 気流のうちより現れたカタリーナの双眸が、敵を睨んだ。先ほどまでのだるさに、敵意を上乗せして。

●デーモンバスターズ
 まずはクラッシャーから。リモーネが斬霊刀を抜き、一体目の悪魔へと斬りかかった。
 悪魔のシルエットを再現した敵に、環の足が一瞬すくむ。だが、アリスらのアイコンタクトを受け自らを叱咤すると、即座に見出した敵のウイークポイントを的確に突く。
 廊下を飛び回る悪魔達に、フラッタリーが獣じみた挙動で飛びかかる。額に隠されていた弾痕から溢れる地獄が、虚空に軌跡を描く。
「上辺ノ魔nAド灼キ祓ワン! 且シテ、死シタル肉ハ塵ニ返シ、小噺ハ小噺ノ侭二還サン」
 挙動同様、言動もまた乱れを生ず。フラッタリーは空中を滑るようにして悪魔に肉薄すると、鉄塊剣を叩きつけた。
 無様に錐もみして吹き飛ぶ悪魔を、リモーネが逃さない。
 敵の爪を弾いて前進すると、仲間が刻んだ傷目がけ、刀を繰り出す。あふれる飛沫を、ぴっ、と払うリモーネ。それは、血以外の何か。
 屍隷兵にも仲間意識があるものだろうか。射手たる悪魔が、救援に動いた。
 ファルケへと羽ばたくと、魔力で生成した弓から矢を放ち、まっすぐに射抜いた。
「おっと、悪魔とダンスなんておしゃれだけど、そのまま地獄に連れていかれるのはゴメンだねぇ」
 傷口から侵食する毒に耐え、ファルケが苦笑を浮かべてみせた。
「これがお返事だよ」
 片手で帽子を押さえながら、弾丸を放つ。それは、眼前の悪魔の体をかすめ、本命……クラッシャータイプの悪魔に背後からヒット。
 更に、自由を奪うべく、アリスの轟竜砲が火を噴いた。
 片方の翼に穴を穿たれ、バランスを崩して床に着地する悪魔を、カタリーナが追う。一挙手一投足はしなやかで、軽い。
 和からの強化も相まって、その一撃は重く、悪魔の表皮を打ち砕き、床へと叩きつける。
 上がる煙から、悪魔の片翼が現れる。そこから放射された魔力の雨が、反撃しようとする前衛の足並みを乱す。
 しかし、その雨が止んだのを見計らい、朔羅が飛び込んだ。
「未熟な我が身ですが……これでも番犬の一員。倒すべき敵は、必ず倒します。あなたたちに負けたりは致しません……!」
 朔羅のキックが、クラッシャーをとらえた。
 敵の体を貫通する朔羅。着地した背後で、悪魔が黒いもやへと還った。

●造られし怪談の結末は
 残るは射手のみ。
 チャンスと見た和が、グラビティを発動した。それは本の形となり、凄まじき破壊力を持つ角が、悪魔を得も言われぬ苦痛の底へと追い落とす。
 被弾箇所を押さえる悪魔を、環が攻める。獣化させた四肢に、今まで喰らった魂の力を乗せ、相手を蹂躙する。
 畳みかけるなら今。リモーネが刀を構え直し、駆ける。その突きは神速。一瞬にして三度にも至る絶技。
 だが、悪魔は苦痛もいとわず刀をつかむと、闇色の光でリモーネの体を貫いた。
「待ってて、今、回復するぞー! てややー!」
 和が両手をリモーネに向けるや否や、癒しのオーラが全身を包む。束の間、怪物との戦いの恐ろしさを忘れさせてくれる。
 進退極まる屍隷兵。だが、自らの道連れとしようというのか。悪魔の手が、仲間に伸びる。
 しかしフラッタリーがそれを払うと、見えざる力にて、相手の五体を打撃し、五感を震わせた。
「さようなら、モドキども。もう飽きたし何より眠いから――死んでしまえ」
 カタリーナが、白光の鎗をくるりと回した。薙ぎ払いを受け宙を舞った敵の肉体へと、流星の如き刺突を見舞う。
 壁に縫い付けられた悪魔へ、アリスがオウガメタルを変化させながら、告げる。
「どこかで見てるホラーメイカーさん、貴女の企みも……こうして打ち砕きます……!」
 鬼女神となったアリスが、拳を繰り出した。その衝撃は空間を飛び越え、離れた敵をも殴り飛ばす。
 損傷しながらも残った力を振り絞り、飛び掛かろうとした悪魔の視界を、黒が覆った。朔羅のブラックスライムが、大きなアギトを開いていたのだ。
 その間にファルケがリボルバー銃を納めると、得物を鎚に持ち替えた。
「『撃つ』のが得意だけど、たまには『打つ』のも悪くないよ」
 ひるむ悪魔へと、容赦なく大重量は振り下ろされた。造り出されし生命を潰し、氷結し尽くす。
 ファルケ渾身の一打を浴びた悪魔は、一体目同様、溶けるように夜闇へと消えていったのだった。
 リモーネが刀を納めるそば、アリスが祈りを捧げる。それは、屍隷兵の素材として利用された命への哀悼。
「皆さん、お疲れさまでした。少しでもお役に立てましたでしょうか……?」
 朔羅が、若干自信なさげに問うが、その働きは皆が認めるところだ。
「暑い……お腹空いた……帰って瑠璃さんと遊びたい……」
 戦闘モードを解き、猫背気味になったカタリーナの口から、恋人の名がこぼれ出る。
「さーて、後片付けもちゃんとねー」
 えっちらおっちら、和がヒールに取り掛かる。今は使われていないのならば、『使われていない』状態に戻しておく事も大切だ。環たちも、それを手伝う。
「……もしこの噂がホラーメイカーの作ったものでなく事実だったなら……私は何を願うのでしょうか……」
 ――今の私には、心というものは難しすぎて、わかりませんね。そう心の中で呟く朔羅。
 ケルベロス達から注目を浴びても、割れ鏡は、黙して語らず。
 怪談を求める生徒達も、それを守ろうとするケルベロスも。そしてホラーメイカーの思惑にすら、我関せずといったふうに、ただそこに鎮座するのみであった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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