星が煌めく夜空の下で、海に揺蕩う一人の少女。
空から降り注がれる光が水面に反射して、天球を映したような海の世界が広がっている。
小さく揺らめく波に身を委ね、身体を浮かせるように星を眺めていると。浜風の音に重なるかのように、優しく澄んだ歌声が、少女の耳に流れ込んでくる。
心惹かれるような甘美な音色に聴き入って、声の主を確かめようと周囲を見渡せば。岩場に座って佇む影が視界に入る。
星灯りが照らすその人影は、綺麗な女性の姿をしているが――下半身は星を映したような尾ヒレが付いていた。
「えええっ!? もしかして、本物の人魚なのっ!?」
少女が驚きの声を上げると、人魚は妖艶に微笑みながら抱き付いてきて。そのまま離さぬように、少女を深い海の底へと引き摺り込んでいく。
「こ、このままじゃ……溺れちゃ……や、やだよぉぉぉぉ!!」
悲痛な叫び声と共に瞼を開いた少女は、ベッドの上で目を覚ます。
今見たのは夢だったんだ、そうと分かると少女は大きく安堵の溜め息を吐く。
夏休みは海に泳ぎに行って楽しかったから、だからあんな奇妙な夢を見たんだろう。そうと分かって安心したらまた眠くなり、大きく欠伸をした時だった――。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
どこからともなく聞こえる謎の声。そして次の瞬間、少女の胸に何かが突き刺さる。それが一体何なのか、彼女は気付かぬままに意識を失い、ベッドの中に沈み込む。
少女に刺した魔鍵を引き抜きながら、第三の魔女・ケリュネイアは歪な笑みを浮かべるのであった。
子供は純粋無垢な心でいられるからこそ、摩訶不思議で幻想的な夢を見る。
しかしそうした子供の夢から生まれた『驚き』が、ドリームイーターの手に掛かって奪われてしまう。
そして奪われた子供の『驚き』は、異形の怪物となって事件を引き起こそうとする。
「そこで被害が出る前に、キミ達の手で事件を解決してほしいんだ」
ヘリポートに集まったケルベロス達を前にして、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が予知した事件の説明をする。
今回生み出されたドリームイーターは、女性の人魚の姿をしているらしく、下半身は星を纏った影のような尾ヒレが付いている。
少女が住んでいるのは海辺にある町で、人魚は少女の家から近い海岸沿いを彷徨っているようである。
このドリームイーターは相手を驚かせたがる性質を持っている。付近を通りがかると相手の方から寄ってきて、対象者を驚かせようとする。
ただし驚きが通じなかった場合、その対象者を優先的に狙う傾向がある。こうした諸々の性質を上手く利用できれば、有利に戦えるだろう。
「人魚の攻撃方法だけど、その全てが歌によるもので、様々な効果を齎すみたいだよ」
優しく甘い魅惑的な歌声は、相手の心を虜にしてしまう。或いは哀しく切ない調べで心の傷を抉り出し、更には嘆きに満ちた呪いの旋律で、戦う者の力を封じようとする。
ドリームイーターを倒せば少女も目を覚ますので、ここは敵の撃破に専念すれば良い。
「女の子にはこんな悪夢じゃなくて、もっと楽しい夢を見てもらいたいからね」
幼気な子供の夢を奪って悪用するような真似は、到底許すべきではない。
無邪気な心から生まれた夢が、他人を傷付けるなど、あってはならないことである。
平和な海が夢喰い達の欲望で荒らされないように――。シュリは心の中で強く願いつつ、ケルベロス達に全てを託すのだった。
参加者 | |
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ミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283) |
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893) |
天津・総一郎(クリップラー・e03243) |
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410) |
大成・朝希(朝露の一滴・e06698) |
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331) |
雪白・メルル(雪月華・e19180) |
六連・コノエ(黄昏・e36779) |
●
静まり返った人気のない夜の海。寄せては返す漣の、穏やかな音がリズムを刻んで周囲に響く。
夜空を彩る星の光が、揺れる水面を照らして淡く煌めいて。黙して見れば心が吸い込まれるように美しく、そこに『何か』がいても不思議ではない雰囲気だ。
「sirena、楽しみ……きっと、とてもbello。歌も、楽しみだけど……気をつけなきゃね」
海の彼方を見渡すように、ミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)が未だ見ぬ敵に想いを馳せる。それは童話によくあるような、綺麗な人魚の姿なのだろうかと。
「人魚といって思い浮かぶのは人魚姫だよな。アレってすごい悲しい結末なんだが……何でハッピーエンドにしなかったんだろう?」
童話の世界に出てくる人魚の話は、切ない恋の物語。天津・総一郎(クリップラー・e03243)は物語の内容を思い出しながら、人魚の影を探して海の中へと目を向ける。
「絵本の人魚は、胸に秘めた想いを言えないまま泡になってしまったお姫様だけど……」
少女の夢から生まれたその存在は、物語とは似ても似つかぬ紛い物でしかない。
大成・朝希(朝露の一滴・e06698)は童話の中の人魚と比較して、相手は討つべき敵だと割り切り、気を引き締める。
波は変わらず穏やかに、規則的なリズムを繰り返す。雪白・メルル(雪月華・e19180)が浅瀬に寄って海を眺めると、岩場に腰を下ろした人影を視る。
その人影は、星明かりを浴びて綺麗に映える女性の姿をしていたが。よく目を凝らすと、女性の脚には――魚のような鰭があるではないか。
「わぁっ……もしかして、人魚さん……?」
メルルの口から感嘆の息が思わず漏れる。彼女の隣ではアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)も、目を丸くしながら驚きを隠せずにいた。
「に、人魚だ~! 凄い、神秘的だな!! それに……綺麗な尾鰭だな!」
影の中に星を灯した尾鰭を持つ人魚。物語に出てくるような姿そのままに、六連・コノエ(黄昏・e36779)も彼女の美しさに目を奪われてしまう。
「……本当に、人魚は居たんだね」
例えドリームイーターとは言えど、星空と海が醸し出す世界も相俟ってか。幻想的な美を漂わせる星影の人魚に対して、ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)の驚きは演技だけではない、本音混じりの感情が垣間見えていた。
「ええ……流石に少し、仰天しましたね」
皆が一様に驚きを見せる中、阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)は沈着冷静に、表情を変えることなく岩場の人魚を凝視する。
そして互いの視線が交わり合うと、真尋は薄ら不敵な笑みを浮かべて挑発をする。
人魚もまた同様に、口元を上擦らせて笑みを作るが、その双眸には明確な殺意が込められていた。
「――さあ、掛かってきなさい」
真尋が宣戦布告をすると同時に、戦いの合図を告げる爆発が巻き起こり、戦意を奮わす極彩色の風が戦場を包み込む。
「だめですよ――悪い夢こそ、泡と消えてしまわなきゃ」
朝希が脚に冷気を纏って、人魚の座す岩場に向かって飛び掛かる。人魚が仕掛けるよりも疾く駆け、水面を斬り裂くような渾身の蹴りを繰り出した。
人魚に蹴りが決まると朝希はすぐに後ろへ飛び退り、間合いを取って浅瀬で待ち受ける。すると人魚は身体を宙に浮かせて、ゆらりと虚空を泳ぐように襲い掛かってくる。
そこへ総一郎が仲間を庇うように前へ出てくるが、人魚は魔力を声に乗せながら、身体を寄せて耳元で甘く囁くように歌って総一郎を魅了する。
間近で聴こえる蕩けるような息遣い、更には一糸纏わぬ姿で肌を露出している人魚の上半身に目が行けば。色を知らない純情なる青年は、魔法に掛かったように彼女に心を囚われてしまう。
「来やれ、来やれよ、深海より、深き深き母なる海より――癒しの光を届け給へ」
ミケが謳うように呪文を唱えると、黄金色に輝く眩い光が溢れて出て。海を連想させる激しい光の奔流は、大きな薔薇の花を模り弾丸と成す。
翼を広げて祈りを捧げるように両手を掲げ、閃光が軌跡を描くと光の雫が零れ落ち、黄金色の花が鮮やかに咲いて人魚の魔法を打ち消した。
「こ……これは人魚のせいだから! それに俺、ぜんぜん動揺してねーし!」
唄の効果が解けた総一郎だが、表情はどこか緩んだ状態で、顔を赤くしながらその事実を隠そうとする。そんな風に狼狽えている彼に、ミケは冷やかな視線を送るのみだった。
●
星を宿した色彩に魅惑的な声。その唄を聴いてみたいと思わせる、人を虜にして海へ攫う古の魔性――。
怖さの中に潜む危険な美しさに惹かれ、夢に思い描いてしまうという、女の子の気持ちはとてもよく解る。
「アラタも、会ってみたかった。ほんの少し胸に引っ掛かるんだ」
元ダモクレスの少女の心に燻る、些細な好奇心。しかし憧れを抱かせる存在だとはいえ、誰かを攫わせるような真似を許すつもりはない。
――だからお前を還すよ、この空と海へ。
アラタは秘めた決意を力に変えて、左脚に纏った炎が呼応するかのように燃え盛る。勢いよく疾走すると砂煙が巻き上がり、煉獄を帯びた灼熱の蹴りを人魚目掛けて叩き込む。
「今度は僕の番だよ。新鮮な驚きをくれたお礼をしないとね」
アラタと入れ替わるように仕掛けるコノエ。駆け寄りながら踏み込み高く跳躍し、空中で身を翻したコノエの身体は重力を帯びて落下して、流星の如く煌めく蹴りを見舞わせる。
「純粋無垢な幻想の産物であろうとも、一般人に牙を剥くなら放っておけません。行きますよ、ナメビスくん」
相棒のボクスドラゴンに指示を出しながらビスマスが行動を開始する。蒼きオウガメタルの鎧を身に纏い、魚類の型に変形させた腕を振るって、麗しの人魚を喰らうが如く蒼魚の拳を打ち付ける。
ビスマスの攻撃を受けて人魚が怯むと、ナメビスが隙を逃さず体当たりで追撃をする。
ケルベロス達の度重なる攻撃に、人魚の端正な顔は影が落ちたように沈鬱として、微かに動いた口元からは嘆きの声が旋律となって紡がれる。
失意と絶望を齎さんとする呪いの唄により、人魚はケルベロス達の力を封じようとする。しかしその歪んだ思惑を、真尋が身を盾にして受け止める。
「……歌で害を為すつもりなら、相応の報いは受けてもらうわよ」
人魚の唄が我が身を苦しめようと、真尋は眉一つ動かさないで耐え凌ぐ。そこへメルルが癒しの力を行使して、真尋に纏わりつく呪いの力を取り除く。
「唄は哀しいものよりも、みんなが幸せになれる唄の方が良いと思うのです」
例え唄であっても人が傷付くことは見過ごせない。そんなメルルの思いに応えるように、ケルベロス達は火力を集中させて更なる攻勢に出る。
「きらきら、とても美しいけど。人魚は泡になって消えてしまうものだから……Addio」
舌足らずな喋り口調が幼さを感じさせるミケではあるが、戦いともなれば何事にも動じぬ戦士の顔を覗かせる。
ミケの細身の手に装着されているのは、巨大な白骨状の縛霊手。霊力を込めると、肋骨の腹に抱かれた金色の薔薇の花弁が舞い、人魚を捕らえて抑え込む。
「人魚と言っても所詮はまやかしだ。オトナのオトコはそんなものには騙されねーぜ!」
もう色仕掛けは通用しないと、総一郎を覆う薄墨色の闘気が気合を増して黒ずんでいく。腕に力を込めると螺旋が渦を巻き、人魚の肢体に触れると力が一気に放出されて、吹き飛ばされた人魚は浜辺に身体を叩き付けられる。
「悪夢はこれで終わりです。後は、どうぞきみの――お気に召すまま!」
朝希が浜辺に掌を添えて念じると、砂を固めて造られた巨人となって顕れる。巨人は浜に打ち上げられた人魚をひと睨みして威圧させ、朝希の命に応じるが侭、腕を振り翳して巌の拳を撃ち下ろす。
「迷い出てきた夢の世界の住人は、元の世界に帰してあげないと」
コノエの手に握り締められた惨殺ナイフが、炎を帯びて朱に染まる。橙色の瞳に映る人魚は赦しを乞うかのような怯えた顔を見せていて。コノエはその苦しみから解放すべく、紅蓮の刃で人魚の穢れし身体を灼き祓う。
ケルベロス達に攻撃される度、人魚の身体は水飛沫を上げて薄らいでいく。彼女はもはや命が尽きることを悟ったか、最後の力を振り絞り、奏でる調べは死の哀しみに満ちていた。
悲痛な心の叫びを表現するかのような人魚の歌声に、メルルは我を失い心を惹き込まれ、意識は悪夢の世界に呑み込まれてしまう。
メルルがそこで目にした光景は――何もない、誰もいない深い暗闇の中で一人だけ、幼い少女が涙に濡れて佇んでいた。ただひたすら哀しくて寂しくて、けれども理由は分からず、時折ノイズが掛かったように姿が乱れ飛ぶ。
――これは、私の記憶なの?
大きな不安を抱きつつ、幻の中の幼い少女に手を伸ばそうとしたその瞬間――暗闇は青い世界に塗り替えられて、現実の空と海とが目の前に広がっていた。
「――闇に一番近い色は、青なのだそうよ」
真尋の唇から紡がれる色。凛とした優しい響きは青いオーラを纏わせて、メルルの心に癒しの音色を響かせる。
「味わいは深く、複雑に……時に裏切りも必要だ」
アラタの全身から放出された気が、緑の霧となって立ち込める。澱んだ瘴気のように禍々しい色をしたそれは、仄かな毒の香が含まれていて。本能的に危険を察しても、一度その身に侵食した快楽は、抗う意思を奪って孤毒の海に溺れ堕ちていく。
「そろそろ決着を付けましょう! ウィングユニット展開……ササミストォォォームッ!」
ビスマスが全ての闘気を集中させると、全身が神々しく光り輝いて、装甲が鳥型の鎧装に変化する。装着した背中の翼を羽搏かせれば、風が吹き荒れ嵐と化して、瀕死の人魚を捕縛する。
「敵対象拘束を確認……コレで穿ち抜きますっ! 鳥沖膾――スピィィーンッ!」
持てる力を最大限に引き出して、蒼鉛の爪を構えて突撃するビスマス。高速回転させた全身が、虹色の光彩を放つ螺旋の塊となり、敵を一直線に貫いて――力潰えた人魚の身体は泡と化し、夜空に溶けて儚く消えていく。
●
海の平和を脅かす異形はいなくなり、夜の浜辺に再び静かな空気が舞い戻る。
「よし、浮かぶぞ!」
だがその静寂を打ち破るかのように、総一郎が元気に海の中に飛び込んで、仰向けになって茫洋と広がる空を見る。
こうして波に揺られて漂えば、少しは人魚の気持ちが理解できるだろうか。
彼女は何も得られず消えてしまったが、何かを得られて消えていける人なんて、浜の真砂の中のほんの一握り程の数なんだろう。
「俺は……どうなのかな」
あの人魚のように、いつかは泡のように消えてしまうなら――。
総一郎は空に向かって手を伸ばし、星を掴む仕草をしてみるが。幾ら思考を巡らせど、手に入れたいモノは思い浮かばない。
今はただ、戦闘で火照った身体を冷まそうと、流れる侭に身を委ねるのであった。
片やビスマスは、穴子型水中鎧装を着用し、海の中に潜って遊泳を楽しんでいた。
暗闇に閉ざされた夜の海。そこに空から星の光が射し込んで、幻想的な青い世界が展開されていく。
まるで夢の中に入り込んだと思える程に、不思議な世界を堪能しつつ。海から顔を上げたビスマスは、空一面を埋め尽くす星達の群れに息を呑み、空と海とが重なる世界に身も心も奪われていた。
浅瀬に足を浸して夜空を見上げれば、満天の星に吸い込まれそうな気持ちになって。
アラタは遍く星を目で追って、天の川を辿ったその先に、ひと際明るい三つの星を見つけ出す。
夏の大三角と称される星々の煌めきに、アラタは心の中で歓喜して、自然の光が創る一夜限りの美景に酔い痴れる。
「……地球の海は、青くて綺麗だな」
そう小さく呟くと、ウイングキャットの先生も、彼女に同意するかのようにひと鳴きし。光と翳が交り合い、幽かに青く輝く波に耳を澄ませば、優しい唄が聴こえた気がした。
少しだけ……と海に足を浸け、メルルは紫色の瞳を輝かせてぼんやり星を見る。
空に鏤められた宝石のような煌めきは、人魚が纏っていた光に似ていると。隣でふわふわ浮かぶウイングキャットに話し掛けてみて。
静かに揺蕩う時間を一緒に戯れていたその刹那、少女の脳裏にふと過ぎるのは、人魚に視せられたあの幻だった。
今まで抱いたことのない感情が、メルルの心に込み上げてくる。あれは一体何だったのか――深く考えようとすると、頭の中は霞んでしまって記憶が曖昧になる。
「イルは……私が覚えていないことも知っているの?」
不意に疑問を投げ掛けてみるものの、ソウェイルは円らな瞳で主を見つめるのみだった。
海岸沿いをゆるりと練り歩き、コノエは瞳に映る青い世界を楽しんでいた。
星が瞬く夜空も海も、そして彼の傍らに付き従うミミックも。
「ランジュはどちらの青に近いだろうねぇ」
夜の色を灯した相棒に、答えを期待するわけでなく。コノエは独り言ちるように呟いて、空と海とを交互に眺める。
空は星が綺麗なんだけど、唄うなら海の方が良いかな、と。
星に煌めく人魚の姿を思い出しながら――。
青いパレオにビキニを纏った女性が一人。水着姿に着替えた真尋は、ライドキャリバーのダジリタと、背中合わせで凭れるように浜辺に座り込む。
目深に被った麦わら帽子の鍔を指で上げ、海と夜空が織り成す青の世界の風景を、黙って見守るように目に焼き付けて。
「……あの人魚も、同じくらい美しかったわね」
海と星が交わり生まれたような、彼女の影を追うように、この星空の下で泳ぐ姿を想像していると。
汐の香を運ぶ浜風が、艶やかな黒灰色の髪を靡かせながら、想いと共に通り抜けていく。
どこまでも果てしなく広がる海原は、やがて空と交わり繋がって。満天の星を映した海の光景は、天と地が入れ替わったような錯覚すら感じさせられる。
柔らかく吹き抜ける潮風が、ミケの透けるような白い肌をそっと撫でていく。
海は全てが最後に還る場所であり、星と月の聖なる光が照らす水面は、正に生命の源たる聖地のようである。
一人物思いに耽りつつ、ふと波打ち際に視線を移すと、キラリと光る貝殻が落ちているのが目に留まる。
ミケはそれを拾い上げ、人魚が海に還り着くのを見送るように、別れの言葉を口にする。
「Buona notte……良い夢を」
夜の海はどこか怖さを感じてしまう。それは心の奥の深淵を覗く感覚に近いからだろう。
漣が素肌の足に絡み付く度、朝希は海への畏怖の念を感じつつ。水面を照らす星に彩られた夜空を仰ぎ見る。
波打ち際に自分の影がはっきり見える程、星が明るく灯るこんな日は。ここにいる皆だけでなく、星の笑い声まで聞こえてくるようで。
今この場所を包む幻想的な空気に誘われ、気が付けば自然と唄を口遊んでいた。
夜天の星となった人魚に捧げるかのように――。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年9月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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